説明

歩数計

【課題】加速度センサの出力に含まれるオフセットの影響を低減しつつ、歩数計数に用いるデータの値を大きくする。
【解決手段】演算部6は、サンプリング部60で、加速度センサ1からの各加速度をサンプリングする。加速度算出部61は、サンプリングされた加速度と過去の一定時間帯の各時間でサンプリングされた加速度との差分をそれぞれ算出し、これらの絶対値の中から最大値を抽出する。歩数計数部63は、加速度算出部61で算出された絶対値の最大値を用いて歩数を計数する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩数計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の歩数計として、身体などに装着され、加速度センサで測定された加速度のピーク(加速度の傾きが正から負へ代わる点)を検出して装着者の歩数を計数するものがある。このような歩数計の一例として、特許文献1には、3軸加速度センサの出力値に基づいて重力加速度方向を検出することによって検出感度の方向依存性を改善したものが開示されている。
【特許文献1】特開2005−157465号公報(段落0011〜0030及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の歩数計には、加速度センサの出力にオフセットが含まれているため、歩数計数において上記オフセットの影響が大きいという問題があった。
【0004】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、その目的は、加速度センサの出力に含まれるオフセットの影響を低減しつつ、歩数計数に用いるデータの値を大きくすることができる歩数計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、加速度センサと、前記加速度センサの出力と一定時間前の当該加速度センサの出力との差分の絶対値を算出する差分算出手段と、前記差分の絶対値を用いて歩数を計数する歩数計数手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記一定時間が過去の一定範囲の時間帯であり、前記差分算出手段が、前記加速度センサの出力と前記時間帯の各時間での出力との差分の絶対値を算出して当該差分の絶対値の最大値を抽出し、前記歩数計数手段が、前記差分の絶対値の最大値を用いて歩数を計数することを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記加速度センサの出力を用いて活動量を算出する活動量算出手段を備え、前記歩数係数部が前記活動量の大きさに応じて複数の歩行形態を区別し、前記歩行形態ごとに歩数を計数することを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記加速度センサの出力を用いて活動量を算出する活動量算出手段を備え、前記差分算出手段が前記活動量の大きさに応じて前記一定時間を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、一定時間前の出力との差分の絶対値を算出することによって、加速度センサの出力に含まれるオフセットの影響を低減しつつ、歩数計数に用いるデータの値を大きくすることができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、一定範囲の時間帯の各時間の出力との差分の絶対値の最大値を算出することによって、加速度センサの出力に含まれるオフセットの影響を低減しつつ、歩数計数に用いるデータの値をさらに大きくすることができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、活動量の大きさに応じて歩行形態を区別し、歩行形態ごとに歩数を計数することができる。
【0012】
請求項4の発明によれば、活動量の大きさから歩行形態を推測することによって、精度よく歩数を計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施形態1)
実施形態1の構成について図1,2を用いて説明する。本実施形態の歩数計は、図1に示すように、加速度センサ1と、使用者が機器動作のスタート/ストップを行うための押ボタン20(図2参照)を有する操作入力部2と、メモリ3と、タイマ4と、歩数や活動量を表示する表示部5と、機器の中枢をなすものであって、加速度センサ1で測定された加速度の入力処理、操作入力部2からの操作情報の入力処理、メモリ3に対する情報の読み書き処理、タイマ4の起動処理及び表示部5への表示処理を行う演算部6と、1次電池(例えばボタン電池やコイン電池など)によって各部1〜6に電力を供給する電源部7と、各部1〜7を内蔵するとともに押ボタン20を前面に露出させる合成樹脂製の筐体8(図2参照)とを備えている。
【0014】
加速度センサ1は、小型で低消費電力なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を利用した3軸加速度センサであり、互いに垂直な3軸(x軸、y軸、z軸)の各加速度X,Y,Zを測定し、測定した各加速度X,Y,Zを演算部6にアナログ出力する。なお、加速度センサ1は3軸加速度センサに限定されるものではなく、1軸加速度センサや2軸加速度センサであってもよい。
【0015】
メモリ3には、機器の製造時又は機器動作のスタート時に予め設定された後述の閾値L1の情報、後述の活動量情報及び歩数情報が記憶されている。
【0016】
表示部5は、図2に示すように筐体8の前面に露出する液晶画面50を備え、演算部6(図1参照)から後述の歩数情報や活動量情報が入力されると、入力された情報に基づいて歩数や活動量を液晶画面50に表示する。
【0017】
図1に示す演算部6はマイクロコンピュータからなり、加速度センサ1から各加速度X,Y,Zを取得してサンプリングするサンプリング部60と、サンプリング部60でサンプリングされた各加速度Xn、Yn,Znから差分ΔX,ΔY,ΔZを算出し、上記差分ΔX,ΔY,ΔZの合成値である加速度F1を算出する加速度算出部61と、加速度算出部61で算出された加速度F1に基づいて活動量を算出する活動量算出部62と、加速度算出部61で算出された加速度F1が閾値L1を超える回数を歩数として計数する歩数計数部63と、表示部5を制御する表示制御部64と、操作入力部2からの操作情報を処理する操作処理部65とを備えている。
【0018】
サンプリング部60は、加速度センサ1から各加速度X,Y,Zがアナログ入力されると、アナログ入力された各加速度X,Y,Zを、例えば10Hz以上など予め設定されたサンプリング周波数でサンプリングし、サンプリングした各加速度を加速度算出部61に出力する。以下、サンプリング開始時からn回目にサンプリングされた各加速度をXn,Yn,Zn(n=1,2,3・・・)で表わす。
【0019】
ここで、加速度センサ1のオフセットを考慮すると、n回目にサンプリングされた各加速度Xn,Yn,Znは、次式で表わすことができる。次式において、Xgn,Ygn,Zgnは各軸における真の加速度成分であり、Xoffn,Yoffn,Zoffnは各軸におけるオフセットである。
【0020】
【数1】

