説明

樹脂組成物、その混練物、及びその混練物の成形品

【課題】 剛性及び透明性に優れた成形品に好適な樹脂組成物、これを混練してなる混練物、及びこの混練物を用いて成形された成形品を提供すること。
【解決手段】 結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルと、下記構造式のニッケル錯体(核剤)とを含有する樹脂組成物、これを混練してなる混練物、及びこの混練物を用いて成形された成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の結晶化に好適な樹脂組成物、この樹脂組成物を混練してなる混練物、及びこの混練物を用いて成形された成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子樹脂は、結晶化するか又はしないかによってその機械的特性が異なる。
【0003】
一般に、結晶構造を取り得る高分子樹脂においては、結晶化させた方が機械的強度が高くなり、好ましい。また、結晶構造を取り得る高分子樹脂を成形時に結晶化させる場合には、その樹脂の結晶性(結晶化し易いか又は結晶化し難いか)によって、成形性がかなり異なる。
【0004】
具体的には、一般に、結晶構造を取り得る樹脂の場合、その結晶性が高い方が、成形サイクルを短くできるため好ましい。
【0005】
そこで、結晶構造を取り得る樹脂の結晶性を改善するために、その樹脂の結晶化用の核剤の研究開発が行われている。ここで、核剤とは、結晶性樹脂の一次結晶核になって結晶性樹脂の結晶成長を促進するものである。また広義には、結晶性樹脂の結晶化を促進するものとされることもある。即ち、樹脂の結晶化速度そのものを速くするものも、核剤と言うことがある。
【0006】
この核剤が樹脂に添加されると、樹脂の結晶が微細となり、その樹脂の結晶性が改善されて剛性が向上する。また、樹脂を成形中に結晶化させる場合に、結晶化の全体の速度(時間)を早めることから、成形サイクルを短縮できるといった利点がある。
【0007】
また、一般に、結晶構造を取り得る樹脂は、核剤を用いずにその樹脂だけを結晶化させると、白濁してしまうが、核剤を用いることにより、透明性が改善される。例えば、ポリプロピレンは、核剤を添加することによって剛性や透明性が改善され、このように物性が改善されたポリプロピレンは、多くの成形品で実用化されている。
【0008】
この場合の核剤としては、金属塩タイプの核剤が挙げられ、例えば、ヒドロキシ−ジ(t−ブチル安息香酸)アルミニウム、リン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム、及びメチレンビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートナトリウム塩等が挙げられる。
【0009】
また、例えば、ソルビトール系物質の核剤も実用化されており、その作用機序は完全には解明されていないが、この物質が作る三次元的なネットワークが効果的に作用していると考えられる。
【0010】
また、結晶構造を取り得る高分子樹脂として、下記の一般式(1)で表されるポリエチレンサクシネートを用い、これにタルク等の核剤を添加することによってその結晶性を改善することができ、合成繊維及びフィルム等の成形に有利となることが報告されている(後記の特許文献1を参照。)。

一般式(1):−(OCH2CH2OCOCH2CH2CO)n
【0011】
他方、結晶構造を取り得る高分子樹脂としてのポリエチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペート等のポリブチレン系ポリエステルに、核剤である窒化ホウ素を添加し、結晶性の改善を図るものが報告されている(後記の特許文献2を参照。)。
【0012】
【特許文献1】特開平7−304939号公報(特許請求の範囲、2頁段落[0009]〜3頁段落[0015])
【特許文献2】特開2006−117810号公報(特許請求の範囲、4頁6行目〜9頁13行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、結晶構造を取り得る高分子樹脂に適した核剤の研究開発が進められている。しかしながら、結晶構造を取り得る高分子樹脂には多くの種類が存在し、各樹脂について、その結晶性の改善のために添加される最適な核剤の研究開発は始まったばかりであり、未だ充分な効力を持つ核剤は殆んど見出されていないのが実情である。
【0014】
本発明の目的は、このような従来の実情に鑑み、特定の樹脂組成物、これを混練してなる混練物、及びこの混練物を用いて成形された剛性、透明性及び耐熱性に優れた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明は、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルと、下記構造式で表される核剤としてのニッケル錯体とを含有する樹脂組成物に係わるものであり、またこの樹脂組成物が混練されてなる混練物、及びこの混練物が成形されてなる成形品に係わるものである。

【発明の効果】
【0016】
本発明者は、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルに、特定構造の前記ニッケル錯体が含有された樹脂組成物を用いることによって、前記ニッケル錯体が有効な核剤として機能し、前記ポリブチレン系ポリエステルの結晶性が大きく向上することを見い出したのである。
【0017】
そして、この樹脂組成物を用いて成形された成形品は、優れた剛性、耐熱性、成形性及び透明性を示すことが判明した。本発明の樹脂組成物の結晶化温度は、前記ポリブチレン系ポリエステル単体の結晶化温度より高いので、より高い型温度で成形することができる。従って、樹脂の流れ性を改善でき、金型への樹脂の充填性を改善でき、しかも、結晶化の全体の速度(時間)を早めることから、成形サイクルをより短縮することができ、製造歩留りを向上することができる。
【0018】
本発明において、核剤とは、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルの一次結晶核となり、結晶成長を促進するものであり、また広義には、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルの結晶化を促進させ、樹脂の結晶化速度そのものを早くするものを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明においては、前記ポリブチレン系ポリエステルがポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート又はポリブチレンアジペートであるのが望ましい。
【0020】
