説明

歯ブラシ

【課題】 歯間に面する歯牙の側面部を、あわただしい朝の出勤前や通学前に、また高齢者でも操作に困難を感じずに、簡単にかつ確実に歯間をブラッシングすることができる歯ブラシを提供する。
【解決手段】 ブラシヘッド11の領域に、全部で4つ又は3つの毛束が配置され、それら毛束は、ブラシヘッドの先側に2つ配置され、その後ろ側に2つ又は1つ配置され、先側の2つの毛束の間隔Fが、下顎前歯の歯間部の間隔に、略、等しく、後ろ側の毛束のなかの1つの毛束と、先側の毛束のうちの1つの毛束との間隔Wが、下顎前歯以外の部分の平均的な隣り合う歯間部の間隔に等しいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の健康維持を容易に行うことができる歯ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康な歯の維持が、健康や美容にとって重要であり、とくに歯間の食物カスや歯垢の除去を日々の歯磨きにおいて励行することが望ましい。このため、歯ブラシによる歯磨きは重要であり、歯間ブラシなど多種類の歯ブラシが市販されている。しかし、歯間ブラシは耐久性に乏しく、何回かの使用により曲がり易くなり、遂には破断に至り易い。またワイヤの周囲に毛が外向きに設けられるため、歯間ブラシにより、極端な場合、歯が削られ円状の孔ができる場合がある。このため歯間ブラシによらずに、歯間部のブラッシングを容易にするための歯ブラシの提案がなされてきた。たとえば、歯間部のブラッシングを容易に行うことができるように、歯ブラシの毛を歯幅の間隔をあけて列状に配置する構造が提案された(特許文献1および2)。また、毛束の断面形状を三角にして、歯幅間隔で配置するなどして、歯間部のブラッシングを容易にする構造も提案されている(特許文献3)。これらの歯ブラシの利用によって、歯間部のブラッシングを、ある程度は容易に行うことが可能となった。さらに、歯幅の大きさ、または歯間部の大きさが、大まかに2種類にまとめられることに着目して、歯間のブラッシングを容易にするための歯ブラシの提案がなされている(特許文献4)。この歯ブラシでは、毛束が密に均等配置された後側領域、および複数の毛束が上記2種類の歯間部の距離を保って配置された先側領域、により構成されるブラシヘッドを備えている。この歯ブラシによれば、先側領域の毛束を1つの歯の両側の歯間部に挿入して、上記のブラッシングを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−078529号公報
【特許文献2】特開2004−237031号公報
【特許文献3】特開2007−151704号公報
【特許文献4】特許第4198740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3に開示の歯ブラシは、しかしながら、表面側または裏面側から歯間部をブラッシングすることは可能であるものの、歯ブラシの毛を歯間に挿入し、頬舌方向に往復運動させることによって歯間に面する歯牙部をブラッシングすることはできないし、そのような往復運動には全く関心が向けられていない。
特許文献4に開示の歯ブラシは、歯ブラシの毛を歯間に挿入して頬舌方向に往復運動することで歯間の歯牙をブラッシングすることはできる。しかし、意のままに歯間をブラッシングするにはある程度の技術を要する。すなわち容易性という点で不十分である。朝の出勤前、通学前に、目覚めが十分でないときでも間違いなく確実に歯間をブラッシングできるものが求められている。また、高齢者に対しても、微妙な腕の使い方など必要としないで歯間を確実にブラッシングできる歯ブラシの提供は有益である。
歯科医療の現場における経験から、隙間が生じた歯間に面する歯牙部の、頬舌方向の往復のブラッシングは健康な歯を維持する上で、非常に大切である。
