説明

歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子、並びに歯刷子用刷毛の製造方法

【課題】高い歯間進入性と強度を有するとともに、歯肉への刺激を抑制することができ、優れた擦掃力と耐久性の両方を有するとともに、使用時の痛みを軽減することが可能な歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子、並びに歯刷子用刷毛の製造方法を提供する。
【解決手段】芯部2と、該芯部2を同心円状に被覆する鞘部3とを備え、少なくとも一端側がテーパ部1aとして形成され、芯部2がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、鞘部3がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、テーパ部1aにおいて、芯部2が鞘部3から露出するように形成されているとともに、芯部2及び鞘部3の両方に連なるようにテーパ形状が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯部に鞘部が同心円状に被覆された多層構造(芯鞘構造)を有する歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子、並びに歯刷子用刷毛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯刷子用刷毛としては、従来から、ナイロンや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の材料が使用されている。これらの材料は、高い曲げ回復性(刷毛耐久性)を有しており、また、歯磨剤を用いた連続使用においても著しい化学変化による脆性破壊(破損)や傷付きによる裂けなどが発生せず、安価なことから歯刷子用刷毛として広く利用されている。
【0003】
また、歯のう蝕や歯周疾患を予防するためには、歯刷子による歯垢除去が重要であり、種々の刷毛が備えられた歯刷子が製品化されている。特に、う蝕好発部位である歯頸部や歯間部に対して刷毛が届き易くするため、毛先をテーパ状に加工した刷毛が備えられた歯刷子が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の歯刷子によれば、刷毛の毛先が、歯頸部や歯間部等の狭い隙間に入り込みやすいので、歯や歯肉への当たり心地がソフトな感触になるという効果がある。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の歯刷子では、刷毛の毛腰が弱いために刷掃力が劣るという問題がある。また、刷毛の毛先が歯肉溝に入り込み易いため、このような入り込みによる痛みを引き起こしやすいという問題がある。なお、刷掃力を高めることは、テーパ用毛を太くすることで実現可能であるが、この場合には歯肉において引き起こされる痛みも増大するため、刷掃力の向上と痛みの軽減の両立を図ることは非常に困難であった。
【0005】
上述のような、毛先がテーパ状に形成された刷毛の問題点を解決するため、刷毛が二重の芯鞘構造とされ、エラストマー等の軟質プラスチック材料からなる鞘部と、ポリアミドやポリエステル等のより硬質な材料からなる芯部とから形成される刷毛が植毛された構成の歯刷子が提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2に記載の歯刷子によれば、歯間の狭い隙間や歯の裂溝に刷毛の毛先が入り込み易いので、軟質素材の毛先により、汚れを効果的に擦掃することが可能となる。
【0006】
しかしながら、特許文献2の歯刷子では、刷毛の芯部が硬質材料からなるので、歯間の狭い隙間に毛先を届きやすくするためにテーパ状の先端部を細くした場合、硬質の芯部による歯肉への刺激が大きくなり、使用者が感じる痛みが増大するという問題がある。
【0007】
