説明

模擬木刀およびその製造方法

【課題】木刀の使用感を損なうことなく、軽量化と安全性を向上させた模擬木刀を提供する。
【解決手段】中空筒状のゴルフクラブのシャフトを加工した軽量弾力性鋼材の芯材30と、この芯材30の全体を覆う、木刀を模した外形を有する発泡ポリウレタン樹脂刀の衝撃吸収素材により形成された外装材40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬木刀およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剣道の形の習得や素振り、立合いによる稽古に際して、日本刀を模した木刀が用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−099869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この木刀は、ある程度の重量と堅牢さを備えているため、素振りや立合いなどの稽古の際には、人体に直接当たったとき、相手に損傷を与える虞がある。
【0005】
また、剣道は武道の一つとして中学校で必修化することが検討されているが、そのような剣道の授業において木刀を扱う場合、それを使用するのが心身共に成長過程にある生徒であることを考慮すると、生徒の体力で無理なく扱えるように重量を軽量化するとともに、相手に直接当たることも想定した安全性が求められる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、木刀の使用感を損なうことなく、軽量化と安全性を向上させた模擬木刀およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る模擬木刀は、中空筒状の金属により形成された芯材と、この芯材を覆う、木刀を模した外形を有する衝撃吸収素材により形成された外装材とを備えた構成により、木刀の使用感を損なうことなく、軽量化と安全性を向上させたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る模擬木刀は、中空筒状の金属により形成された芯材と、前記芯材を覆う、木刀を模した外形を有する衝撃吸収素材により形成された外装材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、芯材としては、例えばゴルフクラブのシャフトに用いられている中空円筒状の軽量弾力性鋼材を適用することができるが、これに限定されるものではない。
【0010】
ゴルフクラブのシャフトに用いられている中空円筒状の軽量弾力性鋼材を適用したものでは、既存のシャフトを利用することができるため、新たに設計、製造するものよりも開発コストや製造コストを低減することができる。
【0011】
芯材は、一直線状の形状であってもよいが、木刀の外形と同様に反りを有するものであることが好ましい。模擬木刀の長さ方向の全体に亘って、各横断面における外装材に対する芯材の配置位置を略一定にすることができるからである。
【0012】
なお、芯材の反りは、曲率が連続的に変化した滑らかな反りであることが好ましいが、一直線状のシャフトを芯材として流用するものでは、長さ方向における適当な位置(2箇所程度の位置)において、適当な角度で屈曲させることで、曲率を連続的に変化させる加工のように大きなコストを割くことなく、適当な反りを形成することができる。
【0013】
外装材は、芯材よりも軟らかい衝撃吸収素材で形成され、芯材を完全に覆う、木刀の外形を模した外形を有しており、木刀の柄に相当する部分と刀身に相当する部分との境界には、両部分の径の差異による段差が形成されている。
【0014】
外装材は、単一の衝撃吸収素材により形成されているが、その外表面にのみ、極薄い膜厚の表皮を形成してもよい。
【0015】
外装材を形成する衝撃吸収部材としては、例えば車両のステアリングホイールなどに用いられている発泡ポリウレタン樹脂を適用することができるが、これに限定されるものではなく、芯材よりも軟らかく、かつ衝撃を吸収しうる素材であれば、公知の種々のものを適用することができる。
【0016】
以上のように、本発明に係る模擬木刀によれば、模擬木刀は、その外形が木刀を模した外装材の外形形状であるため、見た目の印象において、実物の木刀と違和感なく使用することができる。
【0017】
また、本発明に係る模擬木刀は、芯材として、比較的重い材料である金属の中空筒状のものを用いていることにより、素振りを行ったときに、空気抵抗による振れが生じることなく、真っ直ぐ振り下ろすことができ、実物の木刀を用いた場合の使用感覚を損なうことがない。
【0018】
一方、本発明に係る模擬木刀は、芯材が中空であるため中実のものに比べて、その重量を低減することができ、実物の木刀よりも軽量化することができる。
