説明

標識物としてパーオキシダーゼを用いる化学発光分析方法

【構成】標識物としてパーオキシダーゼを用い、増感剤の存在下にルミノール/過酸化水素の化学発光反応を起こさせて生体成分を測定する場合において、反応液中の発光量を検出・測定する際に、反応液に第2級アルコールポリエトキシレート、又はそれと共に脱脂乳及び/又は卵白アルブミンを共存させ、発光量を検出・測定する。
【効果】非特異的発光反応すなわち試薬ブランク(ノイズ)を低下させ、特異的発光反応すなわちシグナル量を増強させ、S/N比(シグナル/ノイズの比)を向上させる。したがって、測定値の信頼性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、標識物としてパーオキシダーゼを用いる化学発光分析方法に関するもので、生体の微量成分の分析、疾患の診断等に利用できる。
【0002】
【従来の技術】分析対象物質を感度よく検出・測定する方法としては、その物質に特異的に結合する抗体等の特異結合試薬(予め、パーオキシダーゼ等の酵素で標識しておく場合が多い)を検体と反応させ、引き続いて標識物であるパーオキシダーゼ等の酵素の触媒反応により生じる信号を検出・測定する方法(いわゆる、酵素免疫測定法等)が知られている。また、この酵素免疫測定法には、一抗体法、二抗体法、サンドイッチ法、ホモジーニアス法、ヘテロジーニアス法等、種々の改良法又は変法が知られている。
【0003】パーオキシダーゼ等の酵素の触媒反応で生成するシグナルを効率よく測定する方法として、パーオキシダーゼにより触媒されるルミノール/過酸化水素の化学発光を測定する方法があり、この場合しばしば、ルミノールの一電子酸化を助けるラジカル安定化剤が増感剤として用いられる(Methods in Enzymology,Vol.133,p.331-353,1986;特開平2−291299号公報)。
【0004】一方、パーオキシダーゼの活性はポリオキシエチレンエーテル類の添加により増大することも知られており(Clinica Chimica Acta, 109, 177-181, 1981; J.Clin. Chem. Clin. Biochem., 19, 435-439, 1981)、また酵素免疫測定法において緩衝液中にポリオキシエチレンエーテル類を含有させ、S/N比もしくは測定感度を高める方法も提案されている(特表平2−503029号公報)。また従来、担体や抗体(もしくは抗原)固定化担体の非特異的反応をブロックする目的で、担体や抗体(もしくは抗原)固定化担体をアルブミン、乳蛋白質、卵白アルブミン等の蛋白質で処理することは知られている(特開平1−217266号公報、特開平1−224665号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】分析対象物質が生体の超微量物質等である場合には、何よりも更に感度の高い方法の開発が望まれている。本発明は、従来法よりも更に感度の高い方法を開発すること目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、感度の高い方法を開発するべく、ルミノールの一電子酸化を容易にする増感剤の存在下にパーオキシダーゼを用い、ルミノール/過酸化水素系で反応を行う化学発光分析を種々検討したところ、反応液に第2級アルコールポリエトキシレートを存在させると、パーオキシダーゼの活性(シグナル)が増大し、試薬ブランク(ノイズ)が低下してS/N比が向上すること、並びに反応液に第2級直鎖アルコールポリエトキシレートとともに脱脂乳及び/又は卵白アルブミンを共存させると、両者の効果が相乗的もしくは相加的に働いて、S/N比が大幅に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0007】すなわち、本発明は下記の(1)及び(2)に関する。
(1)増感剤の存在下に、パーオキシダーゼで標識した分析対象物質と、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析方法において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に第2級アルコールポリエトキシレートを存在させる、化学発光分析方法。
(2)増感剤の存在下に、パーオキシダーゼで標識した分析対象物質と、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析方法において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に第2級アルコールポリエトキシレートとともに脱脂乳及び/又は卵白アルブミンを存存させる、化学発光分析方法。
【0008】本発明に用いる第2級アルコールポリエトキシレートは、化1
【化1】


(化1中、R1及びR2は、同じであっても異なってもよい飽和脂肪族アルキル基、nは1以上の整数である)で表される分枝アルキルポリオキシエチレンエーテルである。
【0009】このような第2級アルコールポリエトキシレートとしては、旭電化工業(株)製「アデカトール SO シリーズ」があり、アデカトール SO−80、アデカトール SO−105、アデカトール SO−120、アデカトール SO−135、アデカトール SO−145、アデカトール SO−160等が使用できる。
