説明

機能性非天然型タンパク質の製造法、及び当該タンパク質の部位特異的修飾・固定化法

【課題】タンパク質本来の機能を保持しかつ部位特異的な修飾・固定化を可能とする、又はタンパク質本来の機能に加え、天然には無い新たな機能を備えた、20種未満のアミノ酸から構成される非天然型タンパク質の工業的製造法を提供すること。
【解決手段】特定のアミノ酸種を当該アミノ酸種以外の天然アミノ酸に置換してなる機能性非天然型タンパク質の製造法において、
a)遺伝子型を反映する塩基配列を有する核酸部分と、当該核酸部分の翻訳産物であるタンパク質部分とを対応付けるステップ;
b)上記対応付けステップで得られた対応付け分子を選択するステップ;
c)上記選択ステップで得られた対応付け分子の核酸部分に変異を導入するステップ;及び
d)上記変異導入ステップで得られた核酸部分を増幅するステップ
を含む、前記製造法;機能性非天然型タンパク質の製造法;並びに機能性非天然型タンパク質の部位特異的修飾及び部位特異的固定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部位特異的な修飾や固定化を可能にし、又は抗酸化能を新たに有する、20種未満のアミノ酸から構成される機能性非天然型タンパク質を工業的に製造する方法に関する。特に、アラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体を含むin vitroウイルス進化分子工学手法を用いる、特定のアミノ酸に代わりアラニン又はセリンが部位特異的に組み込まれた機能性非天然型タンパク質の工業的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然のタンパク質は、その遺伝子の淘汰・変異・増幅の進化サイクルを繰り返すことで、その活性が向上してきた。更に、生体内ではタンパク質の多くが修飾されることにより官能基のバリエーションを獲得し、機能のバリエーションも豊富になっている。産業化に際しても、タンパク質の進化分子工学の誕生により、生命反応の根幹を形成するタンパク質又はそれらをコードする遺伝子DNAを、実験室の中で人工的に創り出すことが行われている。この技術により、自然には存在しない新たな活性を持った酵素・タンパク質や、天然のタンパク質とは大きく構造の異なるタンパク質を産み出すことが可能となり、医療分野や工学分野への様々な応用が期待されている。進化分子工学では、タンパク質又はそれをコードする遺伝子を構成するアミノ酸又はヌクレオチドのブロック単位のランダムな重合体プールの中から、目的とする活性を持つ分子を選び出す操作が行われる。
【0003】
しかしながら、更なる飛躍をもたらすためには、タンパク質の官能基バリエーションの増加や、バイオプロセスのためのタンパク質固定化、タンパク質安定化技術の進展が望まれている。そのためにはタンパク質修飾技術が鍵となる。例えば、肝炎の治療薬であるタンパク質製剤、インターフェロンは、ポリエチレングリコール(PEG)によって修飾されることにより、その修飾が非特異的であっても人体内での安定性が高まり、血中消失半減期を延長させることができた。また、修飾技術は、バイオプロセスの確立や細胞培養シャーレの高機能化において重要なタンパク質固定化技術とも密接な関連を持つ。なぜなら、両技術の差異は、修飾によってタンパク質に付加される物質が、ある程度の大きさまでの分子であるか又は支持体であるかの違いに過ぎないからである。
【0004】
近年、タンパク質の部位特異的修飾方法として、例えば、被修飾部位が1箇所に限定されるように、タンパク質から全てのリジン残基を置換した変異体又は1つのシステイン残基以外の全てのシステイン残基を置換した変異体を設計する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、特定の種類のアミノ酸のほとんどを欠損させるような大規模なアミノ酸置換により、タンパク質の活性が低下してしまうという問題があった。また、低下した活性を補う変異体を探索するには、更に多大な労力が必要であった。
【0005】
当該手法の発展系として、6箇所のリジンのコドンを全てランダマイズした初期集団の中から、ファージ・ディスプレイを用いて活性を保持したままリジン残基を有さないタンパク質を選択する手法が報告されているが、全てのリジンが除外されていたものはわずかのクローンであり、より一般的なタンパク質を対象とした場合、リジンが除外された活性クローンが得られる効率は更に低下すると予想される。更に、ライブラリーを作製する過程での変異により、もとのタンパク質ではリジンをコードしていなかった部位にもリジンのコドンが現れていたはずである。実際、この報告で得られたクローンの活性は中程度なものに留まっている。
【0006】
一方、aaRS(アミノアシルtRNA合成酵素)変異体を添加したタンパク質合成系を用いて、20種以外のアミノ酸(非天然型アミノ酸)をタンパク質合成中に導入する手法(例えば、特許文献1、2及び非特許文献2参照)が知られている。前者では、ケトン基等を有する反応性の高い非天然型アミノ酸を導入してタンパク質を生産した後に、この官能基に対して修飾反応を行う(非特許文献2参照)。後者では、所望の修飾がなされた非天然型アミノ酸をリボソーム上で直接、タンパク質に導入することができる(特許文献1、2参照)。これらの方法は、進化分子工学の手法を適用しなくても活性の低下を招くことなく部位特異的に修飾できるメリットがある。
【0007】
しかしながら、タンパク質変異体のラショナルデザインによる部位特異的な変異導入のみにより所望の特性が得られることは稀であり、タンパク質の多くは活性が低下してしまうため、実用的には進化分子工学の適用が必要である。また、これらの手法では、大量生産時には更に特殊なタンパク質合成系を使用することが要求される。更に、これらのタンパク質合成系の精度は低く、産業製品として得られるタンパク質が不均一となることは大きな問題である。特に後者の手法については、非天然型アミノ酸の種類ごとに専用のaaRS変異体を作製する必要がある。このような変異体の作製は現状でも極めて困難であるばかりでなく、当該非天然型アミノ酸がタンパク質合成諸因子に受け入れられるためにはその物理的大きさに限界もある。
【特許文献1】特開2004-261160号公報
【特許文献2】国際公開第03/014354号パンフレット
【非特許文献1】Nature Biotechnology, 2003, vol.21, pp.546-552
【非特許文献2】PNAS January 7, 2003, vol.100, No.1, pp.56-61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来のタンパク質合成系では、天然には存在しない新たな活性を持ったタンパク質や、天然のタンパク質とは大きく構造の異なるタンパク質を安価に大量、特にミリグラムのレベルで製造することは困難であり、また従来のタンパク質合成系に進化分子工学の手法を組み合わせたとしても、次世代のライブラリーを作製するために必要な変異の導入により、初期ライブラリーから除外したはずのアミノ酸種が再現してしまう等の欠点があり、進化分子工学の真の効果が得られなかった。
従って、本発明は、タンパク質本来の機能を保持しかつ部位特異的な修飾・固定化を可能とする、又はタンパク質本来の機能に加え、天然には無い新たな機能を備えた、特定のアミノ酸種が当該特定のアミノ酸種以外の天然アミノ酸に置換されてなる非天然型タンパク質の工業的製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる現状に鑑み、鋭意検討したところ、タンパク質構成アミノ酸から除外する特定のアミノ酸種に対応したアラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体を作製し、当該tRNA変異体及び当該特定のアミノ酸種以外の天然アミノ酸を含む無細胞タンパク質合成系に公知のin vitroウイルス法等を適用することにより、初期ライブラリーから一度除外したアミノ酸種が分子の進化により再出現することがなく、特定の活性を有する非天然型タンパク質が製造できることを見出した。