【0019】
しかも、芯材の周囲を覆うのは、衝撃吸収素材による外装材であり、この外装材は、実物の木刀の素材である木材よりも軽量であるため、この点からも重量の軽量化が図られている。
【0020】
また、本発明に係る模擬木刀は、芯材が、衝撃吸収素材による外装材で完全に覆われているため、この模擬木刀を用いた立合いによって模擬木刀が相手の身体に実際に当たったとしても、外装材がその衝撃を吸収するため、実物の木刀を用いた場合に比べて、相手の身体に大きな損傷を与えることがなく、安全性が高められる。
【0021】
本発明に係る模擬木刀においては、前記芯材の長手方向両端部をそれぞれ覆う、前記外装材よりも硬く、かつ前記芯材よりも軟らかい材質のキャップを備えることが好ましい。
【0022】
ここで、キャップの材質としては、例えばゴムなどを適用することができる。
【0023】
キャップは、芯材の各端部の開放された中空部に嵌入される嵌入突部を有するものであってもよい。このように嵌入突部を有するものは、嵌入突部が芯材の中空部に嵌入するため、中空部が嵌入突部によって埋められた中実状態となり、この結果、中空状態のままとなるキャップを装着した場合よりも、芯材の各端部は外方から半径方向の中心に向かって作用する荷重に対する強度が向上する。
【0024】
以上のように、好ましい構成の模擬木刀によれば、この模擬木刀の剣先を突き出す突きの打撃を繰り返したとしても、芯材の端部よりも先の外装材はキャップに当たるだけであって、キャップが装着されていないと仮定した場合のように、芯材の端部の開放部に外装材がめり込んで端部が外装材を突き破って外部に露出するのを防止することができる。
【0025】
しかも、剣先側の外装材の部分(芯材が存在しない部分)が仮に折れ曲がって、芯材の剣先側端部がその折れ曲がった外装材の部分から外部に露出した場合であっても、その剣先側端部はキャップによって覆われているため、金属製の端部が直接露出することがない。
【0026】
本発明に係る模擬木刀においては、前記芯材は、ゴルフクラブのシャフトに用いられている中空円筒状の軽量弾力性鋼材であることが好ましい。
【0027】
ここで、ゴルフクラブのシャフトは、長さ方向に沿ってその外径が変化するが、この外径の変化を形成する形状としては、外径が連続的に変化する滑らかな段無しテーパであってもよいし、外径が段階的(離散的)に変化する段付きテーパのものであってもよい。
【0028】
軽量弾力性鋼材としては、例えば軽量スチールなどである。
【0029】
以上のように、好ましい構成の模擬木刀によれば、ゴルフクラブのシャフトに用いられている中空円筒状の軽量弾力性鋼材を適用したものでは、既存のシャフトを利用することができるため、芯材を新たに開発、製造するものよりも開発コストや製造コストを低減することができる。
【0030】
本発明に係る模擬木刀においては、前記芯材は、少なくとも一部に、前記芯材の周回りの回り止めとなる形状が形成されていることが好ましい。
【0031】
ここで、周方向の回り止めとは、周方向に沿った相対的な変位を阻止することであり、例えば中空筒状の横断面を、矩形筒状としたものなどを適用することができる。なお、横断面が円筒状のものは矩形筒状のものよりも周方向に沿って滑らかであるため、相対的な変位が生じ易いが、表面を粗面とするなどの回り止めを適用することで、相対的な変位を抑制することもできる。
【0032】
以上のように、好ましい構成の模擬木刀によれば、芯材の少なくとも一部に形成された周回りの回り止めと、芯材を覆う外装材とが係合した状態となるため、芯材と外装材との間での、周方向への相対的な変位が生じにくくなり、相対的な変位が生じた場合における芯材と外装材との分離の発生を抑制することができる。
【0033】
そして、両者の分離が発生した場合に発生しうる、模擬木刀の外部への芯材の露出も起こりにくく、安全性が一層高められる。
【0034】
本発明に係る模擬木刀においては、前記外装材の外表面を覆う表皮が形成されていることとが好ましい。
【0035】
以上のように、好ましい構成の模擬木刀によれば、表皮を形成することにより、外装材の衝撃吸収素材の表面よりも光沢や平滑度合いを高めたり、衝撃吸収素材の外表面における外観上の僅かな欠陥を覆うなどして、外観品質を向上させることができる。
【0036】
また、衝撃吸収素材の組成により外装材の色が限定的であっても、表皮の色は任意のものを選択し適用することができるため、例えば衝撃吸収素材自体の色が黒色などであっても、表皮の色を実物の木刀の色と同様に設定することで、視覚的に実物の木刀の雰囲気を演出することもできる。
【0037】
さらに、模擬木刀は使用により、経時的に、表面に傷などが生じるが、傷の部分においては表皮が損傷して内側の衝撃吸収素材自体の色が露出し、この衝撃吸収素材の色の露出によって損傷状態を使用者に一目で視認させることができ、新品の模擬木刀への交換を促すきっかけとすることもできる。
