説明

歯科用ドリル

【課題】簡単な構成でありながら、穿孔対象の海綿骨の骨密度が不均一であっても、その穿孔方向に誤差を生じにくい歯科用ドリルを提供する。
【解決手段】歯科用ドリルDRは、回転軸Cに沿って先端41aから基端41bまで貫通して穿設された中心孔41eを有するドリル本体41と、中心孔41eに先端41aから挿入されるガイドピン51と、を備え、パイロットドリルによって前もって穿孔された埋入孔H0の底部HCを第1位置決め基準Aとし、パイロットドリルを含む先に使用されたドリルによって穿孔された埋入孔HN−1の開口部hN−1、又はドリル本体41自身によって拡大された開口部hNを第2位置決め基準Bとして、第1位置決め基準Aに当接されたガイドピン51の先端(ストッパ51c)と、第2位置決め基準Bに接触しているドリル本体41の切削部41cとによって、その穿孔方向が位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントのフィクスチャーを埋入するための埋入孔を患者の歯槽骨に穿孔する際に使用する歯科用ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
インプラント治療に使用されるデンタルインプラント(以下単に「インプラント」という。)は、歯を喪失した歯槽骨に埋入されるフィクスチャー(インプラント体、例えばチタン製)と、フィクスチャーに接続されて支台となるアバットメントと、アバットメントに装着される上部構造(人工歯冠)とによって構成されている。このインプラントを使用するインプラント治療においては、フィクスチャーを埋入するための埋入孔を歯槽骨の所定の位置に正確に穿孔することが肝要となっている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
フィクスチャーを埋入するための埋入孔を穿孔するには、直径が最も小さなパイロットドリルから始まって、段階的に直径がより大きな数種類のドリルを使用し、最後にフィクスチャーとほぼ同じ直径のファイナルドリルを使用する。
【0004】
この過程では、先にあけた埋入孔がより大きな埋入孔をあける際のガイド孔となるため、パイロットドリル(又はパイロットドリルの次に直径の小さなドリル)による埋入孔が所定の方向へ所定の深さまで正確に穿孔されていれば、それを所定の直径までドリルで段階的に拡大していく際には、サージカルガイドを使用しないでも、穿孔方向に誤差(ズレ)を生じることは、穿孔される海綿骨の骨密度がほぼ均一である限り、稀である。
【0005】
しかし、穿孔される海綿骨の骨密度が均一でない場合には、ドリルが海綿骨から受ける垂直抗力の差により、海綿骨の骨密度の小さな方へドリル先端が誘導されて、穿孔方向に誤差(ズレ)を生じることが多い。
【0006】
この対策として、
(1)ドリルの直径を大きくしていく段階数を増やす。
(2)すべての直径のドリルにサージカルガイドを使用する。
などの方法が採られてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−170080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の方法では、
(1)ドリルやサージカルガイドの増加に伴いコストや手術時間が増加する、
(2)海綿骨の骨密度が著しく不均一な場合には有効でない、
などの問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、簡単な構成でありながら
(1)ドリルやサージカルガイドの増加を伴わず、
(2)海綿骨の骨密度が著しく不均一な場合にも有効な、
パイロットドリルにより所定の方向へ所定の深さまで前もって穿孔された埋入孔を、所定の直径まで段階的に拡大していく際に使用する、穿孔方向に誤差(ズレ)の生じにくい歯科用ドリルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、デンタルインプラントのフィクスチャーを埋入するための埋入孔を、患者の歯槽骨に穿孔する過程で、パイロットドリルによって所定の方向へ所定の深さまで前もって穿孔された埋入孔を、所定の直径まで段階的に拡大していく際に使用する歯科用ドリルにおいて、前記歯科用ドリルは、回転軸に沿って先端から基端まで貫通して穿設された中心孔を有するドリル本体と、前記中心孔に前記先端から挿入されるガイドピンと、を備え、前記パイロットドリルによって前もって穿孔された前記埋入孔の底部を第1位置決め基準とし、前記パイロットドリルを含む先に使用されたドリルによって穿孔された埋入孔の開口部、又は前記ドリル本体自身によって拡大された前記開口部を第2位置決め基準として、前記第1位置決め基準に当接された前記ガイドピンの先端と、前記第2位置決め基準に接触している前記ドリル本体の切削部とによって、その穿孔方向が位置決めされる、ことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る歯科用ドリルにおいて、前記ガイドピンの長さは、前記中心孔の長さに、前記パイロットドリルによって前もって穿孔された前記埋入孔の深