説明

歩行補助装置

【課題】 簡単な操作で直進・旋回動作を行うことができる歩行補助装置を提供する。
【解決手段】 歩行補助装置1は、ハンドル部を有するフレーム体の左右両側に設けられた4つの車輪をそれぞれ回転駆動させるインホイールモータ4A〜4Dと、歩行者がハンドル部を握っているかどうかを検出するタッチセンサ10と、コントローラ11とを備えている。コントローラ11は、インホイールモータ4A〜4Dに生じる逆起電力を検出し、この逆起電力に基づいて各車輪の車輪速指令値を求め、その車輪速指令値に応じて各車輪を駆動させるようにインホイールモータ4A〜4Dを制御する。また、コントローラ11は、タッチセンサ10の検出信号に基づいて歩行者がハンドル部を握っていないと判断すると、各車輪を制動させるようにインホイールモータ4A〜4Dを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動モータにより車輪を回転させる手押し車型の歩行補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における手押し車型の歩行補助装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、歩行者によりハンドル部に加えられる力を検出する左右1対の力検出器を設け、各力検出器に生じる力応答差に応じて、曲がる方向と反対側の駆動輪の速度を増すように駆動機構を制御することで、歩行者の曲がりたい方向に旋回させるようにしたものが知られている。
【特許文献1】特許第3156367号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、歩行者の進みたい方向に歩行補助装置が進むようにハンドル部の左右両側に加える力をコントロールすることは、高齢者にとっては操作が複雑で困難であるという問題がある。
【0004】
本発明の目的は、簡単な操作で直進・旋回動作を行うことができる歩行補助装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の歩行補助装置は、歩行者が握るハンドル部を有するフレーム体と、フレーム体の左右両側に設けられた複数の車輪と、各車輪をそれぞれ回転駆動させる複数の駆動モータと、駆動モータに生じる逆起電力を検出し、逆起電力に基づいて駆動モータを制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0006】
このような本発明においては、歩行者がハンドル部を押すことで車輪にトルクがかかると、駆動モータに逆起電力が発生し、この逆起電力が制御手段により検出され、当該逆起電力に基づいて駆動モータが制御されるようになる。例えば右側の車輪にトルクがかかると、右側の車輪を回転駆動させる駆動モータに逆起電力が発生するため、右側の車輪が増速するように駆動モータを制御し、結果的に歩行補助装置が左に旋回するようになる。このように駆動モータに逆起電力が生じることにより歩行補助装置の操作が行われたと判断し、その逆起電力に基づいて駆動モータを制御することにより、歩行者はハンドル部の左右両側に加える力を細かく調節しなくて済む。これにより、簡単な操作で歩行補助装置を直進・旋回させることができる。また、ハンドル部の左右両側に加えられる力を検出する力検出器が不要となるため、歩行補助装置にかかる費用を削減することができる。
【0007】
好ましくは、制御手段は、旋回動作が開始された場合に、旋回外輪側の車輪と旋回内輪側の車輪との車輪速差に応じて旋回外輪側の車輪を減速させると共に車輪速差に応じて旋回内輪側の車輪を増速させるように、駆動モータを制御する。
【0008】
歩行補助装置を旋回させる際に、旋回外輪側の車輪のみを増速させると、歩行補助装置が旋回し続けてしまう。そこで、歩行補助装置の旋回動作が開始された場合には、左右の車輪速差に応じて旋回外輪側の車輪を減速させると共に左右の車輪速差に応じて旋回内輪側の車輪を増速させるようにすることで、歩行補助装置が旋回し続けることが防止され、歩行補助装置の直進性が良くなる。
【0009】
また、好ましくは、歩行者がハンドル部を握っているかどうかを検出する検出手段を更に備え、制御手段は、検出手段により歩行者がハンドル部を握っていることが検出されないときに、車輪を制動させるように駆動モータを制御する。
【0010】
この場合には、歩行補助装置の走行中に歩行者がハンドル部から手を放すと、歩行補助装置が強制的に停止するようになる。また、坂道において歩行者がハンドル部から手を放しても、各車輪が制動したままの状態となるため、駆動モータに生じる逆起電力によって歩行補助装置が動き出すことが防止される。
【0011】
