説明

歯科インプラント治療の骨造成術において使用する保護デバイス

【課題】歯科インプラント治療の骨造成術の手術時間を短縮し、術後の感染症のリスクを低減し、審美的な骨造成が確実に行えるようにする。
【解決手段】患者のCTデータに基づき、RP技術を用いて製造される。第1の側壁2と、第2の側壁3と、第1および第2の側壁を接続する上壁4と、を備えた、下向きに開いた実質上U字状またはC字状またはコ字状断面の板状をなし、骨造成される部位の復元時の3次元表面形状に対応する形状を有する。第1の側壁、第2の側壁および上壁の内側に形成されたチャネル5内に、骨造成される部位が収容可能になっており、周縁8は滑らかに縁取りされ、第1の側壁、第2の側壁および上壁には、所定の空孔率で貫通穴6が形成される。第1または第2の側壁の下端部に、スクリューの挿通穴7が設けられる。骨造成される部位に上から被せた状態で、スクリューによって顎骨に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎骨の骨欠損患者について、当該顎骨に歯科用インプラントのフィクスチャーを埋め込むための骨造成術を行う際、当該顎骨の骨造成される部位を保護すべく、当該部位に一定期間取り付けて使用される保護デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オッセオインテグレーテッド・インプラントと呼ばれる歯科インプラント治療が広く行われるようになってきている。この歯科インプラント治療によれば、顎骨中に埋め込まれるフィクスチャー(歯根部)と、歯の部分に相当する上部構造と、それらを連結するアバットメント(支台部)の3つの部分から構成されたインプラントが使用される。
【0003】
オッセオインテグレーテッド・インプラントにおいては、まず、患者の顎骨(歯槽骨)にフィクスチャーが埋め込まれ、一定の安定期間がおかれる。この安定期間の間に、フィクスチャーがオッセオインテグレーション(骨結合)をする。その後、アバットメント一体型のものは上部構造が、そうでないものはアバットメントと上部構造がフィクスチャーに連結され、治療が完了する。
【0004】
ところで、顎骨の骨欠損患者については、フィクスチャーを埋め込むのに十分な骨幅および高さが得られないので、フィクスチャーの埋め込みに先立って当該骨欠損部位の骨造成術が行われ、あるいは、当該骨欠損部位へのフィクスチャーの埋め込みと同時に骨造成術が行われる。
【0005】
そして、これらの骨造成術においては、通常、骨欠損部位の骨造成が完了するまでの期間、当該部位が、チタン製メッシュシート(チタンメッシュ)で覆われて保護されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。チタンメッシュは、厚さが0.1mm程度と非常に薄くてしなやかであり、手で自由に曲げ加工できるようになっている。そして、骨造成術の実施前に、患者のCTデータに基づき、骨欠損部位を含む樹脂製の3次元骨モデルが作成され、手作業によって、このモデルに合わせてチタンメッシュが適当な形状に切り抜かれた後、骨欠損部位にほぼ対応した形状に曲げられる。このチタンメッシュは、手術中、骨造成される部位に適合させるべく、術者によってさらに微調整された後、多数本の骨鋲(ボーンタック)によって顎骨に取り付けられる。その後、チタンメッシュの上から口腔粘膜が縫合されて、手術が終了する。そして、一定期間が経過して骨造成が完了した時点で、再手術がなされ、チタンメッシュが顎骨から取り外される。
【0006】
しかし、この従来法によれば、チタンメッシュの構造上の強度不足に起因して、多数本の骨鋲による固定が必要であること、およびチタンメッシュの微調整が必要であること等のために手術に長時間を要し、患者の負担が大きくなるという問題があった。また、適当な形状に切り抜かれたチタンメッシュの周端縁にバリが生じている場合があり、縫合された口腔内粘膜の一部がバリによって破られ、そこから感染症が発生する危険性があった。
さらには、チタンメッシュの構造上の強度不足から、骨造成がまだ十分でない時機に、患者が摂食時等に誤ってチタンメッシュを凹ませてしまうこともあり、かかる場合には、期待された審美的な骨造成ができないという問題があった。
【0007】
また、従来技術においては、フィクスチャーの埋め込みに先立って骨欠損部位の骨造成術を行うにあたり、骨造成する部位を一定期間保護するのではなく、他の骨移植材とともに顎骨に永久的に埋め込むようにした生体適合性を有するフォームが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
