説明

歩行環境シミュレータ

【課題】簡単に車道の横断を擬似体験することができ、かつ、危険性をわかりやすく認識することができる歩行環境シミュレータを提供する。
【解決手段】コンピュータ・グラフィックスにより作成した仮想交通環境を用い、被験者に車道の横断を擬似体験させる。被験者Mの歩行距離を測定する距離測定手段20と、頭部の動きを測定する頭部測定手段30と、これらに接続されたコンピュータ40とを備える。コンピュータ40では、被験者Mの歩行距離、頭部の動き、及び仮想交通環境に基づいて、被験者Mの車道横断状況を判定する。判定項目として、車道を横断する前の左右確認動作と、車道の中央線上における左確認動作と、手前車線での車の接触・接近状況と、奥車線での車の接触・接近状況とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ・グラフィックスにより作成した仮想交通環境を用い、被験者に車道の横断を擬似体験させることができる歩行環境シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
平成21年の秋田県内の交通死亡事故は64件であり、そのうち46名の方が高齢者である。また、その46名の高齢者のうち30名の方は、歩行中の事故である。高齢歩行者の死亡事故の割合は、秋田県内だけではなく全国的に高い比率を占めており、過去の交通死亡事故状況を見ても、その比率は変わらず高いまま推移している。高齢者の事故を防止するためには、高齢者に危険性を認識してもらうことが重要であり、例えば、コンピュータ・グラフィックスにより作成した仮想交通環境を用いて車道の横断を擬似体験することも有効である。なお、交通安全講習用のシミュレータとしては、例えば、自動車の運転シミュレータが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−3027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、歩行者が車道の横断を擬似体験することができるシミュレータの開発はあまり進んでおらず、高齢者が疑似体験を通して、危険性を分かりやすく認識することができるシミュレータの開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、簡単に車道の横断を擬似体験することができ、かつ、危険性をわかりやすく認識することができる歩行環境シミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歩行環境シミュレータは、コンピュータ・グラフィックスにより作成した仮想交通環境を用い、被験者に車道の横断を擬似体験させるものであって、コンピュータ・グラフィックスにより作成した視野180°以上の仮想交通環境を表示する表示手段と、被験者の歩行距離を測定する距離測定手段と、被験者の頭部の動きを測定する頭部測定手段と、表示手段に表示する仮想交通環境をコンピュータ・グラフィックスにより作成すると共に、距離測定手段により測定した歩行距離に基づいて、表示手段に表示する仮想交通環境を変化させる制御手段と、距離測定手段により測定した歩行距離、頭部測定手段により測定した頭部の動き、及び、制御手段により作成した仮想交通環境に基づいて、被験者の車道横断状況を判定する判定手段と、判定手段の判定結果に基づいて、レポートコメント及びレポート画像を作成するレポート手段とを備え、判定手段は、判定項目に、車道を横断する前における被験者の左右確認動作と、車道の中央線上における被験者の左確認動作と、手前車線での被験者に対する車の接触・接近状況と、奥車線での被験者に対する車の接触・接近状況とを有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の歩行環境シミュレータによれば、判定手段の判定項目に、車道を横断する前の左右確認動作と、車道の中央線上における左確認動作と、手前車線での車の接触・接近状況と、奥車線での車の接触・接近状況とを有するようにしたので、被験者の歩行距離と頭部の動きを測定するだけで、簡単に、被験者の車道横断状況を判定することができる。また、被験者は、自分の安全確認動作と車の接触・接近状況を知ることができるので、問題点を単純化して抽出することができ、危険性を分かりやすく認識することができる。
【0008】
