説明

樹脂製容器

【課題】本発明の目的は、射出成形性に優れ薄肉化が可能で、コスト面や生産性に優れた容器であって、なおかつ、耐寒性にも優れた樹脂製容器を提供することにある。
【解決手段】本発明の樹脂製容器は、少なくとも、190℃におけるメルトフローレートが80〜120g/10分であるポリプロピレン系樹脂70〜95重量%、及び、190℃におけるメルトフローレートが30〜100g/10分であり、脆化温度が−45℃以下である高密度ポリエチレン系樹脂5〜30重量%を含有する樹脂組成物を射出成形して得られることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の容器に関する。詳しくは、食品用の容器等として好適に用いられる、射出成形により得られる樹脂製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、使い捨ての飲料用カップや熱湯を使用するインスタント食品等に用いられる断熱容器などに樹脂製の容器が用いられている。中でも、特に電子レンジで加熱調理される食品用の樹脂製容器としては、比較的高い耐熱性を有するポリプロピレン系樹脂からなる容器が知られており、さらに、リブなどの複雑な形状を有する容器の成形精度に優れる等の観点から、射出成形(インジェクション成形:加熱し流動化した樹脂を、内部に容器形状に対応した成形空間を有する金型の内部に射出注入し、冷却・固化して製品を成形する成形方法)により成形して得られた樹脂製容器が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
近年、上記の樹脂製容器には、省資源化、低コスト化等の環境負荷低減の観点から、容器周壁部等の厚みを薄くする薄肉化が要求されている。また、近年、電子レンジなどにて加熱調理される食品であって、保存時には冷凍保存される食品が増加してきている。このような加熱調理及び冷凍保存される食品用途に用いられる容器には、耐熱性に加えて、冷凍保存に耐えうる耐寒性も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−322618号公報
【特許文献2】特許第4034746号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、樹脂製容器の原料として、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が高く溶融時の流動性の良好な、特定のポリプロピレン系樹脂を用いることによって、射出成形(インジェクション成形)により成形する場合に、射出成形性が良好で、薄肉の容器を生産性よく製造することができることを見出した。しかしながら、上記のようなMFRの高いポリプロピレン系樹脂を用いて成形した容器は、耐寒性に劣るという問題があった。即ち、ポリプロピレン系樹脂製の容器であって、薄肉化が可能であり、なおかつ、耐寒性にも優れた樹脂製容器は得られていないのが現状である。
【0006】
即ち、本発明の目的は、射出成形時の薄肉成形が可能で、なおかつ、耐寒性にも優れた樹脂製容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、MFRの高い特定のポリプロピレン系樹脂を主成分とし、さらにMFR及び脆化温度が特定範囲にある高密度ポリエチレン系樹脂を特定比率で配合した樹脂成分を含む樹脂組成物を射出成形して樹脂製容器を作製することにより、射出成形時の薄肉成形性を維持しつつ、なおかつ、耐寒性にも優れた樹脂製容器を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくとも、190℃におけるメルトフローレートが80〜120g/10分であるポリプロピレン系樹脂70〜95重量%、及び190℃におけるメルトフローレートが30〜100g/10分であり、脆化温度が−45℃以下である高密度ポリエチレン系樹脂5〜30重量%を含有する樹脂組成物を射出成形して得られる樹脂製容器を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂製容器は、190℃のMFRが比較的高いポリプロピレン系樹脂を主たる樹脂成分としているため、特に射出成形により成形する場合に、成形性が良好で、薄肉の容器を生産性よく製造することができる。なおかつ、原料の樹脂成分にMFR及び脆化温度が特定範囲にあるポリエチレン系樹脂を特定比率で配合することによって、射出成形性を保ったまま、容器の耐寒性を向上させることができる。このため、特に、冷凍保存され、調理時には電子レンジで加熱される食品用の容器などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例及び比較例で作製した樹脂製容器の形状を表す概略図(正面図)である。
【図2】図2は、実施例及び比較例で作製した樹脂製容器の形状を表す概略図(底面図)である。