【0038】
本発明に係る模擬木刀においては、円筒状の鍔止めと前記鍔止めの端部に形成された円板状の鍔とからなる、衝撃吸収素材により形成された鍔止め一体鍔をさらに備えたことが好ましい。
【0039】
ここで、鍔止め一体鍔を構成する衝撃吸収素材は、外装材と同一種類の衝撃吸収素材であってもよいし、他の種類の衝撃吸収素材であってもよい。
【0040】
円筒状の鍔止めの内径は、模擬木刀の外装材の外径(特に、刀身の、柄に隣接する部分の外径)より僅かに小さく形成されている。
【0041】
鍔の円板の外周縁の角部は、丸み面取りなどの面取りがなされていることが好ましい。
【0042】
以上のように、好ましい構成の模擬木刀によれば、立合い稽古の際に、互いに相手の模擬木刀の刀身を自己の模擬木刀の鍔で受ける鍔迫り合いにおいて、両鍔の間に、柄を握る手の指が挟まれても、鍔止め一体鍔の材質が衝撃吸収部材であるため、挟まれた指が鍔によって損傷を受けるのを防止することができる。
【0043】
また、鍔止め一体鍔は鍔と鍔止めとが一体であるため、鍔とは別体構成の従来の鍔止めのように、不用意に紛失するのを抑制することができる。
【0044】
なお、鍔の円板の外周縁の角部に面取りがなされているものでは、角部での損傷も低減されるため、安全性を一層高めることができる。
【0045】
本発明に係る模擬木刀の製造方法は、芯材の両端部に支持治具を設けて、この支持治具により、芯材を型の内部で宙づり状態とすることで、木刀を模した外形を有する衝撃吸収素材により形成された外装材で芯材の全体を覆った模擬木刀を製造するものである。
【0046】
すなわち、本発明に係る模擬木刀の製造法は、中空筒状の金属により形成された芯材の両端にそれぞれ、前記芯材を支持する支持治具を取り付け、木刀を模した外形の面に対応する面を有する型の内部で前記芯材を宙吊り状態とするように、前記両端に取り付けられた支持支具により前記芯材を前記型に支持させ、前記型の内部に衝撃吸収素材を射出することにより、前記芯材を、木刀を模した外形を有する前記衝撃吸収素材により形成された外装材で覆った模擬木刀を製造することを特徴とする。
【0047】
以上のように、本発明に係る模擬木刀の製造方法によれば、中空筒状の金属により形成された芯材の両端にそれぞれ支持治具を取り付け、型の内部で芯材が宙づり状態となるように支持治具によって、芯材を型に支持させることで、型の内部で芯材を宙づり状態とすることができ、この状態で型の内部に衝撃吸収素材を射出することにより、木刀を模した外形を有する衝撃吸収素材により形成された外装材で芯材の全体を覆った模擬木刀を製造することができる。
【0048】
本発明に係る模擬木刀の製造法においては、前記支持治具は、その長さ方向の所定位置に目印となる特異部分が形成された棒状の部材であり、前記芯材の両端から前記棒状の部材を、前記特異部分まで挿入し、前記棒状の部材のうち、前記芯材の両端から突出した側の部分と、前記型に形成された所定の部分とを位置合わせして、前記芯材を前記型に支持させることにより、前記模擬木刀の長さ方向における前記外装材に対する前記芯材の位置を一定位置に保つことが好ましい。
【0049】
以上のように、好ましい構成の模擬木刀の製造方法によれば、芯材の両端から、支持治具における特異部分まで、芯材に支持治具を挿入することで、支持治具と芯材との位置関係を規定することができ、支持治具の、芯材の両端から突出した側の部分と、型に形成された所定の部分とを位置合わせすることで、支持治具と型との位置関係を規定することができ、これらの位置関係により、型の内部で芯材を宙づり状態にしつつ型における芯材の位置を一定にすることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明に係る模擬木刀によれば、木刀の使用感を損なうことなく、軽量化と安全性を向上させることができる。
【0051】
また、本発明に係る模擬木刀の製造方法によれば、木刀の使用感を損なうことなく、軽量化と安全性を向上させることができる模擬木刀を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態である模擬木刀の外観を示す図である。
【図2】図1におけるA部の構造を示す模式図である。
【図3】芯材を示す図である。
【図4】芯材の端部に装着されるキャップを示す図であり、(a)は装着前のキャップと芯材の端部とを示す縦断面図、(b)は装着後のキャップと芯材の端部とを示す縦断面図、(c)は装着後のキャップと芯材の端部とを示す斜視図をそれぞれ表す。
【図5】キャップの他の態様を示す図であり、(a)は図4(a)相当の縦断面図、(b)は図4(c)相当の斜視図をそれぞれ表す。