本発明は、歯間に面する歯牙の側面部を、あわただしい朝の出勤前や通学前に、また高齢者でも操作に困難を感じずに、簡単にかつ確実に歯間をブラッシングすることができる歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の歯ブラシは、ブラシヘッドの領域に、全部で4つ又は3つの毛束が配置され、それら毛束は、ブラシヘッドの先側に2つ配置され、その後ろ側に2つ又は1つ配置される。そして、先側の2つの毛束の間隔が、下顎前歯の歯間部の間隔に、略、等しく、後ろ側の毛束のなかの1つの毛束と、先側の毛束のうちの1つの毛束との間隔が、下顎前歯以外の部分の平均的な隣り合う歯間部の間隔に等しいことを特徴とする。
【0006】
上記の構成によって、歯ブラシの先側領域の毛束を使って、その毛束を1つの歯の両側の根元の歯間のわずかな間隙に挿入し、貫通させて、頬舌方向の往復運動をすることができる。ブラシヘッドには多くても4本の毛束しか植設されていないので、歯牙根元の歯間への毛束の挿入の際に、歯牙に当たって邪魔をする毛束はない。また、当然、ブラシヘッドを小振りにできるので、扱いやすく、あわただしい朝の通勤前、通学前にも、頬舌方向の往復運動による歯間ブラッシングを容易に、かつ確実に行うことができる。高齢者にとっても、難しい動作は必要としない。さらに、一度に、2箇所の歯間をブラッシングできるので、効率的である。これらに加えて、この歯ブラシは小型なので携帯に便利であり、出張先、旅行先等において、毎日の習慣を欠かさず連続して、歯間ブラッシングすることを可能にする。
【0007】
ここで、注意すべきは、ヒトの歯は、上顎ではほぼ同じ大きさの歯が生え、また、下顎については、前歯は小さいが、他の部分の歯は、上記上顎の歯とほぼ同じである点に着目したことである。このため、下顎の前歯以外は、それ以外の平均的な歯間部の間隔の大きさの間隔をとっておけば、毛束の高い弾力性および柔軟性がもたらす高い融通性によって、1つの歯の両側の根元歯間に毛束を自由に挿入することが可能となる。したがって下顎の前歯以外はどの部分の歯でも、上記の歯ブラシによって歯間に面する部分のブラッシングを容易に行うことができる。幼児、子供、成人などの歯の発育年齢区分により、歯幅サイズ、しがたって隣り合う歯間部距離も変わるので、上記歯年齢区分に従った年齢別歯ブラシとしてもよい。
【0008】
ブラシヘッドの領域は、4つ又は3つの毛束の配置位置の外縁に1.5mm以下のマージンを有することができる。これによってブラシヘッドを小振りにでき、奥歯の歯間への挿入を容易にすることができる。
【0009】
歯ブラシの柄は、毛束の側と反対側の背側に凹状に湾曲する湾曲部を有し、かつ、ブラシヘッドの面を基準面として毛束の側と反対側の領域に位置する全体形状を有し、当該柄において、握り部の太さがブラシヘッドに連なる首部分より太いようにできる。これによって、あわただしい朝の出勤前、通学前でも、歯間を、容易にブラッシングすることができる。また高齢者にとっても、困難なく歯間ブラッシングをすることをしやすくなる。
【0010】
ブラシヘッドと反対側の柄の部分に第2のブラシヘッドを備え、第2のブラシヘッドに複数の毛束が密に均等配置されることができる。これによって、反対側の第2のブラシヘッド毛束を使って歯冠部または咬合箇所の歯磨きを行うことができる。この密に均等配置の毛束は、上記の4つ又は3つの毛束による歯間ブラッシングの邪魔になることはない。
【0011】
前記ブラシヘッドの領域に全部で4つの毛束を備える場合において、先側の2つの毛束同士の間隔よりも、後側の2つの毛束同士の間隔が広く、先側の毛束と後ろ側の毛束とを結ぶ線は、ブラシヘッドの中心線に対して、先側ほど当該中心線に近づくように傾斜する構成をとることができる。これによって、先側の一方の毛束と、後ろ側の一方の毛束とを、下顎前歯以外の歯の両側の歯間に挿入する際、歯ブラシを横に傾斜させて、下顎の場合および上顎の場合の両方ともに、上記の挿入を容易に行うことができる。
