説明

樹脂コートキャリアの製造方法、樹脂コートキャリアの製造装置

【課題】混合槽上方に舞い上がった樹脂粒子も芯材粒子表面に確実に付着させられる様にすることにより、混合槽への樹脂粒子供給量を低減させて、残留樹脂粒子の発生をなくす様にした樹脂コートキャリアの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、混合槽上方に設けられた磁界形成手段を作動させて混合槽内に磁界を形成した状態の下で芯材粒子と樹脂粒子の撹拌を行って芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程を有する樹脂コートキャリアの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に使用されるキャリアの製造方法に関し、磁性粒子の芯材表面を樹脂で被覆した構造の樹脂コートキャリアを作製するキャリアの製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成に使用される二成分系現像剤を構成するキャリアは、芯材(コア)と呼ばれる磁性粒子より構成され、芯材をそのままキャリアに用いる形態の他、芯材表面を熱可塑性樹脂で被覆した構造の樹脂コートキャリアと呼ばれる形態がある。樹脂コートキャリアは、芯材表面が樹脂で被覆されているので耐久性や摩擦帯電性等の性能面において優れたキャリアとして位置付けられている。
【0003】
この様な樹脂コートキャリアの製造方法には、流動層式スプレーコーティング法や浸漬式コーティング法等の樹脂溶液を芯材粒子表面に塗布して樹脂を被覆するいわゆる湿式の製造方法が当初採られていた。しかしながら、湿式の製造方法では、有機溶媒を使用することや設備面で防曝仕様が必要になり建設費がかさむこと、生産面で溶解工程、脱溶剤工程、回収溶剤を再利用するための精製工程が必要になる等の課題があった。特に、脱溶剤工程ではキャリアが溶着するため、コーティング後にふるいに残ったキャリア凝集物を廃棄しなくてはならず、原材料収率を向上させることが困難なものであった。この様な観点から、有機溶媒を使用せずに樹脂の被覆が行える乾式法による樹脂コートキャリアの製造方法が注目される様になった(たとえば、特許文献1、2参照)。
【0004】
乾式法による樹脂コートキャリアの製造方法では、芯材上に樹脂粒子を静電付着させた後、さらに衝撃力等を付与して樹脂粒子を固着させる操作が行われているが、キャリアの耐久性や帯電付与性能を向上させるには樹脂層をある程度厚くする必要があった。この課題を解消する乾式の製造方法として、たとえば、芯材と樹脂粒子を混合、撹拌する混合槽内に回転羽根を設け、芯材と樹脂粒子をかきあげながら芯材表面に樹脂を付着させる技術が確立された(たとえば、特許文献3参照)。この技術では、回転羽根の回転による強い撹拌作用で樹脂粒子を芯材粒子表面に付着させるので、多量の樹脂粒子を芯材表面に強制的に固着させることが可能になり、従来よりも厚めの樹脂層を形成することが可能になった。
【0005】
また、芯材粒子がもつ磁性を利用することに着目して磁石を用いたロータリキルン型の加熱容器で構成されるキャリア製造装置による樹脂コートキャリアの製造方法も提案されている(たとえば、特許文献4参照)。この方法で使用される装置は、芯材粒子表面に樹脂を付着させたキャリア被覆粒子が供給されるロータリキルンという回転式の加熱容器に付与する磁力を変化させられる様に磁石が配置されている。
【0006】
そして、容器を加熱して芯材表面の樹脂を溶融させるとともに回転によりキャリア被覆粒子を撹拌する。このとき、強い磁力を付与して容器底部で撹拌されているキャリア被覆粒子の一部が容器壁面に沿って上方に移動し、上方に移動してきたキャリア被覆粒子は磁力の解除により容器底部に自然落下させる様になっている。この様に、芯材表面に付着させた樹脂が溶融状態のときに磁力を用いてキャリア被覆粒子を鉛直方向に移動、落下させることにより、溶着ビードの発生やキャリア粒子同士の凝集を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−118047号公報
【特許文献2】特開昭63−235962号公報
【特許文献3】特許第2702195号公報
【特許文献4】特開平5−188649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ロータリキルン型の装置では、キャリア表面に与えられる機械的衝撃力が不十分なため、樹脂を充分溶融させる必要があるが、コーティング中にキャリアが融着して解砕不能な凝集体を形成することがある。したがって、湿式法に比べるとはるかに少量であるが、コーティング後のふるいにキャリア凝集物が残存するため、生産性はそれほど高いものではなかった。
【0009】
また、前述の特許文献3の技術でも採用されている芯材粒子表面に樹脂粒子を静電付着する工程では、回転羽根により芯材粒子と樹脂粒子を撹拌すると、かき上げられた樹脂粒子が芯材粒子よりも混合槽上方に高く舞い上がる傾向を示した。これは、樹脂粒子の比重が芯材粒子の比重よりも小さく、撹拌力を受けると樹脂粒子の方が芯材粒子よりも移動し易いためであった。この様に、撹拌作用を受けたときに樹脂粒子と芯材粒子の間で移動距離に差が生ずると、芯材粒子表面に付着できず混合槽上方に残留する樹脂粒子が発生する。したがって、芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程では、混合槽上方に舞い上がって残留する分を加味し、樹脂粒子を多めに供給する必要があった。
【0010】
芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程の後、混合槽を加熱して樹脂粒子を芯材表面に固着させる。このとき、静電付着に関与せずに残留した樹脂粒子は、加熱により軟化して混合槽上方へ付着し易くなる。また、残留した樹脂粒子同士が凝集して形成した凝集物が混合槽壁に付着することもある。この様に、混合槽は残留樹脂粒子の付着物を除去するための清掃作業を頻繁に行う必要があった。
【0011】
この様に、従来技術におかれては、芯材と樹脂粒子を混合、撹拌する混合槽内に樹脂粒子を多めに供給しなければならなかった。混合槽内に供給した全ての樹脂粒子が芯材粒子表面に付着して樹脂粒子を残さずにキャリアの生産が行える様になれば、樹脂粒子の無駄な供給がなくなり生産性を向上するものと期待されていた。また、混合槽内に付着した樹脂粒子凝集物を除去する作業を行う機会も低減できる様になり、清掃による装置の停止時間が短縮化されて生産性をさらに向上するものと期待されていた。
【0012】
本発明は、混合槽上方に舞い上がった樹脂粒子も芯材粒子表面に確実に付着させることができる様にすることにより、生産性の向上を実現させる樹脂コートキャリアの製造方法を提供することを目的とするものである。具体的には、供給した樹脂粒子を残留させることなく無駄なく芯材粒子表面に静電付着させることにより、キャリア製造時における樹脂粒子の供給量を低減させて生産性を向上させる樹脂コートキャリアの製造方法を提供することを目的とする。また、芯材粒子に付着しなかった樹脂粒子凝集体からなる異物や樹脂片(残留樹脂粒子)が混合槽の壁に付着する機会を減らし、清掃による装置の停止時間を短縮して生産性向上を可能にする樹脂コートキャリアの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、芯材粒子表面に樹脂粒子を静電付着させる段階で、比重の大きな芯材粒子も樹脂粒子の様に混合槽上方に移動させることができれば、舞い上がった樹脂粒子を芯材粒子表面に静電引力等の作用で付着させることができると考えた。そして、芯材粒子を混合槽上方に移動させるための手段をキャリア製造装置に設けることを検討して本発明を見出した。すなわち、請求項1に記載の発明は、
『少なくとも、混合槽の内部に収容された撹拌手段により前記混合槽の内部に投入された芯材粒子と樹脂粒子を撹拌し、前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させる工程を有する樹脂コートキャリアの製造方法であって、
