説明

樹脂組成物

【課題】PETG等のポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む樹脂組成物であって、例えば耐熱性が要求されるカード原料として好適な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂(A)、テレフタル酸を主成分として含むジカルボン酸成分と、主成分としてエチレングリコール80〜60(モル比率)に対してCHDMを20〜40(モル比率、合計100)含むグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂(B)、および、金属酸化物(C)を含む樹脂組成物であって、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定により測定される損失弾性率の主分散のピークが一つ存在し、かつ該ピーク値を示す温度(Tg)が90〜140℃の範囲に存在する樹脂組成物を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱材料として用いることができる樹脂組成物、例えば耐熱性が要求されるプラスチックカードの原料として用いることができる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックカードの多くは、白色に着色してなるコアシートと、透明なオーバーシートとを積層して作製されている。これらのシート原料としては、従来、ポリ塩化ビニル(PVC)が主流であったが、環境問題等が次第に重視されるようになり、現在ではポリエステル系樹脂が主流となりつつある。中でも、ポリエチレンテレフタレート樹脂のエチレングリコール成分の約30モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノールに置換してなる共重合ポリエステル樹脂(「PETG」と称される)が多く用いられている。
【0003】
しかし、PETGは耐熱性に劣るため、PETGを主原料としてプラスチックカードを作製すると、熱による寸法変化や変形、或いはカールなどを生じるという課題を抱えていた。
【0004】
そこで、PETGを原料とするプラスチックカード及びその樹脂組成物において、カードの耐熱性を高めるための技術が種々報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1−3等には、PETGにポリカーボネート系樹脂等の耐熱材料をブレンドすることで、カードの耐熱性を高める技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3045112号公報
【特許文献2】特開2001−80251号公報
【特許文献3】特開2006−35740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、ETCカードやデジタル放送などの受信管理用カードなどのように、車内に搭載若しくは放置される可能性のあるカードが出現している。夏場の車内は極めて高温になるため、これらのカードには優れた耐熱性が要求される。例えばETCカードにおいては、90℃、6時間放置後の寸法変化が0.2%以下という仕様が決められているなど、この種のプラスチックカードに対する耐熱性の要求は益々高まっている。
【0008】
そこで本発明は、PETG等のポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを含む樹脂組成物について研究を進め、この研究で得られた新たな知見に基づき、耐熱性に優れた新たな樹脂組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題に鑑みて、本発明は、ポリカーボネート系樹脂(A)、テレフタル酸を主成分として含むジカルボン酸成分と、主成分としてエチレングリコール80〜60(モル比率)に対して1,4−シクロヘキサンジメタノールを20〜40(モル比率、合計100)含むグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂(B)、および、金属酸化物(C)を含む樹脂組成物であって、
歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定により測定される損失弾性率の主分散のピークが一つ存在し、かつ該ピーク値を示す温度(ガラス転移温度又はTgともいう)が90〜140℃の範囲に存在することを特徴とする樹脂組成物を提案する。
【0010】
通常、ポリカーボネート系樹脂(「PC樹脂」ともいう。)と、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール(「CHDM」ともいう)からなるグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂との混合系に関しては、PC樹脂と、CHDM比率が50モル%を超えるポリエステル系樹脂(「PCTG」と称される)とは相溶するが、PC樹脂と、CHDM比率が30モル%程度であるポリエステル系樹脂(「PETG」と称される)とは相溶しないことが知られていた。しかし、本発明者が研究を進めた結果、PC樹脂とPETGとの混合系においても特定の金属酸化物(C)を添加すると相溶することがあることが判明し、しかもその場合のガラス転移温度(Tg)を90〜140℃に調整すれば、特にカード用の部材として好ましい樹脂組成物となることを見出すことができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例としての樹脂組成物(以下「本樹脂組成物」という)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ポリエステル系樹脂(B)と、金属酸化物(C)とを含む樹脂組成物である。