また、本発明の製造法によって製造されたタンパク質のアミノ酸配列情報に基づいて、このアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを合成し(「遺伝子の再合成」)、これを既存のタンパク質合成系に用いることにより、当該機能性非天然型タンパク質が大量かつ安価に製造できることを見出した。
更に、汎用のタンパク質の修飾法及び固定化法のうち、アミノ酸種には特異的であっても部位非特異的な手法が、本発明の製造法によって得られた機能性非天然型タンパク質に適用すると、部位特異的修飾及び固定化が可能となることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)特定のアミノ酸種を当該アミノ酸種以外の天然アミノ酸に置換してなる機能性非天然型タンパク質の製造法において、
a)遺伝子型を反映する塩基配列を有する核酸部分と、当該核酸部分の翻訳産物であるタンパク質部分とを対応付けるステップ;
b)上記対応付けステップで得られた対応付け分子を選択するステップ;
c)上記選択ステップで得られた対応付け分子の核酸部分に変異を導入するステップ;及び
d)上記変異導入ステップで得られた核酸部分を増幅するステップ
を含む、前記製造法を提供する。
(2)前記ステップd)で得られた核酸部分を前記ステップa)に供することにより、前記ステップa)〜d)を反復するステップを更に含む、(1)記載の製造法を提供する。
(3)前記核酸部分がmRNAであって、前記ステップa)が、mRNAの3’末端側にスペーサーを連結し、次いで当該連結体の3’末端側にアミノ酸と共有結合し得るヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体を更に連結してmRNA連結体を得;次いで、当該特定のアミノ酸種に対応するサプレッサーtRNA及び当該特定のアミノ酸種以外の天然アミノ酸を含む無細胞タンパク質合成系に、当該mRNA連結体を加えてタンパク質合成を行い、当該mRNA連結体の翻訳産物と当該mRNA連結体とを連結することを特徴とする、(1)又は(2)記載の製造法を提供する。
(4)前記前記サプレッサーtRNAが、アラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体である、(3)記載の製造法を提供する。
(5)前記の特定のアミノ酸が、トレオニン、リジン又はシステインである、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の製造法を提供する。
(6)前記ヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体がピューロマイシンである、(3)〜(5)のいずれか1つに記載の製造法を提供する。
(7)(1)〜(6)のいずれかに1つに記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的修飾方法を提供する。
(8)(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的固定化方法を提供する。
(9)(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法によって製造されたタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを作製し、これを用いることを特徴とする、当該アミノ酸配列が維持されてなる機能性非天然型タンパク質の製造法を提供する。
(10)(9)記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的修飾方法を提供する。
(11)(9)記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的固定化方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性非天然型タンパク質の製造法により初代ライブラリーから除外したはずのアミノ酸の世代交代による再出現を回避できることから、アミノ酸の種類を減らすという方針に従った進化分子工学のサイクルを進めることが初めて可能になり、アミノ酸の種類を限定する効果が真に得られることになる。
また、製造されたタンパク質の遺伝子の再合成により、既存のタンパク質合成系によっても、本発明の機能性非天然型タンパク質を工業的に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
天然のタンパク質合成系に含まれるアミノ酸には、各アミノ酸に対して専用のアミノアシルtRNA合成酵素(以下、「aaRS」と称する)が存在し、各酵素が対応するアミノ酸とtRNAとを結びつける。そして、tRNAと結合したアミノ酸は、例えそれが本来結合されるべきtRNAでなくても、そのtRNAのアンチコドンに対応するタンパク質合成に用いられる。ここで特徴的なことは、aaRSが、すべてL字型の類似した立体構造を持つ全tRNAの中から対応するtRNAのみを厳密に識別し、また類似した化学構造を持つアミノ酸種から対応するアミノ酸種のみを厳密に識別している点である。従って、仮にaaRSによる対応付けに誤りが生じると、正確なタンパク質合成は行われなくなる。このように対応関係が精密に最適化されたシステムこそが遺伝暗号表の本質である。
【0013】
ところで、リボソーム上でアミノ酸が重合してタンパク質となるためには、アミノ酸はaaRSによってtRNAに結合される必要がある。そのため、特定の種類のアミノ酸自体又は当該アミノ酸に対応するaaRSもしくはtRNAをタンパク質合成系から除外することにより、特定の種類のアミノ酸をタンパク質から除外することができる。
アミノ酸種の除外は、無細胞タンパク質合成反応に使用される細胞抽出液が、細胞の破砕、遠心後に、透析によって細胞由来の小分子のほとんどが除去されるため、無細胞タンパク質合成反応を使用することによって容易に行うことができる。合成に使用されるアミノ酸は別途添加するため、このステップで特定の種類のアミノ酸を加えなければ当該アミノ酸を除外することができる。尚、本明細書で用いる、特定のアミノ酸種の「除外」とは、特定のアミノ酸種をそれ以外の天然アミノ酸に「置換」することを意味する。
当該アミノ酸に関する因子の除去は、例えば、特定の種類のアミノ酸のtRNAを固定化プローブDNA等で除去する方法、当該アミノ酸のaaRSを固定化抗体で除去する方法を用いることができる。また、無細胞タンパク質合成系では、個々の因子を別個に調製して再構成できることが知られているが、この再構成無細胞タンパク質合成系の構築時に特定の因子を混合しない反応液を使用する方法も使用できる。更に、アミノアシルtRNA合成酵素特異的阻害剤を用いることもできる。
【0014】
しかしながら、単なる因子の除外のみでは、除外されるアミノ酸に対応するコドンでタンパク質合成が停止されてしまい、完全長のタンパク質を得ることはできない。そこで、本発明の製造法の特徴は、「サプレッサーtRNA」を使用する。天然に存在するナンセンスサプレッサーtRNAは、停止コドン(対応するtRNAが本来は存在しないため、タンパク質合成の停止を指示する)に対応するアンチコドンを持つ。アンチコドンに変異が生じたとしても、aaRSによってこのtRNAにアミノ酸が結合されるため、停止コドンに対応して当該アミノ酸がペプチド鎖に挿入され、ナンセンスサプレッションが可能となる。図1には、除去されたトレオニンのコドンに対応してトレオニンの代わりにアラニンを挿入する「サプレッサーtRNA」を使用する一例を示す。
【0015】