この場合、前記ニッケル錯体が、前記ポリブチレン系ポリエステル100質量部に対して、0.1〜30質量部(0.1〜23質量%)の範囲で含有されているのが望ましい。
【0021】
また、前記ポリブチレン系ポリエステルの結晶化用の核剤の粒径は5μm以下であるのが望ましい。
【0022】
また、産業廃棄物の処理問題に対応するために、前記ポリブチレン系ポリエステルが生分解性ポリブチレン系ポリエステルであるのが望ましい。こうした生分解性樹脂は、自然環境の中で、例えば微生物によって分解されるため、廃棄物処理場の不足といった問題等を根本的に解決し得る利点がある。
【0023】
この場合、成形後の機械的物性、例えば形状維持のために、カルボジイミド基を有する化合物等の加水分解抑制剤が更に含有されているのが望ましい。
【0024】
また、上述の樹脂組成物を混練して混練物とすることができ、更に、この混練物を成形して成形品とすることができる。
【0025】
この場合、前記混練物を、成形時に加熱後に冷却して結晶化することにより、特に剛性、透明性及び耐熱性の良い成形品を得ることができる。
【0026】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的に説明する。
【0027】
図1には、本実施の形態に基づく樹脂組成物を用いて成形品を作製する製造フローを示す。
【0028】
まず、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステル(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート又はポリブチレンアジペート等の結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステル)Aからなるペレットを、例えば、60℃で5時間減圧し、乾燥する。結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルからなるこのペレットには、前記の減圧乾燥に限らず、例えば温度80℃で12時間の温風乾燥を行ってもよいが、減圧乾燥を行うことが好ましい。
【0029】
次に、このポリブチレン系ポリエステルAのペレットと、上記した構造式の核剤(ニッケル錯体)Bとを所定量ずつ秤量し、ミキサー等で混合する工程を行う。
【0030】
次に、この混合物を、例えば、2軸混練機等を用いて加熱しながら混練する工程を行うことにより、樹脂組成物からなる混練物を作成し、この混練物をペレット化し、温風乾燥する。
【0031】
このようにして、ポリブチレン系ポリエステル中に核剤としてのニッケル錯体がほぼ均一に分散された本発明に基づく樹脂組成物のペレット(混練物)を得る。
【0032】
次に、このペレット化した混練物を用いて成形するために、加熱(溶融)後に冷却する成形工程(結晶化工程)を経ることにより、結晶化した樹脂組成物からなる所望の成形品を得る。
【0033】
この成形工程により、図2(a)に示した未結晶状態の樹脂組成物1中に、図2(b)に模式的に示す結晶化部2を形成することができる。
【0034】
このように、本実施の形態によれば、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルに、安定した構造のニッケル錯体からなる核剤が混合、分散された状態で、このニッケル錯体が有効な核剤として機能してポリブチレン系ポリエステルの結晶性を向上させることができる。
【0035】
その結果、この樹脂組成物を用いて成形された成形品は、優れた剛性、成形性、耐熱性及び透明性を示すものとなる。
【0036】
結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルは、結晶構造を一部でも取り得るものであれば特に限定されず、全ての分子鎖が規則正しく配列できるものでなくてもよい。また、全ての分子鎖に規則性がなくても、一部の分子鎖セグメントが配向可能であればよい。従って、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルは、直鎖状であることが好ましいが、分岐状等であってもよい。
【0037】
具体的には、このようなポリブチレン系ポリエステルとして、例えば、下記一般式(2)で表されるポリブチレンサクシネート、下記一般式(3)で表されるポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート又はポリブチレンアジペートを用いることが望ましい。
一般式(2):−(OCH2CH2CH2CH2OCOCH2CH2CO)n
一般式(3):−(OCH2CH2CH2CH2O−X)n
(但し、一般式(3)において、Xは−COCH2CH2CO−又は/及び−COCH2 CH2CH2CH2CO−である。)
【0038】
こうしたポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート又はポリブチレンアジペートは、ガラス転移温度が室温(25℃)以下であり、上記一般式(2)、(3)で表される物質が特に有効である。
【0039】
また、これらの物質は成形性、耐熱性及び耐衝撃性をバランスよく有しており、例えば、昭和高分子株式会社製の生分解性ポリブチレン系ポリエステル(製品名:ビオノーレ)等を用いることができる。
【0040】
また、ポリブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートアジペート等の前記ポリブチレン系ポリエステルは、公知の方法によって容易に製造することができる。その製造方法は、生分解性のポリブチレン系ポリエステルを製造できさえすれば、どのような方法であってもよい。
【0041】
また、本実施の形態による樹脂組成物においては、更に他の樹脂成分として、必ずしも結晶構造を取らない生分解性ポリエステルやその他の生分解性樹脂等が含まれていてもよい。
【0042】
こうした必ずしも結晶構造を取らない生分解性ポリエステルやその他の生分解性樹脂は、自然界や生体の作用で分解して同化される有機材料であるために、環境に適合した理想的な材料であり、本実施の形態による樹脂組成物が有する上述した優れた効果を損なわなければ、どのような材料でも構わない。
【0043】
このような生分解性樹脂としては、例えば、セルロース、デンプン、デキストラン又はキチン等の多糖誘導体;コラーゲン、カゼイン、フィブリン又はゼラチン等のペプチド;ポリアミノ酸;ポリビニルアルコール;ナイロン4又はナイロン2/ナイロン6共重合体等のポリアミド;必ずしも結晶構造を取らないものとして知られているポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリコハク酸エステル、ポリシュウ酸エステル、ポリヒドロキシ酪酸、ポリジグリコール酸ブチレン、ポリカプロラクトン又はポリジオキサノン等のポリエステル;等が挙げられる。
【0044】