フォームは、患者のCTデータに基づく骨欠損部位を含む3次元骨モデルからモールドを形成し、このモールドを用い、手作業により、例えば歯科咬合器を使用して、チタンまたはチタン合金製メッシュシートをプレス加工した後、周縁を適当に切り取り処理することによって形成される。このフォームは、骨欠損部位の回復時の3次元表面形状を有し、内側のチャネル内に骨欠損部位が骨移植材とともに収容可能になっており、骨造成術において、骨欠損部位に骨移植材が充填された後、フォームが当該部位を被覆した状態で、多数本の骨鋲によって顎骨に固定され、さらにその上から口腔粘膜が縫合される。
【0009】
しかし、このフォームについても、前述のチタンメッシュと同様、フォームの構造上の強度不足に起因する多数本の骨鋲による固定の問題、およびフォーム周縁部のバリによる感染症発生の問題、さらには、骨造成の初期段階での患者の不注意によるフォームの望ましくない変形の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−188037号公報(段落[0005])
【特許文献2】米国特許第6,645,250号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、歯科インプラント治療の骨造成術の手術時間を短縮して患者の負担を軽減し、術後の感染症のリスクを低減し、さらに、審美的な骨造成が確実に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、顎骨の骨欠損患者について、当該顎骨に歯科用インプラントのフィクスチャーを埋め込むための骨造成術を行う際、当該顎骨の骨造成される部位を保護すべく、当該部位に一定期間取り付けて使用される保護デバイスであって、患者のCTデータに基づき、ラピッドプロトタイピング技術を用いて製造され、第1の側壁と、前記第1の側壁から間隔をあけて配置された第2の側壁と、前記第1および第2の側壁間にのび、前記第1および第2の側壁を接続する上壁と、を備えた、下向きに開いた実質上U字状またはC字状またはコ字状断面の板状をなし、前記骨造成される部位の復元時の3次元表面形状に対応する形状を有し、前記第1の側壁、前記第2の側壁および前記上壁の内側に形成されたチャネル内に、前記部位が収容されるようになっており、周縁は滑らかに縁取りされ、前記第1の側壁、前記第2の側壁および前記上壁には、所定の空孔率で貫通穴が形成され、前記第1または第2の側壁の下端部に、スクリューの挿通穴が少なくとも1個設けられ、前記部位に上から被せた状態で、前記スクリューによって前記顎骨に固定されるものであることを特徴とする保護デバイスを構成したものである。
ここで、顎骨には上顎骨と下顎骨があるところ、本発明の構成を規定するに当たり、上下の位置関係は下顎骨を基準にしている。しかしながら、この上下の位置関係を逆転させれば、本発明を、上顎骨に対しても、下顎骨と全く同様に適用可能であり、よって、本発明の構成は下顎骨に対するものに限定されない。以下同様。
【0013】
上記構成において、好ましくは、前記空孔率は30%〜50%である。また好ましくは、前記上壁、および前記第1の側壁の前記上壁との接続部近傍、および前記第2の側壁の前記上壁との接続部近傍の前記空孔率が、前記第1の側壁の前記上壁との接続部近傍以外の部分および前記第2の側壁の前記上壁との接続部近傍以外の部分の前記空孔率よりも小さくなっている。
上記構成において、また、前記保護デバイスは、0.3mm〜1.0mmの厚さを有していることが好ましく、また、前記上壁から前記第1および第2の側壁のそれぞれへの移行部が、残りの部分よりも厚くなっていることが好ましい。
前記上壁は、前記チャネルの少なくとも一方の端側の縁に、下向きに突出するフランジを備えていることが、また好ましい。
さらに、前記保護デバイスは、チタン製またはチタン合金製であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保護デバイスは、患者のCTデータに基づき、RP技術を用いて形成されるので、骨造成術が行われる前に、保護デバイスを、患者の骨造成される部位に適合し、機能的および審美的な観点から期待される骨形状が得られるように予め設計することができ、骨造成術が行われ間に、術者が保護デバイスを微調整する必要がない。また、保護デバイスは一定の構造上の強度を有しているので、1本またはせいぜい2、3本のスクリューで顎骨に固定できる。その結果、骨造成術の手術時間が従来よりも大幅に短縮され、患者の負担は著しく軽減される。さらに、保護デバイスは一定の構造上の強度を有し、予め設計された形状から容易に変形することがないので、患者が、保護デバイスの装着中に保護デバイスを凹ましてしまうおそれが殆どなく、それによって、審美的な骨造成を確実に達成することができる。
また、保護デバイスの使用中に、保護デバイスを被覆する口腔粘膜が保護デバイスによって破られることがなく、手術後の感染症発生のリスクが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1実施例による保護デバイスの立体図である。
