説明

樹脂ライニングを備えた塔

【課題】塔、タンク、ドラムなどに設けられるライニングの変形やこれに伴うライニングの剥離およびライニングシートの穴あき、破断などの破損を防止することを目的とする。
【解決手段】本発明の樹脂ライニングを備えた塔は、該樹脂ライニングの形状を維持するために、塔内圧が塔外圧以上となるようにガスを導入できる装置を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ライニングを備えた塔に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食性の高い塩酸、塩素等を取り扱う塔、タンク、ドラムなど(以下、塔槽類ということがある)には、耐食性を高くし、かつ安価に塔やタンクを作製する方法として、塔槽類の内壁に樹脂からなるライニングを施工する方法が知られている。
【0003】
このようなライニングとしては、塔槽類の内壁にライニングを接着する焼き付けライニング、非接着のいわゆるルーズライニング、金型成形等がある。
【0004】
例えば、特許文献1にはルーズライニングとして、樹脂コーティング層と樹脂フィルムのルーズシートライニングから構成された被覆において、樹脂コーティング層と樹脂フィルムとの間に微小な間隔を設けることで、耐食性を高める方法が開示されている。また、特許文献2にはライングがアウターシートとインナーシートとからなり、これらのシートの間にタンク外部と連通する空間を保持するスペーサーを設けたライニングタンクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−007841号公報
【特許文献2】特開2003−063591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塩酸、塩素等を取り扱う塔槽類の運転時においては、その運転状況によって塔やタンクの内圧がそれらの外部の圧力よりも低圧になる場合があり、このような圧力関係においては、上記特許文献1および2などのライニングは塔槽類の内壁からの剥離およびライニングシートの穴あき、破断などの破損があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、塔槽類の内圧がそれらの外部の圧力よりも低圧にならないように、不活性ガスやタンク内部で凝縮しないガスを塔槽類内に吹き込み、これによりライニングの変形を防ぎ、ライニングを塔やタンクの内壁に接触した状態に保持するものである。
【0008】
具体的には、本発明の第一の態様は、樹脂ライニングを備えた塔に関し、該樹脂ライニングの形状を維持するために、塔内圧が塔外圧以上となるようにガスを導入できる装置を含むことを特徴とする。
【0009】
上記ガスを導入できる装置は、ガス配管と、塔内の圧力計および該圧力計と連動する弁とを備える装置を含むことが好ましい。また、上記ガスを導入できる装置には、シールポットを有する態様も含まれる。
【0010】
また、本発明は、塔内が当該圧力以上となるようにガスを導入することによって、樹脂ライニングが塔内壁に保持する、樹脂ライニングの変形防止方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塔槽類の内圧をこれらの外部の圧力よりも低圧とならないように調整することができるので、ライニングの剥がれや破損を防止することができる。また、運転中の圧力低下を抑えることができ、安定にプラントを運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の塔の一例を模式的な断面図である。
【図2】本発明の塔を含む塩素の製造工程の一例を説明するための模式図である。
【図3】本発明の塔を含む塩素の製造工程の他の一例を説明するための模式図である。
【図4】(a)はシールポットの一例の模式的な断面図であり、(b)は(a)の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、本発明において「塔」とは、塔、タンク、ドラムなどの塔槽類であって本発明と同様の構成を含むものをいう。
【0014】
図1に本発明の樹脂ライニングを備えた塔の一例を模式的な断面図を示す。図1に示されるように、本発明における樹脂ライニングを備えた塔10は、塔本体1と、この塔本体1の内面に樹脂ライニングとして、コーティング2と塔内側に配置されるルーズライニングシート3とを備える。図1には、塔の下方の一部を示す。
【0015】
上記樹脂ライニングを備えた塔10において、コーティング2およびルーズライニングシート3の端部は、例えば塔本体1の端面に装着されるリング状ガスケット4および蓋5などにより強く押し付けられて、塔本体1の端面に固定されている。蓋5は平面形状であっても、後述の図2の蒸留塔の形状のように、球状で周縁部が平面形状で塔本体1の端面と重なり合うような形状でもよい。
【0016】
ルーズライニングシート3は、コーティング2とスペーサー(図示していない)を介して配置されており、このような構造によりコーティング2とルーズライニングシート3との空間が塔本体1と外部と連通する。また、スペーサーを設ける代わりに、コーティング2とルーズライニングシート3との空間は、コーティング2の端面とルーズライニングシート3の端部との間にスペーサーリング(図示していない)を装着することによって設けることもできる。