これらの樹脂のうちの1種又は複数種を含有させてもよい。2種類以上の生分解性樹脂を含有させる場合には、それ等の樹脂が共重合体を形成していてもよいし、混合状態であってもよい。
【0045】
また、本実施の形態による樹脂組成物には、上述した生分解性樹脂以外の樹脂が含有されていてもよい。例えば、生分解性を有しない合成樹脂等が含まれていてもよい。
【0046】
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン等の炭化水素系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート等の極性ビニル系プラスチック;ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の線状構造プラスチック;酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系プラスチック;スチレン−ブタジエン系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系等の熱可塑性エラストマー;ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂;分解速度を緩和したポリ乳酸及びポリブチレンサクシネート;等が挙げられる。
【0047】
前記構造式の核剤は粒子をなし、その粒径は原理的にはなるべく小さい方がよい。ただし、粒径が小さくなるほど、凝集し易くなり、実質的な粒径が逆に大きくなってしまうことがある。具体的には、この核剤の粒径は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm〜4μmである。これにより、とりわけ後述の前処理をしない場合であっても、核剤の凝集を防止することができるために、後述する均一分散処理を行わなくても、ポリブチレン系ポリエステル中に比較的容易に分散させることが可能になる。
【0048】
特に、平均粒径0.05μm〜0.2μmの核剤は、より好ましいものであるが、これは凝集抑制処理や樹脂への均一微分散処理を行うことによって、樹脂中に均一分散することができる。
【0049】
また、前記核剤の凝集を防止するために、何らかの分散剤で前記核剤の微粒子を予め処理しておいてもよい。
【0050】
こうした分散剤としては、従来公知の分散剤を適宜選択して用いることができるが、できれば非イオン性のものが望ましい。それは、イオン性である場合にポリブチレン系ポリエステルの加水分解を促進してしまうからである。そのために、分散剤としては具体的には、ワックスを用いることができ、例えば、低分子ポリエチレンのワックスを用いることができる。
【0051】
もちろん、分散剤としては、公知の物質でなくても、前記核剤の微粒子を分散させる作用を有する物質であれば用いることができる。
【0052】
ここで、前記核剤として互いに異なる粒径のものを用いるときには、前記ポリブチレン系ポリエステルへの添加量を同一にして比較した場合に、粒径が小さい方が、核として働く粒子数が増えるために好ましい。
【0053】
例えば、粒径を半分にすると、その1つの粒子の体積は1/8になるため、粒子数は8倍になる。即ち、理想的には、粒径を半分にすることで添加量を1/8にしても、核剤として同等の効果を期待できる。
【0054】
また、本実施の形態による樹脂組成物においては、前記核剤としてナノメーターサイズの微粒子を用い、この微粒子を前記ポリブチレン系ポリエステル中に適当量添加し、均一に分散させることによって、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルの結晶を光の波長以下に小さくでき、結晶化しても透明性をもたらし易くなる。
【0055】
また、前記核剤は、従来公知の製造方法によって製造することができるし、市販品をそのまま用いてもよい。例えば、BASFジャパン株式会社製の製品名Palitol Yellow L 1772を用いることができる。この製品は顔料として市販されている。また、この製品は、The Society of Dyers and Colourists社発行のカラーインデックスでは、Pigment Yellow 153として表されている。
【0056】
また、このThe Society of Dyers and Colourists社発行のカラーインデックスで表される他の物質(顔料)を、前記核剤の代わりに一部用いることもできる。
【0057】
その具体例として、カラーインデックスを略記して表すと、PB1〜72、PBl1〜61、PBr1〜35、PG1〜50、PO1〜71、PR1〜279、PV1〜50、PW1〜6、PY1〜152、PY154〜214、SR1〜135、VB1〜29、VBl1〜25、VBr1〜3、VG1〜9、VO1〜9、VR1〜45、VV1〜45及びVY3〜20を挙げることができる。
【0058】
ここで、記号の意味は次の通りである。1文字目のPはPigment、VはVat、SはSolventをそれぞれ意味し、2文字目のBはBlue、BrはBrown、BlはBlack、GはGreen、OはOrange、VはViolet、Wはwhite、YはYellowをそれぞれ意味する。
【0059】
また、上記では列記しないが、上述したものの他に、1文字目がA、R又はF等で表される色材もあり、これ等も前記核剤の代わりに一部用いることもできる。なお、AはAcid、RはReactive、FはFoodをそれぞれ意味する。
【0060】
また、カラーインデックスとして略記して表されるFB1〜393の物質も、前記核剤の代わりに一部用いることもできる。なお、FBは、Fluorescent Brightenerを意味する。
【0061】
本実施の形態において用いる前記ニッケル錯体(核剤)としての製品名Palitol Yellow L 1772は、比表面積が14m2/gである。仮に、この物質の比重が1g/cm2であり、かつ、この製品の粒子形状が球であると仮定すると、その比表面積から粒子の直径は0.3μmであると計算される。
【0062】
即ち、粒径がそれほどは細かくはないであろうと考えられる。この製品をそのまま用いることもできるが、微粉砕して粒径を小さくして用いると、核剤としての効果がより高くなり、好ましい。
【0063】
この微粉砕には、従来公知の方法が適用できる。例えば、機械的な粉砕方法又は化学的方法のいずれでもよい。
【0064】
機械的な粉砕方法には、ボールミルによる方法、ソルトミリングによる方法又は凍結粉砕等が挙げられる。或いは、ジェットミル又はエアーハンマーと呼ばれる粉砕方法も適用できる。これ等の方法は、粒子を気流とともに二方向から衝突させて粉砕する方法である。
【0065】
