説明

横射出ダイカスト用装置及びダイカスト法

【課題】プランジャチップの外周面とスリーブ孔の内周面との間のクリアランスに溶湯が差し込むことを防止することができる横射出ダイカスト用装置の提供。
【解決手段】横射出ダイカスト用装置1は、固定型3と、固定型3と共にキャビティ7を画成する可動型4とを備えている。また、固定型3に嵌合された金型スリーブ9と、金型スリーブ9に接続された鋳造機側スリーブ11と、鋳造機側スリーブ11内と金型スリーブ9内を水平方向に前進して溶湯をキャビティ7に向けて射出するプランジャチップ12とを備えている。金型スリーブ9はスリーブ孔9Bを有し、スリーブ孔9Bの後端部9B1の径D2は鋳造機側スリーブ11の内径D1よりも大きく形成され、プランジャチップ12の最前進位置におけるスリーブ孔9Bの径D3はスリーブ孔9Bの後端部9B1の径D2よりも小さく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横射出ダイカスト用装置及び該装置を用いるダイカスト法に関し、特に、スリーブ内においてプランジャチップを水平方向に移動させ、金型のキャビティに向けて溶湯を横方向に射出する横射出ダイカスト装置及び該装置を用いるダイカスト法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造機側スリーブの前端を固定型に嵌合された金型スリーブに接続し、スリーブ内に供給された溶湯をプランジャチップにより固定型と可動型で画成されたキャビティに充填するようにした横射出ダイカスト用装置は、下記特許文献1により公知である。
【0003】
こうした従来の横射出ダイカスト用装置においては、鋳造機側スリーブの前端を固定型に嵌合されている金型スリーブに接続した際に、鋳造機側スリーブ内孔の軸心と金型スリーブ内孔の軸心が一致せず、鋳造機側スリーブと金型スリーブの接続部分に0.05〜0.3mm程度の段差が生じてしまうことから、プランジャチップの外径はこの段差を考慮した分だけ小さくしておく必要がある。その結果、プランジャチップの外周面と金型スリーブ内孔の内周面との間のクリアランスは該段差を考慮した分だけ大きくなっていた。
【0004】
近年、ダイカスト法では充填時間を短縮し、溶湯の温度低下を最小にして製品の品質を向上させることが行われているが、射出速度を上げると射出完了時の衝撃でサージ圧が発生するので、プランジャチップの外周面と金型スリーブ内孔の内周面との間のクリアランスに溶湯が差し込んでしまう場合がある。差し込んだ溶湯は凝固層(バリ)となるので、プランジャチップを後退させる際にこの凝固層でプランジャチップがかじるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−351054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえに本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされ、その目的とするところは、プランジャチップの外周面とスリーブ孔の内周面との間のクリアランスに溶湯が差し込むことを防止することができる横射出ダイカスト用装置及び当該装置を用いて行うダイカスト法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、本発明に係る横射出ダイカスト用装置1は、固定型3と、該固定型3と共にキャビティ7を画成する可動型4と、該固定型3に嵌合された金型スリーブ9と、該金型スリーブ9に接続された鋳造機側スリーブ11と、該鋳造機側スリーブ11内と該金型スリーブ9内を水平方向に前進して溶湯を該キャビティ7に向けて射出するプランジャチップ12とを備えた横射出ダイカスト用装置1において、該金型スリーブ9はスリーブ孔9Bを有し、該スリーブ孔9Bの後端部9B1の径D2は該鋳造機側スリーブ11の内径D1よりも大きく形成され、該プランジャチップ12の最前進位置における該スリーブ孔9Bの径D3は該スリーブ孔9Bの後端部9B1の径D2よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0008】
ここで、該プランジャチップ12の後端には面取り部12Aが設けられていることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るダイカスト法は、上記の横射出ダイカスト用装置1を用いてダイカストを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の横射出ダイカスト用装置及びダイカスト法は、プランジャチップの外周面とスリーブ孔の内周面との間のクリアランスに溶湯が差し込むことを防止することができる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における横射出ダイカスト用装置の要部を示す断面図。
【図2】同実施形態における横射出ダイカスト用装置の金型スリーブ周辺の拡大断面図。
【図3】同実施形態における横射出ダイカスト用装置に用いられるプランジャチップの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る横射出ダイカスト用装置1について図1乃至図3に基づき説明する。図1に示されるように、横射出ダイカスト用装置1は、固定型3と可動型4からなるダイカスト金型2を備えている。また、横射出ダイカスト用装置1は、固定型3を支持する固定プラテン5と、可動型4を支持する可動プラテン6を備えている。可動型4と可動プラテン6は矢印A←→A´で示される可動型4の移動方向(ダイカスト金型1の型開き方向)に移動可能に構成されている。図1に示す型閉め状態においては、固定型3と可動型4によりキャビティ7とランナー8が画成される。
【0013】
固定型3にはスリーブ挿入孔3Aが形成されており、このスリーブ挿入孔3Aには金型スリーブ9が嵌合されている。固定プラテン5にはブッシュ10が嵌合され、このブッシュ10には鋳造機側スリーブ11が嵌合されている。金型スリーブ9は嵌合孔9Aとスリーブ孔9Bを有しており、嵌合孔9A内に鋳造機側スリーブ11の前端が嵌合されることにより、鋳造機側スリーブ11と金型スリーブ9とが接続されている。鋳造機側スリーブ11内にはプランジャチップ12が配設されている。プランジチップ12はプランジャロッド13を介して図示せぬ射出シリンダ機構に接続され、鋳造機側スリーブ11内と金型スリーブ9内を水平方向に移動可能に構成されている。プランジャチップ12は、図示せぬ給湯孔から鋳造機スリーブ11内に供給されたアルミニウム合金等の溶湯をキャビティ7に向けて射出する。溶湯は金型スリーブ9のスリーブ孔9Bとランナー8を通ってキャビティ7に充填されることになる。