よって、交通事故に遭うリスクの高い高齢者を事前に発見し、効果的な交通安全指導及びリハビリテーションを行うことができ、交通事故数を減少させることができる。また、データを蓄積することにより、歩行者が交通事故に遭いやすい交通環境の分析や、高齢者が気づきやすい自動車の設計指針を得ることができ、高齢者に優しく安全な道路の設計及び都市環境の評価等に利用することができると共に、歩行者にとって気づきやすい自動車の外装デザイン・評価及び歩行者の注意を喚起する注意・警告用デバイスの開発・評価等にも利用することができる。
【0009】
更に、判定手段において、被験者が車と接触した場合には、被験者が車道に進入した時における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者が車道に進入してから車と接触するまでの接触時間を算出し、車と接触していない場合には、被験者に最も近づいた車の接近距離、及び、被験者に最も近づいた車が被験者のいた位置まで到達するのにかかる到達時間を算出するようにすれば、車の接触・接近状況を距離と時間で示すことができる。よって、被験者は危険性を具体的に認識することができ、より高い効果を得ることができる。
【0010】
加えて、レポート手段に、被験者の顔の向きを示すイラスト画像を作成する左右確認画像作成手段及び左確認画像作成手段と、被験者が車と接触した場合、または、被験者に警戒のレベルまで車が近づいた場合に、車の接触または接近を示すイラスト画像を作成する手前車線画像作成手段及び奥車線画像作成手段とを有するようにすれば、被験者は、自分の安全確認動作と車の接触・接近状況を視覚的に簡単に認識することができ、より高い効果を得ることができる。
【0011】
更にまた、判定手段において判定項目の判定結果に応じて評価点をつけ、レポート手段に、車と接触したか否か、評価点の合計点、及び各評価点に応じてコメントを選択するコメント選択手段を有するようにすれば、車と接触したか否かと評価点の合計点とから全体評価をすることができると共に、各判定項目の評価点から問題点を細かく示すことができる。よって、すばやくかつ分かりやすくコメントを示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る歩行環境シミュレータの全体構成を表わす図である。
【図2】図1に示した歩行環境シミュレータのシステム構成を表わす図である。
【図3】図2に示したコメント選択手段における手順を示す流れ図である。
【図4】図2に示した判定手段における手順を示す流れ図である。
【図5】図2に示したレポート作成手段におけるレポート画像作成手順を示す流れ図である。
【図6】レポート画像及びレポートコメントの一例を示す図である。
【図7】レポート画像及びレポートコメントの他の一例を示す図である。
【図8】レポート画像及びレポートコメントの更に他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る歩行環境シミュレータ1の全体概略構成を表わすものであり、図2はそのシステム構成を表すものである。この歩行環境シミュレータ1は、コンピュータ・グラフィックスにより作成した仮想交通環境を用い、被験者Mに車道の横断を擬似体験させるものである。この歩行環境シミュレータ1は、コンピュータ・グラフィックスにより作成した視野180°以上の仮想交通環境を表示する表示手段10と、被験者Mの歩行距離を測定する距離測定手段20と、被験者Mの頭部の動きを測定する頭部測定手段30と、これら表示手段10、距離測定手段20及び頭部測定手段30とそれぞれ接続されたコンピュータ40とを備えている。コンピュータ40には、例えば、キーボード等の入力手段50と、ディスプレイ61又はプリンタ62等の出力手段60とが接続されている。
【0015】
表示手段10は、例えば、正面、左側及び右側の3方向の仮想交通環境を個別に映す3面のスクリーン11と、3面のスクリーン11に個別に対向配置された3台のプロジェクタ12とを有している。スクリーン11は、広視野角スクリーンが好ましく、大きさは、各面について80型から100型程度のものを用いる。スクリーン11は、例えば、左スクリーン11A及び右スクリーン11Bが、中央スクリーン11Cに対して鈍角を形成するように被験者Mの側に曲げて配置され、被験者Mの視野角が180°以上となるように構成される。各プロジェクタ12は、グラフィックボードを介してコンピュータ40にそれぞれ接続されている。
【0016】
距離測定手段20は、例えば、中央スクリーン11Cに対向するように配置されたトレッドミルよりなる歩行部21と、歩行部21において被験者Mが歩行した距離を測定し、コンピュータ40に出力する測定部22とを有している。頭部測定手段30は、例えば、被験者Mの頭部に取り付けるセンサー31と、センサー31の位置及び回転角度を検出し、コンピュータ40に出力する3次元デジタイザ32とを有している。