前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させる工程は、
室温下で、前記混合槽の上方に設けられた磁界形成手段を作動させ、前記混合槽の内部に磁界を形成した状態の下で前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させることを特徴とする樹脂コートキャリアの製造方法。』というものである。
【0014】
上記構成中の「室温下」とは「混合槽内部を加熱していない状態にしておくこと」を意味するもので、混合槽内部と外部の間に大幅な温度差が生じていない状態を表すものである。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
『前記磁界形成手段の作動を断続的に行って、磁界形成と磁界形成の解除を繰り返し行う状態の下で前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させることを特徴とする請求項1に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。』というものである。
【0016】
請求項3に記載の発明は、
『前記磁界形成手段を作動させておき、該磁界形成手段により形成される磁界の強度を変化させながらの状態の下で前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。』というものである。
【0017】
請求項4に記載の発明は、
『前記磁界形成手段が、少なくとも電磁石を有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。』というものである。
【0018】
請求項5に記載の発明は、
『前記磁界形成手段が、少なくとも永久磁石を有するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。』というものである。
【0019】
請求項6に記載の発明は、
『少なくとも、前記混合槽の内部を前記樹脂粒子のガラス転移温度以上に加熱するとともに前記撹拌手段を作動させ、前記樹脂粒子を前記芯材粒子表面に延展、被覆させて樹脂コート層を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。』というものである。
【0020】
請求項7に記載の発明は、
『少なくとも、
芯材粒子と樹脂粒子が供給される混合槽と、
前記混合槽の内部に設けられ、前記芯材粒子と前記樹脂粒子を撹拌する撹拌手段と、
前記混合槽の内部上方に磁界を形成する磁界形成手段と、
少なくとも前記磁界形成手段の作動を制御する制御手段と、を有する樹脂コートキャリアの製造装置であって、
前記制御手段は、少なくとも、前記撹拌手段が前記芯材粒子と前記樹脂粒子を撹拌しているときに前記混合槽の内部上方に磁界を形成する様に前記磁界形成手段の作動を制御するものであることを特徴とする樹脂コートキャリアの製造装置。』というものである。
【0021】
請求項8に記載の発明は、
『前記制御手段は、前記磁界形成手段を断続的に作動する様に前記制御を行うものであることを特徴とする請求項7に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。』というものである。
【0022】
請求項9に記載の発明は、
『前記制御手段は、前記磁界形成手段を作動させておき、該磁界形成手段が形成する磁界の強度を変化させる様に前記制御を行うものであることを特徴とする請求項7または8に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。』というものである。
【0023】
請求項10に記載の発明は、
『前記磁界形成手段が、少なくとも電磁石を有するものであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。』というものである。
【0024】
請求項11に記載の発明は、
『前記磁界形成手段が、少なくとも永久磁石を有するものであることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。』というものである。
【0025】
請求項12に記載の発明は、
『前記樹脂コートキャリアの製造装置は、前記混合槽内の温度を前記樹脂粒子のガラス転移温度よりも高い温度にする加熱手段を有するものであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。』というものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、芯材粒子表面に樹脂粒子を静電付着させる際、混合槽上方に磁界を形成し、これにより生ずる磁力の作用で芯材粒子を混合槽上方に移動させる様にした。この様に芯材粒子を混合槽上方へ移動させることにより、回転羽根の撹拌により混合槽上方に舞い上がった樹脂粒子も芯材粒子表面に付着させることができる様になった。
【0027】
したがって、芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる際、舞い上がり分を加味して樹脂粒子を多めに供給する必要がなくなり、芯材粒子表面への付着に使用されなかった樹脂粒子に起因する問題が解消される様になった。
【0028】
すなわち、芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程で樹脂粒子を多めに供給する必要がなくなり、従来技術に比べて樹脂粒子の供給量を少なくすることを可能にした生産性の高い樹脂コートキャリアの製造方法の提供を可能にした。また、芯材粒子表面への付着に使用されずに残留する樹脂粒子が大幅に低減し、残留樹脂粒子やこれら凝集物の混合槽内への付着が解消されて、装置の清掃に伴う停止時間を短縮化したことによる高い生産性の樹脂コートキャリア製造方法の提供を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】磁界形成手段を有するキャリア製造装置の概略図である。
【図2】時間軸に対して磁界の強度をプロットして形成されるグラフである。
【図3】電磁石を有する磁界形成手段を有するキャリア製造装置の概略図である。
【図4】永久磁石を有する磁界形成手段を有するキャリア製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、電子写真方式の画像形成に使用される樹脂コートキャリアの製造方法に関し、室温下で芯材粒子表面に樹脂粒子を付着する際、磁力の作用により芯材粒子の鉛直方向に移動させて当該芯材粒子表面への樹脂粒子の付着を促進させる様にしたものである。
【0031】
本発明者は、樹脂コートキャリアを作製する際、混合槽内に供給した芯材粒子と樹脂粒子を撹拌羽根で撹拌するときに、両粒子の間に比重差が存在することに着目した。すなわち、比重の小さな樹脂粒子は回転羽根の撹拌により混合槽上部に向かって移動し易いものであるのに対し、比重の大きな芯材粒子は撹拌を受けてもあまり移動せず樹脂粒子の様に混合槽上部に移動しにくいものであった。
【0032】
芯材粒子と樹脂粒子の間に比重差があると、静電付着を行う際、混合槽上部に舞い上がった樹脂粒子は芯材粒子表面に静電付着する機会を逃す一方、芯材粒子が多く存在する混合槽下部では樹脂粒子が不足して静電付着を行うのに支障をきたした。つまり、混合槽の上部と下部との間で芯材粒子表面への樹脂粒子の付着にバラツキが生じることになり、混合槽内で樹脂層を均一に付着させることが困難になっていた。したがって、従来技術では、芯材粒子表面を樹脂粒子で十分に被覆するために樹脂粒子を多めに供給していたが、舞い上がり等により芯材粒子表面への静電付着に関与しなかった残留樹脂粒子が多く発生し、次の固着工程で加熱により樹脂粒子同士が凝集を起こしていた。
【0033】
