説明

歯付ベルトの製造方法

【課題】 外観形状の正確な歯部を出現させるとともに加硫したベルトスリーブの両端部から切断した歯部に残留する空気を除去した歯付ベルトの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 歯付ベルトの製造方法において、円筒状帆布1をモールド11に装着する工程と、モールド溝部12の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシート17をこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布1と未加硫ゴムシート17を巻き付けたモールド11を加熱加圧して、円筒状帆布1と未加硫ゴムシート17をモールド溝部12に圧入する工程と、心線21をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシート24を積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを一体的に加硫成型してベルトスリーブを作製する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は歯付ベルトの製造方法に係り、外観形状の正確な歯部を出現させるとともに加硫したベルトスリーブの両端部から切断した歯部に残留する空気を除去した歯付ベルトの製造方法を提供することにある。
【0002】
【従来の技術】従来の歯付ベルトは、クロロプレンを原料ゴムとするゴム配合物を歯部と背部に、SBR系のビニルピリジンラテックスをラテックス成分とするRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)液にて接着処理されたガラス繊維コードもしくはアラミド繊維コードを心線に、そして捲縮加工されたナイロンを緯糸としてベルト長手方向に使用されたカバー帆布から構成され、自動車用OHC駆動(オーバーヘッドカム駆動)用のベルトとして使用されている。
【0003】上記歯付ベルトの製造方法では、通常モールドの上にカバー帆布、心線、そして未加硫ゴムシートを積層した後、ジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧して加硫スリーブをモールドより脱型し、以下スリーブの背面を研磨した後、所定幅に切断していた。
【0004】また、他の歯付ベルトの製造方法として、モールドの上にカバー帆布、心線、そして未加硫ゴムシートを積層した後、ジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧し未加硫ゴムを溝部に流し込んで型付けした後、モールドを冷却し、この上に他の未加硫ゴムシートを積層して加硫してベルトを作製する方法が特表平2−500009号公報に開示されている。
【0005】更に、上記のカバー帆布は一般にジョイント部があり、帆布の端部を合わせて加熱溶融し接合するホットメルトジョイントや、またジョイント部の強度を高めるためにミシンによりジョイントする方法が採用されている。OHC駆動用歯付ベルトの場合には、エンジンルームのコンパクト化やFF化によって使用する環境温度が高温となり、ホットメルトジョイントでは強度的に充分耐えることができないために、主になっている。
【0006】ミシンジョイントにおいては、ジョイント部が歯谷部や歯底の角部に位置する場合には、ジョイント部のミシン糸が大きく伸ばされ、最後には切断して帆布を開口させ、亀裂を発生させることがあった。このため、本出願人は特公平3−18821号公報においてこれを改善した。この方法では、ミシン縫いした円筒状帆布の内側のジョイント部に針金を挿入し、これをモールドに挿入装着し、コードをスピニングした後、上記針金を抜き取り、この上に未加硫ゴムを積層して加硫することにより、ベルトスリーブを作製していた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】今までの歯付ベルトの製造方法では、成形、加硫の手順が簡単で量産し易い長所があるが、その反面未加硫ゴムをスピニングで整列させた心線の隙間から流し込むので、圧入時間が長くかかる問題があった。
【0008】また、モールド溝部に存在している空気は、ゴムが圧入され流れ込まれてくるにつれ、モールドの上方位置及び下方位置から順に逃げていくことになる。モールド溝部の圧入成形はモールドの中央から両端部へ順に出来上がることになり、結局両端部の圧入が最後になるため、加硫スリーブを所定幅に切断して得られベルトのうち、特にスリーブの両端部から切断されたベルトは、切断された歯部側面に空気が残留する場合がごく僅かに発生していた。更に、この部位から切断したベルトは、正規のものに比べて歯の高さが低く帆布表面の光沢もない外観不良が発生していた。
【0009】上記の問題はモールド面長を長くすればする程、圧入時間を短くすればする程、ゴム粘度を高いものにすればする程、心線のピッチを密にすればする程に起こりやすくなる。
