説明

樹脂成形品

【課題】使用感がよく、表面に傷が付きにくいとともに、長期間安定して汚れ成分の付着を防止することができる樹脂成形品を提供することを目的としている。
【解決手段】ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる層を少なくとも表面に有する樹脂成形品において、前記樹脂組成物が多孔質シリカおよび帯電防止剤を、主成分100重量部に対し、多孔質シリカを2〜6重量部、帯電防止剤を0.1〜1重量部の割合で含み、鉛筆硬度HB以上の硬度を備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、自動車部品、産業用コンテナ、食品用コンテナ、食品容器等の樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、産業用コンテナ、食品用コンテナ、食品容器等には、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる樹脂成形品が多用されている。
ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂は、表面硬度が2B〜4Bと、柔らかいため簡単にキズがつきやすい。
【0003】
そこで、自動車部品、産業用コンテナ、食品用コンテナ、食品容器等の樹脂成形品を成形するのにタルク等の無機充填材が配合されている樹脂組成物を用いて、樹脂成形品の表面硬度を上げるようにしている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂は、親油性であるので、油性の物質が付着すると簡単には脱落しない。したがって、従来のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる樹脂成形品の場合、時間の経過とともに黒色の汚れが目立ってくるという問題がある。
この黒色の汚れは、排気ガス中のオイルミストとカーボン、空気中の粉塵(砂ぼこり、粘土類の微粉)等の空気中の浮遊物が、成形品の静電気により引き寄せられ付着することが原因である。
【0005】
従来、上記のような汚れがあると、食品等のコンテナにおいては不潔に見えて使用できなくなる。また、自動車部品においては、自動車自体の価値が低下するという問題があった。
そこで、食品等のコンテナにおいては70℃〜80℃のお湯を使い、頻繁に洗浄し、目立った汚れをなくすようにしていたが、洗浄の際、ブラシ等で表面を摩擦して汚れを落とすため、上記のように無機充填材の配合によって表面硬度を上げていたとしても、やはり表面にキズが付き、その結果、キズに汚れが食い込む、より強い力で洗浄するとの悪循環を繰り返していた。
【0006】
他方、樹脂組成物中に帯電防止剤を配合することによって、樹脂成形品表面へのゴミ等の付着を防止する方法もある。
そして、帯電防止剤として樹脂に対して相溶性が悪いものを配合すれば、拭き取りや洗浄によって樹脂成形品表面の帯電防止剤が無くなると、樹脂成形品内側の帯電防止剤が表面側に移行して汚れの付着を防ぐことができる。
【0007】
しかし、成形品内側の帯電防止剤がすべて消費されてしまうと、ゴミの付着防止効果がなくなってしまうため、長期間汚れの付着を防止するには、樹脂組成物中に帯電防止剤を多量に配合しておく必要があるが、樹脂組成物中に多量の帯電防止剤を配合させると、成形品表面がベタベタとなり、不潔感、不快感を抱かせる。そのため、多くの成形品は、約1年間の使用でしだいに付着したゴミが堆積し、汚れが濃くなるのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2001−288331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みて、使用感がよく、表面に傷が付きにくいとともに、長期間安定して汚れ成分の付着を防止することができる樹脂成形品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明にかかる樹脂成形品は、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる層を少なくとも表面に有する樹脂成形品において、前記樹脂組成物が多孔質シリカおよび帯電防止剤を含み、鉛筆硬度HB以上の硬度を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明において、多孔質シリカは、その一部の粒子が樹脂成形品の表面に露出していることが好ましい。
すなわち、一部の多孔質シリカ粒子が露出していることによって、より高い表面硬度を得ることができるとともに、臭いの吸着性も備えたものとすることができる。
【0012】
上記ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂としてはホモポリマーだけでなく、エチレン−プロピレン共重合体やそれらの混合物も含まれる。また、MFRが過度に大きいと、樹脂溶融時に樹脂中でのシリカの分散が不均一となって、効果の発現が小さくなることがあり、MFRが過度に小さいと、樹脂の流動性が不足して充填性不足となることがあるので、MFRが3〜30g/10分程度のとき本発明の効果を十分に発現できる。