本発明者は、比重の大きな芯材粒子も樹脂粒子の様に移動し易くして混合槽内に均一分散できる様にすれば、上方に舞い上がった樹脂粒子の芯材粒子表面への静電付着の機会も増やせるものと考えた。そして、芯材粒子のもつ磁性に着目し、静電付着を行うときに混合槽上部に磁界を形成して磁力の作用で芯材粒子を混合槽上部まで移動できる様にしようと考え、検討を重ねて本発明を見出したのである。この様に、本発明では芯材粒子表面に樹脂粒子を静電付着する際、磁力の作用で芯材粒子を移動させ易くすることにより、混合槽上部での静電付着を促進できる様にしたのである。樹脂コートキャリア製造時に磁力を利用する技術としては、前述の特許文献4があるが、芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させた粒子に磁力を付与するものであり、芯材粒子表面に樹脂粒子を静電付着するときに磁力を利用することを示唆するものではなかった。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
本発明に係る樹脂コートキャリアの製造方法(以下、簡単にキャリアの製造方法ともいう)は、少なくとも、芯材粒子と樹脂粒子が供給される混合槽内部に回転羽根に代表される撹拌手段が設けられた装置を用いて行うものである。また、本発明に係るキャリアの製造方法は、少なくとも、芯材粒子と樹脂粒子を撹拌して芯材粒子表面に樹脂粒子を静電的に付着させる工程と、樹脂粒子が静電付着した芯材粒子にストレスを加えて芯材粒子表面に樹脂粒子を固着させる工程を有するものでもある。
【0036】
本発明に係る樹脂コートキャリアの製造方法は、たとえば、図1に示す磁界形成手段を有するキャリア製造装置により実現が可能である。図1に示すキャリア製造装置1は、本発明でいう混合槽に該当する容器本体10を有し、容器本体10の周面は、ほぼ3/4の高さまで本発明でいう加熱手段である調温用ジャケット17で覆われ、さらに、その上方に磁界形成手段30が配置されている。容器本体10の底部(容器底部ともいう)10aには、本発明でいう撹拌手段に該当する回転羽根18、作製した樹脂コートキャリアを取り出す製品取出口20を有し、製品取出口20には排出弁21が配置されている。容器本体10の上面には本体上蓋11が設けられ、本体上蓋11には投入弁13が設置された原料投入口12、フィルタ14、点検口15が設けられ、フィルタ14と容器上蓋11の間には排出弁24が配置され、フィルタ14の先に容器内排出口が設けられている。
【0037】
樹脂コートキャリアを作製する際の原料である芯材粒子と樹脂粒子は、上記原料投入口12より容器本体10内部に供給される。なお、樹脂コートキャリア作製を実際に行う容器本体10内部をチャンバーといい、チャンバーの温度を測定する温度計16が容器本体10の周面に配置されている。
【0038】
前述の回転羽根18は、駆動手段であるモータ22により回転し、芯材粒子と樹脂粒子を撹拌するもので、回転羽根18の中心部18dには互いに120°の角度間隔で撹拌羽根18a、18b及び18cが結合している。これら撹拌羽根は、底部10aの面に対して傾斜させて取り付けられており、撹拌羽根18a、18b及び18cを高速回転させると前述の芯材粒子や樹脂粒子といった原料は上方へ掻き上げられ、本体容器10の上部内壁に衝突して落下する。
【0039】
撹拌手段である回転羽根18を回転させるモータ22と容器本体周面に配置されている磁界形成手段30は、コンピュータに代表される制御手段40に接続し、制御手段40は記憶されているプログラムにより磁界形成手段30及びモータ22の作動を制御する。
【0040】
図1のキャリア製造装置1は、容器本体10の周面上方に電磁石等に代表される磁石30a、30b、30c、30dを少なくとも有する磁界形成手段30を配置しており、磁界形成手段30の作動により磁界を形成してチャンバーに磁力を作用させるものである。磁界形成手段30の作動方法としては、たとえば、磁界の形成と解除を断続的に行うものや、あるいは、磁界形成可能な状態にしておき磁界強度を変化させる方法等があり、この様に磁界形成で得られる磁力の作用で芯材粒子の鉛直方向への移動を促進させる。つまり、磁界形成手段30の作動により生ずる磁力で芯材粒子をチャンバー上方に移動させるとともに、磁界形成手段30の作動を解除して重力の作用で芯材粒子をチャンバー底部10aに自然落下させる操作を繰り返す。あるいは、磁界形成手段30を作動状態にしておき、磁界強度を上げて芯材粒子をチャンバー上方に移動させ、磁界強度を下げて磁力が重力よりも小さくなることで芯材粒子の落下が行える操作を繰り返す。この様な操作により、芯材粒子に磁力と重力の作用が付与され、芯材粒子の鉛直方向の移動が促進され、チャンバー上方に舞い上がった樹脂粒子も芯材粒子表面に付着する機会が増える様になる。
【0041】
図1のキャリア製造装置1は、前述した回転羽根18や磁界形成手段30等の作動を制御することで、たとえば、芯材粒子表面への樹脂粒子の静電付着を行う操作と、静電付着した樹脂粒子を芯材粒子表面に強く固着させる操作を段階的に行うことができる。すなわち、図1のキャリア製造装置は、少なくとも、下記工程を経て樹脂コートキャリアを作製することができる。
(1)芯材粒子と樹脂粒子を室温下で撹拌、混合して、静電気の作用で芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程
(2)樹脂粒子のガラス転移温度以上にチャンバーを加熱しながら機械的衝撃力を加え、心材粒子表面に樹脂粒子を延展、被覆させて樹脂コート層を形成する工程
(3)チャンバーを室温まで冷却する工程
上記(1)〜(3)の工程を少なくとも経ることにより、芯材粒子表面を樹脂でコートした構造の樹脂コートキャリアを作製することができる。また、上記(1)〜(3)の工程は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。このうち、上記(1)の工程は以下の様な手順で行われる。
【0042】
上記(1)の芯材粒子表面に樹脂粒子を静電的に付着させる工程は、粉体技術分野で一般に「オーダードミクスチャー(Ordered Mixture;OM)」と呼ばれる方法で、芯材粒子表面に樹脂粒子を静電引力等の作用により付着させるものである。芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程では、供給された樹脂粒子同士が撹拌により擦れ合い、この擦れ合いにより樹脂粒子は摩擦帯電し、摩擦帯電した樹脂粒子は静電引力の作用で芯材粒子表面に付着し易くなるものと考えられる。
【0043】
したがって、摩擦帯電した樹脂粒子近くに芯材粒子が存在すれば、樹脂粒子は芯材粒子表面に付着することになる。本発明では、磁力の作用により芯材粒子を混合槽上方に移動させることができるので、回転羽根の回転による撹拌作用で摩擦帯電していながら比重が小さいために上方に舞上がった樹脂粒子も芯材粒子表面への静電付着に寄与することができる。一方、従来技術の様に、摩擦帯電した樹脂粒子の近くに芯材粒子が存在しない状態では、樹脂粒子同士が付着して凝集物を形成し易くなるものと考えられる。
【0044】
また、この工程では、回転羽根18の回転により撹拌を行うが、撹拌により樹脂粒子や芯材粒子が衝突して発生する摩擦熱の作用で容器本体10内部の温度が上昇しない程度に撹拌を行うことが好ましい。また、容器本体10の周面ほぼ3/4の高さまで覆っている調温用ジャケット17に冷水を通過させた状態で撹拌を行うこともチャンバーの温度を室温に維持する上で好ましい。
【0045】
次に、本発明で実施可能な磁界形成手段による具体的な磁界形成方法について説明する。磁界形成手段30による磁界の形成方法としては、たとえば、磁界形成手段のスイッチのオン・オフを繰り返して磁界の形成と解除を断続的に行う方法や、磁界形成手段のスイッチをオンにした後、磁界の強度を変化させる方法等が挙げられる。図2は、時間軸に対して磁界の強度をプロットして形成されるグラフで、縦軸は磁界の強度B、横軸は時間tを表すものである。図2(a)は磁界の形成と解除を繰り返したときに形成される磁界の強度変化を示すもので、経時で一定強度の磁界形成と磁界の解除が交互に行われていることを示している。また、図2(b)は磁界形成手段のスイッチをオンにした後、磁界の強度を連続的に変化させていることを示している。
【0046】