【0021】
加速度算出部61は、サンプリング部60で現在(n回目)にサンプリングされた各加速度Xn,Yn,Znと、予め設定された過去の一定時間帯(例えば0.5秒前から0.2秒前までの間の時間帯)の各時間にサンプリングされた各加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iとの差分ΔX(=Xn−Xn-i),ΔY(=Yn−Yn-i),ΔZ(=Zn−Zn-i)をそれぞれ算出し、この算出した差分ΔX,ΔY,ΔZを用いて次式のように加速度F1をそれぞれ算出する。ここで、差分ΔX,ΔY,ΔZができるだけ大きくなるように、上記一定時間帯は、各加速度X,Y,Zの半周期を含む時間帯であることが好ましい。
【0022】
【数2】

【0023】
ΔX,ΔY,ΔZは、次式で表わすことができる。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、加速度センサ1のオフセットは、電源電圧依存性や温度依存性などがあるが、ほとんどが比較的緩やかに変化するものであって、短時間では大きく変化しない。したがって、10Hz以上のサンプリング周波数のように短いサンプリング間隔であれば、オフセットはほぼ等しいとみなすことができる。したがって、加速度F1は、数2から次式のように表わすことができる。
【0026】
【数4】

【0027】
算出した複数の加速度F1の中から最大値を求め、この最大値を補正加速度Fとする。図3には、補正加速度F(図3のA)が示されている。比較として、各加速度Xn,Yn,Znの合成値F2(数5)も示されている(図3のB)。図3によると、補正加速度Fはオフセットが除去されているため、合成値F2よりも絶対値が小さくなっている。しかし、補正加速度Fの変化は合成値F2と同様に大きいので、後述の歩数計数部63が歩数を計数するのに十分なものである。
【0028】
【数5】

【0029】
上式から明らかなように、加速度F1から各軸におけるオフセットXoffn,Yoffn,Zoffn,Xoffn-1,Yoffn-1,Zoffn-1を除去することができる。また、加速度Xn,Yn,Zn及び加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iには、それぞれ重力加速度成分が含まれることになるが、10Hz以上のサンプリング周波数のように短いサンプリング間隔であれば、重力加速度成分はほぼ等しいとみなすことができるために、加速度F1から重力加速度成分を除去することができる。これにより、歩数計の向きがどの方向を向いていても歩数を正確に計数することができて、加速度センサ1の向きによる検出感度の変化を低減できる。
【0030】
活動量算出部62は、一定時間ごとに加速度算出部61からの加速度F1を用いて次式から標本分散σを算出し、この標本分散σに基づいて活動量を算出する。算出された活動量の情報(活動量情報)は表示制御部64に出力されるとともにメモリ3に記憶される。
【0031】
【数6】