【0013】
(ポリカーボネート系樹脂(A))
本樹脂組成物を構成し得るポリカーボネート系樹脂(A)は、炭酸とグリコール又は2価フェノールとからなり、一般式:−(O−R−O−CO−)−で表されるもの(Rは二価の脂肪酸又は芳香族基)である。
【0014】
例えばフェノールとアセトンから合成されるビスフェノールAを用いて界面重合法、エステル交換法、ピリジン法等によって製造されるもの、ビスフェノールAとジカルボン酸誘導体、例えばテレ(イソ)フタル酸ジクロリド等との共重合により得られるもの、ビスフェノールAの誘導体、例えばテトラメチレンビスフェノールA等の重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0015】
ポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量は、特に限定するものではないが、10,000〜100,000、特に20,000〜30,000、中でも特に23,000〜28,000の範囲のものが好ましい。
【0016】
また、ポリカーボネート系樹脂のメルトフローレートは特に限定するものではないが、JISK7210に基づき、300℃、1.2kg荷重において測定したメルトフローレートが5〜20であるものが好ましい。
【0017】
なお、1種類のポリカーボネートを単独で使用してもよいし、2種以上のポリカーボネートを混合して使用してもよい。
【0018】
(ポリエステル系樹脂(B))
本樹脂組成物を構成し得るポリエステル系樹脂(B)は、テレフタル酸を主成分として含むジカルボン酸成分と、主成分としてエチレングリコール80〜60(モル比率)に対して1,4−シクロヘキサンジメタノール(「CHDM」)を20〜40(モル比率、合計100)含むグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂、所謂「PETG」である。
【0019】
ポリエステル系樹脂(B)は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸を主成分として含んでいればよく、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を含んでいてもよい。
【0020】
また、グリコール成分としては、主成分として、エチレングリコール80〜60(モル比率)に対して1,4−シクロヘキサンジメタノール(「CHDM」)を20〜40(モル比率、合計100)含んでいればよく、ジエチレングリコールなど他のグリコール成分を少量含むものであってもよい。
【0021】
なお、ポリエステル系樹脂(B)のCHDM比率に関しては、CHDM比率が40モル%以下であるPETGのほかに、CHDM比率が50モル%を超えるPCTGが商業的に入手できる。PCTGとPC樹脂と混合した系は互いに相溶することが知られているが、PCTGとPC樹脂と混合したものは、耐溶剤性および紫外線照射による変色性の点で劣るため、本発明ではCHDM比率が40モル%以下のPETGを採用するものである。
【0022】
より好ましいPETGのCHDM比率は、25〜40モル%であり、特に30〜34モル%であるのがさらに好ましい。またCHDMのシス/トランス比は、トランス比がおおよそ70%であるのが望ましい。
【0023】
中でも、固有粘度(IV値)が0.70以上のPETGであるのが好ましい。
【0024】
(金属酸化物(C))
CHDM比率が40モル%以下のPETGとPC樹脂とを混合した系は非相溶系であることが知られているが、所定の金属酸化物(C)を配合することで相溶する場合があることが分かった。
【0025】
本樹脂組成物を構成し得る金属酸化物(C)としては、銅、モリブデン、錫及びアンチモンからなる群から選ばれる1種以上の金属の酸化物或いは複合酸化物であるのが好ましい。中でも好ましくは、銅、モリブデン、錫及びアンチモンからなる群から選ばれる2種以上の金属の複合酸化物であるのが好ましい。その中でも、銅及びモリブデンを含む複合酸化物が好ましい。
【0026】
金属酸化物(C)の好ましい具体例としては、CuO・xMoO3・ySnO2・zSb25(式中x、y及びzは任意の数)で表わされる複合酸化物などを挙げることができる。
【0027】
なお、金属の複合酸化物とは、2種類以上の金属イオンを含む酸化物であり、2種以上の酸化物が組み合わさり、Oイオンの最密充填の隙間にそれぞれの金属イオンがイオン格子を形成してなる固溶体である。
【0028】
金属酸化物の体積平均粒径(D50)は、特に限定するものではないが、0.1μm〜10μm、特に0.1μm〜3μmであるのが好ましい。
【0029】
体積平均粒径(D50)とは、マイクロトラック粒度分布測定装置で測定した体積積算値50%の粒度である。
