説明

機械的特性に優れている難燃性マグネシウム合金及びその製造方法

【課題】
【解決手段】発火抵抗性に優れ、且つ優れた強度と軟性を併せ持つマグネシウム合金が提供される。本発明に係るマグネシウム合金は、1.0重量%〜7.0重量%のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過及び6.0重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含み、前記CaとYとの含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.1%〜2.5%であることを特徴とする。本発明に係るマグネシウム合金は、保護被膜として働く緻密な複合酸化層を形成することで極めて優れた耐酸化性及び発火抵抗性を示し、大気中や一般の不活性雰囲気(Ar、N2)下で溶解、鋳造及び加工が可能となり、機械加工工程の際に堆積するチップの自然発火を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発火抵抗性に優れているマグネシウム合金、より詳しくは、溶湯表面に安定した保護被膜を形成することで大気中あるいは一般の活性雰囲気下でも溶解や鋳造が可能となり、発火抵抗性に極めて優れていることでチップの自然発火を抑制することができ、且つ、優れた強度と軟性を併せ持つマグネシウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、高い比強度を有する最軽量の合金であって、各種の鋳造や加工工程に適用可能であり、自動車部品や電磁気部品などの軽量化が要求されるあらゆる分野に適用可能であってその応用範囲が広い。しかしながら、マグネシウム合金は、電気化学的に電位が低く且つ相当に高い活性を有する金属であって、酸素または水と接触すると強い活性反応を示し、時には火事を起こしたりするなど、材料の安定性及び信頼性の面でまだ限界がある。このために、その応用潜在力に比しては未だその応用範囲が制限的であり、とりわけ、安全性が要求される応用分野には不向きである。
【0003】
マグネシウム合金のかかる活性反応のため、溶解時にはフラックス(flux)やCO2+SF6などの不活性混合ガスを使用して不活性雰囲気を作る必要がある。溶解や精錬時に使用されるフラックスは塩化系であるため、溶湯処理条件が合わないと、残留塩素が素材中に残存して耐食性を大きく落とすという不具合があった。このような不具合を解決するためには、フラックスを使用する代わりに、SF6、CO2及びAirを混合した雰囲気下で溶解や鋳造を行なう方法が有効である。しかしながら、SF6は地球温室効果がCO2の24倍にもなる地球温室誘発物質として分類されており、今後、その使用が規制されると見込まれている。
【0004】
このような問題をより根本的に解決するために、マグネシウム合金そのものの耐酸化性を向上させるための研究として、特にCa、Beなどの希土類金属の添加によるマグネシウム合金の発火温度を向上させようとする研究が進められてきていた。従来は、耐酸化マグネシウム合金に添加される合金元素のうちCaが主に用いられており、その理由は、Ca元素の価格が他の希土類金属に比べて低廉で、毒性がなく、且つ添加量対比発火温度の上昇が大きいためである。
【0005】
Caを含むマグネシウム合金に関連する既存の研究によると、3重量%以上のCaを添加すると、発火温度が250程度上がると知られている。したがって、保護ガスを要することなく大気露出鋳造を可能にするための発火温度である700以上の発火温度、または保護ガスを含む状態で鋳造を可能にするための発火温度である650以上の発火温度を得るためには、好ましくは、3重量%以上、最小限2重量%以上のCaがマグネシウム合金に添加されている必要がある。しかしながら、Caが2重量%を超えて添加されると、一般にマグネシウム合金の引張特性は低下し、特に延伸率の減少が著しくなり、これは、粗大な硬質の共晶相が多量形成され、クラックの発生を誘発するためである。このようにCa添加量の増加は、発火抵抗性を増大させるという長所があるものの、引張特性が急激に劣化するという短所があり、したがって、発火抵抗性と引張特性とを同時に満足させるマグネシウム合金の開発が要求されている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、前記従来の問題点を解決するためのマグネシウム合金を提供することをその目的とする。
【0007】
具体的に、本発明は、Caを含むマグネシウム合金であって、優れた発火抵抗性と引張特性を併せ持つマグネシウム合金を提供することをその目的とする。
【0008】