さを加算した長さを下回らない長さに設定されている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る歯科用ドリルにおいて、前記ガイドピンの直径は、前記ガイドピンが前記ドリル本体の前記中心孔に挿入された際に、自重では抜けない程度の嵌め合い状態を保持する大きさに設定されている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に係る歯科用ドリルにおいて、前記ガイドピンは、直径が前記中心孔の直径よりも大きくかつ前記パイロットドリルの直径より小さな円錐又は皿状のストッパをその先端に有している、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に係る歯科用ドリルにおいて、前記ガイドピンは、前記ガイドピンが前記ドリル本体の前記先端から突出している部分の長さを表示する目盛りをその基端側に有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ガイドピンがその中心孔に挿入されたドリル本体は、第1位置決め基準に当接されたガイドピンの先端部と、第2位置決め基準に当接された(接触した)ドリル本体の切削部(先端)とによって位置決めされるので、穿孔開始時において穿孔(進行)方向に誤差(ズレ)を生じにくい。さらに、このガイドピンが挿入されたドリル本体は、穿孔(進行)過程においても、ドリル本体自身によって拡大された硬い皮質骨の開口部(内周壁)を第2位置決め基準として、第1位置決め基準に当接されたガイドピンの先端部とともに、第2位置決め基準に接触しているドリル本体の切削部(外周面)とによって位置決めされつづけるので、たとえ海綿骨の骨密度が著しく不均一であってもドリル本体の先端が方向ズレすることなく、患者の口腔内で、パイロットドリルによって前もって穿孔された埋入孔を拡大して、所定の埋入位置に正確にフィクスチャーの埋入孔を穿孔することができる。
【0016】
すなわち、簡単な構成でありながら、
(1)ドリルやサージカルガイドの増加を伴わず、
(2)海綿骨の骨密度が著しく不均一な場合にも有効な、
パイロットドリルにより所定の方向へ所定の深さまで前もって穿孔された埋入孔を、所定の直径まで段階的に拡大していく際に使用する、穿孔方向に誤差(ズレ)の生じにくい歯科用ドリルを提供することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、口腔内におけるガイドピンを含むドリル全体の大きさを最小限にして、患者が術中に大きな口をあけつづける負担を軽減することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、ドリル本体の向きにかかわらず、ガイドピンがドリル本体の中心孔から抜け落ちることを防止することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、ドリルで埋入孔を穿孔する際に、ストッパがドリル本体の先端に当接することで、ドリルが所定の深さ(パイロットドリルであけた埋入孔の深さ)よりも深く穿孔するのを防止することができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、ガイドピンがドリル本体の先端から突出している部分の長さを、ガイドピンの基端側の目盛りで読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1のドリルDRを、その回転軸Cを含む平面で切断した断面図である。
【図2】(a),(b)は、ドリルDRの使用状態を説明する図である。
【図3】インプラント70を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材等は、同一又は類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また、各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
<実施形態1>
【0023】
図1,図2,図3を参照して、本発明が適用された実施形態1に係る歯科用ドリル(以下単に「ドリル」という。)DRについて説明する。ここで、図1は、ドリルDRを、その回転軸Cを含む平面で切断した断面図である。また、図2は、ドリルDRの使用状態を説明する図であり、(a)は穿孔開始時、(b)は穿孔過程の図である。図3は、インプラント70を説明する縦断面図である。
I 概要
【0024】
まず、図3を参照して、インプラント70について説明する。歯(不図示)が抜けた後には、柔らかい海綿骨60と硬い皮質骨61とからなる歯槽骨62と、これを覆う粘膜(歯肉)63とが残る。インプラント70は、歯槽骨62に埋入孔を穿孔して埋入したフィクスチャー71と、フィクスチャー71に接続されて支台となるアバットメント72と、アバットメント72に装着される上部構造73とによって構成されている。
【0025】