従って、本発明の製造法は、無細胞タンパク質合成系中で、「サプレッサーtRNA」を用いて、核酸部分(遺伝子型)と、当該核酸部分の翻訳産物であるタンパク質部分(表現型)とを「対応付けた分子」を構築し、この対応付け分子を特定の活性を指標として試験管内淘汰法により選択し、選択されたin vitroウイルスの遺伝子部分をPCRにより増幅し、必要に応じて更に、対応付け分子の構築、変異の導入及び増幅、という操作を繰り返す、ことを特徴とする。
【0016】
上記「対応付け分子」としては、遺伝子型と表現型との複合体を形成するウイルス型、遺伝子型と表現型とを同一分子上にのせるリボザイム型、遺伝子型と表現型とを一つの袋に入れる細胞型が知られている(蛋白質 核酸 酵素 Vol.48 No.11 (2003))。本発明の製造法では、mRNAとタンパク質とを共有結合的に連結する「in vitroウイルス法」が好ましい。
遺伝子型と表現型とを一体化させる他のウイルス型の進化分子工学手法としては、ファージ・ディスプレイ(Smith, G. P., Science 228, 1315-1317 (1985); Scott, J. K., Science 249, 386-390 (1990))、ポリソーム・ディスプレイ(Mattheakis, L. C.他, Proc. Natl .Acad. Sci. USA 91, 9022-9026 (1994))、コード化タグ付ライブラリー(Brenner, S他, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 5381-5383 (1992))、セルスタット(Husimi, Y.他, Rev. Sci. Instrum. 53, 517-522 (1982))法等が挙げられる。
以下、本発明の製造法をin vitroウイルス法を例に分説するが、対応付け分子の構築、選択、変異導入、増幅等の操作の詳細については国際公開第98/16636号パンフレットに記載されている。
【0017】
(a)対応付け
対応付けは、mRNAの3’末端側にスペーサーを連結し、次いで当該連結体の3’末端側にアミノ酸と共有結合し得るヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体を更に連結してmRNA連結体を得、次いで、サプレッサーtRNA及び除外する特定の種類のアミノ酸以外の天然アミノ酸を含む無細胞タンパク質合成系に、当該mRNA連結体を加えてタンパク質合成を行い、当該mRNA連結体の翻訳産物と当該mRNA連結体とを共有結合によって連結する、ことによって行うことができる。
【0018】
この対応付け方法によれば、タンパク質合成において、除外する特定のアミノ酸種のコドンが来たときに、リボソームのAサイトにサプレッサーtRNAが対応して入り、ペプチジルトランスフェラーゼの作用により、サプレッサーtRNAの3’末端のヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体がタンパク質と結合する。
【0019】
本発明で使用されるmRNAの初期ライブラリーは、野生型の塩基配列そのもののmRNA、除外すべきアミノ酸種のコドンを全て類似の化学特性をもつアミノ酸種のコドンに置換した塩基配列を有するmRNA変異体、除外すべきアミノ酸種のコドンをランダムにした塩基配列を有するmRNA変異体等を含む。また、第二世代のmRNAライブラリーは、初期ライブラリーのmRNAやmRNA変異体に加えて、初期ライブラリーのmRNAを用い、対応付け・選択・変異導入・増幅のステップを経て得られたmRNA変異体を含むことができる。
【0020】
「スペーサー」としては、好ましくはその長さが100Å以上、さらに好ましくは100〜1000Å程度の高分子物質であれば如何なるものであってもよい。具体的には、天然又は合成のDNAやRNAの一本鎖;DNAとDNAの二本鎖;多糖類、ポリエチレングリコール等の高分子を挙げることができる。ポリエチレングリコールは、分子量2,000〜30,000程度のものが好ましい。
【0021】
アミノ酸と共有結合し得る「ヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体」としては、例えば、核酸の3'末端にアミド結合を形成するピューロマイシン、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(PANS-アミノ酸)(例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala等)等が挙げられる。3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されるアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(AANS-アミノ酸)(例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala等)、ヌクレオシドとアミノ酸とがエステル結合したものなども使用できる。これらの中で、ピューロマイシンが特に好ましい。
【0022】
本発明のmRNA連結体としては、例えば、mRNA (5’非翻訳領域−開始コドン−タンパク質コード配列)−3’非翻訳領域−DNAスペーサー−ピューロマイシンを挙げることができる。当該連結体は、3’非翻訳領域としてAAAAAAAAという8ヌクレオチドを持ったmRNAが、翻訳反応前に、「リン酸基−d(CC)−(Spacer18)8−dCC−ピューロマイシン」(「分子α」とする)(但し、Spacer18:-(CH2)2-O-[(CH2)2O]-PO3-)と共有結合することによって得られる。この共有結合は、RNAリガーゼ(Nucleic Acids Research vol.31, e78, 2003)によって形成しても又は一般的な有機化学反応によって形成してもよい。分子αとmRNAとの結合は、具体的には、T4 RNAリガーゼ(タカラ社)を用い、添付の緩衝液にポリエチレングリコール2,000を終濃度 120μMで添加して行うことができる。反応時間は、約15℃で、反応時間は約4時間である。
次に、mRNAと分子αとの結合物を、サプレッサーtRNA及び除外する特定の種類のアミノ酸以外の天然アミノ酸を含む無細胞タンパク質合成系に適用した後、反応液に終濃度50 mM MgCl2及び500 mM KClを添加し、約10℃で約30分間静置することにより、複合体である、mRNA−DNAスペーサー−ピューロマイシン−タンパク質を形成することができる。
【0023】
本発明で用いるサプレッサーtRNAとしては、例えば、除外する特定の種類のアミノ酸に対応するアンチコドンを有し、かつアラニン用のaaRSによって当該アミノ酸に代わってアラニンが結合される「アラニンtRNA変異体」が挙げられる(Giege R.他, Nucleic Acids Research 1998, vol.26, No.22, pp.5017-5035)。アラニンtRNA変異体の他に、除外する特定の種類のアミノ酸に対応するアンチコドンを有し、かつセリン用のaaRSによって当該アミノ酸に代わってセリンが結合される「セリンtRNA変異体」も同様に使用することができる(Takai K.他, Biochemical and Biophysical Research Communications 257, 662-667 (1999))。これらのtRNA変異体に対応するaaRSはアンチコドンを認識しないため、アンチコドンに変異が導入されたtRNAに対してもアラニン又はセリンを結合できるからである。除外されるアミノ酸種は、1つでも又は複数でもよいが、活性の発現、高次立体構造の形成等の点から10種以下が好ましく、特に5種以下が好ましい。
【0024】
例えば、タンパク質構成アミノ酸からトレオニンを除外する場合には、まずトレオニンをコードする4つのコドンに対し、トレオニンの代わりにアラニンを対応付けるためにこの4つのコドン(ACU、ACC、ACA、ACG)と対合できるアンチコドン「UGU」又はアンチコドン「GGU」を有するアラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体をそれぞれT7試験管内転写反応によって調製する。