【0010】これら第2級アルコールポリエトキシレートは、反応に用いる緩衝液又は反応液に含有させる。その使用量は、少なくとも化学発光のS/N比を向上させる量で、通常、0.01〜10重量%の範囲、好ましくは0.02〜2重量%の範囲で用いる。使用量が0.01重量%未満であると化学発光のS/N比を向上させる程度が低く、10重量%を超えると液の粘性が大きくなり、試薬の均一な混合が困難となる。なお、以下本明細書で単に%とあるのは、特に断わらない限り重量%を意味する。
【0011】本発明における化学発光分析は、増感剤の存在下に、標識物であるパーオキシダーゼとルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光を検出・測定する分析法であれば特に限定するものではなく、一抗体免疫分析法、二抗体免疫分析法、競合分析法、サンドイッチ法、ホモジーニアス法、ヘテロジーニアス法、ウェスターン分析法、DNAプローブ法等の各種分析法に利用できるが、特に、次のような固相サンドイッチ法に好適に用いられる。以下、固相サンドイッチ法の手順等を説明する。
【0012】手順:(1) 分析対象物質の特定部位に結合できる第1の結合試薬(例えば、第1抗体)を固相担体に固定して第1結合試薬固定化担体とする。
(2) 非特異的結合を防止するため、予めタンパク質で処理(ブロッキング処理)した第1結合試薬固定化担体に、検体を直接又は水性溶媒とともに加え、インキュベートし、第1結合試薬固定化担体/分析対象物質の複合体を形成させる。
(3) 洗浄液で洗浄する。
(4) これに、分析対象物質の他の特定部位に結合でき、かつパーオキシダーゼで標識された第2の結合試薬(例えば、第2抗体)を水性溶媒とともに加え、第1結合試薬固定化担体/分析対象物質/パーオキシダーゼ標識化第2結合試薬の複合体を形成させる。
(5) 洗浄液で洗浄する。
(6) 水性溶媒中、ルミノール、過酸化水素及び増感剤、並びに第2級アルコールポリエトキシレートを加える。
(7) 生じる発光量を測定する;
【0013】固相担体に固定する第1の結合試薬は、分析対象物質が抗原となりうるようなものの場合は抗体(ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、又は抗体断片等)が好適に用いられ、分析対象物質が核酸である場合は、それに相補する(1本鎖の)核酸又は核酸断片が好適に用いられる。
【0014】パーオキシダーゼで標識される第2の結合試薬は、分析対象物質が抗原となりうるようなものか核酸か等により、第1の結合試薬が結合する部位とは異なる部位で分析対象物質に結合できる、抗体又は核酸が用いられる。
【0015】第2の結合試薬をパーオキシダーゼで標識するには、マレイミド・ヒンジ法、サクシンイミド法等によりパーオキシダーゼを直接標識するか、第2の結合試薬にビオチニル基等の化学基を有せしめたのち、これと反応するアビジン等の化学基を有するパーオキシダーゼを反応させ、間接的に標識すればよい。第2の結合試薬を標識するパーオキシダーゼとしては、西洋ワサビ由来の塩基性アイソザイムが好適である。塩基性アイソザイムにはB、C、D及びEの型が知られているが、これらの中ではC型が最も好ましい。
【0016】用いる固相担体としては、通常、マイクロタイタプレートが好適である。このようなマイクロタイタプレートとしては、ブラックモジュールプレート(Nunc社製)、マイクロフルオロプレート黒(ダイナテク社製)、マイクロフルオロリモーバウェル黒(ダイナテク社製)等がある。場合によっては、隣接ウェルからの迷光を防止する白色系のマイクロタイタプレートを使用することもできる。このようなマイクロタイタプレートとしては白色顔料を含む、マイクロフルオロプレート白(ダイナテク社製)、マイクロフルオロリモーバウェル白(ダイナテク社製)、あるいは白色プレート(住友ベークライト社製)等がある。
【0017】発光反応に用いられるルミノールは、通常入手できる試薬グレードのものには製造原料であるヒドラジン及び硫化物イオンが混入している場合が多いので、再結晶を繰り返し、精製したものを用いる。
【0018】本発明に用いられる増感剤は、ルミノールの一電子酸化を助けて増感作用を有するもので、4−ヨードフェノール、4−ブロモフェノール、4−クロロフェノール、4−フェニルフェノール、2−クロロ−4−フェニルフェノール、4−(2’−チエニル)フェノール、6−ヒドロキシベンゾチアゾール、4−〔4’−(2’−メチル)チアゾリル〕フェノール、4−〔2’−(4’−メチル)チアゾリル〕フェノール、4−(2’−ベンゾチアゾリル)フェノール、3−(10−フェノチアジル)−n−プロピル−スルホン酸塩等がある。
【0019】これらの増感剤の存在下にパーオキシダーゼの触媒作用でルミノール/過酸化水素の発光反応を行うと、増感剤が増感ラジカルとなり、これがルミノールと反応し発光する。