また、本発明は、Caを最小限に使用するとともに、SF6のような環境汚染誘発物質である保護ガスを使用しない環境にやさしい製造工程を可能にするマグネシウム合金を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明に係るマグネシウム合金は、溶融鋳造法により製造されるマグネシウム合金であって、1.0重量%以上7.0重量%未満のAlと、0.05重量%〜2.0重量%のCaと、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物とを含み、前記CaとYとの合計含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.1重量%以上2.5重量%未満であることを特徴とする。
【0010】
また、前記Caの含量は、0.2重量%〜1.5重量%であることが好ましい。
【0011】
また、前記Yの含量は、0.1重量%〜1.5重量%であることが好ましい。
【0012】
また、CaとYの含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.3%以上2.0%以下であることが好ましい。
【0013】
また、前記マグネシウム合金は、0重量%超過1重量%未満のMnをさらに含むことが好ましい。
【0014】
また、前記マグネシウム合金は、0重量%超過1重量%未満のZrをさらに含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るマグネシウム合金の製造方法は:
Mg、Al、及びZnを含むマグネシウム合金溶湯を形成するステップ;
前記マグネシウム合金溶湯にCa及びYの原料物質を添加するステップ;
前記Ca及びYの原料物質が添加されたマグネシウム合金溶湯から溶融鋳込方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を製造するステップを含み、
前記方法により製造されたマグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含むことを特徴とする。
【0016】
また、前記マグネシウム合金溶湯にCa及びYの原料物質を添加するステップでは、800℃より高い温度でCa及びYの原料物質を添加することが好ましい。
【0017】
または、本発明に係るマグネシウム合金の製造方法は:
Mg、Al、及びZnを含むマグネシウム合金溶湯を形成するステップ;
Mg、Al、Zn、Ca、及びYを含み、750℃以下で溶解可能な母合金インゴットを形成するステップ;
前記マグネシウム合金溶湯に前記750℃以下で溶解可能な母合金インゴットを投入するステップ;
前記母合金インゴットが含まれた溶湯から溶融鋳込方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を製造するステップを含み、
前記方法により製造されたマグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含むことを特徴とする。
【0018】
また、前記Mg、Al、Zn、Ca、及びYが含まれた母合金インゴットは、750℃以下で溶解可能なものであり、前記母合金インゴットは、750℃より低い温度で前記マグネシウム合金溶湯に投入されることが好ましい。
【0019】
または、本発明に係るマグネシウム合金の製造方法は:
Mg、Al、及びZnを含むマグネシウム合金溶湯を形成するステップ;
前記マグネシウム合金溶湯にCa化合物及びY化合物を添加するステップ;
前記Ca化合物及びY化合物が添加されたマグネシウム合金溶湯から溶融鋳込方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を製造するステップを含み、
前記方法により製造されたマグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含むことが好ましい。
【0020】
また、前記Ca及びY原料物質、Mg、Al、Zn、Ca、及びYが含まれた母合金インゴット、または前記Ca化合物及びY化合物を前記マグネシウム合金溶湯に投入するステップは、前記マグネシウム合金溶湯を周期的に撹拌するステップをさらに含むことが好ましい。
【0021】
また、前記鋳込方法は、金型鋳造法、砂型鋳造法、重力鋳造法、加圧鋳造法、連続鋳造法、薄板鋳造法、ダイカスト法、精密鋳造法、消失模型鋳造法、噴霧鋳造法、及び半凝固鋳造法のいずれかであることが好ましい。
【0022】
また、前記方法は、前記鋳込方法により形成されたマグネシウム合金鋳造材を熱間加工するステップをさらに含むことが好ましい。
【0023】
本発明に係るマグネシウム合金において各成分の含量を限定した理由は、それぞれ次のとおりである。