【0017】
コンピュータ40は、例えば、制御手段41と、判定手段42と、レポート手段43とデータベース44とを有している。制御手段41は、表示手段10に表示する仮想交通環境をコンピュータ・グラフィックスにより作成するものであり、距離測定手段20により測定した歩行距離に基づいて、表示手段10に表示する仮想交通環境を変化させる機能も有している。仮想交通環境は、例えば、VRML(Virtual Reality Modeling Language)を用いてプログラミングされる。VRMLは、長さ(距離)[m]、時間[s]、速度[m/s]、角度[rad]をSI単位系で記述できるので、実際の交通環境に一致した仮想交通環境を構築することができ好ましい。仮想交通環境には、例えば、片側1車線の直線道路、交差点、あるいはバス停があり、時間帯は昼・夕方・夜と設定を変えることが可能で、被験者Mが横断歩道を歩き、車道を横断する状況を擬似体験できるように構成されている。
【0018】
また、仮想交通環境における自動車の動き、例えば、自動車の台数、速度、車間距離、及び初期出現位置は、オペレーター等が自由に設定することができるように構成されている。仮想交通環境における自動車の動きの制御、被験者Mの位置情報を基にしたコンピュータ・グラフィックスの描画及び計測には、例えば、Matlab(MATrixLABoratory)が用いられる。Matlabは、アメリカ合衆国のMathWorks社が開発している数値解析ソフトウェアであり、その中で使うプログラミング言語の名称でもある。制御手段41は、更に、仮想交通環境における自動車の動き、距離測定手段20により測定された被験者Mの歩行速度、及び、頭部測定手段30により測定された頭部の動きを用いて、被験者Mの視点、ドライバーの視点、及び俯瞰図等の自由な視点で被験者Mの車道横断状況を再現する機能も有している。
【0019】
判定手段42は、距離測定手段20により測定した歩行距離、頭部測定手段30により測定した頭部の動き、及び、制御手段41により作成した仮想交通環境に基づいて、被験者Mの車道横断状況を判定するものである。判定手段42は、判定項目として、車道を横断する前における被験者Mの左右確認動作と、車道の中央線上(手前車線と奥車線との間の線上)における被験者Mの左確認動作と、手前車線での被験者Mに対する車の接触・接近状況と、奥車線での被験者Mに対する車の接触・接近状況とを少なくとも有し、それらを判定するための手段、具体的には、左右確認動作判定手段42A、左確認動作判定手段42B、手前車線状況判定手段42C、及び、奥車線状況判定手段42Dを有している。
【0020】
左右確認動作判定手段42Aは、頭部測定手段30により測定した頭部の動きから被験者Mが車道を横断する前に左右を確認したか否かを判定するものである。具体的には、例えば、被験者Mが車道を横断する前に左右を向いた回数を検出し、左右それぞれ2回以上向いている場合には確認したと判定し、判定結果に応じて評価点を付けるように構成されている。評価点は、例えば、確認したと判定した場合には3点、確認してないと判定した場合には0点とするように設定されている。
【0021】
左確認動作判定手段42Bは、頭部測定手段30により測定した頭部の動きから被験者Mが車道の中央線上において左を確認したか否かを判定するものである。具体的には、例えば、車道の中央線上における被験者Mの頭の向きを検出し、左を向いた場合には確認したと判定し、判定結果に応じて評価点を付けるように構成されている。評価点は、例えば、確認したと判定した場合には3点、確認してないと判定した場合には0点とするように設定されている。
【0022】
手前車線状況判定手段42Cは、仮想交通環境において被験者Mが手前車線で車と接触したか否か、及び車の接触または接近状況を判定するものである。例えば、車と接触した場合には、被験者Mが車道に進入した時(具体的には手前車線に進入した時)における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者Mが車道に進入してから(具体的には手前車線に進入してから)車と接触するまでの接触時間を算出するように構成されている。また、例えば、被験者Mが車と接触していない場合には、手前車線の中央に被験者Mが来た時に、被験者Mに最も近づいた車と被験者Mとの間の接近距離、及び、被験者Mに最も近づいた車が最も近づいた位置からその時に被験者Mがいた位置まで到達するのにかかる到達時間を算出し、到達時間に応じて評価点を付けるように構成されている。評価点は、例えば、4.8秒を注意時間、1.5秒を警告時間、1秒を危険時間とし、4.8秒よりも長い場合には4点、4.8秒以下1.5秒以上の場合には3点、1.5秒よりも短く1秒以上の場合には1点、1秒よりも短い場合には0点とするように設定されている。