【図3】図3は、実施例及び比較例で作製した樹脂製容器の形状を表す概略図(A−A断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂製容器は、少なくとも、190℃におけるメルトフローレートが80〜120g/10分であるポリプロピレン系樹脂、及び190℃におけるメルトフローレートが30〜100g/10分であり、脆化温度が−45℃以下である高密度ポリエチレン系樹脂を、必須の成分として含有する樹脂組成物を射出成形して得られる。
【0012】
本明細書において、「ポリプロピレン系樹脂」とは、プロピレンを主たる構成モノマーとする重合体(プロピレンに対応する構成単位を主たる構成単位とする重合体)である。より具体的には、分子中に、プロピレンに対応する構成単位(プロピレン由来の構成単位、プロピレン成分とも称する)を60〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%含む重合体である。
【0013】
本明細書において、「ポリエチレン系樹脂」とは、エチレンを主たる構成モノマーとする重合体(エチレンに対応する構成単位を主たる構成単位とする重合体)である。より具体的には、分子中に、エチレンに対応する構成単位(エチレン由来の構成単位、エチレン成分とも称する)を80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%含む重合体である。「高密度ポリエチレン系樹脂」とは、上記のポリエチレン系樹脂であって、密度が0.93g/cm3以上、好ましくは0.94〜0.97g/cm3であるものをいう。上記の密度は、JIS K7112に準拠して測定することができる。また、上記密度は、樹脂組成物中に含まれる全ポリエチレン系樹脂としての密度である。即ち、例えば、二種以上のポリエチレン系樹脂原料を用いる場合には、全てのポリエチレン系樹脂原料を混合した「ポリエチレン系樹脂」の密度である。
言い換えると、本発明においては、樹脂組成物中に含まれる全てのポリエチレン系樹脂原料を混合した「ポリエチレン系樹脂」の密度が、0.93g/cm3以上であることが必要であり、好ましくは0.94〜0.97g/cm3である。
なお、本発明においては、樹脂組成物中に含まれる全てのポリエチレン系樹脂原料が、密度が0.93g/cm3以上(特に、0.94〜0.97g/cm3)のポリエチレン系樹脂原料であることが好ましい。
【0014】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂製容器を形成する樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂及び高密度ポリエチレン系樹脂を必須成分として含有する。上記樹脂組成物は、特に限定されないが、上記必須成分以外にも、他の樹脂や無機粒子等、その他の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で含んでいてもよい。上記樹脂組成物(100重量%)中の、上記全必須成分の含有量は、90〜100重量%が好ましく、より好ましくは95〜100重量%である。全必須成分の含有量が90重量%未満では、耐熱性や耐寒性等の容器物性が低下する場合がある。
【0015】
(ポリプロピレン系樹脂)
本発明における樹脂組成物中の必須成分の一つであるポリプロピレン系樹脂は、上記樹脂組成物における主たる樹脂成分であって、樹脂組成物の溶融時の流動特性、射出成形性、加工性などに主たる影響を及ぼす。また、主たる樹脂成分としてポリプロピレン系樹脂を用いることによって、耐熱性が高く、電子レンジでの加熱が可能な樹脂製容器を得ることができる。上記ポリプロピレン系樹脂は、前述のとおり、プロピレンを主たる構成モノマーとする重合体であり、プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよいし、プロピレンと他の共重合モノマーとの共重合体(プロピレンに対応する構成単位と他の共重合モノマーに対応する構成単位とを構成単位とする共重合体)であってもよい。また、上記共重合体は、共重合の形態は特に限定されず、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。上記の他の共重合モノマーとしては、特に限定されず、例えばプロピレン以外のα−オレフィン(例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどの炭素数2又は4〜20のα−オレフィンなど)が挙げられる。他の共重合モノマーは、単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0016】