【0012】
ブラシヘッドの領域に全部で3つの毛束を備える場合において、前記ブラシヘッドの毛束植設部が先後逆になるように180°回転する回転機構を備えることができる。これによって、下顎前歯を歯間ブラッシングでは、(先側毛束2つ+後ろ側毛束1つ)の態様で行い、下顎前歯以外の歯間ブラッシングでは、(先側毛束1つ+後ろ側毛束2)の態様で行うことができる。下顎前歯以外の歯間ブラッシングでは、歯ブラシを横にして、先側毛束と後ろ側毛束とで、上記の傾斜をとり、挿入を容易にすることができる。この場合180°回転した定位置において、所定の応力を加えないとそれ以上回転しない係止機構などを備えることが好ましい。この場合、さらに意外性のある動的なデザインを構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯ブラシによれば、歯間に面する歯牙の側面部を、あわただしい朝の出勤前や通学前に、また高齢者でも操作に困難を感じずに、簡単にかつ確実に歯間をブラッシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1における歯ブラシを示す正面図である。
【図2】図1の歯ブラシの側面図である。
【図3】図1の歯ブラシのブラシヘッドの部分の斜視図である。
【図4】図1の歯ブラシで下顎の歯の歯間をみがくときの歯ブラシ姿勢を示す図である。
【図5】図1の歯ブラシで上顎の歯の歯間をみがくときの歯ブラシ姿勢を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2における歯ブラシを示す図である。
【図7】図6の歯ブラシのブラシヘッドを下顎右裏側の奥の歯間に挿入するときの歯ブラシ姿勢を示す図である。
【図8】図7を舌側から見た拡大図である。
【図9】本発明の実施の形態3における歯ブラシを示し、(a)は先側に2つの毛束を、その後ろ側に1つの毛束を配置した状態、(b)は(a)の状態の毛束植設板を180°回動させた状態、を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態4における歯ブラシを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における歯ブラシ10を示す正面図であり、図2は歯ブラシ10の側面図である。また図3は、ブラシヘッド11の部分の斜視図である。この歯ブラシ10では、ブラシヘッド11に、均等密度で、密に配置される毛束がなく、全部で4つの毛束が離散配置される点に特徴を持つ。すなわち歯間ブラッシングに焦点を絞り、歯間ブラッシングを主目的とする毛束のみを配置している。歯牙面や歯肉をブラッシングする密集配置した毛束がないため、邪魔をされず歯間ブラッシングに専念することができる。歯肉や歯牙面のブラッシングは、4つの毛束でも行うことができる。歯間ブラッシングの重要性は、歯肉等のブラッシングの重要性に比べて際だって大きく、歯間ブラッシングを主目的とする、上記4つの毛束によって副次的に行う程度でよい。
【0016】
ブラシヘッド11には、2列の毛束が配置されている。A列の先側の毛束Aと、その後ろ側の毛束Aとの間隔Wが、下顎前歯以外の平均的な隣り合う歯間部の間隔にほぼ等しくされている。B列についても同様であり、先側の毛束Bと後ろ側の毛束Bとの間隔Wは、下顎前歯以外の平均的な隣り合う歯間部の間隔にほぼ等しい。この毛束の間隔Wは、毛束の中心間距離とする。毛束の中心間隔Wは、成人の場合、5mm〜11mmとするのがよく、さらに共通性が高く、好ましい中心間隔Wは5mm〜8mmである。この毛束の中心間隔Wが、「列における毛束の長手方向の間隔」であり、「略、下顎前歯以外の部分の平均的な隣り合う歯間部の間隔」に対応する。