また、歯刷子の刷毛面に植毛される刷毛を、1本の芯部の周囲に鞘部を配した芯鞘構造の複合フィラメント(刷毛)とするとともに、先端側において前記芯部が露出するように構成し、特に、複合フィラメントの断面積の内、芯部の断面積が15〜80%の範囲とされた歯刷子が提案されている(例えば、特許文献3)。特許文献3に記載の歯刷子は、前記芯部がポリアミド樹脂を主成分とする材料からなるとともに、鞘部がポリエステル樹脂を主成分とする材料からなり、前記複合フィラメントの先端側をアルカリ性溶解液に浸漬させて芯部を露出させたものである。このような構成により、特許文献3の歯刷子は、適度な刷毛の毛腰と良好な刷掃効果を維持しつつ、歯肉を痛めることが無く、細部の清掃性も向上できるとともに、耐久性にも優れたものとされる。
【0008】
しかしながら、特許文献3の歯刷子では、芯部がポリアミド樹脂を主成分とする材料からなるのでアルカリ性溶解液では溶けず、円柱状の芯部とされているので歯間進入性に劣るという問題がある。また、アルカリ性溶解液を用いて鞘部を溶解させた場合、芯部の鞘部からの露出部が段差とされているので、この部分が剥離しやすく、また、この部分が剥離した場合には、擦掃力や耐久性が低下するという問題がある。
このため、歯刷子の刷毛の歯間進入性を向上させるには、刷毛先端側をテーパ状に形成する必要があるが、特許文献3に記載の歯刷子では、芯部が上記ポリアミド樹脂を主成分とする材料からなるため、アルカリ性溶解液に浸漬させた場合でも、芯部の先端側をテーパ状に形成することができない。従って、芯部の先端側をテーパ状とするには、機械研磨によって芯部を加工する必要があるが、このような加工方法で芯部をテーパ状に形成した場合、アルカリ性溶解液への浸漬処理のように先端径を細く加工することができないため、得られた刷毛の歯間進入性が劣るという問題があった。
【特許文献1】特開平6−141923号公報
【特許文献2】特表2003−504100号公報
【特許文献3】特開2006−149419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高い歯間進入性と強度を有するとともに、歯肉への刺激を抑制することができ、優れた擦掃力と耐久性の両方を有するとともに、使用時の痛みを軽減することが可能な歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子、並びに歯刷子用刷毛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討した結果、上述のような芯鞘構造を有し、先端側がテーパ状とされて芯部が鞘部から露出する歯刷子用刷毛において、使用材料や寸法関係を適正化することにより、優れた刷掃力と耐久性の両方を有し、歯間進入性に優れ、また、歯肉への刺激が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、芯部と、該芯部を同心円状に被覆する鞘部とを備え、少なくとも一端側がテーパ部として形成された歯刷子用刷毛であって、前記芯部がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、前記テーパ部において、前記芯部が前記鞘部から露出するように形成されているとともに、前記芯部及び前記鞘部の両方に連なるようにテーパ形状が形成されていることを特徴とする歯刷子用刷毛を提供する。
また、本発明の歯刷子用刷毛は、上記構成の歯刷子用刷毛であって、前記テーパ部が刷毛両端に形成されており、刷毛の長さ方向中央部における外径が0.18〜0.22mmの範囲とされ、刷毛の先端部における外径が0.005〜0.04mmの範囲とされ、刷毛の長さ方向中央部における前記鞘部の厚さが0.01〜0.02mmの範囲とされ、前記テーパ部において前記鞘部から露出する前記芯部の、露出位置から先端部までの長さが4〜7mmの範囲とされた構成とすることが好ましい。
【0012】
本発明は、上記構成の歯刷子用刷毛が略中央部で二つ折りに屈折され、これが複数集束された刷毛束が植設されてなることを特徴とする歯刷子を提供する。
【0013】
