説明

樹脂成形品

【課題】本発明の課題は、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスに優れた成形品を提供することにある。
【解決手段】結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)を含む成形品であって、該成形品の厚みが2.5〜8mmであり、かつ該成形品の(A)と(B)の分散状態が、表面部分は偏在し内面部分は均一に分散していることを特徴とする、上記成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスに優れた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の成形品は、自動車部品、家庭電器部品、住宅建材部品などの幅広い用途に使用されている。そのなかで、目や手が触れたりする成形品は、汚れを取るために薬品が使用されることから、耐薬品性の高い結晶性樹脂が用いられる場合が多くある。しかし、結晶性樹脂からなる成形品は、結晶化する段階でヒケやソリが発生しやすくなり、目に触れる成形品として外観的に好ましくない。そこで、結晶性樹脂に非晶性樹脂を配合したアロイからなる成形品が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこれらのアロイは、耐薬品性とヒケやソリのバランスが十分ではなかった。そのため、耐薬品性とヒケやソリのバランスの更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−156508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスに優れた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、その目的に適合しうる成形品を見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち本発明者らは、結晶性樹脂(A)及び非晶性樹脂(B)を含む、厚みが2.5〜8mmの成形品において、(A)と(B)の分散状態が、表面部分では偏在し、内面部分では均一に分散していることにより、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下のとおりである。
(1) 結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)を含む成形品であって、該成形品の厚みが2.5〜8mmであり、かつ該成形品の(A)と(B)の分散状態が、表面部分は偏在し内面部分は均一に分散していることを特徴とする、上記成形品。
(2) 前記結晶性樹脂(A)がポリトリメチレンテレフタレートであり、前記非晶性樹脂(B)がスチレン系樹脂である、(1)記載の成形品。
(3) 前記ポリトリメチレンテレフタレート(A)50〜95質量%、及び前記スチレン系樹脂(B)50〜5質量%を含む(1)又は(2)に記載の成形品であって、該スチレン系樹脂(B)が不飽和ニトリル単量体を含む共重合体である、上記成形品。
(4) (1)〜(3)のいずれか一項に記載の成形品の製造方法であって、該成形品が射出成形で金型表面温度40〜75℃の条件にて得られる、上記製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の成形品は、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明における結晶性樹脂(A)は、結晶構造を持つ熱可塑性樹脂のことであり、一般的に公知な熱可塑性の結晶性樹脂が挙げられる。例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン及びポリエチレンなどが挙げられ、これらのうちポリエステル、ポリアミドが好ましく、更にポリエステルの中でもポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略す)が好ましい。ポリエステル自体は、公知のものを用いることができる。ポリエステルの製造は、テレフタル酸、そのエステル又は他のエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール又は1,2−エタンジオールとの反応によって公知の方法で行うことができる。
【0008】
ポリエステルは、他の共重合成分を含有してもよい。そのような共重合成分としては、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール−Aのエチレンオキシド付加物、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、等のエステル形成性モノマーが挙げられる。
共重合する場合の共重合量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよく、通常、酸成分の30モル%以下、又はグリコール成分の30モル%以下であることが好ましい。
ポリエステルの結晶化速度は、270℃において溶融している状態からの等温結晶化時間が25〜100secであることが好ましい。25sec以上とすることで、ヒケ、ソリを向上させることができる。これは、非晶性樹脂とのアロイの内面部分において、結晶化速度を25sec以上に制御することで、結晶化が進んでいない領域で非晶性樹脂と混ざり合いやすく、分散性を向上させることができることにより得られる効果である。一方、100sec以下とすることで、冷却速度が高い条件下においても、樹脂の結晶化が進行するため、耐薬品性を向上させることが出来る。冷却速度が高い条件下とは、例えば金型表面温度が低い条件下での成形や成形時に金型に接触する成形品表面部分などである。等温結晶化時間は示差走査熱量計(DSC)により以下の方法で測定できる。試料5mgを、示差走査熱量測定器を用いて、30℃から100℃/minの昇温速度にて270℃まで加熱し溶解させる。3分間保持した後、500℃/minの設定降温速度にて140℃まで急冷し、等温結晶化時間を測定する。ここで等温結晶化時間とは、270℃、3分保持後から140℃における結晶化ピークが現われるまでの時間と定義する。よって、等温結晶化時間が短いほど結晶化が速いと判断することができる。
【0009】
また、他のポリエステルを併用することで等温結晶化時間を制御することができる。例えば結晶化速度の高いポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略す)を用いる時は、結晶化速度が低いポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)等と併用することが好ましい。しかし併用する場合はエステル交換が進行し、結晶化度が低下することがある。そのため結晶化速度が適度に高いポリトリメチレンテレフタレートを単独で用いるか、又は他の芳香族ポリエステルと併用する場合はPTTを主成分として用いることがより好ましい。
【0010】