【0017】
上記のような空間の端部には通常、吸引ポンプやアスピレーターなどの吸引装置への配管(図示せず)が接続されており、ガスなどの塔内容物がルーズライニングシート3を僅かに透過して滲み出したとしても、吸引装置によって外部に排出されるので、ガスなどがルーズライニングシート3とコーティング2との空間に溜まることがない。
【0018】
塔本体1は筒状であり、通常は円筒形状のものが使用される。塔本体1の材質としては、公知のシートライニングタンクなどと同様に、機械的強度の点で、炭素鋼、ステンレスなどのような金属材料が用いられる。塔本体の大きさは、内容積によって適宜選択されるが、通常は外径15cm〜4m程度、長さ10cm〜15m程度である。
【0019】
コーティング2およびルーズライニングシート3は、内容物に対して不活性なものが用いられ、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂からなるフッ素樹脂シートが適用される。また、フッ素樹脂シートの他に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂からなるオレフィン樹脂シート、ポリ塩化ビニルからなる塩化ビニル樹脂シートなどの樹脂シートを用いるような塔であっても内容物に対して耐食性があれば用いることができる。ライニングシートの厚みは、塔本体1の大きさ、内容物の種類などにより選択されるが、通常は1mm〜6mm程度である。
【0020】
上記コーティング2とルーズライニングシート3の端部との間装着されスペーサーリングの厚みは、塔の大きさなどにもよるが、通常は1cm〜10cm程度である。スペーサーリングとしては、シール性の点およびクリープと呼ばれる変形を防止できる点で、通常は充填材を充填したフッ素樹脂からなるものが使用されており、充填材としてはシリカ粒子、グラスファイバー、カーボン材料などが例示される。
【0021】
また、上記スペーサーとしては、上記コーティング2とルーズライニングシート3との空間を保持できるもので、塔内容物に耐食性を有するものであればその形状や材質は特に制限されるものではない。例えばコーティングと同様の材質、すなわちフッ素樹脂製のものを挙げることができる。このようなスペーサーは、コーティング2とルーズライニングシート3との間に溶接あるいは接着剤にて貼着されている。この場合、スペーサーは少なくともコーティング2と貼着していればよい。
【0022】
上記構成を有する樹脂ライニングを備えた塔は、図2および図3に示すように、塩素等の製造装置の一部に用いられる。このような一連の製造装置において、図2に示すように本発明の樹脂ライニングを備えた塔は、蒸留塔として用いることができる。
【0023】
図2において、塩酸を含む液が第1の蒸留塔6に供給されて、公知の放散工程により塔頂から塩化水素ガスおよび一部の水が分配され、第一留出ガスとして排出される。一方、塔出液として第一塩酸水が塔底から排出され、第2の蒸留塔7に供給される。第2の蒸留塔7において上記第一塩酸水が蒸留され、塔頂から第二留出ガスが得られ、塔出液として第二塩酸水が得られる。上記第一留出ガスは高純度の塩化水素ガスであり、塩酸酸化プロセスの原料となる。
【0024】
ここで、このような一連の製造装置において、樹脂ライニングを備えた塔の前後に減圧のための機器(図2中では真空ポンプ)等が接続されている場合、塔内部の圧力が外部の圧力よりも低圧となることがある。また、たとえば第1の蒸留塔6の塔頂に接続したコンデンサで急激にガスが凝縮する場合や、図3に示すように、第1の蒸留塔6の塔頂における第一留出ガスの炊き上げが停止した状態で塔頂部に上記液だけが供給されるような場合には、塔内のガスが凝縮または上記液に吸収されるため、塔内部の圧力が塔外部の圧力よりも低圧となることがある。
【0025】
このように塔内部の圧力が塔外部の圧力よりも低圧となる場合には、図1に示すルーズライニングシート3がスペーサー等に圧力により押し付けられずに、その形状が保持されずに変形して剥離し、塔内側に延在することとなる。このようなルーズライニングシート3の変形、また、変形したルーズライニングシートの穴あき、破断などによる破損を防止するために、本発明は上記樹脂ライニングを備えた塔の内圧が塔外圧以上となるようにガスを導入できる装置を含む。
【0026】
上記目的で塔内に導入されるガスとしては、窒素ガスなどの不活性ガスや、塔内部で凝縮しないガス、塔内容物を凝縮させない空気などのガスを単独または混合して用いることができる。
【0027】
上記ガスを導入できる装置としては、ガス配管と、塔内の圧力計および該圧力計と連動する弁を備える装置が含まれる。たとえば、第1の蒸留塔内6の圧力を検知することができる圧力計を配置し、この第1の蒸留塔6に窒素ガスなどのガスタンク8と連結したガス配管11を連結する。このガス配管11に上記圧力計と連動する弁9を接続しておく。塔内の圧力が塔外の圧力(通常大気圧)よりも低圧にならないように、上記弁9を開き窒素ガスなどのガスが塔内に導入される。図2および図3において「PIC」とは、圧力計と該圧力計に備えた弁の開閉のためのコントローラを示す。