【0025】
アンチコドン「UGU」を有するアラニンtRNA変異体は、具体的には以下のようにして作製することができる。まず、TGTを含むDNA断片をPCR反応に供し、得られたPCR産物をHindIIIとBamHIとで切断した後に、ベクターpUC18のHindIII-BamHI部位に組み込み、ベクターpALA(TGT)を作製した後、大腸菌を使って当該ベクターをクローニングし、次いでPCR反応を行い、当該アラニンtRNA変異体を転写する鋳型DNAを調製する。得られたPCR産物は、T7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列とその下流のtRNA配列とを有し、試験管内転写反応の鋳型となる。次いで、この転写鋳型に対して、文献(Nureki O.他, J. Mol. Biol. 236, 710-724, 1994)に記載の方法に従って転写反応及び精製を行うことにより、アラニンtRNA変異体を得ることができる。
【0026】
次いで、トレオニンを含まない無細胞タンパク質合成反応液にアラニンtRNA変異体を添加することにより、トレオニンのコドンに対応してアラニン又はセリンがポリペプチド鎖に挿入される「サプレッション」が生じて、全長の翻訳産物が得られる。
【0027】
特定のアミノ酸種の除外は、アミノ酸レベルでの化学変化に起因するタンパク質の不安定性を解消することもできる。例えば、含硫アミノ酸であるシステインは、酸化によりジスルフィド結合を形成し、タンパク質の失活を招く。メチオニンは酸化によって酸素原子が付加され、立体障害の発生がタンパク質活性を低下させる要因となる。そこで、タンパク質に抗酸化能を付与するためには、タンパク質からシステイン、メチオニン等の酸化性アミノを除外することが必要である。ところが、システイン、メチオニン等の除外には以下の問題点が生じる。
【0028】
システイン、リジン、アスパラギン等の4個未満のコドンを有するアミノ酸種の除外については、コドンの読みわけの失敗がある。すなわち、コドン/アンチコドン対合の認識において、コドン3文字目とアンチコドン1文字目では、アデニンとウラシル、グアニンとシトシンのワトソン・クリック型以外でも認識が成立し得る。そこで、コドンの1文字目と2文字目を共有する別のアミノ酸のtRNAとの交差反応を避けるために、野生型のtRNAでは、コドン3文字目と対合するアンチコドン1文字目が修飾されている場合がある。システインのコドン「UGU」又は「UGC」に対応するtRNAのアンチコドン「GCA」は、大腸菌の内在性tRNAで修飾されていないため、本発明においてアラニン又はセリンをシステインの代わりに挿入するtRNA変異体においても修飾は必要ないと考えられる。同様に、リジンのコドン「AAG」に対応するアンチコドン「CUU」を持つtRNA変異体においても修飾は不要と考えられる。
【0029】
一方、コドン「AAA」に対応するアンチコドン「UUU」を持つtRNA変異体に、アンチコドン1文字目の「U」の修飾が存在しない場合、このtRNAがアスパラギンのコドン「AAU」又は「AAC」に対し、低い効率ではあるものの対合する可能性がある。その結果として、このコドンに対応したポリペプチド部位に本来のアスパラギンでなく、セリン又はアラニンが若干量誤って挿入されてしまう可能性がある。
【0030】
このような、アンチコドン「UUU」を持つtRNA変異体による予想され得るコドンの読みわけの失敗は、(1) 添加するtRNA変異体の量を必要最低限とする;(2) アスパラギンのtRNAの量を増加させる(このアスパラギンtRNAとtRNA変異体とが競争する結果、使用量の少ないtRNA変異体に起因する翻訳の誤りがなくなる);(3) T7試験管内転写で調製されるtRNA変異体に、コドン/アンチコドン認識の正確性を維持する修飾を導入する(アンチコドン修飾酵素活性を持つ遺伝子mnmA及びiscSは同定されていて、これらの遺伝子産物を用いた試験管内の修飾系がすでに報告されているので、この酵素を調製する);(4) コドン「AAG」又は「AAA」にもアスパラギンを割り当てる;及び(5) タンパク質合成系からリジンだけでなく、アスパラギンも除外したうえで、1つのAANコドン全てに対応できるようなアラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体を添加する、などの方法によって解決することができる。コドン「AAG」又は「AAA」にもアスパラギンを割り当てる場合、アラニンtRNA変異体は使用せず、アスパラギンtRNAのアンチコドンを置換したtRNAを用いる。アスパラギンtRNAのアンチコドンの置換によって、アスパラギンとtRNAを結合させる酵素の認識能が低下するおそれがあるが、この酵素についてもtRNA変異体も認識するように改変することによって対処することができる。このようにして、アスパラギンのコドンに対応してアスパラギンのみを正しく挿入することができる。
【0031】
他のアミノ酸種についても同様の方法を採用することにより、コドン/アンチコドンの対合の曖昧さに起因する問題を防ぐことができる。
【0032】
同様にして、特定のアミノ酸種をアラニン又はセリンに置換することにより、如何なるアミノ酸でもタンパク質翻訳系から除くことができる。しかし、ここで得られたポリペプチドは、野生型の配列から部位特異的に特定のアミノ酸種を単に除外したものであるため、ほとんどの場合、得られたポリペプチドの活性は天然型と比べて低下している。そこで、以下の選択、変異導入、増幅の各ステップが必要となる。これらのステップを繰り返すことにより、特定の機能を保持又は向上させたタンパク質を得ることができる。
【0033】
(b)選択
本明細書で用いる「選択」とは、in vitroウイルスを構成するタンパク質部分の機能(生物活性)を評価し、所望の生物活性に基づいてin vitroウイルスを選択するステップを意味する。このような方法は公知であり、例えば、Nemoto N.他, FEBS letters 1997, vol.414, pp.405-408;Roberts RW.他, PNAS, 1997, vol.94, pp.12297-12302等に記載されている。
【0034】
本発明における選択の指標となる機能は、例えば特定のアミノ酸が部位特異的に置換されたタンパク質の本来有する活性、タンパク質が新たに獲得した抗酸化活性、タンパク質の結合活性、安定性、酵素活性等である。例えば、特異的結合能を有するインターフェロンを選択する場合には、ビーズ等の公知の支持体にインターフェロンのレセプター、抗体等を予め固定しておき、ここに、インターフェロンポリペプチド変異体とそのmRNAとからなる対応付け分子を反応させることによって、結合活性の高いインターフェロンを選択することができる。
【0035】
次いで、(c)変異導入及び(d)増幅のステップにおいて、選択されたin vitroウイルスのmRNAに変異を導入してPCR等で増幅する。具体的には、逆転写酵素によりcDNAを合成した後に変異の導入を行えばよく、mRNAの増幅は変異を導入しながら行ってもよい。変異の導入は、すでに確立しているError-prone PCR(Leung, D.W.他, J. Methods Cell Mol.Biol., 1, 11-15, 1989)、Sexual PCR(Stemmer, W.P.C., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 10747-10751, 1994)等を用いて容易に行うことができる。
【0036】
変異が導入されかつ増幅されたin vitroウイルスのmRNAを用いて、次世代の、mRNA連結体とmRNA連結体との翻訳産物の対応付けの構築、所望の生物活性を有する対応付け分子の選択、変異導入及び増幅を行うことができる。必要に応じてこれらのステップを更に繰り返すことにより、機能性非天然型タンパク質の改変及び創製が可能となる。更に重要なことは、アラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体の使用により、得られたタンパク質における、初期ライブラリーから除外したはずのアミノ酸種の再出現を防止することができる。
