説明

歩行補助装置

【課題】装置が脚に能動的にトルクを加えるときに使用者が感じる不安を和らげる歩行補助装置を提供する。
【解決手段】歩行補助装置は、左右の装具とコントローラとヘッドフォンを備える。装具は、使用者の脚の動きを検出するセンサと、使用者の脚の関節にトルクを加えるモータ26を有している。コントローラは、目標関節角の経時的変化を示す目標パターンに従って装具を制御する。また、コントローラは、目標パターンにおける目標関節角の経時的変化が予め定められている条件を満たす変化タイミングを特定し、特定された変化タイミングに先立って変化タイミングの到来を使用者に報知する。アクチュエータが動作するのに先立ってその動作を報知することによって、アクチュエータが能動的に脚関節にトルクを加えるときに使用者が感じる不安を和らげる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の歩行を補助する歩行補助装置に関する。特に、一方の脚は正常に動かすことができるが他方の脚は正常に動かすことができない使用者の歩行を補助する歩行補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脚の関節に能動的にトルクを加えることによって脚の角度を調整し、使用者の歩行を補助する歩行補助装置が研究されている。例えば、特許文献1には、一方の脚を自由に動かすことができない使用者に装着され、健常脚の動作に基づいて非健常脚の関節にトルクを加える歩行補助装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−314670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の歩行補助装置は、非健常脚に能動的にトルクを加えるので、使用者は不安を感じる場合がある。歩行補助装置がこれからどのように非健常脚を動かそうとしているのか使用者が予測できないからである。本発明は、装置が脚に能動的にトルクを加えるときに生じる使用者の不安を和らげる歩行補助装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述したように、使用者が不安を感じるのは、歩行補助装置がこれからどのように脚を動かそうとしているのか正確にイメージできないことに起因する。換言すれば、歩行補助装置が、これからどのように動くのか使用者はイメージできない。そこで本発明の歩行補助装置は、装置が脚にトルクを加えるのに先立って、装置の動きをイメージさせることのできる画像、音或いは触覚刺激を使用者に与える。以下では、「装置の動きをイメージさせることのできる画像、音或いは触覚刺激」を「予告刺激」と総称することがある。
【0006】
本明細書が開示する技術に基づく歩行補助装置は、使用者の脚に取り付けてその脚の関節にトルクを与えて関節角を調整する装具と、その装具を制御するコントローラを備えている。コントローラは、調整すべき関節の目標関節角の経時的変化を示す目標パターンに従って装具を制御する。本発明の歩行補助装置は、この目標パターンに基づいて装具が動作するのに先立って、「予告刺激」を使用者に与える。
【0007】
装具とは、例えば、大腿部に固定される上部リンクと下腿部に固定される下部リンクが膝の外側に位置する回転関節によって連結され、その回転関節がアクチュエータによって駆動する2リンク機構であってよい。そのような機構の装具は、使用者の膝の動きを補助する。
【0008】
「予告刺激」を与える方法の態様の一つは、目標関節角が大きく変化するタイミングを前もって使用者に知らせることである。従って本明細書が開示する技術の一態様は、歩行補助装置が、次の報知手段を有することである。即ちその報知手段は、目標パターンにおける目標関節角の経時的変化が予め定められている条件を満たす変化タイミングを特定し、特定された変化タイミングに先立って変化タイミングの到来を使用者に報知する。即ち、この歩行補助装置は、装具の動きが変化するタイミングを使用者に予告する。そのような歩行補助装置は、装具の次の動きがイメージできないことに起因する使用者の不安を和らげることができる。
【0009】
「予め定められている条件」として最も好適なのは、目標パターンが極値となるタイミングである。別言すれば、目標関節角が時間軸上で極致となるタイミングである。このタイミングは、関節の回転方向(目標関節角の回転方向)が反転するタイミングに相当する。そのようなタイミングを前もって使用者に知らせることによって、使用者は、装具が関節に加えるトルクの回転方向が反転するタイミングを前もって知ることができ、安心できる。歩行動作においては膝の動きが重要であるので、対象とする関節は膝関節であることが好ましい。
