説明

歩行補助装置

【課題】歩行補助装置の大腿部装具として、使用者に与える装着違和感や圧迫感を極力小さくして動力発生装置が発生する動力を歩行補助力として大腿部に確実に付与すること
【解決手段】スイングアーム60、62の先端部と大腿前部当て板68、70の何れか一方に球状凸部80を形成し、他方に球状凹部90を形成し、球状凸部80と球状凹部90とが互いに係合して球面継手構造をなすようにし、当該球面継手構造によって大腿前部当て板68、70がスイングアーム60、62に対して全方向に傾動可能に連結されている構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行補助装置に関し、更に詳細には、動力発生装置の動力を使用者の大腿部に歩行補助力として付与する歩行補助装置の大腿部装具に関する。
【背景技術】
【0002】
下肢部の筋力低下者や歩行補助や歩行リハビリテーション等のために、使用者(着用者)の下肢部、特に大腿部に動力発生装置の動力を歩行補助力(歩行アシスト力)として付与する歩行補助装置が公知となっている(例えば、特許文献1、2、3)。
【0003】
この種の歩行補助装置は、使用者の腰部に装着されて使用者の腰背部から左右の腰側部に延在する略C字形の腰部フレーム(メインフレーム)と腰部フレームを使用者の腰部に取り付けるための腹部ベルトとからなる腰部装具と、腰部フレームの左右の先端部分(使用者の腰側部に対応する部分)に取り付けられた左右の動力発生装置と、動力発生装置が発生する動力を大腿部運動の補助力(歩行補助力)として大腿部に付与する大腿部装具とを含む。
【0004】
歩行補助装置の大腿部装具として、動力発生装置に駆動連結された基端部および当該基端部より大腿部外側部及び大腿部前側部に沿う形状に湾曲形成されて膝上の大腿部前側部に位置する遊端部を有する帯板状の硬質フレーム(スイングアーム)と、硬質フレームの遊端部に連結された一端部および硬質フレームの基端部と遊端部との間の中間部に連結された他端部を有し、大腿部後側部を被う軟質ベルト(大腿部ベルト)とにより構成されたものが知られている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−320349号公報
【特許文献2】特開2006−320350号公報
【特許文献3】特開2007−152035号公報
【特許文献4】特開2009−95645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歩行補助装置の大腿部装具は、動力発生装置が発生する動力を大腿部運動の補助力(歩行補助力)として大腿部に確実に付与することと、使用者の身体に良好にフィットし、使用者に与える装着違和感や圧迫感が少ないこととを要求される。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、歩行補助装置の大腿部装具において、使用者に与える装着違和感や圧迫感を極力小さくして動力発生装置が発生する動力を歩行補助力として大腿部に確実に付与することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による歩行補助装置は、使用者の腰部に装着されて使用者の腰背部から左右の腰側部に延在する腰部フレーム(22)と当該腰部フレーム(22)を使用者の腰部に取り付けるための腹部ベルト(30)とからなる腰部装具(20)と、前記腰部フレーム(22)の左右の先端部分に取り付けられた左右の動力発生装置(26、28)と、基端部を前記動力発生装置(26、28)に取り付けられたスイングアーム(60、62)と、前記スイングアーム(60、62)の先端部に取り付けられて前記動力発生装置(26、28)が発生する動力を歩行補助力として使用者の大腿部に付与する大腿部装具とを有する歩行補助装置であって、前記大腿部装具は、使用者の大腿部の前面に当接する大腿前部当て板(68、70)と、前記大腿前部当て板(68、70)を使用者の大腿部に装着する大腿部ベルト(73、74)とを具備し、前記スイングアーム(60、62)の先端部と前記大腿前部当て板(68、70)の何れか一方には球状凸部(80)が形成され、他方には球状凹部(90)が形成され、前記球状凸部(80)と前記球状凹部(90)とが互いに係合して球面継手構造をなし、当該球面継手構造によって前記大腿前部当て板(68、70)が前記スイングアーム(60、62)に対して全方向に傾動可能に連結されている。
【0009】