【0037】
しかしながら、上記の機能性非天然型タンパク質の製造法は、特殊な翻訳系を用いる無細胞系によるため、タンパク質の合成効率は高くない。従って、当該非天然型タンパク質を大量に得る場合には、20種類のアミノ酸全てを用いる通常のタンパク質合成系(細胞系又は無細胞系のいずれでもよい)を使用できることが望ましい。
ここで、本発明のタンパク質合成系が、除去したアミノ酸のコドンを用いて当該アミノ酸以外のアミノ酸を規定しているため、上記の進化サイクルで得られたタンパク質をコードする遺伝子には、除去したアミノ酸のコドンが含まれ得る。従って、当該遺伝子を通常のタンパク質合成系に適用しても、除去したアミノ酸が再出現することになる。そこで、「得られた機能性非天然型タンパク質のアミノ酸配列」を通常の遺伝暗号表に従って作製できるような人工遺伝子を、合成ポリヌクレオチドを利用して再合成する。遺伝子の全合成は今日ではルーチン化した実験技術であり、コストを低く抑えられる。例えば、リジンのコドンにアラニンを対応付ける特殊な遺伝暗号表を用いて進化サイクルを行った場合、得られた遺伝子は、コドン「AAA」及び「AAG」を含み得るため、これらのコドンをアラニンのコドン(「GCU」、「GCC」、「GCA」又は「GCG」)に置換した遺伝子を「再合成」する。
この再合成された人工遺伝子を、サプレッサーtRNAを含まない通常のタンパク質合成系に適用することにより、進化サイクルで得られたアミノ酸配列を維持した機能性非天然型タンパク質を大量(例えば、ミリグラムレベル〜グラムレベル)、安価かつ簡便に製造することができる。
【0038】
このように、本発明の製造法によって、特定の機能を有するタンパク質を創出できるばかりでなく、以下のように、当該タンパク質は、汎用試薬を用いて部位特異的に修飾・固定化することができる。
かかる修飾方法としては、非特異的に特定のアミノ酸種全てを修飾する公知の方法(NHS、マレイミド等を用いた修飾法)を用いることができる。NHS活性化修飾剤については、Flanders KC他, Biochemistry, 1982, vol.21, pp.4244-4251;Zhang L.他, Journal of Biological Chemistry, 1999, vol.274, pp.8966-8972、マレイミド活性化修飾剤については、Curtis SK and Cowden RR., Histochem., 1980, vol.68, pp.23-28;Analytical Biochemistry, 1985, vol.149, pp.529-536にそれぞれ詳細が記載されている。例えば、非天然型タンパク質のN末端が遊離のアミノ基であれば、安価なアミノ基修飾試薬であるNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)活性化修飾剤を、当該N末端がホルミル化、アセチル化等されている場合には、リジンのコドンを再度一箇所のみ導入し、この部位を特異的な修飾部位として活用できる。N末端が保護されていない場合には、N末端のフラグメントを各種の手法で切断することもできる。非天然型タンパク質の末端以外の任意の位置への部位特異的な修飾は、リジンの代わりにシステインを用いて行うこともできる。
【0039】
同様の操作により、上記非天然型タンパク質の特定のアミノ酸残基を介して、固定化担体に固定することができる。固定化担体は、水又は有機溶媒に不溶な固体からなる支持体の他に、その支持体上に結合する反応基を備えていてもよい。支持体としては、例えばラテックス粒子、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ、マイクロタイタープレート、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等のタンパク質の固定に通常用いられるものが挙げられる。この非天然型タンパク質が固定化された固定化担体は、例えばアフィニティクトマトグラフィー、プロティンチップ、バイオリアクター等に利用することができる。また、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、エラスチン、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックス、カドヘインファミリー、免疫グロブリンスーパーファミリー、インテグリカンファミリー、セレクチンファミリー、リンクタンパク質ファミリー、シアロムチンファミリー等の細胞接着分子を固定化させたインプラント材や再生医療用人工素材にも利用することができる。
【実施例】
【0040】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
実施例1 アラニンtRNA変異体の調製
(1)配列番号1:TGTplus
GCAGCAAGCTTAATACGACTCACTATAGGGGCTATAGCTCAGCTGGGAGAGCGCCTGCTTTGTACG
(2)配列番号2:TGT_minus
GTCGGGATCCTGGTGGAGCTATGCGGGATCGAACCGCAGACCTCCTGCGTACAAAGCAGGCGCTCTCCCAGC
(3)配列番号3:alaPCRplus
GCAGCAAGCTTAATACGACTCAC
(4)配列番号4:alaPCRminus
GTCGGGATCCTGGTGGAGCTATGCGGG
(5)配列番号5:ala_JUSTminus
TGGTGGAGCTATGCGGGATCGAACC
(6)配列番号6:GGTplus
GCAGCAAGCTTAATACGACTCACTATAGGGGCTATAGCTCAGCTGGGAGAGCGCCTGCTTGGTACG
(7)配列番号7:GGT_minus
GTCGGGATCCTGGTGGAGCTATGCGGGATCGAACCGCAGACCTCCTGCGTACCAAGCAGGCGCTCTCCCAGC
【0042】
以下のようにしてアンチコドン部位がTGTに置換されたアラニンtRNA変異体を転写する鋳型DNAを調製した。
まず、DNA (1)及びDNA (2)を各5 pmol含む50μLのPCR反応溶液(他の組成はタカラ Pyrobest DNAポリメラーゼの使用説明書に準じる)を調製し、5サイクルのPCRを行った。続いて、各40 pmolのDNA (3)及びDNA (4)を添加し、更に15サイクルのPCRを行った。得られたPCR産物をHindIIIとBamHIで切断した後に、ベクターpUC18(TOYOBO社)のHindIII-BamHI部位に組み込むことにより、ベクターpALA(TGT)を作製した。大腸菌を利用してクローニングしたこのベクターの配列を確認した後に、DNA (3)とDNA (5)を用い、KOD DNAポリメラーゼによるPCRを行った。反応条件は酵素添付文書に従った。
【0043】
得られたPCR産物は、T7RNAポリメラーゼのプロモーター配列とその下流のtRNA配列を有し、試験管内転写反応の鋳型となる。また、DNA (1)、DNA (2)の代わりにDNA (6)、DNA (7)を用いることにより、アンチコドン部位がGGTに置換されたアラニンtRNA変異体を転写する鋳型DNAを調製した。
【0044】
これらの転写鋳型となるDNAに対して、文献(J. Mol. Biol. 236, 710-724、1994)に従った方法で転写反応及び精製を行い、アラニンtRNA変異体を得た。その配列を以下に記す。下線部はアンチコドンを示す。
【0045】
配列番号8:tRNA Ala(UGU)
GGGGCUAUAGCUCAGCUGGGAGAGCGCCUGCUUUGUACGCAGGAGGUCUGCGGUUCGAUCCCGCAUAGCUCCACCA
配列番号9:tRNA Ala(GGU)