また、化学的な方法としては、再結晶法や噴霧乾燥法等が挙げられる。核剤である上記構造式のニッケル錯体を所定の溶媒に溶解させ、再結晶によって微粒子を得ることもできる。即ち、温度による溶解度の相違を利用して高温のニッケル錯体飽和溶液を冷却したり、溶媒を蒸発させて濃縮したり、更には、溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させたりする等の方法により、微粒子を得ることができる。又は、ニッケル錯体を溶解させた溶液を噴霧して溶媒を気化させて微粒子を得る噴霧乾燥も適用できる。その他、従来公知の微粒子作製方法をいずれも適用できる。
【0066】
このような微粒子化加工により核剤の粒子を小さくすると、凝集しやすくなる。結晶構造をとり得るポリマーへ添加する前の段階では、核剤の粒子が凝集しているか、凝集が少ないか、あるいは凝集していないかは、本実施の形態では問わないが、ポリマーへ核剤を添加して樹脂組成物を作製した時に、ポリマー中で核剤の粒子が凝集しているのは好ましくなく、均一分散していることが望ましい。
【0067】
この状態を達成するためには、やはりポリマーへ添加する前の段階で、核剤の凝集を抑制しておくのが望ましい。この凝集を抑制する方法としては、従来知られている方法を用いることができる。例えば、核剤に凝集防止剤を微粒化加工前に添加したり、若しくは、その加工中に添加又はその加工後に添加する方法が挙げられる。
【0068】
このような凝集防止剤としては、従来公知の材料を適用でき、例えば、低分子ポリエチレンや非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0069】
また、ポリブチレン系ポリエステル中において核剤を均一に分散させる工程を、凝集防止剤を添加することによって達成することもあるが、ポリエステルと核剤とを混合する方法についても重要である。この混合方法については後述する。
【0070】
核剤の添加量は、目的とする効果が実現できる量となるようにするが、これに加えて、用いる核剤の粒径も添加量に影響することは上述した通りである。
【0071】
概して、前記核剤は、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等のポリブチレン系ポリエステル100質量部に対して、0.1〜30質量部(質量%に換算すると0.1〜23質量%)の範囲で含有されているのが好ましく、より好ましくは1〜25質量部(質量%に換算すると1〜20質量%、更に好ましくはその範囲で2質量%以上)である。
【0072】
この時、平均粒径0.05μm〜0.2μmの核剤が凝集抑制処理や樹脂への均一微分散処理によって樹脂中に均一分散する場合には、0.1〜5質量部(質量%に換算すると0.1〜4.8質量%)の添加量が好ましい。
【0073】
この含有量が多いほど、核剤としての効果は大きくなるが、含有量を多くし過ぎると、核剤が硬い有機粒子であるために、本実施の形態による樹脂組成物が脆くなり易い。しかしながら、核剤としての効果を得るためには、前記ポリブチレン系ポリエステル100質量部に対して、前記核剤の含有量は、少なくとも0.1質量部必要である。
【0074】
ここで、核剤は、ポリブチレン系ポリエステルに対してフィラーとしての効果も有する。例えば、核剤の含有量を10質量部程度にすれば、本実施の形態による樹脂組成物の弾性率の向上を図ることができる。もちろん必要に応じて、本実施の形態による樹脂組成物には、更に別の無機フィラーが添加されてもよい。
【0075】
この無機フィラーは公知のものであってよく、例えば、タルク、アルミナ、シリカ、マグネシア、マイカ又はカオリン等が挙げられる。
【0076】
この無機フィラーは、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステル100質量部に対して約1〜50質量部の範囲で含有されていることが好ましい。無機フィラーの含有量をこの範囲とすることにより、本実施の形態による樹脂組成物の脆弱化を避けることができる。
【0077】
ここで、上述の核剤が添加されたポリブチレン系ポリエステルの結晶化メカニズムを説明する。
【0078】
一般に、結晶性高分子樹脂の融点以上での溶融状態は、複数の高分子鎖が絡み合った状態になっている。そして、温度が融点以下に充分に下がってくると、結晶核が自然発生し、絡み合った状態から1本の高分子が抜け出しながら、その結晶核へ高分子が折り畳まりながら配列し、結晶化する(図2参照)。
【0079】
この微小結晶は、厚さ10nm〜100nm程度の板状体であり、ラメラと称される。このラメラが捩れたり、更には様々な集まり方によって更に成長し、球状の結晶(球晶)になる。なお、多くの結晶性樹脂は結晶核の発生頻度が少ないために、球晶の直径は数μmにもなり、場合によっては数100μmにもなる。
【0080】
この結晶化に影響を与えるのが、結晶核の発生頻度と、1つの球晶の成長速度とである。この内、結晶核の発生頻度は温度の関数であり、適温が存在することが実験的に知られている。また、結晶の成長速度は、高分子の本質的な動き易さと温度の影響とを受ける。
【0081】
この高分子の本質的な動き易さは、一次構造(化学構造)に起因するので、高分子種によって固有のものである。そして、温度が高い方が分子運動が激しいので、高分子鎖の絡み合いから1本の高分子が抜け出すには有利である、即ち、結晶化の進行には有利である。
【0082】
しかし、温度があまり高すぎると不利である。球晶の成長速度には適温があり、通常、結晶核の発生頻度の適温よりは高い。従って実際は、結晶の成長速度の適温では、結晶核が自然発生し難い状態が支配的となり、結晶化は非常に遅い。
【0083】
このように、温度の観点からすれば、上記の2つの因子(温度に対する結晶核発生頻度と結晶成長速度)が影響するために、全体的な結晶化の進行には適温があるといえる。ただし、本実施の形態におけるポリブチレン系ポリエステルを除く多くの樹脂では、上記の適温にしても核剤無添加では結晶化の進行が遅い。
【0084】
多くの樹脂については、溶融状態からガラス転移温度以下に急激に冷却される場合に、ほとんどが非晶質のままの状態になる。即ち、冷却の過程で結晶化進行の適温を速やかに通過させると、球晶が発生したとしてもその大きさは小さく、まばらに存在する状態となる。そして、ガラス転移温度以下では高分子の運動が殆どないので、全くと言ってよいほど結晶化は進行しない。
【0085】
なお、本実施の形態におけるポリブチレン系ポリエステルとしてのポリブチレンサクシネートは、溶融状態から室温へ冷却しても、室温はポリブチレンサクシネートのガラス転移温度Tg(室温以下)を超えているので、室温でも球晶成長速度が比較的速く、結晶化は飽和完了する。
【0086】
ここで、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルに前記核剤を添加することによって、結晶核の数を増加させ、また結晶核の発生する温度を上昇させることができる。このような結晶核数の増大は、結晶化進行に有利であり、また結晶核の発生する温度が高くなれば、球晶成長速度に有利な高い温度で結晶化がより速やかに進行し、結晶性が改善される。
【0087】