【0023】
奥車線状況判定手段42Dは、仮想交通環境において被験者Mが奥車線で車と接触したか否か、及び車の接触または接近状況を判定するものである。例えば、車と接触した場合には、被験者Mが車道に進入した時(具体的には手前車線に進入した時)における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者Mが車道に進入してから(具体的には手前車線に進入してから)車と接触するまでの接触時間を算出するように構成されている。また、例えば、被験者Mが車と接触していない場合には、奥車線の中央に被験者Mが来た時に、被験者Mに最も近づいた車と被験者Mとの間の接近距離、及び、被験者Mに最も近づいた車が最も近づいた位置からその時に被験者Mがいた位置まで到達するのにかかる到達時間を算出し、到達時間に応じて評価点を付けるように構成されている。評価点は、例えば、手前車線状況判定手段42Cと同様に設定されている。
【0024】
レポート手段43は、判定手段42の判定結果に基づいて、レポートコメント及びレポート画像を作成するものであり、例えば、判定項目に応じてレポート画像を作成する左右確認画像作成手段43A、左確認画像作成手段43B、手前車線画像作成手段43C、及び奥車線画像作成手段43Dと、レポートコメントを作成するコメント選択手段43Eとを有している。
【0025】
左右確認画像作成手段43Aは、車道を横断する前の左右確認動作における被験者Mの頭部の回転角度に応じて、顔の向きを示すイラスト画像を作成し、左右確認動作を視覚化するものである。具体的には、例えば、表1に示したように、最大回転角度とイラストとが関連付けられており、車道を横断する前に被験者Mが頭部を回転させた左右の最大回転角度に基づいて、対応するイラストを選択し、所定の位置に表示するように構成されている。なお、表1では、正面向いているときを0°とし、右方向を向いたときの角度を+、左方向を向いたときの角度を−で表している。
【0026】
【表1】

【0027】
左確認画像作成手段43Bは、車道の中央線上の左確認動作における被験者Mの頭部の回転角度に応じて、顔の向きを示すイラスト画像を作成し、左確認動作を視覚化するものである。具体的には、例えば、表1と同様にして回転角度とイラストとが関連付けられており、車道の中央線を通過する際の車道の中央線上における被験者Mの頭部の向き(回転角度)に基づいて、対応するイラストを選択し、所定の位置に表示するように構成されている。
【0028】
手前車線画像作成手段43Cは、手前車線において被験者Mが車と接触した場合、または、手前車線において被験者Mに警戒のレベルまで車が近づいた場合に、車の接触または接近を示すイラスト画像を作成し、車の接触・接近状況を視覚化するものである。具体的には、例えば、車と接触した場合には、表2に示したように、接触を表すイラストを選択し、所定の位置に表示するように構成されている。また、例えば、車が警戒のレベルまで近づいた場合には、表3に示したように、到達時間と関連付けられたイラストから、手前車線状況判定手段42Cにより算出された到達時間に基づいて、対応するイラストを選択し、所定の位置に表示するように構成されている。表3では、到達時間が警告時間の1.5秒よりも短い場合にイラストを表示し、危険時間の1秒以上、警告時間の1.5秒より短い場合と、危険時間の1秒より短い場合とでイラストを変えて、注意を喚起するように設定されている。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
奥車線画像作成手段43Dは、奥車線において被験者Mが車と接触した場合、または、奥車線において被験者Mに警戒のレベルまで車が近づいた場合に、車の接触または接近を示すイラスト画像を作成し、車の接触・接近状況を視覚化するものである。具体的には、例えば手前車線画像作成手段43Cと同様に、車と接触した場合には、表2に示したように、接触を表すイラストを選択して所定の位置に表示し、また、車が警戒のレベルまで近づいた場合には、奥車線状況判定手段42Dにより算出された到達時間に基づいて、表3に示したように、対応するイラストを選択し、所定の位置に表示するように構成されている。
【0032】