GGGGCUAUAGCUCAGCUGGGAGAGCGCCUGCUUGGUACGCAGGAGGUCUGCGGUUCGAUCCCGCAUAGCUCCACCA
【0046】
この2つのtRNAでトレオニンの4つのコドン(ACU、ACC、ACA、ACG)を認識することができる。
【0047】
実施例2 アラニンtRNA変異体を用いる、トレオニンを除去した無細胞翻訳反応
無細胞タンパク質合成反応は、Journal of Structural and Functional Genomics, 2004; 5(1-2): 63-8に準じて行った。反応溶液の組成は以下の通りである:55 mM Hepes-KOH (pH 7.5) , 1.7 mM DTT, 1.2 mMATP (pH 7.0), 各0.8 mM CTP (pH 7.0), GTP (pH 7.0), 及びUTP (pH 7.0), 80 mM CP, 250μg/ml クレアチンキナーゼ, 4.0 % ポリエチレングリコール 8000, 0.64 mM 3',5'-cyclic AMP, 68μM L(-)-5-ホルミル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸, 175μg/ml, 大腸菌総tRNA, 210 mMグルタミン酸カリウム, 27.5 mM酢酸アンモニウム, 10.7 mM酢酸マグネシウム, 各1.0 mM アミノ酸, 14C-ロイシン, 6.7μg/ml 翻訳鋳型プラスミド, 93μg/ml T7 RNAポリメラーゼ, 及び30 %(w/v)S30抽出物。但し、細胞抽出液S30としては、市販のキットを購入し、緩衝液(10 mM Tris Acetate pH 8.2, 14 mM Mg(OAc)2, 60 mM KOAc, 1 mM DTT)を透析して用いた。また、アミノ酸としては20種全てを含む場合と、トレオニン以外の19種類を含む場合とを比較検討した。また、2種類のアラニンtRNA変異体をそれぞれ0、1、2及び4μMの濃度範囲で加えた。
【0048】
鋳型としてはRasタンパク質のコード配列(配列番号10)を用いた。60分の翻訳反応後(翻訳の結果、分子量約21,000のタンパク質が生産されたと考えられる)、反応産物を4〜12% NuPAGE Bis-Tris gel (Invitrogen社)を用いて解析した。このゲルを乾燥後、イメージアナライザー(フジフィルム社)を用いて解析を行った。結果を図2に示す。レーン1〜3はいずれも、20種のアミノ酸全てを含むポジティブコントロールである。
【0049】
図2から明らかなように、ほぼ想定される分子量の位置にバンドが検出された。アラニンtRNA変異体が共存することによって、反応溶液にトレオニンを含まなくても、全長の翻訳産物が得られることが判明した(レーン4〜6)。一方、トレオニン及びアラニンtRNA変異体のいずれも存在しない場合には、全長の翻訳産物は得られなかった(レーン7)。
従って、レーン4〜6では、タンパク質にトレオニンのコドンの代わりにアラニンが導入されたものと考えられる。
【0050】
実施例3 リジンtRNA変異体及びシステインtRNA変異体の調製
以下のように、アンチコドン部位がそれぞれGCA又はTTTに置換されたアラニンtRNA変異体を転写する鋳型DNAを調製した。
実施例1で作製したpALA(TGT)に対し、2本のオリゴDNA GCA_F(配列番号11)及びMut_R(配列番号12)を用いて、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)を使用することにより、ベクターpALA(GCA)を作製した。同様に、TTT_F(配列番号13)及びMut_Rを用いて、pALA(TTT)を作製した。
【0051】
配列番号11:GCA_F
TCAGCTGGGAGAGCGCCTGCTTGCAACGCAGGAGGTCTG
配列番号12:Mut_R
GCAGGCGCTCTCCCAGCTGAGCTATAGCCCC
配列番号13:TTT_F
TCAGCTGGGAGAGCGCCTGCCTTTTAAGCAGGAGGTCTG
【0052】
続いて、実施例1と同様にしてアラニンtRNA変異体を調製した。その配列を以下に記す。下線部はアンチコドンを示す。
【0053】
配列番号14:tRNA Ala(GCA)
GGGGCUAUAGCUCAGCUGGGAGAGCGCCUGCUUGCAACGCAGGAGGUCUGCGGUUCGAUCCCGCAUAGCUCCACCA
配列番号15:tRNA Ala(UUU)
GGGGCUAUAGCUCAGCUGGGAGAGCGCCUGCCUUUUAAGCAGGAGGUCUGCGGUUCGAUCCCGCAUAGCUCCACCA
【0054】
それぞれのtRNAは、システインの2つのコドン(UGU、UGC)又はリジンの2つのコドン(AAA、AAG)を認識することができる。
【0055】
実施例4 アラニンtRNA変異体を用いる、リジンを除去した無細胞翻訳反応
実施例2と同様にして無細胞タンパク質合成を行った。但し、アミノ酸としては20種類全てを含む場合と、リジン以外の19種類を含む場合とを比較検討し、アラニンtRNA変異体 tRNA Ala(UUU)を0μM、1μM及び4μMの濃度範囲で加えた。また、5μMの5'-O-[N-(L-リジル) スルファモイル]-アデノシンを添加した。また、タンパク質合成の鋳型として、単量体型ストレプトアビジン(配列番号16)をコード配列とするmRNAを用いた。結果を図3に示す。レーン1は20種類のアミノ酸全てを含むポジティブコントロールである。
【0056】
図3から明らかなように、ほぼ想定される分子量の位置にバンドが検出された。アミノ酸としてリジンを含まない場合でも、透析で除去されなかった少量のリジンによって、微量のタンパク質が合成されているが(レーン2)、リジルtRNA合成酵素阻害剤の添加によってこの生産は消失した(レーン4)。更に、アラニンtRNA変異体tRNA Ala(UUU)を添加することにより、全長の翻訳産物が得られることが判明した(レーン5〜6)。
従って、レーン5〜6では、タンパク質のリジンのコドンに対して、リジンの代わりにアラニンが導入されたものと考えられる。
【0057】
(精製)
タンパク質のリジンのコドンに対して、リジンの代わりにアラニンが導入されたことを、質量分析によって確認した。翻訳を行う遺伝子として、単量体型ストレプトアビジンを用いた。リジン除去のコントロール実験として、リジン除去を行わない無細胞タンパク質合成系を用いて、Hisタグ付加単量体型ストレプトアビジン遺伝子、及びこの遺伝子のリジンのコドン全てをアラニンのコドンに置き換えた遺伝子も用いた。
上記と同じように(但し、RIを用いずに)反応を行った無細胞タンパク質合成反応液90μLを1.6 mLチューブに回収した。回収したサンプルに対して、900μLのリン酸バッファー(pH 7.8)(8.8 M 尿素, 300 mM NaCl)を加え、37℃で1時間ボルテクスミキサーにかけ攪拌した。無細胞タンパク質合成反応液が、40μL〜45μL/Beadsになるように、ボルテクスミキサーにかけたサンプルを分取した(i)(ボルテクスミキサーにかけたサンプルの内の450μL)。