本発明は、芯部と、該芯部を同心円状に被覆する鞘部とを形成し、少なくとも一端側をテーパ部として形成する歯刷子用刷毛の製造方法であって、前記芯部がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂であるとともに、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂であり、前記テーパ部をアルカリ性溶解液による溶解処理で形成し、前記芯部を前記テーパ部において鞘部から露出させるとともに、前記芯部及び前記鞘部の両方に連なるようにテーパ形状を形成することを特徴とする歯刷子用刷毛の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯刷子用刷毛によれば、少なくとも一端側がテーパ部として形成され、芯部が軟質(低剛性)なポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、鞘部が硬質(高剛性)なポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、テーパ部において、芯部が鞘部から露出するように形成されているとともに、芯部及び鞘部の両方に連なるようにテーパ形状が形成された構成とされているので、高い歯間進入性及び強度を有するとともに、歯肉への刺激を抑制することができる。これにより、優れた擦掃力と耐久性の両方を有するとともに、使用時の痛みを軽減することが可能な歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子が得られる。
また、本発明の歯刷子用刷毛の製造方法によれば、芯部がPBTを含む樹脂からなるとともに、鞘部がPETを含む樹脂からなり、この刷毛をアルカリ性溶解液に浸漬し、先端がテーパ状に形成されたフィラメント(刷毛)に加工する方法なので、上記構成のテーパ部が設けられた歯刷子用刷毛を、簡単な設備で容易に製造することができる。これにより、歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子の製造コスト上昇を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子、並びに歯刷子用刷毛の製造方法の実施の形態について、図1〜4を適宜参照しながら説明する。
図1及び図2は、それぞれ本発明に係る歯刷子用刷毛の一例を示す模式図であり、説明の都合上、歯刷子用刷毛の一端部側のみを拡大して示している。また、図3(a)は歯刷子用刷毛の全体を示す模式図であり、図3(b)は断面図である。また、図4(a)、(b)は、本発明に係る歯刷子用刷毛が用いられる歯刷子の一例を示す模式図である。
【0016】
本実施形態の歯刷子用刷毛1は、芯部2と、該芯部2を同心円状に被覆する鞘部3とを備え、少なくとも一端側がテーパ部1aとして形成され、芯部2がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、鞘部3がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、テーパ部1aにおいて、芯部2が鞘部3から露出するように形成されているとともに、芯部2及び鞘部3の両方に連なるようにテーパ形状が形成され、概略構成されている。
【0017】
[歯刷子]
以下に、本発明に係る歯刷子用刷毛が用いられる歯刷子の一例について説明する。
図4(a)、(b)に例示する歯刷子10は、刷毛束11が植毛面12aに植毛されたヘッド部12と、使用者が把持する把持部13と、ヘッド部12と把持部13とを連結する首部14とが備えられている。ここで、刷毛束11は、本実施形態の歯刷子用刷毛1が略中央部で二つ折りに屈折され、これが複数集束されてなるものである。
【0018】
把持部13の材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、飽和ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、プロピオン酸セルロース、ポリウレタン、ポリアミド、ABS(アクロル二トリル・ブタジエン・スチレン)などの合成樹脂材料を用いることができる。このうち、コストの点では、ポリプロピレンを用いることが好ましく、透明性の点では、飽和ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
なお、ヘッド部12及び首部14についても、把持部13と同じ材料を用いることができ、図示例の歯刷子10では、ヘッド部12、首部14及び把持部13が一体に成形されてなる。
【0019】
ヘッド部12には、刷毛束11(歯刷子用刷毛1)が植設される植毛面12aが備えられており、この植毛面12aには、刷毛束11が植設される図示略の複数の植毛穴が形成されている。