【0010】一方、ミシンジョイント部の場合、ミシン縫いの強さは帆布の剛さや、またミシン縫いする際に帆布表面の状態によってその送り量に変化(スリップ率の変化)が生じた場合などに変わりやすく、これらの状態が変わった場合に、同じミシン縫い条件でもミシン縫いの強さがバラツクことがあった。そして、縫いが強くても、また弱くても、歯付ベルトが不良になっていた。
【0011】例えば、縫いが強い円筒状帆布は、ジョイント部が突き上がった形態になり、これを歯付ベルトの製造に使用すると、ジョイント部の突き上がり部が歯部内に埋設し、この部分から早期の亀裂が発生してベルト走行時における早期のワレ不良の原因になっていた。
【0012】一方、縫いが弱くなると、モールドの歯部表面に位置する帆布はコードで押されられているために動かないが、溝部の帆布はゴムの流れにより局部的にミシン糸が伸ばされ、歯付ベルトの製造中の未加硫ゴムがこの部分から溢れ出る、いわゆるパンク不良が発生した。これが発生したベルトはゴムがプーリに接するときに音が発生した。
【0013】本発明はこのような問題点を改善するものであり、主として外観形状の正確な歯部を出現させるとともに加硫したベルトスリーブの両端部から切断した歯部に残留する空気を除去した歯付ベルトの製造方法を提供することにある。更には、ミシン縫いした円筒状帆布におけるジョイント部の位置を正確に設定でき、正確に歯部を出現させるとともにジョイント部からのゴムの滲み出しを無くして外観を良好にし、更に該ジョイント部からの早期の亀裂や発音を防止した歯付ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】即ち、本願の請求項1記載の発明では、長さ方向に沿って所定間隔で設けた歯部とその反対側に設けた背部との間に心線を埋設し、該歯部の表面に帆布を被覆した歯付ベルトの製造方法において、円筒状帆布をモールドに装着する工程と、モールド溝部の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシートをこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドを加熱加圧して、該円筒状帆布と未加硫ゴムシートをモールド溝部に圧入する工程と、心線をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシートを積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを一体的に加硫成型してベルトスリーブを作製する工程、からなる歯付ベルトの製造方法にあり、予め未加硫ゴムがモールド溝部に圧入充満されるために空気の残留が少なくなり、スリーブの両端部から切断されたベルトも歯部内に空気が残留せず、また帆布表面の光沢もよく外観形状も正常になる。
【0015】本願の請求項2記載の発明では、長さ方向に沿って所定間隔で設けた歯部とその反対側に設けた背部との間に心線を埋設し、該歯部の表面に帆布を被覆した歯付ベルトの製造方法において、挿入棒を、円筒状帆布の外側に位置するミシン縫いしたジョイント部に差し込む工程と、上記挿入棒を差し込んだ円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着する工程と、モールド溝部の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシートをこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドを加熱加圧して、該円筒状帆布と未加硫ゴムシートをモールド溝部に圧入する工程と、上記挿入棒を抜き取った後に心線をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシートを積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを加硫成型してベルトスリーブを作製する工程、からなる歯付ベルトの製造方法にある。
【0016】本発明では、請求項1記載の発明の効果に加えて、上記挿入棒を差し込んだ円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着するため、成形中にジョイント部の位置が変わることなく、歯部表面にジョイント部を配置することによりジョイント部からの早期の亀裂や発音を防止することもできる。
【0017】本願の請求項3記載の発明では、モールド溝部に圧入する未加硫ゴムシートと背部を形成する未加硫ゴムシートとが加硫後のゴム物性が相違するように配合した歯付ベルトの製造方法にあり、歯部と背部とのゴム物性、例えばゴム硬度を目的に応じて変えることができる。