既にリン酸バッファー(pH 7.8)(8 M 尿素、300 mM NaCl)に馴化したCo Beads 40μL(50%スラリー)と(i)で分取した無細胞タンパク質合成反応サンプル45μL相当(ボルテクスミキサーにかけたサンプルの内の450μL)を混合した(ii)。(ii)に更500μLのリン酸バッファー(pH 7.8)(8 M 尿素, 300 mM NaCl)を加え、室温で1時間、Rotatorにかけ、Co Beadsと無細胞タンパク質合成で作製したタンパク質を混合した(iii)。(iii)を5000 rpmで1分間遠心し、上清を捨てBeadsをチューブに残した。各チューブに500μL リン酸バッファー(pH 7.8)(8 M 尿素, 300m M NaCl)を加え、攪拌後、5000 rpm、1分で遠心操作を行い、上清を捨てた(操作1)。操作1を更に2回繰り返した。20μL リン酸バッファー(pH 6.0)(8M 尿素, 300 mM NaCl)を加え、室温で5分静置し、9000 rpm、1分で遠心操作を行い、上清を回収した(操作2)。操作2を更に1回繰り返した。20μL リン酸バッファー(pH 5.3)(8M 尿素, 300 mM NaCl)を加え、室温で5分静置し、9000 rpm、1分で遠心操作を行い、上清を回収した(操作3)。操作3を更に1回繰り返した。20μL リン酸バッファー(pH 4.0)(8M 尿素, 300 mM NaCl)を加え、室温で5分静置し、9000 rpm、1分で遠心操作を行い、上清を回収した(操作4)。操作4を更に1回繰り返した。操作2〜4で回収したサンプルに対し、SDS-PAGEを行い、SDS-PAGEゲルをCBBで染色し、侠雑するタンパク質のないサンプルをMALDI-TOF/MS(マトリックス支援イオン化飛行時間型質量分析計)用のサンプルとして回収した。
【0058】
図4は、精製の結果を示す。レーン1、2は大腸菌を用いて生産したコントロールタンパク質であり、レーン1は、単量体型ストレプトアビジン(StAvM4)、レーン2は、StAvM4の8個のリジン残基を全てアラニンに置換したMutant(StAvM4_KallA)である。StAvM4_KallAをコードするmRNAを配列番号17に示す。レーン3〜5は無細胞タンパク質合成反応によって生産したタンパク質である。レーン3、4はコントロール実験である。リジン除去を行わない無細胞タンパク質合成系を用いて、単量体型ストレプトアビジン遺伝子(レーン3)、及びこの遺伝子のリジンのコドン全てをアラニンのコドンに置き換えた遺伝子(レーン4)からの翻訳反応を行った。レーン5は、リジンを除去した翻訳反応によって単量体型ストレプトアビジン遺伝子からの翻訳反応を行い、リジンのコドンに対して、リジンの代わりにアラニンが導入されたと考えられる翻訳産物を示す。
【0059】
(MALDI-TOF/MSサンプル調製)
プレートに、10 mg/mLシナピン酸(水:アセトニトリル=1:1)を1μL滴下し、乾燥するまで静置した。乾燥後、2.5 pmolのアポミオグロビン(Apomyoglobin)を乾燥したシナピン酸の上に重層し、乾燥するまで静置した。精製したサンプル10μL(約200 ng相当)をすでにアセトニトリル2%溶液(0.1%TFA)に馴化させたZipTipで吸引した。引き続き、吸引排出を5回繰り返した後、排出した。続いて、10μL相当の2%アセトニトリル溶液(0.1%TFA)の吸引排出を繰り返した(操作5)。操作5を更に1回繰り返した。続いて60%アセトニトリルを2μL相当吸引し、シナピン酸及びアポミオグロビンを乾燥させたプレート上に重層し、乾燥するまで静置した。乾燥後、10 mg/mLシナピン酸を1μL重層し、乾燥するまで静置、結晶化したサンプルを、SHIMAZU社のMALDI-TOF/MSで測定した。結果を図5に示す。図5の上段は、StAvM4のスペクトル、中段は、StAvM4_KallAのスペクトル、下段は、本発明の方法によって得られたタンパク質のスペクトルをそれぞれ示す。通常の遺伝暗号表を用いて行ったタンパク質合成の結果(上段)及びコントロール(中段)と比較すると、本発明のタンパク質合成系では、リジンのコドンに対して、リジンの代わりにアラニンが挿入されていることが示された。
【0060】
実施例5 アラニンtRNA変異体を用いる、システインを除去した無細胞翻訳反応
実施例2と同様にして無細胞タンパク質合成を行った。但し、アミノ酸としては20種類全てを含む場合と、システイン以外の19種類を含む場合とを比較検討し、アラニンtRNA変異体(GCA)を0μM、0.03μM 、0.1μM、0.3μM及び1μMの濃度範囲で加えた。また、システイニルtRNA合成酵素阻害剤である、5'-O-[N-(L-システイニル) スルファモイル]-アデノシンを5μM添加した。結果を図6に示す。レーン1、2は20種類のアミノ酸全てを含むポジティブコントロールである。
【0061】
図6から明らかなように、ほぼ想定される分子量の位置にバンドが検出された。アミノ酸としてシステインを含まない場合でも、透析で除去されなかった少量のシステインによって、微量のタンパク質が合成されているが(レーン3)、システイニルtRNA合成酵素阻害剤の添加によってこの生産は消失した(レーン4)。更に、アラニンtRNA変異体tRNA Ala(GCA)を添加することにより、全長の翻訳産物が得られることが判明した(レーン5〜8)。従って、レーン5〜8では、タンパク質にシステインのコドンに対して、システインの代わりにアラニンが導入されたものと考えられる。
【0062】
実施例6 セリンtRNA変異体を用いる、システインを除去した無細胞翻訳反応
実施例1と同様にして、セリンtRNAをコードするプラスミドpSER(TGA)を作製した。但し、最初の5サイクルのPCRにはpSER_F(配列番号18)及びpSER_R(配列番号19)を、続く15サイクルのPCRにはMT(配列番号20)及びREV(配列番号21)を用いた。また、組み込み先のベクターとして、pUC118 (TOYOBO社)、制限酵素の組としてHindIII及びEcoRIを用いた。
【0063】
配列番号18:pSER_F
TTGTAAAACGACGGCCAGTGCCAAGCTTAATACGACTCACTATAGGAAGTGTGGCCGAGCGGTTGAAGGCACCGGTCTTGAAAACCGGCGACCCGAAAG
配列番号19:pSER_R
AGCTATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGGTACCCGCCTTCCCGGCGGAAGCGCAGAGATTCGAACTCTGGAACCCTTTCGGGTCGCCGGTTTTCAA
配列番号20:MT
ACGACGTTGTAAAACGACGGCCAGT
配列番号21:REV
CAGGAAACAGCTATGACCATGATTA
【0064】
前項にて作製されたpSER(TGA)に対し、2本のオリゴDNA GCA1_SF(配列番号22)及びMut_SR(配列番号23)、を用いて、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)を使用することにより、ベクターpSER (GCA 1)を作製した。同様に、GCA2_SF(配列番号24)及びMut_SRを用いてpSER (GCA 2)を作製した。
【0065】
配列番号22:GCA1_SF
GTTGAAGGCACCGGTCTGCAAAACCGGCGACCCGAAAG
配列番号23:Mut_SR
ACCGGTGCCTTCAACCGCTCGGCCACACTTCC
配列番号24:GCA2_SF
GTTGAAGGCACCGGTTTGCAACACCGGCGACCCGAAAG
【0066】
続いて、実施例1と同様にしてセリンRNA変異体を調製した。但し、PCRプライマーとしてMTとSerJustMinus(配列番号25)を用いた。
【0067】
配列番号25:SerJustMinus
TGGCGGAAGCGCAGAGATTCG
【0068】
調製されたセリンRNA変異体の配列を以下に記す。下線部はアンチコドンを示す。
配列番号26:tRNA Ser(GCA1)
GGAAGUGUGGCCGAGCGGUUGAAGGCACCGGUCUGCAAAACCGGCGACCCGAAAGGGUUCCAGAGUUCGAAUCUCUGCGCUUCCGCCA
配列番号27:tRNA Ser(GCA2)
GGAAGUGUGGCCGAGCGGUUGAAGGCACCGGUUUGCACCACCGGCGACCCGAAAGGGUUCCAGAGUUCGAAUCUCUGCGCUUCCGCCA
【0069】
上記のtRNAはいずれも、システインの2つのコドン(UGU、UGC)を認識することができる。
【0070】