毛束の平均径は、根元部で2mm以下とするのがよく、また歯間への貫通を考慮すると1.5mm以下がよく、さらに歯間の狭いヒトの場合には1.2mm以下とするのがよい。ただ、本発明の歯ブラシは、毛束は樹脂で形成されるので、柔軟性に富み、しなり易いため、少々の毛束の不適合は毛束のしなり等により、容易に解消することができる。この点で、針金を中心にして放射状に樹脂製の毛が配置される歯間ブラシとは大きく相違し、本発明の歯ブラシの大きな利点である。毛束の長さは、ブラシヘッド11の表面から7mm以上延び出ていればよい。なお、図1では、毛束は1本の円柱で表現されているが、通常の市販品と同様に、微細径の複数本(10〜30本程度)の毛(樹脂製)の束である。
【0017】
本発明の歯ブラシ10は、以下の知見とアイデアに基づいている。
(S1)歯間ブラッシングの容易性および確実性の向上:
歯間をブラッシングし、かつ咬合面や歯肉をブラッシングできる歯ブラシ10の構造において、歯間に歯ブラシの毛束を挿入し貫通する際に、その動作の邪魔をする毛束を極力なくすようにすることが重要である。そのためには、ブラシヘッド11に、歯肉や歯間部以外の歯牙面のブラッシングを主目的とする毛束を除くことが重要である。とくにあわただしい短時間の歯磨き、または高齢者の歯磨きにおいては、歯間ブラッシングを主目的とする毛束のみを配置する単純な構造とすることが重要である。
(S2)歯ブラシの操作性の向上:
ブラシヘッド11はできるだけ小振りにするのがよく、小振りにすることで奥歯の裏側からの歯間ブラッシングを容易にすることができる。このために、ブラシヘッド11の領域は、毛束の配置位置の外縁のマージンQを1.5mm以下とするのがよく、さらに1.0mm以下のマージンQとするのがよい。図1において、マージンQの部分は識別のために薄墨色にしているが、実際は、ブラシヘッド面の他の部分と変わるところはない。
また、歯ブラシの柄12は、毛束の側と反対側の背側に凹状に湾曲する湾曲部12wを有し、かつ、ブラシヘッドの面11pを基準面Kとして毛束の側と反対側の領域に位置する全体形状を有する。そして、握り部12gの太さがブラシヘッドに連なる首部分12nより太くするのがよい。
(S3)ヒトの歯の形状:
ヒトの歯は、下顎前歯以外は、大小はあるがほぼ同じである。このため、ヒトは、下顎前歯以外は、平均的な歯幅、または平均的な隣り合う歯間部の間隔(距離)を有する。そして、下顎前歯についても、平均的な歯幅、または平均的な隣り合う歯間部の間隔(距離)を有する。
(S4)毎日の歯間ブラッシングの重要性:
歯が食物カスなどにより不健康化して虫歯や歯周病になるのは、歯間にたまる食物カスなどによる要因が大きい。完璧である必要はないが、毎日、歯間の食物カスや歯垢を取り除くことにより健康な歯を維持することができる。歯間部以外の歯牙面、歯肉部のブラッシングは、極端なことを言えば、歯間部のブラッシングを毎日行っておれば、省いてもよい。
図1および図2に示す歯ブラシ10は、上記(S1)〜(S4)の考えに基づいて構成され、ブラシヘッド11には、A列とB列の離れた2列が配置され、A列の先側毛束Aとその後ろ側の毛束Aとの中心間距離W、またB列の先側毛束Bとその後ろ側の毛束Bとの中心間距離Wは、平均的な隣り合う歯間部距離とされている。
【0018】
さらに、この歯ブラシ10では、下顎前歯の歯間のブラッシングのために、A列とB列の先側の毛束AおよびBの間の中心間距離Fを、平均的な下顎前歯の隣り合う歯間部距離としている。毛束の中心間距離Fは、3mm〜6mm程度とするのがよく、共通性が高い中心間距離Fは5mm程度である。この中心間距離Fが、先側の2つの毛束の間隔である。このため、歯ブラシ10を立てて使用することにより、下顎前歯の歯間部をブラッシングすることができる。この結果、上顎、下顎のすべての歯間部を、2歯間部ずつ、すなわち1つの歯の両側の歯間部ずつ、効率よく容易にブラッシングできる。このとき、歯間ブラシの針金のように、短い使用期間で劣化して破断することもない。すべての歯間部のブラッシングが可能なことは、このあと詳細に説明する。さらに上述のように、この歯ブラシは小型なので携帯に好都合であり、出張先、旅行先等で、休止期間を作らず毎日連続して、歯間ブラッシングすることを可能にする。