【0020】反応液の溶媒は通常、水性溶媒を用いる。水性溶媒には、水又はリン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等の緩衝液等がある。これら緩衝液のpHは通常、5〜12、好ましくは7〜11とする。pHが5未満であると、パーオキシダーゼの最適pHから外れて発光量が弱くなり、pHが12を超えると、パーオキシダーゼ活性に依存しない発光(ノイズ)が強くなる。
【0021】本発明で用いられる脱脂乳は、脂肪分を除いたミルクのことで、別名、脱脂粉乳、スキムミルク等とも呼ばれる。これは市販品、例えば、「MILK DILUENT/BLOCKING SOLUTION」(KPL社製、コード番号:50-82-01)、「ブロックエース」(大日本製薬製、コード番号:UK-B25)、「ブロックエース粉末」(大日本製薬製、コード番号:UK-B80)等が容易に入手できる。
【0022】また、本発明で用いられる卵白アルブミンは、卵白から分離される分子量4万5千、等電点4.6のタンパク質で、これについても市販品、例えば、「アルブミン、卵白、5回結晶」(生化学工業社製、コード番号:250440)、「オボアルブミン」(太陽化学社製、コード番号:300-00711)、「アルブミン、卵製」(和光純薬工業社製、コード番号:018-09882)、「Albumin chicken egg」(シグマ社製、コード番号:A7641)等が容易に入手できる。
【0023】これら脱脂乳又は卵白アルブミンの使用濃度は、それぞれ、少なくともS/N比が向上する濃度とする。通常、その濃度はそれぞれ、反応液の最終濃度で0.01〜0.5%、好ましくは0.02〜0.2%の範囲である。濃度が0.01%未満ではS/N比を向上させる効果が少なく、0.5%を超えると特異的発光反応を抑えるため好ましくない。
【0024】反応液には、操作性、安定性等の性能を上げるために、他の添加物、例えば、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール等を添加してもよい。
【0025】以下に実験例を示す。
実験例1 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノール存在下の化学発光反応における第2級アルコールポリエトキシレートの添加効果化学発光反応(無添加対照)は以下のようにして行った。すなわち、ブラックモジュールプレート(Nunc社製,475515)に、パーオキシダーゼ(POD)標識化抗エンドセリン抗体(ヤマサ醤油社製、MCA ET−02)の1/105希釈液〔希釈用緩衝液として50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)を使用〕100μlを注入し、次いで2mM 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、4mM過酸化水素含有の50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10)50μl及び20mMルミノール50μlを添加し、ルミノメータ(コロナ電気社製、MLR-100型)で10分後の発光量を測光し、シグナル(S)とした(測光条件:Response 64、Sense Auto)。また、POD標識化抗エンドセリン抗体の1/105希釈液の代わりに、50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)を用い同様に操作して発光量を測光し、これをノイズ(N)とした。
【0026】第2級アルコールポリエトキシレートの添加試験は、使用するPOD標識化抗エンドセリン抗体希釈用50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)中に、予めアデカトール SO-135(旭電化工業製)を0.1重量%含有させたほかは、上記と同様に操作した。また、比較添加実験としてアデカトール SO-135の代わりに、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(和光純薬工業製、「ツィーン20」)を用い、同様に行った。表1に測定結果を示す。
【0027】アデカトールSO-135の添加では、無添加に比べ発光のノイズが約2/3、シグナルは約1.5倍、S/N比は2倍強となった。一方、ツィーン20の添加では、無添加に比べ発光ノイズの低減はみられず、シグナルの若干の増加だけがみられた。
【表1】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物(*) ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加 1,581 1,968 1.24 アデカトール SO-135 1,105 3,043 2.75 ツィーン20(比較) 1,537 2,800 1.82━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*:添加物の濃度は、無添加を除きそれぞれの成分の濃度が0.1%である(以下、実験例2〜9も同じ)。