図中、縦軸(磁界の強度B)に示すBsは磁界の最大強度を表し、芯材粒子の容器本体10上部への移動が十分可能な強度である。また、Bmは重力と同じ大きさの強度を表し、磁界の強度がBmよりも大きいときは芯材粒子は容器本体10上方に移動し易い状態におかれ、磁界の強度がBmよりも小さいときは芯材粒子は重力の作用で容器本体底部10aに移動し易い状態におかれる。さらに、図2(b)に示すBoはスイッチをオンにしたときに形成される磁界の強度である。
【0047】
図2(a)では、時刻t1、t3、t5で磁界形成手段30が作動して強度Bsの磁界が形成され、強度Bsの磁界形成が所定時間行われる。その間、図1の容器本体内では芯材粒子が底部10aより上方に向かって移動し、上方に移動した芯材粒子は磁力の作用で上方空間に保持されて周辺に飛散している樹脂粒子が付着する。また、時刻t2、t4、t6で磁界形成手段30の作動解除により磁界が消滅し、容器本体上部に保持されていた芯材粒子は重力の作用で自然落下して容器底部10aに移動する。この様に、図2(a)の磁界形成と解除を断続的に行う方法は、単位時間あたりの磁界形成と解除の回数をある程度自由に設定できるので、芯材粒子の鉛直方向への移動が効率的に行え、迅速な樹脂コートを可能にする等、キャリアの生産性向上に適するものといえる。
【0048】
また、図2(b)では、時刻taで磁界形成手段30が作動して強度Boの磁界が形成される。磁界形成手段30が作動後は磁界の強度は徐々に増大し、時刻ta1で強度は最大のBsになる。この間、容器上方の磁界の強度は徐々に増大していくので容器底部10aの芯材粒子は磁力の作用でいきなり移動することはなく徐々に容器上方に向かって移動することができる。磁界の強度がBsである時刻ta1から時刻ta2の間、芯材粒子は容器上方で磁力の作用で保持されて周辺に飛散している樹脂粒子を付着させることができる。そして、時刻ta2から時刻tbの間、磁界形成手段30により形成される磁界の強度は徐々に低下していくので、容器上方に保持していた芯材粒子は徐々に容器底部10aに向けて移動することができ、時刻tbで全ての芯材粒子が容器底部10aに移動完了する。図2(b)の磁界強度を変化させて樹脂をコートする方法は、芯材粒子になるべくストレスを与えない様にしながら鉛直方向への移動を可能にしている。したがって、たとえば、表面に微細な孔を多く有する芯材粒子等の様に、ストレスの影響を受け易いおそれがある芯材粒子への樹脂コートに最適なものといえる。
【0049】
以上の様に、磁界形成手段による具体的な磁界形成方法としては、たとえば、磁界形成手段の作動を断続的に行い磁界形成と磁界形成の解除を繰り返し行う方法と、磁界形成手段を作動状態にしておいて形成する磁界の強度を連続的に変化させる方法が挙げられる。
【0050】
なお、磁界形成手段により形成される磁界の強度は、本発明では特に限定されるものではなく、図2のグラフ縦軸(磁界の強度B)に示す磁界の最大強度Bsは、芯材粒子を容器本体上部に移動させ、そこで保持させることが可能なレベルの強度であればよい。
【0051】
次に、本発明で使用可能な磁石の形態について説明する。
【0052】
本発明で使用される磁界形成手段30には、たとえば、少なくとも電磁石を有するものや、少なくとも永久磁石を有するものが挙げられ、いずれも本発明の課題を解消することが可能なものである。
【0053】
磁界形成手段30に電磁石を用いたキャリア製造装置の具体例としては、たとえば、図3に示すキャリア製造装置1がある。図3のキャリア製造装置1の磁界形成手段30は、電磁石30a〜30dの他に、前記電磁石に電力を供給する電源34を有する。磁界形成手段30を構成する電磁石30a〜30dは、容器本体10上方に常時設置しておくことが可能で、電磁石30a〜30dは電源34からの電力供給を受けたときに磁界を形成することが可能である。
【0054】
また、図3のキャリア製造装置1では、電磁石30a〜30dで形成される磁界の強度が電源34より供給される電力量に依存するものである。すなわち、電源34から供給される電力量が大きいときは形成される磁界の強度は大きなものになり、容器底部10Aに存在する芯材粒子を容器本体10の上方に移動させることが可能な磁力を発現することが可能である。一方、電源34から供給される電力量が少ないときは形成される磁界の強度も小さなものになるので、芯材粒子の容器本体10上方への移動や保持が困難になる。そして、磁界の強度が重力よりも小さいときや、あるいは、電力供給を停止して磁界を形成していないときは、芯材粒子は重力の作用により容器底部10aに存在する。
【0055】
図3に示すキャリア製造装置1では、制御装置40により電源34から電磁石30a〜30dへの電力供給方法や供給電力量を制御することが可能である。たとえば、制御装置40が電源34から電磁石30a〜30dへの電力供給と供給解除を所定時間間隔で繰り返す様に制御すると、前述の図2(a)に示す様な強度を有する磁界を断続的に形成するものになる。また、制御装置40が電源34を電力供給可能な状態にして、この状態で電源34からの電力量を変化させる様に制御すると、前述の図2(b)に示す様な連続的に強度が変化する磁界を形成するものになる。
【0056】
また、磁界形成手段30に永久磁石を用いたキャリア製造装置の具体例としては、たとえば、図4に示すキャリア製造装置1がある。図4のキャリア製造装置1の磁界形成手段30は、永久磁石30a〜30dの他、前記磁石を保持し鉛直方向への移動を行う磁石保持部31、保持部31の移動を案内する磁石案内部32、保持部31を移動させるための駆動力を付与する磁石駆動部33を有する。
【0057】
図4のキャリア製造装置1は、磁界形成手段30を構成する永久磁石30a〜30dを保持部31を介して鉛直方向に移動可能にしたもので、この様に、磁石30a〜30dの鉛直方向への移動により、チャンバーの磁界強度を変化させることが可能である。すなわち、図4(a)に示す様に、永久磁石30a〜30dを容器本体10上方に接近させた状態では容器本体10上方に芯材粒子を引きつける強度を有する磁界が形成され、この磁力の作用により芯材粒子は容器底部10aより容器上蓋11方面に移動する。そして、容器本体10上方に移動した芯材粒子は、チャンバー上方に存在する樹脂粒子を表面に付着させることが可能になる。また、図4(b)に示す様に、永久磁石30a〜30dを容器本体10のはるか上方に移動させた状態にすると、容器本体10上方の磁界強度は低下し、磁力の低下によりチャンバー上方に移動していた芯材粒子は重力の作用で容器底部10aに移動する。
【0058】
図4に示すキャリア製造装置1では、磁石駆動部33からの駆動力により永久磁石30a〜30dの鉛直方向への移動を実現するもので、磁石駆動部33の駆動は制御装置40により制御されるものである。たとえば、制御装置40により磁石駆動部33の駆動速度を低くする様に制御すると、永久磁石30a〜30dの鉛直方向への移動がゆっくり行われ、前述の図2(b)に示す連続的な磁界強度変化を容器本体10上方に形成することができる。また、制御装置40により磁石駆動部33の駆動速度を非常に高くする様に制御すると、永久磁石30a〜30dの鉛直方向への往復移動が迅速に行われ、前述の図2(a)に示す断続的な磁界形成に近い状態を容器本体10上方に形成することができる。
【0059】
以上の様に、本発明では上記構成の磁界形成手段30で形成される磁界の作用により、容器本体底部10Aに存在する芯材粒子をチャンバー上方に移動、保持させ、チャンバー上方に舞い上がっている樹脂粒子を芯材粒子表面に付着させることが可能である。
【0060】
以上の様に、本発明では、芯材粒子の表面に樹脂粒子を付着させる際、室温下で混合槽上方に設けられた磁界形成手段を作動させ、混合槽の内部に磁界を形成した状態の下で、芯材粒子と樹脂粒子を撹拌、混合して芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させている。
【0061】