【図6】鍔止め一体鍔を示す図であり、(a)は鍔止め側から見た正面図、(b)は(a)のC−C線に沿った断面を示す図、(c)は(a)のD−D線に沿った断面を示す図をそれぞれ表す。
【図7】図1のB部に図6の鍔止め一体鍔を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】吊り治具を示す図である。
【図9】芯材の両端に取り付けられたキャップに、図8の吊り治具を取り付けた状態を示す図である。
【図10】吊り治具で支持された芯材を型に配置する様子を示す図であり、(a)は配置前の状態を示す斜視図、(b)は配置後の状態を示す縦断面図、(c)は芯材が配置された下型に上型をセットした状態を示す断面図をそれぞれ表す。
【図11】鍔迫り合いの様子を示す模式図である。
【図12】矩形筒状の芯材を示す斜視図である。
【図13】端部が半円筒状に形成された芯材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の模擬木刀およびその模擬木刀の製造方法に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態である模擬木刀100を示す側面図であり、この模擬木刀100は、全長が略1000[mm]、質量が約350[g]で、図示左側の略250[mm]の部分に柄(つか)20が形成され、柄20よりも右側の略750[mm]の部分に刀身10が形成されている。
【0055】
ここで、この模擬木刀100は、図2の部分断面斜視図に示すように、長尺の芯材30と、この芯材30を覆い、芯材30よりも軟らかい衝撃吸収素材により木刀の外形形状を模して形成された外装材40とからなる。
【0056】
また、模擬木刀100は木刀を模したものであるため、刀身10は反りを有しており、芯材30および外装材40は、いずれも刀身10の反りに対応して反った形状に形成されている。なお、刀身10に比べてその反り度合いは少ないが、柄20もわずかに反っている。
【0057】
芯材30は中空筒状の金属、例えばゴルフクラブのシャフトに用いられている中空円筒状の軽量弾力性鋼材であり、この芯材30は、外装材40の剣先(前端)11から長さL1(例えば35[mm])の位置P1から、外装材40の柄頭(後端)21から長さL2(例えば5[mm])の位置P2までの範囲に、配設されている。
【0058】
また、上述したとおり、芯材30は刀身10および柄20に対応した反りを有しているが、この芯材30に形成された反りは、曲率が連続して変化した滑らかな反りではなく、図3に示すように、一直線状の芯材30を2箇所の位置P3,P4においてそれぞれ所定の角度θ3,θ4(例えば、θ3は176[度]、θ4は177[度])折り曲げた屈曲形状に形成されている。
【0059】
もちろん、本発明の模擬木刀における芯材は、この実施形態のものに限定されるものではなく、より多くの位置で折り曲げられたものであってもよいし、曲率が滑らかに連続して変化したものであってもよい。
【0060】
上述した折り曲げの位置P3,P4はいずれも、芯材30の両端のうち、柄頭21に対応する側の端部32(以下、柄頭側端部32という。)からの長さL3,L4によって規定された位置であり、例えばL3=300[mm]、L4=660[mm]である。
【0061】
本実施形態の模擬木刀100における芯材30は、ゴルフクラブに用いられている一直線に真っ直ぐ延びたシャフトを用い、このシャフトを後に上記2箇所の位置P3,P4において折り曲げる(屈曲させる)ことで反りを形成したものであるが、一直線状のものを折り曲げ加工するのではなく、最初から屈曲部を有するものとして形成されたものであってもよい。
【0062】
また、芯材30は、柄頭側端部32から、剣先11に対応する側の端部31(以下、剣先側端部31という。)に向かうにしたがって、その外径(外周面における直径)が段階的に細くなる(柄頭側端部32における外径15.5[mm]、剣先側端部31における外径8.573[mm])が、芯材30の板厚は、柄頭側端部32、剣先側端部31を含めて略一定の0.5[mm]である(柄頭側端部32における内径14.5[mm]、剣先側端部31における外径7.573[mm])。
【0063】
ただし、芯材30の板厚は、必ずしも芯材30の全長に亘って一定であることに限定されるものではなく、柄頭側端部32の板厚が剣先側端部31の板厚よりも厚いものや、これとは反対に、柄頭側端部32の板厚が剣先側端部31の板厚よりも薄いものであってもよい。
【0064】
さらに、芯材30の外形は、中空の円筒形状に限定されるものではなく、中空の矩形(四角形、六角形など)筒状のものであってもよい。
【0065】
また、この芯材30は、その外表面がクロムメッキされたものであるが、メッキされたものでなくてもよい。
【0066】