【0028】実験例2 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノール存在下の化学発光反応における種々の非イオン性界面活性剤の添加効果非イオン性界面活性剤として第2級アルコールポリエトキシレート(アデカトール SO-135)のほか、種々のものを用い、実験例1と同様に試験した。結果を表2に示す。
【表2】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加 2,442 2,713 1.11 アデカトール SO-135 1,105 3,043 2.75 アデカトール LO-9 2,091 3,454 1.65 アデカトール NP-695 1,700 3,417 2.01 アデカトール NP-700 2,060 3,991 1.94 アデカトール PC-10 2,598 4,153 1.60 ツィーン20 2,674 4,039 1.51━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0029】S/Nを改善する効果の高い順は、アデカトール SO-135>アデカトール NP-695>アデカトール NP-700>アデカトール LO-9>アデカトール PC-10>ツィーン20であった(表2)。
【0030】実験例3 4−[2'−(4'−メチル)チアゾリル]フェノール存在下の化学発光反応における第2級アルコールポリエトキシレートの添加効果増感剤としての2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールの代わりに20mMの4−[2'−(4'−メチル)チアゾリル]フェノールを用いたほかは、実験例1と同様に行った。結果を表4に示した。
【表3】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加 1,164 1,478 1.27 アデカトール SO-135 948 3,580 3.77 ツィーン20(比較) 1,260 3,371 2.68━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0031】実験例4 4−(2'−チエニル)フェノール存在下の化学発光反応における第2級アルコールポリエトキシレートの添加効果増感剤としての2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールの代わりに1mMの4−(2'−チエニル)フェノールを用いたほかは、実験例1と同様に行った。結果を表4に示した。
【0032】
【表4】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加 732 827 1.13 アデカトール SO-135 570 1,922 3.37 ツィーン20(比較) 723 1,226 1.75━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0033】実験例5 3−(10−フェノチアジル)−n−プロピル−スルホン酸塩存在下の化学発光反応における第2級アルコールポリエトキシレートの添加効果増感剤としての2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールの代わりに20mMの3−(10−フェノチアジル)−n−プロピル−スルホン酸塩を用いたほかは、実験例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【表5】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加 1,371 1,493 1.09 アデカトール SO-135 942 3,162 3.36 ツィーン20(比較) 1,370 1,662 1.21━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0034】実験例6 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノール存在下の化学発光反応における、第2級アルコールポリエトキシレート及び脱脂乳の共存効果添加剤無添加の試験(無添加対照)は以下のように操作した。ブラックモジュールプレートに、ペルオキシダーゼ(POD)標識化抗エンドセリン抗体の1/105希釈液〔希釈用緩衝液として50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)を使用〕100μlを注入し、次いで2mM 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールのジメチルスルフォキシド溶液8μl、4mM過酸化水素含有の50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10)50μl及び20mMルミノール50μlを添加し、ルミノメータで10分後の発光量を測光し、シグナル(S)とした。ノイズ(N)の測定は、POD標識化抗エンドセリン抗体の1/105希釈液の代わりに、50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)を使用した。