【0010】
「予め定められている条件」の他の具体例は、装具の動作開始タイミング、あるいは停止タイミングであってよい。これらのタイミングは、数学的には、目標パターンの経時的変化が非連続であるという条件を満たすタイミングである。
【0011】
コントローラが記憶する目標パターンは、予め用意されているものであってもよいし、使用者の歩行中にリアルタイムに生成されるものであってもよい。後者の場合は、一方の脚のみが非健常脚の使用者のための歩行補助装置に適している。その場合、歩行補助装置は、一方の脚の動きを検出する脚動作センサを備えるとよい。コントローラは、一方の脚の動きから他方の脚の目標パターンを生成し、生成された目標パターンに従って他方の脚の関節角を調整する装具を制御することが好ましい。
【0012】
「予告刺激」を与える態様の他の一つは、目標パターンの経時的波形の全体をイメージさせることのできる予告刺激を前もって使用者に与えることである。本明細書が開示する技術の他の一態様は、歩行補助装置が、次の報知手段を有することである。即ち、報知手段は、目標パターンの経時的変化に対応する波形の報知パターンを生成し、コントローラが目標パターンに従って装具を制御するのに先立って、報知パターンに基づく刺激を使用者に与える。報知パターンの波形は、目標パターンの経時変化の波形と相似であるとよい。
【0013】
この場合、「予告刺激」は具体的には、周波数の経時的変化のパターンが目標パターンの波形と同じである音でよい。或いは、「予告刺激」は、振動数の経時的変化のパターンが目標パターンの波形と同じである振動を使用者に与えるものであってよい。
【0014】
装具の目標パターンの波形と相似な波形の予告刺激を装具の動作に先立って使用者に与えることによって、使用者は、装具のこれからの動作、即ち、装具が実現予定の関節角の経時的変化の全体をイメージすることができる。
【0015】
上記の「予告刺激」は、単に歩行のリズムを与えるのではなく、装具の動作を前もって使用者に知らせるものである。本明細書が開示する技術によって、歩行者は、装具の動作、特に、関節角が大きく変化するタイミングを予めイメージすることができ、歩行補助装置に対する不安感を和らげることができる。
【実施例】
【0016】
図面を参照して実施例の歩行補助装置を説明する。図1に、ユーザが装着した歩行補助装置10の模式図を示す。図1(A)は正面図を示し、図1(B)は側面図を示す。本実施例では、ユーザは、左脚の膝関節を自由に動かすことができないとする。歩行補助装置10は、ユーザの左膝関節に適切なトルクを加え、ユーザの歩行動作を補助する。
【0017】
歩行補助装置10は、右脚装具12Rと左脚装具12Lからなる。右脚装具12Rは、ユーザの大腿部から下腿部に沿って脚の外側に装着される。右脚装具12Rは、上部リンク14Rと下部リンク16Rを有しており、2つのリンクは、回転可能に連結されている。上部リンク14Rは、ベルトでユーザの大腿部に固定される。下部リンク16Rは、ベルトでユーザの下腿部に固定される。上部リンク14Rと下部リンク16Rの連結部は、ユーザの右膝の外側に位置する。連結部は、上部リンク14Rと下部リンク16Rを相対的に回転させる。連結部の軸線は、ユーザの膝関節の軸線に同軸である。連結部にはエンコーダ20Rが備えられており、ユーザの右膝関節の角度を検出する。
【0018】
上部リンク14Rには傾斜角センサ22Rが取り付けられている。傾斜角センサ22Rは、ユーザの右股関節のピッチ軸周りの角度を検出する。下部リンク16Rの下端には接地センサ24Rが取り付けられている。接地センサ24Rは、右脚の離床タイミングと接地タイミングを検知する。
【0019】
左脚装具12Lは、ユーザの大腿部から下腿部に沿って脚の外側に装着される。左脚装具12Lは、右脚装具12Rと同じ構造を有している。即ち、左脚装具12Lは、上部リンク14Lと下部リンク16Lを有しており、2つのリンクは左膝外側の位置で回転可能に連結されている。左脚装具12Lは、エンコーダ20Lと傾斜角センサ22Lと接地センサ24Lを備えている。エンコーダ20Lは、ユーザの左膝関節の角度を検出し、傾斜角センサ22Lは、ユーザの左股関節の角度を検出する。膝関節角度と股関節角度は、ピッチ軸(体側方向に伸びる軸)の回りの回転角を意味する。接地センサ24Lは、ユーザの左脚の離床タイミングと接地タイミングを検知する。