【0020】
刷毛束11は、上述のように、歯刷子用刷毛1が略中央部で二つ折りに屈折され、これが複数集束されてなり、ヘッド部12の植毛面12aに形成された図示略の複数の植毛穴に植設される。ここで、刷毛束11の前記植毛穴への植設は、例えば、二つ折りにされた歯刷子用刷毛1の間に平線と呼ばれる抜止め材を挟み、植毛穴中に打ち込むか、あるいは、熱溶着等の方法によって行なうことができる。
【0021】
刷毛束11は、図4(b)に示すような、各歯刷子用刷毛1の毛丈が全て揃った構成としても良いが、毛丈が不揃いとされた構成であっても良い。また、刷毛束11の毛先輪郭形状(毛切り形状)についても、図示例のような、所謂平切りによって刷毛束の先端を平らに剪定した形状の他、例えば、所謂山切りによって刷毛束の先端を凹凸に剪定した形状や、刷毛束全体を所定の曲率で凸状又は凹状に剪定した形状とすることができる。
【0022】
なお、本実施形態の歯刷子用刷毛1が用いられる歯刷子としては、図4(a)、(b)に例示する歯刷子10のような形状のものには限定されず、その形状や形態については適宜採用することができる。例えば、電動歯刷子のように、把持部に対して、刷毛束が植設されてなるヘッド部を脱着して交換可能な構成とされたものであっても良い。
【0023】
[歯刷子用刷毛]
本発明に係る歯刷子用刷毛は、上述したように、芯部2と、該芯部2を同心円状に被覆する鞘部3とを備え、少なくとも一端側がテーパ部1aとして形成され、芯部2がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、鞘部3がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、テーパ部1aにおいて、芯部2が鞘部3から露出するように形成されているとともに、芯部2及び鞘部3の両方に連なるようにテーパ形状が形成されている。また、本実施形態の歯刷子用刷毛1は、図3(b)に示すように、1本の芯部2の周囲に鞘部3を配した芯鞘構造を有している。
また、図1の断面図に示すように、歯刷子用刷毛1は、テーパ部1aにおいて、芯部2及び鞘部3の両方に連なるように、滑らかなテーパ形状が形成されているとともに、芯部2は、先端部1bに向けて、露出位置2aから延出している。
【0024】
歯刷子用刷毛1は、上述のような、芯部2と鞘部3とからなる芯鞘構造を有し、また、これら芯部2及び鞘部3の両方に渡って形成されるテーパ部1aを有している。さらに、刷毛の内側となる芯部2を、弾性率が約450kg/mmと柔軟性が高く軟質なPBTを含む樹脂から構成したうえで、刷毛の外側となる鞘部3を、弾性率が約1500kg/mmと剛性が高く硬質なPETを含む樹脂から構成している。
このような歯刷子用刷毛1を用いて構成された歯刷子で歯磨きを行なった場合には、刷毛端部に形成されたテーパ部1aの作用により、歯刷子用刷毛1が歯間に容易に進入でき、また、先端部1b(芯部2)が軟質のPBTからなるので、歯肉に対する刺激が小さく抑制される。また、鞘部3が硬質のPETからなるので、歯刷子用刷毛1全体の剛性が高められ、高い曲げ回復性を有し、歯磨時の破損等を防止することができる。また、芯部2及び鞘部3の両方に連なるようにテーパ形状が形成され、滑らかなテーパ部1aとされていることにより、芯部2と鞘部3との間に剥離が生じるのを防止できる。従って、優れた擦掃力と高い耐久性の両方が得られるとともに、歯磨き時の痛みが軽減される歯刷子を構成することが可能となる。
【0025】
また、本実施形態の歯刷子用刷毛1は、図3(a)に示すように、上述のようなテーパ部1aが刷毛両端に形成されているとともに、図1に示すように、刷毛の長さ方向中央部における外径D(歯刷子用刷毛1全体の外形)が0.18〜0.22mmの範囲とされ、刷毛の先端部1bにおける外径dが0.005〜0.04mmの範囲とされ、刷毛の長さ方向中央部における鞘部3の厚さtが0.01〜0.02mmの範囲とされ、テーパ部1aにおいて鞘部3から露出する芯部2の、露出位置2aから先端1bまでの長さfが4〜7mmの範囲とされた構成とすることができる。図1に示す例では、上記外形Dが0.20mmとされ、上記外形dが0.02mm、上記厚さtが0.02mm、上記長さfが4mmとされている。また、図2に示す例では、上記外形Dが0.20mmとされ、上記外形dが0.02mm、上記厚さtが0.01mm、上記長さfが7mmとされている。