【0032】
歩数計数部63は、加速度算出部61からの補正加速度Fと、メモリ3に記憶されている閾値L1とを比較し、補正加速度Fが閾値L1を越えた状態で、補正加速度Fのピークを検出すると歩数をインクリメント(1増加)させる。ここで、補正加速度Fのピークとは、補正加速度Fの傾きが正から負へ代わる点をいう。一方、補正加速度Fが閾値L1以下であれば、歩数をインクリメントしないようにする。このように閾値L1を設けることで、歩行以外の体動やノイズによって発生したピークを歩数として計数することを防止する。
【0033】
ところで、歩数計数部63は、活動量算出部62で測定された活動量の大きさに応じて複数の歩行形態を区別し、歩行形態ごとに歩数を計数する。歩行形態としては、例えば「だらだら歩き」や「きびきび歩き」、「走行」などがある。活動量が2.5Mets未満であると、歩行形態「だらだら歩き」としての歩数を計数し、活動量が2.5Mets以上6Mets未満であると、歩行形態「きびきび歩き」としての歩数を計数し、活動量が6Mets以上であると、歩行形態「走行」としての歩数を計数する。歩行形態ごとに計数された歩数の情報(歩数情報)は表示制御部64に出力されるとともにメモリ3に記憶される。
【0034】
表示制御部64は、活動量算出部62からの活動量情報及び歩数計数部63からの歩行形態ごとの歩数情報に基づいて、液晶画面50(図2参照)に活動量及び歩行形態ごとの歩数を表示させるように表示部5を制御する。
【0035】
操作処理部65は、使用者による操作入力部2での操作入力によって、機器動作のスタート/ストップや累積保存している歩数総計のリセット、歩数計数開始時から現時点までの歩数表示、累積保存している歩数総計の表示、活動量の表示などの歩数計として必要とされる操作を行えるように構成されている。
【0036】
以上、本実施形態によれば、一定範囲の時間帯の各時間の加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iとの差分ΔX,ΔY,ΔZの絶対値の最大値を算出することによって、加速度センサ1の出力に含まれるオフセットの影響を低減しつつ、歩数計数に用いるデータの値を大きくすることができる。また、活動量の大きさに応じて歩行形態を区別し、歩行形態ごとに歩数を計数することができる。
【0037】
なお、実施形態1の変形例として、加速度F1を数2で表わしているが、計算の容易性を考慮すると、ルート計算を行わずに、F1=ΔX+ΔY+ΔZとしてもよい。
【0038】
また、本実施形態の他の変形例として、加速度算出部61は、サンプリング部60でサンプリングされた各加速度Xn,Yn,Znから次式のように加速度F3nを算出してもよい。
【0039】
【数7】

【0040】
そして、加速度算出部61は、加速度F3nと、予め設定された過去の一定時間帯(例えば0.5秒前から0.2秒前まで)の各加速度F3n-iとから次式のように差分F4を算出する。
【0041】
【数8】

【0042】
ここで、加速度センサ1のオフセットを考慮すると、n回目に取得した各加速度Xn,Yn,Zn及びn−i回目に取得した各加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iは数1で表わすことができる。
【0043】
したがって、差分F4におけるX,Y,Zの各項であるF4x,F4y,F4zは、次式で表わすことができる。
【0044】
【数9】

【0045】
ここで、加速度センサ1のオフセットは、10Hz以上のサンプリング周期のように短いサンプリング間隔であれば、ほぼ等しい(Xoffn≒Xoffn-i)とみなすことができるため、F4x,F4y,F4zは、次式のように表わすことができる。
【0046】
【数10】