本実施の形態による樹脂組成物には、更に加水分解抑制剤が含有されているのが望ましい。これにより、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルの加水分解が軽減され、本実施の形態による樹脂組成物、混練物及び成形品を、耐久消費材として効果的に用いることができる。ポリブチレン系ポリエステルの加水分解の抑制は、成形品の使用における長期信頼性の点で重要である。
【0088】
ここで、加水分解抑制剤としては、生分解性樹脂であるポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等のポリブチレン系ポリエステルの加水分解を抑制することができれば、特に限定されないが、例えば、生分解性樹脂中の活性水素と反応性を有する化合物等が挙げられる。
【0089】
このような化合物を加水分解抑制剤として加えることによって、本実施の形態による樹脂組成物中の活性水素量が低減され、活性水素が生分解性樹脂を構成する高分子鎖を触媒的に加水分解することを防止することができる。
【0090】
この活性水素は、酸素、窒素等と水素との結合(N−H結合やO−H結合)における水素のことであり、炭素と水素との結合(C−H結合)における水素に比べて反応性が高い。
【0091】
具体的には、例えば、生分解性樹脂中のカルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH2)及びアミド結合(−NHCO−)等における水素が活性水素である。
【0092】
前記加水分解抑制剤としては、具体的には、例えばカルボジイミド化合物、イソシアネート化合物又はオキサゾリン系化合物等が挙げられ、これらのうちの1種又は複数種を用いることができる。
【0093】
特に、カルボジイミド化合物は、生分解性樹脂と容易に溶融混練でき、少量の添加で生分解性樹脂の加水分解を効果的に抑制できるので、より好ましい。このカルボジイミド化合物は、分子中に一個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、ポリカルボジイミド化合物等も含む。
【0094】
このカルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミド等が挙げられ、これらの中でも特に、工業的に入手が容易であるジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミド等を用いることが望ましい。
【0095】
また、前記イソシアネート化合物としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0096】
また、前記オキサゾリン系化合物としては、例えば2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等が挙げられる。
【0097】
上記の加水分解抑制剤は、公知の方法によって容易に製造することができ、又は、市販品を適宜使用することができる。また、用いる加水分解抑制剤の種類又は添加量により、本実施の形態による樹脂組成物の生分解速度を調整することができるので、目的とする製品に応じ、配合する加水分解抑制剤の種類及び配合量を適宜決定すればよい。
【0098】
具体的には、加水分解抑制剤の添加量は、本実施の形態による樹脂組成物の全質量に対して、約5質量%以下が好ましく、より好ましくは約1質量%程度である。
【0099】
また、本実施の形態による樹脂組成物においては、核剤による結晶化の促進を著しく妨げない限りにおいて、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、充填剤又は抗菌抗カビ剤等を必要に応じて添加することができる。
【0100】
また、本実施の形態による樹脂組成物は、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルと、前記核剤と、その他の材料とを混合することにより、容易に製造することができる。
【0101】
ここで、好ましい製造方法としては、例えば、原料である前記ポリブチレン系ポリエステルに、前記核剤、前記無機フィラー及び前記加水分解抑制剤等を混合し、押出機を用いて溶融混練するという方法等が挙げられる。
【0102】
この他には、例えば、溶液法等によっても本実施の形態による樹脂組成物を作製することができる。この溶液法とは、各成分を分散溶解できる任意の溶媒を用いて、原料となる各成分及び溶媒を良く撹拌してスラリーを作り、溶媒を乾燥等の公知の手法によって除去する方法である。
【0103】
なお、本実施の形態による樹脂組成物を製造する方法としては、これらの方法に制限されるものではなく、これら以外の従来知られている方法を用いることもできる。
【0104】
また、本実施の形態による樹脂組成物においては、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルの中に、前記核剤がほぼ均一に微分散されていることが重要である。ほぼ均一に分散させるためには、従来公知の方法を用いればよい。例えば、マスタバッチを作製する方法、3本ロールを用いる方法又は単純な加熱混練を複数回繰返す方法等が挙げられる。このマスタバッチとは、比較的融点の低い別の樹脂に高濃度で分散させたものを言う。
【0105】
また、同種の樹脂でこのマスタバッチを作製してもよい。この場合、加熱混練を充分に複数回繰返すこと等により、前記核剤を均一に微分散させる。このようにすると、樹脂は多少は熟劣化してしまう。しかしながら、このマスタバッチの量に比べて多い量の新品の樹脂とこのマスタバッチとを混合し、単純な加熱混練を行うので、最終的に、樹脂全体としてみて、熱劣化がほとんど抑制された樹脂中に前記核剤が前記したような適切な濃度で均一に微分散された樹脂組成物を得ることができる。単純に加熱混練を複数回繰返して得られる樹脂組成物と比べ、マスタバッチを経て得られる樹脂組成物の方が、樹脂の熱劣化の点で有利である。
【0106】
具体的に、前記ポリブチレン系ポリエステル中に前記核剤となるニッケル錯体を略均一に分散させるには、まず、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルからなるペレットを例えば60℃で5時間、減圧乾燥する。
【0107】
次に、このポリブチレン系ポリエステルのペレット及び核剤を所定量秤量し、ミキサー等で混合する。
【0108】
次に、この混合物を例えば二軸混練機等を用いて加熱混練を行い、加熱混練後、混練物を切断してペレット化し、温風乾燥する。
【0109】
このようにして、前記ポリブチレン系ポリエステル中に前記核剤が略均一に分散された本発明に基づく樹脂組成物を得ることができる。なお、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルからなるペレットに対して、上記の減圧乾燥に限らず、例えば温度80℃で12時間の温風乾燥を行ってもよいが、減圧乾燥を行うことが好ましい。
