説明

標的認識分子および標的認識分子を固定化する方法

【課題】特定物質に特異的に反応する標的認識分子であって、分析チップの所定箇所に自己集合的に高密度に集合させることができ、またそこに可逆的または不可逆的安定的に固定化することのできる新規な帯電性標的認識分子を提供する。
【解決手段】標的物質を特異的に識別する認識部位としての標的認識ペプチドセグメント(1)と、同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電し得る3個以上の帯電性官能基を備え且つ異なる極性に帯電する官能基を有しない帯電性セグメント(3)と、前記標的認識ペプチドセグメント(1)と前記帯電性セグメント(3)のそれぞれに化学結合して両者を連結する連結セグメント(2)と、を有する標的認識分子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定物質に特異的に反応する感応部位を有する標的認識分子に関し、特に分析チップの特定部位に自己集合的に高密度に集合させ固定化させることのできる帯電性が付与された標的認識分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チップ内に標的認識分子が固定化されてなる分析チップが、タンパク質などの生体成分の分析に用いられるようになっている。
【0003】
分析チップの標的認識分子としては、特定物質に対し特異的選択的に反応する物質が使用されており、従来、天然由来の抗体が使用されていたが、最近では長期保存性、生産性などの観点から、合成ペプチドなどからなる人工抗体が用いられるようになっている。
【0004】
特定物質に対し特異的選択的に反応する物質を備えたこの種の分析チップは、操作が簡単で分析に高度な錬度を必要としない。また、標的物質を少ない検体量でもって短時間に測定できるという利点を有する。その一方、チップ内の所定箇所に必要量の標的認識分子を適正に固定化し保持させるのが容易でないなどのため、必ずしも十分な測定精度や信頼性、再現性が得られていない。
【0005】
標的認識分子の固定化方法については、従前より種々な方法が提案されている。例えば、基材表面に標的認識分子を物理吸着させる方法や共有結合させる方法が知られている。また、標的認識分子を微小ビーズの表面に固定化し、これをマイクロ流路内に配置する方法が知られている。更にまた、下記先行技術文献に記載の方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007-504471号公報
【特許文献2】特開2003-344396号公報
【特許文献3】特開2006-266831号公報
【特許文献4】特表平4-501605号公報
【特許文献5】特開2000-266716号公報
【特許文献6】特開2006−71324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特定物質に対し特異的選択的に反応する物質を具備させてなる分析チップにおいては、標的認識分子の固定化密度や固定化状態の良否により分析性能が大きく左右され、また固定化効率により分析チップの生産性が大きく左右される。本発明の目的は、標的認識分子自体に高密度に固定化する機能を付与した新規な標的認識分子を提供することにある。また、標的認識分子を効率よく基材に固定化する技術を提供することにある。
【0008】
分析チップの製造において、標的認識分子の固定化効率が低いと、原材料としての標的認識分子を多く使用する必要がある。標的認識分子の無駄はコスト上昇を招くとともに、低い固定化率は生産性を低下させる原因となる。また、固定化密度が低いと、十分な分析感度が得られない。また、個々の分析チップ間で固定化密度に差があると、分析チップに対する信頼性が大きく低下する。それゆえ、チップ内の所定部位に標的認識分子を迅速かつ高密度に、しかも再現性よく固定化できる手段が求められている。
【0009】
更にまた、標的認識分子が化学的物理的安定性に乏しいものである場合、この物質を固定化してなる分析チップは、短時に使用不能になるという問題がある。この問題を解決する方法の一つは、分析時にその場で標的認識分子を固定化する方法であるが、このためには、分析現場で簡便に固定化し得る手段が必要である。
【0010】
本発明者は、これらの課題を解決すべく鋭意検討を行い、標的認識分子自身を高密度固定化が可能な分子とする本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、分子中に帯電性セグメントが組み込まれた新規な標的認識分子に関し、一群の発明は次のように構成されている。
【0012】
(1)第1発明にかかる標的認識分子は、標的物質を特異的に識別する認識部位としての標的認識ペプチドセグメントと、同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電する帯電性官能基を備えた帯電性セグメントと、前記標的認識ペプチドセグメントと前記帯電性セグメントのそれぞれに化学結合して両者を連結する連結セグメントと、を有することを特徴とする。
【0013】
(2)第2発明は、上記第1発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメン
トが、同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電する3個以上の帯電性官能基を備えることを特徴とする。
【0014】
(3)第3発明は、上記第1または第2の発明にかかる標的認識分子において、前記標
的認識ペプチドセグメントの等電点が、6以下であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基が、pH7以上の水溶液中でマイナスに帯電する官能基であることを特徴とする。
【0015】
(4)第4発明は、上記第1または第2の発明にかかる標的認識分子において、前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が、8以上であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基が、pH7以下の水溶液中でプラスに帯電する官能基であることを特徴とする。
【0016】
ここで、上記「同一極性の電荷に帯電する3個以上の帯電性官能基を備えた」とは、同一の官能基を3個以上備えたものでもよく、3種類以上の異なる官能基を3個以上備えたものであってもよい。また、「標的認識ペプチドセグメントの等電点」とは、標的認識ペプチドセグメントを組成する個々のアミノ酸残基に対応するアミノ酸の等電点を合算した総和値をアミノ残基数で割った値(平均値)で定義される等電点(平均等電点)をいう。個々のアミノ酸の等電点は表1に示す通りとする。
【0017】
【表1】