次に、前述した磁界の作用を利用して芯材粒子表面に付着させた樹脂粒子を延展、被覆させて、芯材粒子表面に樹脂コート層を形成する工程について説明する。この工程は、芯材粒子表面に付着させた樹脂粒子に機械的衝撃力を付与して芯材粒子表面に樹脂を層状に被覆させるもので、メカノフュージョンと呼ばれる方法の1つである。図1のキャリア製造装置では、前述の方法により芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させた後、樹脂粒子のガラス転移温度以上にチャンバーを加熱するとともに、回転羽根18を作動させて樹脂粒子を付着させた芯材粒子は撹拌され機械的衝撃力が付与される。
【0062】
すなわち、回転羽根18の作動による撹拌で樹脂粒子を付着させた芯材粒子同士が衝突し、衝突により発生する摩擦熱の作用で容器本体10内部の温度を上昇させることができる。これに加えて、容器本体10の周面ほぼ3/4の高さまで覆っている調温用ジャケット17により加熱の調整が可能で、これらの作用で容器本体内部(チャンバー)は樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度環境になり、芯材粒子表面の樹脂粒子は衝撃を受けて変形、延展し易い状態におかれている。なお、調温用ジャケット17は、熱水を通過させることにより容器本体10内部の加熱促進が可能で、また、撹拌が強くなり発生する摩擦熱が大きくなる場合には冷水を通過させて容器本体10内部の温度上昇を抑制することも可能である。
【0063】
回転羽根18がモータ22の駆動力により回転すると、容器底部10a付近の樹脂粒子を付着した芯材粒子は容器本体10上方に掻き上げられ、掻き上げられた芯材粒子は本体容器10の上部内壁に衝突する。芯材粒子表面の樹脂粒子は、衝突による衝撃で変形して芯材粒子表面に沿って延展していく。また、容器本体10上方に掻き上げられた芯材粒子は上部内壁に衝突後、重力の作用で落下して容器底部10aに衝突する。そして、容器底部10aに衝突したときにも樹脂粒子が延展し芯材粒子表面の被覆が進行する。
【0064】
この様に、容器本体10内部(チャンバー)では、掻き上げによる上部内壁への衝突と落下による容器底部10aへの衝突が繰り返され、芯材粒子表面に付着した樹脂粒子の延展が継続され、芯材粒子表面への樹脂の被覆が行われる。
【0065】
この工程では、容器本体内部の温度環境を樹脂粒子のガラス転移温度以上にしているが、具体的には、樹脂のガラス転移温度に対して5℃から20℃高い温度範囲とすることが好ましい。なお、容器本体10内部の温度は前述の温度計16により測定が可能である。
【0066】
また、回転羽根18による機械的衝撃力の大きさは、芯材粒子と樹脂被覆層との間に良好な密着性を得る観点から、撹拌羽根18a、18b及び18cの周速が3m/秒から20m/秒となる強度が好ましく、6m/秒から10m/秒となる強度がより好ましい。すなわち、上記範囲の周速による撹拌で樹脂粒子を付着させた芯材粒子同士が衝突して適度な摩擦熱が得られる様になり、樹脂粒子の軟化と延展を促進させて芯材粒子と樹脂被覆層との間に良好な密着性を確保し易くなる。良好な密着性が確保されることにより、形成されたキャリアは、画像形成時に衝撃を受けても芯材粒子が破壊せず、芯材粒子の破壊に起因する芯材粒子破片の樹脂被覆層表面への付着によるキャリアの帯電付与性能低下を起こすおそれがない。また、上記範囲の周速で撹拌することにより、ブロッキングの発生や形成した樹脂コート層を破壊するおそれがない。また、樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度環境下で回転羽根18による機械的衝撃力を付与する時間は、特に限定されるものではないが、5分から40分が好ましい。
【0067】
以上の様に、混合槽である容器本体10内部の温度環境及び撹拌手段である回転羽根18の作動条件を制御して、樹脂粒子を付着させた芯材粒子の撹拌を行って機械的衝撃力を付与することにより、芯材粒子表面に樹脂を延展、被覆させることができる。すなわち、上記工程では、少なくとも混合槽の内部を樹脂粒子のガラス転移温度以上に加熱するとともに撹拌手段を作動させ、樹脂粒子を芯材粒子表面に延展、被覆させて樹脂コート層を形成している。
【0068】
次に、容器本体内部(チャンバー)を冷却する工程について説明する。樹脂粒子を付着させた芯材粒子は、前述した様に、樹脂粒子のガラス転移温度以上にした温度環境下で機械的衝撃力を受けることにより、樹脂が延展して被覆される。芯材粒子表面に樹脂コート層が形成された後、容器本体10内部(チャンバー)は室温まで冷却される。容器本体10内部の冷却は、たとえば、容器本体10の周面ほぼ3/4の高さまで覆っている調温用ジャケット17に冷却水の通過により実現することが可能である。また、調温用ジャケット17への冷水通過による冷却を行っているときに、撹拌羽根18を摩擦熱が発生しない程度にゆっくり回転させると冷却効果をより向上させることが可能である。
【0069】
以上の方法で樹脂コート層が形成された芯材粒子は室温まで冷却され、作製された樹脂コートキャリアは、排出弁21を開放して製品取出口20より取り出される。
【0070】
以上の様に、図1に示す磁界形成手段を有するキャリア製造装置1は、先ず、磁界形成手段30により形成される磁界の存在により芯材粒子をチャンバー上方に移動させて上方に舞い上がった樹脂粒子も芯材粒子表面に付着させることができる。そして、樹脂粒子を付着させた芯材粒子を樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度環境下で撹拌することで芯材粒子表面に樹脂粒子を延展させ樹脂コート層を形成することができる。したがって、図1に示す磁界形成手段を有するキャリア製造装置1は、舞い上がり分を加味して樹脂粒子を多めに供給する必要がなく、芯材粒子表面に付着しなかった樹脂粒子による凝集物の発生が解消されて不純物の混入がないキャリアの提供を可能にする。
【0071】
また、投入した樹脂粒子を無駄なく芯材粒子表面に付着させるので、樹脂粒子の使用量を低減させて樹脂コートキャリアを作製することを可能にする。さらに、有機溶媒を使用せずに樹脂コート層を形成することが可能なので、溶媒蒸発に起因する孔の発生等の問題がなく、芯材と良好な密着性を発現する樹脂コート層を作製することができる。また、環境や作業者の健康等への配慮、あるいは塗布液調製装置等の設備等の有機溶媒の使用に対する作業上の懸念点をなくして樹脂コートキャリアの作製を行うことが可能になる。
【0072】
以上の様に、図1に示す磁界形成手段を有するキャリア製造装置1により、また、前述した手順により、芯材粒子表面に樹脂を被覆した構造の樹脂コートキャリアを作製することが可能である。そして、上記の方法により芯材粒子表面に形成される樹脂コート層の厚さは0.5μm以上であることが好ましく、0.5μm以上3.5μm以下とすることがより好ましい。
【0073】
なお、樹脂コート層の厚さは、たとえば、以下の方法により求めることが可能である。
(1)集束イオンビーム試料作製装置「SMI2050」(エスアイアイナノテクノロジー(株)製)を用いてキャリア粒子の中心を通る面でキャリア粒子を切断して測定試料を作製する。
(2)作製した測定試料を透過型電子顕微鏡「JEM−2010F」(日本電子(株)製)にて5000倍の視野で観察し、その視野における最大膜厚となる部分と最小膜厚となる部分の平均値を「樹脂コート層の厚さ」とする。
(3)なお、測定数は50個とし、写真1視野で足りない場合には、測定数50になるまで視野数を増加させるものとする。
【0074】
前述した様に、本発明では、混合槽内部で芯材粒子と樹脂粒子を室温環境下で撹拌して芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させ、次に、芯材粒子表面に付着させた樹脂粒子を加熱環境下で延展することにより樹脂コート層の形成を行っている。この様に、芯材粒子表面を被覆する樹脂は、たとえば、100nmから1000nm程度の粒子の形態でキャリア製造装置に供給され、芯材粒子表面の被覆に使用されている。
【0075】
本発明で使用される樹脂粒子の作製方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、重合性単量体を水系媒体中で分散させて油滴状態にし、油滴状態に分散させた重合性単量体を重合反応することにより粒子形状の樹脂を作製する方法等がある。