【0019】
図4は、下顎の歯間部をすべてブラッシングするときの歯ブラシの姿勢を示す図である。ヒト歯の模型Mを用いおり、近心側(前歯)から遠心側(奥歯)へと、右側はR〜Rの7本、左側はL〜Lの7本の歯が生えている。前歯の歯幅dは、その他の歯の歯幅D(図4ではRの歯幅を例示している)より格段に小さい。したがって、下顎前歯の歯間部の間隔も、これに応じてその他の部分の隣り合う歯間部の間隔より小さい。隣り合う歯間部の間隔とは、たとえば、(RとRとの歯間部)と(R4とR5との歯間部)との間隔、すなわちRの両側の歯間部の間の距離をいう。
【0020】
まず、前歯について、本実施の形態における歯ブラシ10を用いて歯間をブラッシングする場合、歯ブラシ10は、図4に示すように、立てて用いる。そして、先側の毛束AおよびBにより、たとえばLを挟むようにして、Lの両側根元の歯間に毛束AおよびBを挿入し、頬舌方向または唇舌方向に沿う往復運動を行うことができる。前歯の歯間は狭いので、毛の貫通は難しい場合は、もともと食物カスは詰まりにくいので、毛先で突くだけでもブラッシングの効果を十分得ることができる。すなわち、わずかな間隙もない歯間には食物カスは溜まらず、歯垢も付着しないので、無理にこじあけて毛束を通す必要はない。また、毛束を構成する多数の毛のうち、数本のみが歯間に挿入され、残りの多くが歯面に当ってしなるような状態があってもよい。
【0021】
下額前歯以外については、図4に示すように、表側(頬側または唇側)か、裏側(舌側)か、また、右側か左側かによって、毛束のA列を使用するか、B列を使用するか変わってくる。ただし、前歯と異なり、歯ブラシは、立てずに、横向きまたは斜め横向きの姿勢で使用する。図4の右表側の場合、中心間距離Wの毛束BとBとで、歯を挟むようにして、これら毛束BとBをその歯の両側の根元の歯間に挿入し貫通して、頬舌方向の往復運動をする。毛束BとBの挿入は、右表側のR〜Rについて、同じように行うことができる。また、その裏側の右裏側については、ブラシヘッドの左右が逆になるので、毛束AとAを歯の両側根元の歯間に挿入してブラッシングすることになる。左表側については、図4に示すように、毛束AとAを根元部の歯間に挿入する。このようにして、歯間部以外の歯牙面や歯肉のブラッシングを主目的とした毛束がないので、密集毛束による邪魔(干渉)を受けずに、簡単かつ容易に、下顎について、すべての歯間部のブラッシングを容易に行うことができる。
【0022】
なお、上述の歯間に挿入されるとした毛束は、わずかな間隙もない歯間には通すことはできないし、無理に通そうとする必要はない。そして、上記挿入されるとした毛束(動作毛束)を2つずつ挙げ、この後の説明でも2つずつ挙げるが、2つの毛束の一方に対応する歯間にわずかな間隙もない場合には、一方の毛束のみを通すだけでよい。毛束は柔軟性に富むので、一方の毛束を歯間に貫通させ、他方の毛束の先を歯間の面を突くことも容易に可能とする。両方の毛束ともに歯の健康維持に有効に動作することができる。また、場合によっては、上記2つずつ挙げた毛束の一方のみを使用して、他方を使用しない意図で、歯ブラシを動作させてもよい。
【0023】
図5は、上顎の歯の模型Mを示す。下顎との最も大きな相違は、前歯が下顎のそれに比べて大きいことである。このため、上顎では前歯についても、横向きまたは斜め横向きで歯ブラシを使用する。その他の歯については、下顎の場合と同様に、密集毛束による邪魔を受けずに、簡単かつ容易に、上顎について、すべての歯間部のブラッシングを容易に行うことができる。