【図2】図1の保護デバイスの側面図である。
【図3】図1の保護デバイスのチャネルの一端側から見た図である。
【図4】図1の保護デバイスの変形例を示す図である。
【図5】図1の保護デバイスの装着状態を示す立体図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例を説明する。図1は、本発明の1実施例による保護デバイスの立体図であり、図2は、図1の保護デバイスの側面図である。また、図3は、図1の保護デバイスのチャネルの一端側から見た図であり、図4は、図1の保護デバイスのチャネルの他端側から見た図である。
【0017】
本発明の保護デバイスは、患者のCTデータに基づき、ラピッドプロトタイピング(RP)技術を用いて製造される。保護デバイスは、チタンまたはチタン合金から製造されることが好ましい。
図1〜図4を参照して、本発明の保護デバイス1は、第1の側壁2と、第1の側壁2から間隔をあけて配置された第2の側壁3と、第1および第2の側壁2、3間にのび、第1および第2の側壁2、3を接続する上壁4とを備えた、下向きに開いた実質上U字状またはC字状またはコ字状断面の板状をなしている。
【0018】
本発明の保護デバイス1は、手指で容易に曲げられない程度の構造上の強度を有していなければならず、そのため、0.1〜1.5mm、好ましくは0.3〜1.0mmの厚さを有している。この場合、保護デバイス1の全体を一様な厚さに形成してもよいし、大きな強度が必要とされる部分は厚くする一方、小さい強度で十分な部分は薄くするように、例えば、上壁4から第1および第2の側壁2、3のそれぞれへの移行部が残りの部分よりも厚くなるようにしてもよい。また、保護デバイス1の補強のために、必要に応じて、第1の側壁2から上壁4を経て第2の側壁3に向かってのびる少なくとも1本のリブ9が設けられる。
【0019】
保護デバイス1は、骨造成される部位の復元時の3次元表面形状に対応する形状を有していて、第1の側壁2、第2の側壁3および上壁4の内側に形成されたチャネル5内に、当該部位が収容されるようになっている。
【0020】
また、保護デバイス1の周縁8は、滑らかに縁取りされ、第1の側壁2、第2の側壁3および上壁4には、所定の空孔率、好ましくは、30%〜50%の空孔率で貫通穴6が形成される。
貫通穴6は、骨造成がなされる間の血流を確保するために必要であり、そのためには、できるだけ貫通穴6の個数を増やせばよいが、保護デバイス1の全体に占める貫通穴6の割合が大きくなればなるほど、保護デバイス1の構造上の強度は低下する。そして、空孔率を30%〜50%にすれば、血流の確保と強度の維持を両立させることができる。さらに、この場合、上壁4、および第1の側壁2の上壁4との接続部近傍、および第2の側壁3の上壁4との接続部近傍の空孔率を、第1の側壁2の上壁4との接続部近傍以外の部分および第2の側壁3の上壁4との接続部近傍以外の部分の空孔率よりも小さくすることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、所定の空孔率が達成されればよく、貫通穴6を、円形や楕円形、あるいは三角形や四角形等の多角形等の任意の形状とすることができる。なお、貫通穴6の大きさは、骨造成の過程で骨欠損部位から生じた骨細片等の顆粒が、保護デバイス1の内側から突き出さない程度に設定される。この場合、貫通穴6を、保護デバイスの全体にわたって同じ大きさにしてもよいし、保護デバイス1の所定の領域毎に、異なる大きさの貫通穴6を形成してもよい。また、保護デバイス1の所定の領域に、ハニカム構造の貫通穴6を設けることもできる。
【0022】
また、保護デバイス1の周縁8の滑らかな縁取りにより、骨造成術において、保護デバイス1の上から縫合される口腔粘膜が、保護デバイス1によって破られることが防止される。
【0023】
さらに、第1または第2の側壁2、3、すなわち、保護デバイス1を骨造成される部位に取り付けたときに、患者の正面を向く方の側壁の下端部に、スクリューの挿通穴7が1個設けられている。この場合、挿通穴7は通常1個で足りるが、必要に応じて、複数個の挿通穴7が設けられる。
【0024】
また、別の好ましい実施例によれば、保護デバイス1の構造上の強度を高めるべく、図4に示すように、上壁4は、チャネル5の少なくとも一方の端側の縁に、下向きに突出するフランジ13を備えている。
【0025】
本発明の保護デバイス1は、歯科用インプラントのフィクスチャーの埋め込みに先立つ患者の顎骨の骨欠損部位の骨造成術において、あるいは、当該骨欠損部位へのフィクスチャーの埋め込みと同時の骨造成術において、当該顎骨の骨造成される部位を保護すべく、図5に示すように、当該部位12に上から被せた状態で、スクリュー10によって顎骨11に固定される。そして、保護デバイス1の固定後、保護デバイス1の上から口腔粘膜が縫合され、手術が完了する。その後、一定期間が経過して骨造成が完了した時点で、再び手術が行われ、保護デバイス1が取り外される。
