説明

歩行補助装置用大腿部装具

【課題】使用者自身の筋肉の運動を妨げることがなく、しかも装着状態がずれることのない歩行補助装置用大腿部装具を提供する。
【解決手段】下肢の運動に補助力を与えるべく腰部に装着された動力発生装置(アクチュエータ4)の駆動軸から延出された補助力伝達アーム5の端部を大腿部Tに固定するための歩行補助装置用大腿部装具3において、その大腿部との接触部に、空気充填手段を備えたパッド27を介設するものとする。これにより、エアパッドによる空気ばね作用によって例えば蹲踞姿勢をとった時などの大腿部の変形に対しても、エアパッドは容易に大変位し得る上、適宜にエアを出し入れすることができるので、高い装着性を容易に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行補助装置用大腿部装具に関し、より詳しく言うと、下肢機能が低下した人の筋力を補助する力を発生する動力発生装置における補助力伝達アームの端部を大腿部に固定するための歩行補助装置用大腿部装具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筋力が低下して自力歩行が困難となった人のために、股関節や膝関節の近くに電動モータ等の動力発生装置を装着し、動力発生装置が発生する駆動力で下肢の運動を補助するようにした歩行補助装置が種々提案されている(例えば、特許文献1を参照されたい)。
【0003】
特許文献1に記載された歩行補助装置においては、使用者の大腿部に大腿用装着部を装着し、動力発生装置の駆動力を、大腿用装着部を介して大腿部に伝達するように構成されている。この大腿用装着部は、大腿部にしっかりと固定できるように、大腿部の全周を覆うような円筒形をなすと共に、伸縮性のある布、皮革、合成樹脂製シート等の軟質材料にて製作されており、その周方向の一部を開閉して大腿部に着脱し得るように構成されている。
【特許文献1】特開平7−163607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1に記載の大腿用装着部は、大腿部の殆ど全体に巻き付けるように構成されている。これによると、人の身体の中でも特に太い筋肉があり、筋肉の牽引収縮による断面積(周囲長)の変化が大きい大腿部の場合、筋肉が伸びている立位で丁度良いように装具を締め付けると、筋肉が収縮するしゃがんだ時には大腿部に強い圧迫感を覚えることとなり、この逆にしゃがんだ時に丁度良いように装具を締め付けると、立った時には弛みを生じてしまうことが考えられる。
【0005】
本文献には、伸縮性のある材質を選ぶことが示唆されているが、実際のところ、筋肉の動きを阻害せず、違和感や苦痛を使用者に全く感じさせることのないように、動力発生装置の力を大腿部に伝達する装具を構成することは極めて困難であった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、使用者自身の筋肉の運動を妨げることがなく、しかも装着状態がずれることのない歩行補助装置用大腿部装具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、本発明の請求項1は、下肢の運動に補助力を与えるべく腰部に装着された動力発生装置(アクチュエータ4)の駆動軸から延出された補助力伝達アーム5の端部を大腿部Tに固定するための歩行補助装置用大腿部装具3において、その大腿部との接触部に、空気充填手段を備えたパッド27を介設したことを特徴とするものとした。
特に、大腿部の前面に当たるサポート板22Fと、大腿部の後面に当たるサポート板22Rとを有するものとし、これら両サポート板を、補助力伝達アームの端部に取り付けられたステー21に板ばね(可撓連結板)24を介して結合するものとしたり(請求項2)、その大腿部表面との接触部に半流動体を充填したパッド23を介設するものとしたり(請求項3)すると良い。
【発明の効果】
【0008】
このような本発明によれば、エアパッドによる空気ばね作用によって例えば蹲踞姿勢をとった時などの大腿部の変形に対しても、エアパッドは容易に大変位し得る上、適宜にエアを出し入れすることができるので、高い装着性を容易に維持することができる。特に、サポート板を弾性的に支持するものとしたり、身体との接触部に半流動体を充填したパッドを当てたりすることにより、動力発生装置及び動力伝達装置の身体に対する固定点と身体の運動軸(関節中心)との位置が不一致であることに起因して生ずる装具と身体との間のズレが許容されるので、下肢の自然な運動を阻害せずに済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明に基づいて構成された歩行補助装置の概略構成図である。この歩行補助装置1は、腰部装具2と、大腿部装具3と、腰部装具2に結合された補助動力発生用アクチュエータ4とから構成されており、腰部装具2を腰部に装着することでアクチュエータ4を使用者の股関節の側方に固定すると共に、大腿部装具3を大腿部Tに装着することでアクチュエータ4の駆動軸から左右の大腿部Tの各外側面に沿うように延出された一対のトルクアーム5の遊端に作用する補助力を大腿部Tに伝達することができるようになっている。