この構成によれば、大腿前部当て板(68、70)がスイングアームに球面継手構造によって取り付けられているので、大腿前部当て板(68、70)はスイングアーム(60、62)に対して全方向に傾動でき、大腿前部当て板(68、70)は使用者の大腿部の前面に倣って傾斜する。これにより大腿前部当て板(68、70)と使用者の大腿部とのフィッティング性が向上する。
【0010】
球面継手構造は、スイングアーム(60、62)の先端部と大腿前部当て板(68、70)とに形成された球状凸部(80)と球状凹部(90)とにより構成されるので、球面継手構造のための別部品を必要としないから、部品点数、組み付け工数の増加を招くことがない。
【0011】
本発明による歩行補助装置は、好ましくは、前記球状凸部(80)は互いに平行な2面取り面部(84)を有し、前記球状凹部(90)は、互いに対向する平行2面部を含む矩形挿入口(94)を有し、前記大腿前部当て板(68、70)が前記スイングアーム(60、62)に対して通常使用時の回動位置とは異なる組み付け回動位置にある時には、前記2面取り面部(84)と前記矩形挿入口(94)の前記平行2面部の面同士が互いに平行に整合して前記球状凸部(80)を前記球状凹部(90)内に抜き差し可能になり、前記大腿前部当て板(68、70)が前記スイングアーム(60、62)に対して通常使用時の回動位置にある時には、前記2面取り面部(84)と前記矩形挿入口(94)の前記平行2面部との面が不整合になって前記球状凸部(80)と前記球状凹部とが球面係合によって抜け止めされる。
【0012】
この構成によれば、通常使用時には大腿前部当て板(68、70)がスイングアーム(60、62)より脱落しないことを確保した上で、スイングアーム(60、62)に対する大腿前部当て板(68、70)の着脱が大きい力を必要とすることなく作業性よく行われるようになり、しかも、通常使用時には大腿前部当て板(68、70)がスイングアーム(60、62)より脱落することがない。
【0013】
本発明による歩行補助装置は、好ましくは、2面取り面部(84)は前記球状凸部(80)の突出先端側に向かう従って2面取り幅が減少するテーパ面になっている。
【0014】
この構成によれば、テーパ案内により、球状凹部(90)に対する球状凸部(80)の差し込みが作業性よく行われる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による歩行補助装置によれば、大腿前部当て板がスイングアームに球面継手構造によって取り付けられているので、大腿前部当て板はスイングアーム対して全方向、つまり上下方向と前後方向と左右方向の何れの方向にも傾動できる。これにより、大腿前部当て板は使用者の大腿部の前面に倣って傾斜し、大腿前部当て板の大腿部前面に対するフィッティング性が向上する。このことにより、使用者に装着違和感や圧迫感を与えることを極力小さくして動力発生装置が発生する動力を歩行補助力として大腿部に確実に付与することができるようになる。
【0016】
球面継手構造は、スイングアームの先端部と大腿前部当て板とに形成された球状凸部と球状凹部とにより構成されるので、球面継手構造のための別部品を必要としないから、球面継手構造が採用されても部品点数、組み付け工数の増加を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による歩行補助装置の一つの実施形態を示す斜視図。
【図2】本実施形態による歩行補助装置の大腿前部当て板の取付部の正面図。
【図3】図2の線III−IIIに沿った断面図。
【図4】本実施形態による歩行補助装置のスイングアーム先端部の斜視図。
【図5】本実施形態による歩行補助装置の大腿前部当て板の正面図。
【図6】図5の線VI−VIに沿った断面図。
【図7】(A)は組み付け回動位置にある大腿前部当て板の取付部の正面図、(B)は同じくそれの平面図。
【図8】(A)は通常使用の回動位置にある大腿前部当て板の取付部の正面図、(B)は同じくそれの平面図。
【図9】本実施形態による歩行補助装置の大腿前部当て板を射出成形する金型構成の一例を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明による歩行補助装置の一つの実施形態を、図1を参照して説明する。以下の説明では、歩行補助装置の方向を各図に示す方向に基づいて説明する。歩行補助装置は、略左右対称な構造を有しており、使用者に装着された状態で、その前後方向が使用者の矢状軸に一致し、その左右方向が使用者の前額軸に一致する。
【0019】