本実施形態における芯材30は中空部材であるため、その両端部31,32はそれぞれ開放されているが、図4に示すように、両端部31,32にそれぞれ、これら両端部31,32の端面を覆うキャップ38が取り付けられている。
【0067】
このキャップ38は、芯材30よりも軟らかく、かつ外装材40よりも硬い素材である、例えばゴムなどの材質で形成されており、その半径方向中央部分には、芯材30の各端部31,32が収容される円柱形状の空間38aが形成されている(図4(a))。そして、この空間38aに端部31,32が収容された状態(図4(b),(c))において、芯材30の各端部31,32がキャップ38の空間38aの底に突き当たっている。このとき、キャップ38と芯材30との間は両者の摩擦力により固着され、キャップ38が各端部31,32から容易に脱落しないようになっている。
【0068】
なお、キャップ38の半径方向の肉厚t1は例えば約6[mm]、軸方向の肉厚t2は例えば約6[mm](柄頭側端部32に取り付けられるキャップ38の場合)または約7[mm](剣先側端部31に取り付けられるキャップ38の場合)である。
【0069】
キャップ38は、図5(a)に示すように、空間38aに、芯材30の各端部31,32の開放された中空部30bに嵌入される嵌入突部38bを有するものであってもよい。このように嵌入突部38bを有するものは、嵌入突部38bが芯材30の中空部30bに嵌入するため、中空部30bが嵌入突部38bによって埋められた中実状態となり、この結果、中空状態のままとなる図4のキャップ38を装着した場合よりも、芯材30の各端部31,32は図5(b)に示すように外方から半径方向の中心に向かって作用する荷重Fに対する強度が向上する。
【0070】
外装材40は、前述したように、芯材30よりも軟らかい衝撃吸収素材で形成され、芯材30を完全に覆う、木刀の外形を模した外形を有しており、柄20は刀身10よりも太いため、柄20と刀身10との境界には段差41が形成されている。
【0071】
外装材40は、単一の衝撃吸収素材により形成されているが、その外表面にのみ、極薄い膜厚の表皮42を形成してもよい。この表皮42は、外装材40の衝撃吸収素材の表面よりも光沢や平滑度合いを高めたり、衝撃吸収素材の外表面における外観上の僅かな欠陥を覆うなどして、外観品質を向上させるものである。
【0072】
また、表皮42の色を、外装材40の本体である衝撃吸収素材自体の色とは異なる色にすることも可能である。衝撃吸収素材自体の色が、その組成によって規定されてしまうとしても、表皮42の色は任意のものを選択し適用することができるため、例えば衝撃吸収素材自体の色が黒色などであっても、表皮42の色を実物の木刀の色と同様に設定することで、視覚的に実物の木刀の雰囲気を演出することもできる。
【0073】
また、模擬木刀100は使用により、経時的に、表面に傷などが生じるが、傷の部分においては表皮42が損傷して内側の衝撃吸収素材自体の色が露出し、この衝撃吸収素材の色の露出によって損傷状態を使用者に一目で視認させることができ、新品の模擬木刀への交換を促すきっかけとすることもできる。
【0074】
なお、外装材40を形成する衝撃吸収部材は、本実施形態においては例えば車両のステアリングホイールに用いられている発泡ポリウレタン樹脂であるが、本発明の模擬木刀における衝撃吸収部材としてはこの実施形態のものに限定されるものではなく、芯材30よりも軟らかく、衝撃を吸収しうる素材であれば、公知の種々のものを適用することができる。
【0075】
外装材40の段差41には、図6に示すような、円筒状の鍔止め51と、この鍔止め51の端部に円板状の鍔52とを一体化した鍔止め一体鍔50が、図7に示すように装着されている。
【0076】
この鍔止め一体鍔50は、外装材40と同様の衝撃吸収素材により形成されていて、鍔止め51の内周部は、刀身10の外形よりも僅かに小さく形成されていて、刀身10の剣先11の側から刀身10に装着される鍔止め一体鍔50は、その衝撃吸収部材としての特性によりその内周部が弾性的に伸びることで、その内周部よりも僅かに小さい外形の刀身10に装着可能となっている。
【0077】
そして、鍔止め一体鍔50の伸びた内周部は、縮む方向に弾性力が作用する結果、刀身10の外周面を締め付ける垂直抗力を作用させ、これにより鍔止め一体鍔50の内周部の面と刀身10の外周面との間に強い摩擦力が生じ、この摩擦力により、鍔止め一体鍔50が刀身10から脱落するのを抑制している。
【0078】
また、鍔止め一体鍔50は、図7に示すように、刀身10と柄20との外周の太さに差異によって形成された段差41で引っ掛かるように形成されていて、剣先11の側から刀身10に装着された鍔止め一体鍔50は、段差41を乗り越えて柄20にずれることがない。
【0079】