コメント選択手段43Eは、被験者Mが車と接触したか否か、並びに、判定手段42により判定された評価点の合計点及び各評価点に応じて、コメントを選択してレポートコメントを作成するものである。具体的には、例えば、図3に示したように、被験者Mが車と接触していない場合には(ステップS101;N)、評価点の合計点が14点満点の場合(ステップS102;14点満点)と、12点及び13点の場合(ステップS102;12点13点)と、11点以下の場合(ステップS102;11点以下)とに分け、接触した場合には(ステップS101;Y)、手前車線で接触した場合(ステップS103;Y)と、手前車線で接触していない場合(ステップ103;N)とに分けて、コメントを作成する(ステップS104〜S108)ように構成されている。
【0033】
なお、評価点の合計点が14点満点というのは、例えば、左右確認動作及び左確認動作が行われ、被験者Mに最も接近した車の到達時間が注意時間の4.8秒よりも長く、車の接近距離が十分に長い場合である。評価点の合計点が12点及び13点というのは、例えば、左右確認動作及び左確認動作が行われ、被験者Mに最も接近した車の到達時間が警告時間の1.5秒以上、注意時間の4.8秒以下であり、車との接近距離がある程度とれているものである。よって、コメント作成1及びコメント作成2では、例えば、各判定項目の評価点を見ることなく、「安全に横断できました」等の全体評価のコメントを選択するように構成されている。また、コメント作成2では、被験者Mに最も接近した車の到達時間が注意時間以下であり十分には長くないので、手前車線又は奥車線において被験者Mに最も近づいた車の接近距離、及び、被験者Mに最も近づいた車が被験者Mのいた位置まで到達するのにかかる到達時間を表示するように構成されることが好ましい。
【0034】
評価点の合計点が11点以下というのは、例えば、左右確認動作あるいは左確認動作が行われなかったか、又は、被験者Mに最も接近した車の到達時間が警告時間の1.5秒よりも短いという重大な問題点がある場合である。よって、コメント作成3では、例えば、各判定項目の評価点に応じてコメントを選択し、更に、手前車線又は奥車線において被験者Mに最も近づいた車の接近距離、及び、被験者Mに最も近づいた車が被験者Mのいた位置まで到達するのにかかる到達時間を表示するように構成されている。
【0035】
車に接触した場合のコメント作成4及びコメント作成5では、問題点を明確にするために、各判定項目の評価点に応じてコメントを選択し、更に、被験者Mが車道に進入した時(具体的には手前車線に進入した時)における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者Mが車道に進入してから(具体的には手前車線に進入してから)車と接触するまでの接触時間を表示するように構成されている。
【0036】
データベース44は、コンピュータ40で扱うデータを記録するものであり、記録されるデータとしては、例えば、距離測定手段20の測定データ、頭部測定手段30の測定データ、仮想交通環境のデータ、判定手段42のデータが挙げられる。
【0037】
この歩行環境シミュレータ1は、例えば、次のようにして用いられる。
【0038】
まず、オペレーターにより入力手段50を用いて仮想交通環境における自動車の動きを設定する。次いで、制御手段41により作成した正面、左側及び右側の3方向の仮想交通環境を、3台のプロジェクタ12を用いて中央スクリーン11C、左スクリーン11A及び右スクリーン11Bに個別に投影する。続いて、被験者Mにスクリーン11を見ながら距離測定手段20の歩行部21の上を歩いてもらい、仮想交通環境における車道の横断を擬似体験してもらう。その際、距離測定手段20により被験者Mの歩行距離、歩行速度等を測定し、頭部測定手段30により頭部の動きを測定する。また、距離測定手段20により測定した歩行距離に基づいて、制御部41によりスクリーン11に投影する仮想交通環境を変化させる。
【0039】
被験者Mが車道を横断すると、判定手段42では、距離測定手段20により測定した歩行距離、頭部測定手段30により測定した頭部の動き、及び、制御手段41により作成した仮想交通環境に基づいて、被験者Mの車道横断状況を判定する。例えば、図4に示したように、まず、左右確認動作判定手段42Aにより車道を横断する前の左右確認動作を判定する(ステップS210)。具体的には、例えば、被験者Mが車道を横断する前に左右を向いた回数がそれぞれ2回以上である場合には(ステップS211;Y)、評価点を3とし(ステップS212)、片方でも2回未満の場合には(ステップS211;N)、評価点を0点とする(ステップS213)。次いで、左確認動作判定手段42Bにより車道の中央線上における左確認動作を判定する(ステップS220)。具体的には、例えば、被験者Mが車道の中央線上において左を向いた場合には(ステップS221;Y)、評価点を3とし(ステップS222)、向いていない場合には(ステップS221;N)、評価点を0点とする(ステップS223)。