【0110】
本実施の形態による樹脂組成物を用いて、各種の成形品を製造することができる。
【0111】
この成形品の製造方法としては、例えば、注型法、圧縮法、トランスファー法、射出法、押し出し法、インフレーション法、カレンダー加工法、吹き込み法、真空法、積層法、スプレーアップ法、発泡法、マッチドダイ法又はSMC法等の公知の成形法が適用可能であり、特に、射出成形機等の公知の成形機を用いて本実施の形態による成形品を製造するのが好ましい。
【0112】
上述したように、本実施の形態による樹脂組成物は、結晶構造を取り得る前記ポリブチレン系ポリエステルと、安定した構造のニッケル錯体からなる前記核剤とを含有するために、ニッケル錯体が有効な核剤として機能し、ポリブチレン系ポリエステルの結晶性を大きく向上させることができる。
【0113】
従って、この樹脂組成物を用いて成形された成形品は、優れた剛性、成形性及び透明性を示す。
【0114】
即ち、本実施の形態による樹脂組成物は、種々の成形品に広く使用することができる。また、この樹脂組成物を射出成形する等して成形した樹脂成形品は、本実施の形態による樹脂組成物の結晶性が高いために、剛性等に優れており、更に透明性も高くすることもできるので、剛性及び透明性等の要求の高い製品に好適である。
【0115】
具体的な樹脂成形品の用途としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、多極ロッド、電機部品キャビネット、ライトソケット、各種端子板、プラグ又はパワーモジュール等の電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、変成器、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、フロッピー(登録商標)ディスク又はMO(Magneto−optical)ディスク等の記憶装置、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDD(Floppy disk drive)キャリッジ及びFDDシャーシ等が挙げられる。
【0116】
また、インクジェットプリンタ又は熱転写プリンタ等のプリンタ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ又はコンピューター関連部品等に代表される電子部品、VTR(Video tape recorder)部品、テレビ部品、テレビ又はパソコン等の電気又は電子機器の筐体、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響製品又はオーディオ、レーザーディスク、コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷凍庫部品、エアコン部品、タイプライター部品又はワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電機製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品等が挙げられる。
【0117】
更には、洗浄用治具、モーター部品、ライター又はタイプライター等に代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ又は時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、IC(Integrated circuit)レギュレーター、ライトデイヤー用ポテンシオメーターベース又は排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係、排気系、吸気系の各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボデイー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウエアーセンサー、スロットルポジションセンサー及びクランクシャフトポジションセンサー等が挙げられる。
【0118】
また、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房用風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウオーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関連部品、ディストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基盤、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター又は点火装置ケース等の自動車及び車両関連部品並びに包装材料等が挙げられる。
【0119】
加えて、これら電気製品を保護する保護ケースも例示できる。例えば、防水仕様ではないデジタルカメラを収容し、水のかかる環境で使用できるようにするマリンケースと呼ばれることのある防水ケースである。また、上記電気製品を収納保管するための収納ケース、収納運搬するための運搬ケースも挙げられる。
【0120】
また、多種の光ディスク(レーザーディスク、コンパクトディスク、DVD、HD−DVD、ブルーレイディスク、ミニディスク、光磁気ディスクなど)などの情報記録媒体も挙げられ、これらを収納保管するケース(いわゆるジュエルケース)も挙げられる。
【0121】
また、歯車、歯車の回転軸、軸受け、ラック、ピ二オン、カム、クランク、クランクアーム等の機械機構部品、そしてホイール、車輪等にも適用できる。
【0122】
以上の各種成形品の中でも、本実施の形態による樹脂成形品は結晶性が大幅に改善されていることから、高い耐熱性が要求されるテレビ又はパソコン等の電気又は電子機器の筐体等としての使用に特に好適である。
【0123】
また、本実施の形態による樹脂成形品は、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等のポリブチレン系ポリエステルを主体とするために、使用後には生分解処理に付して廃棄すればよく、廃棄に余分なエネルギーが消費されないという利点を有している。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を具体的な実施例について詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0125】
実施例1