【0024】
<アルミニウム(Al)>
アルミニウムはマグネシウム合金の強度の増大及び流動性を向上させ、且つ凝固範囲を増大させることで鋳造性を改善させる元素であって、一般にアルミニウム添加量の増加に伴い、共晶相であるMg17Al12相の分率が増大する。また、後述するように本発明に係る実験結果によると、他の合金元素と複合して添加されると、アルミニウムの含量が増加するほど発火抵抗性が増大することが確認できる。一方、アルミニウムの含量が1重量%未満であると、強度の増大及び発火抵抗性の向上効果が奏されず、アルミニウムの含量が7重量%以上では粗大なMg17Al12共晶相により引張特性が低下するので、アルミニウムは1重量%以上7重量%未満の範囲で含まれることが好ましい。
【0025】
<カルシウム(Ca)>
カルシウムはMg-Al系合金においてMg-Al-Ca金属間化合物を形成することで強度及び耐熱特性を向上させ、且つ、溶湯表面に薄くて緻密なCaO酸化層を形成させて溶湯の酸化を抑制することでマグネシウム合金の発火抵抗性を向上させる。しかしながら、カルシウムの含量が0.05重量%未満であると、発火抵抗性の向上効果は大きくなく、2重量%を超過すると、溶湯の鋳造性が劣化し熱間割れ(hot cracking)が生じ、金型との粘着性(die sticking)が増大し延伸率が大きく低下するなどの不具合が生じる。このため、本発明に係るマグネシウム合金におけるカルシウムは、0.05重量%〜2.0重量%の範囲で、より好ましくは、0.2重量%〜1.5重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0026】
<イットリウム(Y)>
イットリウムはそもそもマグネシウムに対して大きな固溶限を持っており、主に析出強化効果による高温耐クリープ向上元素として使用される。ところが、イットリウムをカルシウムとともにマグネシウム合金に添加すると、粗大なカルシウム含有共晶相の分率が減り、0.5重量%以上添加されると、鋳造材の結晶粒を微細化させるAl2Y粒子が形成され、引張特性を改善させるという効果が奏される。また溶湯表面にY23酸化層を形成してMgO、CaOと混合層を形成することで発火抵抗性を増大させる。一方、マグネシウム合金に0.05重量%未満のイットリウムが含まれると発火温度の増大が大きくなく、イットリウムが2重量%を超過して含まれると合金のコストがアップし、Al2Y粒子の粗大化による微細化効果が喪失される。このため、本発明に係るマグネシウム合金におけるイットリウムは、0.05重量%〜2.0重量%の範囲で、より好ましくは、0.1重量%〜1.5重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0027】
<亜鉛(Zn)>
亜鉛はアルミニウムとともに添加されると、結晶粒を微細化し且つ強度を増大させる効果を奏する。また一般に、マグネシウム合金中の亜鉛の最大固溶限は6.2重量%であり、これを超過してマグネシウム合金に亜鉛を添加すると、鋳造時に生成された粗大な共晶相が鋳造材の機械的特性を劣化させるのみならず、均質化熱処理(T4)の後も相当量の粗大な共晶相が残留するようになり、機械的特性、特に延伸率を劣化させる原因になるため、亜鉛は6重量%以下に添加されることが好ましい。
【0028】
<マンガン(Mn)>
マンガンはMg-Al系合金において耐食性に有害な不純物元素であるFeと結合して耐食性を向上させ、早い冷却速度でAl-Mn金属間化合物を形成することで強度を向上させる。しかしながら、マンガンを1.0重量%を超過して添加すると、マグネシウム合金中に粗大なβ-Mn相あるいはAl8Mn5相が形成されて機械的特性を劣化させるため、マンガンは1.0重量%以下に含まれることが好ましい。
【0029】
<ジルコニウム(Zr)>
ジルコニウム(Zr)はAl、Mnなどの元素を含まないマグネシウム合金に添加されると、凝固時マグネシウム結晶と極めて類似の結晶格子を有する初晶Zrが形成されるため、初晶Zrでのマグネシウム結晶の不均一核生成による結晶粒微細化のために主に添加されるが、0.1重量%未満に添加されるとその効果が十分ではなく、1.0重量%を超過して添加されると、粗大な初晶Zrの形成により延伸率が低下するため、0.1重量%〜1.0重量%以下の範囲で含むことが好ましい。
【0030】
<その他不可避な不純物>
本発明に係るマグネシウム合金には、合金の原料または製造過程で不可避に混入される不純物を含んでいてよく、本発明に係るマグネシウム合金に含まれていてよい不純物のうち、特に鉄(Fe)、シリコン(Si)、及びニッケル(Ni)は、マグネシウム合金の耐食性を悪化させる役割をする成分である。このため、Feの含量は0.004重量%以下、Siの含量は0.04重量%、Niの含量は0.001重量%以下を維持させることが好ましい。