【0026】
本発明によれば、保護デバイス1は、患者のCTデータに基づき、RP技術を用いて形成されるので、骨造成術が行われる前に、保護デバイス1を、患者の骨造成される部位に適合し、機能面および審美性の面から期待される形状が得られるように予め設計することができ、骨造成術中の術者による微調整が不要となり、さらに、保護デバイス1は一定の構造上の強度を有しているので、1本またはせいぜい2、3本のスクリューで顎骨に固定することができる。その結果、骨造成術の手術時間が従来よりも大幅に短縮され、患者の負担が著しく軽減される。
【0027】
また、保護デバイスは一定の構造上の強度を有し、予め設計された形状から容易に変形しないので、患者が、保護デバイスの装着中に保護デバイスを凹ませてしまうおそれが殆どなく、それによって、審美的な骨造成が確実に行える。
また、保護デバイス1が取り付けられている間、縫合された口腔骨造成が保護デバイス1によって破られることが防止されるので、術後の感染症発生のリスクが低減される。
【符号の説明】
【0028】
1 保護デバイス
2 第1の側壁
3 第2の側壁
4 上壁
5 チャネル
6 貫通穴
7 スクリューの挿通穴
8 周縁
9 リブ
10 スクリュー
11 顎骨
12 骨欠損部位
13 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨の骨欠損患者について、当該顎骨に歯科用インプラントのフィクスチャーを埋め込むための骨造成術を行う際、当該顎骨の骨造成される部位を保護すべく、当該部位に一定期間取り付けて使用される保護デバイスであって、
患者のCTデータに基づき、ラピッドプロトタイピング技術を用いて製造され、
第1の側壁と、前記第1の側壁から間隔をあけて配置された第2の側壁と、前記第1および第2の側壁間にのび、前記第1および第2の側壁を接続する上壁と、を備えた、下向きに開いた実質上U字状またはC字状またはコ字状断面の板状をなし、
前記骨造成される部位の復元時の3次元表面形状に対応する形状を有し、前記第1の側壁、前記第2の側壁および前記上壁の内側に形成されたチャネル内に、前記部位が収容されるようになっており、
周縁は滑らかに縁取りされ、前記第1の側壁、前記第2の側壁および前記上壁には、所定の空孔率で貫通穴が形成され、前記第1または第2の側壁の下端部に、スクリューの挿通穴が少なくとも1個設けられ、
前記部位に上から被せた状態で、前記スクリューによって前記顎骨に固定されるものであることを特徴とする保護デバイス。
【請求項2】
前記空孔率が30%〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の保護デバイス。
【請求項3】
前記上壁、および前記第1の側壁の前記上壁との接続部近傍、および前記第2の側壁の前記上壁との接続部近傍の前記空孔率が、前記第1の側壁の前記上壁との接続部近傍以外の部分および前記第2の側壁の前記上壁との接続部近傍以外の部分の前記空孔率よりも小さくなっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の保護デバイス。
【請求項4】
0.3mm〜1.0mmの厚さを有していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の保護デバイス。
【請求項5】
前記上壁から前記第1および第2の側壁のそれぞれへの移行部が、残りの部分よりも厚くなっていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の保護デバイス。
【請求項6】
前記上壁は、前記チャネルの少なくとも一方の端側の縁に、下向きに突出するフランジを備えていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の保護デバイス。
【請求項7】
チタン製またはチタン合金製であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の保護デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−210345(P2012−210345A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77776(P2011−77776)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(593022076)佐川印刷株式会社 (18)
【出願人】(507178785)Bionic株式会社 (8)
【Fターム(参考)】