【0018】
(5)第5の発明は、上記第1ないし第4の何れかの発明にかかる標的認識分子におい
て、前記帯電性セグメントが、同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電する3個以上の帯電性官能基を備え、かつ異なる極性に帯電する官能基を有しないものであることを特徴とする。
【0019】
ここで、本発明にかかる標的認識分子の使用態様を説明し、この説明を通して、一群の本発明構成の技術的意義を明らかにする。
【0020】
本発明標的認識分子は、電場に集まる性質が増強されているので、この性質を利用して所望の固定化部位に標的認識分子を集合させ保持させることができる。例えば、マイクロ流路を形成してなる分析チップにおいて、標的認識分子を集合保持させたい箇所に電極を形成しておき、この電極に電圧を印加し、プラス又はマイナスの電荷を与え、この状態で、流路内に標的認識分子を溶解した標的認識分子含有溶液を流すことにより、固定化部位である電極表面に標的認識分子を効率よく集合させ且つそこに可逆的にまたは不可逆的に固定化することができる。以下、この点について説明する。
【0021】
第5発明にかかる標的認識分子は、同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電する3個以上の帯電性官能基を備え、かつ異なる極性に帯電する官能基を有しない。よって、この標的認識分子を溶液に溶かすと、帯電性セグメントが同一の電荷を帯びる。それゆえ、電荷が付与された固定化部位(電極)上に本発明標的認識分子含有溶液を流すと、標的認識分子が電極表面に静電相互作用により引っぱられ、そこに高密度に捕集される。この高密度な集合状態は電極に電荷が印加されている限り保持される。すなわち、固定化部位に標的認識分子が可逆的に固定化される。
【0022】
上記を更に詳しく説明する。標的認識ペプチドセグメントの等電点が6以下であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がマイナスに帯電する官能基を備えた標的認識分子を、例えばpH8のキャリア溶液に溶かすと、標的認識ペプチドセグメントおよび帯電性セグメントともにマイナスに帯電する。ここで第3発明と第5発明の双方の要件を満たす帯電性セグメントは、等電点が6以下であり、その帯電性官能基がpH7以上の水溶液中でマイナスに帯電する官能基であり、かつ同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電する3個以上の帯電性官能基を備え、しかも異なる極性に帯電する官能基を有しないので、帯電性セグメントのマイナス電荷密度が十分に高い。よって、電極にプラス電荷を印加すると、帯電性セグメント部分が電極に引き付けられ、電極表面に捕集される。
【0023】
他方、第4発明と第5発明の双方の要件を満たす帯電性セグメントは、標的認識ペプチドセグメントの等電点が8以上であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がプラスに帯電する官能基を備え、しかも異なる極性に帯電する官能基を有しないので、この標的認識分子を、例えばpH6のキャリア溶液に溶かすと、標的認識ペプチドセグメントおよび帯電性セグメントともにプラスに帯電し、その電荷密度が十分に高い。よって、電極にマイナス電荷を印加すると、帯電性セグメント部分が電極に引き付けられ、電極表面に捕集されることになる。
【0024】
上記構成の標的認識分子においては、連結セグメント および/または 帯電性セグメントは、固定部位(電極面)と標的認識ペプチドセグメントの距離を保つスペーサとして機能すると共に、標的認識ペプチドセグメントの自由度を確保するアームとして機能する。それゆえ、分子の一端が電極に固定化された状態においても、標的物質に対する特異的認識能を十分に発揮する。
【0025】
(6)第6発明は、上記第5の発明にかかる標的認識分子において、前記標的認識ペプチドセグメントがシステイン残基を含み、当該システイン残基の硫黄元素に前記連結セグメントが化学結合されていることを特徴とする。
【0026】
(7)また、第7発明は、上記第1ないし第5の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記標的認識ペプチドセグメントの一方端がシステイン残基であり、当該システイン残基の硫黄元素に前記連結セグメントが化学結合されていることを特徴とする。
【0027】
(8)また、第8発明は、上記第1ないし第6の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記連結セグメントが前記標的認識ペプチドセグメントの末端のアミノ酸残基に化学結合され、当該化学結合部位と異なる連結セグメント部位に前記帯電性セグメントが化学結合されていることを特徴とする。
【0028】
この構成であると、連結セグメントや帯電性セグメントによって、標的認識ペプチドセグメントの標的物質に対する特異性が阻害され難い。すなわち、標的認識ペプチドセグメントに、標的物質を選別する機能を発揮させ易い。
【0029】
(9)また、第9発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントが、3個以上のアミノ酸残基を有するペプチドからなることを特徴とする。
【0030】
(10)また、第10発明は、上記第9の発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントとしてのペプチドは、アルギニン、リシンからなる群から1つ以上選択された塩基性アミノ酸残基を3個以上含み、かつ、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基を含まないことを特徴とする。
【0031】
この構成にかかる帯電性セグメントは、等電点が高い特定の塩基性アミノ酸残基を3個以上含んでなり、等電点が低い酸性アミノ酸残基を含まないので、弱アルカリ性から酸性側の溶液中において強くプラス電荷を帯びる。よって、この構成の標的認識分子は、弱アルカリ性から酸性の溶液を用いる標的物質分析に都合がよい。
【0032】
(11)また、第11発明は、上記第9発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントとしてのペプチドは、アスパラギン酸、グルタミン酸からなる群から1つ以上選択された酸性アミノ酸残基を3個以上含み、かつ、アルギニン残基及びリシン残基を含まないことを特徴とする。
【0033】
この構成にかかる帯電性セグメントは、等電点が低い特定された酸性アミノ酸残基を3個以上含んでなり、等電点が高い塩基性アミノ酸を含まないので、弱酸性からアルカリ性の溶液中で強くマイナス電荷を帯びる。よって、この構成の標的認識分子は、弱アルカリ性から酸性の溶液を用いる標的物質分析に都合がよい。
【0034】
(12)また、第12発明は、上記第9ないし第11の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントを構成するアミノ酸残基の数が、前記標的認識ペプチドセグメントを構成するアミノ酸残基の数よりも多いことを特徴とする。
【0035】
標的認識ペプチドセグメントは、通常、酸性アミノ酸やアルカリ性アミノ酸、中性アミノ酸が混合されたペプチドからなる。よって、アミノ酸残基数が、標的認識ペプチドセグメントよりも帯電性セグメントの方が多ければ、偏在させたアミノ酸配列からなる帯電性セグメントの方がより強く帯電するので、その役割を果すことができる。
【0036】
(13)また、第13の発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識
分子において、前記帯電性セグメントが、nが3以上150の化1で表されるポリアクリル酸構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0037】
【化1】

【0038】
(14)また、第14発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントが、nが3以上150の化2で表されるポリスチレンスルホン酸構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0039】
【化2】

【0040】
(15)また、第15発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントが、nが3以上150の化3で表されるポリエチレンイミン構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0041】
【化3】

【0042】
(16)また、第16発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分
子において、前記帯電性セグメントは、nが3以上150の化4で表されるポリアリルアミン塩酸塩構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0043】
【化4】

【0044】
(17)また、第17発明は、上記第1ないし第7の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントは、nが3以上150の化5で表されるポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0045】
【化5】

【0046】
(18)また、第18発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントは、nが3以上150の化6で表されるポリビニルピリジン構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0047】
【化6】

【0048】
(19)また、第19発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントは、nが3以上150の化7で表されるポリビニル硫酸構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0049】
【化7】

【0050】
(20)また、第20発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントが、nが1以上150以下の化8で表されるデキストラン硫酸構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0051】
【化8】

【0052】
(21)また、第21発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分
子において、前記帯電性セグメントが、nが1以上150以下の化9で表されるコンドロイチン硫酸構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0053】
【化9】

【0054】
(22)また、第22発明は、上記第1ないし第8の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントが、nが3以上150以下の化10で表されるヌクレオチド構成単位を有するセグメントであることを特徴とする。
【0055】
【化10】