【0040】
続いて、手前車線状況判定手段42Cにより手前車線における車の接触・接近状況を判定する(ステップS230)。具体的には、例えば、被験者Mが車と接触した場合には(ステップS231;Y)、被験者Mが車道に進入した時における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者Mが車道に進入してから車と接触するまでの接触時間を算出する(ステップS232)。接触していない場合には(ステップS231;N)、被験者Mに最も近づいた車の接近距離、及び、被験者Mに最も近づいた車が被験者Mのいた位置まで到達するのにかかる到達時間を算出し、到達時間に応じて評価点を付ける(ステップS233)。次に、例えば手前車線状況判定手段42Cと同様にして、奥車線状況判定手段42Dにより奥車線における車の接触・接近状況を判定する(ステップS240〜S243)。
【0041】
判定手段42により判定が行われると、レポート手段43では、判定結果に基づいて、レポート画像及びレポートコメントを作成する。例えば、図5に示したように、まず、左右確認画像作成手段43Aにより、車道を横断する前に被験者Mが頭部を回転させた左右の最大回転角度に基づいて、表1から対応するイラストを選択し、所定の位置に表示する(ステップS301)。次いで、被験者Mが手前車線で車と接触した場合には(ステップS302;Y)、手前車線画像作成手段43Cにより、表2に示した接触のイラストを所定の位置に表示し(ステップS303)、終了する。また、被験者Mが手前車線で車と接触していない場合には(ステップS302;N)、左確認画像作成手段43Bにより、車道の中央線上における被験者Mの頭部の回転角度に基づいて、表1から対応するイラストを選択し、所定の位置に表示する(ステップS304)。
【0042】
続いて、被験者Mが奥車線で車と接触した場合には(ステップS305;Y)、奥車線画像作成手段43Dにより、表2に示した接触のイラストを所定の位置に表示し(ステップS306)、終了する。また、被験者Mが奥車線で車と接触していない場合には(ステップS305;N)、手前車線画像作成手段43Cにより、手前車線状況判定手段42Cで算出された到達時間が警告時間よりも短い場合に(ステップS307;Y)、表3から到達時間に対応するイラストを選択し、所定の位置に表示する(ステップS308)。到達時間が警告時間以上である場合には(ステップS307;N)、次のステップに進む。次に、奥車線画像作成手段43Dにより、奥車線状況判定手段42Dで算出された到達時間が警告時間よりも短い場合に(ステップS309;Y)、表3から到達時間に対応するイラストを選択し、所定の位置に表示する(ステップS310)。到達時間が警告時間以上である場合には(ステップS309;N)、次のステップに進む。
【0043】
そののち、例えば、コメント選択手段43Eにより、被験者Mが車と接触したか否か、評価点の合計点、及び各評価点に応じて、コメントを選択し、レポートコメントを作成する(ステップS311)。具体的には、例えば図3に示したように、被験者Mが車と接触したか否か(ステップS101、S103)、評価点の合計点が14点満点か、12点及び13点か、11点以下かに分けて(ステップS102)、コメントを作成する(ステップS104〜S108)。車と接触した場合及び評価点が11点以下の場合には、各判定項目の評価点に応じて細かくコメントを選択する。また、評価点が14点満点以外の場合には、車の接近距離及び到達時間を表示し、車と接触した場合には、車の接触距離及び接触するまでの接触時間を表示する。
【0044】