【0014】
図2に示すように、スリーブ孔9Bの後端部9B1の径D2(例えばφ140.3mm)は鋳造機側スリーブ11の内径D1(例えばφ140.05mm)よりも大きく形成されており、鋳造機側スリーブ11と金型スリーブ9の内孔芯が多少ずれた場合であってもプランジャチップ12を円滑に前進させることが可能になっている。スリーブ孔9Bは後端部9B1の前方にテーパ部9B2を備えており、スリーブ孔9Bの径は図2にXで示す位置から前方に向かって徐々に縮径している。そしてYで示す位置において径D3(例えばφ140.02mm)に至り、この径D3が金型スリーブ9の前端まで連続している。プランジャチップ7で溶湯をキャビティ7に向けて射出する場合、プランジャチップ12は鋳造機側スリーブ11内から金型スリーブ9内(後端部9B1内)へと進入する。そして、プランジャチップ12はテーパ部9B2に案内されてその全体が前端部9B3内に進入する。プランジャチップ12が最前進位置に至って溶湯の射出が完了すると、射出完了時の衝撃でサージ圧が発生して溶湯がプランジャチップ12の外周面と前端部9B3の内周面との間に差し込もうとするが、プランジャチップ12の先端の外周面と前端部9B3の内周面との間のクリアランスは0.2mm以下に設定されているので、溶湯の差込を防止することができる。
【0015】
図3に示すように、円筒状のプランジャチップ12の後端には面取りが施され、面取り部12Aが設けられている。金型スリーブ9内から鋳造機側スリーブ11内にプランジャチップ12を後退させる際、プランジャチップ12の後端が鋳造機側スリーブ11の前端に干渉することになるが、プランジャチップ12の後端に面取り部12Aを設けておくことにより、プランジャチップ12を鋳造機スリーブ11内に円滑に後退させることができる。
【0016】
次に、横射出ダイカスト装置1を用いたダイカスト法について説明する。ダイカスト法においては、先ず、可動型4を固定型3に対して移動させて型締めを行い、固定型3と可動型4によりキャビティ7を画成する。次に、図示せぬ給湯孔から鋳造機側スリーブ11内に溶湯を供給する。次に、図示せぬ射出シリンダ機構によりプランジャチップ12を前進させて溶湯をキャビティ7に向けて射出する。次に、可動型4を移動させて型開きを行い、ダイカスト品を図示せぬ押出しピンにより可動型4から押出してダイカスト品の取り出しを行う。そして、射出シリンダ機構によりプランジャチップ12を鋳造機スリーブ11内に後退させる。以上がダイカスト法である。
【0017】
横射出ダイカスト装置1を用いたダイカスト法によれば、プランジャチップ12が金型スリーブ9内の最前進位置に至って溶湯の射出が完了すると、射出完了時の衝撃でサージ圧が発生して溶湯がプランジャチップ12の外周面とスリーブ孔9Bの内周面との間に差し込もうとするが、プランジャチップ12の最前進位置においてはプランジャチップ12の外周面とスリーブ孔9Bの内周面との間のクリアランスが小さく設定されているので、溶湯が差し込むことが防止される。また、プランジャチップ12の後端には面取り部12Aが設けられているので、プランジャチップ12を円滑に後退させることができる。従って、プランジャチップ12のかじりを防止して円滑にダイカスト法を繰り返すことができる。
【0018】
本発明による横射出ダイカスト用装置及びダイカスト法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上述した実施形態においては、プランジャチップ12が最前進位置に至った際にはプランジャチップ12の全体がスリーブ孔9Bの前端部9B3内に進入していたが、プランジャチップ12が最前進位置に至った際に少なくともプランジャチップ12の先端が、後端部9B1の径よりも径が小さくされている部分(径D3の部分)に進入するように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0019】
1 横射出ダイカスト用装置
2 ダイカスト金型
3 固定型
3A スリーブ挿入孔
4 可動型
5 固定プラテン
6 可動プラテン
7 キャビティ
8 ランナー
9 金型スリーブ
9A 嵌合孔
9B スリーブ孔
9B1 後端部
9B2 テーパ部
9B3 前端部
10 ブッシュ
11 鋳造機側スリーブ
12 プランジャチップ
12A 面取り部
13 プランジャロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、該固定型と共にキャビティを画成する可動型と、該固定型に嵌合された金型スリーブと、該金型スリーブに接続された鋳造機側スリーブと、該鋳造機側スリーブ内と該金型スリーブ内を水平方向に前進して溶湯を該キャビティに充填するプランジャチップとを備えた横射出ダイカスト用装置において、該金型スリーブはスリーブ孔を有し、該スリーブ孔の後端部の径は該鋳造機側スリーブの内径よりも大きく形成され、該プランジャチップの最前進位置における該スリーブ孔の径は該スリーブ孔の後端部の径よりも小さく形成されていることを特徴とする横射出ダイカスト用装置。
【請求項2】
該プランジャチップの後端には面取り部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の横射出ダイカスト用装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の横射出ダイカスト用装置を用いてダイカストを行うことを特徴とするダイカスト法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−143770(P2012−143770A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2665(P2011−2665)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)