【0056】
リン酸、糖(リボース(RがOH)又はデオキシリボース(RがH))、塩基(アデニン、シトシン、グアニン、チミン(デオキシリボースの場合のみ)、ウラシル(リボースの場合のみ))から構成されるヌクレオチドは、リン酸を有しているため、塩基性の溶液中でマイナス電荷を帯びる。よって、この構成の標的認識分子は、アルカリ性から弱酸性の溶液を用いる標的物質分析に都合がよい。なお、帯電性セグメントとして、一本鎖のポリヌクレオチド(ssDNAやRNA)を用いてもよく、二本鎖のポリヌクレオチド(dsDNA)を用いてもよい。
【0057】
上記化1〜化10の構成単位を有する帯電性セグメントは「n」を適当に選定することにより、標的認識ペプチドセグメントの特異的感応性を十分に発揮させることが可能になる。
【0058】
(23)また、第23発明は、上記第1ないし22の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記連結セグメントは、溶液中で帯電する官能基を有しないことを特徴とする。
【0059】
この構成であると、帯電性セグメントの帯電性に影響を与えないので分子設計がし易い。
【0060】
(24)また、第24発明は、上記第1ないし23の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記標的認識ペプチドセグメントが、3個以上19個以下のアミノ酸残基を有するペプチドからなることを特徴とする。
【0061】
アミノ酸数が2以下のペプチドでは特異的な標的認識能力が得られにくいが、3個以上19個以下のアミノ酸数であれば標的認識能を発揮するペプチドを構成することができる。また、3個以上19個以下であれば、ペプチド合成が容易であり、この範囲の結合数のペプチドであると、標的認識分子としての取り扱い性がよい。
【0062】
(25)また、第25発明は、上記第1ないし24の何れかの発明にかかる標的認識分子において、前記帯電性セグメントに、更に、基材と結合させるための官能基を備えた基材結合用セグメントが化学結合されていることを特徴とする。
【0063】
この構成の標的認識分子は次のように使用することができる。帯電性セグメントに更に基材結合用セグメントが結合された標的認識分子は、印加された電極表面などの電場で捕集される性質を備えるので、この標的認識分子溶液を固定部位に電極を配したマイクロ流路内に注入すると、標的認識分子が電極表面に高密度に集合する。この状態においては、基材と結合させるための官能基(基材結合基と称する)は電極表面に接触しているか、または電極表面の近傍に位置し、基材結合用セグメントの揺らぎよって電極表面に接触する。それゆえ、容易に固定化部位(電極表面)に結合させることができる。
【0064】
つまり、上記構成の標的認識分子を用いると、確実かつ高密度に高密度な固定化を行うことができ、結合後は印加を止めても標的認識分子は固定化部位に保持されたままとなる。これにより、分析精度や信頼性に優れた分析チップが実現できることになる。
【0065】
(26)また、第26発明は、上記第25の発明にかかる標的認識分子において、前記連結セグメントが、一方端の結合可能部位で標的認識ペプチドセグメントと化学結合し、前記一方端の結合可能部位から最も離れた他方端結合可能部位で前記帯電性セグメントと化学結合し、前記帯電性セグメントが、前記連結セグメントと化学結合した部位から最も離れた結合可能部位で前記基材結合用セグメントと化学結合していることを特徴とする。
【0066】
この構成であると、固定化部位と標的認識ペプチドセグメントとの距離が大きくなり、標的認識ペプチドセグメントの自由度が高まるので、標的認識機能が阻害され難い。
【0067】
〔方法発明〕
第27発明〜第28発明は、上記した第1〜第24発明にかかる標的認識分子を利用するための固定化方法に関し、第29発明〜第30発明は、上記した第25〜第26発明にかかる標的認識分子を利用するための固定化方法に関する。
【0068】
(27)第27発明は、マイクロ流路内に電極が形成された分析チップに、上記3、5〜15、19〜22の何れか1項に記載の標的認識分子を固定化する方法であって、前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が6以下であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がマイナスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以上に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、前記マイクロ流路内の電極にプラス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に標的認識分子を電気的に捕集し保持させる工程と、を備える標的認識分子を固定化する方法である。
【0069】
(28)また、第28発明は、マイクロ流路内に電極が形成された分析チップに、上記請求項4〜12、16〜18の何れか1項に記載の標的認識分子を固定化する方法であって、前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が8以上であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がプラスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以下に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、前記マイクロ流路内の電極にマイナス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に標的認識分子を電気的に捕集し保持させる工程と、を備える標的認識分子を固定化する方法である。
【0070】
(29)また、第29発明は、マイクロ流路内に電極が形成された分析チップに、上記請求項25または26に記載の標的認識分子を固定化する方法であって、前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が6以下であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がマイナスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以上に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、前記マイクロ流路内の電極にプラス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に電気的に標的認識分子を捕集させ、標的認識分子の基材結合用セグメントと電極とを化学結合させる工程と、を備える標的認識分子を固定化する方法である。
【0071】
(30)また、第30発明は、マイクロ流路内に電極が形成された分析チップに、上記請求項25または26に記載の標的認識分子を固定化する方法であって、前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が8以上であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がプラスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以下に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、前記マイクロ流路内の電極にマイナス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に電気的に標的認識分子を捕集させ、標的認識分子の基材結合用セグメントと電極とを化学結合させる工程と、を備える標的認識分子を固定化する方法である。
【0072】
ここで、帯電性セグメントの帯電性官能基を十分に解離させるためには、上記第25の発明及び第26の発明においては前記溶液pHを好ましくはpH7.3以上とし、上記第24の発明及び第26の発明においては前記溶液pHを好ましくはpH6.5以下とするのがよい。
【発明の効果】
【0073】
本発明標的認識分子は、標的物質に特異的に反応する標的認識ペプチドセグメントを一方端側に備え、マイナス又はプラスの何れかに帯電する帯電性セグメントを他方端側に備え、両セグメントが連結セグメントで連結された構造を有する化合物である。この構造の本発明標的認識分子は、標的認識ペプチドセグメントが分析対象となる標的物質を特異的に認識する性質を発揮し、帯電性セグメントが印加された電極(固定化部位)に高密度に集合する性質を発揮する。さらに連結セグメントと帯電性セグメントが、標的認識ペプチドセグメントの自由度の低下を防止し、標的認識ペプチドセグメントが特異的認識機能を十分に発揮できるように機能する。
【0074】
このような本発明標的認識分子を用いると、簡単かつ確実に電極の形成された固定化部位に高密度に保持させることができ、この電気的保持による固定化は可逆的であるので、分析チップの使い勝手が大幅に向上する。また、標的認識分子の高密度な固定化が、分析チップの分析感度および精度を顕著に向上させる。
【0075】
更に、帯電性セグメントに基材結合用セグメントが結合された本発明標的認識分子は、基材結合用セグメントが基材と結合する官能基を有するので、先ず固定化を望む部位に電圧を印加して標的認識分子を高密度に集め、この状態で基材結合用セグメントを介して標的認識分子と基材とを結合させることができる。基材結合用セグメントを介した結合は、電圧印加を解除しても解除されないので、一層確実な高密度固定化を簡便に行えるという顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明標的認識分子の構成要素の繋がりを示す概念図である。
【図2】図2は、図1に示す標的分子が電極(固定化部位)に電荷間相互作用により保持された状態を示す概念図である。
【図3】図3は、基材結合セグメントを有する本発明標的認識分子の構成要素の繋がりを示す概念図である。
【図4】図4は、基材結合セグメントを有する本発明標的認識分子が電極(固定化部位)に電荷間相互作用により保持された状態を示す概念図である。
【図5】図5は、基材結合セグメントを有する本発明標的認識分子が基材である電極に化学結合された様子を示す概念図である。
【図6】図6は、本発明標的認識分子の適用対象である分析チップ装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本発明の実施するための実施の形態を、順次説明する。
【0078】
〔第1実施例群〕
(実施例1-1)
[ペプチドセグメント]
標的認識ペプチドセグメント(標的認識用PSと略記)として、protein ki
nase A(PKA)基質ペプチドを用意した。このもののアミノ酸配列は〈LRRA
SLG〉であり、このものはセリン残基がリン酸化されている。また、下記表1および式1に基づいて算出した等電点(平均値)は7.3である。
【0079】
【数1】

