説明

歩行補助装置

【課題】様々な状況において歩行者の歩行を好適に補助することが可能な手押し車型の歩行補助装置を提供する。
【解決手段】歩行補助装置は、歩行者が把持可能な高さで路面に対して水平に延設されるハンドル21と、ハンドルから歩行者の前側の斜め下方に向けて路面近傍まで延びるメインフレーム14L,14Rと、メインフレームの途中部分から歩行者付近の路面に向けて路面近傍まで延びるサブフレームサブフレームと、メインフレームに対してサブフレームを回動自在に連結するジョイント18L,18Rと、ジョイントから吊り下げられた電源ユニット22と、電源ユニットから電力により駆動される前側車輪20FL,20FRおよび後側車輪20RL,20RRと、前側車輪および後側車輪のそれぞれを制御するためのコントローラ12dと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者の歩行を補助するための歩行補助装置、特に手押し車型の歩行補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来文献(特許文献1‐3)には、手押し車型の歩行補助装置の一例が示されている。
【特許文献1】特許第3156367号
【特許文献2】特開平10‐216183号公報
【特許文献3】特許第3480095号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
手押し車型の歩行補助装置は、比較的にコンパクトであり取り回し性は良い。しかし、歩行補助装置が利用される状況は様々である。例えば、歩行補助装置は、傾斜する路面において歩行者の歩行を補助する場合がある。また例えば、歩行補助装置は、段差や階段において歩行者の歩行を補助する場合がある。また、歩行補助装置は、歩行者が転倒しそうになった状況にも対処する必要がある。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、様々な状況において歩行者の歩行を好適に補助することが可能な手押し車型の歩行補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明に係る歩行補助装置は、歩行者が把持可能な高さで路面に対して水平に延設されるハンドルと、ハンドルから歩行者の前側の斜め下方に向けて路面近傍まで延びるメインフレームと、メインフレームの途中部分から歩行者付近の路面に向けて路面近傍まで延びるサブフレームと、メインフレームの途中部分に設けられ、メインフレームに対してサブフレームを回動自在に連結するジョイントと、ジョイントから吊り下げられた電源ユニットと、メインフレームの路面近傍の下端に設けられ、電源ユニットから電力により駆動される前側車輪と、サブフレームの路面近傍の下端に設けられ、電源ユニットから電力により駆動される後側車輪と、前側車輪および後側車輪のそれぞれを制御するためのコントローラと、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る歩行補助装置によれば、歩行者が把持可能な高さにハンドルが設けられており、ハンドルから斜め下方に延びるメインフレームの下端には前側車輪が設けられており、メインフレームの途中部分から延びるサブフレームの下端には後側車輪が設けられている。このような歩行補助装置の基本的構成により、歩行者はハンドルを把持して歩行補助装置に寄り掛かりながら歩行することができるため、歩行補助装置は歩行者の歩行を補助することができる。そして、本発明に係る歩行補助装置によれば、メインフレームの途中部分に設けられたジョイントにより、メインフレームに対してサブフレームが回動自在とされており、また、メインフレームおよびサブフレームの下端に設けられた車輪が電力の供給を受けて駆動される。このような歩行補助装置の構成により、歩行補助装置は、様々な状況において歩行者の歩行を好適に補助することができる。
【0007】
また、本発明に係る歩行補助装置は、コントローラは、前側車輪と後側車輪との相対距離を調節することで、ハンドルの路面からの高さを調節することが好ましい。この構成によれば、歩行者の持ちやすい高さに、ハンドルの路面からの高さを調節することができる。
【0008】
また、本発明に係る歩行補助装置は、前側車輪は左前車輪および右前車輪を含み、後側車輪は左後車輪および右後車輪を含み、コントローラは、左前車輪と左後車輪の相対距離、右前車輪と右後車輪の相対距離をそれぞれ独立して制御することで、歩行補助装置の左右方向の傾きを調節することが好ましい。この構成によれば、歩行補助装置の左右方向の傾きを調節することで、例えば左右に傾斜した不安定な路面においても、歩行補助装置を安定させることができる。
【0009】
また、本発明に係る歩行補助装置は、歩行者がハンドルに与える押力を検出する押力センサを、さらに備え、コントローラは、押力センサにより検出される押力に基づいて、歩行者がハンドルに与える押力を略一定とするように前側車輪および後側車輪を制御することが好ましい。この構成によれば、歩行者がハンドルに与える押力を略一定とするため、歩行者の姿勢を安定させることができると共に、歩行者の使い心地を向上することができる。
【0010】
また、本発明に係る歩行補助装置は、路面の勾配を検出する勾配センサを、さらに備え、コントローラは、勾配センサにより検出される勾配に基づいて、歩行者がハンドルに与える押力を略一定とするための押力閾値範囲を変更し、前側車輪および後側車輪を制御することが好ましい。この構成によれば、路面が下り坂である場合に、歩行者がハンドルに与える押力を大きくするため、歩行者は歩行補助装置により大きな力で寄り掛かりながら安全に下り坂を歩行することができる。
【0011】
また、本発明に係る歩行補助装置は、ジョイントに両端が固定され、歩行者の腰部に掛けられるサポート帯を、さらに備えることが好ましい。この構成によれば、上り坂を登っている時の歩行者の負担を軽減することができる。
【0012】
また、本発明に係る歩行補助装置において、コントローラはハンドルに設けられていることが好ましい。この構成によれば、コントローラがハンドルに設けられているため、歩行者が歩行補助装置を操作しやすくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る歩行補助装置は、メインフレームに対してサブフレームがなす角度αを検出する第1角度センサと、メインフレームに対して電源ユニットがなす角度γを検出する第2角度センサと、を備え、コントローラは、第1角度センサおよび第2角度センサにより検出された角度α,βに基づいて、歩行補助装置の姿勢を認識することが好ましい。この構成によれば、歩行補助装置の姿勢を認識して、歩行補助装置の制御に利用することができる。
【0014】
また、本発明に係る歩行補助装置において、コントローラは、歩行補助装置の姿勢の認識結果に基づいて、歩行補助装置が段差または階段を乗り越えることができるか否かを判定することが好ましい。この構成によれば、歩行補助装置が段差または階段を乗り越えることができるか否かを判定するため、歩行補助装置が段差または階段を通過できるか否かを判断することができる。
【0015】
