歩行訓練用転倒防止装置、及び歩行支援装置
【課題】歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者の体を確実に支持しながら、該歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩しかけた場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し、転倒を防止する。
【解決手段】歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する支持部材を有する歩行支援装置に設けられ、該歩行訓練者の転倒を防止する転倒防止装置であって、歩行支援装置本体側に設けられ且つ支持部材が接続されることで、歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部と、支持部材に対して制動力を与える制動ブレーキと、変位部の変位状態に基づいて、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する検知部と、検知部の検知結果に基づいて、制動ブレーキから支持部材に対して与えられる制動力を制御する制動力制御部と、を備える。
【解決手段】歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する支持部材を有する歩行支援装置に設けられ、該歩行訓練者の転倒を防止する転倒防止装置であって、歩行支援装置本体側に設けられ且つ支持部材が接続されることで、歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部と、支持部材に対して制動力を与える制動ブレーキと、変位部の変位状態に基づいて、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する検知部と、検知部の検知結果に基づいて、制動ブレーキから支持部材に対して与えられる制動力を制御する制動力制御部と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を吊り上げて支持する歩行支援装置において該歩行訓練者の姿勢の崩れを検知し転倒を防止する転倒防止装置、又は当該転倒防止装置が設けられた歩行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行障害者や高齢者等の歩行訓練は、例えば、室内に取り付けられた手摺棒や、下端に車輪を備え、歩行訓練者が押し進めながら歩行訓練を行う歩行器等が用いられていた。しかし、前記手摺棒や歩行器を用いた歩行訓練では、歩行訓練者の転倒を防ぐことは困難であり、介助者が付き添って行われていた。この介助者は、常に監視の負担を強いられており、その負担は大きかった。そこで、介助者の負担を軽減すべく、モータ駆動式の転倒防止装置を組み込んだ歩行支援装置が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
また、歩行訓練者の歩行支援装置を機械要素のみを用いて構成し、これにより歩行訓練者の転倒を防止する技術が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。このように機械要素のみで歩行支援装置を構成することで、モータやブレーキ駆動を含む歩行支援装置に比べて安価で安全面に優れた装置を提供し得る。
【0004】
ここで、歩行訓練者を誘導することでその歩行を支援する歩行支援装置に関する技術も開示されている(例えば、特許文献4を参照)。当該技術では、車輪に制御可能なブレーキが取り付けられ、このブレーキを制御することで、歩行訓練者の誘導を行う車体を目標経路に沿って好適に駆動する。
【特許文献1】特開2003−47635号公報
【特許文献2】特開2004−329278号公報
【特許文献3】特開2005−342306号公報
【特許文献4】特開2005−80856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者において、体の具合や怪我の程度等に応じて該歩行訓練者の体を丁寧に、且つ確実に支持しなければならない場合がある。そして、このように歩行訓練者の体を支持しながらその歩行訓練を行う場合には、いわば歩行訓練者は歩行支援装置に体を預けた状態になっているため、歩行訓練時に体のバランスを崩すことでダメージを受けてしまうことを確実に回避しなければならない。
【0006】
ここで、従来技術のようにモータ等のアクチュエータ駆動式の転倒防止装置を組み込んだ歩行支援装置では、アクチュエータの誤作動時に歩行訓練者にダメージを加える可能性がある。また、上記のように機械要素のみで歩行支援装置を構成しようとすると、歩行訓練者毎に適切な歩行訓練を行う等、柔軟な歩行訓練を実現することが難しくなる。
【0007】
本発明では、上記した問題に鑑み、歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者の体を確実に支持しながら、該歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩しかけた場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し、転倒を防止するための転倒防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明では、歩行訓練者の体を支持部材で支持する構成を前提として、その支持部材に接続されることで歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部の、当該変位に基づいて、ブレーキによって支持部材に制動力を与え、その動きを制御する構成とした。この構成により、歩行訓練者は、自己の体が支持部材によって支持されながら、安全な歩行支援を受けることが可能となる。
【0009】
詳細には、本発明に係る歩行訓練用転倒防止装置は、歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する支持部材を有する歩行支援装置に設けられ、該歩行訓練者の姿勢の崩れを検知し転倒を防止する転倒防止装置であって、前記歩行支援装置本体側に設けられ且つ前記支持部材が接続されることで、前記歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部と、前記支持部材に対して制動力を与える制動ブレーキと、前記変位部の変位状態に基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する検知部と、前記検知部の検知結果に基づいて、前記制動ブレーキから前記支持部材に対して与えられる制動力を制御する制動力制御部と、を備える。
【0010】
上記歩行訓練用転倒防止装置(以下、単に「転倒防止装置」とも言う。)は、支持部材によって、歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する歩行支援装置に使用される。従って、当該転倒防止装置は、歩行訓練者が歩行訓練に際して、その体が崩れ落ちることで、転倒してしまうことを防止するための装置である。ここで、歩行訓練者は、支持部材を介して変位部と連結されている。従って、変位部は、歩行訓練者の体の動き、特に歩行訓練時の体の崩れ落ちといった転倒に帰結する体の動きを直接に反映するものである。
【0011】
ここで、上記転倒防止装置では、歩行訓練者の体の動きを変位部の変位を介して認識し、検知部による体の崩れ落ちの検知又は推定が行われる。そして、その検知結果は、制動力制御部に伝えられ、制動力制御部はその結果に基づいた制動ブレーキの制御を行い、支持部材への制動力の制御を行うことで、支持部材とつながれている歩行訓練者の体を支える。
【0012】
このように、本発明に係る転倒防止装置では、支持部材に制動力を与える制動ブレーキの制御を介して、歩行訓練者の歩行支援を行うものであるから、アクチュエータ式の歩行支援装置の場合と比べても、歩行訓練者にダメージを与える可能性が極めて低い。また、制動力制御部によって制動ブレーキの制御が行われるため、該制動ブレーキの制御を多様に実行でき、以て歩行訓練者に柔軟な歩行訓練を提供できる。
【0013】
上記の転倒防止装置において、前記検知部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定するようにしてもよい。また、前記変位部は、回転変位を行うことで、接続された前記支持部材を巻取り又は巻き出すことが可能である場合は、前記検知部は、前記変位部の回転角、該変位部の回転角速度、該変位部の回転角加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定するようにしてもよい。変位部の変位については、歩行訓練者の体の動きが反映される限り、線形、非線形、回転等様々な変位を利用することが可能である。そして、これらの実変位、その一次微分である変位速度、更にその微分である変位加速度を利用することで、制動ブレーキによる制動力を好適に制御することが可能となる。
【0014】
ここで、上述までの転倒防止装置において、制動力制御部の一例として、以下に二つ示す。その一つにおいては、前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記支持部材の動きを規制する制動力が該支持部材に与えられるように、前記制動ブレーキを制御するようにしてもよい。これにより、体が
崩れ落ちそうになった歩行訓練者は、支持部材の動きが規制されることで、転倒してしまうことを確実に防止することができる。
【0015】
また、別の例においては、前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに応じた制動力が前記支持部材に対して与えられるように、前記制動ブレーキを制御するようにしてもよい。即ち、変位距離に関する係数(仮想弾性係数)に変位距離を掛けた力(仮想弾性力)、変位速度に関する係数(仮想粘性係数)に変位速度を掛けた力(仮想粘性力)、変位加速度に関する係数(仮想慣性係数)に変位加速度を掛けた力(仮想慣性力)のうち一又は複数を合算した力を、制動力制御部が制動ブレーキにより発生させることにより、その粘弾性的な制動力が支持部材を通して歩行訓練者に作用する。その結果、歩行訓練者の転倒を防止する際に、該歩行訓練者に生じる衝撃を緩和することが可能となる。
【0016】
ここで、上述までの歩行訓練用転倒防止装置において、前記支持部材と連係し、前記歩行訓練者の体重を免荷する免荷部材を、更に備えるようにしてもよい。この免荷部材によって歩行訓練者の歩行訓練時の負荷、更には歩行訓練者の体が崩れ落ち、制動ブレーキの制動力によって転倒が防止された後に、元の歩行状態に復帰しようとする時にかかる負荷、即ち姿勢復帰時の負荷を軽減することができ、以て歩行訓練者の歩行訓練を円滑に実現することが可能となる。
【0017】
ここで、上述までの転倒防止装置を有し、更に前記歩行支援装置本体であって、前記歩行訓練者と共に移動自在な歩行支援装置本体と、前記支持部材と、を有する歩行支援装置も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0018】
歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者の体を確実に支持しながら、該歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩しかけた場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し、転倒を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る転倒防止装置およびそれを搭載した歩行支援装置の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1に、本発明に係る転倒防止装置10を備えた歩行支援装置1の構成を示す。尚、図1(a)は、歩行訓練者が歩行支援装置1に吊り上げられた状態で歩行訓練をしている状態の正面図であり、図1(b)は、当該状態の側面図である。歩行支援装置においては、転倒防止装置10が後述するように制動トルクを制御することが可能なパウダーブレーキ14(図2を参照。)を用いたブレーキ式のものになっており、そのパウダーブレーキ用のバッテリを含む制御装置20が備えられている。
【0021】
詳細には、歩行支援装置1は、その外郭となる本体フレーム2を有している。図1に示すように、本体フレーム2は、歩行訓練者の頭上に位置する上部フレーム2aと、それを垂直方向に支える垂直後方フレーム2bと、本体フレーム2の底部に位置し垂直後方フレーム2bが取り付けられる底部フレーム2cと、本体フレーム2の前方で底部フレーム2cに垂直に設けられる垂直前方フレーム2dと、垂直前方フレーム2dに取り付けられ歩行訓練者の手が置ける位置に配置される水平フレーム2eを有する。
【0022】
ここで、歩行訓練者には、その体を支えるためのハーネス5が装着されており、そして
、ハーネス5と接続されたロープ3が、上部フレーム2aに設置された定滑車4を介して、転倒防止装置10に到達している。尚、転倒防止装置10は、垂直後方フレーム2b上に設けられている。更に、転倒防止装置10の下方であって、底部フレーム2c上には体重免荷装置30が設置されている。この体重免荷装置30と、転倒防止装置10とはロープ31によって連結され、歩行訓練者をロープ3によって吊り上げるための力Fwを、体重免荷装置30から転倒防止装置10を介して歩行訓練者側に伝えることで、歩行訓練者が実際に歩行訓練を行う際の負荷を軽減させることが可能となる。尚、転倒防止装置10における体重免荷装置30の作用については、後述する。
【0023】
このように構成される歩行支援装置1を用いると、歩行訓練者は、体重免荷装置30の作用によって自己の体重を支持する負荷が軽減された状態で、歩行訓練を行うことができる。また、底部フレーム2cの下側には車輪6が設けられているので、歩行訓練者は、本体フレーム2に吊り上げられた状態で、且つ該本体フレーム2とともに歩行を行うことができる。なお、体重免荷装置30は、一又は複数の定荷重バネ(ストロークによらず一定の力を発生するバネ)を使用して、歩行訓練者をロープ3によって吊り上げるための力Fwを発生させるものとしてもよい。また、定荷重バネの代わりに線形バネやねじりコイルバネ等を使用して歩行訓練者をロープ3によって吊り上げるための力Fwを発生させるものとしてもよい。
【0024】
ここで、歩行訓練者がその歩行訓練時にバランスを崩す等して、体が崩れ落ち、結果的に転倒してしまうことは歩行訓練者の安全上好ましくない。そこで、歩行支援装置1においては、歩行訓練者が転倒してしまう前に、その体の崩れ落ちを検知して、歩行訓練者が転倒してしまうのを防止するべく、転倒防止装置10およびその制御装置20が設けられている。上述したように、この転倒防止装置10はブレーキ式のものである。また、後述するように転倒防止装置10によって転倒防止のためにパウダーブレーキ14が作動した後、その制動状態にあるパウダーブレーキ14を解放するためのリモコンスイッチ21が、設けられている。このリモコンスイッチ21は介助者や歩行訓練者自身が手で操作できる位置に設置されているのであれば、特にその設置場所は制限されない。尚、このリモコンスイッチ21は、歩行訓練者等が手に持って使用可能な、いわゆるハンディタイプのスイッチでもよく、また有線式や無線式のものでも構わない。
【0025】
図2に、転倒防止装置10の構成を示す。転倒防止装置10は、主板部11に対して、4枚の副板部11a、11b、11c、11dが垂直になるように設けられている。ここで、副板部11bと11cとの間には、回転軸18aに共に固定されたドラム12とドラム13が、両副板部に対して回転可能にベアリング支持されている。また、副板部11aには、回転軸18bに連結されたエンコーダ15が取り付けられ、その回転軸18bが副板部11aと11bに対して回転可能にベアリング支持されている。尚、回転軸18bは回転軸18aと同軸上に配置され、且つカップリング16によって両回転軸は連結されている。更に、副板部11cと11dとの間には、回転軸18cに連結されたパウダーブレーキ14が、両副板部に対して回転可能にベアリング支持されている。尚、回転軸18cは回転軸18aと同軸上に配置され、且つカップリング17によって両回転軸は連結されている。
【0026】
そして、ドラム12には、歩行訓練者が装着するハーネス5に連結されているロープ3が巻かれており、一方でドラム13には、体重免荷装置30に連結されているロープ31が巻かれている。従って、体重免荷装置30から伝わる歩行訓練者の体重負荷の軽減のための力(以下、単に「体重免荷力」と言う。)Fwは、ロープ31からドラム13に伝わり、更に同じ回転軸18に固定されているドラム12を介して、ロープ3を経て歩行訓練者側に伝わっていく。これにより、歩行訓練者の歩行訓練時における負荷を軽減することが可能となる。
【0027】
また、歩行訓練者が歩行訓練を行うと、その体の動きがロープ3を伝わって、ドラム12から回転軸18a〜18cにも伝わり、これらの回転軸がその体の動きに合わせて回転変位する。ここで、上述の通り回転軸18b側にはエンコーダ15が設けられており、そこで検出された回転軸18bの回転変位量、換言すると回転軸18a〜18cおよびドラム12、13を含む回転体の回転変位量は、制御装置20へと送信される。制御装置20は、この回転変位量に関する情報に基づいて、歩行訓練者の歩行訓練時の体の動きを検知することが可能となる。
【0028】
また、パウダーブレーキ14は制御装置20と電気的に接続されており、制御装置20から出力された制御信号によって、パウダーブレーキ14が発揮する制動トルクの大きさが制御可能となる。パウダーブレーキ14によって制動トルクが発生すると、回転軸18c、18aを経てドラム12、13にも制動トルクが作用する。その結果、ロープ3を介して、歩行訓練者に対してその動きを制止する制動力が及ぼされることになる。
【0029】
また、図2に示す構成とは異なる構成を有する転倒防止装置10の例を、図3に示す。尚、図3に示す転倒防止装置と図2に示す転倒防止装置とで同一の構成については、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は省略する。図3に示す転倒防止装置10においては、主板部11に対して、2枚の副板部11eと11fが垂直になるように設けられている。ここで、副板部11eと11fとの間には、回転軸18aに共に固定されたドラム12とドラム13およびギア19cが、両副板部に対して回転可能にベアリング支持されている。また、副板部11eの外側には、回転軸18a上にギア19aが固定され、更に、そのギア19aと噛み合うギア19bが回転軸18d上に固定され、且つ該回転軸18dが副板部11eにベアリング支持されている。尚、副板部11eの内側において、回転軸18dにエンコーダ15が連結されている。
【0030】
更に、副板部11eと11fとの間には、回転軸18a上に固定されたギア19cと噛み合うギア19dが回転軸18f上に固定され、且つ該回転軸18fが副板部11fにベアリング支持されている。また、副板部11fの外側においては、この回転軸18fにパウダーブレーキ14が連結されている。このように、ギア19aとギア19bの減速関係によって、エンコーダ15の検出精度を向上させることができる。また、ギア19cとギア19dの減速関係によって、パウダーブレーキ14の回転軸18fで発生する制動トルクを増幅させてドラム12、13の回転軸18aに伝えることもできる。
【0031】
図2又は図3に示すように構成される転倒防止装置10を備える歩行支援装置1では、歩行訓練者が歩行訓練を行っているとき、体のバランスを崩すことによって体の崩れ落ちに関する動作をエンコーダ15を介して検知し、その検知結果に基づいてパウダーブレーキ14によって発揮される制動トルクの制御が行われる。その結果、歩行訓練者の転倒を確実に防止することができる。以下に、その歩行訓練時の歩行訓練者の転倒を防止するための転倒防止処理について、図4〜図8に基づいて説明する。尚、当該処理は、制御装置20内の制御ユニット(例えば、中央演算処理装置(CPU))によって所定の制御プログラムの実行により、実施される。
【0032】
図4に示す転倒防止処理は、歩行訓練者が歩行訓練を行うときに実施される処理である。この転倒防止処理は、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知した後に、早期にその転倒を防止するために有用な処理である。尚、本処理が開始されたときは、リモコンスイッチはON状態にあって、これによりパウダーブレーキ14の制動は制御可能状態となっている。先ず、S101では、歩行訓練時の転倒防止処理に必要な各種パラメータの初期設定が行われる。具体的には、このパラメータは、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知するための閾値であって、本実施例では、ドラム12、13が固定されている回転軸18aの回転角(
回転距離)θ、回転角速度θ’、回転角加速度θ’’に関する閾値が設定される。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0033】
S102では、歩行訓練者の初期の基準位置となる初期位置X0が、エンコーダ15によって計測される。以降、この初期位置X0に基づいて、歩行訓練者の体の崩れ落ちの検知が行われることになる。尚、歩行訓練者が歩行訓練を行うとき、歩行訓練者に問題が生じていないときはパウダーブレーキ14による制動トルクは働かないが、体の崩れ落ち等転倒の可能性があると判断されると、パウダーブレーキ14によって制動トルクが発揮されることになる。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0034】
