説明

樹脂成形体のめっき処理方法

【課題】樹脂成形体に対してめっき処理を施すにあたり、樹脂成形体の機械的性質を損なうことなく、かつめっきの密着力が優れるめっき処理方法を提供すること。
【解決手段】ガラス繊維2を含有する樹脂成形体1の表面を粗面加工することによって粗化する工程と、粗化された樹脂成形体1の表面におけるガラス繊維2を溶解液にて溶解する工程と、ガラス繊維2の溶解後、粗化された樹脂成形体の表面に対してめっき処理を施しめっき層3を成形する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体に対して施すめっき処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体に対してめっき処理を施す方法として、樹脂成形体中に予め前処理薬品に溶解し易い充填材を添加する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
充填材が添加された樹脂成形体に対してめっき処理を施す場合、めっき処理を施す前に前処理薬品にて充填材を溶解することによって樹脂成形体の表面に凹部を形成する。その後、樹脂成形体の表面にめっき処理を施す。このようにしてめっき処理を施すことによって、凹部にめっきが入り込むため、樹脂成形体へのめっきの密着力が確保される。
【特許文献1】特開2005−210672
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この方法では、図4に示すように、充填材が溶解した樹脂成形体表面の凹部のみにてめっきの密着力を確保しているため、めっきの密着力は十分とはいえない。例えば、この方法によって得られた樹脂成形体を摺動部材に適用した場合には、表面のめっき層が剥がれてしまうことがあった。
【0005】
また、充填材を前処理薬品にて溶解するため、樹脂成形体中に空孔が発生し、樹脂成形体の機械的性質が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂成形体に対してめっき処理を施すにあたり、樹脂成形体の機械的性質を損なうことなく、かつめっきの密着力が優れるめっき処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る樹脂成形体のめっき処理方法は、ガラス繊維を含有する樹脂成形体の表面を粗面加工することによって粗化する工程と、前記粗化された樹脂成形体の表面における前記ガラス繊維を溶解液にて溶解する工程と、前記ガラス繊維の溶解後、前記粗化された樹脂成形体の表面に対してめっき処理を施す工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂成形体の表面を粗面加工することによって、樹脂成形体の表面に不規則な凹凸を多数形成することができるため、樹脂成形体の表面に施されためっきは、くさび効果を利用して樹脂成形体に強く密着する。また、めっき処理をガラス繊維の溶解後に施すことによって、めっきは溶解したガラス繊維を利用して樹脂成形体の深部に入り込むため、より大きなくさび効果を利用して合成樹脂に密着する。また、樹脂成形体にはガラス繊維が含有されているため、樹脂成形体の機械的性質が損なわれることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るめっき処理方法を樹脂成形体に対して施すことによって製造されためっき樹脂成形体10の断面を示す模式図である。
【0010】
めっき樹脂成形体10は、ガラス繊維2を含有する樹脂成形体1と、樹脂成形体1の表面に形成されためっき層3とを備える。樹脂成形体1におけるめっき層3が形成される面1aは不規則に粗化されている。
【0011】
樹脂成形体1は、ガラス繊維2を含有した合成樹脂を射出成形又は押出成形等によって成形したものである。
【0012】
ガラス繊維2は、樹脂成形体1へのめっき密着力向上、及び樹脂成形体1の強度向上のために配合される。本発明において用いられるガラス繊維2は、一般的なガラス繊維強化樹脂成形体に用いられるガラス繊維と同様のものである。樹脂成形体1におけるガラス繊維2の含有率は、10重量%未満が望ましい。10%重量%を超えると、樹脂成形体1の強度が低下し、またコスト増にもつながる。
【0013】
めっき樹脂成形体10の製造方法について説明する。
【0014】
まず、ガラス繊維2を含有した合成樹脂を射出成形又は押出成形等の方法によって成形し、樹脂成形体1を製造する。
【0015】
次に、樹脂成形体1の表面に対して粗面加工を施すことによって、樹脂成形体1のスキン層を除去すると共に、樹脂成形体1の表面を不規則に粗化する。スキン層とは、樹脂成形体1における成形型に接する表面層を指し、スキン層にはガラス繊維2が存在しない。スキン層を除去することによって、樹脂成形体1の表面にはガラス繊維2が露出する。
【0016】
粗面加工としては、例えば、旋盤等を用いて樹脂成形体1の表面を直接粗化する方法や、多数の硬質粒子を空気圧によって樹脂成形体1の表面に吹き当てるブラスト加工がある。ブラスト加工は、樹脂成形体1の表面を短時間で不規則に粗化することができるため、粗面加工として望ましい。
【0017】
次に、粗化した樹脂成形体1の表面における露出したガラス繊維2を溶解液にて溶解する。溶解の方法としては、溶解液を樹脂成形体1の表面に塗付してもよいし、また、溶解液中に樹脂成形体1全体を浸してもよい。溶解液は、ガラス繊維2を溶解できるものであれば、例えば、フッ化水素酸等どのような液を用いてもよい。
【0018】
ガラス繊維2の溶解後、粗化された樹脂成形体1の表面に対してめっき処理を施す。めっき処理を施すタイミングとしては、前工程における溶解液によるガラス繊維2の溶解において樹脂成形体1も溶解されてしまう可能性があるため、粗化された樹脂成形体1の表面が溶解液によって溶解される前に行うのが望ましい。めっき処理は、電解めっき、無電解めっき、蒸着、浸漬等どのような方法でもよい。
【0019】