図4および図5に示すブラッシング方法より、本実施の形態の歯ブラシ10を用いることによって、前歯を含むすべての歯の歯間をブラッシングすることが可能になる。この歯間のブラッシングは、針金を用いる歯間ブラシと異なり、歯の摩滅などを生じないので大きな弊害はなく、かつ耐久性に優れる。このため、日々、習慣的に歯間のブラッシングを容易にすることができる。なお、図4および図5には、一つの歯の両側の歯間部ともに、毛束(動作毛束)が挿入されることを想定して示した。しかし、(1)毛束の両方ともに1つの歯の両側の歯間に挿入される場合、(2)毛束の一方のみが歯間に挿入され、他方は歯間部の表裏面をブラッシングする場合、(3)両方ともに、歯間部の表裏面をブラッシングする場合、(4)一方の毛束を使用し、他方は使用しない意図で使用した場合、であってもよい。すなわち歯間への挿入は、必須というわけではない。また、毛束が歯間に挿入されると言っても、1つの毛束のすべてが挿入されなくてもよい。なお、本発明の歯ブラシにおける毛束の配列は、歯ブラシの毛束先端を歯列に当てるときの歯との実質的な接触に基づいて定めるべきであり、したがって、たとえば、図2または図3に示す毛束の長さより短い毛束の列を、何列、付加的に設けたものであっても、本発明の範囲に含まれると解すべきである。
【0024】
上述の説明は、本実施の形態の歯ブラシの操作に習熟し、かつ理想的な歯並びのヒトが、能率を重視して、隣り合う2つの歯間部を同時にブラッシングする場合についての説明である。この場合、2つの隣り合う歯間を同時にブラッシングできるので、使用者は得をした気持ちになり、また実際のところ能率的である。しかし、実際には、歯並びの悪いヒトもおり、さらにその日の体調や気分によっては、2つの歯間部を同時にブラッシングすることがわずらわしいときもある。このような場合には、先側の1つの毛束のみを使って、1つの歯間部にのみ、その毛束を挿入して、頬舌方向に沿って往復運動をしてブラッシングをすることがあってもよい。この場合、2列あると、1列の先端の毛束が摩滅した場合、その摩滅した毛束に代えて2列目の先端の毛束を用いることができる。そして、2列の間に幅方向の間隔があるため、先端の毛束は相互に邪魔にならない。たとえば非高齢者で、出勤前のサラリーマン、通学前の生徒、学生の場合には、大抵は、本発明の歯ブラシによれば、容易かつ確実に隣り合う2つの歯間部を同時にブラッシングすることができ、使用者は効率性を享受することができる。
【0025】
上記の図4および図5は、隣り合う2つの歯間部を2つの毛束を用いて、同時にブラッシングする理想的な場合を例示したものである。このあと説明する実施の形態においても、隣り合う2つの歯間部を同時にブラッシングする場合について説明するが、1つの毛束を用いて1つの歯間部ごと順にブラッシングすることもあってもよく、そのような使い方は、実際は少なくない。しかし、1つの毛束を用いて1つの歯間部を順にブラッシングする使用方法がされたとしても、それは本発明の歯ブラシの価値を減ずるものではない。本発明の歯ブラシの構成によって、上記のように能率的に、2つの歯間部を同時にブラッシングすることが可能であり、その上で、1つの毛束により1つの歯間部ごとに順にブラッシングすることもできる。1つの歯間部ごとにブラッシングする場合でも、上述のように毛束の間隔が広い構成の故に、1つの歯間部のブラッシングに際し、周囲の毛束が他の歯につかえて障害になることがない利点、およびその他の利点をも有する。
【0026】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2における歯ブラシ10を示す図である。本実施の形態における歯ブラシの特徴は、ブラシヘッド11に植設された、A列およびB列の先側の毛束A,Bよりも、その後ろ側の毛束A,Bが、ブラシヘッド11の幅方向の端側に位置する点にある。このため、1つの列内で、先側の毛束とその後ろ側の毛束とを結ぶ直線は、歯ブラシの軸線に対して傾き、角度θをなすことになる。また、毛束の配置位置の外縁のマージンQを1.5mm以下とするのがよく、さらに1.0mm以下のマージンQとするのがよい。図6において、マージンQの部分は識別のために薄墨色にしているが、実際は、他のブラシヘッド面の部分と変わるところはない。