S103では、S102で計測された初期位置X0を基準点として、その初期位置からの歩行訓練者の現在の位置Xが、エンコーダ15によって計測される。この計測が行われるとS104へ進み、歩行訓練者に転倒の可能性があるか否か、即ち歩行訓練者の体の崩れ落ちが発生しているか否かの判定が行われる。具体的には、S103で計測された現在位置XとS102で計測されたX0との差が、S101で設定された回転角θに関する閾値以上となっているときは、歩行訓練者に崩れ落ちが生じていると判定(肯定判定)される。また、歩行訓練者の体の動きによって生じる回転軸18aの回転角速度θ’が、S101で設定された回転角速度θ’に関する閾値以上となっているときは、歩行訓練者に崩れ落ちが生じていると判定(肯定判定)されてもよい。同様に、歩行訓練者の体の動きによって生じる回転軸18aの回転角加速度θ’’が、S101で設定された回転角加速度θ’’に関する閾値以上となっているときは、歩行訓練者に崩れ落ちが生じていると判定(肯定判定)されてもよい。尚、回転軸18aの回転角速度θ’、回転角速度θ’’は、エンコーダ15によって計測される回転角に関する情報を、時間で一次(デジタル)微分、二次(デジタル)微分することで求められる。
【0035】
S104で肯定判定されると、S105へ進みパウダーブレーキ14による制動トルクが発揮されるように、制御装置20からパウダーブレーキ14に対して制動指示が出され、回転軸18aに制動トルクが作用することになる。この制動トルクは、崩れ落ちた歩行訓練者の体が固定支持されるのに十分なトルクであり、S105の処理ではこの制動トルクがパウダーブレーキ14によって速やかに発揮される。そのため、崩れ落ちた歩行訓練者の体は安定して支えられ、転倒にまでは至らない。
【0036】
また、S105の処理が終了すると、S106へ進み、リモコンスイッチ21がOFF状態になっているか否かが判定される。S105の処理によって体を支えられている歩行訓練者は、パウダーブレーキ14の制動を解除しなければ、歩行支援装置1を再び利用することができない。そこで、その制動を解除するために、リモコンスイッチ21を操作して、初期のON状態にあるリモコンスイッチ21をOFF状態にする必要がある。そこで、S106では、支持されている歩行訓練者への体の支持を解除するか否かを判断すべく、歩行訓練者のリモコンスイッチ21の操作結果に基づいてパウダーブレーキ14の制動解除の可否を判断する。S106で肯定判定されると、S107以降の処理においてパウダーブレーキ14の制動解除が行われることになる。また、S107で否定判定されると、パウダーブレーキ14の制動解除に関して歩行訓練者の意思が示されていないため、S105の処理が継続して行われることになる。
【0037】
ここで、S104の処理で否定判定された場合、又はS106の処理で肯定判定された場合には、S107において、パウダーブレーキ14の制動状態を解放し、制動力がかかっていない状態とする。ここで、パウダーブレーキ14の制動状態が解放されると、体重免荷装置30による体重免荷力Fwが作用することになるので、歩行訓練者の立ち上がりが支援されることになる。その後、S108において歩行訓練者の歩行訓練が終了したか否かの判定が行われる。具体的には、歩行訓練者の制御装置20への指示に従って、当該
判定が行われる。S108で肯定判定されると、本転倒防止処理は終了する。一方で、S108で否定判定されると、S109での判定が行われる。
【0038】
S109では、リモコンスイッチ21がON状態に戻されているか否かが判定される。即ち、歩行訓練者が歩行訓練に復帰するべく、パウダーブレーキ14による支持制御を可能とするためにリモコンスイッチがON状態に戻されているか否かが判定される。ここで、肯定判定されるとS103以降の処理が再び行われる。また、否定判定されると、S109の判定処理が繰り返される。
【0039】
このように本転倒防止処理によると、歩行訓練者の体が崩れ落ちていないときは、体重免荷装置30により歩行訓練者にかかる負荷が軽減された状態で歩行訓練を行うことが可能である。一方で、歩行訓練者の体が崩れ落ち、転倒する可能性があると判断される場合には、パウダーブレーキ14の制動トルクで歩行訓練者の転倒が防止される。このように、転倒防止装置10に組み込まれたパウダーブレーキ14を、歩行訓練者の体の動きに連動した回転軸18aの回転変位に基づいて制御することで、歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩した場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し転倒を防止することが可能となる。
【0040】
次に、歩行訓練者が歩行訓練を行うときに実施される転倒防止処理の別の実施例について、図5に基づいて説明する。図5に示す転倒防止処理は、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知した後に、歩行訓練者の体にかかる衝撃を可及的に軽減するように支持することで、その転倒を防止するために有用な処理である。尚、図5に示す転倒防止処理のうち、図4に示す転倒防止処理中の処理と同一のものについては、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0041】
図5に示す転倒防止処理では、S104で肯定判定されると、S201へ進む。S201では、上記S103と同様に、歩行訓練者の現在の位置Xがエンコーダ15によって計測される。次に、S201での計測結果に基づいて、S202においてパウダーブレーキ14のインピーダンス制御が行われる。尚、このインピーダンス制御に用いられる仮想弾性係数(仮想バネ定数K、仮想粘性係数C、仮想慣性モーメントM)が、上記S101において初期パラメータとして設定されていることを付言する。この仮想バネ定数Kは、回転軸18aの回転角の変位量に比例してパウダーブレーキ14に制動トルクを発揮させるための係数であり、仮想粘性係数Cは、回転軸18aの回転角速度に比例してパウダーブレーキ14に制動トルクを発揮させるための係数であり、仮想慣性モーメントMは、回転軸18aの回転角加速度に比例してパウダーブレーキ14に制動トルクを発揮させるための係数である。これらの各係数は、実験等によって予め設定してもよく、また歩行訓練者によって適宜設定することができるようになっていてもよい。
【0042】
以上より、S202で行われるパウダーブレーキ14のインピーダンス制御は、パウダーブレーキ14にバネ定数Kのバネ、粘性係数Cのダンパー、慣性モーメントMの慣性体が仮想的にあると仮定したときの、それらにより発生するトルクを、制御可能なパウダーブレーキ14に発生させて、その制動トルクをあたかもショックアブソーバのように歩行訓練者側に伝える制御である。具体的には、インピーダンス制御によってパウダーブレーキ14が発揮する制動トルクτは、以下に示す式に従って制御される。
τ=K・θ+C・θ’+M・θ’’ ・・・(式1)
ここで、θは回転軸18aの角度、θ’は回転軸18aの角速度、θ’’は回転軸18aの角加速度である。
【0043】
ここで、上記式(1)において、仮想慣性モーメントM=0、仮想粘性係数C=0の場合を特にコンプライアンス制御、あるいは、スティフネス制御と呼ぶこともある。また、
仮想慣性モーメントM=0、仮想バネ定数K=0の場合を特にダンピング制御と呼ぶこともある。本発明では、これらの制御方法も含めてインピーダンス制御と定義する。
【0044】
S202の処理が終了すると、上述したS106以降の処理が順次行われることになる。ここで、歩行訓練者の体の崩れ落ちは、式(1)の第2項により速度が緩和され、同式第3項により加速度が緩和される。また、同式第1項のバネの項により、設定したパラメータ(M、K、C)に応じた距離で、歩行訓練者の転倒が防止される。尚、転倒防止装置10において、実在のバネが設置されていれば、該バネにより復元力が発生するが、パウダーブレーキ14を用いた場合では、バネによる復元力は発生できない。これにより、図6に示すように、本当のバネが設定されていれば、本来、図6の線L2で示したように振動する場合でも、復元力が作用しないため振動せず、線L1に示すように、最も落下した位置で歩行訓練者の体の動きは停止し、その転倒は防止される。この点が、実在のバネを使用した場合とパウダーブレーキ14を用いた場合の違いであるが、歩行訓練者の転倒防止時に歩行訓練者が振動するよりも、静止した状態で支持される方が望ましいと思われる。
【0045】
この図5に示す転倒防止処理によると、歩行訓練者の体が崩れ落ちていないときは、体重免荷装置30により歩行訓練者にかかる負荷が軽減された状態で歩行訓練を行うことが可能である。一方で、歩行訓練者の体が崩れ落ち、転倒する可能性があると判断される場合には、パウダーブレーキ14の制動トルクで歩行訓練者の転倒が防止される。特に、パウダーブレーキ14においてインピーダンス制御による制動トルクの制御が行われるため、パウダーブレーキ14の制動時において歩行訓練者に作用する衝撃を可及的に小さくすることができる。
【0046】
また、図4及び図5に示した転倒防止処理では、歩行訓練者の立ち上がり・姿勢復帰の判断をON−OFFのスイッチであるリモコンスイッチ21で行なったが、このリモコンスイッチ21の代わりに、歩行訓練者がスイッチを押している間はOFF状態になり、スイッチを離すと自動的にON状態になるスイッチ(例えばプッシュスイッチ等)を用いてもよい。プッシュスイッチを用いた場合も図4、図5と同じフローで転倒防止処理を行なうことができる。ON−OFFの動作を必要とするリモコンスイッチ21と異なる点は、図4のS105あるいは図5のS202により転倒が防止された後、介助者や歩行訓練者がプッシュスイッチを押すことにより、スイッチがOFF状態とされ、体重免荷装置30による体重免荷力で立ち上がりの支援がなされ、そして、歩行訓練者の立ち上がりが確認された後、プッシュスイッチから手を離すだけで自動的にスイッチがON状態とされ、歩行訓練を再開できる点である。また、歩行訓練者が立ち上がっている途中で再びバランスを崩し転倒しそうになった場合も、プッシュスイッチから手を離すだけで、S104の判定により転倒防止を行なうことが可能である。
【実施例2】
【0047】
上記の実施例では、リモコンスイッチ21等を利用して歩行訓練者の立ち上がる際のブレーキトルクの解放等を行なったが、該スイッチに代えて種々のセンサ等を用いてブレーキトルクの解放等を自動的に行なうことも出来る。その一例を、図7〜9に基づいて説明する。ここで、図7に示す歩行支援装置1は、歩行訓練者を吊り上げているロープ3の張力を計測するためにロードセル7が、ロープ3とハーネス5との間に取り付けられており、ロードセル7からの力情報が制御装置20に送られそれに基づいて歩行訓練者の立ち上がりを判定することができる。尚、図7に示す歩行支援装置1には、図1に示したリモコンスイッチ21は設けられていない。
【0048】
ここで、図8及び図9にロードセル7を用いた場合の、転倒防止処理のフローを示す。図8に示す転倒防止処理は、図4に示す転倒防止処理に対応するものであり、早期に歩行
訓練者の転倒を防止するために有用な処理である。また、図9に示す転倒防止処理は、図5に示す転倒防止処理に対応するものであり、歩行訓練者を支持する際の衝撃を緩和するのに有用な処理である。また、図8及び図9に示す転倒防止処理のうち、図4及び図5に示す転倒防止処理中の処理と同一のものについては、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0049】