また結晶化速度を高くする目的で結晶核剤を配合してもよい。この様な結晶核剤としては、ポリエステルの結晶核剤として一般的に用いられている公知の化合物が用いられる。例えば、タルク、マイカ、窒化硼素、カオリン、シリカ、クレー、金属酸化物、無機カルボン酸塩、無機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、有機カルボン酸エステル塩、炭酸塩、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸塩とからなるイオン性共重合体等が好ましく使用される。中でも、下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩は、より好ましく用いられる。
CH(CHCOO(M) (1)
(式中、n≧0、M=Na、Ca、Li)
【0011】
脂肪酸金属塩の中では、高級脂肪酸Na塩、高級脂肪酸Ca塩、高級脂肪酸Li塩がさらに好ましい。これらの結晶核剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、それらの混合物を用いてもよい。
【0012】
結晶核剤の添加量は、ポリエステルの等温結晶化時間が本発明の範囲にあれば特に制限はなく、使用する結晶核剤の種類、組み合わせ、性能等に応じて適宜選択する。
【0013】
本発明の成形品中のポリトリメチレンテレフタレートの含有量は、50〜95質量%であることが好ましく、更に50〜75質量%が好ましい。50質量%以上とすることで、耐薬品性の効果を得ることができ、95質量%以下とすることで、ヒケ、ソリの効果が得られる。
【0014】
本発明における非晶性樹脂(B)は、結晶構造を持たない熱可塑性樹脂のことであり、一般的に公知な熱可塑性の非晶性樹脂が挙げられる。例えば、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、及びポリフェニレンエーテルエステルなどが挙げられ、スチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどが好ましく、更にスチレン系樹脂が好ましい。スチレン系樹脂とは、少なくとも芳香族ビニル単量体を含む単量体の混合物からなる共重合体であり、必要に応じて共重合可能な他の単量体を共重合することもできる。
共重合体可能な他の単量体としては、不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、及びマレイミド系単量体が挙げられ、不飽和ニトリル単量体が好ましい。
【0015】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、及びp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びエタクリロニトリルなどが挙げられ、アクリロニトリルが好ましい。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
また、スチレン系樹脂としては、結晶性樹脂との分散性に影響することから、その比粘度ηsp/cが0.4〜0.8であることが好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートが挙げられ、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、ブチルアクリレート、メチルメタクリレートが更に好ましい。最も好ましくは、n−ブチルアクリレートである。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
マレイミド系単量体としては、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミドが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
スチレン系樹脂には、ゴム状重合体を含むことができる。ゴム状重合体としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが使用できる。これらゴム状重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体及びエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム状重合体に芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、及び不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体から選ばれる1種以上の単量体がグラフトされることが好ましい。ゴム状重合体の質量平均粒子径は、0.1〜0.5μmが好ましい。
スチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、及びこれら重合法の組合せ等の方法がある。
本発明の成形品中のスチレン系樹脂の含有量は、5〜50質量%であることが好ましく、更に25〜50質量%が好ましい。5質量%以上とすることで、ヒケ、ソリの効果が得られやすく、50質量%以下とすることで、耐薬品性の効果が得られやすい。
また、本発明の成形品には、結晶性樹脂(A)、非晶性樹脂(B)以外に、以下の充填剤を加えてもよい。具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、ワラストナイト、タルク、タンカル、カオリン、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、酸化チタン及び酸化アルミニウムなどが挙げられ、繊維状の充填剤が好ましい。中でもチョップドストランドタイプのガラス繊維が好ましく用いられる。この中で、例えば、タルク、カオリン、マイカ、ガラス繊維等では、使用する種類等により、結晶核剤として作用する性質を持つものもある。
結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)の溶解度パラメータの差が4.5〜5.0であることが好ましい。4.5以上とすることで、相容性が低くなる傾向があり、成形品の表面部分と内面部分の分散性に差が生まれやすく、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスが良くなる。また5.0以下とすることで、相容性が高くなる傾向があり、機械的特性も良くなる。
【0017】
溶解度パラメータ(以下、SP値)とは、その分子を溶媒として用いる場合の溶解性を示すパラメータのことであり、異なる2種類の高分子同士を混合する場合においては、SP値が近いほど、相容性が高くなる傾向がある。SP値は、高分子の分子構造から概算することができる。計算方法にはいくつかの方法があるが、本発明においては、Smallらが提案した方法によって算出した。具体的には、文献「POLYMER HANDBOOK 4thEDITION Volume2.(WILEY−INTERSCIENCE出版、J.Brandrup編)」中p.683にあるTable.3:各官能基のEcoh及びV値(CONTRIBUTION TO Ecoh AND V)に記載の数値(抜粋したものを表1に示す)を以下の[式1]に代入することによって算出できる。
【表1】