実施例5と同様にして無細胞タンパク質合成反応を行った。但し、tRNA変異体として、セリンtRNA変異体 tRNA Ser(GCA1)を0μM、0.25μM、1.0μM、2.8μMの濃度範囲で、又は、セリンtRNA変異体 tRNA Ser(GCA2)を0μM、0.3μM、1.0μM、3.4μMの濃度範囲で加えた。結果を図7に示す。
【0071】
図7から明らかなように、ほぼ想定される分子量の位置にバンドが検出された。アミノ酸としてシステインを含まない場合でも、透析で除去されなかった少量のシステインによって、微量のタンパク質が合成されているが(レーン2)、システイニルtRNA合成酵素阻害剤の添加によってこの生産は消失した(レーン3)。さらにセリンtRNA変異体 tRNA Ser(GCA1)又はtRNA Ser(GCA2)を添加することにより、全長の翻訳産物が得られることが判明した(レーン4〜6及び7〜9)。
従って、レーン4〜9では、タンパク質のシステインのコドンに対して、システインの代わりにセリンが導入されたものと考えられる。
【0072】
実施例7 セリンtRNA変異体を用いる、リジンを除去した無細胞翻訳反応
実施例6と同様にして、セリンtRNA変異体をコードするプラスミドpSER(TTT)を作製した。但し、プライマーとして、TTT_SF(配列番号28)及びMut_SR(配列番号23)を用いた。
【0073】
配列番号28:TTT_SF
GTTGAAGGCACCGGTCTTTTAAACCGGCGACCCGAAAG
【0074】
続いて、セリンRNA変異体を調製した。調製されたセリンRNA変異体の配列を以下に記す。下線部はアンチコドンを示す。
【0075】
配列番号29:tRNA Ser(UUU)
GGAAGUGUGGCCGAGCGGUUGAAGGCACCGGUCUUUUAAACCGGCGACCCGAAAGGGUUCCAGAGUUCGAAUCUCUGCGCUUCCGCCA
【0076】
このtRNAは、リジンの2つのコドン(AAG、AAA)を認識することができる。
【0077】
実施例4と同様にして無細胞タンパク質合成反応を行った。ただし、tRNA変異体として、セリンtRNA変異体 tRNA Ser(UUU)を0μM、0.3μM、1.0μM、3.0μMの濃度範囲で加えた。また、タンパク質合成の鋳型として、Rasタンパク質のコード配列(配列番号10)を用いた。結果を図8に示す。レーン1は20種類のアミノ酸全てを含むポジティブコントロールである。
【0078】
図8から明らかなように、ほぼ想定される分子量の位置にバンドが検出された。アミノ酸としてリジンを含まない場合でも、透析で除去されなかった少量のリジンによって、微量のタンパク質が合成されているが(レーン2)、リジルtRNA合成酵素阻害剤の添加によってこの生産は消失した(レーン3)。さらにセリンtRNA変異体 tRNA Ser(UUU)を添加することで、全長の翻訳産物が得られることが判明した(レーン4〜6)。従って、レーン4〜6では、タンパク質のリジンのコドンに対して、リジンの代わりにセリンが導入されたものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明の製造法で用いる人工遺伝暗号表の1例として、トレオニンのコドンに対してトレオニンの代わりにアラニンを対応付ける、「トレオニンを除去した遺伝暗号表」を示す。
【図2】図2は、トレオニンを除去した無細胞翻訳反応の結果を示すSDS-PAGEである。
【図3】図3は、リジンのコドンに対してリジンの代わりにアラニンが導入された、実施例4による無細胞翻訳反応の結果を示すSDS-PAGEである。
【図4】図4は、無細胞翻訳反応で作製したStAvM4の精製結果を示すSDS-PAGEである。
【図5】図5は、リジンのコドンに対してリジンの代わりにアラニンが導入された、実施例4による無細胞翻訳反応で生産されたタンパク質のMALDI-TOF/MS質量分析の結果を示す。
【図6】図6は、システインのコドンに対してシステインの代わりにアラニンが導入された、実施例5による無細胞翻訳反応の結果を示すSDS-PAGEである。
【図7】図7は、システインのコドンに対してシステインの代わりにセリンが導入された、実施例6による無細胞翻訳反応の結果を示すSDS-PAGEである。
【図8】図8は、リジンのコドンに対してリジンの代わりにセリンが導入された、実施例7による無細胞翻訳反応の結果を示すSDS-PAGEである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のアミノ酸種を当該アミノ酸種以外の天然アミノ酸に置換してなる機能性非天然型タンパク質の製造法において、
a)遺伝子型を反映する塩基配列を有する核酸部分と、当該核酸部分の翻訳産物であるタンパク質部分とを対応付けるステップ;
b)上記対応付けステップで得られた対応付け分子を選択するステップ;
c)上記選択ステップで得られた対応付け分子の核酸部分に変異を導入するステップ;及び
d)上記変異導入ステップで得られた核酸部分を増幅するステップ
を含む、前記製造法。
【請求項2】
前記ステップd)で得られた核酸部分を前記ステップa)に供することにより、前記ステップa)〜d)を反復するステップを更に含む、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
前記核酸部分がmRNAであって、前記ステップa)が、mRNAの3’末端側にスペーサーを連結し、次いで当該連結体の3’末端側にアミノ酸と共有結合し得るヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体を更に連結してmRNA連結体を得;次いで、当該特定のアミノ酸種に対応するサプレッサーtRNA及び当該特定のアミノ酸種以外の天然アミノ酸を含む無細胞タンパク質合成系に、当該mRNA連結体を加えてタンパク質合成を行い、当該mRNA連結体の翻訳産物と当該mRNA連結体とを連結することを特徴とする、請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
前記サプレッサーtRNAが、アラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体である、請求項3記載の製造法。
【請求項5】
前記の特定のアミノ酸が、トレオニン、リジン又はシステインである、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造法。
【請求項6】
前記ヌクレオシド又はヌクレオシド類縁体がピューロマイシンである、請求項3〜5のいずれか1項記載の製造法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的修飾方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的固定化方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法によって製造されたタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを作製し、これを用いることを特徴とする、当該アミノ酸配列が維持されてなる機能性非天然型タンパク質の製造法。
【請求項10】
請求項9記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的修飾方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法によって製造されたタンパク質を用いることを特徴とする、機能性非天然型タンパク質の部位特異的固定化方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−267733(P2007−267733A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55739(P2007−55739)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】