また、本発明に係る歩行補助装置において、コントローラは、歩行補助装置の姿勢の認識結果に基づいて、段差または階段の形状を演算することが好ましい。この構成によれば、歩行補助装置が段差または階段の形状を演算するため、歩行補助装置が段差または階段を通過できるか否かを判断することができる。
【0016】
また、本発明に係る歩行補助装置において、コントローラは、ジョイントに作用するトルクに基づいて、前側車輪または後側車輪が段差または階段に接触したことを判定することが好ましい。この構成によれば、ジョイントに作用するトルクに基づいて段差または階段に接触したことを判定するため、段差または階段を高精度で検出することができる。
【0017】
また、本発明に係る歩行補助装置は、メインフレームは、ハンドルからジョイントまでの上側部分と、ジョイントよりも下側の下側部分とに分離されており、上側部分が下側部分から独立してジョイントを中心に回動自在に構成されており、コントローラは、歩行者の後方への転倒を判定した場合に、メインフレームおよび電源ユニットを一体として、ジョイントを中心として、電源ユニットを前方に、メインフレームの上側部分を後方に回動させることが好ましい。この構成によれば、歩行者が後方に転倒しそうになった場合に、電源ユニットの慣性力を利用して、歩行者の転倒を防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る歩行補助装置は、コントローラは、歩行者の後方への転倒を判定した場合に、サブフレームを後側に回動させることが好ましい。この構成によれば、歩行者が後方に転倒しそうになった場合に、サブフレームを後側に回動させることにより歩行補助装置を安定させるため、歩行者の転倒をより確実に防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る歩行補助装置は、歩行者がハンドルに与える力を検出する押力センサと、をさらに備え、コントローラは、押力センサにより検出される力に基づいて、歩行者の後方への転倒を判定することが好ましい。この構成によれば、歩行者がハンドルに与える力に基づいて、歩行者の後方への転倒を確実に判定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、様々な状況において歩行者の歩行を好適に補助することが可能な手押し車型の歩行補助装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素または同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0022】
(第1実施形態)
図1および図2は、第1実施形態に係る歩行補助装置10の外観を示している。また、図3は、第1実施形態に係る歩行補助装置10のブロック図を示している。図1、図2および図3を参照して、第1実施形態に係る歩行補助装置10の構成を説明する。
【0023】
歩行補助装置10は手押し車型であり、ハンドル12、メインフレーム14L,14R、サブフレーム16L,16R、ジョイント18L,18R、電源ユニット22および車輪20FL,20FR,20RL,20RRにより構成されている。図2に示されるように、歩行補助装置10は、歩行者が歩行補助装置10を手前に配置して、歩行補助装置10の上端に配置されるハンドル12を持つことにより、歩行補助装置10が歩行者を支持し、歩行者の歩行を補助するように構成されている。
【0024】
歩行補助装置10のハンドル12は、歩行者の胸部手前の把持可能な高さにおいて、路面に対して左右方向に水平に延設されている。ハンドル12には、歩行者が歩行補助装置10を制御するための複数のスイッチ類12a,12b,12c(階段モードスイッチ12a、使用開始/終了スイッチ12bなど)が設けられている。また、ハンドル12の内部には、スイッチ類12a,12b,12cからの信号を取り込んで歩行補助装置10の動作を制御するためのコントローラ12dが設けられている。また、ハンドル12の内部には、歩行者がハンドル12を押す力を検出するための押力センサ26が設けられている。
【0025】
一対のメインフレーム14L,14Rは、ハンドル12の両端から歩行者の前側の斜め下方に向けて延びている。一対のメインフレーム14L,14Rは、ハンドル12の左端から延びる左側のメインフレーム14Lと、ハンドル12の右端から延びる右側のメインフレーム14Rとからなる。各メインフレーム14L,14Rは路面近傍まで延びており、各メインフレーム14L,14Rの先端には前側車輪20FL,20FRが回転自在に取り付けられている。
【0026】
一対のサブフレーム16L,16Rは、左側メインフレーム14Lから延びる左側サブフレーム16Lと、右側メインフレーム14Rから延びる右側サブフレーム16Rとからなる。一対のサブフレーム16L,16Rは、メインフレーム14L,14Rの途中部分から斜め下方に向けて延びている。より詳しく説明すると、一対のサブフレーム16L,16Rは、メインフレーム14L,14Rの途中部分に設けられたジョイント18L,18Rから、歩行者付近の路面に向けて延びている。各サブフレーム16L,16Rは路面近傍まで延びており、各サブフレーム16L,16Rの先端には後側車輪20RL,20RRが取り付けられている。
【0027】
メインフレーム14L,14Rおよびサブフレーム16L,16Rに取り付けられた車輪20FL,20FR,20RL,20RRのそれぞれは、車輪20FL,20FR,20RL,20RRに駆動力または制動力を付与するためのモータを内蔵するインホイールモータユニットである。このインホイールモータユニット20FL,20FR,20RL,20RRは、コントローラ12dによりそれぞれ独立して制御可能である。すなわち、このインホイールモータユニット20FL,20FR,20RL,20RRのそれぞれは、電源ユニット22から電力の供給を受けて、コントローラ12dからの制御指令に応じて駆動力または制動力を出力する。
【0028】
メインフレーム14L,14Rの途中部分に設けられたジョイント18L,18Rは、メインフレーム14L,14Rに対してサブフレーム16L,16Rを回動自在に連結する。ジョイント18L,18Rには、サブフレーム16L,16Rの回動角度を調節するためのジョイントアクチュエータ19L,19Rが内蔵されている。このジョイントアクチュエータ19L,19Rは、コントローラ12dによりそれぞれ独立して制御可能である。すなわち、このジョイントアクチュエータ19L,19Rのそれぞれは、電源ユニット22から電力の供給を受けて、コントローラ12dからの制御指令に応じてサブフレーム16L,16Rを回動する。なお、このジョイントアクチュエータ19L,19Rのそれぞれは、メインフレーム14L,14Rに対するサブフレーム16L,16Rの回動角度αを検出するためのフレーム角センサ30L,30Rを有している。
【0029】
ジョイント18L,18Rは、メインフレーム14L,14Rに固定された軸受を用いてサブフレーム16L,16Rを軸支しており、メインフレーム14L,14Rに対してサブフレーム16L,16Rを回動可能としている。但し、ジョイント18L,18Rは、メインフレーム14L,14Rの一部でサブフレーム16L,16Rを回動可能にすればよいため、例えば、メインフレーム14L,14Rとサブフレーム16L,16Rとの間にゴム製のブッシュを介装した簡素化された構造としてもよい。これにより、歩行補助装置10を軽量で安価に構成することができる。