【0020】
左脚装具12Lはまた、モータ26とコントローラ30を備える。モータ26は、上部リンク14Lと下部リンク16Lの連結部に備えられており、ユーザの左膝関節の外側に位置する。モータ26は、上部リンク14Lに対して下部リンク16Lを回転させることができる。即ちモータ26は、ユーザの左膝関節にトルクを加えることができる。コントローラ30は、各センサの出力に基づいて、モータ26を制御する。別言すれば、左脚装具12Lは、モータ26によって、ユーザの左膝関節にトルクを加えてその角度を調整する。
【0021】
上記したとおり、歩行補助装置10は、ユーザの大腿部から下腿部に沿って装着される。歩行補助装置10は、ユーザの左膝関節にトルクを加えてその角度を調整するモータ26と、ユーザの両脚の動きを検出するセンサ20R、22R、24R、20L、22L、及び、24Lを備える。以下では、右脚に取り付けられたセンサ20R、22R、及び、24Rを「脚動作センサ」と総称する場合がある。
【0022】
歩行補助装置10はさらに、ヘッドフォン40と腕動作センサ42を備えている。腕動作センサ42は、加速度センサである。腕動作センサ42は、ユーザの左腕に取り付けられ、左腕が振られた回数や振りの速さを検知する。腕動作センサ42の出力はコントローラ30へ送られる。ヘッドフォン40は、コントローラ30から送られる音信号をユーザに伝える。
【0023】
コントローラ30の機能を概説する。図2にコントローラ30内部のブロック図を示す。コントローラ30は、目標パターン生成モジュール34、報知モジュール32、及び、モータドライバ36を備える。モジュール32、34、及び36は、ハードウエアとしてはコントローラ30のCPUであり、CPUが実行する命令は、コントローラ30が記憶しているプログラムに記述されている。
【0024】
目標パターン生成モジュール34は、脚動作センサ(右脚に取り付けられたセンサ群)の信号に基づいて、一歩の動作期間(右脚の離床タイミングから次の離床タイミングまでの期間)における右脚の膝関節角の経時的変化を取得する。なお、離床タイミングは、右脚に取り付けられた接地センサ24Rの信号から判別することができる。
【0025】
図3を参照して、膝関節角の変化パターンを説明する。図3は、半周期(右脚が離床してから左脚が離床するまで)の歩行動作を示している。なお、図3では、1周期の時間を符号Tdで示している。実線が右脚を示し、破線が左脚を示す。図3(a)は、右脚の離床タイミングにおける脚の配置を示している。図3(b)は離床した右脚の膝関節が最も屈曲するタイミングにおける脚の配置を示している。図3(c)は右脚が着床するタイミングにおける脚の配置を示している。図3(d)は左脚が離床するタイミングにおける脚の配置を示している。図3は、(a)から(d)に向かって時間が経過する。なお、図3における符号102、104、106は、それぞれ、右脚の股関節、膝関節、及び足首関節を表している。図3の下側のグラフは、右膝の関節角θの経時的変化を示している。図3において、符号T1、T2、T3、及びT4は夫々、右足が離床するタイミング、右膝関節が最も屈曲するタイミング、右脚が着床するタイミング、及び、左脚が離床するタイミングを示している。図3のグラフに示されているとおり、右膝の関節角の経時的変化パターンは、タイミングT2とT3で極値をとる。一歩行周期の後半も同様に取得することができるので説明は省略する。
【0026】
目標パターン生成モジュール34は、得られた右膝関節角の経時的変化パターンを左膝関節の目標パターンとして記憶する。但し、コントローラ30が目標パターンに従って左脚装具12Lを駆動するタイミングは、左脚が離床するタイミングに同期される。即ち、タイミングT1(右脚離床タイミングに相当する)からT4(左脚離床タイミングに相当する)までの間の右膝関節角の経時的パターンは、左脚離床タイミング(即ちタイミングT4)から始まる左脚補助の目標パターンとして採用される。即ち、コントローラ30は、右膝関節の経時的変化パターンに追従するように、モータ26を制御して左膝関節角を調整する。より具体的にはコントローラ30は、上部リンク14Lと下部リンク16Lの回転角が、右膝関節の経時的変化パターンに追従するようにモータ26を制御する。
【0027】