【0027】
このような角度θがあると、図7および図8に示すような効果を得ることができる。図7は、下顎の右裏側の歯間をブラッシングする場合の歯ブラシの配置を示し、図8は、その歯ブラシのブラシヘッド11を裏側(舌側)から見た図である。奥の歯の裏側をみがく場合、歯ブラシは傾けざるをえず、ブラシヘッド11は、自ずと傾く。この場合の歯ブラシの傾き角に、図6に示す角度θを等しくしておけば、図8に示すように、毛束A,Aを容易にR6の両側根元の歯間に挿入することができる。このため、それほど簡単ではない、また高齢者にとってはかなりの困難を伴う、裏側の奥歯のブラッシングも容易に行い、すべての部分の健康を維持するのに有益である。
【0028】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3における歯ブラシ10を示す図であり、(a)は先側に2つの毛束A,Bが位置し、その後ろ側に1つの毛束Cが位置する状態を、また(b)は先側に1つの毛束Cが位置し、その後ろ側に2つの毛束A,Bが位置する状態を、示す図である。本実施の形態では、ブラシヘッド11に全部で3つの毛束が配置される。毛束は、毛束植設板11tに植設され、その毛束植設板11tは、ヘッド基部11bに回動可能に取り付けられており、2定点(図9(a)の位置、および図9(b)の位置)で係止される。この係止はブラッシングのとき、上記2定点の位置を維持する程度の係止力を有すればよく、ブラッシングする部分(下顎前歯、それ以外の部分など)の選択に応じて、適宜、外力により、再回動できるようにするのがよい。図9(a)および(b)の位置は、次のブラッシング箇所を対象にする。
図9(a)の位置:下顎前歯の両側の歯間をブラッシングする場合
図9(b)の位置:下顎前歯以外の歯の両側の歯間をブラッシングする場合
【0029】
下顎前歯の歯間ブラッシングの場合、図9(a)の状態の歯ブラシ10を、図4に示すように、立てて用いることで、下顎前歯の歯間ブラッシングを容易に行うことができる。下顎前歯以外の歯牙の両側の歯間ブラッシングでは、図9(a)の状態のままで、歯間ブラッシングをすることは不可能ではないが、やりにくい。先側の毛束と、その後ろ側の毛束は、図6に示すような向きの傾斜を持つことが望ましい。図9(a)の状態では、先側の毛束AまたはBと、後ろ側の毛束Cとを結ぶ直線は、ブラシヘッド11の中心線と先側で交わらず、後ろ側で交わる。すなわち傾斜方向が逆である。図9(a)の状態を180°回転させて図9(b)の状態にすることで、傾斜方向は、図6に示すものと同じ方向の傾斜になり、奥歯に対して歯間ブラッシングを容易にすることができる。図9(a)および(b)に示す3つの毛束A,B,Cがなす2等辺3角形の頂角の半分の大きさは、図6に示す角度θに近づけることが望ましい。上述のように、毛束植設板11tの毛束配置領域の外縁のマージンQは1.5mm以下とするのがよく、さらに1.0mm以下のマージンQとするのがよい。図9において、マージンQの部分は識別のために薄墨色にしているが、実際は、毛束植設板11tの部分と変わるところはない。
【0030】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4における歯ブラシ10を示す図である。本実施の形態の歯ブラシは、柄の一方の端にブラシヘッド11があり、3つ又は4つの毛束が配置されており、反対側の端12eに第2のブラシヘッド21があり、その第2のブラシヘッド21に毛束22が設けられている。この毛束22は、密集したものであればどのような形態であってもよい。複数の毛束が、多少、離散的に配置されていてもよい。この密集した毛束22によって、歯間以外の歯牙面や歯肉のブラッシングをすることができる。ブラシヘッド11に配置される3つ又は4つの毛束は、実施の形態1〜3のどの形態の毛束であってもよい。