【0030】
電源ユニット22は、ジョイント18L,18Rから吊り下げられている。左側のジョイント18L,18Rにはフレキシブルな1本の吊下げバンド24Lが掛けられており、吊下げバンド24Lの一端は電源ユニット22の左前端に固定され、吊下げバンドの他端は電源ユニット22の左後端に固定されている。また、右側のジョイント18L,18Rにはフレキシブルな1本の吊下げバンド24Rが掛けられており、吊下げバンド24Rの一端は電源ユニット22の右前端に固定され、吊下げバンド24Rの他端は電源ユニット22の右後端に固定されている。電源ユニット22はジョイント18L,18Rから吊り下げられているため、電源ユニット22の重心は常にジョイント18L,18Rの真下となる。
【0031】
吊下げバンド24L,24Rがジョイント18L,18Rから回動自在に吊り下げられているため、歩行補助装置10が傾斜した場合にはジョイント18L,18Rに対して電源ユニット22は回動する。メインフレーム14L,14Rの内部には、電源ユニット22および吊下げバンド24L,24Rの回動角度γを検出するための吊下げ角センサ32が設けられている。このセンサは、路面の勾配を検出するための勾配センサである。
【0032】
上述した歩行補助装置10によれば、図4に示されるように、メインフレーム14L,14Rに対してサブフレーム16L,16Rを回動することにより、ハンドル12を歩行者の握りやすい高さに調節することができる。すなわち、歩行補助装置10が平面を移動する場合に限らず、歩行補助装置10が上り坂や下り坂を移動する場合にも、コントローラ12dが、ジョイントアクチュエータ19L,19Rおよびインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御して、歩行補助装置10の姿勢変化を補正するように、ハンドル12を歩行者の握りやすい高さに調節する。
【0033】
また、歩行者が椅子等に座った状態から立ち上がる際には、メインフレーム14L,14Rに対してサブフレーム16L,16Rを回動することにより、歩行者の立ち上がり動作を補助することができる。すなわち、コントローラ12dが、ジョイントアクチュエータ19L,19Rおよびインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御して、歩行者の立ち上がり動作に合わせてハンドル12の高さを高くする。これにより、歩行者を持ち上げるようにハンドル12が力を作用するため、歩行者の立ち上がり動作を補助することができる。
【0034】
また、歩行者が歩行補助装置10の使用を終了する際には、歩行者により終了スイッチ12bが押されることに応じて、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRおよび後側車輪20RL,20RRが接触するようにジョイントアクチュエータ19L,19Rおよびインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御して、歩行補助装置10を自動的に折り畳む。これにより、歩行補助装置10の使用終了後に、歩行者は歩行補助装置10を収納スペースに収納することができる。
【0035】
また、上述した歩行補助装置10によれば、図5に示されるように、メインフレーム14L,14Rに対して左側サブフレーム16L,16Rと右側サブフレーム16L,16Rを独立して回動することにより、左前輪20FLから左後輪20RLまでの距離と右前輪20RLから右後輪20RRまでの距離とを異なる距離にして、歩行補助装置10を左右方向に傾斜させる。例えば、歩行補助装置10が左右方向に傾斜する路面を移動する場合に、コントローラ12dが、ジョイントアクチュエータ19L,19Rおよびインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御して、路面山側の前輪から後輪までの距離を長くすると共に、路面谷側の前輪から後輪までの距離を短くする。これにより、ジョイント18L,18Rから吊り下げられた電源ユニット22の重心位置は路面山側に寄るため、各車輪20FL,20FR,20RL,20RRにより均等に荷重が作用するように調節され、歩行補助装置10の安定性を向上させることができる。
【0036】
図6は、本実施形態に係る歩行補助装置10の制御方法のフローチャートを示している。図6の制御方法は、歩行者の使い心地を向上するために、歩行補助装置10が歩行者に与える力を一定に制御することを目的としている。
【0037】
ステップ601において、コントローラ12dは、押力センサ26の検出値を取り込む。次に、ステップ602において、コントローラ12dは、押力センサ26の検出値に応じた目標速度を設定する。ここで、目標速度は、歩行補助装置10から歩行者に適度な反力を与えて、歩行者が歩行補助装置10に適度に寄り掛かることができる程度に設定される。目標速度は、押力センサ26により検出される押力が大きいほど大きな値が設定され、押力センサ26により検出される押力が小さいほど小さな値が設定される。コントローラ12dは、歩行補助装置10が目標速度で移動するようにインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御する。
【0038】
次に、ステップ603において、歩行補助装置10を目標速度で移動させている際に、コントローラ12dは、歩行者による押力が予め設定された押力閾値範囲(上限値および下限値からなる閾値)を超えて変化したか否かを継続的に判定する。ここで、コントローラ12dは、歩行者による押力が押力上限値を超えて増加している場合には、ステップ602に戻って目標速度を増大した値に設定し直す。これにより、歩行補助装置10の移動速度が上昇するため、歩行者が歩行補助装置10に付与する押力を略一定に保つことができる。また、コントローラ12dは、歩行者による押力が押力下限値を下回って減少している場合には、ステップ602に戻って目標速度を減少した値に設定し直す。これにより、歩行補助装置10の移動速度が低下するため、歩行者が歩行補助装置10に付与する押力を略一定に保つことができる。
【0039】
一方、コントローラ12dは、歩行者による押力が押力上限値を超えて変化していない場合には、ステップ604に進んで、歩行補助装置10が目標速度で進むようにインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御する。ここで、コントローラ12dは、歩行補助装置10の速度が目標速度を超えている場合には、インホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRの回転速度を下降させて、歩行補助装置10の速度を目標速度に一致させる。また、コントローラ12dは、歩行補助装置10の速度が目標速度に満たない場合には、インホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRの回転速度を上昇させて、歩行補助装置10の速度を目標速度に一致させる。