上記ポリプロピレン系樹脂の、190℃におけるメルトフローレート(「MFR(190℃)」と称する場合がある。)は、80〜120g/10分であり、好ましくは90〜110g/10分、より好ましくは100〜110g/10分である。上記MFR(190℃)が80g/10分未満では、溶融時(成形時)の流動性が低く、樹脂組成物の射出成形性が不良となり、樹脂製容器の生産性が低下したり薄肉化が困難となったりする。一方、120g/10分を超えると、容器の強度(耐熱性や剛性等)が低下する。なお、本発明においては、樹脂組成物中に含まれる全ポリプロピレン系樹脂としてのMFR(190℃)が上記範囲を満たしていることが必要である。即ち、例えば、二種以上のポリプロピレン系樹脂原料を用いる場合には、全てのポリプロピレン系樹脂原料を混合した「ポリプロピレン系樹脂」のMFR(190℃)が上記範囲を満たしていることが必要である。
【0017】
本明細書において、190℃におけるメルトフローレート(MFR(190℃))とは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトマスフローレートである。以下も同様である。
【0018】
上記ポリプロピレン系樹脂の脆化温度は、特に限定されないが、耐寒性向上の観点から、0〜30℃が好ましく、より好ましくは0〜20℃である。上記脆化温度は、JIS K7216に準拠して測定される。
【0019】
上記ポリプロピレン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、耐寒性の観点から、−70〜−30℃が好ましく、より好ましくは−60〜−40℃である。また、上記ポリプロピレン系樹脂の融点(Tm)は、特に限定されないが、耐熱性や加工性の観点から、130〜180℃が好ましく、より好ましくは150〜180℃である。上記Tg及びTmは、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0020】
上記ポリプロピレン系樹脂の荷重たわみ温度は、特に限定されないが、耐熱性の観点から、100〜140℃が好ましく、より好ましくは110〜130℃である。上記荷重たわみ温度は、JIS K7191(曲げ応力0.45MPa)に準拠して測定することができる。
【0021】
なお、上記ポリプロピレン系樹脂の各物性(脆化温度、Tg、Tm及び荷重たわみ温度)は、MFR(190℃)と同様に、樹脂組成物中に含まれる全ポリプロピレン系樹脂としての値である。
【0022】
上記ポリプロピレン系樹脂は、公知のポリプロピレン系樹脂の重合方法により調製することができる。また、上記ポリプロピレン系樹脂は、市販のポリプロピレン系樹脂の中から、MFR(190℃)が上記の範囲内にあるものを選択して用いてもよい。
【0023】
(高密度ポリエチレン系樹脂)
本発明における樹脂組成物中の必須成分の一つである高密度ポリエチレン系樹脂は、上記樹脂組成物における添加成分であって、樹脂組成物及び成形後の樹脂製容器の耐寒性を向上させる役割を担う。上記高密度ポリエチレン系樹脂は、前述のとおり、エチレンを主たる構成モノマーとする重合体であり、エチレンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよいし、エチレンと他の共重合モノマーとの共重合体(エチレンに対応する構成単位と他の共重合モノマーに対応する構成単位とを構成単位とする共重合体)であってもよい。また、上記共重合体は、共重合の形態は特に限定されず、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。上記の他の共重合モノマーとしては、特に限定されず、例えばエチレン以外のα−オレフィン(例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどの炭素数3〜20のα−オレフィンなど)が挙げられる。他の共重合モノマーは、単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0024】
上記高密度ポリエチレン系樹脂としては、本明細書に記載の物性を満たしていれば特に制限されず、例えば、公知乃至慣用の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることができる。
【0025】
上記高密度ポリエチレン系樹脂の、190℃におけるメルトフローレート(MFR(190℃))は、30〜100g/10分であり、好ましくは30〜70g/10分、より好ましくは40〜60g/10分である。上記MFR(190℃)が30g/10分未満では、溶融時の流動性が低く、樹脂組成物の射出成形性や加工性等が不良となり、樹脂製容器の生産性が低下したり薄肉化が困難となったりする。一方、100g/10分を超えると、入手が困難となる。なお、本発明においては、樹脂組成物中に含まれる全高密度ポリエチレン系樹脂としてのMFR(190℃)が上記範囲を満たしていることが必要である。即ち、例えば、二種以上のポリエチレン系樹脂原料を用いる場合には、全てのポリエチレン系樹脂原料を混合した「高密度ポリエチレン系樹脂」のMFR(190℃)が上記範囲を満たしていることが必要である。
【0026】