【0031】
<カルシウムとイットリウムとの合計量>
カルシウムとイットリウムとを複合添加すると、固相あるいは液相のマグネシウム合金表面に緻密なCaO/Y23複合酸化層を形成することで、カルシウムあるいはイットリウムを独立して添加した合金に比べて遥かに優れた発火抵抗性を示す。またカルシウムあるいはイットリウムを独立して添加する場合、優れた発火抵抗性を得るためには、一般に3重量%以上添加しなければならないが、この場合、粗大な金属間化合物を形成することから、引張特性が大きく低下するという不具合が生じる。しかし、カルシウムとイットリウムとを複合添加すると、少量の添加でも発火抵抗性に優れ且つ金属間化合物の分率と大きさを大幅に減らして引張特性を向上させることができるという長所がある。一方、マグネシウム合金に、合計含量0.1重量%未満のカルシウムとイットリウムを添加した場合、カルシウムとイットリウムとの複合添加効果が奏されず、発火温度が650℃以下と低いため、大気中あるいは一般の不活性ガス雰囲気下では溶解することができなくなる。また、カルシウムとイットリウムとの合計含量が2.5重量%以上である場合、さらなる発火温度の上昇による長所がない反面、合金コストのアップをもたらす。したがって、本発明に係るマグネシウム合金におけるカルシウムとイットリウムとの合計含量は、0.1重量%以上及び2.5重量%未満、より好ましくは、0.2重量%〜2.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るマグネシウム合金は、保護被膜として働く緻密な複合酸化層を形成することで極めて優れた耐酸化性及び発火抵抗性を示し、大気中や一般の不活性雰囲気(Ar、N2)下で溶解や鋳造及び加工が可能となり、機械加工工程の際に堆積するチップの自然発火を抑制することができる。
【0033】
また、本発明に係るマグネシウム合金は、SF6などのガスを使用しないためコストの削減、作業者の健康保護、環境汚染の防止に適合したものである。
【0034】
また、本発明に係るマグネシウム合金は、発火温度が融点+50℃以上であって常用合金に対して遥かに優れた発火抵抗性を示し且つ強度や軟性も優れており、救助用部品素材として適用可能である。
【0035】
また、本発明に係るマグネシウム合金は、加工材または鋳造材として多様に利用でき、特に高強度・高軟性及び安定性特性を要求する次世代自動車、高速鉄道、都心鉄道などに実在的適用が可能な押出材、板材、鍛造材、鋳造材などに製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1(a)】本発明の好適な実施例に従って大気中で鋳造した比較例1に係る合金鋳造材の表面写真である。
【図1(b)】本発明の好適な実施例に従って大気中で鋳造した実施例2に係る合金鋳造材の表面写真である。
【図2】本発明の好適な実施例に従って鋳造したマグネシウム合金の発火温度測定方法を例示する図である。
【図3】本発明の好適な実施例に従って鋳造した実施例5に係るマグネシウム合金を670℃で10分間保持した後の溶湯表面酸化層のEPMA分析結果を示す図である。
【図4】CaとYとが複合添加された合金において固相あるいは液状表面で形成された二重の複合酸化層が外部からの酸素の浸透を遮断する構造を概略的に示す図である。
【図5(a)】本発明の好適な実施例に従って鋳造した比較例3に係る合金の微細組織を示す光学写真である。
【図5(b)】本発明の好適な実施例に従って鋳造した実施例2に係る合金の微細組織を示す光学写真である。
【図6(a)】本発明の好適な実施例に従って押出した比較例1に係る合金の微細組織を示す光学写真である。
【図6(b)】本発明の好適な実施例に従って押出した比較例2に係る合金の微細組織を示す光学写真である。
【図6(c)】本発明の好適な実施例に従って押出した比較例3に係る合金の微細組織を示す光学写真である。
【図6(d)】本発明の好適な実施例に従って押出した実施例1に係る合金の微細組織を示す光学写真である。
【図7】本発明の好適な実施例に従って製造した比較例及び実施例におけるCaとYとの合計添加量に応じた発火温度の変化を示す写真である。
【図8】本発明の好適な実施例に従って製造した比較例及び実施例におけるCaとYとの合計添加量に応じた引張強度×均一延伸率値の変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の好適な実施例に係るマグネシウム合金及びその製造方法について、詳しく説明する。なお、下記の実施例は、例示的なものであるに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0038】