【0080】
【表1】

【0081】
[帯電性セグメント]
帯電性セグメントは、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸(D)を8個連結したペプチド〈アミノ酸配列;DDDDDDDD〉とした。この帯電性セグメントの等電点(平均値)は、2.77であり、親水性である。
【0082】
[連結セグメント]
連結セグメントとしては、一般式化11に示すポリエチレングリコール構成単位を5個(n=5)含むBis(NHS)PEG5 〔Bis-N−Succinimidyl−(pentaethyene-glycol) ester〕(化12)を用いた。この一方端のスクシンイミド基(NHS)を上記標的認識ペプチドセグメントのN末端のアミノ酸残基のアミノ基に反応させ、他方端のスクシンイミド基を上記帯電性セグメントのN末端のアミノ酸残基のアミノ基に結合させた。
【0083】
【化11】

【0084】
【化12】

【0085】
この実施例1-1の標的認識分子を、化13に示す。また、実施例1-1の標的認識分子(分子)の概念構成を図1に示す。
【0086】
【化13】

【0087】
図1において、符号1が標的認識ペプチドセグメント、符号2が連結セグメント、符号3が帯電性セグメント、3’が帯電性セグメントの構成単位(この例ではアミノ酸残基)を表している。
【0088】
なお、「・・・・」は構成単位の省略を意味している。この標的認識分子を溶かし、その溶液pHを弱酸性ないしアルカリ性とすると、帯電性セグメント部分がマイナスに帯電するので、この溶液をプラスに帯電した電極面に接触させると、帯電性セグメント部分が電極表面に電気的に保持固定されることになる。図2は、電極面に標的認識分子が保持された様子を示している。
【0089】
図6を用いて、この標的認識分子の使用態様の一例を説明する。図6は分析用マイクロ流路デバイスを用いた分析装置10であり、符号11は溶液注入口、12は流路、13は排出口、14・15は一対の電極、16は検出器である。この装置を用いた分析法の基本的手順は次のようになる。
【0090】
実施例1-1の標的認識分子を、例えばpH7.3のリン酸緩衝生理食塩水からなるキャリア液に溶解させる。濃度は例えば100ug/mLとする。
【0091】
次に、一対の電極(何れか一方の電極表面が固定化部となる)に直流電圧を印加した状態(例えば1〜10Vとする)で、標的認識分子含有キャリア液を溶液注入口11から注入し流路12内を流す。上記したように実施例1-1の標的認識分子はpH7.3の溶液中では、帯電性セグメントがマイナスに帯電するので、電極14に吸引固定される。この状態で、上記キャリア液(標的認識分子を含まないもの)で流路内を洗浄する。これにより標的認識分子の固定化操作が終了する。
【0092】
実施例1−1の標的認識分子は、電気的に電極面に固定化できる特性を有するので、電極への電圧印加の有無により、固定化と固定化解除を制御できる。よって、測定の場で固定化を行うことができる。また、無印加状態で流路内を洗浄することにより、容易に分析チップの再生利用を図ることができる。
【0093】
また、実施例1−1の標的認識分子では、連結セグメントや帯電性セグメントが標的認識用ペプチドセグメンの自由度を担保する。よって、電極面に固定化することにより標的物質に対する認識性が損なわれないので、検液中に含まれる標的物質を高精度に捕捉することができる。
【0094】
なお、固定化以降の操作は、非標識免疫測定法や標識免疫測定法(例えばサンドイッチアッセイ法など)の公知の分析法に準じればよい。また、検出器としては、例えば熱レンズ、表面プラズモン共鳴、水晶発振子などが使用でき、また、固定化部位である電極自体を電気化学的な検出器として利用することもできる。
【0095】
また、上記電極14の構成材料としては、例えば金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)などの金属、導電性プラスチックなどが使用でき、電極は、分析チップの作製時にこれらの材料を固定化予定部位に塗布する等して予め形成しておけばよい。
【0096】
(実施例1−2)
実施例1の標的認識分子の帯電性セグメント〈アミノ酸配列;DDDDDDDD〉のC末端に常法にしたがって基材結合用セグメントとしてシステイン〈C〉を結合させた。この実施例1−2の標的認識分子を化14に示す。
【0097】
【化14】

【0098】
実施例1−2の標的認識分子は、システイン残基のチオール基(硫黄元素)を介して金電極表面と化学結合させることができる性質を有する。よって、金電極に電荷を印加した状態で標的認識分子含有溶液を流すことにより、金電極表面に高密度に標的認識分子を集めることができ、これが金(Au)電極面に化学結合する。一旦、電極表面に化学結合した後は、電極への印加を止めても、固定化状態が保持されることになる。
【0099】
(実施例1−3)
実施例1-2においては、更にシステイン残基のチオール基に、(N−[4−(p−Azidosalicylamido) butyl]−3´−(2´−pyridyldit
hio)propionamide)(APDP;Thermo社)を反応させ、末端に光架橋基であるアジド基を導入した。
【0100】
[合成方法]
上記APDPのジスルフィド結合と、システインのSH基とが反応(ジスルフィド交換)して、結合する。実施例1−3の標的認識分子の構造を化15に示す。
【0101】
【化15】