【数1】


たとえば、結晶性樹脂(A)がPTTであった場合の溶解度パラメータδの算出は下記のようになる。官能基のEcoh及びVの値は、下記に示すとおりである。
表1の値を、式1に代入して、
【数2】


同様に、非晶性樹脂(B)がAS樹脂(アクリロニトリルスチレン共重合体)であり該樹脂中のAN(アクリロニトリル)成分の比率が29%であるAS樹脂であった場合の溶解度パラメータは、AS樹脂が共重合体であるため、共重合体の溶解度パラメータを求める方法を用いて下記のように算出する。
共重合体の溶解度パラメータを求める式は、以下[式2]の通りである。
【数3】


このときφは、ポリマー中の各原料成分の体積分率を、δはポリマー中の各原料成分の溶解度パラメータ、言い換えれば各原料成分がそれぞれ単体でポリマーを構成したときの溶解度パラメータを意味する。また、添え字は、各原料成分を表している。
ここでは、添え字をANをアクリロニトリル成分のみからなるコモノマーユニット、Stをスチレン成分のみからなるコモノマーユニットとし、AS樹脂の溶解度パラメータを算出する。重合度をnとし、各モノマー成分のみからなるポリマーの溶解度パラメータはそれぞれ、以下の通りである。
【数4】