【0013】
多孔質シリカとしては、特に限定されないが、平均粒子径が3μm以上5μm以下のものが好ましい。平均粒子径が小さ過ぎると、粒子が微細なために表面への露出が少なくなり、効果発現が小さくなることがあり、大き過ぎると、成形品表面のザラツキ感が発生することがある。
【0014】
帯電防止剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルジエタノールアミン等が使用できる。特に、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂に対する相溶性に優れるグリセリン脂肪酸エステルの場合、効果の発現性が良好である。
【0015】
本発明の樹脂成形品の製造方法は、特に限定されないが、射出成形が一般的で、単一樹脂組成物で成形されていても構わないが、サンドイッチ成形によってコア層を他の樹脂組成物で形成しても構わないし、金属板等の芯材をインサートするようにしても構わない。
【0016】
また、多孔質シリカおよび帯電防止剤の配合量は、特に限定されないが、主成分100重量部に対し、多孔質シリカを2〜6重量部、帯電防止剤を0.1〜1重量部の割合とすることが好ましい。
【0017】
すなわち、多孔質シリカが主成分100重量部に対し、2重量部未満であると、多孔質シリカ単独では表面硬度が十分確保できず、6重量部を越えると、添加の効果がそれ以上期待できないとともに、得られる成形品の曲げ強度、引っ張り強度等の物性を低下させる恐れがある。
一方、帯電防止剤が主成分100重量部に対し、0.1重量部未満であると、帯電防止剤による汚れ防止効果の耐久性の点で問題が生じ、1重量部を越えると、多孔質シリカの配合量によっては成形品表面がべとつく恐れがある。
【0018】
また、本発明にかかる樹脂成形品に用いられる樹脂組成物中には、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、他の無機充填材、顔料、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、核剤、難燃剤、分散剤等を配合することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明にかかる樹脂成形品は、樹脂組成物が多孔質シリカおよび帯電防止剤を含み、鉛筆硬度HB以上の硬度を備えているので、表面に傷がつきにくい。しかも、帯電防止剤が多孔質シリカに適度に吸着されるため、徐々にブリードアウトする。すなわち、帯電防止剤のブリードアウト速度を抑制でき、帯電防止性能を長期にわたり維持できる。したがって、汚れを長期間防止することができ、樹脂成形品も長期間きれいな状態で使用できる。そして、これまで、付着した汚れが落ちないために産業廃棄物となっていた樹脂成形品が、汚れが付きにくくなることで使用できる期間が長くなり、産業廃棄物を削減できる。
【0020】
また、食品等のコンテナの汚れを落とすため、コンテナ使用のたびに70℃〜80℃のお湯で洗浄を行っていたが、汚れの付着が低減することで、洗浄回数を少なくでき、水資源を有効に生かせ、環境への負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を、その具体的な実施例を参照しつつ詳しく説明する。
【0022】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製商品名プライムポリプロJ−830HV)100重量部に対し、多孔質シリカ(トクヤマ社製商品名レオロシール QS−102(親水性))を3重量部、帯電防止剤(花王社製商品名エレクトロストッパー12N)を0.2重量部それぞれ含む樹脂組成物を用いて射出成形によって各部の寸法が図1に示すとおりの色目が黄色の食品用コンテナを成形した。
【0023】
(実施例2)
多孔質シリカとして、多孔質シリカ(トクヤマ社製商品名レオロシール QS−102(親水性))3重量部に代えて、多孔質シリカ(富士シリシア社製サイロホービック100(疎水性))を5重量部配合した以外は、実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0024】
(実施例3)
多孔質シリカの配合量を2重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0025】
(実施例4)
多孔質シリカの配合量を6重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0026】
(実施例5)
帯電防止剤の配合量を0.1重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0027】
(実施例6)
帯電防止剤の配合量を1重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0028】
(実施例7)