【0102】
上記化15においては、システイン残基を含めたこれ以降の部分を基材結合用セグメントとすることとする。なお、この例では、帯電性セグメントが酸性アミノ酸からなり、システインも酸性アミノ酸であるので、システイン残基を含めた〈DDDDDDDD−C〉を帯電性セグメントとし、光架橋基(アジド基)と結合した、システイン残基のS以降を基材結合用セグメントとすることもできる。
【0103】
この実施例1−3の標的認識分子は、基材結合用セグメントが光架橋基(アジド基)を有するので、基材面にUV長波長の光を照射することにより標的認識分子と基材とを化学結合(固定化)させることができる。
【0104】
(実施例1−4)
上記実施例1−3の(N−[4−(p−Azidosalicylamido) butyl]−3´−(2´−pyridyldithio)propionamide)に代えて、N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide(同
仁化学社)を用いて、システイン残基のチオール基にスクシンイミド基を導入した。
【0105】
この実施例にかかる標的認識分子は、分子末端にスクシンイミド基を有するので、アミノ基を持った基材面に化学結合(固定化)させることができる。
【0106】
例えばアミノ基を持った基材面を作製する方法としては、基板上に金薄膜を形成し、11-Amino-1-undecanethiol, hydrochloride(同仁化学社)を用いて金薄膜上にアミノ基末
端を持つSAM膜を形成する。
【0107】
実施例1−2〜実施例1−4の標的認識分子の概念構成を図3に示す。また、これらの分子が電荷の印加された電極面(基材面)に静電気的に吸着固定された様子を図4に示し、基材結合セグメントで基材面に化学結合され、かつ電極面への印加が解かれ標的分子が立ち上がった様子を図5に示す。
【0108】
図3〜5に示すように、実施例1−2〜実施例1−4の標的認識分子では、静電気的引力により分子を電極に集め、この状態で基材結合セグメントの官能基を電極面に結合させることができる。よって、高い固定化効率を実現することができる。また、電極面に化学結合させた後は、電極への通電を絶っても固定化状態が保持させるので、使い勝手が一段と向上する。
【0109】
〔第2実施例群〕
(実施例2−1)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉の末端にシステインを結合したもの〈配列;LRRASLGC〉を用いた。
【0110】
他方、帯電性セグメントとしては、アルギニンを10個結合したペプチド〈配列;RRRRRRRRRR〉のN末端に、連結セグメントとしてシステイン〈C〉を結合したものを用いた。この帯電性セグメントの等電点(平均値)は、10.16である。
【0111】
連結セグメント材料として、下記化16に示す、ポリエチレングリコール構成単位nが2のMal−PEG−Malを用いた。
【0112】
【化16】

【0113】
[合成方法]
0.1mMの標的認識ペプチドセグメントにモル比100倍の10mM Mal−PEG−Mal溶液(10%DMSO含む)を反応させた。その後、未架橋のMal−PEG−Malを取り除き、0.1mMの帯電性セグメントを反応させ、連結セグメントの一方端の
マレイミド基と標的認識ペプチドセグメントのシステイン残基のSH基とを、連結セグメントの他方端のマレイミド基と帯電性セグメントのシステイン残基のSH基とを、それぞれ結合反応させた。
このようにして化17で表される実施例2-1の標的認識分子を作製した。
【0114】
【化17】

【0115】
なお、下記化18に示すように、上記化合物はpH8を超える水溶液中では加水分解されることがあるが(加水分解位置により、以下に示す2つの形態をとり得る)、この場合であっても本願所定の機能を発揮する。
【0116】
【化18】

【0117】
実施例2−1の標的認識分子は、帯電性セグメントをプラスに帯電させて使用するものであるので、キャリア溶液はアルカリから酸性の溶液を用いるのが好ましい。
【0118】
なお、システインの導入は、ペプチドセグメントと連結セグメント、及び連結セグメントと帯電性セグメントとの結合位置を末端とするためであり、システインを導入せずに、反応性のある官能基(例えば、アミノ基)の修飾によって、結合位置を末端としてもよい。
【0119】
また、上記帯電性セグメントの構成アミノ酸として、アルギニンに代え、塩基性アミノ酸であるリシン、又はリシンとアルギニンの双方を使用するのもよい。
【0120】
(実施例2−2)
上記実施例1−2と同様、標的認識分子の帯電性セグメント〈アミノ酸配列;RRRRRRRRRR〉のC末端に、実施例1−2と同様に基材結合用セグメントとしてシステイン〈C〉を結合させた。この実施例2−2の標的認識分子の構造を化19に示す。
【0121】
【化19】

【0122】
(実施例2−3)
上記実施例1−3と同様にして、分子末端に光架橋基(アジド基)を導入した実施例2−3にかかる標的認識分子を作製した。実施例2−3の標的認識分子を化20に示す。
【0123】
【化20】

【0124】
(実施例2−4)
上記実施例1−4と同様にして、システイン残基のチオール基にスクシンイミド基を導入した実施例2−4にかかる標的認識分子を作製した。実施例2−4の標的認識分子の構造を化21に示す。なお、Xは連結セグメント、Pはペプチドを示している。
【0125】
【化21】

【0126】
〔第3実施例群〕
(実施例3)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉とした。
【0127】
帯電性セグメントは、下記化1に示すポリアクリル酸構成単位(n=14、R=Na)
を有するものとした。
【0128】
【化1】

【0129】
連結セグメントとしては、ポリエチレングリコール構成単位を2個(n=2)含むNHS-PEG2-OHを用いた。この化合物のOH基と、帯電性セグメントのカルボキシル基とをエス
テル結合させ、スクシンイミド基と標的認識ペプチドセグメントのアミノ基とを結合させた。
【0130】
実施例3の標的認識分子の構造を化22に示す。
【0131】
【化22】

【0132】
〔第4実施例群〕
(実施例4)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉とした。
【0133】
帯電性セグメントは、下記化3に示すポリエチレンイミン構成単位(n=14)を有するものとした。
【0134】
【化3】

【0135】
連結セグメントとしては、上記ポリエチレングリコール構成単位を5個(n=5)含むBis(NHS)PEG5 〔Bis-N−Succinimidyl−(diethyene-glycol) ester〕を用いた。
【0136】
実施例4の標的認識分子の構造を化23に示す。
【0137】
【化23】

【0138】
〔第5実施例群〕
(実施例5)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉とした。
【0139】
帯電性セグメントとしては、化5で表されるポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド構成単位n=14)を有するものとした。なお、帯電性セグメントに、連結セグメントと結合させるためのポリアクリル酸構成単位を導入した。
【0140】
【化5】

【0141】
連結セグメントとしては、ポリエチレングリコール構成単位を2個(n=2)含むNHS−PEG2−OHを用いた。この化合物のOH基と、帯電性セグメントに導入したカルボキシル基とをエステル結合させ、スクシンイミド基と標的認識ペプチドセグメントのアミノ基とを結合させた。
【0142】
実施例5の標的認識分子の構造を化24に示す。
【0143】
【化24】

【0144】
〔第6実施例群〕
(実施例6)
実施例5において、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドに代え、帯電性セグメントを化4で表されるポリアリルアミン構成単位(n=14)を有するものとした。なお、帯電性セグメントに、連結セグメントと結合させるためのポリアクリル酸構成単位を導入した。これ以外は実施例5と同様にして、実施例6にかかる標的認識分子を作製した。この分子の構造を化25に示す。
【0145】
【化25】