【0076】
具体的には、界面活性剤を臨界ミセル濃度以下に溶解させた水系媒体中に重合性単量体を添加し、機械的エネルギーを利用して重合性単量体を油滴分散させた分散液を調製する。そして、得られた分散液に水溶性重合開始剤を添加して油滴内でラジカル重合による重合反応を行うことで樹脂粒子を作製することが可能である。なお、この重合反応の場合、重合性単量体の溶液中に油溶性のラジカル重合開始剤を添加してもよい。
【0077】
前述の機械的エネルギーを付与して油滴分散を行う分散装置には、特に限定されるものではないが、たとえば、「クレアミックス(CLEARMIX)」(エム・テクニック社製)の様な高速回転用のローターを有する撹拌装置がある。その他に、超音波分散機、機械式ホモジナイザー、マントンゴーリン及び圧力式ホモジナイザー等がある。この様な分散処理により粒子径が100nmから1000nm程度の油滴が形成される。なお、油滴の粒径は、前述の100nmから1000nmが好ましく、150nmから1000nmがより好ましく、200nmから800nmがさらに好ましい。
【0078】
上記の油滴分散処理を経て樹脂粒子を作製する方法は、たとえば、以下の工程を含むものである。すなわち、
(1)界面活性剤を含有する水系媒体中に重合性単量体を添加し、当該重合性単量体を機械的に分散させて重合性単量体の油滴分散液を調製する工程
(2)油滴状態に分散させた重合性単量体を重合して樹脂粒子を作製する工程
(3)樹脂粒子の分散液を冷却する工程
(4)冷却した樹脂粒子の分散液より樹脂粒子を固液分離するとともに洗浄処理を行い、樹脂粒子より界面活性剤等を除去する工程
(5)洗浄処理した樹脂粒子を乾燥する工程。
【0079】
また、上記の油滴分散処理を経て作製される樹脂粒子のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、良好な製膜性を有し緻密な樹脂コート層を形成する観点から、たとえば、60℃から150℃の範囲が好ましい。さらに、樹脂粒子の重量平均分子量は、たとえば、50,000から1,000,000が好ましく、400,000から600,000がより好ましい。
【0080】
樹脂粒子の形成に使用可能な重合性単量体は、特に限定されるものではなく、たとえば、ビニル系樹脂を形成するビニル系モノマーがその代表的なもので、他にポリエステル樹脂の形成が可能な多価カルボン酸化合物と多価アルコール化合物等がある。ビニル系モノマーには、たとえば、以下に示すスチレン系単量体、メタクリル酸系単量体、アクリル酸系単量体の他に、オレフィン系単量体やビニルエステル系単量体等がある。
【0081】
以下、上記ビニル系モノマーの具体例を示すが、樹脂コート層を形成する樹脂の作製が可能なビニル系モノマーは以下のものに限定されるものではない。
(1)スチレン系単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等
(2)メタクリル酸系単量体
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシル等
(3)アクリル酸系単量体
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル等
(4)その他ビニル系モノマー
(a)オレフィン系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等
(b)ビニルエステル系単量体;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(c)ビニルエーテル系単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(d)ビニルケトン系単量体;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(e)N−ビニル化合物系単量体;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等
(f)その他ビニル化合物系単量体;ビニルナフタレン、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等
これらビニル系モノマーは単独あるいは組み合わせて使用することが可能である。
【0082】
上記ビニル系単量体を用いて形成される樹脂の中でも、メタクリル酸シクロヘキシルを用いて形成した共重合体樹脂が好ましく、共重合体を構成するメタクリル酸シクロヘキシルのモノマー比率が40%以上のものが好ましい。また、トナーへの電荷付与性能の観点から、前述のメタクリル酸シクロヘキシルとともにメタクリル酸メチルを用いた共重合体樹脂がより好ましい。
【0083】
次に、本発明で使用可能な芯材粒子は、磁場の存在によりその方向に強く磁化する物質(磁性体)で、たとえば、鉄、ニッケル、コバルト等の強磁性金属、マグネタイトやフェライト、これらを含む合金や化合物、これらを樹脂中に分散させたもの等がある。
【0084】
フェライトは、式:MO・Feで示されるもので、また、マグネタイトは、式:MFeで示されるものである。式中のMは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、リチウム(Li)等の2価あるいは1価の金属原子で、これらを単独または複数種類組み合わせて使用可能である。
【0085】
これら磁性体の中でも、比重が鉄やニッケル等の金属より小さいマグネタイトやフェライトが好ましい。そして、フェライトの中でもMが銅、亜鉛、ニッケル、マンガン等の重金属を含有するフェライトや、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを含有する軽金属フェライトがより好ましい。さらには、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを含有する軽金属フェライトが特に好ましい。軽金属フェライトは、廃棄物や環境に与える負荷が他のものに比べて少ないことに加えて、キャリア自体をより軽量化することが可能で画像形成時にトナーに与えるストレスを軽減させるメリットを有している。
【0086】
また、強磁性金属を含有しないものの適度な熱処理により強磁性を示すマンガン−銅−アルミニウムやマンガン−銅−スズ等のホイスラー合金と呼ばれる合金、二酸化クロム等も芯材粒子として使用することが可能である。
【0087】
さらに、バインダ樹脂中に磁性粉を分散させた樹脂分散型コアを使用することも可能であり、磁性粉としては、たとえば、粒径が0.1〜3.0μm程度の鉄、フェライト、マグネタイト等が用いられる。また、バインダ樹脂としては、たとえば、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂等が用いられる。
【0088】
芯材粒子の径は、体積平均粒径で10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。また、芯材粒子自体が有する磁化特性は、飽和磁化で2.5×10−5〜10.0×10−5Wb・m/kgが好ましい。なお、芯材粒子の体積平均粒径は、湿式分散器を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「HELOS」(シンパテック社製)により体積基準の平均粒径として測定が可能である。また、飽和磁化は、「直流磁化特性自動記録装置3257−35」(横河電機株式会社製)により測定が可能である。
【0089】
本発明は、前述の方法で磁界の作用を利用して室温下で芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させ、付着させた樹脂粒子を加熱環境下で延展させて芯材粒子表面に樹脂を被覆させて樹脂コートキャリアを作製するものである。そして、本発明に係る樹脂コートキャリアの製造方法により作製される樹脂コートキャリアは、トナーと混合して二成分現像剤として使用することが可能である。