先ず、図8に示す転倒防止処理においては、図4に示す転倒防止処理のうちS109の処理が削除され、且つS105、S106の処理がS401〜S405の処理に置換されている。本転倒防止処理では、S104で肯定判定されると、S401の処理が行われる。S401では、上記S103と同様に、歩行訓練者の現在の位置Xがエンコーダ15によって計測される。次に、S402では、歩行訓練者の転倒を防止すべく、上述したS105と同様にパウダーブレーキ14による制動トルクの制御が行われる。その後、S403で歩行訓練者の転倒が防止されたか否かについて、S401で計測された計測結果から得られる回転軸18aの回転角、回転角速度等に基づいてロープ3が静止しているか否かに従って判定される。S403において肯定判定されるとS404へ進む、否定判定されるとS401以降の処理が再び繰り返される。
【0050】
S404では、ロードセル7によって、歩行訓練者を吊り上げているロープ3の張力Wが計測される。その後、S405において、S404で計測されたロープ張力Wが所定の張力値W0以下であるか否かが判定される。この所定の張力値W0は、パウダーブレーキ14による制動が掛けられている状態で歩行訓練者が立ち上がることで、緩んだ状態となったロープ3の基準張力値である。尚、この基準張力値は、S101で設定される。S404で肯定判定されると、S107以降の処理が行われ、S404で否定判定されると、S404以降の処理が再び繰り返される。
【0051】
次に、図9に示す転倒防止処理においては、図8に示す転倒防止処理のうちS402の処理をS410に置換したものである。そして、S410の処理は、上述したS202の処理と同じように、パウダーブレーキ14のインピーダンス制御が行われる。
【0052】
このように、図8及び図9に示す転倒防止処理によると、歩行訓練者の転倒防止後、歩行訓練者が立ち上がろうとすると、パウダーブレーキ14は制動トルクを掛けた状態であるので、ロープ3が取り付けられた回転軸18aは回転せず、歩行訓練者を吊り上げているロープ3の張力が減少する(ロープが緩む)。そこで、S405の処理により、ロードセル7の計測値Wが、予め設定した所定の張力値W0以下になっているか否かで歩行訓練者の立ち上がりの判断を行なうものである。このように、ロードセル7を介して歩行訓練者の立ち上がりが確認された後は、パウダーブレーキ14を解放させることにより、歩行訓練者には体重免荷力が作用し、これにより立ち上がりが支援される。なお、この場合も、歩行訓練者が立ち上がり中に再度転倒しそうになっても、再び転倒防止装置10による支持が行われる。
【実施例3】
【0053】
上記の実施例2と同様に、種々のセンサ等を用いてブレーキトルクの解放等を自動的に行なう別の実施例を、図10〜12に基づいて説明する。ここで、図10に示す歩行支援装置1では、歩行訓練者の足元に該歩行訓練者の足の裏の荷重を計測する力センサ8(右足用の力センサを8a、左足用の力センサを8bとする。両者を総称するとき力センサ8と称する。)が設けられている。そして、この力センサ8aと力センサ8bからの荷重情報が制御装置20に送られ、それらの合算値に基づいて歩行訓練者の立ち上がりを判定することができる。尚、図10に示す歩行支援装置1には、図1に示したリモコンスイッチ21は設けられていない。また、力センサ8は、歩行訓練者の足の裏の荷重を計測できるものであれば、該歩行訓練者の足の裏に装着して使用するものでも、歩行訓練が行われる
歩行路に複数の力センサ8が敷き詰められている形態であっても構わない。
【0054】
ここで、図11及び図12に力センサ8を用いた場合の、転倒防止処理のフローを示す。図11に示す転倒防止処理は、図4に示す転倒防止処理に対応するものであり、早期に歩行訓練者の転倒を防止するために有用な処理である。また、図12に示す転倒防止処理は、図5に示す転倒防止処理に対応するものであり、歩行訓練者を支持する際の衝撃を緩和するのに有用な処理である。また、図11及び図12に示す転倒防止処理のうち、図4及び図5に示す転倒防止処理中の処理と同一のものについては、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0055】
先ず、図11に示す転倒防止処理においては、図4に示す転倒防止処理のうちS109の処理が削除され、且つS105、S106の処理がS501〜S505の処理に置換されている。本転倒防止処理では、S104で肯定判定されると、S501〜S505の処理が行われる。ここで、S501〜S503の処理は、上記実施例2におけるS401〜S403の処理とそれぞれ同じであるため、その詳細な説明は省略する。そこで、S503において肯定判定されS504に進んだ場合について、以下に説明する。
【0056】
S504では、力センサ8によって、歩行訓練者の足裏の荷重Qが計測される。その後、S505において、S504で計測された足裏荷重Qが所定の荷重Q0以上であるか否かが判定される。この所定の荷重Q0は、歩行訓練者が崩していた姿勢を取り戻し、その両脚で自己の体重を支持した状態となったときの両足裏の荷重の基準値である。この荷重の基準値は、S101で設定される。そして、S504で肯定判定されると、S107以降の処理が行われ、S504で否定判定されると、S504以降の処理が再び繰り返される。
【0057】
次に、図12に示す転倒防止処理においては、図11に示す転倒防止処理のうちS502の処理をS510に置換したものである。そして、S510の処理は、上述したS202の処理と同じように、パウダーブレーキ14のインピーダンス制御が行われる。
【0058】
このように、図10及び図11に示す転倒防止処理によると、歩行訓練者の転倒防止後、歩行訓練者が立ち上がろうとすると、歩行訓練者の足裏に力が掛かる。これに着目し、S505の処理により、力センサ8の計測値Qが、予め設定した所定の荷重Q0以上になっているか否かで歩行訓練者の立ち上がりの判断を行なうものである。このように、力センサ8を介して歩行訓練者の立ち上がりが確認された後は、パウダーブレーキ14を解放させることにより、歩行訓練者には体重免荷力が作用し、これにより立ち上がりが支援される。なお、この場合も、歩行訓練者が立ち上がり中に再度転倒しそうになっても、再び転倒防止装置10による支持が行われる。
【0059】
<歩行訓練者の崩れ落ち検知等に関する実施例>
なお、上述までの転倒防止装置では、歩行訓練者の位置を、ロープを巻きつけた回転軸18a等に設置したエンコーダ15で計測したが、エンコーダ15の代わりに、ポテンショメータなどの計測器を用いてもよい。さらに、歩行訓練者の身体(例えば、腰)に加速度計や傾斜計を取り付け、転倒時の高加速度や身体の傾きを計測することにより、歩行訓練者の崩れ落ちの検出・立ち上がりの検出を行ってもよい。また、身体(特に脚部)の関節に関節の角度を計測するゴニオメータを取り付け、関節(例えば膝関節)の曲げ角等により、歩行訓練者の崩れ落ちの検知・立ち上がりの検出を行っても良い。加えて、身体の関節や腰部にマーカを貼り付け、歩行支援装置内部あるいは外部に設置されたカメラでそのマーカの位置・速度・加速度を計測し、歩行訓練者の崩れ落ちの検知・立ち上がりの検知をおこなってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る転倒防止装置を備える歩行支援装置の構成を示す第一の図である。
【図2】本発明に係る転倒防止装置の構成を示す第一の図である。
【図3】本発明に係る転倒防止装置の構成を示す第二の図である。
【図4】図1に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第一のフロー図である。
【図5】図1に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第二のフロー図である。
【図6】図5に示す転倒防止処理が行われた際の、歩行訓練者の動きを示す図である。
【図7】本発明に係る転倒防止装置を備える歩行支援装置の構成を示す第二の図である。
【図8】図7に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第一のフロー図である。
【図9】図7に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第二のフロー図である。
【図10】本発明に係る転倒防止装置を備える歩行支援装置の構成を示す第二の図である。
【図11】図10に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第一のフロー図である。
【図12】図11に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第二のフロー図である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・・歩行支援装置
2・・・・本体フレーム
3・・・・ロープ
7・・・・ロードセル
8・・・・力センサ
10・・・・転倒防止装置
12・・・・ドラム
13・・・・ドラム
14・・・・パウダーブレーキ
15・・・・エンコーダ
18a、18b、18c、18d、18f・・・・回転軸
20・・・・制御装置
30・・・・体重免荷装置
31・・・・ロープ
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を吊り上げて支持する歩行支援装置において該歩行訓練者の姿勢の崩れを検知し転倒を防止する転倒防止装置、又は当該転倒防止装置が設けられた歩行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行障害者や高齢者等の歩行訓練は、例えば、室内に取り付けられた手摺棒や、下端に車輪を備え、歩行訓練者が押し進めながら歩行訓練を行う歩行器等が用いられていた。しかし、前記手摺棒や歩行器を用いた歩行訓練では、歩行訓練者の転倒を防ぐことは困難であり、介助者が付き添って行われていた。この介助者は、常に監視の負担を強いられており、その負担は大きかった。そこで、介助者の負担を軽減すべく、モータ駆動式の転倒防止装置を組み込んだ歩行支援装置が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
また、歩行訓練者の歩行支援装置を機械要素のみを用いて構成し、これにより歩行訓練者の転倒を防止する技術が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。このように機械要素のみで歩行支援装置を構成することで、モータやブレーキ駆動を含む歩行支援装置に比べて安価で安全面に優れた装置を提供し得る。
【0004】
ここで、歩行訓練者を誘導することでその歩行を支援する歩行支援装置に関する技術も開示されている(例えば、特許文献4を参照)。当該技術では、車輪に制御可能なブレーキが取り付けられ、このブレーキを制御することで、歩行訓練者の誘導を行う車体を目標経路に沿って好適に駆動する。
【特許文献1】特開2003−47635号公報