レポート画面及びレポートコメントの一例を図6〜8に示す。図6は、車と接触しなかったが、被験者Mに最も接近した車の到達時間が警告時間の1.5秒よりも短いという重大な問題点があった場合(コメント作成3)の一例である。図6に示した例では、車道を横断する前における頭部の左右の最大回転角度、及び、車道の中央線上での頭部の回転角度をイラストで示すと共に、車が警戒のレベルまで近づいていたことをイラストで示している。また、コメントとして、安全確認の回数が足りなかったこと、及び、車の接近状況を距離と時間で示している。図7は、車と接触しなかったが、左確認動作が行われなかったという重大な問題点があった場合(コメント作成3)の一例である。図7に示した例では、車道を横断する前における頭部の左右の最大回転角度、及び、車道の中央線上での頭部の回転角度をイラストで示すと共に、コメントとして、安全確認が足りなかったこと、及び、車の接近状況を距離と時間で示している。図8は、奥車線で車と接触してしまった場合(コメント作成5)の一例である。図8に示した例では、車道を横断する前における頭部の左右の最大回転角度、及び、車道の中央線上での頭部の回転角度をイラストで示すと共に、車と接触したことをイラストで示している。また、コメントとして、安全確認の回数が足りなかったこと、及び、車の接触・接近状況を距離と時間で示している。作成したレポートは出力手段60に出力する。
【0045】
このように本実施の形態によれば、判定手段42の判定項目に、車道を横断する前の左右確認動作と、車道の中央線上における左確認動作と、手前車線での車の接触・接近状況と、奥車線での車の接触・接近状況とを有するようにしたので、被験者Mの歩行距離と頭部の動きを測定するだけで、簡単に、被験者Mの車道横断状況を判定することができる。また、被験者Mは、自分の安全確認動作と車の接触・接近状況を知ることができるので、問題点を単純化して抽出することができ、危険性を分かりやすく認識することができる。
【0046】
よって、交通事故に遭うリスクの高い高齢者を事前に発見し、効果的な交通安全指導及びリハビリテーションを行うことができ、交通事故数を減少させることができる。また、データを蓄積することにより、歩行者が交通事故に遭いやすい交通環境の分析や、高齢者が気づきやすい自動車の設計指針を得ることができ、高齢者に優しく安全な道路の設計及び都市環境の評価等に利用することができると共に、歩行者にとって気づきやすい自動車の外装デザイン・評価及び歩行者の注意を喚起する注意・警告用デバイスの開発・評価等にも利用することができる。
【0047】
更に、判定手段42において、被験者Mが車と接触した場合には、車の接触距離及び接触するまでの接触時間を算出し、車と接触していない場合には、車の接近距離及び到達時間を算出するようにすれば、車の接触・接近状況を距離と時間で示すことができる。よって、被験者は危険性を具体的に認識することができ、より高い効果を得ることができる。
【0048】
加えて、レポート手段43に、被験者Mの顔の向きを示すイラスト画像を作成する左右確認画像作成手段43A及び左確認画像作成手段43Bと、被験者が車と接触した場合、または、被験者に警戒のレベルまで車が近づいた場合に、車の接触または接近を示すイラスト画像を作成する手前車線画像作成手段43C及び奥車線画像作成手段43Dとを有するようにすれば、被験者Mは、自分の安全確認動作と車の接触・接近状況を視覚的に簡単に認識することができ、より高い効果を得ることができる。
【0049】
更にまた、判定手段42において判定項目の判定結果に応じて評価点をつけ、レポート手段43に、被験者が車と接触したか否か、評価点の合計点、及び各評価点に応じて、コメントを選択するコメント選択手段43Eを有するようにすれば、被験者が車と接触したか否かと評価点の合計点とから全体評価をすることができると共に、各判定項目の評価点から問題点を細かく示すことができる。よって、すばやくかつ分かりやすくコメントを示すことができる。
【0050】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、歩行環境シミュレータ1の構成を具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
交通安全講習や、歩行者が事故に遭いやすい交通環境の分析に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…歩行環境シミュレータ、10…表示装置、11…スクリーン、11A…左スクリーン、11B…右スクリーン、11C…中央スクリーン、12…プロジェクタ、20…距離測定手段、21…歩行部、22…測定部、30…頭部測定手段、31…センサー、32…3次元デジタイザ、40…コンピュータ、41…制御手段、42…判定手段、42A…左右確認動作判定手段、42B…左確認動作判定手段、42C…手前車線状況判定手段、42D…奥車線状況判定手段、43…レポート手段、43A…左右確認画像作成手段、43B…左確認画像作成手段、43C…手前車線画像作成手段、43D…奥車線画像作成手段、43E…コメント選択手段、44…データベース、50…入力手段、60…出力手段、61…ディスプレイ、62…プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ・グラフィックスにより作成した仮想交通環境を用い、被験者に車道の横断を擬似体験させる歩行環境シミュレータであって、
