説明

樹木の移植工法

【課題】樹木を大型運搬機械を使用せずに安全に移植する方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹木の移植工法は、樹木の根部を所定の径と所定の高さに裁断して根鉢を形成する工程と、前記根鉢に縄掛けして根巻きを行う工程と、樹木の幹の基部に、下部に転動車16を備えた支持枠10を取り付ける工程と、樹木の移植位置に至る前記根鉢の径より大きい横幅と深さを有する移送通路を形成する工程と、根鉢を懸垂した状態で前記樹木を支持した支持枠を移設位置に移動する工程、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木の移植工法に関し、特に大木を安全に移設することを可能とする樹木移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
庭園や公園などに植えられている樹木を種々の理由により移植する必要が出てくる場合がある。移植の対象となる樹木が細径で、背丈が低い場合は、特に移植に伴う問題が生じることはない。しかしながら、移植しようとする樹木が老木などの大木である場合、多くの困難に遭遇する。例えば、対象とされる樹木がある敷地内に至る通路が狭い場合、あるいはそこに至る通路に存在する橋梁の重量制限があるために大型のクレーンなどの運搬機械を持ち込めない場合があり、これらの運搬機械が使用できない場合ある。
【0003】
また、移設する地点に至る通路が狭く、樹木を倒して運搬できない場合、「立曳き」と称して、樹木を立てた状態で移動させる手法がある。通常、樹木の移植は、先ず、準備段階として、根の部分を荒縄などを巻き付ける「根巻き」を行うが、この立曳きの手法は、この根巻きされた状態の根の下側にローラやコロを有する台車を介在させ、これをワイヤーやウインチ等を利用して移動させるものである。しかしながら、この従来から行われている「立曳き」の手法は、大型の運搬機械を必ずしも使用でないで樹木を移動させることが可能であるが、樹木を立てたまま移動させるものであるため、樹木がきわめて不安定であり、突風などにより倒れる危険が常につきまとい、移動はきわめて慎重に行わなければならない。また、豊富な経験と多くの人手で要するばかりでなく、多くの移動時間を費やすという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、大型の運搬機械を必要とせずに安定して、したがって安全に樹木を立てた状態で移動させることができ、かつ、多くの人手を要することもなく迅速に樹木の移動を可能とする樹木移植工法を提供することを目的するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹木の移植工法は、
樹木の根部を所定の径と所定の高さに裁断して根鉢を形成する工程、
前記根鉢に縄掛けして根巻きを行う工程、
樹木の幹の基部に、下部に転動車を備えた支持枠を取り付ける工程、
樹木の移植位置に至る前記根鉢の径より大きい横幅と深さを有する移送通路を形成する工程、
根鉢を懸垂した状態で前記樹木を支持した支持枠を移設位置に移動する工程、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の移植工法によれば、大木であっても、クレーンや大型運搬機械を必要とせずに安全に且つ少ない人手で移植することが可能となる。また、根鉢を高い位置の支点として懸垂するようにしているため、重心を低くした状態で安定して移動でき、倒れる危険を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の具体的実施形態を図面を参照して説明する。
【0008】
図1は、本発明の移植工法を説明するための図であり、図2は図1のA-Aから視た図であり、図3は樹木を移動させる場合の一例を示す図である。
【0009】
先ず、図1及び図2を参照して、本発明による移設工法の準備段階について説明する。
【0010】
Wは移植の対象となる大木である樹木を示し、樹木Wは大径の幹Tと根rを有している。
【0011】
樹木を移植は、先ず、根rの周囲を掘削してから、根rを所定の径と所定高さのサイズに裁断して根鉢Rを形成することから始まる。この根鉢Rは更に、荒縄、こもなどを巻き付けるいわゆる「根巻き」が施される。通常は、この根巻きした状態で、場合によってはクレーンや運搬機械を使用して、立てた状態で、或いは横に寝かせた状態で行う。なお、枝も適宜剪定して減らしておく。
【0012】
本発明の移植工法は、根巻きを施した樹木を立てた状態で移植するものであるが、一つの特徴として、幹の最下部である基部Tbに支持枠10を取り付ける。即ち、この支持枠は地表面レベルSの位置に取り付けられる。
【0013】
支持枠10は、図2に示すように、2本の互いに平行な移動方向(矢印ア)に対して直交する方向の横梁10a,10aと、移動方向に対して平行な互いに平行の2本の縦梁10b,10bを井桁状に組んで形成している。支持枠10は、更にその中央部、即ち、樹木Wの幹の基部Tbを囲むようにして副枠体11が取り付けられている。副枠体11は所定の高さに配設された4辺の梁からなる正方形枠体11aと4本の支柱11bと、前記支持枠10の横梁10aに直交して取り付けた2本の平行な副縦梁11cから成り、これらを櫓状に組んで支持枠10に固定される。そして、支持枠10及び副枠11と幹Tとは、ベルトなどの適宜の連結部材12を使用して連結する(図2参照)。