【特許文献2】特開2004−329278号公報
【特許文献3】特開2005−342306号公報
【特許文献4】特開2005−80856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者において、体の具合や怪我の程度等に応じて該歩行訓練者の体を丁寧に、且つ確実に支持しなければならない場合がある。そして、このように歩行訓練者の体を支持しながらその歩行訓練を行う場合には、いわば歩行訓練者は歩行支援装置に体を預けた状態になっているため、歩行訓練時に体のバランスを崩すことでダメージを受けてしまうことを確実に回避しなければならない。
【0006】
ここで、従来技術のようにモータ等のアクチュエータ駆動式の転倒防止装置を組み込んだ歩行支援装置では、アクチュエータの誤作動時に歩行訓練者にダメージを加える可能性がある。また、上記のように機械要素のみで歩行支援装置を構成しようとすると、歩行訓練者毎に適切な歩行訓練を行う等、柔軟な歩行訓練を実現することが難しくなる。
【0007】
本発明では、上記した問題に鑑み、歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者の体を確実に支持しながら、該歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩しかけた場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し、転倒を防止するための転倒防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明では、歩行訓練者の体を支持部材で支持する構成を前提として、その支持部材に接続されることで歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部の、当該変位に基づいて、ブレーキによって支持部材に制動力を与え、その動きを制御する構成とした。この構成により、歩行訓練者は、自己の体が支持部材によって支持されながら、安全な歩行支援を受けることが可能となる。
【0009】
詳細には、本発明に係る歩行訓練用転倒防止装置は、歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する支持部材を有する歩行支援装置に設けられ、該歩行訓練者の姿勢の崩れを検知し転倒を防止する転倒防止装置であって、前記歩行支援装置本体側に設けられ且つ前記支持部材が接続されることで、前記歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部と、前記支持部材に対して制動力を与える制動ブレーキと、前記変位部の変位状態に基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する検知部と、前記検知部の検知結果に基づいて、前記制動ブレーキから前記支持部材に対して与えられる制動力を制御する制動力制御部と、を備える。
【0010】
上記歩行訓練用転倒防止装置(以下、単に「転倒防止装置」とも言う。)は、支持部材によって、歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する歩行支援装置に使用される。従って、当該転倒防止装置は、歩行訓練者が歩行訓練に際して、その体が崩れ落ちることで、転倒してしまうことを防止するための装置である。ここで、歩行訓練者は、支持部材を介して変位部と連結されている。従って、変位部は、歩行訓練者の体の動き、特に歩行訓練時の体の崩れ落ちといった転倒に帰結する体の動きを直接に反映するものである。
【0011】
ここで、上記転倒防止装置では、歩行訓練者の体の動きを変位部の変位を介して認識し、検知部による体の崩れ落ちの検知又は推定が行われる。そして、その検知結果は、制動力制御部に伝えられ、制動力制御部はその結果に基づいた制動ブレーキの制御を行い、支持部材への制動力の制御を行うことで、支持部材とつながれている歩行訓練者の体を支える。
【0012】
このように、本発明に係る転倒防止装置では、支持部材に制動力を与える制動ブレーキの制御を介して、歩行訓練者の歩行支援を行うものであるから、アクチュエータ式の歩行支援装置の場合と比べても、歩行訓練者にダメージを与える可能性が極めて低い。また、制動力制御部によって制動ブレーキの制御が行われるため、該制動ブレーキの制御を多様に実行でき、以て歩行訓練者に柔軟な歩行訓練を提供できる。
【0013】
上記の転倒防止装置において、前記検知部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定するようにしてもよい。また、前記変位部は、回転変位を行うことで、接続された前記支持部材を巻取り又は巻き出すことが可能である場合は、前記検知部は、前記変位部の回転角、該変位部の回転角速度、該変位部の回転角加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定するようにしてもよい。変位部の変位については、歩行訓練者の体の動きが反映される限り、線形、非線形、回転等様々な変位を利用することが可能である。そして、これらの実変位、その一次微分である変位速度、更にその微分である変位加速度を利用することで、制動ブレーキによる制動力を好適に制御することが可能となる。
【0014】
ここで、上述までの転倒防止装置において、制動力制御部の一例として、以下に二つ示す。その一つにおいては、前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記支持部材の動きを規制する制動力が該支持部材に与えられるように、前記制動ブレーキを制御するようにしてもよい。これにより、体が
崩れ落ちそうになった歩行訓練者は、支持部材の動きが規制されることで、転倒してしまうことを確実に防止することができる。
【0015】
また、別の例においては、前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに応じた制動力が前記支持部材に対して与えられるように、前記制動ブレーキを制御するようにしてもよい。即ち、変位距離に関する係数(仮想弾性係数)に変位距離を掛けた力(仮想弾性力)、変位速度に関する係数(仮想粘性係数)に変位速度を掛けた力(仮想粘性力)、変位加速度に関する係数(仮想慣性係数)に変位加速度を掛けた力(仮想慣性力)のうち一又は複数を合算した力を、制動力制御部が制動ブレーキにより発生させることにより、その粘弾性的な制動力が支持部材を通して歩行訓練者に作用する。その結果、歩行訓練者の転倒を防止する際に、該歩行訓練者に生じる衝撃を緩和することが可能となる。
【0016】
ここで、上述までの歩行訓練用転倒防止装置において、前記支持部材と連係し、前記歩行訓練者の体重を免荷する免荷部材を、更に備えるようにしてもよい。この免荷部材によって歩行訓練者の歩行訓練時の負荷、更には歩行訓練者の体が崩れ落ち、制動ブレーキの制動力によって転倒が防止された後に、元の歩行状態に復帰しようとする時にかかる負荷、即ち姿勢復帰時の負荷を軽減することができ、以て歩行訓練者の歩行訓練を円滑に実現することが可能となる。
【0017】
ここで、上述までの転倒防止装置を有し、更に前記歩行支援装置本体であって、前記歩行訓練者と共に移動自在な歩行支援装置本体と、前記支持部材と、を有する歩行支援装置も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0018】
歩行訓練を行う必要がある歩行訓練者の体を確実に支持しながら、該歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩しかけた場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し、転倒を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る転倒防止装置およびそれを搭載した歩行支援装置の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1に、本発明に係る転倒防止装置10を備えた歩行支援装置1の構成を示す。尚、図1(a)は、歩行訓練者が歩行支援装置1に吊り上げられた状態で歩行訓練をしている状態の正面図であり、図1(b)は、当該状態の側面図である。歩行支援装置においては、転倒防止装置10が後述するように制動トルクを制御することが可能なパウダーブレーキ14(図2を参照。)を用いたブレーキ式のものになっており、そのパウダーブレーキ用のバッテリを含む制御装置20が備えられている。
【0021】
詳細には、歩行支援装置1は、その外郭となる本体フレーム2を有している。図1に示すように、本体フレーム2は、歩行訓練者の頭上に位置する上部フレーム2aと、それを垂直方向に支える垂直後方フレーム2bと、本体フレーム2の底部に位置し垂直後方フレーム2bが取り付けられる底部フレーム2cと、本体フレーム2の前方で底部フレーム2cに垂直に設けられる垂直前方フレーム2dと、垂直前方フレーム2dに取り付けられ歩行訓練者の手が置ける位置に配置される水平フレーム2eを有する。
【0022】
ここで、歩行訓練者には、その体を支えるためのハーネス5が装着されており、そして
、ハーネス5と接続されたロープ3が、上部フレーム2aに設置された定滑車4を介して、転倒防止装置10に到達している。尚、転倒防止装置10は、垂直後方フレーム2b上に設けられている。更に、転倒防止装置10の下方であって、底部フレーム2c上には体重免荷装置30が設置されている。この体重免荷装置30と、転倒防止装置10とはロープ31によって連結され、歩行訓練者をロープ3によって吊り上げるための力Fwを、体重免荷装置30から転倒防止装置10を介して歩行訓練者側に伝えることで、歩行訓練者が実際に歩行訓練を行う際の負荷を軽減させることが可能となる。尚、転倒防止装置10における体重免荷装置30の作用については、後述する。
【0023】
このように構成される歩行支援装置1を用いると、歩行訓練者は、体重免荷装置30の作用によって自己の体重を支持する負荷が軽減された状態で、歩行訓練を行うことができる。また、底部フレーム2cの下側には車輪6が設けられているので、歩行訓練者は、本体フレーム2に吊り上げられた状態で、且つ該本体フレーム2とともに歩行を行うことができる。なお、体重免荷装置30は、一又は複数の定荷重バネ(ストロークによらず一定の力を発生するバネ)を使用して、歩行訓練者をロープ3によって吊り上げるための力Fwを発生させるものとしてもよい。また、定荷重バネの代わりに線形バネやねじりコイルバネ等を使用して歩行訓練者をロープ3によって吊り上げるための力Fwを発生させるものとしてもよい。
【0024】