本実施形態の歯刷子用刷毛1は、上記各寸法範囲を規定することにより、以下に説明するような効果が得られる。
【0026】
歯刷子用刷毛1の長さ方向中央部における外径D(歯刷子用刷毛1全体の外形)は、0.18〜0.22mmの範囲であることが好ましい。上記外形Dがこの範囲であれば、より高い歯間進入性及び擦掃力が得られるとともに、歯肉に対する刺激を抑制することができる。
上記外形Dが0.18mm未満だと擦掃力が低下するので好ましくなく、また、0.22mmを超えると、歯肉に対する刺激が大きくなり、使用者が歯磨き時に大きな痛みを感じる虞がある。
【0027】
歯刷子用刷毛1の先端部1bにおける外径dは、0.005〜0.04mmの範囲であることが好ましい。上記外形dがこの範囲であれば、より高い歯間進入性及び擦掃力が得られるとともに、歯肉に対する刺激を抑制することができる。
上記外形dを0.005mmに加工することは、詳細を後述する、アルカリ性溶解液による加水分解処理以外の方法では困難である。また、上記外形dが0.04mmを超えると、歯肉に対する刺激が大きくなり、使用者が歯磨き時に大きな痛みを感じる虞がある。
【0028】
歯刷子用刷毛1の長さ方向中央部における鞘部3の厚さtは、0.01〜0.02mmの範囲であることが好ましい。上記厚さtがこの範囲であれば、より高い歯間進入性及び擦掃力が得られるとともに、歯肉に対する刺激を抑制することができる。
上記厚さtが0.01mm未満だと、擦掃力が弱くなり、また、0.02mmを超えると、歯間進入性が低下する虞がある。
【0029】
歯刷子用刷毛1のテーパ部1aにおいて、鞘部3から露出する芯部2の、露出位置2aから先端1bまでの長さfは、4〜7mmの範囲であることが好ましい。上記長さfがこの範囲内であれば、より高い歯間進入性及び擦掃力が得られるとともに、歯肉に対する刺激を抑制することができる。
上記長さfが4mm未満だと、歯間進入性が低下してしまい、また、7mmを超えると、擦掃力が低下する虞がある。
【0030】
また、歯刷子用刷毛1(刷毛束11)を用いて図4(a)、(b)に示すような歯刷子10を構成した場合の、ヘッド部12の植毛面12aから刷毛束11先端(先端部1b)までの刷毛長さLは、9〜13mmの範囲であることが好ましく、10〜12mmの範囲であることがより好ましい。
上記刷毛長さLが9mm未満だと、歯間進入性が低下してしまい、また、13mmを超えると、口腔内における歯刷子10の操作性が低下する虞がある。
【0031】
以上説明したような、本実施形態の歯刷子用刷毛1によれば、少なくとも一端側がテーパ部1aとして形成され、芯部2が軟質(低剛性)なポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、鞘部3が硬質(高剛性)なポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、テーパ部1aにおいて、芯部2が鞘部3から露出するように形成されているとともに、芯部2及び鞘部3の両方に連なるようにテーパ形状が形成された構成とされているので、高い歯間進入性及び強度を有するとともに、歯肉への刺激を抑制することができる。これにより、本実施形態の歯刷子用刷毛1を用いて歯刷子を構成した場合には、優れた擦掃力と耐久性の両方を有するとともに、使用時の痛みを軽減することが可能な歯刷子10が得られる。
【0032】
また、本実施形態の歯刷子用刷毛1は、芯部2及び鞘部3を上記材質の芯鞘構造としてテーパ部1aを形成したうえで、刷毛の長さ方向中央部における外径D、刷毛の先端部1bにおける外径d、刷毛の長さ方向中央部における鞘部3の厚さt、テーパ部1aにおいて鞘部3から露出する芯部2の、露出位置2aから先端1bまでの長さfの各寸法を適正化することにより、より刷掃力が高く、歯間進入性に優れ、歯肉に対する刺激が抑制されるとともに、耐久性にも優れたものとなる。
従って、歯刷子用刷毛1を用いて歯刷子を構成することにより、優れた擦掃力及び耐久性の両方が得られ、また、使用時の痛みが軽減された歯刷子10が得られる。
【0033】