【0040】
上記の歩行補助装置10の制御方法によれば、歩行者の押力に応じて歩行補助装置10の目標速度を設定することで、歩行者が歩行補助装置10に与える押力、言い換えれば、歩行補助装置10が歩行者に与える反力を略一定にする。このため、歩行者は歩行補助装置10に一定押力で寄り掛かることができるため、歩行者の姿勢を安定させることができると共に、歩行者の使い心地を向上することができる。
【0041】
図7は、本実施形態に係る歩行補助装置10の応用的な制御方法のフローチャートを示している。図7の制御方法は、路面が傾斜している場合において、歩行者を安全性を維持することを目的としている。
【0042】
ステップ701において、コントローラ12dは、押力センサ26の検出値を取り込む。また、ステップ702において、コントローラ12dは、吊下げ角センサ(勾配センサ)32の検出値を取り込む。次に、ステップ703において、コントローラ12dは、吊下げ角センサ(勾配センサ)32の検出値に基づいて、路面の下り勾配が予め設定された下り勾配閾値を超えるか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、路面の下り勾配が予め設定された下り勾配閾値を超えることを判定した場合には、ステップ704の処理に進み、歩行者がハンドルに与える押力を略一定とするための上記の押力閾値範囲を上昇させる。
【0043】
次に、ステップ705において、コントローラ12dは、歩行補助装置10が目標速度で進んでいるか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、歩行補助装置10が目標速度よりも速い速度で進んでいる場合には、ステップ704に戻って押力閾値範囲の上限値および下限値を共に上昇させる。この処理により、歩行者が歩行補助装置10から受ける反力が大きくなるため、歩行者の歩行速度を低下させて、歩行者の歩行速度を目標速度に近づけることができる。コントローラ12dは、歩行補助装置10が目標速度で進んでいる場合には、ステップ706の処理に進み、歩行補助装置10が目標速度で進むようにインホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRを制御する。
【0044】
上記に説明した歩行補助装置10の制御方法によれば、路面が下り坂である場合に、歩行者が歩行補助装置10から受ける反力を大きくするため、歩行者は歩行補助装置10により大きな力で寄り掛かりながら安全に下り坂を歩行することができる。
【0045】
図8は、本実施形態に係る歩行補助装置10の応用的な利用方法を提示している。この歩行補助装置10では、1本のサポート帯36の一端が左側のジョイント18Lに固定されており、サポート帯36の他端が右側のジョイント18Rに固定されている。そして、歩行補助装置10の利用時には、サポート帯36の中間部分が歩行者の腰部に掛けられる。これにより、インホイールモータ20FL,20FR,20RL,20RRの駆動力を歩行者に伝達して、上り坂を登っている時の歩行者の負担を軽減することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、図9〜図18を参照して、第2実施形態に係る歩行補助装置10について説明する。
【0047】
第2実施形態に係る歩行補助装置10は、歩行補助装置10の姿勢を認識する姿勢認識機能と、認識された歩行補助装置10の姿勢を利用して段差(階段)の形状を演算する段差形状演算機能と、演算された段差の形状に基づいて段差を上がることができるか否かを判定する判定機能と、を有する。以下に、歩行補助装置10の上記各機能について説明する。
【0048】
先ず、図9を参照して、歩行補助装置10の各部の寸法について説明する。
Lh ・・・ メインフレームのハンドルからジョイントまでの長さ
Lf ・・・ メインフレームのジョイントから前輪中心までの長さ
Lr ・・・ サブフレームのジョイントから後輪中心までの長さ
rf ・・・ 前輪半径
rr ・・・ 後輪半径
Lx ・・・ 前輪中心から後輪中心までの水平距離
Lx0・・・ 標準状態における前輪中心から後輪中心までの水平距離
Lz ・・・ 前輪中心から後輪中心までの鉛直距離
Lz0・・・ 標準状態における前輪中心から後輪中心までの鉛直距離
α ・・・ メインフレームとサブフレームとがなす角度
β ・・・ ジョイントおよび電源重心Gを通る直線がサブフレームとなす角度
γ ・・・ ジョイントおよび電源重心Gを通る直線がメインフレームとなす角度
なお、歩行補助装置10の標準状態とは、歩行補助装置10が平面路で歩行者の歩行を補助する状態であって、歩行補助装置10の特殊な機能が作動していない状態のことである。
【0049】
次に、図10を参照して、段差または階段の寸法の定義について説明する。
hn ・・・ n段目の段差高さ
dn ・・・ n段目の段差奥行長さ
なお、以下の説明において、「段差」とは、標準状態における歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)以上の奥行長さを持つ段差のことであり、「階段」とは、標準状態における歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)未満の奥行長さを持つ段差のことである。
【0050】
図11を参照して、歩行補助装置10の姿勢認識方法について説明する。本実施形態では、歩行補助装置10の姿勢として、角度β、車輪間水平距離Lx、および車輪間鉛直距離Lzを演算する。
β = α−γ
Lx = Lfsinγ+Lrsinβ
Lz = Lrcosβ−Lfcosγ
ここで、αはフレーム角センサ30L,30Rの検出値、γは吊下げ角センサ32の検出値、LfおよびLrは既知の値である。
【0051】
また図11を参照して、段差または階段の形状の演算方法について説明する。本実施形態では、段差または階段の形状として、段差高さhnおよび段差奥行長さdnを演算する。
hn = Lrcosβ−Lfcosγ+rr−rf = Lz−Lz0
dn = Lrsinβ+Lfsinγ+rf−rr = Lx+rf−rr
ここで、αはフレーム角センサ30L,30Rの検出値、γは吊下げ角センサ32の検出値、Lf,Lr,rfおよびrrは既知の値である。
【0052】
さらに図11を参照して、歩行補助装置10の段差上りの可否を判定する判定方法について説明する。本実施形態では、歩行補助装置10は、前側車輪20FL,20FRについて段差上りの可否を判定する機能と、後側車輪20RL,20RRについて段差上りの可否を判定する機能を有する。
【0053】
歩行補助装置10の前側車輪20FL,20FRについては、歩行補助装置10が傾いた状態において、角度βが最小許容角度βminより小さいか否かを判定する。角度βが最小許容角度βminより小さい場合には、歩行補助装置10が不安定状態となるため段差上りが不可能であることを判定する。一方、角度βが最小許容角度βminより大きい場合には、歩行補助装置10は安定状態であるため段差上りが可能であることを判定する。
【0054】