【0014】
また、支持枠10の横梁10aの中央部及び副枠体11の適宜の位置にワイヤー13aやベルト13bから成る根鉢保持部材13を取り付け、これにより根鉢Rを懸垂保持するようにしている。
【0015】
また、幹Tの基部Tbから所定の高さhの位置にリング部材14を取り付け、このリング部材14と支持枠10の縦梁10bのそれぞれの両端とをそれぞれワイヤー15により連結する。これにより、樹木Wは支持枠10に対して起立した状態で安定して保持されることとなる。
【0016】
支持枠10の縦梁10bの下側には支持枠10を移送するためのローラ16等の転動車が少なくとも両端近傍に2個所ずつ取り付けられている。
【0017】
以上のように、根巻きされた根鉢Rは、連結部材12,根鉢保持部材13,副枠11により支持枠10に懸垂保持される状態となり、これにより樹木Wは支持枠10に保持され、起立状態はワイヤー15によって安定的に保たれることとなる。なお、移動の際には根鉢Rは支持枠10に懸垂された状態、すなわち、根鉢の下面と地面とは離れた状態で移動が行われるため、移動前においては、根鉢の底部と地面とは所定の間隙dを確保する。
【0018】
移植位置までの移動は、樹木Wを支持枠10に支持した状態で、支持枠10を、ローラ16を利用して移動させる。なお、ローラが通る通路部分には、予め鉄板などを敷設しておくことが望ましい。
【0019】
また、根鉢Rは地表面Sより下方に位置するため、元の位置から移植先の位置への移動通路は根鉢Rが通過できる程度の幅Lと深さHの溝Gを形成しておく必要がある。
【0020】
図3は、支持枠10に支持した樹木を移動する一形態を示しており、ここではジャッキ17を使用して矢印(ア)の方向への移動させている。なお、支持枠の移動は支持枠に取り付けたローラを介して行うため、多大な動力を必要とせず、ウインチや利用可能な動力車を利用して牽引するようにしてもよい。
【0021】
所定の移植位置に移動した後は、樹木より支持枠10,副枠体11、根鉢保持部材13、ワイヤー15等を全て取り外し、移設が完了する。
【実施例】
【0022】
以下は、本発明の移植方法を適用した一具体例である。
【0023】
対象樹木:杉 高さ(地表Sより12m)
幹の最大直径:0.8m
根鉢直径:3m
根鉢高さ:1.3m
樹木総重量:31t
幹、枝部:5t
根鉢: 26t
移動通路(溝G)
幅L:6m
深さH:1.5m
支持枠
横梁:0.35m×7m
縦梁:0.35m×4m
上述のように、本発明による移植工法は、樹木の根鉢を支持枠により懸垂するようにした状態で樹木全体を支持し、支持枠のローラなどの転動車を利用して移動させるようにしたものであるが、その準備段階として、根鉢の形成、根巻き、支持枠の取り付け、移動通路の掘削などの段階を有するが、これらの準備段階の工程の順序は特に、一定の順序で行われる必要はなく、適宜、各工程を同時に進行させることができることは明らかであろう。
【0024】
本発明の移植工法によれば、大型の運搬機械が使用できない場合においても、大木の移植を短時間で行うことができる。また、樹木全体を支持する支持枠よりも根鉢が下方に位置しているため、全体の重心が支持枠より下方に位置するため、また、支点を高くして根鉢を懸垂する状態としているため、安定した起立状態を保つことができる。更に、幹の上方をワイヤーや櫓等で支えているため、きわめて安定して樹木を起立状態で移動することができ、安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の移植工法を説明するための図である。
【図2】図1のA-Aから視た図である。
【図3】樹木を移動させる場合の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
10 支持枠
11 副枠体
12 連結部材
13 根鉢保持部材
15 ワイヤー
16 転動車
17 ジャッキ
W 樹木
T 幹
G 移動通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の根部を所定の径と所定の高さに裁断して根鉢を形成する工程、
前記根鉢に縄掛けして根巻きを行う工程、
樹木の幹の基部に、下部に転動車を備えた支持枠を取り付ける工程、
樹木の移植位置に至る前記根鉢の径より大きい横幅と深さを有する移送通路を形成する工程、
根鉢を懸垂した状態で前記樹木を支持した支持枠を移設位置に移動する工程、
を有することを特徴とする樹木の移植工法。
【請求項2】
前記支持枠は前記移動通路の横幅より大きい横梁を少なくとも2本備える請求項1に記載の移植工法。
【請求項3】
前記支持枠は前記幹を囲む所定の高さの副枠体を更に有し、前記根鉢を前記副枠体の上部より懸垂して支持する請求項1に記載の移植工法。
【請求項4】
前記基部より所定の高さの上方位置において幹部と前記支持枠の外方端部位置とを連結部材により連結する工程を含む請求項1に記載の移植工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−284841(P2009−284841A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142369(P2008−142369)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(503108702)株式会社アティ (1)
【Fターム(参考)】