【0028】
上記圧力計と連動する弁9は、たとえば塔外の圧力POUTと塔内部の圧力PINとの差(PIN−POUT)が−0.5kPa以下となれば弁9が開くようにプログラムしておき、弁が開くように作動させることができる。また、塔内部の圧力計は塔内ガス部の圧力を測定できる場所であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、塔頂および塔内ガス部の塔内下の方に設置されることが望ましい。
【0029】
また、上記ガスを導入することができる装置において、シールポットを有する態様も本発明に含まれる。
【0030】
シールポットは、従来公知のものを適用することができ、図4(a)および図4(b)に示すような構成を有する。図4(a)に、本発明におけるガスを導入できる装置におけるシールポットの断面図を示す。シールポットにおいては、塔外部と内部の圧力差とを容易に検知することができる。図4(a)に示すように、シールポット本体12の中間部に仕切板13を設け、この仕切板13を貫通させて圧力調整管14を設ける。シールポット本体12には、液体17を保持するための容器15と、外部(大気)と連通した管21と、液体を供給する管18、液体にガスを導入するための管19や、プロセスガスを導入するためのガス導入管20が備えられている。シールポット本体12の内部に設けられた容器15に保持された液体17と外部と連通した管21に保持された液体とにより、図4(a)の一部の拡大図である図4(b)に示されるように、外圧POUTと塔内圧PINとの関係を液面高さにより検知することができる。
【0031】
また、上記シールポットにおいて、大気圧より僅かに高い圧力POUT+と大気圧より僅かに低い圧力POUT-との間にプロセスガスの圧力を保持する場合、圧力調整管14の下端からシールポット本体12の側壁のオーバーフロー管22の取付位置までの高さを上記圧力POUT+(図中、Pα)に対応する液頭となるように液体17を入れ、一方、圧力調整管14の上端と仕切板13の上方の側壁に設けた大気と連通した管21の取付位置までの高さを圧力POUT-(図中、Pβ)に対応する液頭となるように液体17を入れる。仕切板13の圧力調整管14の上端よりも上方に液体を供給する管18を、仕切板13の下方にガス排出管23をそれぞれ設けて、シールポット本体12に設けられた圧力調整管14中の液体24と、容器25の液16の液頭の差が、高くなるとガス排出管23から外部にガスを排出し、逆に液頭が低くなると管21から大気を吸入することで、大気圧より僅かに高い圧力POUT+と、大気圧より僅かに低い圧力POUT-との間にプロセスガスの圧力を保持することができる。
【0032】
塩素等の製造において放散を行なう工程において、上記のような構成を有する樹脂ライニングを備えた塔を用いることによって、塔内の圧力が塔外部の圧力よりも低い圧力になることがないので、ルーズライニングシート3には常に、塔内から外側へ向かう圧力がかかることになり、シートが変形しない。また、上記圧力計と連動する弁9を、たとえば塔外の圧力POUTと塔内部の圧力PINとの差PIN−POUTが−0.5kPaとなれば弁9が開くようにプログラムしておき、弁が開いてガスが供給くように作動させることで確実にルーズライニングシートの変形を防止することができる。その結果、ルーズライニングシートの穴あきや破断などの破損が起こることがなく、装置全体を常に安全に作動させることができる。
【0033】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の各実施の形態の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0034】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は樹脂からなるライニングを備えた塔に限らず、ルーズライニングを備えた塔やタンクや、ドラムなどの塔槽類におけるライニングの剥離を防止するために有効である。
【符号の説明】
【0036】
1 塔本体、2 コーティング、3 ルーズライニングシート、4 スペーサー、5 蓋、10 樹脂ライニングを備えた塔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ライニングを備えた塔において、該樹脂ライニングの形状を維持するために、塔内圧が塔外圧以上となるようにガスを導入できる装置を含む、樹脂ライニングを備えた塔。
【請求項2】
前記ガスを導入できる装置は、ガス配管と、塔内の圧力計および該圧力計と連動する弁とを備える、請求項1に記載の樹脂ライニングを備えた塔。
【請求項3】
前記ガスを導入できる装置は、シールポットを有する、請求項1または2に記載の樹脂ライニングを備えた塔。
【請求項4】
樹脂ライニングを備えた塔の塔内圧が塔外圧力以上となるように、ガスを導入することによって樹脂ライニングの形状を維持する、樹脂ライニングの変形防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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