ここで、歩行訓練者がその歩行訓練時にバランスを崩す等して、体が崩れ落ち、結果的に転倒してしまうことは歩行訓練者の安全上好ましくない。そこで、歩行支援装置1においては、歩行訓練者が転倒してしまう前に、その体の崩れ落ちを検知して、歩行訓練者が転倒してしまうのを防止するべく、転倒防止装置10およびその制御装置20が設けられている。上述したように、この転倒防止装置10はブレーキ式のものである。また、後述するように転倒防止装置10によって転倒防止のためにパウダーブレーキ14が作動した後、その制動状態にあるパウダーブレーキ14を解放するためのリモコンスイッチ21が、設けられている。このリモコンスイッチ21は介助者や歩行訓練者自身が手で操作できる位置に設置されているのであれば、特にその設置場所は制限されない。尚、このリモコンスイッチ21は、歩行訓練者等が手に持って使用可能な、いわゆるハンディタイプのスイッチでもよく、また有線式や無線式のものでも構わない。
【0025】
図2に、転倒防止装置10の構成を示す。転倒防止装置10は、主板部11に対して、4枚の副板部11a、11b、11c、11dが垂直になるように設けられている。ここで、副板部11bと11cとの間には、回転軸18aに共に固定されたドラム12とドラム13が、両副板部に対して回転可能にベアリング支持されている。また、副板部11aには、回転軸18bに連結されたエンコーダ15が取り付けられ、その回転軸18bが副板部11aと11bに対して回転可能にベアリング支持されている。尚、回転軸18bは回転軸18aと同軸上に配置され、且つカップリング16によって両回転軸は連結されている。更に、副板部11cと11dとの間には、回転軸18cに連結されたパウダーブレーキ14が、両副板部に対して回転可能にベアリング支持されている。尚、回転軸18cは回転軸18aと同軸上に配置され、且つカップリング17によって両回転軸は連結されている。
【0026】
そして、ドラム12には、歩行訓練者が装着するハーネス5に連結されているロープ3が巻かれており、一方でドラム13には、体重免荷装置30に連結されているロープ31が巻かれている。従って、体重免荷装置30から伝わる歩行訓練者の体重負荷の軽減のための力(以下、単に「体重免荷力」と言う。)Fwは、ロープ31からドラム13に伝わり、更に同じ回転軸18に固定されているドラム12を介して、ロープ3を経て歩行訓練者側に伝わっていく。これにより、歩行訓練者の歩行訓練時における負荷を軽減することが可能となる。
【0027】
また、歩行訓練者が歩行訓練を行うと、その体の動きがロープ3を伝わって、ドラム12から回転軸18a〜18cにも伝わり、これらの回転軸がその体の動きに合わせて回転変位する。ここで、上述の通り回転軸18b側にはエンコーダ15が設けられており、そこで検出された回転軸18bの回転変位量、換言すると回転軸18a〜18cおよびドラム12、13を含む回転体の回転変位量は、制御装置20へと送信される。制御装置20は、この回転変位量に関する情報に基づいて、歩行訓練者の歩行訓練時の体の動きを検知することが可能となる。
【0028】
また、パウダーブレーキ14は制御装置20と電気的に接続されており、制御装置20から出力された制御信号によって、パウダーブレーキ14が発揮する制動トルクの大きさが制御可能となる。パウダーブレーキ14によって制動トルクが発生すると、回転軸18c、18aを経てドラム12、13にも制動トルクが作用する。その結果、ロープ3を介して、歩行訓練者に対してその動きを制止する制動力が及ぼされることになる。
【0029】
また、図2に示す構成とは異なる構成を有する転倒防止装置10の例を、図3に示す。尚、図3に示す転倒防止装置と図2に示す転倒防止装置とで同一の構成については、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は省略する。図3に示す転倒防止装置10においては、主板部11に対して、2枚の副板部11eと11fが垂直になるように設けられている。ここで、副板部11eと11fとの間には、回転軸18aに共に固定されたドラム12とドラム13およびギア19cが、両副板部に対して回転可能にベアリング支持されている。また、副板部11eの外側には、回転軸18a上にギア19aが固定され、更に、そのギア19aと噛み合うギア19bが回転軸18d上に固定され、且つ該回転軸18dが副板部11eにベアリング支持されている。尚、副板部11eの内側において、回転軸18dにエンコーダ15が連結されている。
【0030】
更に、副板部11eと11fとの間には、回転軸18a上に固定されたギア19cと噛み合うギア19dが回転軸18f上に固定され、且つ該回転軸18fが副板部11fにベアリング支持されている。また、副板部11fの外側においては、この回転軸18fにパウダーブレーキ14が連結されている。このように、ギア19aとギア19bの減速関係によって、エンコーダ15の検出精度を向上させることができる。また、ギア19cとギア19dの減速関係によって、パウダーブレーキ14の回転軸18fで発生する制動トルクを増幅させてドラム12、13の回転軸18aに伝えることもできる。
【0031】
図2又は図3に示すように構成される転倒防止装置10を備える歩行支援装置1では、歩行訓練者が歩行訓練を行っているとき、体のバランスを崩すことによって体の崩れ落ちに関する動作をエンコーダ15を介して検知し、その検知結果に基づいてパウダーブレーキ14によって発揮される制動トルクの制御が行われる。その結果、歩行訓練者の転倒を確実に防止することができる。以下に、その歩行訓練時の歩行訓練者の転倒を防止するための転倒防止処理について、図4〜図8に基づいて説明する。尚、当該処理は、制御装置20内の制御ユニット(例えば、中央演算処理装置(CPU))によって所定の制御プログラムの実行により、実施される。
【0032】
図4に示す転倒防止処理は、歩行訓練者が歩行訓練を行うときに実施される処理である。この転倒防止処理は、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知した後に、早期にその転倒を防止するために有用な処理である。尚、本処理が開始されたときは、リモコンスイッチはON状態にあって、これによりパウダーブレーキ14の制動は制御可能状態となっている。先ず、S101では、歩行訓練時の転倒防止処理に必要な各種パラメータの初期設定が行われる。具体的には、このパラメータは、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知するための閾値であって、本実施例では、ドラム12、13が固定されている回転軸18aの回転角(
回転距離)θ、回転角速度θ’、回転角加速度θ’’に関する閾値が設定される。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0033】
S102では、歩行訓練者の初期の基準位置となる初期位置X0が、エンコーダ15によって計測される。以降、この初期位置X0に基づいて、歩行訓練者の体の崩れ落ちの検知が行われることになる。尚、歩行訓練者が歩行訓練を行うとき、歩行訓練者に問題が生じていないときはパウダーブレーキ14による制動トルクは働かないが、体の崩れ落ち等転倒の可能性があると判断されると、パウダーブレーキ14によって制動トルクが発揮されることになる。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0034】
S103では、S102で計測された初期位置X0を基準点として、その初期位置からの歩行訓練者の現在の位置Xが、エンコーダ15によって計測される。この計測が行われるとS104へ進み、歩行訓練者に転倒の可能性があるか否か、即ち歩行訓練者の体の崩れ落ちが発生しているか否かの判定が行われる。具体的には、S103で計測された現在位置XとS102で計測されたX0との差が、S101で設定された回転角θに関する閾値以上となっているときは、歩行訓練者に崩れ落ちが生じていると判定(肯定判定)される。また、歩行訓練者の体の動きによって生じる回転軸18aの回転角速度θ’が、S101で設定された回転角速度θ’に関する閾値以上となっているときは、歩行訓練者に崩れ落ちが生じていると判定(肯定判定)されてもよい。同様に、歩行訓練者の体の動きによって生じる回転軸18aの回転角加速度θ’’が、S101で設定された回転角加速度θ’’に関する閾値以上となっているときは、歩行訓練者に崩れ落ちが生じていると判定(肯定判定)されてもよい。尚、回転軸18aの回転角速度θ’、回転角速度θ’’は、エンコーダ15によって計測される回転角に関する情報を、時間で一次(デジタル)微分、二次(デジタル)微分することで求められる。
【0035】
S104で肯定判定されると、S105へ進みパウダーブレーキ14による制動トルクが発揮されるように、制御装置20からパウダーブレーキ14に対して制動指示が出され、回転軸18aに制動トルクが作用することになる。この制動トルクは、崩れ落ちた歩行訓練者の体が固定支持されるのに十分なトルクであり、S105の処理ではこの制動トルクがパウダーブレーキ14によって速やかに発揮される。そのため、崩れ落ちた歩行訓練者の体は安定して支えられ、転倒にまでは至らない。
【0036】
また、S105の処理が終了すると、S106へ進み、リモコンスイッチ21がOFF状態になっているか否かが判定される。S105の処理によって体を支えられている歩行訓練者は、パウダーブレーキ14の制動を解除しなければ、歩行支援装置1を再び利用することができない。そこで、その制動を解除するために、リモコンスイッチ21を操作して、初期のON状態にあるリモコンスイッチ21をOFF状態にする必要がある。そこで、S106では、支持されている歩行訓練者への体の支持を解除するか否かを判断すべく、歩行訓練者のリモコンスイッチ21の操作結果に基づいてパウダーブレーキ14の制動解除の可否を判断する。S106で肯定判定されると、S107以降の処理においてパウダーブレーキ14の制動解除が行われることになる。また、S107で否定判定されると、パウダーブレーキ14の制動解除に関して歩行訓練者の意思が示されていないため、S105の処理が継続して行われることになる。
【0037】
ここで、S104の処理で否定判定された場合、又はS106の処理で肯定判定された場合には、S107において、パウダーブレーキ14の制動状態を解放し、制動力がかかっていない状態とする。ここで、パウダーブレーキ14の制動状態が解放されると、体重免荷装置30による体重免荷力Fwが作用することになるので、歩行訓練者の立ち上がりが支援されることになる。その後、S108において歩行訓練者の歩行訓練が終了したか否かの判定が行われる。具体的には、歩行訓練者の制御装置20への指示に従って、当該
判定が行われる。S108で肯定判定されると、本転倒防止処理は終了する。一方で、S108で否定判定されると、S109での判定が行われる。
【0038】
S109では、リモコンスイッチ21がON状態に戻されているか否かが判定される。即ち、歩行訓練者が歩行訓練に復帰するべく、パウダーブレーキ14による支持制御を可能とするためにリモコンスイッチがON状態に戻されているか否かが判定される。ここで、肯定判定されるとS103以降の処理が再び行われる。また、否定判定されると、S109の判定処理が繰り返される。
【0039】