図2に戻って説明を続ける。生成された目標パターンはモータドライバ36に送られる。モータドライバ36には、左脚に取り付けたセンサの信号が入力される。左脚の接地センサ24Lの信号に基づいて、モータドライバ36は、左脚の離床タイミングT4を特定することができる。モータドライバ36は、このタイミングT4から、目標パターンに基づくモータ制御を開始する。
【0028】
目標パターンはまた、目標パターン生成モジュールから報知モジュール32へ送られる。報知モジュール32には、予めタイミング検知条件が記憶されている。このタイミング検知条件は、目標パターンの波形が極値をとるタイミング、及び、目標パターンの開始タイミングを特定する。図3の例では、タイミングT1(開始タイミング)、タイミングT2(極大値となるタイミング)、及びタイミングT3(極小値をとるタイミング)が特定される。なお、報知モジュール32では、タイミングT2、およびT3は、目標パターンの開始タイミングT1からの経過時間として特定される。これらのタイミングは、目標パターンの波形が大きく変化するタイミング(変化タイミング)と表現することもできる。さらに厳密には、これらの変化タイミングは、目標関節角の回転方向(経時的変化方向)が反転するタイミングである。
【0029】
報知モジュール32は、モータドライバ36と同期して動作し、モータドライバ36が目標パターンに従ってモータ26を制御している間、特定された変化タイミングに先立って、そのタイミングの到来を告げる音をヘッドフォン40を介して出力する。以下、図4を参照して、報知モジュール32が音を出力するタイミング(報知タイミング)を説明する。
【0030】
図4(B)は、2周期分の目標パターンを模式的に示すグラフ(波形)である。図4(A)は、各変化タイミングにおける左脚の姿勢を示す。図4(A)における符号102、104、及び106はそれぞれ、股関節、膝関節、及び足首関節を示す。図4(C)は、出力する音の波形を示す。なお、図4は、脚の動作を模式的に示しているのであり、実際の膝関節角の経時的変化を正確には表していないことに留意されたい。
【0031】
タイミングT11は、第1周期の開始タイミングを示しており、膝関節角が最小値θ1となるタイミングでもある。タイミングT12は、第1周期において膝関節角が最大値θ2となるタイミングを示している。タイミングT13は、第2周期の開始タイミングを示しており、膝関節角が最小値θ1となるタイミングでもある。タイミングT14は、第2周期において膝関節角が最大値θ2となるタイミングを示している。タイミングT15は、第3周期の開始タイミングを示している。報知モジュールは、目標パターンからこれらのタイミングを特定する。他方、モータドライバ36は、左膝関節が目標パターンに追従するようにモータ26を制御する。
【0032】
図4(C)に示すように、報知モジュール32は、特定されたタイミングよりも時間Wだけ先立つ報知タイミングでヘッドフォン40から音を出力する。即ち、報知モジュール32が音を出力した直後に特定された変化タイミングが到来することになる。別言すれば、報知モジュール32は、特定された変化タイミングでモータが制御されるのに先立って、その変化タイミングの到来をユーザに報知する。
【0033】
図4(C)で音が出力されることの効果を説明する。歩行補助装置10は、タイミングT11(変化タイミングの一つである動作開始タイミング)よりも時間Wだけ先立って音を出力する。この音を聞いたユーザは、まもなく歩行補助装置10のモータ26が駆動し始めることを把握することができる。歩行補助装置10は、タイミングT12(変化タイミングの一つである膝関節角が最大となるタイミング)よりも時間Wだけ先立つ報知タイミングに音を出力する。この音を聞いたユーザは、まもなくモータ26が逆転し始めることを認識することができる。このように、歩行補助装置10を使うユーザは、装置が駆動するのに先立って、駆動パターン、特に駆動パターンが大きく変化するタイミングを知ることができる。従って、ユーザは、歩行補助装置10によって自身の脚がどのように動かされるかを前もってイメージするこができ、不安を感じることが少なくなる。
【0034】
特定された変化タイミングの到来を知らせる音のパターンは、図4(C)のパターンに限られるものではない。音のパターンの変形例を図5に示す。図5(A)と(B)は、図4のそれらと同一である。図5(C)は、第1の変形例を示している。図5(D)は、第2の変形例を示している。図5(C)の音パルス列110は、特定された変化タイミングが近づくにつれてピッチが短くなる。図5(D)の音パルス112は、特定された変化タイミングが近づくにつれて音量が大きくなることを示している。これらの変形例も、前述した実施例と同様に、特定された変化タイミングの到来をユーザに知らせることができる。