図1に示されているように、歩行補助装置10は腰部装具20を有する。腰部装具20は、平面視で略C字形状をなす中空構造のメインフレーム(腰部フレーム)22を備えている。メインフレーム22は、使用者の腰部に装着された状態で、腰背部より左右の腰側部の外方かつ前方へ延出している。メインフレーム22は、プラスチックの成形品で、例えば、ポリアミド樹脂やガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等の高硬度で高剛性(機械的強度)を有する材料により構成されている。
【0020】
メインフレーム22のうち、使用者の腰背部に対応する中間部分22A(図2参照)の内側には、背部当て板24が取り付けられている。背部当て板24は、プラスチック製であり、通気性と柔軟性を得るために、上下方向に延在するスリット24Aが左右方向に所定間隔をおいて多数形成されている。
【0021】
メインフレーム22の中間部分22Aには、図には示されていないが、制御装置、電池パック等が取り付けられている。
【0022】
メインフレーム22の内側には使用者の腹部に巻き付けられる腹部ベルト30が設けられている。腹部ベルト30は、本実施形態では、左側ベルト36と、右側ベルト38と、前側ベルト40と、左横腹部ベルト44と、右横腹部ベルト46とにより構成されている。これらのベルト36、38、40、44、46は、織布や皮革等の可撓性材料から構成されている。
【0023】
左側ベルト36は、両端をメインフレーム22の中間部分22Aの左側部分の上下部位に止め金(図示省略)によって固定され、長手方向における中間部分が折り返されてこの折り返し端が前方へ延出している。左側ベルト36は、長手方向における中間部分にベルト長さを調節するバックル37を有している。右側ベルト38は、左右対称に配置されていることを除けば、左側ベルト36と同様の構成を有している。
【0024】
左側ベルト36の中間部分には、左側ベルト36のベルト幅と同等の横幅を有するフック形状部51Aとベルト通し開口51Bとを備えたフック部材51が、ベルト通し開口51Bに左側ベルト36が折り返すようにして通された形態で取り付けられている。同様に、右側ベルト38の折り返し先端部には、右側ベルト38のベルト幅と同等の横幅を有するフック形状部52Aとベルト通し開口52Bとを備えたフック部材52が、ベルト通し開口52Bに右側ベルト38が折り返すようにして通された形態で取り付けられている。フック部材51、52は、プラスチック材料や金属材料等から形成されている。
【0025】
前側ベルト40の両端部には、係合部材56、58が取り付けられている。係合部材56、58は、フック形状部51A、52Aに係脱可能に係合する矩形開口部56A、58Aと、ベルト長さ調節バックル部56B、58Bとを備え、ベルト長さ調節バックル部56B、58Bには前側ベルト40の各端部が取り付けられている。
【0026】
前側ベルト40は、係合部材56、58の矩形開口部56A、58Aがフック部材51、52のフック形状部51A、52Aに離脱可能に引っ掛けられることにより、それぞれの両端が左側ベルト36と右側ベルト38に係脱可能に連結される。
【0027】
左側ベルト36、右側ベルト38、前側ベルト40は、メインフレーム22の中間部分22Aと協働して使用者の腹部を取り囲む閉ループをなし、これにより、メインフレーム22は使用者の腰部に装着可能となっている。閉ループの大きさはベルト長さ調節バックル部56B、58B等によって調整可能になっている。
【0028】
左横腹部ベルト44は、左側ベルト36の内側にあって、一端をメインフレーム22の中間部分22Aの左側部分に止め金(図示省略)によって左側ベルト36と共に固定されている。左横腹部ベルト44の他端は、止め金(図示省略)によって左側ベルト36のフック部材51近傍部分に連結されている。同様に、右横腹部ベルト46は、右側ベルト38の内側にあって、一端がメインフレーム22の中間部分22Aの右側部分に止め金(図示省略)によって右側ベルト38と共に取り付けられている。右横腹部ベルト46の他端は、止め金(図示省略)によって右側ベルト38のフック部材52近傍部分に連結されている。
【0029】
メインフレーム22の左右の前端部分22B、22Cの内側部分には、止め金(図示省略)によって左側スタビライザ部材53および右側スタビライザ部材54の一端部が固定されている。
【0030】
左側スタビライザ部材53は、先端部にベルト通し具53Aを有し、ベルト通し具53Aに左側ベルト36の折り返し端近傍部、つまりフック部材51の近傍部分を通され、これを支持している。同様に、右側スタビライザ部材54は、先端部にベルト通し具54Aを有し、ベルト通し具54Aに左側ベルト36の折り返し端近傍部、つまりフック部材51の近傍部分を通され、これを支持している。