【0146】
〔第7実施例群〕
(実施例7)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉とした。
【0147】
帯電性セグメントは、化6で表されるポリビニルピリジン構成単位(n=14)を有するものとした。なお、帯電性セグメントに、連結セグメントと結合させるためのポリアクリル酸構成単位を導入した。
【0148】
【化6】

【0149】
連結セグメントとしては、ポリエチレングリコール構成単位を2個(n=2)含むNHS−PEG2−OHを用いた。この化合物のOH基と、帯電性セグメントに導入したカルボキシル基とをエステル結合させ、スクシンイミド基と標的認識ペプチドセグメントのアミノ基とを結合させた。
【0150】
実施例7の標的認識分子の構造を化26に示す。
【0151】
【化26】

【0152】
〔第8実施例群〕
(実施例8)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉とした。
【0153】
帯電性セグメントは、化8で表されるデキストラン硫酸構成単位(n=14、スルホン化率(Rに占めるSO3Naの割合)30%)を有するものとした。なお、スルホン化率
は10%以上であればよい。
【0154】
【化8】

【0155】
連結セグメントとしては、ポリエチレングリコール構成単位を2個(n=2)含むNHS−PEG2−OHを用いた。この化合物のOH基と、帯電性セグメントのヒドロキシスルホニル基(SO3H基)とをエステル結合させ、スクシンイミド基と標的認識ペプチド
セグメントのアミノ基とを結合させた。
【0156】
実施例8の標的認識分子の構造を化27に示す。
【0157】
【化27】

【0158】
〔第9実施例群〕
(実施例9)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉とした。
【0159】
帯電性セグメントは、化9で表されるコンドロイチン硫酸構成単位(n=14、R=H)を有するものとした。
【0160】
【化9】

【0161】
連結セグメントとしては、ポリエチレングリコール構成単位を2個(n=2)含むNHS−PEG2−OHを用いた。この化合物のOH基と、帯電性セグメントのヒドロキシスルホニル基(SO3H基)とをエステル結合させ、スクシンイミド基と標的認識ペプチド
セグメントのアミノ基とを結合させた。
【0162】
実施例9の標的認識分子の構造を化28に示す。
【0163】
【化28】

【0164】
〔第10実施例群〕
(実施例10−1)
標的認識ペプチドセグメントは、上記第1実施例群と同じPKA基質ペプチド〈配列;
LRRASLG〉の末端にシステインCが導入されたものとした。
【0165】
帯電性セグメントは、オクトヌクレオチド(一方鎖はポリデオキシアデノシンモノホスフェート、他方(相補)鎖はポリデオキシチミジンモノホスフェート)を有し、一方鎖の5’末端のリン酸に(CH26SHが導入されたもの(化29参照)とした。
【0166】
【化29】

【0167】
[連結セグメント]
連結セグメントとしては、一般式化30に示すBis Maleimidoethane 〔Thermo社〕を用いた。この一方端のマレイミド基を上記標的認識ペプチドセグメントのシステイン残基のSH基に反応させ、他方端のマレイミド基を上記帯電性セグメントのSH基に結合させた。
【0168】
【化30】

【0169】
[合成方法]
0.1mMの標的認識ペプチドセグメントにモル比100倍の10mM Bis Maleimidoethane(10%DMSO含む)を反応させた。その後、未架橋のBis Maleimidoethaneを取り除き、0.1mMの帯電性セグメントを反応させ、連結セグメントの一方端のマレイミド基と
標的認識ペプチドセグメントのシステイン残基のSH基とを、連結セグメントの他方端のマレイミド基と帯電性セグメントのSH基とを、それぞれ結合反応させた。
【0170】
(実施例10−2)
標的認識ペプチドセグメントは、上記実施例10−1と同じPKA基質ペプチド〈配列;LRRASLG〉の末端にシステインCが導入されたものとした。
【0171】
帯電性セグメントは、上記実施例10−1と同じDNAとした。
【0172】
[連結セグメント]
連結セグメントとしては、一般式化31に示す1,4-Di-[3´-(2-pyridyldithio) -propionamido]butane(Thermo社)を用いた。このジスルフィドの一方を上記標的認識ペプチドセグメントのシステイン残基のSH基に反応させ、他方のジスルフィドを上記帯電性セグメントのSH基に結合させた。
【0173】
【化31】

【0174】
(実施例10−3)
標的認識ペプチドセグメントは、上記実施例10−1と同じPKA基質ペプチド〈配列;LRRASLG〉の末端にシステインCが導入されたものとした。
【0175】
帯電性セグメントは、上記実施例10−1と同じDNAとした。
【0176】
[連結セグメント]
連結セグメントとしては、一般式化32に示す1,11-Bis-maleimido-triethyleneglycol(Thermo社)を用いた。この一方端のマレイミド基を上記標的認識ペプチドセグメントのシステイン残基のSH基に反応させ、他方端のマレイミド基を上記帯電性セグメントのSH基に結合させた。
【0177】
【化32】

【0178】
(実施例10−4)
標的認識ペプチドセグメントは、上記実施例10−1と同じPKA基質ペプチド〈配列;LRRASLG〉の末端にシステインCが導入されたものとした。
【0179】
帯電性セグメントは、上記実施例10−1のDNAにおいて、さらに他方(相補)鎖の5’末端のリン酸に(CH26SHが導入されたものとした。
【0180】
[連結セグメント]
連結セグメントとしては、上記実施例10−3と同じ1,11-Bis-maleimido -triethyleneglycol(Thermo社)を用いた。この一方端のマレイミド基を上記標的認識ペプチドセグ
メントのシステイン残基のSH基に反応させ、他方端のマレイミド基を上記帯電性セグメントのSH基に結合させた。
【0181】
[合成方法]
0.1mMの標的認識ペプチドセグメントにモル比100倍の10mM Bis Maleimido ethane(10%DMSO含む)を反応させた。その後、未架橋のBis Maleimidoethaneを取り除
き、0.1mMの帯電性セグメントを反応させ、連結セグメントの一方端のマレイミド基
と標的認識ペプチドセグメントのシステイン残基のSH基とを、連結セグメントの他方端のマレイミド基と帯電性セグメントのSH基とを、それぞれ結合反応させた。下記化33に示す10mM N-[g-Maleimidobutyryloxy]succinimide ester溶液を混合し、帯電性セグメント
のSH基と反応させ、末端にスクシンイミド基を有する基材結合セグメントを導入した。
【0182】
【化33】