歩行補助装置10の後側車輪20RL,20RRについては、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の段差壁面に接触し、後側車輪20RL,20RRがn段目の段差壁面に接触した状態において、段差奥行長さdnが最小許容長さdminより小さいか否かを判定する。段差奥行長さdnが最小許容長さdminより小さい場合には、歩行補助装置10が不安定状態となるため段差上りが不可能であることを判定する。一方、段差奥行長さdnが最小許容長さdminより大きい場合には、歩行補助装置10は安定状態であるため段差上りが可能であることを判定する。
【0055】
次に、図12〜図18を参照して、歩行補助装置10の処理について説明する。図12は、歩行補助装置10の処理の概略を示している。
【0056】
図12に示されるように、ステップ1201において、コントローラ12dは、ジョイントアクチュエータ19L,19Rの出力トルクに基づいて、歩行補助装置10が段差または階段に衝突したことを判定する。すなわち、図13に示されるように、歩行補助装置10が段差または階段に衝突した時には、段差または階段から前側車輪20FL,20FRが受ける反力により、ジョイント18L,18Rに作用するトルクが急激に上昇するため、フレームアングルを一定に保持するために必要なジョイントアクチュエータ19L,19Rの出力トルクが急増する。コントローラ12dは、このジョイントアクチュエータ19L,19Rの出力トルクの急増を検出して、歩行補助装置10が段差または階段に衝突したことを判定する。
【0057】
ステップ1202において、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRが段差を上がることができるか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRが段差を上がることができる場合には、前側車輪20FL,20FRが段差を上がるように歩行補助装置10を制御する。一方、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRが段差を上がることができない場合には、処理を終了する。
【0058】
ステップ1203において、コントローラ12dは、前方の路面形状が段差または階段のいずれであるかを判定する。コントローラ12dは、前方の路面形状が階段である場合にステップ1204に進み、後側車輪20RL,20RRが階段を上がることができるか否かを判定する。コントローラ12dは、後側車輪20RL,20RRが階段を上がることができる場合にはステップ1205に進み、階段を上がる。一方、コントローラ12dは、後側車輪20RL,20RRが階段を上がることができない場合には、処理を終了する。
【0059】
ステップ1203において、コントローラ12dは、前方の路面形状が段差であることを判定した場合にはステップ1206に進む。ステップ1206において、コントローラ12dは、後側車輪20RL,20RRが段差を上がるように歩行補助装置10を制御する。
【0060】
次に、上記のステップ1202、ステップ1203およびステップ1204の処理について、より詳細に説明する。ステップ1202の詳細な処理を図14に示し、ステップ1203の詳細な処理を図17に示し、ステップ1204の詳細な処理を図18に示す。
【0061】
ステップ1201において段差(階段)を検出した場合には、コントローラ12dは、図14に示されるステップ1401の処理に進み、歩行補助装置10をその場で停止させる。ステップ1402において、コントローラ12dは、歩行者によりコントローラ12dの階段モードスイッチ12aが押されたか否かを判定する。歩行者によりコントローラ12dの階段モードスイッチ12aが押されると、コントローラ12dは、ステップ1403の処理に進み、前側車輪20FL,20FRが前進するように前側インホイールモータ20FL,20FRを駆動制御すると共に、後側車輪20RL,20RRが停止するように後側インホイールモータ20RL,20RRを制動制御する。この制御により、歩行補助装置10の前側車輪20FL,20FRは段差(階段)の壁面を上がって行く。
【0062】
ステップ1404において、歩行補助装置10の前側車輪20FL,20FRが壁面を上がる最中に、コントローラ12dは、角度βおよび鉛直距離Lzを繰り返し演算する。そして、ステップ1405において、コントローラ12dは、角度βが最小許容角度βminを超えているか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、図15に示されるように角度βが最小許容角度βminより小さいことを判定した場合には、ステップ1408の処理に進み、前側車輪20FL,20FRの段差(階段)上がりを不可能と判定する。
【0063】
一方、コントローラ12dは、角度βが最小許容角度βminより大きいことを判定した場合には、ステップ1406の処理に進み、鉛直距離Lzの微分値d/d(Lz)を演算し、鉛直距離Lzの微分値がほぼ0であるか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、鉛直距離Lzの微分値がほぼ0である場合には、図16に示されるように前側車輪20FL,20FRは段差(階段)を上がった状態であるため、前側車輪20FL,20FRの段差(階段)上がりを可能と判定する。一方、コントローラ12dは、鉛直距離Lzの微分値が0より大きい場合には、前側車輪20FL,20FRは未だ段差(階段)を上がっている途中であるため、ステップ1403の処理に戻って、前側車輪20FL,20FRの段差(階段)上がりを継続する。
【0064】
図17は、図12のステップ1203の処理を示している。ステップ1701において、前側車輪20FL,20FRがn段目にあり後側車輪20RL,20RRがn−1段目にある状態で、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRおよび後側車輪20RL,20RRが同一速度で前進するように前側インホイールモータ20FL,20FRおよび後側インホイールモータ20RL,20RRを駆動制御する。ステップ1702において、コントローラ12dは、n段目の壁面高さhnを演算する。
【0065】
ステップ1703において、コントローラ12dは、ジョイントアクチュエータ19L,19Rの出力トルクに基づいて、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の壁面に接触するのが先か、または後側車輪20RL,20RRがn段目の壁面に接触するのが先かを判定する。ここで、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の壁面に接触するのが先である場合には、ステップ1704の処理に進み、後側車輪20RL,20RRがn段目の壁面に接触するのが先である場合には、ステップ1714の処理に進む。
【0066】