【数5】


上記の値と体積分率をそれぞれ[式2]に代入して、以下のようにAS樹脂の溶解度パラメータが得られる。
【数6】

【0018】
本発明の成形品は、厚みが2.5〜8mmであり、更に好ましくは2.5〜5mmである。2.5mm以上とすることで、成形品の表面部分と内面部分で冷却速度に差が生まれ、分散性に差が生まれやすくなる。また、8mm以下とすることで、表面と内面の冷却速度の差が開きすぎるのを抑制し、ヒケ・ソリの発生を抑えられる。成形品の形状や大きさとしては、特に限定はされない。成形品の形状や大きさとしては、特に限定はされない。成形品が使用される用途としては、人の目に触れ、且つ手で触われる製品が好ましい。例えば、スポイラー、ガーニッシュ、ドアハンドルなどの自動車製品、TV、PC、ゲーム機などの家電・OA製品、洗面台、キッチン、バスなどの住宅建材製品などが挙げられる。
【0019】
本発明の成形品の成形方法は、成形品の表面部分と内面部分の分散性が異なる方法であり、射出成形、押出成形、真空・圧空成形、ブロー成形、フィルム・インフレーション成形などが挙げられ、この中でも射出成形が好ましい。
【0020】
射出成形では、金型表面温度が40〜75℃であることが好ましく、更に60〜75℃が好ましい。40℃以上とすることで、結晶性樹脂の結晶化が進み、耐薬品性の効果が得られやすく、75℃以下とすることで、成形品の表面部分と内面部分の分散性が異なり、耐薬品性とヒケ、ソリのバランスが良くなる。
【0021】
本発明の成形品の表面部分とは、成形品の厚みに対して、表面から2%まで内部にある樹脂層の部分のことであり、成形品の内面部分とは、成形品厚みの中心から2%まで外部にある樹脂層の部分のことである。例えば、成形品の厚みが2.5mmの場合、表面部分は、成形品表面から0.05mmの樹脂層の部分であり、内面部分は、成形品厚みの中心から0.05mmの範囲にある樹脂層の部分である。
【0022】
本発明における成形品の表面部分と内面部分の分散性の違いは、ラマン分光法を用いて評価する。成形品を切削し、その断面部分にラマン分光光度計のレーザを照射することによって得られたスペクトルにおいて、成形品中の結晶性樹脂由来のピークと非晶性樹脂由来のピークの高さ(ラマン強度)を観察する。ここでいうピークとは、ラマン分光スペクトルにおいて峰状に表れる部分を指す。スペクトル中のピークの波数(cm−1)から観測サンプルに含まれる物質の種類や構造を推定することができる。また、観測サンプルが混合物の場合、スペクトル中の各原料由来のピークに対し、ピークの高さにあたるラマン強度を比較することで、混合物中の原料の組成比を推定することもできる。結晶性樹脂由来のピークとは、例えば結晶性樹脂がPTTなどのポリエステルであった場合には、エステル基中の−C=O部分の伸縮振動を示すピークが該当し、1735〜1750cm−1の波数領域に観測される。また、非晶性樹脂由来のピークとは、例えば非晶性樹脂がAS樹脂であった場合では、アクリロニトリル部分の−C≡N部分の伸縮振動を示すピークが該当し、2220〜2260cm−1の波数領域に観測される。
成形品の表面部分と内面部分の分散性の違いは、以下のように定義する。成形品の表面部分と内面部分、各々5箇所を測定し、結晶性樹脂由来−C=Oが示すピークのラマン強度を100とし、それに対する非晶性樹脂由来−C≡Nが示すピークのラマン強度を、ラマン強度比として、測定箇所ごとに算出する。標準偏差は以下の式によって求められる。各ピークのラマン強度比をx、ラマン強度比の平均値をxとし、標準偏差をσとするときσ=1/n×Σ(x−xの式が成り立つ。σは分散とよばれ、分散の正の平方根が標準偏差となる。標準偏差は、その数値が大きくなるほど採取した数値がばらついていることを示している。すなわち、成形品の表面と内面のそれぞれにおいて、結晶性樹脂に対する非晶性樹脂が示す各ピークのラマン強度比の標準偏差を算出し比較することで、測定した領域の樹脂の分散性を評価することができる。内面部分においては、ヒケ・ソリの発生を防止するため、結晶性樹脂と非晶性樹脂が均一に分散していることが望ましい。したがって、内面部分のラマン強度比の標準偏差は5未満であることが好ましい。一方、表面部分においては、耐薬品性を向上させるため、結晶化が進んでいることが望ましい。また、結晶性樹脂の結晶中に非晶性樹脂が混在することは起こり得ないため、結晶化が進んでいれば、必然的に結晶性樹脂と非晶性樹脂が偏在している状態となる。したがって、表面部分のラマン強度比の標準偏差は15以上であることが好ましい。
【0023】
[実施例・比較例]
下記の実施例及び比較例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものである。使用した樹脂組成物は下記のとおりである。
1.実施例及び比較例に用いた原材料
<芳香族系ポリエステル(A)>
(A−1)デュポン(株)製PTT
:ソロナ(登録商標)3000
(A−2)ウィンテックポリマー(株)製ポリブチレンテレフタレート(以下PBT):デュラネックス 600FP
(A−3)(株)クラレ製ポリエチレンテレフタレート(以下PET)
:クラペット KS710B−8S
<スチレン系樹脂(B)>
(B)アクリロニトリル29質量%、スチレン71質量%からなり、ηSP/Cが0.73であるAS樹脂(旭化成ケミカルズ(株)製)
【実施例】
【0024】
2.成形体の作製
[実施例1]
表2に記載の配合割合で芳香族ポリエステル(A)とスチレン系樹脂(B)をブレンドし、2軸押出機(東芝機械(株)製:TEM35、2軸同方向スクリュー回転型、L/D=47.6(D=37mmφ))を用い、スクリュー回転数250rpm、シリンダー温度260℃で溶融混練を行ってアロイを製造した。先端ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷、カッティングして得られたペレットを、シリンダー設定温度250℃、金型表面温度70℃とした以下に示す射出成形機で、各々成形品を成形・評価を行った。
ソリ・ヒケ及び原料樹脂の分散性の評価には、JSW社製J−100EPI射出成形機を用いて、100mm×100mm×3.0mmのカラープレートを、成形、評価を行った。
【0025】
耐薬品性の評価には、テスター産業(株)製SA−301 70トン2段プレス成形機を用いて、100mm×100mm×3.0mmの平板を成形、評価を行った。
[比較例1]
ポリトリメチレンテレフタレートの代わりにポリブチレンテレフタレートを用いる以外は、実施例1と同様に実施した。
[比較例2]
ポリトリメチレンテレフタレートの代わりにポリエチレンテレフタレートを用いる以外は、実施例1と同様に実施した。
[比較例3]
金型表面温度を90℃とした以外は、実施例1と同様に実施した。
[比較例4]
スチレン系樹脂を用いず、ポリトリメチレンテレフタレートを100部とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0026】
3.物性評価
本件発明の効果を示すために、実施例で製造した成形体について以下の物性を評価した。
[ヒケ]
実施例で成形した成形品の表面を、目視にて観察したとき、表面に凹みが皆無であったものを良(○)、凹みが見られたものを不可(×)とした。
[ソリ量]
射出成形機で100mm×100mm×3.0mmのカラープレートを成形し、角の1点を押さえ、押さえた点と対角線上の角の浮いた高さをソリ量とした。単位:mm。
[成形品表面と内面の原料樹脂分散性の違い]
ラマン分光光度計(ThermoFisherScientific 社製 AlmegaXR)を用いて、実施例で成形した成形品の表面及び内面において(A)成分由来の−C=Oを示すピークのラマン強度を100としたときの(B)成分由来である−C≡Nを示すピークのラマン強度(ラマン強度比)を測定し、その標準偏差を算出した。
内面及び表面それぞれにおいて得られた標準偏差の値に対し、適しているかどうかを以下のように判定した。
内面ラマン強度比の標準偏差が5未満、表面ラマン強度比の標準偏差が15以上をそれぞれ発明品の効果を得るための適した効果であるとし、内面・表面共に満たしているものを良(○)、いずれか一方のみ満たしているものを可(△)、いずれも満たしていないものを不可(×)とした。
その際、ラマン測定条件は、励起レーザ波長:532nm、露光時間:5秒、レーザ出力:80%、レーザスポット:1μmで行った。なお、比較例4については、結晶性樹脂のみのため記載なしとして−とした。
[耐薬品性]
試験は、ベンディングフォーム法で行った。実施例でのペレットから、100mm×100mm×3.0mmの平板を圧縮成形法(プレス成形)により作成した後、幅12.7mm、長さ100mmに切削し、ベンディングフォーム(曲げ型)に固定した。薬液として第一工業製薬(株)製の界面活性剤ノイゲンEA120(商品名)を塗布して23℃の環境下で48時間放置後、クレーズ及びクラックの発生の有無を確認し、試験治具の曲率から限界歪み[%]を求めた。具体的には、臨界歪み値が、0.8%以上のものを良(○)、0.5以上〜0.8%未満の範囲のものを可(△)、0.5未満のものを不可(×)とした。
【表2】