なお、鍔止め一体鍔50の鍔52の、剣先11側の外周縁および柄頭21側の外周縁には、それぞれ半径1[mm]程度の丸み面取りRが形成されている。
【0080】
次のこの模擬木刀100を製造する製造方法について説明する。
【0081】
まず、図3に示した芯材30の両端部(剣先側端部31、柄頭側端部32)にそれぞれ、図4に示したキャップ38,38を装着する。
【0082】
次いで、図8に示した長さ100[mm]で段付きの吊り治具310,310(支持治具)を、各キャップ38,38の直径方向中心部にそれぞれ、各端部31,32における芯材30の軸に沿って貫き入れる(図9)。
【0083】
ここで、段付きの吊り治具310,310は、直径が相対的に小さい長さ40[mm]の細径部311と、細径部311よりも直径が大きい長さ60[mm]の太径部312とが一直線上に連なった棒状の部材であり、細径部311と太径部312との境界に段差(目印となる特異部分)が形成されている。
【0084】
そして、この細径部311を段差まで各キャップ38,38に貫き入れることで、各キャップ38,38の端部から吊り治具310を正確に長さ60[mm](太径部312の長さ)だけ突出した状態とすることができ、この吊り治具310の突出した部分(太径部312)の端部と後述の金型320に形成された所定の部分である吊り部キャビティ321,322とを位置合わせすることで、金型と芯材30との位置決めがなされる。
【0085】
キャップ38,38に吊り治具310,310がそれぞれ取り付けられた状態の芯材30は、金型の所定位置にセットされて、その周囲に衝撃吸収素材が発泡成形され、外装材40を形成する。
【0086】
具体的には、図10に示した下型320には、吊り治具310のうち、芯材30の両端から突出した側の端部に一致する長さで2つの吊り部キャビティ321,322が形成されていて(図10(a))、一方の吊り部キャビティ321に剣先11側の吊り治具310の突出した部分をセットし、他方の吊り部キャビティ322に柄頭21側の吊り治具310の突出した部分をセットすることで、芯材30は下型320のキャビティ340内で宙吊り状態に保持されるとともに、軸方向の位置決めがなされる(図10(b))。
【0087】
そして、この芯材30がセットされた状態の下型320に上型330を被せ、上型330に形成されたゲート350から、所定温度の衝撃吸収素材をキャビティ340内に注入して内部で発泡させ、その後、上型330と下型320とを離して、外装材40が形成された模擬木刀100を脱型する。
【0088】
その後、吊り治具310,310を取り外して、模擬木刀100が製造される。
【0089】
なお、下型320および上型330の成型面には、予め離型剤が塗布されているとともに、外装材40の外表面に相当する部分の表皮42となるモールドコートが塗布され、このモールドコートが乾燥した後に、芯材30がセットされる。
【0090】
また、上型330における、衝撃吸収素材を注入するゲート350は、図7に示した鍔止め一体鍔50の鍔止め51によって、その注入口の痕跡(ゲート跡)45が隠蔽されるような位置に形成されている。
【0091】
さらに、吊り部キャビティ321,322は、そこにそれぞれ対応する吊り治具310,310の突出した部分(太径部312)をセットしたときに、芯材30の軸方向についての、下型320に対する芯材30の位置も、所定位置に位置決めされるように形成されている。
【0092】
すなわち、吊り部キャビティ321,322は、そこにそれぞれ対応する吊り治具310,310をセットしたとき、芯材30は、外装材40の成型後の剣先11から長さL1の位置P1(図1参照)に一方のキャップ38の先端が位置し、柄頭21から長さL2の位置P2に他方のキャップ38の先端が位置するように、位置決めされる。
【0093】
このようにして、芯材30が型320,330の所定位置にセットされた状態で、ゲート350から衝撃吸収素材が注入されるが、単一のゲートによって長い刀身10の剣先11まで衝撃吸収素材を満遍なく注入するために、衝撃吸収素材の注入中に、剣先11側を下方に下げるように、型320,330を傾けるのが好ましい。
【0094】
注入から所定時間経過し、キャビティ340内で所望の発泡が完了すると、芯材30は、衝撃吸収素材の外装材40で完全に覆われ、さらにその外表面はモールドコートによる表皮42が形成されたものとなり、吊り治具310,310を取り外して、図1に示す外観を呈した模擬木刀100が生成される。
【0095】
その後、図6に示した鍔止め一体鍔50を、その鍔52を柄頭21に向かせた状態で、模擬木刀100の剣先11側から装着し、段差41まで移動させることで、その鍔止め51がゲート跡である痕跡45を覆い、この痕跡45が鍔止め51によって隠蔽された状態となる。
【0096】