【0031】
スタビライザ部材53、54は、材質、断面形状等の選定により、少なくとも自立でき、メインフレーム22の左右の前端部分22B、22Cと腹部ベルト30の中間部分とを接続する方向(前後方向)と、上下方向には比較的高い剛性(耐曲げ強度)を示し、左右方向(板厚方向)には比較的低い剛性(耐曲げ強度)を示す設定になっている。つまり、各スタビライザ部材53、54は、上下方向に比して左右方向に弾性変形し易い。これにより、スタビライザ部材53、54は、腹部ベルト30が使用者の腹部に締め付けられることにより、各々、左右方向の内側に弾性変形するも、フック部材51、52の高さ位置を安定に保つスタビライザ作用を奏する。
【0032】
メインフレーム22の左右の先端部である前端部分22B、22Cは、使用者の左右の腰側部に位置する。各前端部分22B、22Cの下側には、ヒンジ部(図示省略)を介して動力発生装置である左側電動モータユニット26、右側電動モータユニット28が取り付けられている。ヒンジ部は、前後方向に延在する回転軸(図示省略)を有する。これにより、各電動モータユニット26、28は、使用者の矢状軸周りに回動可能である。各電動モータユニット26、28は、ケーシング内に、電動モータと、電動モータの出力部材の回動角度を検出する角度センサ等(図示省略)を内蔵している。
【0033】
電動モータユニット26、28には、電動モータの出力部材とトルク伝達関係で連結されるスイングアーム60、62の基端部60A、62Aが着脱可能に連結されている。
【0034】
スイングアーム60、62は、アルミニウム等の軽金属や、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等の高剛性を有する材料により構成され、使用者の股関節部の外側から使用者の大腿部前側へと太腿に沿って延びるように捩られた形状をし、大腿部前側に位置する先端部60B、62Bを有する。
【0035】
スイングアーム60、62の先端部60B、62Bには、球面継手式連結部64、66によって大腿前部当て板68、70が、首振り可能に取り付けられている。大腿前部当て板68、70は、プラスチック製(射出成形品)で、略長方形で縦長で使用され、大腿前部の形状に合った湾曲形状をしており、通気性と柔軟性を高めるために、上下方向に延在する多数のスリット68A、70Aが形成されている。
【0036】
大腿前部当て板68、70には、フック形状部71、72が一体成形されている。大腿前部当て板68、70には、大腿部ベルト73、74の一端部が連結されている。大腿部ベルト73、74の先端部には、フック形状部71、72に係脱可能に係合する矩形開口部75A、76Aと、ベルト長さ調節バックル部75B、76Bとを含む係合部材75、76が取り付けられている。換言すると、大腿部ベルト73、74の先端部は、ベルト長さ調節バックル部75B、76Bにベルト長さ調節可能に取り付けられている。
【0037】
大腿部ベルト73、74は、係合部材75、76の矩形開口部75A、76Aをフック形状部71、72に離脱可能に引っ掛けることにより、先端部を大腿前部当て板68、70に係脱可能に連結され、大腿部を縛るループをなす。このようにして、大腿前部当て板68、70と大腿部ベルト73、74によって大腿部装具が構成される。
【0038】
以上のようにして、歩行補助装置10は、メインフレーム22が腹部ベルト30によって使用者の腰部に装着され、スイングアーム60、62の先端部60B、62Bが大腿部ベルト73、74および大腿前部当て板68、70によって使用者の左右の大腿部に装着される。この状態で、使用者が歩行すると、歩行による大腿部の前後の振り運動によって各スイングアーム60、62が基端部60A、62Aを中心として前後に回動する。
【0039】
このスイングアーム60、62の回動が電動モータユニット26、28の角度センサによって検出されることにより、使用者の歩行に応じて電動モータユニット26、28の電動モータが駆動され、左右のスイングアーム60、62が使用者の歩行に応じて回動駆動される。これにより、電動モータが発生する動力が使用者の下肢に歩行補助力として付与される。
【0040】