【0030】
上記の金属の複合酸化物は、複合化する原料金属酸化物材料を均質乾燥混合物にし、00℃以上の高温で焼成して得ることができる。焼成後、湿式または乾式粉砕したり、さらにアニールを施すことなどは任意である。
【0031】
金属酸化物(C)は、公知の各種無機化合物・有機化合物・金属による表面処理を行ったものであってもよい。この際の金属としては、例えばSi,Al,Zn,Co,Fe,Ni,Cr,Mn,W,Ti,Zr,Y,Hf,V,Nb,Ta,Sb,Snなどを挙げることができる。
【0032】
(配合比率)
本樹脂組成物において、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B)および金属酸化物(C)の配合比率に関しては、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)とを10:90〜90:10の質量比率で配合するのが好ましく、特に30:70〜70:30の比率で配合するのがより一層好ましい。
【0033】
そして、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)の合計量に対して、金属酸化物(C)を0.01〜1質量%配合するのが好ましく、特に0.05〜0.2質量%配合するのがより一層好ましい。
【0034】
(ガラス転移温度)
通常、PC樹脂とCHDM比率40モル%以下であるPETGとのブレンド系は相溶しないため、ガラス転移温度(以下「Tg」と言う)を測定すると、PC樹脂のTg(約150℃)とPETGのTg(約80℃)の2つが明確に現れる。この非相溶系組成物は80℃を越える温度下に長時間放置されると軟化、変形が起こるため、この組成物からなるカードを例えば夏の車内に長時間放置すると、カードが縮んだり曲がったりすることがある。そのため、例えば車載テレビの受信管理用カードのように車内に長期間置かれることがあるカード用途には好ましくない。
【0035】
しかし、特定の金属酸化物(C)を添加すると、相溶系となり、Tgやtanδの極大値が一つとなることが判明した。そしてこの場合に、Tgやtanδの極大値を所定の範囲内に調整することで、特にカード用途に好ましい樹脂組成物を得ることができることを見出すことができた。
【0036】
本樹脂組成物は、ガラス転移温度(Tg)が単一となる特徴を有する組成物である。
【0037】
本発明において、本樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が単一であるとは、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JISK−7198
A法の動的粘弾性測定)により測定される損失弾性率の主分散のピークが一つ存在する、言い換えれば単一となることである。これは、損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するものであるということもできる。また、JISK7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示す変曲点が1つだけ現れる、ということもできる。
【0038】
ポリマーブレンド組成物のガラス転移温度(或いは損失正接の極大値)が単一であるということは、混合する樹脂がナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶した状態にあることを意味し、相溶している系と認めることができる。
【0039】
本樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、上記の動的粘弾性の温度分散測定により測定される損失弾性率の主分散のピーク値を示す温度で表されるものであり、当該温度(Tg)が90〜140℃の範囲であることが重要である。
【0040】
本樹脂組成物のガラス転移温度が90℃以上であれば、90℃で長時間保管した際の寸法変化をかなり小さく抑えることができる。その一方、140℃を超えて高すぎると、カード化する際のプレス融着温度が高くなり過ぎて製造が困難となる。
【0041】
かかる観点から、本樹脂組成物のガラス転移温度は95〜135℃であるのがより好ましく、特に110〜130℃であるのがさらに好ましい。
【0042】
(製造方法)
本樹脂組成物の製造方法は、特に限定するものではないが、例えばポリカーボネート系樹脂(A)と、ポリエステル系樹脂(B)と、金属酸化物(C)と、必要に応じて他の成分(D)とを、加熱溶融して混練することにより本樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
本樹脂組成物の形態としては、ペレット状、フィルム・シート状等の任意の形状でよい。
【0044】
なお、上記の製造例において、加熱溶融する際の加熱温度は230℃〜280℃、特に240℃〜260℃とするのが好ましい。
【0045】
本樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を調整するには、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との混合比率を調整する方法が挙げられる。
【0046】