このように本転倒防止処理によると、歩行訓練者の体が崩れ落ちていないときは、体重免荷装置30により歩行訓練者にかかる負荷が軽減された状態で歩行訓練を行うことが可能である。一方で、歩行訓練者の体が崩れ落ち、転倒する可能性があると判断される場合には、パウダーブレーキ14の制動トルクで歩行訓練者の転倒が防止される。このように、転倒防止装置10に組み込まれたパウダーブレーキ14を、歩行訓練者の体の動きに連動した回転軸18aの回転変位に基づいて制御することで、歩行訓練者が訓練時に体のバランスを崩した場合には、該歩行訓練者にダメージを与えることなくその体を支持し転倒を防止することが可能となる。
【0040】
次に、歩行訓練者が歩行訓練を行うときに実施される転倒防止処理の別の実施例について、図5に基づいて説明する。図5に示す転倒防止処理は、歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知した後に、歩行訓練者の体にかかる衝撃を可及的に軽減するように支持することで、その転倒を防止するために有用な処理である。尚、図5に示す転倒防止処理のうち、図4に示す転倒防止処理中の処理と同一のものについては、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0041】
図5に示す転倒防止処理では、S104で肯定判定されると、S201へ進む。S201では、上記S103と同様に、歩行訓練者の現在の位置Xがエンコーダ15によって計測される。次に、S201での計測結果に基づいて、S202においてパウダーブレーキ14のインピーダンス制御が行われる。尚、このインピーダンス制御に用いられる仮想弾性係数(仮想バネ定数K、仮想粘性係数C、仮想慣性モーメントM)が、上記S101において初期パラメータとして設定されていることを付言する。この仮想バネ定数Kは、回転軸18aの回転角の変位量に比例してパウダーブレーキ14に制動トルクを発揮させるための係数であり、仮想粘性係数Cは、回転軸18aの回転角速度に比例してパウダーブレーキ14に制動トルクを発揮させるための係数であり、仮想慣性モーメントMは、回転軸18aの回転角加速度に比例してパウダーブレーキ14に制動トルクを発揮させるための係数である。これらの各係数は、実験等によって予め設定してもよく、また歩行訓練者によって適宜設定することができるようになっていてもよい。
【0042】
以上より、S202で行われるパウダーブレーキ14のインピーダンス制御は、パウダーブレーキ14にバネ定数Kのバネ、粘性係数Cのダンパー、慣性モーメントMの慣性体が仮想的にあると仮定したときの、それらにより発生するトルクを、制御可能なパウダーブレーキ14に発生させて、その制動トルクをあたかもショックアブソーバのように歩行訓練者側に伝える制御である。具体的には、インピーダンス制御によってパウダーブレーキ14が発揮する制動トルクτは、以下に示す式に従って制御される。
τ=K・θ+C・θ’+M・θ’’ ・・・(式1)
ここで、θは回転軸18aの角度、θ’は回転軸18aの角速度、θ’’は回転軸18aの角加速度である。
【0043】
ここで、上記式(1)において、仮想慣性モーメントM=0、仮想粘性係数C=0の場合を特にコンプライアンス制御、あるいは、スティフネス制御と呼ぶこともある。また、
仮想慣性モーメントM=0、仮想バネ定数K=0の場合を特にダンピング制御と呼ぶこともある。本発明では、これらの制御方法も含めてインピーダンス制御と定義する。
【0044】
S202の処理が終了すると、上述したS106以降の処理が順次行われることになる。ここで、歩行訓練者の体の崩れ落ちは、式(1)の第2項により速度が緩和され、同式第3項により加速度が緩和される。また、同式第1項のバネの項により、設定したパラメータ(M、K、C)に応じた距離で、歩行訓練者の転倒が防止される。尚、転倒防止装置10において、実在のバネが設置されていれば、該バネにより復元力が発生するが、パウダーブレーキ14を用いた場合では、バネによる復元力は発生できない。これにより、図6に示すように、本当のバネが設定されていれば、本来、図6の線L2で示したように振動する場合でも、復元力が作用しないため振動せず、線L1に示すように、最も落下した位置で歩行訓練者の体の動きは停止し、その転倒は防止される。この点が、実在のバネを使用した場合とパウダーブレーキ14を用いた場合の違いであるが、歩行訓練者の転倒防止時に歩行訓練者が振動するよりも、静止した状態で支持される方が望ましいと思われる。
【0045】
この図5に示す転倒防止処理によると、歩行訓練者の体が崩れ落ちていないときは、体重免荷装置30により歩行訓練者にかかる負荷が軽減された状態で歩行訓練を行うことが可能である。一方で、歩行訓練者の体が崩れ落ち、転倒する可能性があると判断される場合には、パウダーブレーキ14の制動トルクで歩行訓練者の転倒が防止される。特に、パウダーブレーキ14においてインピーダンス制御による制動トルクの制御が行われるため、パウダーブレーキ14の制動時において歩行訓練者に作用する衝撃を可及的に小さくすることができる。
【0046】
また、図4及び図5に示した転倒防止処理では、歩行訓練者の立ち上がり・姿勢復帰の判断をON−OFFのスイッチであるリモコンスイッチ21で行なったが、このリモコンスイッチ21の代わりに、歩行訓練者がスイッチを押している間はOFF状態になり、スイッチを離すと自動的にON状態になるスイッチ(例えばプッシュスイッチ等)を用いてもよい。プッシュスイッチを用いた場合も図4、図5と同じフローで転倒防止処理を行なうことができる。ON−OFFの動作を必要とするリモコンスイッチ21と異なる点は、図4のS105あるいは図5のS202により転倒が防止された後、介助者や歩行訓練者がプッシュスイッチを押すことにより、スイッチがOFF状態とされ、体重免荷装置30による体重免荷力で立ち上がりの支援がなされ、そして、歩行訓練者の立ち上がりが確認された後、プッシュスイッチから手を離すだけで自動的にスイッチがON状態とされ、歩行訓練を再開できる点である。また、歩行訓練者が立ち上がっている途中で再びバランスを崩し転倒しそうになった場合も、プッシュスイッチから手を離すだけで、S104の判定により転倒防止を行なうことが可能である。
【実施例2】
【0047】
上記の実施例では、リモコンスイッチ21等を利用して歩行訓練者の立ち上がる際のブレーキトルクの解放等を行なったが、該スイッチに代えて種々のセンサ等を用いてブレーキトルクの解放等を自動的に行なうことも出来る。その一例を、図7〜9に基づいて説明する。ここで、図7に示す歩行支援装置1は、歩行訓練者を吊り上げているロープ3の張力を計測するためにロードセル7が、ロープ3とハーネス5との間に取り付けられており、ロードセル7からの力情報が制御装置20に送られそれに基づいて歩行訓練者の立ち上がりを判定することができる。尚、図7に示す歩行支援装置1には、図1に示したリモコンスイッチ21は設けられていない。
【0048】
ここで、図8及び図9にロードセル7を用いた場合の、転倒防止処理のフローを示す。図8に示す転倒防止処理は、図4に示す転倒防止処理に対応するものであり、早期に歩行
訓練者の転倒を防止するために有用な処理である。また、図9に示す転倒防止処理は、図5に示す転倒防止処理に対応するものであり、歩行訓練者を支持する際の衝撃を緩和するのに有用な処理である。また、図8及び図9に示す転倒防止処理のうち、図4及び図5に示す転倒防止処理中の処理と同一のものについては、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0049】
先ず、図8に示す転倒防止処理においては、図4に示す転倒防止処理のうちS109の処理が削除され、且つS105、S106の処理がS401〜S405の処理に置換されている。本転倒防止処理では、S104で肯定判定されると、S401の処理が行われる。S401では、上記S103と同様に、歩行訓練者の現在の位置Xがエンコーダ15によって計測される。次に、S402では、歩行訓練者の転倒を防止すべく、上述したS105と同様にパウダーブレーキ14による制動トルクの制御が行われる。その後、S403で歩行訓練者の転倒が防止されたか否かについて、S401で計測された計測結果から得られる回転軸18aの回転角、回転角速度等に基づいてロープ3が静止しているか否かに従って判定される。S403において肯定判定されるとS404へ進む、否定判定されるとS401以降の処理が再び繰り返される。
【0050】
S404では、ロードセル7によって、歩行訓練者を吊り上げているロープ3の張力Wが計測される。その後、S405において、S404で計測されたロープ張力Wが所定の張力値W0以下であるか否かが判定される。この所定の張力値W0は、パウダーブレーキ14による制動が掛けられている状態で歩行訓練者が立ち上がることで、緩んだ状態となったロープ3の基準張力値である。尚、この基準張力値は、S101で設定される。S404で肯定判定されると、S107以降の処理が行われ、S404で否定判定されると、S404以降の処理が再び繰り返される。
【0051】
次に、図9に示す転倒防止処理においては、図8に示す転倒防止処理のうちS402の処理をS410に置換したものである。そして、S410の処理は、上述したS202の処理と同じように、パウダーブレーキ14のインピーダンス制御が行われる。
【0052】
このように、図8及び図9に示す転倒防止処理によると、歩行訓練者の転倒防止後、歩行訓練者が立ち上がろうとすると、パウダーブレーキ14は制動トルクを掛けた状態であるので、ロープ3が取り付けられた回転軸18aは回転せず、歩行訓練者を吊り上げているロープ3の張力が減少する(ロープが緩む)。そこで、S405の処理により、ロードセル7の計測値Wが、予め設定した所定の張力値W0以下になっているか否かで歩行訓練者の立ち上がりの判断を行なうものである。このように、ロードセル7を介して歩行訓練者の立ち上がりが確認された後は、パウダーブレーキ14を解放させることにより、歩行訓練者には体重免荷力が作用し、これにより立ち上がりが支援される。なお、この場合も、歩行訓練者が立ち上がり中に再度転倒しそうになっても、再び転倒防止装置10による支持が行われる。
【実施例3】
【0053】
上記の実施例2と同様に、種々のセンサ等を用いてブレーキトルクの解放等を自動的に行なう別の実施例を、図10〜12に基づいて説明する。ここで、図10に示す歩行支援装置1では、歩行訓練者の足元に該歩行訓練者の足の裏の荷重を計測する力センサ8(右足用の力センサを8a、左足用の力センサを8bとする。両者を総称するとき力センサ8と称する。)が設けられている。そして、この力センサ8aと力センサ8bからの荷重情報が制御装置20に送られ、それらの合算値に基づいて歩行訓練者の立ち上がりを判定することができる。尚、図10に示す歩行支援装置1には、図1に示したリモコンスイッチ21は設けられていない。また、力センサ8は、歩行訓練者の足の裏の荷重を計測できるものであれば、該歩行訓練者の足の裏に装着して使用するものでも、歩行訓練が行われる
歩行路に複数の力センサ8が敷き詰められている形態であっても構わない。
【0054】
ここで、図11及び図12に力センサ8を用いた場合の、転倒防止処理のフローを示す。図11に示す転倒防止処理は、図4に示す転倒防止処理に対応するものであり、早期に歩行訓練者の転倒を防止するために有用な処理である。また、図12に示す転倒防止処理は、図5に示す転倒防止処理に対応するものであり、歩行訓練者を支持する際の衝撃を緩和するのに有用な処理である。また、図11及び図12に示す転倒防止処理のうち、図4及び図5に示す転倒防止処理中の処理と同一のものについては、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0055】