【0090】
二成分現像剤を構成するキャリアとトナーの混合比率は、トナー濃度が1質量%から10質量%となる範囲にすることが好ましい。また、使用可能なトナーは、特に限定されるものではなく、従来公知のトナーを使用することが可能である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明の実施態様を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0092】
1.「キャリア1〜8」の作製
1−1.「キャリア1」の作製
(1)「樹脂粒子1」の作製
撹拌装置、温度センサ、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.4質量部をイオン交換水500質量部に溶解させた界面活性剤溶液(水系媒体)を用意した。次に、
メタクリル酸メチル 20質量部
メタクリル酸シクロヘキシル 80質量部
よりなる重合性単量体混合液を前記界面活性剤溶液中に添加して、「クレアミックス(エム・テクニック社製)」を用いて15000rpmで撹拌処理を行い、体積平均粒径200nmの単量体粒子(油滴)を分散させた乳化液を調整した。ここで、単量体粒子の体積平均粒径は動的光散乱式粒度分析計「マイクロトラックUPA150」(日機装(株)製)を用いて測定した。
【0093】
次に、この乳化液に重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.4質量部をイオン交換水40質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を80℃で3時間加熱、撹拌して重合反応を行い、重合反応後室温まで冷却した。この様にして、共重合比が2/8のメタクリル酸メチル/メタクリル酸シクロヘキシル共重合体樹脂からなる「樹脂粒子1」の分散液を作製した。作製された「樹脂粒子1」の体積平均粒径を前述の動的光散乱式粒度分析計「マイクロトラックUPA150」(日機装(株)製)を用いて測定したところ200nmであった。
【0094】
作製した「樹脂粒子1」分散液を前述の手順で固液分離、水洗処理した後、スプレードライヤで乾燥処理して、体積平均粒径200nmの「樹脂粒子1」を得た。なお、作製した「樹脂粒子1」の重量平均分子量Mwは520,000、ガラス転移温度Tgは110℃であった。
【0095】
(2)「キャリア1」の作製
図3に示す4個の電磁石を備えたキャリア製造装置に、
体積平均粒径35μmのMn−Mgフェライト粒子 100質量部
「樹脂粒子1」 4質量部
を投入した。なお、上記Mn−Mgフェライト粒子は飽和磁化が10.7×10−5Wb・m/kg、形状係数SF−1が130のものであった。
【0096】
次に、チャンバーの温度を25℃に設定し、電磁石への電力供給(ON)と供給解除(OFF)を5秒間隔で10分間繰り返す様に設定した。すなわち、電磁石により形成される磁界強度が図2(a)に示す形状に変化する様に設定し、電力供給開始(ON)時に上記芯材粒子をチャンバー上方に移動させることが可能な強度の磁界をすぐに形成する電力を供給した。さらに、チャンバーの温度を上昇させないレベルの撹拌を行うため、回転羽根の回転数を200rpm(周速1m/sに相当)、回転羽根の作動時間を10分間に設定した。この様に電磁石による磁界形成条件と回転羽根の作動条件を設定して、上記芯材粒子表面に樹脂粒子1を静電付着させる操作(オーダードミクスチャー)を10分間行った。なお、電磁石に供給する電力量は、回転羽根の回転数を200rpm(周速1m/s)にした撹拌環境下で上記芯材粒子をチャンバー上方に移動させる強度の磁界を形成する電力量とした。この様にして、上記芯材粒子表面に上記「樹脂粒子1」を静電付着させるオーダードミクスチャーの操作を行った。
【0097】
前記電磁石への電力供給をOFFにして、樹脂粒子1を静電付着した芯材粒子をチャンバー底部に移動させて前述のオーダードミクスチャーの操作(静電付着操作)を完了させた。次に、ジャケットに熱水を供給しながら、回転羽根の回転数を1000rpm(周速8m/sに相当)に設定して25分間作動させ、チャンバーの温度を120℃に上昇させた。次に、チャンバーの温度を120℃に維持させながら、引き続き、前記回転数で回転羽根を50分間作動させて撹拌を継続し、上記芯材粒子表面で樹脂粒子1が軟化、延展して芯材粒子表面を被覆させた。その後、回転羽根の回転数を400rpm(周速約3m/s)にして、撹拌を行いながら冷却処理を行い、チャンバーの温度を25℃に戻した。
【0098】
以上の手順で「キャリア1」を作製した。「キャリア1」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0099】
1−2.「キャリア2〜7」の作製
(2)「キャリア2」の作製
前記「キャリア1」の作製で、前記電磁石に上記電力供給を行わずに芯材粒子表面への樹脂粒子の静電付着操作を行った。その他は同じ手順で「キャリア2」を作製した。「キャリア2」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ0.6μmであった。
【0100】
(3)「キャリア3」の作製
前記「キャリア2」の作製で、「樹脂粒子1」の投入量を10質量部に変更した。その他は「キャリア2」の作製と同じ手順を採ることにより「キャリア3」を作製した。「キャリア3」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0101】
(4)「キャリア4」の作製
前記「キャリア1」の作製で、電磁石への電力供給を以下の様に変更した。すなわち、電力供給開始(ON)時より2.5秒かけて供給電力量を増大させ、芯材粒子をチャンバー上方に移動させる強度の磁界を発生させる様にした。芯材粒子をチャンバー上方に移動させる強度の磁界を形成する電力供給を5秒行った後、2.5秒かけて供給電力を重力よりもやや強い磁力を発生させるレベルに低減させた。この操作を10分間繰り返し、磁界強度が図2(b)に示す変化をする様に電力供給を行い、芯材粒子表面への樹脂粒子の静電付着を行った。その他は「キャリア1」の作製と同じ手順を採ることにより「キャリア4」を作製した。「キャリア4」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0102】
(5)「キャリア5」の作製
前記「キャリア4」の作製で使用した芯材粒子を、前述の芯材粒子に比べて表面が多孔質である以外は条件が全く同じであるMn−Mgフェライト粒子に変更した。また、電磁石への電力供給方法や回転羽根の回転条件、チャンバーの温度環境等の製造条件も前記「キャリア4」を作製するときと同じ条件に設定して「キャリア5」を作製した。「キャリア5」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0103】
(6)「キャリア6」の作製
前記「キャリア4」の作製で、芯材粒子表面に樹脂粒子1を静電付着させる操作を行う際、磁界形成手段として電磁石を用いたものから図4に示す4個の永久磁石を用いたものに変更した。そして、5秒間永久磁石を図4(a)の状態に保持した後、永久磁石を2.5秒かけて図4(b)の状態に移動させ、さらに、2.5秒かけて図4(a)の状態になる様に移動させる。この操作を10分間繰り返し行った。その他は「キャリア4」の作製と同じ手順を採ることにより「キャリア6」を作製した。「キャリア6」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0104】
(7)「キャリア7、8」の作製
前記「キャリア2」の作製で使用した芯材粒子を「キャリア4」の作製で使用した多孔質のMn−Mgフェライト粒子に変更し、磁界を形成しない環境下で芯材粒子表面に樹脂粒子1を静電付着させる操作を20分間行う様に変更した。その他は「キャリア2」の作製と同じ手順を採り「キャリア7」を作製した。「キャリア7」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ0.6μmであった。
【0105】