【0035】第2級アルコールポリエトキシレート(アデカトール SO-135)、脱脂乳及びその両者の添加試験は、使用するPOD標識化抗エンドセリン抗体希釈用50mMホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)中に、予めそれぞれ0.1重量%含有させたほかは、上記と同様にして行った。結果を表6に示す。なお、脱脂乳は「MILK DILUENT/BLOCKING SOLUTION」(KPL社製、コード番号:50-82-01)を使用した(以下の実験例7〜9及び実施例1〜3において用いた脱脂乳も同じ)。
【表6】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加(無添加対照) 1,581 1,968 1.24 アデカトール SO-135 1,105 3,043 2.75 脱脂乳 135 1,655 12.2 アデカトール SO-135 ┐ 131 2,082 15.9 +脱脂乳 ┘━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0036】アデカトール SO-135及び脱脂乳の両者の添加では、S/N比は15.9となり、アデカトール SO-135の単独添加の場合(S/N比=2.75)又は脱脂乳の単独添加の場合(S/N比=12.2)よりも更に改善された(表6)。
【0037】実験例7 4−[2'−(4'−メチル)チアゾリル]フェノール存在下の化学発光反応における、第2級アルコールポリエトキシレート及び脱脂乳の共存効果増感剤としての2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールの代わりに20mMの4−[2'−(4'−メチル)チアゾリル]フェノールを用い、実験例6と同様にして行った。結果を表7に示す。
【表7】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加(無添加対照) 1,164 1,478 1.27 アデカトール SO-135 948 3,580 3.77 脱脂乳 85 493 5.80 アデカトール SO-135 ┐ 94 1,114 11.9 +脱脂粉乳 ┘━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0038】実験例8 3−(10−フェノチアジル)−n−プロピル−スルホン酸塩存在下の化学発光反応における、第2級アルコールポリエトキシレート及び脱脂乳の共存効果増感剤としての2mMの4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノールの代わりに20mMの3−(10−フェノチアジル)−n−プロピル−スルホン酸塩を用いたほかは、実験例6と同様にして行った。結果を表8に示す。
【0039】
【表8】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加(無添加対照) 1,371 1,493 1.09 アデカトール SO-135 942 3,162 3.36 脱脂乳 164 1,510 9.21 アデカトール SO-135 ┐ 130 1,569 12.1 +脱脂乳 ┘━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0040】実験例9 p−ヨードフェノール存在下の化学発光反応における、第2級アルコールポリエトキシレート及び脱脂乳の共存効果増感剤としてp−ヨードフェノールを用いたほかは、実験例6と同様にして行った。結果を表9に示す。
【表9】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 添加物 ノイズ(N) シグナル(S) S/N比━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無添加(無添加対照) 4,154 4,117 0.99 アデカトール SO-135 1,015 1,997 1.97 脱脂粉乳 149 501 3.36 アデカトール SO-135 ┐ 119 420 3.52 +脱脂乳 ┘━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0041】
【実施例】
実施例1 エンドセリン−1の検量線(その1)
標準となるエンドセリン−1(ET−1と略す。ヒト由来、ペプチド研究所製、コード番号4198−s)を0.1%ツィーン20及び0.1%脱脂乳含有ダルベッコリン酸緩衝生理食塩液(以下、希釈用緩衝液という。)で希釈し、それぞれ2、5、10、20及び40pg/mlの濃度のエンドセリン−1標準溶液を作成した。
【0042】予め、抗エンドセリン抗体(免疫生物研究所社製、抗エンドセリン15-21特異的抗体、コード番号:16155)を50mM燐酸ナトリウム(pH7.0)で希釈して5μg/mlとし、ブラックモジュールプレート(ヌンク社製、コード番号475515)の各ウェルに200μlずつ分注し、4℃で一晩放置して、抗体をプレートのウェルに吸着させた。イオン交換蒸留水で2回洗浄後、ウェルに0.5%脱脂乳400μlを加え、37℃で6時間保温し(ブロッキング処理)、その後0.1%ツイーン20含有カルシウムフリーダルベッコ燐酸緩衝生理食塩液で3回洗浄して、抗体固定化プレートとした。