【0011】
トルクアーム5の遊端に結合された大腿部装具3は、図2に示すように、フラットバーを上面視略U字形に曲折してなるステー21と、ステー21の両端の対向内面に固定された薄板からなる一対のサポート板22F・22Rと、両サポート板22F・22Rの対向内面、つまり大腿部Tとの接触面に被着されるパッド23とからなっている。両サポート板22F・22Rの外面には、板ばねの機能を発揮する可撓連結板24がその上下両端を固定されており、その上下方向中間部に、ステー21の各端が結合されている。これらのステー21、両サポート板22F・22R、及び可撓連結板24は、高剛性化と軽量化との両立を企図して例えばカーボンやケブラーなどの繊維で強化した合成樹脂材(FRP)で形成されている。なお、トルクアーム5とステー21との結合部並びにステー21と両サポート板22F・22Rとの結合部は、例えば、ボルト/ナットを用い、ボルト孔を適宜なピッチで複数設ける等、使用者の体格の違いに応じてその結合位置が調節可能なように構成しておくと良い。
【0012】
一対のサポート板22F・22Rは、パッド23が被着された対向内面間に大腿部Tを前後から挟み込むように設けられており、大腿部Tの前面に当たるフロントサポート板22Fの方が後面に当たるリアサポート板22Rに比して縦長に形成され、且つリアサポート板22Rの方がフロントサポート板22Fに比して幅広に形成されている。そしてず3に示すように、両サポート板22F・22Rと共に大腿部Tの周囲にウェブベルト25を巻き付け、そのウェブベルト25の端部を例えば平面ファスナを用いて止め付けることにより、大腿部装具3が大腿部Tに固定されるようになっている。
【0013】
ここでリアサポート板22Rは、大腿二頭筋を中心としたハムストリングスに当接し、フロントサポート板22Fは、大腿四頭筋に当接する。リアサポート板22Rは、しゃがんだ時に膝裏と干渉しないように、その下端縁を上方へ持ち上げ、その分だけ、上下寸法を短くしている。通常、体重を支えるのに発揮すべき筋力は、大腿四頭筋がハムストリングスの1.6倍くらい大きいので、フロントサポート板22Fの高さ寸法をより大きくして支持荷重を大きくすると共に、力学的な力の伝達中心を大腿骨と平行にレイアウトすることにより、トルクアーム5からの力の伝達効率を高められる。
【0014】
大腿部Tに当接するパッド23は、シート材を縫製してなる袋体内に合成樹脂製発泡粒子(ビーズ)を充填してなっている。
【0015】
袋体を形成するシート材としては、柔軟性に富み滑り易い材質のものが好ましく、特に容易に保形性が得られる点に鑑み、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン等の熱可塑性合成樹脂が適している。これらの合成樹脂材を繊維化したものを、不織布やニット地もしくは織物の形態として用いると良い。なお、発汗に対する好ましい特性を得るためには吸湿性も重要であるが、このパッド23は、一般的に着衣の上から装着されるので、最低限、高い通気性が得られるように形成することが好ましい。
【0016】
袋体内に充填するビーズは、合成樹脂材を発泡させながら造粒するか、あるいは適度に発泡させた粒径の大きなものを更に粉砕して微粒化することによって容易に得ることができる。その材質としては、例えばポリスチレン、ポリプロピレン等のような分子に極性基がなく、低摩擦なものが好ましい。また、これらの粒径は、過度な微粒であると弾性変形し難いために硬く感じられて装着感が悪くなり、過度に粗粒であると外面に凹凸が目立つようになって外観を損ねるので、一般的には0.2〜2mm程度の範囲が好ましい。
【0017】
袋体内へのビーズの充填量は、過度に少ないと大腿部Tの外表面に対する形状追従性が損なわれるので、ビーズが袋体内で円滑に移動でき、しかも大腿部Tにパッド23を圧接した際に、ビーズの層が過度に薄くなる部分ができない程度の量を充填すれば良い。
【0018】
ごく軽いビーズと言えども非装着時には自重で下方に落ちてしまうので、図3に示したように、袋体内を適宜な数の小部屋に縫製で仕切り、ビーズを適度に分散させると良い。こうすることにより、大腿部装具3を大腿部Tに装着した際に、各小部屋の下方に溜まっていたビーズが装着者の大腿部Tの形状に応じて上方へ移動し、且つ強い圧力が加わる所から弱い所へ流動的に移動するので、パッド23の全体が大腿部Tに均等に密接することとなる。このようにして、屈身時にも両サポート板22F・22Rと大腿部Tとの接触面積が維持され、大腿部に対する圧力が分散されるため、違和感を払拭できる。
【0019】