さらに、好ましくは、複数の車輪は、フレーム体の前側及び後側にそれぞれ取り付けられており、制御手段は、前側の車輪を回転駆動させる駆動モータに生じる逆起電力と後側の車輪を回転駆動させる駆動モータに生じる逆起電力との差分が所定値よりも大きいかどうかを判断し、差分が所定値よりも大きいときは、車輪を制動させるように駆動モータを制御する。
【0012】
例えば歩行補助装置が段差や穴部を通過すると、前側の車輪にかかるトルクと後側の車輪にかかるトルクとの差が増大する。そこで、前側の車輪を回転駆動させる駆動モータに生じる逆起電力と後側の車輪を回転駆動させる駆動モータに生じる逆起電力との差分が所定値よりも大きいときは、車輪を制動させるようにすることで、歩行補助装置が段差等を通るときに歩行補助装置を停止させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歩行補助装置によれば、簡単な操作で直進・旋回動作を行うことができる。これにより、特に高齢の歩行者の負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係わる歩行補助装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる歩行補助装置の一実施形態の外観を示す斜視図であり、図2は、図1に示した歩行補助装置の側面図である。各図において、本実施形態の歩行補助装置1は、歩行者の歩行を補助する電動手押し車である。
【0016】
歩行補助装置1は、フレーム体2と、このフレーム体2の左右両側に設けられた車輪3A〜3Dと、各車輪3A〜3Dのホイール内側に取り付けられ、各車輪3A〜3Dをそれぞれ独立に回転駆動させる電動式インホイールモータ4A〜4D(図3参照)と、フレーム体2に取り付けられ、荷物を収容するための荷室を兼ね備えた電源ユニット5とを備えている。
【0017】
フレーム体2は、歩行者が握るハンドル部6と、ハンドル部6の両端から前側斜め下方にそれぞれ延びる1対のメインフレーム7と、各メインフレーム7の略中央部から後側斜め下方にそれぞれ延びる1対のサブフレーム8と、各メインフレーム7に対して各サブフレーム8を回動(開閉)自在にそれぞれ連結する1対のジョイント部9とを有している。
【0018】
各メインフレーム7の下端部には、車輪(前輪)3A,3Bをそれぞれ回転駆動させるインホイールモータ4A,4B(図3参照)が取り付けられている。各サブフレーム8の下端部には、車輪(後輪)3C,3Dをそれぞれ回転駆動させるインホイールモータ4C,4D(図3参照)が取り付けられている。
【0019】
ジョイント部9には、サブフレーム8をメインフレーム7に対して回動させる電動モータ(図示せず)が設けられている。また、ジョイント部9には、上記の電源ユニット5が吊り下げられている。
【0020】
また、歩行補助装置1は、図3に示すように、タッチセンサ10と、インホイールモータ4A〜4D及びタッチセンサ10とそれぞれ接続されたコントローラ11とを更に備えている。タッチセンサ10は、ハンドル部6に設けられ、歩行者がハンドル部6を握っているかどうかを検出する。
【0021】
コントローラ11は、インホイールモータ4A〜4Dに生じる逆起電力を検出すると共に、タッチセンサ10の検出信号を入力し、所定の処理を行い、インホイールモータ4A〜4Dを制御する。なお、コントローラ11は、ハンドル部6に内蔵されていても良いし、電源ユニット5に設けられていても良い。
【0022】
図4は、コントローラ11により実行されるモータ制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。なお、本処理は、歩行補助装置1の停止時及び走行時の何れにおいても実行される。
【0023】
同図において、まずインホイールモータ4A〜4Dに逆起電力が発生したかどうかを判断する(手順S101)。インホイールモータ4A〜4Dに逆起電力が発生したときは、下記式により車輪3A〜3Bの回転速度Vを求め、この回転速度Vをインホイールモータ4A〜4Dに与える車輪速指令値とする(手順S102)。
【数1】


但し、Eはインホイールモータ4A〜4Dに生じる逆起電力(電圧)であり、Aは定数である。
【0024】
具体的には、車輪3A〜3Dにトルクが発生することで、インホイールモータ4A〜4Dに例えば図5(a)に示すような逆起電力(電圧)が生じると、図5(b)に示すように車輪3A〜3Dを増速させるような車輪速指令値を求める。
【0025】
そして、手順S102で得られた車輪速指令値に従って車輪3A〜3Dを回転駆動させるようにインホイールモータ4A〜4Dを制御する(手順S103)。
【0026】