本発明の発明者らは、前述した従来技術の問題点を解決し、本発明の目的を達成するために、熱力学的に計算された合金設計に対する研究の結果、Mg-Al系合金またはMg-Al-Zn系合金にCaとYとを複合添加すると、下表1から確認できるように、Caのみを単独で添加した場合に比べて硬質の共晶相(Eutectic phase I)の分率が画期的に減少し且つ結晶粒微細化粒子であるAl2Y相の形成を誘導することで、発火抵抗性だけでなく引張特性をも向上させることができることを確認した。
【0039】
【表1】

【0040】
本発明の発明者らは、前記データを基に各種の組成を有するマグネシウム合金を製造し、本発明の好適な実施例に係るマグネシウム合金の製造方法は、次のとおりである。
【0041】
先ず、Mg(99.9%)、Al(99.9%)、Zn(99.99%)、Ca(99.9%)、Y(99.9%)、及び選択的にMn(99.9%)の原料物質を準備した後、前記原料を溶解し、重力鋳造方法を用いて下表2の実施例1ないし実施例17及び比較例1ないし比較例9に記載した合金組成を有するマグネシウム合金鋳造材を形成した。特に、融点がそれぞれ842℃、1525℃と高いCaとYとを直接溶湯に投入して合金化させるために、850℃ないし900℃までに溶湯の温度を上げ、これらの元素を完全溶解させた後、鋳造温度までに徐々に冷却してから鋳造を行い、マグネシウム合金鋳造材を形成した。
【0042】
または、本発明の好適な実施例によると、Mg(99.9%)、Al(99.9%)、Zn(99.99%)、Ca(99.9%)、Y(99.9%)の原料物質を同時に溶解させて溶湯を形成した後に鋳造する方法の他、種々の方法にてマグネシウム合金を製造することが可能である。例えば、Mg、Al、及びZnの原料物質またはこれらの合金を利用してマグネシウム合金溶湯を予め形成し、Ca及びYの原料物質、またはCa化合物及びY化合物を前記マグネシウム合金溶湯に投入した後、好適な鋳造方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を形成することも可能である。または、最終目標よりもCa及びYの含量が高いMg、Al、Zn、Ca、及びY合金(母合金インゴット)を製造し、これとは別にMg、Al、及びZnの原料物質またはこれらの合金を利用してマグネシウム合金溶湯を形成した後、前記母合金インゴットを前記マグネシウム合金溶湯に投入してマグネシウム合金鋳造材を形成することもできる。前記方法によると、母合金インゴットの融点はCa及びY原料物質の融点よりも低いので、Ca及びY原料物質を直接マグネシウム合金溶湯に投入する時よりも低い温度で母合金インゴットを投入することができるという点で特に有用である。その他にも、本発明に係るマグネシウム合金の形成は、種々の方法にて具現可能であり、本発明が属する技術分野において既に広く知られたマグネシウム合金の形成方法はいずれも本発明に一体として取り込まれる。
【0043】
一方、本実施例における誘導溶解は黒鉛るつぼ(graphite crucible)を使用し、合金化が完了するまでは溶湯の酸化を防止するためにSF6とCO2混合ガスを溶湯の上部に塗布して溶湯と大気とが接触することを遮断した。また、溶解が完了した後は、保護ガスを使用せずに鉄系金型にて金型鋳造を行ない、圧延実験のために幅100mm、長さ150mm、厚さ15mmの板状鋳造材を製造し、押出実験のために直径80mm、長さ150mmの円筒状ビレット(billet)を製造し、合金鋳造材の発火実験のために直径55mm、長さ100mmの円筒状ビレットを製造した。また、本実施例では、金型鋳造法を使用してマグネシウム合金を鋳造したが、砂型鋳造、重力鋳造、加圧鋳造、連続鋳造、薄板鋳造、ダイカスト、精密鋳造、噴霧鋳造、半凝固鋳造などの各種の鋳造法が使用でき、本発明に係るマグネシウム合金は、必ずしもある特定の鋳造方式に限定されるものではないが、溶融鋳込法であることがより好ましい。
【0044】
次いで、先に形成した鋳造材に対して400℃で15時間均質化熱処理を施した。しかる後、表2の比較例1ないし比較例6及び実施例1ないし実施例7に対して均質化熱処理が施された材料をロール温度200℃、ロール径210mm、ロール速度5.74mpm、圧延1回当たり圧下率30%/pass及び72%/passの条件下でそれぞれ圧延処理を行い、最終厚さ1mmの板材に熱間加工した。このとき、圧延1回当り圧下率が30%/passの場合、最終厚さ1mmまでに計7回の圧延が行われた。
【0045】
一方、表2の比較例7と比較例8及び実施例8は、均質化熱処理が施された材料を押出温度250、押出速度5m/minで25:1の押出比にてそれぞれ押出し、最終径16mmの表面状態が良好な棒状押出材を製造した。