多孔質シリカの配合量を10重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0029】
(実施例8)
帯電防止剤の配合量を1.5重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0030】
(比較例1)
多孔質シリカを配合しなかった以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0031】
(比較例2)
多孔質シリカの配合量を1重量部とした以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0032】
(比較例3)
多孔質シリカの配合量を1重量部とした以外は、上記実施例2と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0033】
(比較例4)
帯電防止剤を配合しなかった以外は、上記実施例1と同様にして図1に示す食品用コンテナを成形した。
【0034】
上記実施例1〜8および比較例1〜4で得られた食品用コンテナについて、コンテナ表面の鉛筆硬度測定、帯電防止性評価および汚れ評価を以下に示す方法でそれぞれ実施し、その結果を表1および表2に示した。
〔鉛筆硬度測定〕
JIS K 5600−5−4の引っかき硬度(鉛筆法)に準拠した。
〔帯電性〕
表面固有抵抗測定機 (ACI Incorporated製 Surface Resistivity Meter MODEL475 )にて、成形直後、成形1週間後、成形1ヶ月後、並びに成形3ヶ月後のコンテナ表面の表面固有抵抗値を測定した。
〔汚れ評価〕
汚れ物質(代用物)としてのエンジンオイル(エクソンモービル社製4サイクルエンジン用 10W−30 )50重量%とカーボン粉50重量%とを混合したものを薄膜状にコンテナ表面に塗布し、恒温室内で、60℃×8時間、20℃×16時間を1サイクルの繰り返し保管条件で保管して、保管1週間後、保管2週間後、保管3週間後、保管1ヶ月後、保管2ヶ月後、保管3ヶ月後に汚れ物質をきれいな綿布で拭き取り、その後「色差計」にてΔEを測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
上記表1,2から、本発明の樹脂成形品は、従来の樹脂成形品に比べ、傷つきにくく、かつ汚れもつきにくいことがよくわかる。
【0038】
(実施例9)
ポリエチレン樹脂(プライムポリマー社製商品名ハイゼックス 2208G)100重量部に対し、多孔質シリカ(水澤化学社製商品名ミズカシルP73(親水性))を3重量部、帯電防止剤(花王社製商品名エレクトロストッパー12N)を0.2重量部それぞれ含む表層用樹脂組成物と、コア層用ポリエチレン樹脂(プライムポリマー社製商品名ハイゼックス 2208G)とを用いて射出サンドイッチ成形によって各部の寸法が図2に示すとおりの色目が青色のバケツを成形した。
【0039】
(実施例10)
表層用樹脂組成物として、ポリエチレン樹脂(プライムポリマー社製商品名ハイゼックス 2208G)100重量部に対し、(富士シリシア社製サイロホービック100(疎水性))を5重量部、帯電防止剤(花王社製商品名エレクトロストッパー12N)を0.2重量部それぞれ含むものを用いた以外は、上記実施例9と同様にして図2に示すとおりの色目が青色のバケツを成形した。
【0040】
(比較例5)
表層用樹脂組成物として、 ポリエチピレン樹脂(プライムポリマー社製商品名ハイゼックス 2208G)100重量部に対し帯電防止剤(花王社製商品名エレクトロストッパー12N)を0.2重量部それぞれ含むものを用いた以外は、上記実施例9と同様にして図2に示すとおりの色目が青色のバケツを成形した。
【0041】
上記実施例9,10および比較例5で得られたバケツについて、バケツ表面の鉛筆硬度測定、帯電防止性評価および汚れ評価を上記した方法でそれぞれ実施し、その結果を表3および表4に示した。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂成形品は、たとえば、自動車部品、産業用コンテナ、食品用コンテナ、食品容器等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1〜8および比較例1〜4で作製した食品用コンテナの各部の寸法を示す斜視図である。
【図2】実施例9,10および比較例5で作製したバケツの各部の寸法を示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる層を少なくとも表面に有する樹脂成形品において、
前記樹脂組成物が多孔質シリカおよび帯電防止剤を含み、鉛筆硬度HB以上の硬度を備えていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
樹脂組成物が主成分100重量部に対し、多孔質シリカを2〜6重量部、帯電防止剤を0.1〜1重量部の割合で含む請求項1に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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