【0018】本願の請求項4記載の発明では、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドにジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧して未加硫状態で型付けを行う歯付ベルトの製造方法であり、型付けを確実に行うことができる。
【0019】本願の請求項5記載の発明では、円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着した後、該挿入棒をモールドに設けた貫通孔に嵌入し、かつモールド溝部の底面方向に向かって移動する歯付ベルトの製造方法であり、特に挿入棒をモールドに設けた貫通孔に嵌入してモールド溝部の底面方向に向かって移動可能に設置することにより、ミシン縫いした円筒状帆布のジョイント部をモールド溝部に合わせる位置合わせの作業も確実で、かつ迅速に行うことができ、更には挿入棒のモールド溝部への移動を自由に行うことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】図1〜図8はそれぞれ本発明に係る歯付ベルトの製造工程を示している。そのうち図1は使用する円筒状帆布の斜視図である。この円筒状帆布1は平織物、綾織物、朱子織物等からなり、ベルト長手方向の緯糸2はアラミド繊維、6ナイロン、6.6ナイロン、12ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維等であり特に限定されないが、中でもパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸を含んだ糸が好ましい。このパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸にメタ系アラミド繊維からなる糸を含めることができる。
【0021】具体的な緯糸2の構成は、パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸、メタ系アラミド繊維からなる紡績糸、そしてウレタン弾性糸の3種の糸を合撚したものである。また、他の緯糸2構成は、パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸、脂肪族繊維糸(6ナイロン、66ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等)、そしてウレタン弾性糸の3種の糸を合撚したものでもよい。
【0022】また、円筒状帆布1の経糸3としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維からなるアラミド繊維のフィラメント糸、6ナイロン、6.6ナイロン、12ナイロン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル等のフィラメント糸からなる。好ましくは、アラミド繊維のフィラメント糸が緯糸2にパラ系アラミド繊維のフィラメント原糸を収束したマルチフィラメント糸を使用すれば、剛性のバランスが取れ、均一な厚みのカバー帆布になる。
【0023】上記パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸は、0.3〜1.2デニールのフィラメント原糸を複数収束したものを複数本寄せ集めたマルチフィラメント糸、あるいは0.3〜1.2デニールのフィラメント原糸を複数収束したマルチフィラメント糸であり、例えば商品名ケブラー、テクノーラ、トワロンからなっている。このフィラメント原糸の太さが0.3デニール未満であると、ベルト長手方向のカバー帆布の引張強さが低下し、またプーリとの接触による耐摩耗性に劣ってくる。一方、フィラメント原糸の太さが1.2デニールを越えると、製織後においてカバー帆布として接着処理をする際に、その過程でパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸を打込んだ方向の糸の剛性が過大になるため、帆布としての経糸と緯糸のバランスが取れなくなって、布厚みの不均一でシワが発生した状態となり、均一なPLD値が要求される歯付ベルトには使用できない。
【0024】また、ベルト長手方向の緯糸全量の20〜80重量%がパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸が好ましい。この理由として、20重量%未満ではベルト長手方向の帆布の引張強さが低下し、高負荷でのベルト走行時に歯欠けが発生しやすくなり、また一方80重量%を越えると、パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸の打込み方向の剛性が前記理由と同じく過大になるため、均一な厚みの帆布を得ることできなくなるためである。
【0025】ジョイント部4は、円筒状帆布1の端部を突き合わせて、6ナイロン、6.6ナイロン、12ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミドなどのフィラメント撚糸、モノフィラメント糸よりなるミシン糸6を通して縫い合わせる。