また、「キャリア7」の作製で、樹脂粒子1の投入量を10質量部に変更した他は同じ手順を採り、「キャリア8」を作製した。「キャリア8」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0106】
以上の手順により「キャリア1〜8」を作製した。
【0107】
2.評価実験
ここで、上記手順で作製した「キャリア1〜8」のうち、本発明の構成を満たす手順により作製した「キャリア1、4〜6」を「実施例1〜4」とし、本発明の構成から外れる手順で作製した「キャリア2、3、7、8」を「比較例1〜4」とした。評価は、作製したキャリアへの残留樹脂粒子の混入状況と、各キャリアを作製したときのキャリア製造装置の容器上蓋11への残留樹脂粒子付着状況を観察することにより行った。
【0108】
〈作製キャリア中への残留樹脂粒子混入評価〉
作製したキャリアを薬さじにとり、とったキャリアを白紙上において4cm四方にうすく引き伸ばす様に拡げた。拡げたキャリアを倍率10倍のルーペで目視観察することにより樹脂粒子の混入状況を評価し、4cm四方内の樹脂粒子の個数が10個以下となるものを合格とした。
【0109】
〈キャリア製造装置の容器上蓋への残留樹脂粒子付着評価〉
キャリア製造装置の容器上蓋の内壁を、イオン交換水で若干湿らせた「JKワイパー150S(日本製紙クレシア(株)製)」で拭き取り、拭き取ったものを倍率10倍のルーペで目視観察して樹脂粒子及び凝集粒子の付着状況を目視評価した。樹脂粒子や凝集物が20個以下のものを合格とした。
【0110】
上記評価の結果と、前述した各キャリアの樹脂コート層の厚さと作製時に投入した樹脂粒子1の量を下記表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
表1に示す様に、本発明の構成を満たす手順で作製したキャリアを評価した「実施例1〜4」は、いずれも作製したキャリア中に残留樹脂粒子がほとんど混在しておらず、また、容器上蓋にも樹脂粒子やその凝集物がほとんど付着していないものであった。一方、本発明の構成から外れる手順で作製した「比較例1〜4」はキャリア中への残留樹脂粒子が上記規定よりも多く混在し、容器上蓋に樹脂粒子や凝集物が多く付着していることが確認された。
【0113】
また、比較例のキャリアは、樹脂粒子の投入量が実施例のキャリア作製と同じ場合、「比較例1と3」のキャリアに示す様に、実施例のキャリアよりも樹脂コート層の厚さがうすいものになった。そして、実施例のキャリアと同じ厚さの樹脂コート層を形成するには、「比較例2と4」のキャリアに示す様に、実施例のキャリアの2.5倍の量の樹脂粒子を投入しなければ作製できないことが確認された。
【0114】
以上の結果から、本発明の構成を満たす手順によりキャリアを作製した「実施例1〜4」では、供給された樹脂粒子を芯材粒子表面に無駄なく付着させて樹脂コートが行えることを確認することができた。また、残留樹脂粒子やこれら凝集物が混合槽への付着が回避される様になることも確認することができた。
【符号の説明】
【0115】
1 キャリア製造装置
10 容器本体(混合槽)(チャンバー)
11 容器上蓋
17 調温用ジャケット(加熱手段)
18 回転羽根(撹拌手段)
22 モータ(駆動手段)
30 磁界形成手段
30a、30b、30c、30d 磁石(電磁石、永久磁石)
31 磁石保持部
32 案内部
33 磁石駆動部
34 電源部
40 制御手段
B 磁界の強度
t 時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、混合槽の内部に収容された撹拌手段により前記混合槽の内部に投入された芯材粒子と樹脂粒子を撹拌し、前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させる工程を有する樹脂コートキャリアの製造方法であって、
前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させる工程は、
室温下で、前記混合槽の上方に設けられた磁界形成手段を作動させ、前記混合槽の内部に磁界を形成した状態の下で前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させることを特徴とする樹脂コートキャリアの製造方法。
【請求項2】
前記磁界形成手段の作動を断続的に行って、磁界形成と磁界形成の解除を繰り返し行う状態の下で前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させることを特徴とする請求項1に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。
【請求項3】
前記磁界形成手段を作動させておき、該磁界形成手段により形成される磁界の強度を変化させながらの状態の下で前記芯材粒子の表面に前記樹脂粒子を付着させることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。
【請求項4】
前記磁界形成手段が、少なくとも電磁石を有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。
【請求項5】
前記磁界形成手段が、少なくとも永久磁石を有するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。
【請求項6】
少なくとも、前記混合槽の内部を前記樹脂粒子のガラス転移温度以上に加熱するとともに前記撹拌手段を作動させ、前記樹脂粒子を前記芯材粒子表面に延展、被覆させて樹脂コート層を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造方法。
【請求項7】
少なくとも、
芯材粒子と樹脂粒子が供給される混合槽と、
前記混合槽の内部に設けられ、前記芯材粒子と前記樹脂粒子を撹拌する撹拌手段と、
前記混合槽の内部上方に磁界を形成する磁界形成手段と、
少なくとも前記磁界形成手段の作動を制御する制御手段と、を有する樹脂コートキャリアの製造装置であって、
前記制御手段は、少なくとも、前記撹拌手段が前記芯材粒子と前記樹脂粒子を撹拌しているときに前記混合槽の内部上方に磁界を形成する様に前記磁界形成手段の作動を制御するものであることを特徴とする樹脂コートキャリアの製造装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記磁界形成手段を断続的に作動する様に前記制御を行うものであることを特徴とする請求項7に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記磁界形成手段を作動させておき、該磁界形成手段が形成する磁界の強度を変化させる様に前記制御を行うものであることを特徴とする請求項7または8に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。
【請求項10】
前記磁界形成手段が、少なくとも電磁石を有するものであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。
【請求項11】
前記磁界形成手段が、少なくとも永久磁石を有するものであることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。
【請求項12】
前記樹脂コートキャリアの製造装置は、前記混合槽内の温度を前記樹脂粒子のガラス転移温度よりも高い温度にする加熱手段を有するものであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の樹脂コートキャリアの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−242499(P2011−242499A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112884(P2010−112884)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】