上記の他の成分(D)としては、例えば顔料、フィラー、滑剤、衝撃改良剤、酸化防止剤などを挙げることができる。
【0047】
例えばフィラーの例としては、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、アルミナ、ガラス繊維等、通常樹脂に用いられるものが挙げられる。
【0048】
滑剤としては、高級アルコール、脂肪酸アミド、高級脂肪酸およびそのエステルまたは金属塩、モンタン酸エステル等のワックス類、アルキルベンゼンスルホン酸塩および各種界面活性剤等が挙げられる。
【0049】
(用途)
本樹脂組成物は耐熱性に優れているため耐熱材料として用いることができる。例えば本樹脂組成物からシートを作製し、このシートを各種シート乃至プレートに積層することにより、当該各種シート乃至プレートの耐熱性を高めることができる。
【0050】
また、各種プラスチックカードの素材、例えば透明オーバーシートや白色コアシートの原料等として利用することができる。特に耐熱性が要求されるプラスチックカードの原料、例えばETCカードやデジタル放送などの受信管理用カードなどのように車内で長時間使用されるカードの原料として好適である。本樹脂組成物をシート状に成形することにより、カード、例えばETCカードやデジタル放送などの受信管理用カード、特にそのコアシートを作製することができる。
【0051】
また、本樹脂組成物を用いて、例えば容器、キャップ、パイプ、部品等の3次元成形物を成形することもできる。これらの成形物は、多層構成を有するものでも良いし、複合成形物を構成する部品の一部でもよい。
【0052】
成形方法としては、射出成形、押出成形、中空成形、回転成形、粉末成形、真空成形等の公知の方法を採用することができる。
【0053】
具体的には、例えば食品、洗剤、医薬品、化粧品、飲料製品等の容器やそのキャップ類、自動車部品、電子部品、電気部品、電機部品、機械部品等の各種部品、建設資材等を挙げることができる。
【0054】
また、本樹脂組成物を用いて各種フィルムを成形することもできる。
【0055】
成形方法としては、インフレーション加工、多層インフレーション加工、Tダイフィルム加工、フラットフィルム法による縦横同時二軸延伸法、または縦横逐次二軸延伸法、チューブフィルム法等の公知の方法を採用することができる。
【0056】
得られたフィルムは、食品包装、繊維包装、雑貨包装、薬品類の包装、テープ、絶縁材料、農業用フィルム、各種シート、各種シール、ラベル、カード等、通常の熱可塑性樹脂フィルムが用いられる分野と同様の分野で用いられる。
【0057】
(用語の説明)
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JISK6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0058】
本発明において「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含するものである。特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、その成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)が組成物中で50質量%以上、特に70質量%以上、中でも90質量%以上(100%含む)を占めるのが好ましい。
【0059】
また、本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0061】
(1)ガラス転移温度の測定方法
粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性温度分散測定を行った。そして損失弾性率の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0062】
(実施例1−5)
ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B)および金属酸化物(C)をそれぞれ表1に示すように混合し、直径65mmの2ベント式同方向二軸押出機を用い、設定温度260℃にてTダイ押出法により厚さ0.3mmのシートを得た。
【0063】
(比較例1)
実施例1において、金属酸化物(C)を配合せず、ポリカーボネート系樹脂(A)およびポリエステル系樹脂(B)を、表1に示すように混合した以外は実施例1と同様にしてコンパウンドを得た。
【0064】
なお、実施例及び比較例で用いたポリカーボネート系樹脂(A)は、重量平均分子量がおおよそ21000、JISK7210に基づいて300℃、1.2kg荷重において測定したメルトフローレートが15であった。
【0065】
また、ポリエステル系樹脂(B)は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコール66モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール32モル%及び、ジエチレングリコール2モル%からなるグリコール成分とが重縮合してなるPETGであり、固有粘度IVは0.76であった。
【0066】