本発明に係る歯刷子用刷毛は、特に、刷毛内側となる芯部が軟質なPBTを含有する材料からなるとともに、外側となる鞘部が硬質なPETを含有する材料からなり、また、テーパ部において、芯部が鞘部から露出するように形成されているとともに、芯部及び鞘部の両方がテーパ状に形成された構成とされていることにより、上述のような優れた擦掃力と耐久性、及び痛みの軽減効果が得られる。
【0034】
なお、本発明に係る歯刷子用刷毛が用いられる歯刷子の一例として、図4(a)、(b)に示す歯刷子10を説明したが、歯刷子用刷毛1からなる刷毛束11をヘッド部12の植毛面12aに植設する際、植毛面12a上の全ての刷毛を、本発明に係る芯鞘構造の歯刷子用刷毛1からなる刷毛束11で構成しても良いし、あるいは、植毛面12a上において、本発明に係る歯刷子用刷毛及び単一構造のフィラメント(刷毛)の両方が植設された構成としても構わない。
【0035】
[歯刷子用刷毛の製造方法]
本発明に係る歯刷子用刷毛の製造方法は、芯部2と、該芯部2を同心円状に被覆する鞘部3とを形成し、少なくとも一端側をテーパ部1aとして形成する方法であり、芯部2がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂であるとともに、鞘部3がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂であり、テーパ部1aをアルカリ性溶解液による溶解処理によって形成し、芯部2をテーパ部1aにおいて鞘部3から露出させるとともに、芯部2及び鞘部3の両方に連なるようにテーパ形状を形成する方法である。
【0036】
まず、芯部2と、該芯部2を同心円状に被覆する鞘部3とを、従来公知の方法によって芯鞘構造を有するフィラメント(刷毛)に形成する。そして、このフィラメントを、アルカリ性溶解液、例えば、アルカリ性加水分解処理剤に浸漬させる。この際、PETを含む樹脂からなる鞘部3及びPBTを含む樹脂からなる芯部2の両方が、端部から徐々に溶解されてゆくので、図1(及び図2も参照)に示すような、滑らかなテーパ部1aをフィラメント端部に形成することができる。ここで、アルカリ性溶解液にフィラメントを浸漬する方法としては、従来公知の浸漬方法を採用することができる。
【0037】
本発明の歯刷子用刷毛の製造方法によれば、芯部2及び鞘部3を上記材料からなる芯鞘構造とし、このフィラメント(刷毛)をアルカリ性溶解液に浸漬する方法なので、フィラメントの端部を容易に溶解することができ、上記構成のテーパ部が設けられた歯刷子用刷毛を簡単な設備で容易に製造することができる。これにより、歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子の製造コスト上昇を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の歯刷子用刷毛及びそれを用いた歯刷子を実証するための実施例について説明するが、本発明は本実施例によって限定されるものではない。
【0039】
[歯刷子用刷毛及び歯刷子の作製]
以下の手順で、図1〜3に示すような歯刷子用刷毛、並びに図4に示すような歯刷子のサンプルを作製した。
【0040】
(歯刷子用刷毛の作製)
まず、ポリブチレンテレフタレート(PBT)からなる芯部2と、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、芯部2を同心円状に被覆する鞘部3とを、従来公知の方法によって芯鞘構造を有するフィラメント(刷毛)に形成した。
そして、このフィラメントを所定の長さにカットし、従来公知の方法でアルカリ性加水分解処理剤に浸漬させることにより、フィラメントの両端部を溶解させ、図1に示すようなテーパ部1aを形成し、本発明に係る歯刷子用刷毛を作製した。
【0041】
(歯刷子の作製)
次いで、上記手順で得られた歯刷子用刷毛1を略中央部で二つ折りに屈折し、これを複数集束して刷毛束11とした。
そして、この刷毛束11を、二つ折りにされた歯刷子用刷毛1の間に平線を挟んだ状態とし、図4(a)、(b)に示すようなヘッド部12の植毛面12aに形成された図示略の植毛穴中に打ち込んだ。ここで、ヘッド部12の植毛面12aには、直径1.5mmの植毛穴が形成されており、穴配列及び穴数が、歯刷子長さ方向に沿って、「3」+「4×6」+「3」=30個、行間ピッチ(歯刷子長さ方向)が2.5mm、列間ピッチ(歯刷子横幅方向)が2.2mmとされている。