次に、右側のスイングアーム62と大腿前部当て板70との球面継手式連結部66の詳細を、図2〜図8を参照して説明する。スイングアーム62の先端部62Bは硬質合成樹脂製(射出成形品)の先端部材63により構成されている。先端部材63には小径柱部82が突出成形され、小径柱部82の先端に球状凸部80が一体成形されている。球状凸部80の一部は、互いに平行な2面取り面部84になっている。2面取り面部84は、略上下面をなし、球状凸部80の突出先端側に向かう従って2面取り幅Aが減少するテーパ面になっている。
【0041】
大腿前部当て板70には、球状凹部90を形成するソケット部92が一体成形されている。
大腿前部当て板70は、ソケット部92は、球状凹部90の球状凸部挿入側開口として、互いに対向する平行2面部を含む上下に長い矩形挿入口94を画定している。矩形挿入口94の平行2面部の幅Bは、テーパ状の2面取り面部84の2面取り幅Aの最小値より大きく、2面取り幅Aの最大値に等しいか、それより少し大きい寸法設定になっている。
【0042】
矩形挿入口94の奥側に存在する球状凹部90は、ソケット部92の底壁部がなす凹球面底部90Aと、矩形挿入口94の平行2面に各々連続するソケット部92の図5、図6で見て左右の側壁部がなす凹球面側部90Bの3箇所で画定されている。球状凸部80が球状凹部90の凹球面底部90Aと対向する二つの凹球面側部90Bとに摺動可能に係合することにより、球状凸部80と球状凹部90との側を全方向に傾動可能に連結する球面継手構造が得られる。
【0043】
大腿前部当て板70が球面継手構造によってスイングアーム62に連結されることにより、大腿前部当て板70がスイングアーム60に対して、小径柱部8の中心軸線周りに回動可能であると共に、当該中心軸線を中心として、上下、前後、左右の全方向に傾動可能であるから、大腿前部当て板70は、使用者の大腿部の前面に倣って矢状軸周りに回動すると共に前額面に対して傾斜し、使用者の大腿部前面に密着する。
【0044】
これにより、大腿前部当て板70は、使用者の体格差に拘らず使用者の大腿部前面に密着し、良好なフィッティング性を確保して使用者に装着違和感や圧迫感を与えることなく、電動モータユニット26、28の電動モータが発生する動力を歩行補助力として大腿部に確実に付与する。
【0045】
スイングアーム62に大腿前部当て板70を取り付ける場合には、図7に示されているように、大腿前部当て板70をスイングアーム62に対して通常使用時の回動位置(図1、図2、図8参照)より、小径柱部82の中心軸線周りに反時計廻り方向に略90度(本実施形態では80度)回動変位した通常使用時の回動位置とは異なる組み付け回動位置に配置する。これにより、球状凸部80の2面取り面部84が略上下面をなし、2面取り面部84と矩形挿入口94の平行2面部の面同士が平行に整合し、球状凸部80を球状凹部90内に軽い力で差し込むことができる。2面取り面部84の2面取り幅Aの最大値が矩形挿入口94の平行2面部の幅Bより大きい寸法設定の場合には、ソケット部92を少し押し広げて差し込むことになる。
【0046】
この差し込み作業は、2面取り面部84が球状凸部80の突出先端側に向かう従って2面取り幅Aが減少するテーパ面になっていることにより、テーパ案内によって作業性よく行われる。
【0047】
球状凹部90に対する球状凸部80の差し込みが完了すれば、大腿前部当て板70をスイングアーム62に対して小径柱部82の中心軸線を中心として時計廻り方向に略90度(本実施形態では80度)回転変位させ、図8に示されているように、大腿前部当て板70を通常使用時の回動位置にさせる。すると、2面取り面部84の面と矩形挿入口94の平行2面部の面とのが互いに略90度回転変位した不整合になり、球状凸部80が、凹球面底部90Aに着座すると共に、対向する二つの凹球面側部90Bとに摺動可能に当接する。凹球面側部90Bは、図6に示されているように、球状凹部90内において矩形挿入口94より側外方に窪んだ球面であるから、球状凸部80と凹球面側部90Bとの係合によって球状凸部80と球状凹部90とが抜け止めされた状態で球面継手式に結合し、大腿前部当て板70がスイングアーム62に取り付けられる。
【0048】
これにより、通常使用時には大腿前部当て板70がスイングアーム62より脱落しないことを確保した上で、スイングアーム62に対する大腿前部当て板70の取り付けが、大きい力を必要とすることなく、作業性よく行われ、大腿前部当て板70がスイングアーム62に対して通常使用時の回動位置にある状態では、大腿前部当て板70がスイングアーム62より脱落することがない。なお、大腿前部当て板70をスイングアーム62より取り外す場合は、上述した取り付けと逆の操作を行えばよい。
【0049】