【0183】
(補充事項)
上記各実施例では、標的認識ペプチドセグメントとしてprotein kinase A基質ペプチドを用いたが、本発明の主要要素である標的認識ペプチドセグメントは、上記物質に限られない。本発明にかかる標的認識ペプチドセグメントは、標的物質を特異的に認識するペプチドであればよい。標的物質を特異的に認識するペプチドであるか否かは、検出目的とする標的物質との関係において判定する。具体的には、ファージディスプレイ法(Pharge Display - Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001 Barbas. C. et al.)や、スポット合成法(The SPOT-synthesis technique. Synthesis peptide arrays on membrane supports-principles and applications. J. Immunol. Methods 267 2002 13-26 R. Frank)などの公知の方法を用いて、検出目的とする標的物
質を認識できるペプチド配列を決定し、この配列のペプチドを標的認識ペプチドセグメントとして選定する。
【0184】
また、標的認識ペプチドセグメントの原料ペプチドは、天然由来のもの、人工的に合成したものの何れでもよく、ペプチドの合成法についても何ら限定されない。ペプチドの合成法としては、固相合成法、液相合成法、遺伝子発現を用いた合成法などが例示できる。
【0185】
また、上記実施例3においては、上記ポリアクリル酸構成単位を有する帯電性セグメントに代え、化2に示すポリスチレンスルホン酸構成単位、または化7に示すポリビニル硫酸構成単位を有する帯電性セグメントを用いることができる。
【0186】
【化2】

【0187】
【化7】

【0188】
ここで、帯電性セグメントの長さ(アーム長)が長過ぎると、分子相互が絡み合うなどの不都合がある一方、帯電性セグメントの長さが短過ぎると、標的認識セグメントの自由度が少なくなる。よって、帯電性セグメントの長さはそれ自身の性質や標的認識セグメントとの関係において適当に選定する必要がある。よって、好ましくは帯電性セグメントの長さが標的認識ペプチドセグメントの長さ以上となるようにし、より好ましくは1〜2倍となるように繰り返し単位(n)を選定する。また、一般に、繰り返し単位(n)が3未満のものは静電的相互作用による吸引力が不足するため好ましくない一方、繰り返し単位(n)が150を超えるもものは、合成コストが増すと共に、分子の絡み合いが生じる等するため好ましくない。
【0189】
また、標的認識分子を用いた分析チップのキャリア溶液としては、一般に中性付近(pH7±1程度)の水溶液が使用されるが、上記各実施例で使用した標的認識ペプチドセグメントの平均等電点は7.3であるので、各実施例にかかる標的認識分子をpHが7±1
程度の中性のキャリア液に溶解した場合、標的認識ペプチドセグメント部分の電荷は無視しうる程度の大きさとなる。すなわち、上記各実施例にかかる標的認識分子においては、帯電性セグメントの帯電性官能基がプラスまたはマイナスの何れに帯電するものであっても、標的認識ペプチドセグメント部分の電荷に殆ど影響されないことから、標的認識ペプチドセグメントの平均等電点との関連性において帯電性セグメントの電荷の種類を規定する必要がない。
【0190】
これに対して、標的認識ペプチドセグメントの平均等電点が、「6以下」または「8以上」である場合には、標的認識分子全体に占める標的認識ペプチドセグメントの電荷の影響力が大きくなる。それゆえ、標的認識ペプチドセグメントの平均等電点が「6以下」である場合には、帯電性セグメントの帯電性官能基をpH7以上の水溶液中でマイナスに帯電する官能基とするのが好ましい。この要件を満たす標的認識分子は、pHが7以上(例えばpH7.8)のキャリア水溶液に溶解すると、帯電性セグメントのマイナス電荷密度
が十分に高まるので、プラス電荷を与えた固定化部位(電極)に効率よく集合させ可逆的に固定化させることができる。
【0191】
他方、標的認識ペプチドセグメントの平均等電点が「8以上」である場合には、帯電性セグメントの帯電性官能基をpH7以下の水溶液中でプラスに帯電する官能基とするのが好ましい。この要件を満たす標的認識分子は、pHが7以下(例えばpH6.2)のキャ
リア水溶液に溶解すると、帯電性セグメントのプラス電荷密度が十分に高まる。よって、この要件を充足させることにより、マイナス電荷を与えた固定化部位(電極)に効率よく集合させ可逆的に固定化させることができることになる。
【0192】
上記実施例3〜9の標的認識分子においては、基材結合セグメントを有しない標的認識分子を示したが、これらの分子に対しても第1実施例群に示したように、基材に共有結合させることのできる基材結合セグメントを化学結合させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の標的認識分子は、特定物質に特異的に反応する感応部位である標的認識セグメントと、帯電性が付与された帯電性セグメントとを備える新規な化学分子であり、本発明の標的認識分子を含む溶液を用いると、電荷を印加した固定化部位に、標的認識分子を自己集合的かつ高密度に集合させ可逆的固定を行うことができる。また、基材結合セグメントを備える本発明の標的認識分子を用いると、電荷を印加した固定化部位に、標的認識分子を自己集合的に高密度に固定化することができる。このような本発明標的認識分子は、分析チップなど分析用デバイスの使い勝手性、分析精度、信頼性を格段に高めることに寄与する。よってその産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0194】
1 標的認識セグメント
2 連結セグメント
3 帯電性セグメント
3’ 帯電性セグメントの繰り返し単位
4 基材
5 基材結合セグメント
10 分析チップ
11 注液口
12 マイクロ流路
13 排出口
14・15 電極(何れか一方が固定化部位)
16 検出器
17 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質を特異的に識別する認識部位としての標的認識ペプチドセグメントと、
静電気的作用を利用して基材に可逆的に固定させるセグメントであって同一の溶液中で同一極性の電荷に帯電し得る3個以上の帯電性官能基を備えた帯電性セグメントと、
アミノ酸残基を含むセグメントであって前記標的認識ペプチドセグメントと前記帯電性セグメントのそれぞれに化学結合して両者を連結する連結セグメントと、
を有する標的認識分子。
【請求項2】
請求項1に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、アミノ酸残基を有さないセグメントであり、
前記連結セグメントは、アミノ酸残基からなるセグメントであり、
前記標的認識ペプチドセグメントは、システイン残基を含み、当該システイン残基の硫黄元素に前記連結セグメントが化学結合されている、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項3】
請求項1に記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントおよび前記帯電性セグメントは、それぞれシステイン残基を含んでなり、
前記標的認識ペプチドセグメントの前記システイン残基の硫黄元素に、前記連結セグメントの一端が化学結合され、
前記帯電性セグメントの前記システイン残基の硫黄元素に、前記連結セグメントの他端が化学結合されている、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項4】
請求項1に記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が、6以下であり、
前記帯電性セグメントの帯電性官能基が、pH7以上の水溶液中でマイナスに帯電する官能基である、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項5】
請求項1に記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が、8以上であり、
前記帯電性セグメントの帯電性官能基が、pH7以下の水溶液中でプラスに帯電する官能基である、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項6】
請求項1、3、4、5の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントが、3個以上のアミノ酸残基を有するペプチドからなる、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項7】
請求項6に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントとしてのペプチドは、アルギニン、リシンからなる群から1つ以上選択された塩基性アミノ酸残基を3個以上含み、かつ、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基を含まない、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項8】
請求項6に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントとしてのペプチドは、アスパラギン酸、グルタミン酸からなる群から1つ以上選択された酸性アミノ酸残基を3個以上含み、かつ、アルギニン残基及びリシン残基を含まない、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項9】
請求項6ないし8の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントを構成するアミノ酸残基の数が、前記標的認識ペプチドセグメントを構成するアミノ酸残基の数よりも多い、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項10】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化1で表されるポリアクリル酸構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化1】