また、大腿部Tの運動によって大腿部装具3と大腿部Tとの間にズレが生じた場合、パッド23内のビーズ同士が互いに転がり接触しているためにパッド23内をビーズが自由に移動し得る。従って、大腿部Tにパッド23が密着していても、両サポート板22F・22Rと大腿部Tとの間の接触摩擦がビーズの転動によって減少するので、大腿部装具3と大腿部Tとの間の位置ズレが許容される。これにより、大腿部Tの特に内外転運動および内外旋運動が阻害されずに済む。
【0020】
フロントサポート板22Fの内面には、フロントサポート枚22Fと概ね同一形状のバックアップ板26で保持されたエアパッド27が取り付けられている。このエアパッド27は、軟質なエラストマ材で形成された扁平なブリスタ状をなし、図4に示すように、その適所にエアホース28を介してハンドポンプ29が接続されている。これにより、ウェブベルト25を締め付けた後に、ハンドポンプ29でエアパッド27にエアを送り込むことにより、大腿部装具3が大腿部Tにより一層しっかりと結合される。このようにして大腿部装具3は、可撓連結板24及びエアパッド27の弾性を伴って大腿部Tに結合されるようになっている。
【0021】
このエアパッド27による空気ばね作用により、例えば蹲踞姿勢をとった時などの筋肉の隆起に起因した大腿部Tの外表面の変形に対しても、エアパッド27が容易に大変位し得る上、必要に応じてエアを出し入れすることで締め付け力を容易に調節することができるので、高い装着性を維持することができる。しかも簡単な構造で大きな寸法差に追従し得るので、例えばS、M、Lなど、幾つかのサイズ違いを用意しておけば、万人の体格に対応可能となる。従って、大量生産が可能となるので、従来の使用者の体格に合わせた一品製作に比して、製造コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】大腿部装具の上面図である。
【図3】大腿部装具の斜視図である。
【図4】大腿部装具の前部サポートの斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 歩行補助装置
3 大腿部装具
4 アクチュエータ
5 トルクアーム
22F・22R サポート板
23 パッド
24 可撓連結板
27 エアパッド
T 大腿部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下肢の運動に補助力を与えるべく腰部に装着された動力発生装置の駆動軸から延出された補助力伝達アームの端部を大腿部に固定するための歩行補助装置用大腿部装具であって、
当該大腿部装具の大腿部との接触部に、空気充填手段を備えたパッドを介設したことを特徴とする歩行補助装置用大腿部装具。
【請求項2】
当該大腿部装具は、大腿部の前面に当たるサポート板と、大腿部の後面に当たるサポート板とを有し、これら両サポート板は、前記補助力伝達アームの端部に取り付けられたステーに板ばねを介して結合されることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置用大腿部装具。
【請求項3】
当該大腿部装具の大腿部表面との接触部に半流動体を充填したパッドを介設したことを特徴とする歩行補助装置用大腿部装具。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下肢の運動に補助力を与えるべく腰部に装着された動力発生装置の駆動軸から延出された補助力伝達アームの端部を大腿部に固定するための歩行補助装置用大腿部装具であって、
当該大腿部装具が、前記大腿部を少なくとも部分的に外囲するステーと、
前記大腿部の前面に対向するように前記ステーに取り付けられたフロントサポート板と、
前記大腿部の後面に対向するように前記ステーに取り付けられたリアサポート板と、
前記フロント、リア両サポート板の前記大腿部との接触部に介設された空気充填手段を備えたパッドとを有することを特徴とする歩行補助装置用大腿部装具。
【請求項2】
前記フロントサポート板と前記リアサポート板とは、前記ステーに板ばねを介して結合されることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置用大腿部装具。
【請求項3】
当該大腿部装具の大腿部表面との接触部に半流動体を充填したパッドを介設したことを特徴とする歩行補助装置用大腿部装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−320350(P2006−320350A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143423(P2005−143423)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000139399)株式会社ワコールホールディングス (26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)