表2に示すように、本発明に規定する条件を満たさない場合には、本発明の効果を得ることはできないが、本発明に規定する条件を満たす場合には、耐薬品性とヒケ・ソリのバランスに優れた成形品を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る成形品は、自動車部品、家電電器部品、住宅建材部品等、さまざまな用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)を含む成形品であって、該成形品の厚みが2.5〜8mmであり、かつ該成形品の(A)と(B)の分散状態が、表面部分は偏在し内面部分は均一に分散していることを特徴とする、上記成形品。
【請求項2】
前記結晶性樹脂(A)がポリトリメチレンテレフタレートであり、前記非晶性樹脂(B)がスチレン系樹脂である、請求項1記載の成形品。
【請求項3】
前記ポリトリメチレンテレフタレート(A)50〜95質量%、及び前記スチレン系樹脂(B)50〜5質量%を含む請求項1又は2に記載の成形品であって、該スチレン系樹脂(B)が不飽和ニトリル単量体を含む共重合体である、上記成形品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形品の製造方法であって、該成形品が射出成形で金型表面温度40〜75℃の条件にて得られる、上記製造方法。

【公開番号】特開2011−245725(P2011−245725A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120577(P2010−120577)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第18回ポリマー材料フォーラム、社団法人 高分子学会、開催日平成21年11月27日
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】