【0026】上記帆布1は、RFL液、イソシアネート溶液あるいはエポキシ溶液によって予め処理される。RFL液はレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはスチレン.ブタジエン.ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンなどのラテックスである。
【0027】円筒状帆布1のミシン縫いの強さは、ミシン縫い目のミシン糸と帆布との間に挿入棒を押し込む抵抗値によって測定され、通常1〜5kgの範囲に設定された大きさのものを使用する。この測定方法は、先端が鋭角の針状態になったステンレス鋼のような長さ200〜500mm、直径1〜3mmの差込棒をテンションゲージに溶接にて装着したミシン縫い強さ測定治具を使用して挿入時における機械的な抵抗値を測定するもので、具体的には差込棒を円筒状帆布外側のミシン縫い目のミシン糸と帆布との間に100〜400mm程度差し込み、押し込み圧である機械的抵抗値の最大値をテンションゲージにより定量的に測定できる。ミシン縫いの強さが小さい場合には、機械的な抵抗値は小さく、逆にミシン縫いの強さが大きい場合には、機械的な抵抗値は大きくなる。
【0028】本発明の場合、機械的な抵抗値を1kg未満になると、ミシン糸が伸ばされ、加硫成型中において未加硫ゴムがジョイント部4から溢れ出ることがあり、一方抵抗値が5kgを超えると、ジョイント部4で突き上がった形態になり、これを使用すると、ジョイント部4の突き上がり部が歯部21内に埋設し、この部分から早期の亀裂が発生し、ベルト走行時のワレ不良になる。
【0029】図2及び図3は挿入棒10を円筒状帆布1の外側に位置するミシン縫いしたジョイント部4に差し込んだ状態を示している。挿入棒10は先端が鋭角形状で、断面が円形、楕円形のような丸形の細長い針金のような剛性を有する金属や合成樹脂製であり、円筒状帆布1外側のミシン縫い目のミシン糸6と帆布1との間に差し込まれ、円筒状帆布1の全幅にまたがっている。
【0030】挿入棒10はモールド溝部12に充分に侵入できる程度の断面積を有しているが、その断面積は通常モールド溝部12の容積の30%未満が好ましい。30%以上になると、挿入棒10がジョイント部4から抜きにくくなり、ミシン糸6が伸ばされてジョイント部4の変形や切断が起こりやすくなる。
【0031】図4は挿入棒10を差し込んだ円筒状帆布1を、挿入棒10がモールド溝部12に位置するようにモールド11に挿入している状態を示している。挿入棒10はジョイント部4を正確にモールド溝部12に位置することができる。特に、円筒状帆布1を正確に位置固定するために、図5に示すようにモールド11のフランジ部13に一定間隔で貫通孔15を配し、挿入棒10の端部を該貫通孔15に嵌入して係止すればよい。上記貫通孔15は挿入棒10がモールド溝部12の底面方向へ向かって移動出来る程度の大きさである。
【0032】次の工程では、図6に示すように未加硫ゴムシート17を円筒状帆布1とともにモールド溝部12に押し込んで型付けする工程である。具体的には、モールド溝部12の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシート17をこの上に巻き付け、そしてこの上にジャケット18を被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧して型付けを行う。上記未加硫ゴムシート17の厚さは、モールド溝部12の容積に等しい厚さを有するか、もしくは最小でモールド溝部12容積の1/3に相当する厚さをもったものが好ましい。1/3未満になると、充分な型付けができなくなる。
【0033】加熱加圧の条件は、温度が150〜165℃、時間が2〜4分、外圧が5〜10kg/cm2 である。加熱加圧は未加硫ゴムシートの流れと円筒状帆布1の熱変形を容易にしてモールド溝部12で型付けを行う。
【0034】上記の型付けを行ったモールド11は、図8R>8に示すように、その上に心線21を形成するガラス繊維コードあるいはアラミド繊維コードをスパイラルに巻き付け、そして歯部22及び背部23を形成する未加硫ゴムシート24を積層した後、これにジャケットを被せ加硫缶に入れて加硫する。加硫成型中、未加硫ゴムシート24の一部をモールド溝部12へ流し込み、ベルトスリーブを作製する。加硫したベルトスリーブをモールド11から抜き取った後、これを切断機の2つの軸に取り付け、張力を与えて回転させながら、カッターによって所定幅に切断して歯付ベルト20を作製する。