先ず、図11に示す転倒防止処理においては、図4に示す転倒防止処理のうちS109の処理が削除され、且つS105、S106の処理がS501〜S505の処理に置換されている。本転倒防止処理では、S104で肯定判定されると、S501〜S505の処理が行われる。ここで、S501〜S503の処理は、上記実施例2におけるS401〜S403の処理とそれぞれ同じであるため、その詳細な説明は省略する。そこで、S503において肯定判定されS504に進んだ場合について、以下に説明する。
【0056】
S504では、力センサ8によって、歩行訓練者の足裏の荷重Qが計測される。その後、S505において、S504で計測された足裏荷重Qが所定の荷重Q0以上であるか否かが判定される。この所定の荷重Q0は、歩行訓練者が崩していた姿勢を取り戻し、その両脚で自己の体重を支持した状態となったときの両足裏の荷重の基準値である。この荷重の基準値は、S101で設定される。そして、S504で肯定判定されると、S107以降の処理が行われ、S504で否定判定されると、S504以降の処理が再び繰り返される。
【0057】
次に、図12に示す転倒防止処理においては、図11に示す転倒防止処理のうちS502の処理をS510に置換したものである。そして、S510の処理は、上述したS202の処理と同じように、パウダーブレーキ14のインピーダンス制御が行われる。
【0058】
このように、図10及び図11に示す転倒防止処理によると、歩行訓練者の転倒防止後、歩行訓練者が立ち上がろうとすると、歩行訓練者の足裏に力が掛かる。これに着目し、S505の処理により、力センサ8の計測値Qが、予め設定した所定の荷重Q0以上になっているか否かで歩行訓練者の立ち上がりの判断を行なうものである。このように、力センサ8を介して歩行訓練者の立ち上がりが確認された後は、パウダーブレーキ14を解放させることにより、歩行訓練者には体重免荷力が作用し、これにより立ち上がりが支援される。なお、この場合も、歩行訓練者が立ち上がり中に再度転倒しそうになっても、再び転倒防止装置10による支持が行われる。
【0059】
<歩行訓練者の崩れ落ち検知等に関する実施例>
なお、上述までの転倒防止装置では、歩行訓練者の位置を、ロープを巻きつけた回転軸18a等に設置したエンコーダ15で計測したが、エンコーダ15の代わりに、ポテンショメータなどの計測器を用いてもよい。さらに、歩行訓練者の身体(例えば、腰)に加速度計や傾斜計を取り付け、転倒時の高加速度や身体の傾きを計測することにより、歩行訓練者の崩れ落ちの検出・立ち上がりの検出を行ってもよい。また、身体(特に脚部)の関節に関節の角度を計測するゴニオメータを取り付け、関節(例えば膝関節)の曲げ角等により、歩行訓練者の崩れ落ちの検知・立ち上がりの検出を行っても良い。加えて、身体の関節や腰部にマーカを貼り付け、歩行支援装置内部あるいは外部に設置されたカメラでそのマーカの位置・速度・加速度を計測し、歩行訓練者の崩れ落ちの検知・立ち上がりの検知をおこなってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る転倒防止装置を備える歩行支援装置の構成を示す第一の図である。
【図2】本発明に係る転倒防止装置の構成を示す第一の図である。
【図3】本発明に係る転倒防止装置の構成を示す第二の図である。
【図4】図1に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第一のフロー図である。
【図5】図1に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第二のフロー図である。
【図6】図5に示す転倒防止処理が行われた際の、歩行訓練者の動きを示す図である。
【図7】本発明に係る転倒防止装置を備える歩行支援装置の構成を示す第二の図である。
【図8】図7に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第一のフロー図である。
【図9】図7に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第二のフロー図である。
【図10】本発明に係る転倒防止装置を備える歩行支援装置の構成を示す第二の図である。
【図11】図10に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第一のフロー図である。
【図12】図11に示す歩行支援装置において実行される、歩行訓練者の歩行訓練時における転倒を防止するための処理を示す第二のフロー図である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・・歩行支援装置
2・・・・本体フレーム
3・・・・ロープ
7・・・・ロードセル
8・・・・力センサ
10・・・・転倒防止装置
12・・・・ドラム
13・・・・ドラム
14・・・・パウダーブレーキ
15・・・・エンコーダ
18a、18b、18c、18d、18f・・・・回転軸
20・・・・制御装置
30・・・・体重免荷装置
31・・・・ロープ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する支持部材を有する歩行支援装置に設けられ、該歩行訓練者の姿勢の崩れを検知し転倒を防止する転倒防止装置であって、
前記歩行支援装置本体側に設けられ且つ前記支持部材が接続されることで、前記歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部と、
前記支持部材に対して制動力を与える制動ブレーキと、
前記変位部の変位状態に基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づいて、前記制動ブレーキから前記支持部材に対して与えられる制動力を制御する制動力制御部と、
を備える、歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する、
請求項1に記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項3】
前記変位部は、回転変位を行うことで、接続された前記支持部材を巻取り又は巻き出すことが可能であって、
前記検知部は、前記変位部の回転角、該変位部の回転角速度、該変位部の回転角加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する、
請求項1に記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項4】
前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記支持部材の動きを規制する制動力が該支持部材に与えられるように、前記制動ブレーキを制御する、
請求項1から請求項3の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項5】
前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに応じた制動力が前記支持部材に対して与えられるように、前記制動ブレーキを制御する、
請求項1から請求項3の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項6】
前記支持部材と連係し、前記歩行訓練者の体重を免荷する免荷部材を、
更に備える、請求項1から請求項5の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置と、
前記歩行支援装置本体であって、前記歩行訓練者と共に移動自在な歩行支援装置本体と、
前記支持部材と、
を有する歩行支援装置。
【請求項1】
歩行訓練者が歩行訓練可能な状態となるように該訓練者を歩行支援装置本体に吊り上げて支持する支持部材を有する歩行支援装置に設けられ、該歩行訓練者の姿勢の崩れを検知し転倒を防止する転倒防止装置であって、
前記歩行支援装置本体側に設けられ且つ前記支持部材が接続されることで、前記歩行訓練者の動作に伴って変位する変位部と、
前記支持部材に対して制動力を与える制動ブレーキと、
前記変位部の変位状態に基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づいて、前記制動ブレーキから前記支持部材に対して与えられる制動力を制御する制動力制御部と、
を備える、歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する、
請求項1に記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項3】
前記変位部は、回転変位を行うことで、接続された前記支持部材を巻取り又は巻き出すことが可能であって、
前記検知部は、前記変位部の回転角、該変位部の回転角速度、該変位部の回転角加速度の少なくとも何れかに基づいて、前記歩行訓練者の体の崩れ落ちを検知又は推定する、
請求項1に記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項4】
前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記支持部材の動きを規制する制動力が該支持部材に与えられるように、前記制動ブレーキを制御する、
請求項1から請求項3の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項5】
前記検知部によって前記歩行訓練者の体の崩れ落ちが検知又は推定されると、前記制動力制御部は、前記変位部の変位距離、該変位部の変位速度、該変位部の変位加速度の少なくとも何れかに応じた制動力が前記支持部材に対して与えられるように、前記制動ブレーキを制御する、
請求項1から請求項3の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項6】
前記支持部材と連係し、前記歩行訓練者の体重を免荷する免荷部材を、
更に備える、請求項1から請求項5の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の歩行訓練用転倒防止装置と、
前記歩行支援装置本体であって、前記歩行訓練者と共に移動自在な歩行支援装置本体と、
前記支持部材と、
を有する歩行支援装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−195636(P2009−195636A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43541(P2008−43541)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
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