【請求項11】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化2で表されるポリスチレンスルホン酸構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化2】

【請求項12】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、化3で表されるポリエチレンイミン構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化3】

【請求項13】
請求項1〜3、5の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化4で表されるポリアリルアミン塩酸塩構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化4】

【請求項14】
請求項1〜3、5の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化5で表されるポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化5】

【請求項15】
請求項1〜3、5の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化6で表されるポリビニルピリジン構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化6】

【請求項16】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化7で表されるポリビニル硫酸構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化7】

【請求項17】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが1以上150以下の化8で表されるデキストラン硫酸構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化8】

【請求項18】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが1以上150以下の化9で表されるコンドロイチン硫酸構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化9】

【請求項19】
請求項1ないし4の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、nが3以上150以下の化10で表されるヌクレオチド構成単位を有するセグメントである、
ことを特徴とする標的認識分子。
【化10】

【請求項20】
請求項1ないし19の何れかに記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントは、同一の溶液中で異なる極性に帯電する官能基を有しない、
を有する標的認識分子。
【請求項21】
請求項1ないし20の何れかに記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントは、3個以上19個以下のアミノ酸残基を有するペプチドからなる、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項22】
請求項1〜2、4〜21の何れかに記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントはシステイン残基を含み、当該システイン残基の硫黄元素に前記連結セグメントが化学結合されている、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項23】
請求項1〜2、4〜21の何れかに記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントの一方端がシステイン残基であり、当該システイン残基の硫黄元素に前記連結セグメントが化学結合されている、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項24】
請求項1〜2、4〜21の何れか1項に記載の標的認識分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントのN末端またはC末端の何れか一方に前記連結セグメントが化学結合され、当該結合部位と異なる連結セグメント部位に前記帯電性セグメントが化学結合されている、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項25】
実施例1−1、10−1、10−2、10−3、10−4
請求項1ないし23の何れかに記載の標的分子において、
前記標的認識ペプチドセグメントと前記帯電性セグメントがシステイン残基をそれぞれ有し、
前記連結セグメントが、ジスルフィド基およびマレイミド基のうちから選択されるチオール基と反応可能な2つの官能基を有し、
前記標的認識ペプチドセグメントと前記連結セグメントとが、前記システイン残基と前記ジスルフィドとの反応により生じるジスルフィド結合により、または前記システイン残基の硫黄元素が前記マレイミド基に付加することにより、化学結合しており、
前記帯電性セグメントと前記連結セグメントとが、前記システイン残基と前記ジスルフィドとの反応により生じるジスルフィド結合により、または前記システイン残基の硫黄元素が前記マレイミド基に付加することにより、化学結合している、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項26】
請求項1ないし25の何れかに記載の標的認識分子において、
前記帯電性セグメントに、更に、基材と化学結合させるための官能基を備えた基材結合用セグメントが化学結合されている、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項27】
請求項26に記載の標的認識分子において、
前記連結セグメントは、一方端の結合可能部位で標的認識ペプチドセグメントと化学結合し、前記一方端の結合可能部位から最も離れた他方端結合可能部位で前記帯電性セグメントと化学結合し、
前記帯電性セグメントは、前記連結セグメントと化学結合した部位から最も離れた結合可能部位で前記基材結合用セグメントと化学結合している、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項28】
実施例1−2、1−3、1−4
請求項26または27に記載の標的認識分子において、
前記基材結合用セグメントが、チオール基、アジド基、またはスクシンイミド基を含む、
ことを特徴とする標的認識分子。
【請求項29】
マイクロ流路内に電極が形成された分析用チップに、上記請求項4、6〜12、16〜25の何れか1項に記載の標的認識分子を固定化する方法であって、
前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が6以下であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がマイナスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以上に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、
前記マイクロ流路内の電極にプラス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に標的認識分子を電気的に捕集し保持させる工程と、
を備える標的認識分子を固定化する方法。
【請求項30】
マイクロ流路内に電極が形成された分析用チップに、上記請求項5〜9、12〜15、20〜25の何れか1項に記載の標的認識分子を固定化する方法であって、
前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が8以上であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がプラスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以下に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、
前記マイクロ流路内の電極にマイナス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に標的認識分子を電気的に捕集し保持させる工程と、
を備える標的認識分子を固定化する方法。
【請求項31】
マイクロ流路内に電極が形成された分析用チップに、上記請求項26ないし28の何れかに記載の標的認識分子を固定化する方法であって、
前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が6以下であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がマイナスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以上に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、
前記マイクロ流路内の電極にプラス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に電気的に標的認識分子を捕集させ、標的認識分子の基材結合用セグメントと電極とを化学結合させる工程と、
を備える標的認識分子を固定化する方法。
【請求項32】
マイクロ流路内に電極が形成された分析用チップに、上記請求項26ないし28の何れかに記載の標的認識分子を固定化する方法であって、
前記標的認識ペプチドセグメントの等電点が8以上であり、前記帯電性セグメントの帯電性官能基がプラスに帯電する官能基である標的認識分子を溶液に溶解し、溶液pHをpH7以下に調整した標的認識分子含有溶液を作製する工程と、
前記マイクロ流路内の電極にマイナス電荷を印加した状態で、前記マイクロ流路内に前記標的認識分子含有溶液を流し、電極表面に電気的に標的認識分子を捕集させ、標的認識分子の基材結合用セグメントと電極とを化学結合させる工程と、
を備える標的認識分子を固定化する方法。
【請求項33】
電極を備えた基板と、前記電極に固定化された標的認識分子と、を有する標的認識分子固定化電極基板であって、
前記標的認識分子が、上記請求項1ないし28の何れか1項に記載された標的認識分子である、
ことを特徴とする標的認識分子固定化電極基板。
【請求項34】
電極と、前記電極に固定化された標的認識分子と、標的認識分子が捕捉した標的分子を検出する検出器と、を有する特定分子検出装置であって、
前記標的認識分子が、上記請求項1ないし28の何れか1項に記載された標的認識分子である、
ことを特徴とする特定分子検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−93371(P2012−93371A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22432(P2012−22432)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2009−117873(P2009−117873)の分割
【原出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】