【0035】無論、本発明では、挿入棒10を差し込まない円筒状帆布1を使用することができる。この場合にも上記と同様に、円筒状帆布1をモールド11に装着した後、モールド溝部12の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシート17をこの上に巻き付け、円筒状帆布1と未加硫ゴムシート17を巻き付けたモールド1を加熱加圧して、該円筒状帆布1と未加硫ゴムシート17をモールド溝部12に圧入し、そして心線21をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシート24を積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを一体的に加硫成型してベルトスリーブを作製し、所定幅に切断して歯付ベルト20を作製する。
【0036】上記の未加硫ゴムシート17と24としては水素化ニトリルゴムを始めとして、水素化ニトリルゴムに不飽和カルボン酸の金属塩を添加したもの、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、クロロプレンゴムなどの耐熱老化性の改善されたゴムが好ましい。尚、水素化ニトリルゴムは水素添加率が80%以上であり、耐熱性及び耐オゾン性の特性を発揮するためには90%以上が良い。水素添加率80%未満の水素化ニトリルゴムは、耐熱性及び耐オゾン性は極度に低下する。
【0037】また、上記未加硫ゴムシート17と24のゴム物性を目的に応じて変えることができる。例えば歯部に相当する未加硫ゴムシート17のゴム硬度を大きくし、背部に相当する未加硫ゴムシート24のゴム硬度をそれに比べて小さくしたり、また未加硫ゴムシート17の流れを未加硫ゴムシート24より良好にすることが出来る。更には、未加硫ゴムシート17と24の色を変えたり、未加硫ゴムシート17にベルトの幅方向あるいは長手方向に配列した短繊維を混入することもできる。
【0038】図9は本発明に係る歯付ベルトの側面図であり、歯付ベルト20はベルト長手方向に沿って複数の歯部22とガラス繊維コードあるいはアラミド繊維コードからなる心線21を埋設した背部23とからなり、上記歯部22の表面には円筒状帆布1が貼着され、また帆布1のジョイント部4が大きく歯部22内に侵入せず、またミシン糸6も伸張していない。
【0039】
【実施例】以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。
実施例1帆布の経糸に1.5デニールのパラ系アラミド繊維のフィラメント原糸を収束した200デニールのフィラメント糸と、そして緯糸(テクノーラ200D /2本とコーネックス30番手とスパンデックス140D /1本からなる)と緯糸(テクノーラ200D /1本)を使用し、織時組織(経110本/5cm、緯120本/5cm)からなる2/2綾織帆布を製織した。製織後、帆布を水中にて振動を与えて製織時の幅の約1/2幅まで収縮させた後、水素化ニトリルゴム配合物をメチルエチルケトン中に溶解し、イソシアネートを添加した処理液に浸漬、乾燥し0.9mmの処理帆布とした。上記帆布は緯糸方向をベルトの長手方向に使用した。
【0040】上記の処理帆布を所定長さに切断した後、帆布の端部を突き合わせ、ミシン糸として6ナイロンのモノフィラメント糸を使用し、また帆布の送り速度を調節して円筒状帆布1を作製した。そして、円筒状帆布1の外側にミシン糸6と帆布1との間に直径2.5mm、長さ1200mmの針金からなる挿入棒10を差し込んだ。
【0041】心線21として、溶融紡糸され、シランカップリング剤で表面処理された素線径約9μmのガラス繊維フィラメント約200本を束ねてストランドとし、3本のストランドを引き揃えてRFL液中に浸漬し、130℃で2分間乾燥、250〜300℃で2分間ベーキング後、下撚りを約12回/10cmにてS方向に撚った下撚り糸と、同回数Z方向に撚った下撚り糸を準備した。
【0042】次にS方向の下撚り糸を13本引き揃え、上撚りを約8回/10cmの割合でZ方向に撚られたガラス繊維コードとし、また同様にZ撚り下撚り糸を同様に13本引き揃え、S方向に8回/10cmの撚り数のガラス繊維コードとした。そして、RFL処理ガラス繊維コードを背部、歯部そして歯布に接着させるために、更にゴム組成物を溶剤に溶解させ、イソシアネートを添加したオーバーコート液に浸漬、乾燥させて心線となるガラス繊維コードを作製した。
【0043】歯付ベルトの作製では、前記挿入棒10を差し込んだ円筒状帆布1を、挿入棒10がモールド溝部12に位置するようにモールド11に挿入して装着した後、モールド溝部12の容積に相当する厚さをもった1.6mm厚の未加硫ゴムシート17をこの上に巻き付け、その上にジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧した。条件としては、温度153°C、時間3分、外圧7kg/cm2 であった。