以上詳細に説明したように、本実施形態の模擬木刀100によれば、その全長が、実物の木刀と略同じ長さである約1000[mm]であるため、木刀と同じ間合いでの稽古を行うことができる。
【0097】
また、模擬木刀100は、その外形が木刀を模した外装材40の外形形状であるため、見た目の印象においても、実物の木刀と違和感なく使用することができる。
【0098】
さらに、この模擬木刀100は、芯材30として比較的重い材料である金属のシャフトを用いていることにより、素振りを行ったときに、空気抵抗による振れが生じることなく、真っ直ぐ振り下ろすことができ、この点でも木刀を用いた場合の使用感覚を損なうことがない。
【0099】
一方、模擬木刀100は、芯材30が中空であるため中実のものに比べて、その重量を低減することができ、実物の木刀よりも軽量化することができる。
【0100】
しかも、芯材30の周囲を覆うのは、衝撃吸収素材による外装材40であり、この外装材40は、実物の木刀の素材である木材よりも軽量であるため、この点からも重量の軽量化が図られている。
【0101】
また、模擬木刀100は、芯材30が、衝撃吸収素材による外装材40で完全に覆われているため、この模擬木刀100を用いた立合いによって模擬木刀100が相手の身体に実際に当たったとしても、外装材40がその衝撃を吸収するため、実物の木刀を用いた場合に比べて、相手の身体に大きな損傷を与えることがなく、安全性が高められる。
【0102】
しかも、外装材40は、芯材30の周面の外方だけでなく、軸方向の端部(剣先側端部31、柄頭側端部32)の外方(図1における長さL1の部分および長さL2の部分)も完全に覆っているため、刀身10による、軸方向(長手方向)に直交する方向への打撃に対してだけでなく、軸方向に沿った方向への打撃(突き)に対しても、相手の身体に直接当たるのは芯材30ではなく外装材40であるため、その衝撃は外装材40(主に長さL1の部分)で吸収され、実物の木刀の剣先が当たる場合よりも安全性が高められている。
【0103】
また、芯材30の柄頭側端部32も同様に外装材40で完全に覆われているため、この柄頭21が使用者自身や相手の身体に当たった場合にも、実物の木刀の剣先が当たる場合よりも安全性が高められている。
【0104】
さらに、芯材30は、各端部31,32にゴム製のキャップ38,38が装着されているため、例えば模擬木刀100の剣先11を突き出す突きの打撃を繰り返したとしても、端部31,32よりも先の外装材40(長さL1の部分、長さL2の部分)はキャップ38に当たるだけであって、キャップ38,38が装着されていないと仮定した場合のように、端部31,32の開放部に外装材40がめり込んで端部31,32が外装材40を突き破って外部に露出することがない。
【0105】
しかも、剣先11側の外装材40の長さL1の部分(芯材30が存在しない部分)が仮に折れ曲がって、芯材30の剣先側端部31がその折れ曲がった外装材40の部分から外部に露出した場合であっても、その剣先側端部31はゴム製のキャップ38によって覆われているため、金属製の端部31が直接露出することがなく、この点での安全性も確保されている。
【0106】
また、芯材30として既存のゴルフクラブのシャフトを用いているため、芯材を新たに開発、製造するものよりも開発コストや製造コストを低減することができる。
【0107】
さらに、本実施形態の模擬木刀100は鍔止め一体鍔50(図6,7参照)を備えているが、この模擬木刀100を用いた立合い稽古の際に、互いに相手の模擬木刀100の刀身10を自己の模擬木刀100の鍔52で受ける鍔迫り合いにおいて、図11に示すように、両鍔52,52の間に、柄20を握る手の指200が挟まれても、鍔止め一体鍔50の材質が衝撃吸収部材であるため、挟まれた指200が鍔52,52によって損傷を受けるのを防止することができる。
【0108】
また、鍔止め一体鍔50は鍔52と鍔止め51とが一体であるため、鍔とは別体構成の従来の鍔止めのように、不用意に紛失するのを抑制することができる。
【0109】
なお、鍔52の円板の外周縁の角部は、図6に示したように丸み面取りRがなされているため、角部での損傷も低減され、安全性が一層高められている。
【0110】
なお、本実施形態の模擬木刀100は、芯材30として中空円筒形状のものを用いたものであるが、本発明の模擬木刀はこの形態に限定されるものではなく、図12に示した中空の矩形(四角形、六角形など)筒状のものであってもよい。
【0111】
また、図13に示すように、端部31,32の近傍だけが半円筒状で、他の部分は円筒状の芯材30も、本発明の模擬木刀の芯材として適用することができる。
【0112】
このように、図12に示した矩形筒状の芯材30や図13に示した端部だけ半円筒状の芯材30を備えた模擬木刀100によれば、これら断面の形状(矩形環状、半円環状)が、芯材30の周回りの回り止めの形状となる。