本実施例においては、下記の表1に示すように、結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルとしてポリブチレンサクシネート(昭和高分子株式会社製、商品名ビオノーレ#1020)を用いた。このポリブチレンサクシネート90質量部に対し、核剤として上述した構造式のニッケル錯体(BASFジャパン株式会社製、製品名Palitol Yellow L 1772、比表面積14m2/g)を5質量%混合し、温度120℃〜130℃の範囲で加熱しながら混練し、しかる後にこの混練物をペレット化した。このようにして、実施例1による樹脂組成物を作製した。
【0126】
比較例1
この比較例においては、下記の表1に示すように、核剤をタルクとし、核剤添加量を20質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。核剤のタルクには、富士タルク株式会社製の製品名LMS−200(粒径5μm、比表面積4m2/g〜4.5m2/g)を用いた。
【0127】
比較例2
この比較例においては、下記の表1に示すように、核剤を酸化亜鉛とし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。核剤の酸化亜鉛には、テイカ株式会社製の製品名MZ−500(粒径0.02μm〜0.03μm)を用いた。
【0128】
比較例3
この比較例においては、下記の表1に示すように、核剤を二酸化チタンとし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。核剤の二酸化チタンには、テイカ株式会社製の製品名MT−500B(粒径0.035μm、比表面積30〜50m2/g)を用いた。
【0129】
比較例4
この比較例においては、下記の表1に示すように、核剤をステアリン酸ナトリウムとし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。ステアリン酸ナトリウムは関東化学株式会社製のものを用いた。
【0130】
比較例5
この比較例においては、下記の表1に示すように、核剤を安息香酸ナトリウムとし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。安息香酸ナトリウムは関東化学株式会社製のものを用いた。
【0131】
比較例6
この比較例においては、下記の表1に示すように、樹脂成分をポリエチレンサクシネートとし、核剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様であった。
【0132】
比較例7
この比較例においては、既述した特許文献1に基づく例であり、下記の表1に示すように、樹脂成分をポリエチレンサクシネートとし、核剤を窒化ホウ素とし、核剤添加量を2質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。
【0133】
比較例8
この比較例は、既述した特許文献1に基づく例であり、下記の表1に示すように、樹脂成分をポリエチレンサクシネートとし、核剤をタルクとし、核剤添加量を9質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。
【0134】
比較例9
この比較例は、既述した特許文献2に基づく例であり、下記の表1に示すように、核剤を窒化ホウ素とし、核剤添加量を5質量%としたこと以外は、実施例1と同様であった。
【0135】
比較例10
この比較例においては、下記の表1に示すように、核剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様であった。
【0136】
上記のようにして作製した各例の樹脂組成物について、成形性(結晶化温度)を測定した。結果を下記の表2に示す。
【0137】
成形性(結晶化温度)の評価は、示差走査熱量計(DSC、パーキンエルマー社製のPyris−1)を用いて行った。具体的には、各例の樹脂組成物をそれぞれ3mg〜4mg切り取ってアルミパンに入れ、それを試料として示差走査熱量計にセットし、その試料を一旦150℃まで加熱し、次いで20℃/分で0℃まで冷却しながらDSC測定を行った。この時に結晶化による発熱ピークが出現するので、このピーク温度を読み取り、この発熱ピーク温度を樹脂組成物の結晶化温度とした。結晶化温度がより高い方が、成形性に優れているといえる。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
表2より明らかなように、本発明に基づく実施例1による樹脂組成物は、ポリブチレンサクシネートと特定のニッケル錯体とを含有しているため、比較例1〜9のものに比べて結晶化温度が高くなり、成形性の向上を図ることができた。
【0141】
即ち、比較例1〜5においては、ポリブチレンサクシネートをポリブチレン系ポリエステルとして用いてはいるが、ニッケル錯体以外の核剤を添加したために、核剤添加量を10〜20質量%と多くしても、核剤としての機能が不十分であり、結晶化温度が約85℃以下であるのに対し、実施例1による樹脂組成物の結晶化温度はそれより4℃以上も高くなった。これは、実施例1のように本発明に基づく樹脂組成物は、結晶性を大きく改善する効果を示すことを意味している。
【0142】
また、比較例6〜比較例8においては、樹脂成分としてポリエチレンサクシネートを用いた上に、核剤を用いないか或いはニッケル錯体以外の核剤を用いたために、結晶化温度が検出されないか或いは大きく低下し、また比較例2〜5と比較例8との比較からも、樹脂成分としてポリブチレンサクシネートを用いる場合に比べて結晶化温度が35℃以上も低くなった。
【0143】
また、比較例9は、核剤として窒化ホウ素を用いること以外は実施例1と同様であるが、樹脂成分がポリブチレンサクシネートからなることによって結晶化温度が向上している。これに対し、実施例1は核剤としてニッケル錯体を用いることによって、結晶化温度が更に向上した。なお、核剤を添加しない比較例10では、ポリブチレンサクシネートを用いても結晶化温度が約85℃と低かった。
【0144】
実施例2
結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルとして、ポリブチレンサクシネートに代えてポリブチレンサクシネートアジペート(昭和高分子株式会社製、商品名ビオノーレ♯3003)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2による樹脂組成物を作製した。
【0145】
比較例11
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤をタルクとし、核剤添加量を20質量%としたこと以外は、実施例2と同様であった。核剤のタルクには、富士タルク株式会社製の製品名LMS−200(粒径5μm、比表面積4m2/g〜4.5m2/g)を用いた。
【0146】
比較例12
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤を酸化亜鉛とし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例2と同様であった。核剤の酸化亜鉛には、テイカ株式会社製の製品名MZ−500(粒径0.02μm〜0.03μm)を用いた。