【0046】
なお、本発明の実施例では鋳造及び均質化熱処理後に圧延及び押出加工を実施したが、例えば鍛造、引抜などの各種の加工方法により製造することもでき、必ずしもある特定の加工方式に限定されるものではない。
【0047】
<マグネシウム合金の発火温度測定>
前記マグネシウム合金の発火温度を測定するために、先に製造された円筒状ビレットの外郭を深さ0.5mm、ピッチ0.1mm、350rpmの一定の速度でチップ加工を行い、所定の大きさのチップを得た。前記方法で得たチップ0.1gを1000℃に保持される加熱炉内に一定の速度で装入して昇温させた。その過程で図3に示すように発火によって急激な温度上昇が始まる温度を発火温度と測定し、その結果を表2に表した。
【0048】
表2の比較例1ないし比較例6から分かるように、マグネシウム合金の発火温度は、カルシウムの添加によって急激に増大し、同じ量のカルシウムが添加された場合、アルミニウムの含量が多い合金であるほど、発火温度も増大する傾向を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2において実施例2及び実施例5の発火温度を比較例2及び比較例5の発火温度とそれぞれ比較してみると、マグネシウム合金にカルシウムのみが含まれた場合に比べて、イットリウムがさらに添加された場合に発火温度が遥かに高く形成されることを確認することができる。なぜならば、図4のEPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果から分かるように、Y添加によって溶湯と接する部分にCaOとY23との混合層が形成され、この層が大気中の酸素が溶湯へ浸透して反応することを効果的に抑制することができるためである。またCaOとY23との混合層の外部分にもCaOとMgOとの混合層が存在し、かかる二重混合層が溶湯を高い温度でも安定して保持できるようにする。
【0051】
また、比較例3と実施例2及び比較例6と実施例5を比較してみると、カルシウムのみを添加した場合に比べてカルシウムとイットリウムとを複合添加した場合、カルシウムとイットリウムとの合計含量がカルシウムのみを添加した場合のカルシウムの含量に比べて少ない場合であっても発火温度が遥かに高いことを確認することができる。これは、マグネシウム合金の発火温度を高めるためにカルシウムのみを利用した場合に比べて、カルシウムとイットリウムとを複合添加した場合に、発火抵抗性を高めるという面においてより優れた効果が得られることを示す。
【0052】
また、表2において実施例1に係るマグネシウム合金の発火温度が807℃と極めて高い発火抵抗性を示しているが、これは、イットリウムの含量が1重量%と高いためであり、したがって、イットリウムの添加量が増大するほど発火抵抗性も大きく向上され得ることが分かる。また、表2において実施例8に係るマグネシウム合金の発火温度が811℃と極めて高い発火抵抗性を示しているが、これは、亜鉛が6重量%添加されたマグネシウム合金でもカルシウムとイットリウムとが1重量%ずつ添加された場合、発火温度が大きく向上することを示す。
【0053】
<マグネシウム合金の引張特性の評価>
前述した方法により製造された板材に対して250℃で30分間熱処理を施した後、ゲージ部の長さが25mmのASTM−E−8M規格のサブサイズ(sub−size)板状試片を製造し、通常の引張試験機を使用して1×10-3-1の変形率で常温引張試験を実施し、その結果を表3に表した。
【0054】
また、押出材の場合、ゲージ部の長さが25mmの棒状試片を製造し、板状試片と同一の条件で引張試験を実施した。
【0055】
表3から分かるように、比較例2と比較例3、比較例5と比較例6、及び比較例7と比較例8を比較してみると、カルシウムの含量が1重量%から2重量%に増加することにより、降伏強度と引張強度は増大するものの、延伸率は大きく低下することが分かる。このような延伸率の低下は、図5(a)に示すように、カルシウムの添加量が2重量%に増加した場合、基材中における微細なAl2Ca析出相とともに粗大な硬質のMg-Al-Ca三元系共晶相の分率が高くなるためである。一方、図5(b)に示すように、カルシウムの添加量が1重量%である場合、0.6重量%のイットリウムが含まれる場合であっても粗大な硬質のMg-Al-Ca三元系共晶相は発見されず、したがって、延伸率が低くならない。同様に、図6において比較例1ないし比較例3と実施例1の押出材の微細組織を比較してみると、カルシウムの添加量が1重量%と2重量%に増加した場合、図6(b)と図6(c)において矢印にて示された黒色の2次相が多量観察され、このような硬質の2次相から欠陥が発生しやすくなるため、延伸率が低下するようになる。