上記高密度ポリエチレン系樹脂の脆化温度は、−45℃以下であり、好ましくは−120℃〜−60℃、より好ましくは−100℃〜−70℃である。脆化温度が−45℃を超えると、樹脂製容器の耐寒性が低下する。なお、本発明においては、MFR(190℃)と同様に、樹脂組成物中に含まれる全高密度ポリエチレン系樹脂としての脆化温度が上記範囲を満たしていることが必要である。即ち、例えば、二種以上のポリエチレン系樹脂原料を用いる場合には、全てのポリエチレン系樹脂原料を混合した「高密度ポリエチレン系樹脂」の脆化温度が上記範囲を満たしていることが必要である。上記脆化温度は、JIS K7216に準拠して測定される。
【0027】
上記高密度ポリエチレン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、耐寒性の観点から、−150〜−80℃が好ましく、より好ましくは−140〜−100℃である。また、上記高密度ポリエチレン系樹脂の融点(Tm)は、特に限定されないが、耐熱性の観点から、100〜160℃が好ましく、より好ましくは120〜150℃である。特に上記融点が100℃未満では高密度ポリエチレン系樹脂の添加によって、樹脂製容器の耐熱性が低下し、電子レンジで加熱する場合に、容器の変形が生じる場合がある。上記Tg及びTmは、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0028】
上記高密度ポリエチレン系樹脂の荷重たわみ温度は、特に限定されないが、耐熱性の観点から、40〜80℃が好ましく、より好ましくは50〜75℃である。上記荷重たわみ温度が40℃未満の場合には、上述のTmの場合と同様に、高密度ポリエチレン系樹脂の添加によって、樹脂製容器の耐熱性が低下し、電子レンジで加熱する場合に、容器の変形が生じる場合がある。上記荷重たわみ温度は、JIS K7191(曲げ応力0.45MPa)に準拠して測定することができる。
【0029】
なお、上記高密度ポリエチレン系樹脂の各物性(Tg、Tm及び荷重たわみ温度)は、MFR(190℃)と同様に、樹脂組成物中に含まれる全高密度ポリエチレン系樹脂としての値である。
【0030】
上記高密度ポリエチレン系樹脂は、公知の高密度ポリエチレン系樹脂の重合方法により調製することができる。また、上記高密度ポリエチレン系樹脂は、市販の高密度ポリエチレン系樹脂の中から、MFR(190℃)及び脆化温度が上記の範囲内にあるものを選択して用いてもよい。
【0031】
(必須成分の含有量)
本発明における樹脂組成物は、上記ポリプロピレン系樹脂及び上記高密度ポリエチレン系樹脂を必須成分として含有する。樹脂組成物(100重量%)中の、ポリプロピレン系樹脂の含有量は、70〜95重量%であり、好ましくは75〜92重量%、より好ましくは80〜90重量%である。ポリプロピレン系樹脂の含有量が70重量%未満では、樹脂組成物の溶融時の流動性が低下し、樹脂組成物の射出成形性や加工性等が不良となり、樹脂製容器の生産性が低下したり薄肉化が困難となったりする。一方、95重量%を超えると、樹脂製容器の耐寒性が低下する。
【0032】
樹脂組成物(100重量%)中の、高密度ポリエチレン系樹脂の含有量は、5〜30重量%であり、好ましくは8〜25重量%、より好ましくは10〜20重量%である。高密度ポリエチレン系樹脂の含有量が5重量%未満では、樹脂製容器の耐寒性が低下する。一方、30重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂との融点や溶融粘度(溶融時の流動特性)の違いに起因して、バリやショートショット(充填不足)などの成形不良が発生しやすくなる。また、樹脂組成物及び樹脂製容器の耐熱性が低下し、電子レンジで加熱する場合に、容器の変形が生じる場合がある。
【0033】
上記樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記ポリプロピレン系樹脂及び上記高密度ポリエチレン系樹脂以外の樹脂成分(「その他の樹脂成分」と称する場合がある)を含有していてもよい。上記のその他の樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、上記必須成分以外のα−オレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0034】
本発明における樹脂組成物は、上述のように、ポリプロピレン系樹脂を主たる樹脂成分として用いているため、耐熱性が比較的良好であり、該樹脂組成物を成形して得られた樹脂製容器は、電子レンジで加熱することが可能である。これに対して、例えば、発泡スチロール製の樹脂製容器などは、電子レンジで加熱する用途に用いることはできない。
また、本発明における樹脂組成物は、必須成分として用いるポリプロピレン系樹脂をMFR(190℃)が高く溶融時の流動性に優れたものに限定しているため、優れた射出成形性を有している。このため、樹脂製容器の生産性、加工性が良好で、さらに該容器の薄肉化が可能である。