以上の様な手順により、図4(a)に示すような歯刷子10を作製した。
【0042】
上述のような歯刷子用刷毛及び歯刷子について、刷毛の長さ方向中央部における外径D、刷毛の先端部1bにおける外径d、刷毛の長さ方向中央部における鞘部3の厚さt、テーパ部1aにおいて鞘部3から露出する芯部2の、露出位置2aから先端1bまでの長さfの各寸法を下記表1に示す寸法として、実施例1〜8の本発明に係る歯刷子用刷毛及び歯刷子を作製した。また、歯刷子用刷毛の構造及び材質を下記表1に示す構成とするとともに、上記各寸法を下記表1に示す数値とした点を除き、上記同様の手順で比較例1〜11の歯刷子用刷毛及び歯刷子を作製した。ここで、図1(歯刷子用刷毛1)は、上記各寸法が実施例4に示す寸法値とされた歯刷子用刷毛を示す図であり、図2(歯刷子用刷毛21)は、上記各寸法が実施例3に示す寸法値とされた歯刷子用刷毛を示す図である。
【0043】
【表1】

【0044】
[評価方法]
上述のようにして得られた各実施例及び比較例のサンプルを用い、擦掃力、歯間進入性、歯肉への刺激の各項目について、以下の方法で評価した。
【0045】
(擦掃力)
上記歯刷子用刷毛の各サンプルについて、ISO8627で規定される毛の硬さ試験により、刷毛のたわみ力を測定して、以下に示すような3段階の基準で擦掃力を判定し、結果を下記表2に示した。
(1)○:刷毛のたわみ力が6cN/mm以上であった。
(2)△:刷毛のたわみ力が5cN/mm以上6cN/mm未満であった。
(3)×:刷毛のたわみ力が5cN/mm未満であった。
【0046】
(歯間進入性)
上記歯刷子用刷毛の各サンプルについて、擦掃試験機(ライオン株式会社製)を用い、荷重:250g、ストローク:30mmの擦掃条件で、臼歯部歯間モデルにおける毛先の進入度合いを測定して、以下に示すような3段階の基準で歯間進入性を判定し、結果を下記表2に示した。
(1)○:歯間への進入度が60%以上であった。
(2)△:歯間への進入度が50%以上60%未満であった。
(3)×:歯間への進入度が50%未満であった。
【0047】
(歯肉への刺激)
上記歯刷子の各サンプルについて、使用者(パネラー)数をn=10(人)とし、各パネラーが歯磨き操作を行い、以下に示すような3段階の基準で歯肉への刺激(歯ぐきの痛み)を評価し、結果を下記表2に示した。
(1)○:歯ぐきの痛みを殆ど感じなかった。
(2)△:歯ぐきの痛みをやや感じた。
(3)×:歯ぐきの痛みを大きく感じた。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示す結果より、本発明で規定する構造及び材質を有し、また、本発明で規定する各寸法値とされた実施例1〜8の歯刷子用刷毛は、優れた擦掃力と歯間進入性を有しており、また、実施例1〜8の歯刷子用刷毛が用いられてなる歯刷子は、使用者が歯ぐきに感じる痛みが軽く、歯肉への刺激が抑制されていることが明らかである。
【0050】
これに対し、比較例1及び2の歯刷子用刷毛では、刷毛の長さ方向中央部における外径Dが、本発明の規定範囲を下回っており、擦掃力が劣る結果となった。
また、比較例3の歯刷子用刷毛では、刷毛の長さ方向中央部における鞘部の厚さtが、本発明の規定範囲を超えており、擦掃力が劣るとともに、この歯刷子用刷毛を用いた歯刷子は、歯肉への刺激が大きなものとなった。
また、比較例4の歯刷子用刷毛では、刷毛の長さ方向中央部における鞘部の厚さtが、本発明の規定範囲を下回っており、歯間進入性が大きく劣るとともに、この歯刷子用刷毛を用いた歯刷子は、歯肉への刺激が大きなものとなった。
【0051】
また、比較例5の歯刷子用刷毛では、刷毛の先端部における外径dが、本発明の規定範囲を超えており、歯間進入性が劣るとともに、この歯刷子用刷毛を用いた歯刷子は、歯肉への刺激が相当に大きなものとなった。
また、比較例6及び7の歯刷子用刷毛では、刷毛の長さ方向中央部における外径Dが、本発明の規定範囲を超えており、歯間進入性が劣るとともに、この歯刷子用刷毛を用いた歯刷子は、歯肉への刺激が相当に大きなものとなった。
【0052】