このとき、車輪3A〜3Dにかかるトルクが同等の場合には、インホイールモータ4A〜4Dに生じる逆起電力が同等となるため、インホイールモータ4A〜4Dに与える車輪3A〜3Dの車輪速指令値が同等となり、歩行補助装置1が直進するようになる。
【0027】
また、例えば右側の車輪3B,3Dが強く押されると、インホイールモータ4B,4Dに生じる逆起電力がインホイールモータ4A,4Cに生じる逆起電力に比べて高くなるため、右側の車輪3B,3Dを増速させるような車輪速指令値が得られ、その結果として歩行補助装置1が左旋回するようになる。ただし、車輪3A〜3Dの回転速度が一定のままでは、歩行補助装置1が旋回し続けるため、歩行補助装置1の直進性が悪化してしまう。
【0028】
このため、手順S102においては、右側の車輪3B,3Dに対応するインホイールモータ4B,4Dに生じる逆起電力と左側の車輪3A,3Cに対応するインホイールモータ4A,4Cに生じる逆起電力との差が所定値よりも大きいときには、旋回操作されたものと判断し、下記式により車輪3A〜3Dの速度変化率を求め、この速度変化率を考慮して上記の車輪3A〜3Bの回転速度(車輪速指令値)Vを求めるようにする。
【0029】
旋回外輪の速度変化率ΔVout=−B×(旋回外輪の回転速度−旋回内輪の回転速度) 旋回内輪の速度変化率ΔVin=B×(旋回外輪の回転速度−旋回内輪の回転速度)
但し、Bは定数である。
【0030】
具体的には、図6に示すように、旋回外輪の回転速度が十分立ち上がった時点tから、旋回外輪(図中P参照)が上記の速度変化率ΔVoutに従って減速すると共に旋回内輪(図中Q参照)が上記の速度変化率ΔVinに従って増速し、最終的に旋回外輪及び旋回内輪の回転速度が同等になるような車輪速指令値を求める。
【0031】
これにより、例えば右側の車輪3B,3Dが強く押されることで、右側の車輪3B,3Dが増速されると、歩行補助装置1が左旋回し始めるが、その旋回途中から、旋回外輪である右側の車輪3B,3Dが左右車輪速差(旋回外輪の回転速度−旋回内輪の回転速度)に比例して減速し、旋回内輪である左側の車輪3A,3Cが左右車輪速差に比例して増速し、最終的に車輪3A〜3Dの回転速度が等しくなる。その結果、歩行補助装置1がスムーズに直進動作するようになる。
【0032】
続いて、タッチセンサ10の検出信号に基づいて、歩行者がハンドル部6を握っているかどうかを判断する(手順S104)。歩行者がハンドル部6を握っていないと判断されたときは、車輪3A〜3Dを制動させるようにインホイールモータ4A〜4Dを制御する(手順S105)。
【0033】
これにより、歩行者がハンドル部6から手を放したときには、歩行補助装置1が走行中であっても強制的に速やかに停止することになる。このとき、歩行補助装置1が急停止しないように車輪3A〜3Dを制動させるのが望ましい。また、歩行者がハンドル部6から手を放した状態では、坂道でも車輪3A〜3Dが制動したままとなるため、インホイールモータ4A〜4Dに生じる逆起電力により車輪3A〜3Dが回転駆動されて歩行補助装置1が坂道を下がっていくという不具合が起きることは無い。
【0034】
一方、手順S104で歩行者がハンドル部6を握っていると判断されたときは、引き続いて前輪3A,3Bに対応するインホイールモータ4A,4Bに生じる逆起電力と後輪3C,3Dに対応するインホイールモータ4C,4Dに生じる逆起電力との差分の絶対値が予め設定された閾値以下であるかどうかを判断する(手順S106)。インホイールモータ4A,4Bに生じる逆起電力とインホイールモータ4C,4Dに生じる逆起電力との差分の絶対値が閾値よりも大きいと判断されたときは、車輪3A〜3Dを制動させるようにインホイールモータ4A〜4Dを制御する(手順S105)。
【0035】
歩行補助装置1の前進動作時に、例えば図7に示すように、歩行補助装置1が前方に向かって低くなるような段差Xを通ると、前輪3A,3Bが後輪3C,3Dよりも先に下がることになる。このとき、前輪3A,3Bにかかるトルクが後輪3C,3Dにかかるトルクよりも大きくなるため、図8に示すように、前輪3A,3Bに対応するインホイールモータ4A,4Bに生じる逆起電力(図中R参照)の絶対値が後輪3C,3Dに対応するインホイールモータ4C,4Dに生じる逆起電力(図中S参照)の絶対値よりも大きくなる。
【0036】
この場合には、インホイールモータ4A〜4Dにより車輪3A〜3Dが制動し、歩行補助装置1が直ちに停止するようになるため、前輪3A,3Bが段差Xに入り込んで落ちることが防止される。その結果、歩行者に与える影響を十分軽減することができる。
【0037】
一方、手順S106でインホイールモータ4A,4Bに生じる逆起電力とインホイールモータ4C,4Dに生じる逆起電力との差分の絶対値が閾値以下であると判断されたときは、歩行者に与える影響は少ないものとして、歩行補助装置1をそのまま走行させる。