加えて、本発明における樹脂組成物は、脆化温度が低く耐寒性に優れ、なおかつ、溶融時の流動特性が優れた高密度ポリエチレン系樹脂を樹脂組成物中に特定量含有するため、該樹脂組成物の射出成形性を維持したまま、該樹脂組成物より成形された樹脂製容器の耐寒性を向上させることができる。
【0035】
(添加成分)
本発明における樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて無機化合物を含有していてもよい。無機化合物としては、例えば、二酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの無機酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;ケイ酸カルシウム、ガラスビーズ、タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩;カーボンブラックなどが挙げられる。無機化合物を添加する場合、樹脂組成物(100重量%)中の無機化合物の含有量は、通常0.5〜3重量%であり、好ましくは1〜2重量%である。
【0036】
さらに、上記樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じてその他の添加剤(例えば、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、スリップ剤、分散剤、アンチブロッキング剤、滑剤、防曇剤、充填剤、軟化剤、難燃剤、抗菌剤など)を含んでいてもよい。
【0037】
上記樹脂組成物は、上記の各構成成分[全必須成分(ポリプロピレン系樹脂及び高密度ポリエチレン系樹脂)、並びに、必要に応じて、その他の樹脂成分、無機化合物、その他の添加剤等]を、ドライブレンドしてそのまま成形に用いてもよいし、各構成成分の一部又は全部を溶融混練により予め混合し、必要に応じて樹脂組成物のペレットを作製(ペレット化)して、樹脂製容器の成形に用いてもよい。上記溶融混練は、2軸混練機などの公知慣用の混練機を用いて、公知の混練条件により行うことができる。
【0038】
[樹脂製容器]
本発明の樹脂製容器は、樹脂製容器の薄肉化及びリブなどの複雑な形状を有する容器の成形精度の観点から、上記樹脂組成物を射出成形することにより得られる。樹脂組成物の射出成形方法は特に限定されず、通常の射出成形法又は射出圧縮成形法などを用いることが可能である。
【0039】
上記射出成形の成形条件は、公知の成形条件を採用できる。例えば、型締め力(型締圧)50〜300tonの中〜小型射出成形機において、開口上部直径50〜150mm、容量30〜500cc、平均肉厚0.2〜0.5mmのカップ状容器を、成形温度150〜300℃、射出圧力100〜200MPa等の条件で成形することができる。
【0040】
本発明の樹脂製容器の形状は、容器の用途などにより異なり、特に限定されないが、例えば、カップ状(有底筒状)の容器などが挙げられる。中でも、金型内での樹脂組成物の流動性を高めると共に、成形された樹脂製容器の薄肉化を図りつつ容器そのものの剛性を高める観点から、周壁部の外周面に上下方向に延びるリブ(縦リブ)が形成された容器が好ましい。例えば、具体的には、特開2001−322618号公報、特許第4034746号明細書に記載された断熱容器などが例示される。上記リブを有する容器は、シュリンクラベル等のラベルで外周面を被覆することにより容器のリブとラベルとの間にある空間により、断熱効果を得ることができる。このような容器の中でも、本発明の樹脂製容器は、特に薄肉化が可能である点で優れている。具体的には、樹脂製容器の周壁部の平均肉厚を0.2〜0.5mm程度の薄肉の樹脂製容器とすることができる。薄肉化することによって、省資源化、低コスト化等の環境負荷の低減が図れるため好ましい。
【0041】
本発明の樹脂製容器は、例えば、冷凍保存、冷蔵保存や常温保存され、電子レンジなどで加熱することにより食することのできる食品、熱湯を注ぐことで食することのできるインスタント食品(即席麺、スナック麺など)、ホット飲料(コーヒー、スープなど)などを収容するために用いることができる。中でも、耐熱性及び耐寒性に優れることから、冷凍保存され電子レンジで加熱(加熱調理)される食品(いわゆるレンジアップ食品)用途に特に好ましく用いられる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、実施例、比較例に用いたポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂(HDPE及びLDPE)の詳細は表1に示す。また、実施例、比較例における樹脂組成物の配合組成を表2に示す。
【0043】
実施例1
(樹脂組成物)
ポリプロピレン系樹脂(PP1)[MFR(190℃):101g/10分]82.5重量%、高密度ポリエチレン系樹脂(PE1)[密度:0.961g/cm3、MFR(190℃):42g/10分、脆化温度:−80℃以下(測定限界以下)]14.5重量%、及び二酸化チタンを含むマスターバッチ(二酸化チタン;50重量%、PE1;50重量%)3.0重量%をドライブレンドして、樹脂組成物(混合原料)を得た。