粗化されると共にガラス繊維が溶解された樹脂成形体1の表面に対して、めっき処理を施すことによって、めっき層3は樹脂成形体1の表面の不規則な凹凸を利用するくさび効果によって樹脂成形体1の表面に密着し、さらに、めっきは溶解したガラス繊維2を利用して樹脂成形体1の深部に入り込む。したがって、めっき層3は樹脂成形体1に強固に密着する。また、樹脂成形体1にはガラス繊維2が含有されているため、引張強度等の機械的性質に優れる。このように、樹脂成形体1中に含有されるガラス繊維2は、めっき層3の密着力向上と、樹脂成形体1の機械的性質の向上との双方に寄与する。
【0020】
以上のように、本実施の形態に係るめっき処理方法によれば、めっき層3の密着力が優れると共に、機械的性質にも優れるめっき樹脂成形体10を製造することができる。
【0021】
以下に、本発明に係るめっき樹脂成形体(以下、「本成形体」と称する。)と、比較成形体とのめっき密着力及び機械的性質の比較実験について示す。
【0022】
本成形体の製造方法について説明する。
【0023】
まず、ガラス繊維を含有したポリアミド樹脂を射出成形によって成形し、樹脂成形体を製造する。
【0024】
次に、樹脂成形体の表面に対してブラスト加工を施す。具体的には、ガラス製150メッシュの硬質粒子を、吹き付け圧力0.5MPaにて、30秒間樹脂成形体の表面に対して吹き付けることによって行う。
【0025】
次に、フッ化水素酸中に樹脂成形体全体を浸漬することによって、樹脂成形体の表面に露出したガラス繊維を溶解する。
【0026】
そして、粗化された樹脂成形体の表面に対して無電解Niめっき処理を施す。以上のようにして、本成形体を製造する。
【0027】
比較成形体は、図4に示すように、充填材であるゴム材料を含有するABS樹脂を前処理薬品である酸性溶液中に浸漬し、ゴム材料を溶解した後に無電解Niめっき処理を施したものである。なお、比較成形体は、ガラス繊維を含有していない。
【0028】
以下に、比較実験の結果を示す。
【0029】
めっき密着力については、めっきの引張強度試験及びめっきのスクラッチ疲労試験によって評価した。
【0030】
まず、図2を参照して、めっきの引張強度試験の方法について説明する。図中上下方向の変位が拘束された上型23と下型24によって、成形体20を挟持して配置する。そして、棒状部材25を上型23の開口部26を挿通しめっき層21に固定する。棒状部材25とめっき層21との固定は、エポキシ樹脂系接着剤等を用いる。
【0031】
この状態にて、棒状部材25を図中上方、つまりめっき層21の厚さ方向に引張り、めっき層21が樹脂部22から剥がれるときの強度を測定した。このようにして、めっき層21と樹脂部22との界面27の引張強度を測定した。この結果、比較成形体におけるめっきの引張強度は、0.4MPaであるのに対して、本成形体におけるめっきの引張強度は、2.3MPaと非常に大きい強度であった。
【0032】
次に、図3を参照して、めっきのスクラッチ疲労試験の方法について説明する。成形体20を土台30に固定して配置する。そして、棒状部材25を所定の圧力にてめっき層21の表面に押し付け、めっき層21の表面に沿って往復運動させる。このように、棒状部材25をめっき層21の表面に擦り付け、めっき層21が樹脂部22から剥がれるときの棒状部材25の押付圧力を測定した。この結果、本成形体における押付圧力は、比較成形体における押付圧力の約1.8倍と非常に大きい圧力であった。
【0033】
以上のめっきの引張強度試験及びめっきのスクラッチ疲労試験からわかるように、本成形体におけるめっき層は、従来の成形体と比較して強固に樹脂部に密着していることがわかり、めっき密着力が非常に優れる。
【0034】
また、双方の成形体に対して引張試験を行った結果、比較成形体の引張強度は、70〜140MPaであったのに対して、本成形体の引張強度は、250MPaと非常に大きい引張強度であった。これは、本成形体は、ガラス繊維を含有しているためである。
【0035】
以上のように、本発明に係るめっき処理方法によって製造された本成形体は、比較成形体と比較して、優れためっき密着力と機械的性質を示す。
【0036】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るめっき処理方法は、ショックアブソーバ等の摺動部材の製造方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るめっき処理方法によって製造されためっき樹脂成形体の断面を示す模式図である。
【図2】めっきの引張強度試験の方法について説明する図である。
【図3】めっきのスクラッチ疲労試験の方法について説明する図である。
【図4】従来のめっき樹脂成形体の断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0039】
10 めっき樹脂成形体
1 樹脂成形体
2 ガラス繊維
3 めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を含有する樹脂成形体の表面を粗面加工することによって粗化する工程と、
前記粗化された樹脂成形体の表面における前記ガラス繊維を溶解液にて溶解する工程と、
前記ガラス繊維の溶解後、前記粗化された樹脂成形体の表面に対してめっき処理を施す工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形体のめっき処理方法。
【請求項2】
前記粗面加工は、ブラスト加工であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体のめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−24959(P2008−24959A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195290(P2006−195290)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】