【0038】
以上のように本実施形態にあっては、インホイールモータ4A〜4Dに生じる逆起電力が検出されたときに、歩行者によってハンドル部6の押し操作が行われたものと判断し、逆起電力に基づいて車輪3A〜3Dの車輪速指令値を求め、その車輪速指令値に応じてインホイールモータ4A〜4Dを制御する。このため、ハンドル部6に加えられる圧力を検出して歩行補助装置1を動作させる場合と異なり、歩行者はハンドル部6の左右両側に加える力を細かくコントロールする必要が無くなる。これにより、特に高齢者にとっても、簡単な操作で歩行補助装置1を直進・旋回させることができる。
【0039】
また、ハンドル部6に加えられる圧力を検出するセンサを用いなくて済むため、歩行補助装置1に要する部品点数を削減し、歩行補助装置1にかかるコストを抑えることもできる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態の歩行補助装置1では、4つの車輪3A〜3Dが設けられているが、前輪及び後輪のいずれか一方を1つとした3輪構造等にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係わる歩行補助装置の一実施形態の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示した歩行補助装置の側面図である。
【図3】図1に示した歩行補助装置の制御系を示すブロック図である。
【図4】図3に示したコントローラにより実行されるモータ制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図5】インホイールモータに生じる逆起電力及びその時に車輪に与える回転速度の一例を示すグラフである。
【図6】旋回時に左右の車輪に与える回転速度の一例を示すグラフである。
【図7】歩行補助装置が段差を通過する様子を示す側面図である。
【図8】歩行補助装置が段差を通過する際に、前後の車輪に対応するインホイールモータに生じる逆起電力の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1…歩行補助装置、2…フレーム体、3A〜3D…車輪、4A〜4D…インホイールモータ(駆動モータ)、6…ハンドル部、10…タッチセンサ(検出手段)、11…コントローラ(制御手段)。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者が握るハンドル部を有するフレーム体と、
前記フレーム体の左右両側に設けられた複数の車輪と、
前記各車輪をそれぞれ回転駆動させる複数の駆動モータと、
前記駆動モータに生じる逆起電力を検出し、前記逆起電力に基づいて前記駆動モータを制御する制御手段とを備えることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
前記制御手段は、旋回動作が開始された場合に、旋回外輪側の車輪と旋回内輪側の車輪との車輪速差に応じて前記旋回外輪側の車輪を減速させると共に前記車輪速差に応じて前記旋回内輪側の車輪を増速させるように、前記駆動モータを制御することを特徴とする請求項1記載の歩行補助装置。
【請求項3】
前記歩行者が前記ハンドル部を握っているかどうかを検出する検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記検出手段により前記歩行者が前記ハンドル部を握っていることが検出されないときに、前記車輪を制動させるように前記駆動モータを制御することを特徴とする請求項1または2記載の歩行補助装置。
【請求項4】
前記複数の車輪は、前記フレーム体の前側及び後側にそれぞれ取り付けられており、
前記制御手段は、前側の車輪を回転駆動させる前記駆動モータに生じる逆起電力と後側の車輪を回転駆動させる前記駆動モータに生じる逆起電力との差分が所定値よりも大きいかどうかを判断し、前記差分が前記所定値よりも大きいときは、前記車輪を制動させるように前記駆動モータを制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の歩行補助装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−183407(P2009−183407A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25382(P2008−25382)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)