凹球面側部90Bは、図6に示されているように、球状凹部90内において矩形挿入口94より側外方に窪んだ球面であるので、凹球面側部90Bの矩形挿入口94とは反対の側に型抜き用の貫通部91が凹球面底部90Aの両側に形成されている。これにより、大腿前部当て板70は、図9に示されているように、図にて下側に型抜きする金型100と、図にて上側に型抜きする金型110の2個の金型で、無理抜きを行うことなく射出成形することができる。
【0050】
左側のスイングアーム60と大腿前部当て板68との球面継手式連結部64は、上述の球面継手式連結部66と同様に構成されているので、その説明は省略する。なお、図2、図3、図5、図6において、符号75は、大腿部ベルト74の係止部を示している。
【0051】
本発明を特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、これらの実施形態は例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。上記実施形態に示した本発明に係る歩行補助装置の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて選択的に用いることが可能である。
【0052】
たとえば、球状凸部80が大腿前部当て板70に形成され、球状凹部90がスイングアーム62の先端部材63に形成されていてもよい。また、スイングアーム62の全体が1部品により構成され、スイングアーム62に球状凸部80あるいは球状凹部90が直接に一体形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 歩行補助装置
20 腰部装具
22 メインフレーム(腰部フレーム)
24 背部当て板(腰当て部材)
26 左側電動モータユニット(動力発生装置)
28 右側電動モータユニット(動力発生装置)
30 腹部ベルト
60、62 スイングアーム
64、66 球面継手式連結部
68、70 大腿前部当て板
73、74 大腿部ベルト
80 球状凸部
84 2面取り面部
90 球状凹部
94 矩形挿入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の腰部に装着されて使用者の腰背部から左右の腰側部に延在する腰部フレームと当該腰部フレームを使用者の腰部に取り付けるための腹部ベルトとからなる腰部装具と、前記腰部フレームの左右の先端部分に取り付けられた左右の動力発生装置と、基端部を前記動力発生装置に取り付けられたスイングアームと、前記スイングアームの先端部に取り付けられて前記動力発生装置が発生する動力を歩行補助力として使用者の大腿部に付与する大腿部装具とを有する歩行補助装置であって、
前記大腿部装具は、使用者の大腿部の前面に当接する大腿前部当て板と、前記大腿前部当て板を使用者の大腿部に装着する大腿部ベルトとを具備し、
前記スイングアームの先端部と前記大腿前部当て板の何れか一方には球状凸部が形成され、他方には球状凹部が形成され、前記球状凸部と前記球状凹部とが互いに係合して球面継手構造をなし、当該球面継手構造によって前記大腿前部当て板が前記スイングアームに対して全方向に傾動可能に連結されている歩行補助装置。
【請求項2】
前記球状凸部は互いに平行な2面取り面部を有し、前記球状凹部は、互いに対向する平行2面部を含む矩形挿入口を有し、前記大腿前部当て板が前記スイングアームに対して通常使用時の回動位置とは異なる組み付け回動位置にある時には、前記2面取り面部と前記矩形挿入口の前記平行2面部との面同士が互いに平行に整合して前記球状凸部を前記球状凹部内に抜き差し可能になり、前記大腿前部当て板が前記スイングアームに対して通常使用時の回動位置にある時には、前記2面取り面部と前記矩形挿入口の前記平行2面部との面が不整合になって前記球状凸部と前記球状凹部とが球面係合によって抜け止めされる請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項3】
2面取り面部は前記球状凸部の突出先端側に向かう従って2面取り幅が減少するテーパ面になっている請求項2に記載に歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−296(P2013−296A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133600(P2011−133600)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】