【0044】
(樹脂製容器)
次いで、上記の樹脂組成物を用い、射出成形機(住友重機械工業(株)製、「SE280S」)を使用して、シリンダー温度:220〜260℃(ホッパー側から、220℃−245℃−256℃−260℃)、射出圧力:155MPa、射出速度195mm/秒、背圧:12.0MPa×260rpm、型締圧:240t、冷却水温度20℃の条件で、射出成形を行い、開口上部直径95mm、底部直径72mm、容器高65mm、容量295cc、壁面の肉厚0.35mm、底面の肉厚0.5mm、リブ本数48本の樹脂製容器を得た。樹脂製容器にはバリやショートショットがなく、射出成形性、加工性は良好であった。
得られた樹脂製容器の形状を図1〜3に示す。図1は、得られた樹脂製容器の概略正面図である。図2は、得られた樹脂製容器の概略底面図である。図3は、得られた樹脂製容器の概略断面図(A−A断面図)である。図中の1はリブを表す。なお、実施例2及び比較例1〜3で得られた樹脂製容器の形状も同一である。
【0045】
実施例2
ポリプロピレン系樹脂(PP1)87.3重量%、高密度ポリエチレン系樹脂(PE1)9.7重量%、及び二酸化チタンを含むマスターバッチ(二酸化チタン;50重量%、PE1;50重量%)3.0重量%をドライブレンドして、樹脂組成物(混合原料)を得た。
次いで、上記の樹脂組成物を用い、射出圧力を145MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂製容器を得た。樹脂製容器にはバリやショートショットがなく、射出成形性、加工性は良好であった。
【0046】
比較例1及び2
表2に示すように、高密度ポリエチレン系樹脂(PE1)を低密度ポリエチレン系樹脂(PE2)[密度:0.917g/cm3、MFR(190℃):55g/10分、脆化温度:−30℃]に変更し、マスターバッチの樹脂をPE2に変えた以外は、比較例1は実施例1と同様にして、比較例2は実施例2と同様にして、樹脂組成物及び樹脂製容器を得た。樹脂製容器にはバリやショートショットがなく、射出成形性、加工性は良好であった。
【0047】
比較例3
表2に示すように、高密度ポリエチレン系樹脂(PE1)を加えずに(マスターバッチ中のPE1は除く)、樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂(PP1)の含有量を97.0重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂製容器を得た。樹脂製容器にはバリやショートショットがなく、射出成形性、加工性は良好であった。
【0048】
(評価)
上記の実施例及び比較例で得られた樹脂製容器の面衝撃強度を、下記の方法に従って評価した。評価結果は表2に示す。
【0049】
(1)面衝撃強度試験
樹脂製容器の耐寒性を評価するために、実施例及び比較例で得られた各樹脂製容器をサンプルとして面衝撃強度試験を行った。具体的には、表2に示す所望の温度(0℃、−10℃、−20℃)に設定された恒温槽内に樹脂製容器を固定し、ハイレートインパクトテスターを用いて、先端面直径20mmのダートを、樹脂製容器の底面部に垂直に1m/secの速度で衝突させ、破壊された容器個数をカウントした。
図1における矢印はダートを衝突させる方向および位置を表し、図2における「×」印はダートを衝突させる位置(底面の中心より約18mmの位置である)を表す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
評価結果からわかるとおり、本発明の規定を満たす樹脂製容器(実施例)は、射出成形性及び加工性に優れており、なおかつ、面衝撃強度試験において破壊された容器個数が少なく、優れた耐寒性を有していた。一方、特定の高密度ポリエチレン系樹脂を特定量含まない樹脂製容器(比較例)は、耐寒性に劣るものであった。
【符号の説明】
【0053】
1 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、190℃におけるメルトフローレートが80〜120g/10分であるポリプロピレン系樹脂70〜95重量%、及び、190℃におけるメルトフローレートが30〜100g/10分であり、脆化温度が−45℃以下である高密度ポリエチレン系樹脂5〜30重量%を含有する樹脂組成物を射出成形して得られる樹脂製容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42381(P2011−42381A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190681(P2009−190681)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000238005)株式会社フジシールインターナショナル (641)
【Fターム(参考)】