【0056】
【表3】

【0057】
一方、図6(d)に示すように、カルシウムとイットリウムとがそれぞれ1重量%ずつ添加された合金の押出材では、延伸率を低下させる硬質の2次相が観察されていない。このような結果は、実施例2と比較例3、実施例5と比較例6、及び実施例13と比較例8をそれぞれ比較してみるとより明らかとなる。すなわち、実施例2と実施例5はカルシウム1重量%、イットリウム0.6重量%のみを添加したにもかかわらず、カルシウムを2重量%添加した比較例3及び比較例6に比べて、ほぼ同じレベルの発火抵抗性や引張強度を持ちつつ、延伸率が極めて高いことを確認することができる。実施例13も同様に、Mg-6Zn-1Al合金にカルシウム1重量%、イットリウム1重量%を添加すると、発火抵抗性が大きく向上し、且つ引張特性、特に引張強度×均一延伸率値が大きく向上することが分かる。すなわち、本実施例に係るマグネシウム合金は、イットリウムを少量添加することでカルシウムの含量を1重量%のレベルに低く保持しつつも粗大な硬質の三元系共晶相の分率を大きく低下させ、強度と延伸率が同時に向上したマグネシウム合金を得ることができる。
【0058】
また、実施例2と比較例2、実施例5と比較例5をそれぞれ比較してみると、実施例2及び実施例5は、イットリウムを添加することでカルシウムを同一の含量で添加しイットリウムを添加していない場合に比べて、優れた発火抵抗性を示し、且つより優れた引張強度×均一延伸率値を示すことを確認することができる。
【0059】
このような傾向は、カルシウムとイットリウムの合計添加量に応じた発火温度と引張特性の変化を示す図7と図8からも確認することができる。図7においてカルシウムとイットリウムとの合計添加量が増加するにつれて、発火温度が徐々に増大する傾向を示し、特にイットリウムが添加されていない合金に比べて、イットリウムが添加された場合、発火温度の増大勾配がより大きくなることを確認することができる。一方、図8に示すように、カルシウム単独添加の場合、カルシウム添加量が増加するにつれて、熱間加工の種類とは関係なく引張強度×均一延伸率値が大きく低下する傾向を示すが、カルシウムとイットリウムとが同時に添加された場合、反ってカルシウムとイットリウムとが添加されていない合金よりも機械的特性が向上する結果を示す。このような結果から、少量のカルシウムとイットリウムとを同時に添加することで発火抵抗性を大きく向上させ、且つ、引張特性も向上させることを確認することができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施例に係るマグネシウム合金及びその製造方法を添付図面を参照して詳細に説明した。なお、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者ならば、前記実施例が本発明の一例を例示するものに過ぎず、別の種々の修正及び変形が可能であることが理解できるであろう。したがって、本発明の範囲は、もっぱら後で説明する特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融鋳造法により製造されるマグネシウム合金であって、
前記マグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過及び6.0重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物とを含み、
前記CaとYとの合計含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.1重量%以上2.5重量%未満であることを特徴とするマグネシウム合金。
【請求項2】
前記Caの含量は、0.2重量%〜1.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項3】
前記Yの含量は、0.1重量%〜1.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項4】
前記CaとYとの含量は、前記マグネシウム合金の全重量に対して0.3%以上2.0%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネシウム合金。
【請求項5】
前記マグネシウム合金は、0重量%超過及び1.0重量%以下のMnをさらに含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネシウム合金。
【請求項6】
前記マグネシウム合金は、0.1重量%〜1.0重量%以下のZrをさらに含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネシウム合金。