【0047】
したがって、本変形例の場合、Xoffn,Yoffn,Zoffnの項が残るために実施形態1とは異なり加速度センサ1のオフセットXoffn,Yoffn,Zoffn,Xoffn-1,Yoffn-1,Zoffn-1をすべて除去することはできないが、オフセットの2乗の項をすべて除去することができるため、従来の歩数計に比べて、オフセットの影響を低減することができる。
【0048】
(実施形態2)
本実施形態の歩数計は、加速度算出部61が、加速度センサ1の各加速度Xn,Yn,Znと予め設定された一定時間前の各加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iとの差分ΔX,ΔY,ΔZの絶対値を算出し、歩数計数部63が、算出した差分ΔX,ΔY,ΔZの絶対値を用いて歩数を計数する点で、実施形態1と相違している。なお、実施形態1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
本実施形態の加速度算出部61は、サンプリング部60で現在(n回目)にサンプリングされた各加速度Xn,Yn,Znと、過去の一定時間帯の各時間ではなく、一定時間前(例えば0.5秒前など)にサンプリングされた各加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iとの差分ΔX,ΔY,ΔZを算出し、この算出した差分ΔX,ΔY,ΔZを用いて数1〜数3を用いて数4のような加速度F1を算出する。本実施形態では、この算出した加速度F1をそのまま補正加速度Fとして用いる。ここで、差分ΔX,ΔY,ΔZができるだけ大きくなるように、上記一定時間は、各加速度X,Y,Zの半周期程度であることが好ましい。
【0050】
本実施形態の歩数計数部63は、上記補正加速度Fと、メモリ3に記憶されている閾値L1とを比較し、補正加速度Fが閾値L1を越えた状態で、補正加速度Fのピークを検出すると歩数をインクリメント(1増加)し、補正加速度Fが閾値L1以下であれば、歩数をインクリメントしないようにする。
【0051】
以上、本実施形態によれば、一定時間前の各加速度Xn-i,Yn-i,Zn-iとの差分ΔX,ΔY,ΔZの絶対値を算出することによって、加速度センサ1の各加速度Xn,Yn,Znに含まれるオフセットの影響を低減しつつ、歩数計数に用いるデータの値を大きくすることができる。
【0052】
(実施形態3)
本実施形態の歩数計は、加速度算出部61が活動量の大きさに応じて、差分ΔX,ΔY,ΔZを算出するために用いられる一定時間を決定すること点で、実施形態2と相違している。なお、実施形態2と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
本実施形態の加速度算出部61は、活動量算出部62で算出された活動量をフィードバックして取得し、取得した活動量の大きさから歩行形態を推測して上記一定時間を決定する。具体的には、活動量が大きいと「走行」と判断し、一定時間を短くする。一方、活動量が小さいと「だらだら歩き」と判断し、一定時間を長くする。
【0054】
以上、本実施形態によれば、活動量の大きさから歩行形態を推測することができ、歩行形態を考慮した歩数計数を行うことができるので、上記歩数計数の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態1〜3の構成を示すブロック図である。
【図2】同上の外観図である。
【図3】同上の加速度センサの出力を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 加速度センサ
6 演算部
60 サンプリング部
61 加速度算出部
63 歩数計数部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサと、
前記加速度センサの出力と一定時間前の当該加速度センサの出力との差分の絶対値を算出する差分算出手段と、
前記差分の絶対値を用いて歩数を計数する歩数計数手段と
を備えることを特徴とする歩数計。
【請求項2】
前記一定時間が過去の一定範囲の時間帯であり、
前記差分算出手段が、前記加速度センサの出力と前記時間帯の各時間での出力との差分の絶対値を算出して当該差分の絶対値の最大値を抽出し、
前記歩数計数手段が、前記差分の絶対値の最大値を用いて歩数を計数する
ことを特徴とする請求項1記載の歩数計。
【請求項3】
前記加速度センサの出力を用いて活動量を算出する活動量算出手段を備え、
前記歩数係数部が前記活動量の大きさに応じて複数の歩行形態を区別し、前記歩行形態ごとに歩数を計数する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の歩数計。
【請求項4】
前記加速度センサの出力を用いて活動量を算出する活動量算出手段を備え、
前記差分算出手段が前記活動量の大きさに応じて前記一定時間を決定する
ことを特徴とする請求項1記載の歩数計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−250964(P2008−250964A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95196(P2007−95196)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】