【0044】型付けしたモールド11から挿入棒10を抜き取り、この上に前記ガラス繊維コードをスピニングした後、更に背部23に相当する厚さ1.0mmの水素化ニトリルゴム配合物からなる未加硫ゴムシート24を巻き付けた。続いて、これを従来通りに温度153°C、時間20分、外圧9.0kg/cm2 で加硫し、得られたベルトスリーブを所定の幅に切断して個々のベルトを得た。ベルトのサイズは105S8M19(ベルトの歯型:STPDタイプ、歯数:105、ベルト幅:19.1mm、歯ピッチ:8mm)であった。ベルトスリーブの両端部から切断された歯付ベルトも歯部内に空気が残留せず、また帆布表面の光沢もよく外観形状も正常であった。また、得られた複数の歯付ベルトのジョイント部を外観検査した結果、いずれのベルトにおいてもゴムの滲み出しは観測されず、また所定位置に存在していた。
【0045】実施例2挿入棒10を差し込んだ円筒状帆布1を、挿入棒10がモールド溝部12に位置するようにモールド11に挿入して装着した後、モールド溝部12の容積の約2/3に相当する厚さ1.6mmの未加硫ゴムシート17をこの上に巻き付け、その上にジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧した。条件としては、温度153°C、時間7分、圧力3分であった。
【0046】モールド11から挿入棒10を抜き取り、この上に前記ガラス繊維コードをスピニングした後、更に水素化ニトリルゴム配合物からなる厚さ1.0mmの未加硫ゴムシート24を巻き付けた。続いて、これを従来通りに温度153°C、時間20分、外圧9.0kg/cm2 で加硫して、得られたベルトスリーブを所定の幅に切断して個々のベルトを得た。ベルトのサイズは105S8M19(ベルトの歯型:STPDタイプ、歯数:105、ベルト幅:19.1mm、歯ピッチ:8mm)であった。ベルトスリーブの両端部から切断された歯付ベルトも歯部内に空気が残留せず、また帆布表面の光沢もよく外観形状も正常であった。
【0047】
【発明の効果】以上のように本願の請求項1記載の発明では、円筒状帆布をモールドに装着する工程と、モールド溝部の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシートをこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドを加熱加圧して、該円筒状帆布と未加硫ゴムシートをモールド溝部に圧入する工程と、心線をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシートを積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを一体的に加硫成型してベルトスリーブを作製する工程、からなる歯付ベルトの製造方法にあり、予め未加硫ゴムがモールド溝部に圧入充満されるために空気の残留が少なくなり、スリーブの両端部から切断されたベルトも歯部内に空気が残留せず、また帆布表面の光沢もよく外観形状も正常になる効果がある。
【0048】本願の請求項2記載の発明では、挿入棒を、円筒状帆布の外側に位置するミシン縫いしたジョイント部に差し込む工程と、上記挿入棒を差し込んだ円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着する工程と、モールド溝部の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシートをこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドを加熱加圧して、該円筒状帆布と未加硫ゴムシートをモールド溝部に圧入する工程と、上記挿入棒を抜き取った後に心線をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシートを積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを加硫成型してベルトスリーブを作製する工程、からなる歯付ベルトの製造方法にあり、請求項1記載の発明の効果に加えて、上記挿入棒を差し込んだ円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着するため、成形中にジョイント部の位置が変わることなく、歯部表面にジョイント部を配置することによりジョイント部からの早期の亀裂や発音を防止することもできる効果がる。
【0049】本願の請求項3記載の発明では、モールド溝部に圧入する未加硫ゴムシートと背部を形成する未加硫ゴムシートとが加硫後のゴム物性が相違するように配合した歯付ベルトの製造方法にあり、歯部と背部とのゴム物性を目的に応じて変えることができる。例えば歯部のゴム硬度を大きくし、背部のゴム硬度をそれに比べて小さくすることができる。
【0050】本願の請求項4記載の発明では、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドにジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧して未加硫状態で型付けを行う歯付ベルトの製造方法であり、型付けを確実に行うことができる効果がある。