【0035】
報知タイミングは次のとおり別言することもできる。図4、図5に示すように、歩行補助装置10は、目標関節角が単調増加又は単調減少している間に、次の極値(変化タイミング)の到来を告げる音を出力する。さらに好ましくは、歩行補助装置10は、特定された変化タイミングが到来する直前に、変化タイミングの到来を告げる音を出力する。
【0036】
次に第2実施例を説明する。この実施例の歩行補助装置の構成は、前の実施例の構成と同じである。報知モジュール32の処理のみが異なる。従って、第2実施例の歩行補助装置の構成については説明を省略する。
【0037】
本実施例の歩行補助装置は、目標パターンにおける報知すべきタイミングを特定しない。代わりに、目標パターンの経時的波形と相似な経時的波形を有する音パターンを生成する。この音パターンを「報知パターン」と称する。報知パターンの例を図6を参照して説明する。
【0038】
図6(A)、(B)は、図5の(A)、(B)と同じである。図6(C)が、報知パターンのグラフ114を示している。グラフ114は、報知パターンの波形も示している。図6(C)の縦軸は、音の周波数を示している。即ち、図6(C)のグラフは、グラフが上にシフトするほど高いトーンの音を意味している。図6(B)と(C)を比較すると理解されるように、報知パターンの波形は、目標パターンの波形に相似である。報知モジュール32は、モータドライバ36が目標パターンに従ってモータを駆動するのに先立って、報知パターンに基づく音を出力する。別言すれば、報知パターンに基づく音の出力が終了してから、歩行補助装置10は歩行補助を開始する。
【0039】
歩行補助装置10を用いると、ユーザは、補助に先立って、目標パターンの波形と相似な波形の音を聞く。ユーザは、音の波形から、目標パターン、即ち、自身の脚がどのように動かされるかを前もってイメージするこができる。
【0040】
図1に示した歩行補助装置10が備える腕動作センサ42の機能について説明する。腕動作センサ42は、HMI(Human Machine Interfece)として機能する。例えば、腕動作センサ42が連続2回の腕の振りを検出すると、歩行補助装置10は作動を開始する。また、腕動作センサ42が再度連続2回の腕の振りを検出すると、歩行補助装置10は作動を停止する。即ち、腕動作センサ42が歩行補助装置10の電源スイッチの役割を果す。
【0041】
また、腕動作センサ42は、腕の振りの速さを検出する。コントローラ30は、腕動作センサ42が検出する早さに応じて、目標パターンの周期Tdを修正する。例えば、ユーザが腕を速く振ると、目標パターンの周期Tdが小さくなる。ユーザが腕をゆっくり振ると、目標パターンの周期Tdが大きくなる。そのような機能は、徐々に歩行速度を上げる(或いは下げる)場合に有効である。歩行速度を上げる場合、健常脚一歩の速さよりも次に続く非健常脚の一歩の速さがわずかに速くなる。健常脚の一歩の速さと非健常脚の一歩の速さが異なる場合に、腕動作センサ42の機能は有効である。なお、腕動作センサ42によって目標パターンを修正する場合、報知モジュール32は、修正後の目標パターンに基づいて報知タイミング、或いは報知パターンを特定する。
【0042】
上記した実施例の特徴を列記する。
(1)装具は、脚の一つの関節の近位側部位に固定される上部リンクと、その関節の遠位側部位に固定される下部リンクがその関節の回転軸と同軸に位置する回転関節で連結されている2リンク機構を有する。実施例における左膝関節が「一つの関節」の一例であり、大腿部が「近位側部位」の一例であり、下腿部が「遠位側部位」の一例である。
(2)目標パターンの経時的波形は、健常脚(一方の脚)の関節角の経時的波形と同じである。
(3)歩行補助装置は、健常脚(一方の脚)の離床から着床までの関節角の経時的波形を目標パターンとして生成する。アクチュエータを備えた装具は、非健常脚(他方の脚)に取り付けられ、健常脚の一歩に続く非健常脚の一歩の動作を、目標パターンに従って補助する。歩行補助装置は、一方の脚の一歩の動作から目標パターンを生成し、他方の脚を補助するサイクルを繰り返す。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0044】