ステップ1704において、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRが停止するように前側インホイールモータ20FL,20FRを制動制御すると共に、後側車輪20RL,20RRが前進するように後側インホイールモータ20RL,20RRを駆動制御する。この制御により、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の壁面に接触した状態で、後側車輪20RL,20RRがn段目の壁面に近づいて行く。ステップ1705において、コントローラ12dは、後側車輪20RL,20RRがn段目の壁面に近づいて行く途中で、角度βが最小許容角度βminより大きいか否かを繰り返し判定する。ここで、コントローラ12dは、角度βが最小許容角度βminより小さい場合にはステップ1706の処理に進み、角度βが最小許容角度βminより大きい場合にはステップ1708の処理に進む。
【0067】
ステップ1706において、角度βが最小許容角度βminより小さく歩行補助装置10が不安定であるため、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRおよび後側車輪20RL,20RRが停止するように前側インホイールモータ20FL,20FRおよび後側インホイールモータ20RL,20RRを制動制御する。そして、ステップ1707において、コントローラ12dは、歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)未満の奥行長さを持つ「階段」であることを判定する。
【0068】
ステップ1708において、コントローラ12dは、ジョイントアクチュエータ19L,19Rの出力トルクに基づいて、後側車輪20RL,20RRがn段目の壁面に接触したことを認識する。ステップ1709において、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRおよび後側車輪20RL,20RRが停止するように前側インホイールモータ20FL,20FRおよび後側インホイールモータ20RL,20RRを制動制御する。そして、ステップ1710において、コントローラ12dは、n段目の奥行長さdnを算出する。
【0069】
ステップ1711において、コントローラ12dは、n段目の奥行長さdnが標準状態における歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)より小さいか否かを判定する。ここで、n段目の奥行長さdnが標準状態における歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)より小さい場合には、コントローラ12dは、ステップ1712の処理に進み、歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)未満の奥行長さを持つ「階段」であることを判定する。一方、n段目の奥行長さdnが標準状態における歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)より大きい場合には、コントローラ12dは、ステップ1713の処理に進み、歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)以上の奥行長さを持つ「段差」であることを判定する。
【0070】
前述した処理に戻って、ステップ1703からステップ1714に進んだ場合には、ステップ1714において、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRが前進するように前側インホイールモータ20FL,20FRを駆動制御すると共に、後側車輪20RL,20RRが停止するように後側インホイールモータ20RL,20RRを制動制御する。この制御により、後側車輪20RL,20RRがn段目の壁面に接触した状態で、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の壁面に近づいて行く。ステップ1715において、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の壁面に近づいて行く途中で、水平距離Lxを繰り返し演算する。
【0071】
ステップ1716において、コントローラ12dは、水平距離Lxが標準状態の水平距離Lx0より大きいか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、水平距離Lxが水平距離Lx0より小さいことを判定した場合には、ステップ1713の処理に進み、歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)以上の奥行長さを持つ「段差」であることを判定する。
【0072】
一方、コントローラ12dは、水平距離Lxが水平距離Lx0より大きいことを判定した場合には、ステップ1717の処理に進み、ジョイントアクチュエータ19L,19Rの出力トルクに基づいて、前側車輪20FL,20FRがn+1段目の壁面に接触したことを認識する。ステップ1718において、コントローラ12dは、n段目の奥行長さdnを算出する。そして、ステップ1719において、コントローラ12dは、歩行補助装置10の前後長(Lx0+rf+rr)未満の奥行長さを持つ「階段」であることを判定する。
【0073】
図18は、図12のステップ1204の処理を示している。ステップ1801において、コントローラ12dは、n段目の奥行長さdnが最小許容奥行長さdminより大きいか否かを判定する。ここで、コントローラ12dは、n段目の奥行長さdnが最小許容奥行長さdminより大きい場合には、ステップ1802の処理に進み、後側車輪20RL,20RRの階段上がりを可能と判定する。一方、コントローラ12dは、n段目の奥行長さdnが最小許容奥行長さdminより小さい場合には、ステップ1803の処理に進み、後側車輪20RL,20RRの階段上がりを不可能と判定する。
【0074】
上記に説明したように、第2実施形態に係る歩行補助装置によれば、歩行補助装置が段差または階段に差し掛かった場合に、歩行補助装置が段差または階段を上がることができるか否かを判定することで、歩行補助装置を安定状態に維持しつつ歩行者の歩行を補助することができる。
【0075】
(第3実施形態)
次に、図19〜図21を参照して、第3実施形態に係る歩行補助装置10について説明する。
【0076】
歩行者が体勢を崩して後ろに倒れ掛かった場合には、軽量な歩行補助装置10では歩行者を支持することができず、歩行者は転倒してしまう虞がある。この時、歩行補助装置10は歩行者から力を受けて、後側車輪20RL,20RRが接地した状態で前側車輪20FL,20FRが浮き上がり、歩行者と共に転倒してしまう虞がある。このような事態に未然に対処するために、第3実施形態に係る歩行補助装置10は、歩行者が体勢を崩して後ろに倒れ掛かった時に、歩行者および歩行補助装置10の転倒を防止する転倒防止機能を有する。以下に、歩行補助装置10の転倒防止機能について説明する。
【0077】
図19は、歩行者が体勢を崩して後ろに倒れ掛かった時の歩行補助装置10の状態変化を示している。歩行補助装置10の状態は、図19(a)に示される標準的な使用状態から、図19(b)に示される歩行者の転倒に対応した第1使用状態を経由して、図19(c)に示される歩行者の転倒に対応した第2使用状態に変化する。
【0078】