【0051】本願の請求項5記載の発明では、円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着した後、該挿入棒をモールドに設けた貫通孔に嵌入し、かつモールド溝部の底面方向に向かって移動する歯付ベルトの製造方法であり、特に挿入棒をモールドに設けた貫通孔に嵌入してモールド溝部の底面方向に向かって移動可能に設置することにより、ミシン縫いした円筒状帆布のジョイント部をモールド溝部に合わせる位置合わせの作業も確実で、かつ迅速に行うことができ、更には挿入棒のモールド溝部への移動を自由に行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る歯付ベルトの製造方法において使用するミシン縫いした円筒状帆布の斜視図である。
【図2】挿入棒をミシン縫いした円筒状帆布の外側に位置するジョイント部に差し込んだ状態を示す図である。
【図3】図2に示すジョイント部の拡大図である。
【図4】挿入棒を差し込んだ円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するように溝付モールドに挿入している状態を示す正面図である。
【図5】貫通孔を有する溝付モールドのフランジ部の部分拡大図である。
【図6】円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドにジャケットを被せた状態を示す図である。
【図7】ジョイント部を型付けした状態を示す部分拡大図である。
【図8】型付けしたモールドの上にコードからなる心線をスピニングした後、未加硫ゴムを積層した成形している状態を示すモールドの断面図を示す。
【図9】本発明の方法によって得られた歯付ベルトの側面図である。
【符号の説明】
1 円筒状帆布
4 ジョイント部
8 予備成形体
10 挿入棒
11 モールド
12 モールド溝部
17 未加硫ゴムシート
21 心線
24 未加硫ゴムシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 長さ方向に沿って所定間隔で設けた歯部とその反対側に設けた背部との間に心線を埋設し、該歯部の表面に帆布を被覆した歯付ベルトの製造方法において、円筒状帆布をモールドに装着する工程と、モールド溝部の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシートをこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドを加熱加圧して、該円筒状帆布と未加硫ゴムシートをモールド溝部に圧入する工程と、心線をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシートを積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを一体的に加硫成型してベルトスリーブを作製する工程、からなることを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項2】 長さ方向に沿って所定間隔で設けた歯部とその反対側に設けた背部との間に心線を埋設し、該歯部の表面に帆布を被覆した歯付ベルトの製造方法において、挿入棒を、円筒状帆布の外側に位置するミシン縫いしたジョイント部に差し込む工程と、上記挿入棒を差し込んだ円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着する工程と、モールド溝部の容積もしくはそれ以下の容積に相当する厚さをもった未加硫ゴムシートをこの上に巻き付ける工程と、円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドを加熱加圧して、該円筒状帆布と未加硫ゴムシートをモールド溝部に圧入する工程と、上記挿入棒を抜き取った後に心線をスピニングし、更にこの上に背部を形成する未加硫ゴムシートを積層し、そしてこれらの未加硫ゴムを加硫成型してベルトスリーブを作製する工程、からなることを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項3】 モールド溝部に圧入する未加硫ゴムシートと背部を形成する未加硫ゴムシートとが加硫後のゴム物性が相違するように配合した請求項1または2記載の歯付ベルトの製造方法。
【請求項4】 円筒状帆布と未加硫ゴムシートを巻き付けたモールドにジャケットを被せ、これを加硫缶に設置して加熱加圧して未加硫状態で型付けを行う請求項1、2または3記載の歯付ベルトの製造方法。
【請求項5】 円筒状帆布を、挿入棒がモールド溝部に位置するようにモールドに装着した後、該挿入棒をモールドに設けた貫通孔に嵌入し、かつモールド溝部の底面方向に向かって移動する請求項2記載の歯付ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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