【0113】
そして、そのような回り止めと、芯材30を覆う外装材40とが係合した状態となるため、芯材30と外装材40との間での、周方向への相対的な変位が生じにくくなり、相対的な変位が生じた場合における芯材30と外装材40との分離の発生を抑制することができる。
【0114】
そして、両者30,40の分離が発生した場合に発生しうる、模擬木刀100の外部への芯材30の露出も起こりにくく、安全性が一層高められる。
【0115】
また、本実施形態に係る模擬木刀100の製造方法によれば、中空筒状の金属により形成された芯材30の両端にそれぞれ吊り治具310,310を取り付け、型320、330の内部で芯材30が宙づり状態となるように吊り治具310,310によって、芯材30を型320,330に支持させることで、型320,330の内部で芯材30を宙づり状態とすることができ、この状態で型320,330の内部に衝撃吸収素材を射出することにより、木刀を模した外形を有する衝撃吸収素材により形成された外装材40で芯材30の全体を覆った模擬木刀100を製造することができる。
【0116】
また、吊り治具310は、その長さ方向の所定位置に目印となる特異部分として段差が形成された棒状の部材であり、芯材30の両端部31,32から吊り治具310を段差まで挿入することで、吊り治具310と芯材30との位置関係を規定することができ、吊り治具310の、芯材30の両端から突出した側の部分と、型に形成された所定の部分である吊り部キャビティ321,322とを位置合わせすることで、吊り治具310と型320との位置関係を規定することができ、これらの位置関係により、型320の内部で芯材30を宙づり状態にしつつ型320における芯材30の位置を一定にすることができる。
【符号の説明】
【0117】
10 刀身
11 剣先
20 柄
21 柄頭
30 芯材
40 外装材
42 表皮
50 鍔止め一体鍔
100 模擬木刀

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状の金属により形成された芯材と、前記芯材を覆う、木刀を模した外形を有する衝撃吸収素材により形成された外装材と、を備えたことを特徴とする模擬木刀。
【請求項2】
前記芯材の長手方向両端部をそれぞれ覆う、前記外装材よりも硬く、かつ前記芯材よりも軟らかい材質のキャップを備えたことを特徴とする請求項1に記載の模擬木刀。
【請求項3】
前記芯材は、ゴルフクラブのシャフトに用いられている中空円筒状の軽量弾力性鋼材であることを特徴とする請求項1または2に記載の模擬木刀。
【請求項4】
前記芯材は、少なくとも一部に、前記芯材の周回りの回り止めとなる形状が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の模擬木刀。
【請求項5】
前記外装材の外表面を覆う表皮が形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の模擬木刀。
【請求項6】
円筒状の鍔止めと前記鍔止めの端部に形成された円板状の鍔とからなる、衝撃吸収素材により形成された鍔止め一体鍔をさらに備えたことを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載の模擬木刀。
【請求項7】
中空筒状の金属により形成された芯材の両端にそれぞれ、前記芯材を支持する支持治具を取り付け、
木刀を模した外形の面に対応する面を有する型の内部で前記芯材を宙吊り状態とするように、前記両端に取り付けられた支持支具により前記芯材を前記型に支持させ、
前記型の内部に衝撃吸収素材を射出することにより、前記芯材を、木刀を模した外形を有する前記衝撃吸収素材により形成された外装材で覆った模擬木刀を製造することを特徴とする模擬木刀の製造方法。
【請求項8】
前記支持治具は、その長さ方向の所定位置に目印となる特異部分が形成された棒状の部材であり、
前記芯材の両端から前記棒状の部材を、前記特異部分まで挿入し、
前記棒状の部材のうち、前記芯材の両端から突出した側の部分と、前記型に形成された所定の部分とを位置合わせして、前記芯材を前記型に支持させることにより、前記模擬木刀の長さ方向における前記外装材に対する前記芯材の位置を一定位置に保つことを特徴とする請求項7に記載の模擬木刀の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−224079(P2011−224079A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95128(P2010−95128)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(510108179)
【出願人】(510108168)