歩行補助装置10は、歩行者の転倒に対応した第1使用状態(図19(b))に変化するために、特殊な構造を有する。歩行補助装置10において、メインフレーム14L,14Rのジョイント18L,18Rよりも上側の部分(以下、メインフレーム上部と呼ぶ)14La,14Raは、標準的な使用状態ではメインフレーム14L,14Rのジョイント18L,18Rよりも下側の部分(以下、メインフレーム下部と呼ぶ)14Lb,14Rbと一体化されている。但し、歩行者の転倒が判定された場合には、コントローラ12dからの制御信号に応じて、メインフレーム上部14La,14Raとメインフレーム下部14Lb,14Rbとのロックが解除されて、メインフレーム上部14La,14Raはメインフレーム下部14Lb,14Rbから分離される。そして、コントローラ12dからの同制御信号に応じて、メインフレーム上部14La,14Raは電源ユニット22の支持部材38とロックされて一体化してから、メインフレーム上部14La,14Raと電源ユニット22が一体化されたものをジョイント18L,18Rに対して回動自由とする。以下、メインフレーム上部14La,14Raと電源ユニット22が一体化されたものを、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体と呼ぶ。
【0079】
歩行者が体勢を崩して後ろに倒れ掛かった場合には、歩行者がハンドル12を後方に引くのに応じて、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体はジョイント18L,18Rを中心に回動する(図19(b)参照)。このとき、電源ユニット22が前方に回動するため、質量の大きな電源ユニット22の回動に応じた慣性反力が瞬時にハンドル12から歩行者に作用することとなる。この慣性反力は歩行者が後ろに倒れるのを抑制し、歩行者の体勢を安定させることができる。
【0080】
また、歩行補助装置10の第1使用状態では、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体がジョイント18L,18Rに対して回動するため、歩行者がハンドル12を引く力は各車輪20FL,20FR,20RL,20RRに伝達することがないため、前側車輪20FL,20FRの浮き上がりを防止して、歩行者および歩行補助装置10の転倒を防止することができる。特に、歩行補助装置10の第1使用状態では、電源ユニット22が前方に移動するため、前側車輪20FL,20FRの接地荷重が増加する。よって、前側車輪20FL,20FRの浮き上がりを防止して、歩行者および歩行補助装置10の転倒を防止することができる。
【0081】
歩行者の転倒に対応した第2使用状態(図19(c))では、歩行補助装置10は、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体をジョイント18L,18Rに固定してから、前側車輪20FL,20FRをブレーキ制御すると共に、後側車輪20RL,20RRを後方に移動させる。これにより、ハンドル12高さが低くなると共に前側車輪20FL,20FRと後側車輪20RL,20RRとの距離が開くため、この結果、歩行者から歩行補助装置10に作用するモーメントを低減して、前側車輪20FL,20FRの浮き上がりを防止し、歩行者および歩行補助装置10の転倒を防止することができる。
【0082】
なお、歩行補助装置10の第2使用状態により前側車輪20FL,20FRの浮き上がりが防止されることは、図20を参照して説明することができる。歩行者がハンドル12を引く力をFとし、前輪中心から後輪中心までの距離をLとし、路面からのハンドル12の高さをHとした場合に、前側車輪20FL,20FRに作用する浮き力Ffは、次の数式で表される。
Ff = H/L×F
この数式によれば、歩行補助装置10の第2使用状態により、ハンドル高さHを小さくし、車輪間距離Lを大きくした場合に、前側車輪20FL,20FRの浮き力Ffが小さくなることが理解できる。
【0083】
次に、図21を参照して、第3実施形態に係る歩行補助装置10の処理について説明する。
【0084】
ステップ2101において、コントローラ12dは、押力センサ26の検出値を取り込む。ステップ2102において、コントローラ12dは、押力センサ26により検出される押力の大きさまたは時間変化率に基づいて、歩行者が後ろに転倒しているのか否かを判定する。ここで、歩行者が後ろに転倒していることが判定される場合には、コントローラ12dはステップ2103の処理に進む。一方、歩行者が後ろに転倒していることが判定されない場合には、コントローラ12dはステップ2101の処理に戻って、歩行者の転倒の判定を繰り返す。
【0085】
ステップ2103において、コントローラ12dは、全ての車輪20FL,20FR,20RL,20RRをブレーキ制御して、歩行補助装置10の位置を固定する。そして、ステップ2104において、コントローラ12dは、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体をジョイント18L,18Rに対して回動自由とする。これにより、ハンドル12から歩行者に慣性反力が作用するため、歩行者の後方への転倒が防止される。
【0086】
ステップ2105において、コントローラ12dは、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体が予め設定された角度閾値以上回動したか否かを判定する。ここで、固定体が角度閾値以上回動していない場合には、コントローラ12dは、ステップ2104の処理に戻って、さらに固定体が回動自由な状態を継続する。一方、固定体が角度閾値以上回動した場合には、コントローラ12dは、ステップ2106の処理に進む。
【0087】
ステップ2106において、コントローラ12dは、メインフレーム上部14La,14Raおよび電源ユニット22の固定体をジョイント18L,18Rに対して固定する。そして、ステップ2107において、コントローラ12dは、前側車輪20FL,20FRをブレーキ制御すると共に、後側車輪20RL,20RRを後方に移動させる。この結果、ハンドル12高さHを低くし、車輪間距離Lを大きくし、前側車輪20FL,20FRの浮き上がりを防止して、歩行者および歩行補助装置10の転倒を防止することができる。
【0088】
ステップ2108において、コントローラ12dは、歩行者が未だ転倒途中であるか否かを判定する。ここで、歩行者が未だ転倒途中である場合には、コントローラ12dは、ステップ2107の処理に戻って、後側車輪20RL,20RRの後方への移動を継続する。一方、歩行者が転倒せずに体勢を持ち直した場合には、コントローラ12dは、ステップ2109の処理に進んで、歩行補助装置10の姿勢を初期位置に戻す。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(第1実施形態)歩行補助装置の外観を示す斜視図である。
【図2】歩行補助装置の外観を示す側面図である。
【図3】歩行補助装置を示すブロック図である。
【図4】歩行補助装置の姿勢変化を示す第1説明図である。
【図5】歩行補助装置の姿勢変化を示す第2説明図である。
【図6】歩行補助装置の速度制御を示すフローチャートである。