また、比較例8の歯刷子用刷毛は、芯部が硬質のPETからなり、鞘部が軟質のPBTからなる構造のため、歯間進入性が大きく劣るとともに、この歯刷子用刷毛を用いた歯刷子は、歯肉への刺激が相当に大きなものとなった。
また、比較例9の歯刷子用刷毛は、芯部が硬質のPTTからなり、鞘部が軟質のPBTからなる構造のため、強度が非常に低く、擦掃力が大きく劣る結果となった。
【0053】
また、比較例10の歯刷子用刷毛は、PBTからなる単一構造のフィラメントであるため、擦掃力が大きく劣る結果となった。
また、比較例10の歯刷子用刷毛は、PBTからなる単一構造のフィラメントであり、また、刷毛の長さ方向中央部における外径Dが、本発明の規定範囲を超えているため、この歯刷子用刷毛を用いた歯刷子は、歯肉への刺激が相当に大きなものとなった。
【0054】
以上の結果により、本発明の歯刷子用刷毛及び歯刷子が、優れた擦掃力と耐久性の両方が得られるとともに、使用時の痛みを軽減できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る歯刷子用刷毛の一例を示す概略図であり、刷毛構造を説明する断面図である。
【図2】本発明に係る歯刷子用刷毛の他例を示す概略図であり、刷毛構造を説明する断面図である。
【図3】本発明に係る歯刷子用刷毛の一例を示す概略図であり、(a)が一部破断平面図、(b)が断面図である。
【図4】本発明に係る歯刷子の一例を示す概略図であり、(a)が全体を説明する平面図、(b)がヘッド部を説明する部分拡大図である。
【符号の説明】
【0056】
1、21…歯刷子用刷毛、1a…テーパ部、1b、21b…先端部、2、22…芯部、2a、22a…露出位置、3、23…鞘部、10…歯刷子、11…刷毛束、12…ヘッド部、12a…植毛面、13…把持部、14…首部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と、該芯部を同心円状に被覆する鞘部とを備え、少なくとも一端側がテーパ部として形成された歯刷子用刷毛であって、
前記芯部がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂からなるとともに、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂からなり、
前記テーパ部において、前記芯部が前記鞘部から露出するように形成されているとともに、前記芯部及び前記鞘部の両方に連なるようにテーパ形状が形成されていることを特徴とする歯刷子用刷毛。
【請求項2】
請求項1に記載の歯刷子用刷毛であって、
前記テーパ部が刷毛両端に形成されており、
刷毛の長さ方向中央部における外径が0.18〜0.22mmの範囲とされ、
刷毛の先端部における外径が0.005〜0.04mmの範囲とされ、
刷毛の長さ方向中央部における前記鞘部の厚さが0.01〜0.02mmの範囲とされ、
前記テーパ部において前記鞘部から露出する前記芯部の、露出位置から先端部までの長さが4〜7mmの範囲とされていることを特徴とする歯刷子用刷毛。
【請求項3】
請求項2に記載の歯刷子用刷毛が略中央部で二つ折りに屈折され、これが複数集束された刷毛束が植設されてなることを特徴とする歯刷子。
【請求項4】
芯部と、該芯部を同心円状に被覆する鞘部とを形成し、少なくとも一端側をテーパ部として形成する歯刷子用刷毛の製造方法であって、
前記芯部がポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む樹脂であるとともに、前記鞘部がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂であり、
前記テーパ部をアルカリ性溶解液による溶解処理で形成し、前記芯部を前記テーパ部において鞘部から露出させるとともに、前記芯部及び前記鞘部の両方に連なるようにテーパ形状を形成することを特徴とする歯刷子用刷毛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−154888(P2008−154888A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348723(P2006−348723)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】