【0147】
比較例13
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤を二酸化チタンとし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例2と同様であった。核剤の二酸化チタンには、テイカ株式会社製の製品名MT−500B(粒径0.035μm、比表面積30〜50m2/g)を用いた。
【0148】
比較例14
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤をステアリン酸ナトリウムとし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例2と同様であった。ステアリン酸ナトリウムは関東化学株式会社製のものを用いた。
【0149】
比較例15
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤を安息香酸ナトリウムとし、核剤添加量を10質量%としたこと以外は、実施例2と同様であった。安息香酸ナトリウムは関東化学株式会社製のものを用いた。
【0150】
比較例16
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤を添加しなかったこと以外は、実施例2と同様であった。
【0151】
比較例17
この比較例においては、下記の表3に示すように、核剤を窒化ホウ素とし、核剤添加量を5質量%としたこと以外は、実施例2と同様であった。
【0152】
上記のようにして作製した各例の樹脂組成物について、上述したと同様に成形性(結晶化温度)を測定した。結果を下記の表4に示す。
【0153】
【表3】

【0154】
【表4】

【0155】
表4より明らかなように、本発明に基づく実施例2による樹脂組成物は、ポリブチレンサクシネートアジペートと特定のニッケル錯体とを含有しているため、比較例11〜17のものに比べて結晶化温度が高くなり、成形性の向上を図ることができた(この傾向は、ポリブチレン系ポリエステルとしてポリブチレンアジペートを用いた場合も、同様であった)。
【0156】
即ち、比較例11〜15においては、ポリブチレンサクシネートアジペートをポリブチレン系ポリエステルとして用いてはいるが、ニッケル錯体以外の核剤を添加したために、核剤添加量を10〜20質量%と多くしても、核剤としての機能が不十分であり、結晶化温度が約61℃以下であるのに対し、実施例2による樹脂組成物の結晶化温度はそれより2℃以上高くなった。これは、実施例2のように本発明に基づく樹脂組成物は、結晶性を改善する効果を示すことを意味している。
【0157】
また、比較例17は、核剤として窒化ホウ素を用いること以外は実施例2と同様であるが、樹脂成分がポリブチレンサクシネートアジペートからなることによって結晶化温度が向上している。これに対し、実施例2は核剤としてニッケル錯体を用いることによって、結晶化温度が更に向上した。なお、核剤を添加しない比較例16では、ポリブチレンサクシネートアジペートを用いても結晶化温度が低下した。
【0158】
実施例3〜12
実施例1において、ニッケル錯体の添加量を下記の表5に示すように0.005〜25質量%の範囲で変化させたこと以外は、実施例1と同様にして各樹脂組成物を作製した。これらについて上述したと同様に結晶性(結晶化温度)を測定した。結果を下記の表6に示す。
【0159】
【表5】

【0160】
【表6】

【0161】
この結果から、ニッケル錯体の添加量は、実施例5〜12のように、0.1重量%以上とすれば、結晶化温度が高くなることが分る。ただし、添加量は、23質量%を超えて多くしても、結果にあまり差がなく、また樹脂組成物が脆くなり易いので、その上限は23質量%とするのが望ましい。この添加量は、実施例6〜10のように、1〜20質量%とするのがより望ましい。
【0162】
以上、本発明を実施の形態及び実施例について説明したが、上述の各例は、本発明の技術的思想に基づいて更に変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の樹脂組成物は、剛性、透明性、成形性が良く、生分解性に優れた電気機器部品等の樹脂成形品に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明の実施の形態による樹脂組成物を用いた成形品の作製工程を示すフローチャートである。
【図2】同、成形工程前の樹脂組成物の組織の模式図(a)及び成形工程(結晶化)後の樹脂組成物の組織の模式図(b)である。
【符号の説明】
【0165】
1…樹脂組成物、2…結晶化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造を取り得るポリブチレン系ポリエステルと、下記構造式で表されるニッケル錯体とを含有する樹脂組成物。

【請求項2】
前記ポリブチレン系ポリエステルがポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート又はポリブチレンアジペートである、請求項1に記載した樹脂組成物。
【請求項3】
前記ニッケル錯体が、前記ポリブチレン系ポリエステル100質量部に対して、0.1〜30質量部(0.1〜23質量%)の範囲で含有されている、請求項2に記載した樹脂組成物。
【請求項4】
前記ニッケル錯体からなる結晶化用の核剤の粒径が5μm以下である、請求項1に記載した樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリブチレン系ポリエステルが生分解性ポリブチレン系ポリエステルである、請求項1に記載した樹脂組成物。
【請求項6】
更に加水分解抑制剤が更に含有されている、請求項1又は5に記載した樹脂組成物。
【請求項7】
前記加水分解抑制剤が、カルボジイミド基を有する化合物からなる、請求項6に記載した樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載した樹脂組成物が混練されてなる、混練物。
【請求項9】
請求項8に記載した混練物が成形されてなる、成形品。
【請求項10】
前記混練物を加熱後に冷却して得られる、請求項9に記載した成形品。
【請求項11】
剛性、透明性及び耐熱性の良い、請求項9に記載した成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215392(P2009−215392A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59143(P2008−59143)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】