金属酸化物(C)としては、CuO・xMoO3・ySnO2・zSb25(式中、x=2、y=1、z=1)で表わされる複合酸化物を用いた。この複合酸化物は、複合化する原料金属酸化物材料を均質乾燥混合物にし、800℃で焼成して得られたものである。
【0067】
【表1】

【0068】
(考察)
金属酸化物(C)を含有する実施例1〜5の場合には、ガラス転移温度(Tg)は単一となっており、かつ、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との比率によって、ポリカーボネート系樹脂(A)のTg(約140℃)とポリエステル系樹脂(B)のTg(約80℃)との間の範囲でガラス転移温度(Tg)が調整できていることが確認できた。従って両者が相溶している状態であることが分かった。
【0069】
一方、金属酸化物(C)を含有しない比較例1の場合には、ガラス転移温度(Tg)は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリエステル系樹脂(B)のそれぞれのTgに相当する温度に2つ存在しており、両者が非相溶状態であることが分かった。
【0070】
なお、実施例2と比較例1の場合の動的粘弾性の測定データをそれぞれ図1、図2に示した。グラフ中、Erが貯蔵弾性率、Eiが損失弾性率、tanδが損失正接のデータである。
【0071】
なお、実施例1〜5と同様に作製して得た樹脂組成物を用いてカードに用いるコアシートを作製したところ、カード材料として良好であることが確認された。よって、実施例1〜5で得た樹脂組成物(シート)のTgの範囲を考慮すると、Tgが90〜140℃の範囲内にあれば、カード材料として良好に使用できるものと考えられる。また、実施例1〜5の中でも、特に実施例2,3,4の結果が良好であり、この結果を考慮すると、Tgが110〜130℃の範囲内にあれば、カード材料としてさらに良好に使用できるものと考えられる。
【0072】
前記実施例では、金属酸化物(C)として、CuO・xMoO3・ySnO2・zSb25(式中、x=2、y=1、z=1)で表わされる複合酸化物を用いたが、これまで行った試験結果を総合すると、おそらくは、銅、モリブデン、錫及びアンチモンからなる群から選ばれる1種以上の金属の酸化物或いは複合酸化物を用いても、CuO・xMoO3・ySnO2・zSb25(式中、x=2、y=1、z=1)と同様の効果を期待できるものと考えられ、中でも、銅、モリブデン、錫及びアンチモンからなる群から選ばれる2種以上の金属の複合酸化物、その中でも、銅及びモリブデンを含む複合酸化物は好ましい効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例2で得られた樹脂組成物の動的粘弾性の測定グラフである。
【図2】比較例1で得られた樹脂組成物の動的粘弾性の測定グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂(A)、テレフタル酸を主成分として含むジカルボン酸成分と、主成分としてエチレングリコール80〜60(モル比率)に対して1,4−シクロヘキサンジメタノールを20〜40(モル比率、合計100)含むグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂(B)、および、金属酸化物(C)を含む樹脂組成物であって、
歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定により測定される損失弾性率の主分散のピークが一つ存在し、かつ該ピーク値を示す温度(Tg)が90〜140℃の範囲に存在することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
金属酸化物(C)は、銅、モリブデン、錫及びアンチモンからなる群から選ばれる1種以上の金属の酸化物或いは複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
金属酸化物(C)は、銅、モリブデン、錫及びアンチモンからなる群から選ばれる2種以上の金属の複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
金属酸化物(C)は、銅及びモリブデンを含む複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
金属酸化物(C)は、CuO・xMoO3・ySnO2・zSb25(式中x、y及びzは任意の数)で表わされる複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなる成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなるシート。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなるカード用シート。
【請求項9】
請求項8に記載のシートを用いてなるカード。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−227788(P2009−227788A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73792(P2008−73792)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】