【図7】下り坂における歩行補助装置の速度制御を示すフローチャートである。
【図8】上り坂における歩行補助装置の使用方法を示す図である。
【図9】(第2実施形態)歩行補助装置の各部の寸法を示す図である
【図10】段差または階段の寸法を示す図である。
【図11】段差または階段を上る歩行補助装置を示す図である。
【図12】段差または階段における歩行補助装置の移動制御を示すフローチャートである。
【図13】段差または階段の検出方法を説明するための説明図である。
【図14】図12のステップ1202を詳しく説明するフローチャートである。
【図15】段差または階段の通過可否の判定方法を説明するための第1説明図である。
【図16】段差または階段の通過可否の判定方法を説明するための第2説明図である。
【図17】図12のステップ1203を詳しく説明するフローチャートである。
【図18】図12のステップ1204を詳しく説明するフローチャートである。
【図19】(第3実施形態)歩行補助装置の使用状態の変化を示す図である。
【図20】歩行補助装置の転倒し難さを説明するための説明図である。
【図21】歩行補助装置の使用状態制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0090】
10…歩行補助装置、12…ハンドル、12a,12b,12c…スイッチ類、12d…コントローラ、14L,14R…メインフレーム、16L,16R…サブフレーム、18L,18R…ジョイント、19L,19R…ジョイントアクチュエータ、20FL,20FR,20RL,20RR…車輪(インホイールモータユニット)、22…電源ユニット、24L,24R…バンド、26…押力センサ、30L,30R…フレーム角センサ、32…吊下げ角センサ、36…サポート帯、38…支持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者が把持可能な高さで路面に対して水平に延設されるハンドルと、
前記ハンドルから歩行者の前側の斜め下方に向けて路面近傍まで延びるメインフレームと、
前記メインフレームの途中部分から歩行者付近の路面に向けて路面近傍まで延びるサブフレームと、
前記メインフレームの前記途中部分に設けられ、前記メインフレームに対して前記サブフレームを回動自在に連結するジョイントと、
前記ジョイントから吊り下げられた電源ユニットと、
前記メインフレームの路面近傍の下端に設けられ、前記電源ユニットから電力により駆動される前側車輪と、
前記サブフレームの路面近傍の下端に設けられ、前記電源ユニットから電力により駆動される後側車輪と、
前記前側車輪および前記後側車輪のそれぞれを制御するためのコントローラと、
を備えることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記前側車輪と前記後側車輪との相対距離を調節することで、前記ハンドルの路面からの高さを調節することを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項3】
前記前側車輪は左前車輪および右前車輪を含み、前記後側車輪は左後車輪および右後車輪を含み、
前記コントローラは、前記左前車輪と前記左後車輪の相対距離、前記右前車輪と前記右後車輪の相対距離をそれぞれ独立して制御することで、歩行補助装置の左右方向の傾きを調節することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項4】
歩行者がハンドルに与える押力を検出する押力センサを、さらに備え、
前記コントローラは、前記押力センサにより検出される押力に基づいて、歩行者がハンドルに与える押力を略一定とするように前記前側車輪および前記後側車輪を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項5】
路面の勾配を検出する勾配センサを、さらに備え、
前記コントローラは、前記勾配センサにより検出される勾配に基づいて、歩行者がハンドルに与える押力を略一定とするための押力閾値範囲を変更し、前記前側車輪および前記後側車輪を制御することを特徴とする請求項4に記載の歩行補助装置。
【請求項6】
前記ジョイントに両端が固定され、歩行者の腰部に掛けられるサポート帯を、さらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記ハンドルに設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項8】
前記メインフレームに対して前記サブフレームがなす角度αを検出する第1角度センサと、
前記メインフレームに対して前記電源ユニットがなす角度γを検出する第2角度センサと、
を備え、
前記コントローラは、第1角度センサおよび第2角度センサにより検出された角度α,βに基づいて、歩行補助装置の姿勢を認識することを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項9】
前記コントローラは、歩行補助装置の姿勢の認識結果に基づいて、歩行補助装置が段差または階段を乗り越えることができるか否かを判定することを特徴とする請求項8に記載の歩行補助装置。
【請求項10】
前記コントローラは、歩行補助装置の姿勢の認識結果に基づいて、段差または階段の形状を演算することを特徴とする請求項8〜9のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項11】
前記コントローラは、前記ジョイントに作用するトルクに基づいて、前記前側車輪または前記後側車輪が段差または階段に接触したことを判定することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項12】
前記メインフレームは、前記ハンドルから前記ジョイントまでの上側部分と、前記ジョイントよりも下側の下側部分とに分離されており、前記上側部分が前記下側部分から独立して前記ジョイントを中心に回動自在に構成されており、
前記コントローラは、歩行者の後方への転倒を判定した場合に、前記メインフレームおよび前記電源ユニットを一体として、前記ジョイントを中心として、前記電源ユニットを前方に、前記メインフレームの上側部分を後方に回動させることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項13】
前記コントローラは、歩行者の後方への転倒を判定した場合に、前記サブフレームを後側に回動させることを特徴とする請求項12に記載の歩行補助装置。
【請求項14】
歩行者がハンドルに与える力を検出する押力センサと、をさらに備え、
前記コントローラは、前記押力センサにより検出される力に基づいて、歩行者の後方への転倒を判定することを特徴とする請求項12〜13のいずれか1項に記載の歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−119014(P2009−119014A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295782(P2007−295782)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)