【0031】
本実施の形態の歯ブラシによれば、反対側の第2のブラシヘッド毛束を使って歯冠部または咬合箇所の歯磨きを行うことができる。この密に配置された毛束は、上記の4つ又は3つの毛束による歯間ブラッシングの邪魔になることはない。
【0032】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の歯ブラシによれば、歯間に面する歯牙の側面部を、あわただしい朝の出勤前や通学前に、また高齢者でも操作に困難を感じずに、簡単にかつ確実に歯間をブラッシングすることができる。
【符号の説明】
【0034】
10 歯ブラシ、11 ブラシヘッド、11b ブラシヘッド基部、11p ブラシヘッド面、11t 毛束植設板、12 歯ブラシの柄、12e 柄の他方の端、12g 握り部、12n 首部分、12w 背の凹状湾曲部、20 粘膜、A1 A列の先側の毛束、A2 4つの毛束の場合の後ろ側の毛束、B1 B列の先側の毛束、B2 4つの毛束の場合の後ろ側の毛束、C 全部で3つの毛束の場合の毛束の一つ、F 先側の2つの毛束の中心間隔(下顎前歯の平均的な最小歯間距離)、K ブラシヘッド面による基準面、M 歯模型、Q マージン、W 先側の毛束と後ろ側の毛束との中心間隔(下顎前歯以外の平均的な最小歯間距離)。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシヘッドの領域に、全部で4つ又は3つの毛束が配置され、
前記毛束は、前記ブラシヘッドの先側に2つ配置され、その後ろ側に2つ又は1つ配置され、
前記先側の2つの毛束の間隔が、下顎前歯の歯間部の間隔に、略、等しく、
前記後ろ側の毛束のなかの1つの毛束と、前記先側の毛束のうちの1つの毛束との間隔が、前記下顎前歯以外の部分の平均的な隣り合う歯間部の間隔に等しいことを特徴とする、歯ブラシ。
【請求項2】
前記ブラシヘッドの領域は、前記4つ又は3つの毛束の配置位置の外縁に1.5mm以下のマージンを有することを特徴とする、請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記歯ブラシの柄は、前記毛束の側と反対側の背側に凹状に湾曲する湾曲部を有し、かつ、前記ブラシヘッドの面を基準面として毛束の側と反対側の領域に位置する全体形状を有し、当該柄において、握り部の太さが前記ブラシヘッドに連なる首部分より太いことを特徴とする、請求項1または2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記ブラシヘッドと反対側の柄の部分に第2のブラシヘッドを備え、第2のブラシヘッドに毛束が配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記ブラシヘッドの領域に全部で4つの毛束を備える場合において、先側の2つの毛束同士の間隔よりも、後側の2つの毛束同士の間隔が広く、先側の毛束と後ろ側の毛束とを結ぶ線は、ブラシヘッドの中心線に対して、先側ほど当該中心線に近づくように傾斜していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記ブラシヘッドの領域に全部で3つの毛束を備える場合において、前記ブラシヘッドの毛束植設部が先後逆になるように180°回転して係止感を得ることができる回転機構を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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