例えば、歩行補助装置は、一方の脚の動作に基づいて目標パターンを生成するかわりに、予め定められた目標パターンを記憶していてもよい。また、歩行補助装置10は、両脚のそれぞれの関節を補助するものであってもよい。例えば、本明細書が開示する技術は、両脚が自由に動かせないユーザの歩行訓練装置にも好適である。歩行訓練装置は、ユーザの両脚にモータ付装具を装着され、予め決められた歩行パターン(目標パターン)でユーザの両脚の関節角を調整する。本技術を適用した歩行訓練装置は、両脚の動作パターン(目標パターン)を、アクチュエータの駆動に先立ってユーザに報知することができる。ユーザはアクチュエータの駆動に先立ってアクチュエータの動作を知ることができるので安心して歩行補助装置を使うことができる。
【0045】
実施例の歩行補助装置は、音で使用者に予告刺激を与えた。歩行補助装置は、音に代えて振動によって予告刺激を与えてもよい。或いは、歩行補助装置は、ヘッドマウントディスプレイを備え、そのディスプレイに図6(C)の波形を表示するものであってもよい。このように、歩行補助装置は、音刺激、視覚刺激、あるいは触覚刺激のいずれかで変化パターンあるいは報知パターンを使用者に伝えればよい。
【0046】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例の歩行補助装置の模式図を示す。
【図2】コントローラのブロック図を示す。
【図3】目標パターンを説明する図である。
【図4】報知タイミングを説明する図である。
【図5】音のパターンの変形例を説明する図である。
【図6】報知パターンの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10:歩行補助装置
12R、12L:装具
14R、14L:上部リンク
16R、16L:下部リンク
20R、20L:エンコーダ
22R、22L:傾斜角センサ
24R、24L:接地センサ
26:モータ
30:コントローラ
32:報知モジュール
40:ヘッドフォン
42:腕動作センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の歩行を補助する歩行補助装置であり、
使用者の脚に取り付けて当該脚の関節角を調整する装具と、
目標関節角の経時的変化を示す目標パターンに従って装具を制御するコントローラと、
目標パターンにおける目標関節角の経時的変化が予め定められている条件を満たす変化タイミングを特定し、特定された変化タイミングに先立って変化タイミングの到来を使用者に報知する報知手段と、
を備えていることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
一方の脚の動きを検出する脚動作センサを備えており、
コントローラは、一方の脚の動きから他方の脚の目標パターンを生成し、他方の脚の関節角を調整する装具を、生成された目標パターンに従って制御することを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項3】
予め定められている条件は、目標パターンが極値となるタイミングを含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の歩行補助装置。
【請求項4】
使用者の腕の動きを検出する腕動作センサを備えており、
コントローラは、腕動作センサの検出結果に基づいて目標パターンを補正し、報知手段は、補正された目標パターンに基づいて変化タイミングを特定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項5】
使用者の歩行を補助する歩行補助装置であり、
使用者の脚に取り付けて当該脚の関節角を調整する装具と、
目標関節角の経時的変化を示す目標パターンに従って装具を制御するコントローラと、
目標パターンの経時的変化に対応する波形の報知パターンを生成し、コントローラが目標パターンに従って装具を制御するのに先立って、報知パターンに基づく刺激を使用者に与える報知手段と、
を備えていることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項6】
報知パターンの波形は、目標パターンの経時変化の波形と相似であることを特徴とする請求項5に記載の歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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