コンピュータ・グラフィックスにより作成した視野180°以上の仮想交通環境を表示する表示手段と、
被験者の歩行距離を測定する距離測定手段と、
被験者の頭部の動きを測定する頭部測定手段と、
前記表示手段に表示する仮想交通環境をコンピュータ・グラフィックスにより作成すると共に、前記距離測定手段により測定した歩行距離に基づいて、前記表示手段に表示する仮想交通環境を変化させる制御手段と、
前記距離測定手段により測定した歩行距離、前記頭部測定手段により測定した頭部の動き、及び、前記制御手段により作成した仮想交通環境に基づいて、被験者の車道横断状況を判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、レポートコメント及びレポート画像を作成するレポート手段とを備え、
前記判定手段は、判定項目に、車道を横断する前における被験者の左右確認動作と、車道の中央線上における被験者の左確認動作と、手前車線での被験者に対する車の接触・接近状況と、奥車線での被験者に対する車の接触・接近状況とを有する
ことを特徴とする歩行環境シミュレータ。
【請求項2】
前記判定手段は、
被験者が車道を横断する前に左右を確認したか否かを判定する左右確認動作判定手段と、
被験者が車道の中央線上において左を確認したか否かを判定する左確認動作判定手段と、
被験者が手前車線で車と接触したか否かを判定し、接触した場合には、被験者が車道に進入した時における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者が車道に進入してから車と接触するまでの接触時間を算出し、被験者が車と接触していない場合には、手前車線において被験者に最も近づいた車と被験者との間の接近距離、及び、被験者に最も近づいた車が最も近づいた位置からその時に被験者がいた位置まで到達するのにかかる到達時間を算出する手前車線状況判定手段と、
被験者が奥車線で車と接触したか否かを判定し、接触した場合には、被験者が車道に進入した時における接触した車の位置から接触位置までの接触距離、及び、被験者が車道に進入してから車と接触するまでの接触時間を算出し、被験者が車と接触していない場合には、奥車線において被験者に最も近づいた車と被験者との間の接近距離、及び、被験者に最も近づいた車が最も近づいた位置からその時に被験者がいた位置まで到達するのにかかる到達時間を算出する奥車線状況判定手段と
を有することを特徴とする請求項1記載の歩行環境シミュレータ。
【請求項3】
前記レポート手段は、
車道を横断する前の左右確認動作における被験者の頭部の回転角度に応じて、顔の向きを示すイラスト画像を作成する左右確認画像作成手段と、
車道の中央線上の左確認動作における被験者の頭部の回転角度に応じて、顔の向きを示すイラスト画像を作成する左確認画像作成手段と、
手前車線において被験者が車と接触した場合、または、被験者に警戒のレベルまで車が近づいた場合に、車の接触または接近を示すイラスト画像を作成する手前車線画像作成手段と、
奥車線において被験者が車と接触した場合、または、被験者に警戒のレベルまで車が近づいた場合に、車の接触または接近を示すイラスト画像を作成する奥車線画像作成手段と
を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の歩行環境シミュレータ。
【請求項4】
前記判定手段は、判定項目の判定結果に応じて評価点をつけ、
前記レポート手段は、被験者が車と接触したか否か、評価点の合計点、及び、各評価点に応じて、コメントを選択するコメント選択手段を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の歩行環境シミュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−2950(P2012−2950A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136496(P2010−136496)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(505197229)エーピーアイ株式会社 (2)