【0043】先に準備したエンドセリン−1の標準溶液それぞれ200μlずつをプレートのウェルにとり、室温で一晩放置した。その後、0.1%ツィーン20含有ダルベッコリン酸緩衝生理食塩液(以下、洗浄用緩衝液という。)で10回洗浄し、希釈用緩衝液で2μg/mlに調整したパーオキシダーゼ(POD)標識化抗エンドセリン−1抗体(免疫生物研究所社製、コード番号16165)200μlずつを各ウェルに加え、37℃で2時間インキュベートした。洗浄用緩衝液で10回洗浄後、各ウェルに順次、アデカトールSO−135を0.1%含む2mM過酸化水素含有50mM(pH10)ホウ酸ナトリウム緩衝液(以下、発光基質液Aという。)100μl、次いで20mMルミノールと0.32mM 4−[4'−(2'−メチル)チアゾリル]フェノール含有50mM(pH10)ホウ酸ナトリウム緩衝液との1:1(容量比)混合液(以下、発光基質液Bという。)100μlを加えた。その10分後に、ルミノメータで発光量を測光した。なお試薬ブランクは、エンドセリン−1の標準溶液の代わりに希釈用緩衝液を同じ容量とり、同様に操作したものとした。横軸にエンドセリン−1の濃度をとり、縦軸に発光量(ルミカウント)をとり、グラフにプロットしてエンドセリン−1の検量線とした(図1中の1)。
【0044】また、発光基質液Aとして2mM過酸化水素含有50mM(pH10)ホウ酸ナトリウム緩衝液(アデカトールSO−135及び脱脂乳のいずれもに不含)を用い、同様に操作して、これを比較対照とした。
【0045】実施例2 エンドセリン−1の検量線(その2)
発光基質液Aとして、0.1%アデカトールSO−135及び0.1%脱脂乳を含む2mM過酸化水素含有50mM(pH10)ホウ酸ナトリウム緩衝液を用いたほかは、実施例1と同様にしてエンドセリン−1の検量線を作成した(図1中の2)。実施例1及び実施例2の結果(図1)から、発光反応時にアデカトールSO−135が存在するとき、特にアデカトールSO−135及び脱脂乳の両者が共存するとき、エンドセリン−1の検量線の傾斜が大きく、測定感度が高いことが分かる。
【0046】実施例3 健常人の血漿中のエンドセリン−1の測定標準となるエンドセリン−1(ペプチド研究所製、コード番号4198−s)をエンドセリン−1不含血漿で希釈し、それぞれ2、5、10、20及び40pg/mlの濃度のエンドセリン−1標準溶液を作成した。上記エンドセリン−1標準溶液並びに検体(健常人の血漿:6体)について、実施例2と同様にして操作し、発光量を求めた。エンドセリン−1標準溶液の発光量(検量線)から、検体のエンドセリン−1の濃度を求めた。
【表10】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━検体番号 ET−1(pg/ml) 検体番号 ET−1(pg/ml)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 1 1.47 4 3.00 2 2.12 5 2.79 3 1.87 6 1.55━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0047】
【発明の効果】本発明は、パーオキシダーゼを標識物に用いる化学発光分析における、非特異的発光反応すなわち試薬ブランク(ノイズ)を低下させ、特異的発光反応すなわちシグナル量を増強させ、S/N比(シグナル/ノイズの比)を向上させる。したがって、測定値の信頼性は向上する。また、本発明をエンドセリン−1の測定に利用すると、血漿(又は血清)の濃縮等の前処理なく、直接、定量できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンドセリン−1の検量線を示すグラフである。
【符号の説明】
1…0.1%アデカトールSO−135を含む発光基質液Aを用いた場合の検量線(実施例1)。
2…0.1%アデカトールSO−135及び0.1%脱脂乳を含む発光基質液Aを用いた場合の検量線(実施例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】増感剤の存在下に、パーオキシダーゼで標識した分析対象物質と、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析方法において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に第2級アルコールポリエトキシレートを存在させる、化学発光分析方法。
【請求項2】増感剤の存在下に、パーオキシダーゼで標識した分析対象物質と、ルミノール及び過酸化水素を反応させ、生じた発光量を検出・測定する化学発光分析方法において、反応液中の発光量を検出・測定する際、反応液に第2級アルコールポリエトキシレートとともに脱脂乳及び/又は卵白アルブミンを存存させる、化学発光分析方法。

【図1】
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