【請求項7】
Mg、Al、及びZnを含むマグネシウム合金溶湯を形成するステップ;
前記マグネシウム合金溶湯にCa及びYの原料物質を添加するステップ;
前記Ca及びYの原料物質が添加されたマグネシウム合金溶湯から溶融鋳込方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を製造するステップを含み、
前記方法により製造されたマグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含むことを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
【請求項8】
前記マグネシウム合金溶湯にCa及びYの原料物質を添加するステップでは、800℃より高い温度でCa及びYの原料物質を添加することを特徴とする請求項7に記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項9】
Mg、Al、及びZnを含むマグネシウム合金溶湯を形成するステップ;
Mg、Al、Zn、Ca、及びYを含み、750℃以下で溶解可能な母合金インゴットを形成するステップ;
前記マグネシウム合金溶湯に前記750℃以下で溶解可能な母合金インゴットを投入するステップ;
前記母合金インゴットが含まれた溶湯から溶融鋳込方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を製造するステップを含み、
前記方法により製造されたマグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含むことを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
【請求項10】
前記Mg、Al、Zn、Ca、及びYが含まれた母合金インゴットは、750℃以下で溶解可能なものであり、前記母合金インゴットは、 750℃より低い温度で前記マグネシウム合金溶湯に投入されることを特徴とする請求項9に記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項11】
Mg、Al、及びZnを含むマグネシウム合金溶湯を形成するステップ;
前記マグネシウム合金溶湯にCa化合物及びY化合物を添加するステップ;
前記Ca化合物及びY化合物が添加されたマグネシウム合金溶湯から溶融鋳込方法を用いてマグネシウム合金鋳造材を製造するステップを含み、
前記方法により製造されたマグネシウム合金は、1.0重量%以上及び7.0重量%未満のAl、0.05重量%〜2.0重量%のCa、0.05重量%〜2.0重量%のYと、0重量%超過6重量%以下のZnと、残部としてのMg、及びその他不可避な不純物を含むことを特徴とするマグネシウム合金の製造方法。
【請求項12】
前記Ca原料物質及びY原料物質、Mg、Al、Zn、Ca、及びYが含まれた母合金インゴット、または前記Ca化合物及びY化合物を前記マグネシウム合金溶湯に投入するステップは、前記マグネシウム合金溶湯を周期的に撹拌するステップをさらに含むことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項13】
前記鋳込方法は、金型鋳造法、砂型鋳造法、重力鋳造法、加圧鋳造法、連続鋳造法、薄板鋳造法、ダイカスト法、精密鋳造法、消失模型鋳造法、噴霧鋳造法及び半凝固鋳造法のいずれかであることを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項14】
前記マグネシウム合金の製造方法は、前記鋳込方法により形成されたマグネシウム合金鋳造材を熱間加工するステップをさらに含むことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載のマグネシウム合金の製造方法。

【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−512338(P2013−512338A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541039(P2012−541039)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【国際出願番号】PCT/KR2011/007298
【国際公開番号】WO2012/046984
【国際公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(304059937)コリア・インスティテュート・オブ・マシナリー・アンド・マテリアルズ (27)