上述のフィクスチャー71を埋入するための埋入孔を歯槽骨62に穿孔する際には、直径が最も小さなパイロットドリル(歯槽骨62にはじめに穿孔するドリル)から始まって、段階的に直径がより大きな数種類のドリルを使用し、最後にフィクスチャー71とほぼ同じ直径のファイナルドリルを使用する。本発明は、パイロットドリルによって所定の方向へ所定の深さまで前もって穿孔された埋入孔を、所定の直径まで段階的に拡大していく際に使用する、これら、パイロットドリル以外のドリルに適用される。
II 構造
【0026】
次に、図1,図2を参照して、ドリルDRの構造について説明する。なお、以下の説明では、パイロットドリル(不図示)によって歯槽骨62に穿孔された埋入孔をH0とし、埋入孔H0の開口部をh0とする。また、パイロットドリルより1段階直径の大きなドリル1(不図示)によって穿孔された埋入孔及び開口部をそれぞれH1、h1とし、同様にパイロットドリルより2段階直径の大きなドリル2によって穿孔された埋入孔及び開口部をそれぞれH2、h2とし、以下同様にパイロットドリルよりN段階直径の大きなドリルNによって穿孔された埋入孔及び開口部をそれぞれHN、hNとする(ただしN=1,2,3,……,F)。なお、ドリルFはファイナルドリルである。このように定義すると、本実施形態に係るドリルDRは、ドリル1〜Fに対応することになる。また、埋入孔H0の底部をHCとし、その深さをD(皮質骨61の表面61aから底部HCまでの距離)とする。
【0027】
図1に示すドリルDRは、フィクスチャー埋入孔穿孔用のドリルであり、ドリル本体41と、このドリル本体41に対して着脱可能なガイドピン51とを備えて構成されている。
【0028】
i)ドリル本体41は、その回転軸(回転中心)Cを長軸として形成されており、その先端41a側(図1中における下端側)に、螺旋状の刃が形成された切削部41cを有し、かつその基端41b側(図1中における上端側)に、シャンク部41dを有している。また、ドリル本体41は、その回転軸Cに沿って、ガイドピン51が挿入される、直径d1が0.8mm程度の中心孔41eが、先端41aから基端41bまで貫通して穿設されている。したがって、中心孔41eの長さLDは、ドリル本体41の先端41aから基端41bまでの長さと同じになる。
【0029】
ドリル本体41は、基端41b側のシャンク部41dをハンドピース40(図2の二点鎖線参照)のコントラヘッド40a(図2の二点鎖線参照)に挿入した後、ロック機構(不図示)によってロックすることにより、ハンドピース40に装着される。
【0030】
ii)ガイドピン51は、金属製又はセラミック製であり、その長さLP(先端51aから基端51bまでの距離)は、ドリル本体41の中心孔41eの長さLDに所定の深さD(パイロットドリルであけた埋入孔H0の深さD)を加算した長さを下回らない長さに設定されている。これにより、ドリル本体41の先端41aを埋入孔HNの開口部h0(hN)に当接させた状態で、ガイドピン51を、中心孔41eに沿ってスライドさせて埋入孔H0(HN)内へ挿入して、後述するストッパ51cを埋入孔H0の底部HCに当接させた際には、ドリル本体41の基端41bから突出していたガイドピン51が中心孔41e内にほぼ押し込まれるので、口腔内におけるガイドピン51を含むドリル全体の大きさが最小限となり、患者が術中に大きな口をあけつづける負担を軽減している。
【0031】
なお、図2(a)では、ドリル本体41及びガイドピン51を、説明の便宜上、拡大して模式的に示しているため、回転軸Cに沿った方向の、ドリル本体41の先端41aの位置と開口部h0の位置とが異なるように図示しているが、実際には、これらの位置にずれは、ドリル本体41の中心孔41eの長さLDやガイドピン51の長さLPに対して、無視できる程度のものである。
【0032】
また、ガイドピン51の直径d2は、ガイドピン51がその自重により中心孔41eから抜け落ちることなく、かつ、ドリル本体41に対して、ガイドピン51を積極的に移動させる場合には、比較的容易に移動できる程度の嵌め合い状態を保持する大きさに設定されている。これにより、ハンドピース40にドリル本体41を装着し、さらに、そのドリル本体41の中心孔41eにガイドピン51を挿入した状態において、ハンドピース40の向きにかかわらず、ガイドピン51がドリル本体41の中心孔41eから抜け落ちることを防止している。
【0033】
また、ガイドピン51は、その先端51a(先端部)に、円錐又は皿状のストッパ51cを有している。このストッパ51cの直径d3は、ドリル本体41の中心孔41eの直径d1よりも大きく、かつパイロットドリルの直径d4(埋入孔H0の直径と略同じ)より僅かに小さな大きさに設定されている。これにより、後述するように、埋入孔の穿孔時に、ガイドピン51がドリル本体41をガイドする際に、ガイドピン51の先端51aのストッパ51cが不要に移動することを有効に防止できる。このストッパ51cにより、ドリルDRで埋入孔HNを穿孔する際に、ストッパ51cがドリル本体41の先端41aに当接することで、ドリルDRが所定の深さDよりも深く穿孔するのを防止している。
【0034】
さらに、ガイドピン51の基端51b側には、ガイドピン51の先端51a側の突出長さL1(図2(b)参照)を表示するための目盛り51dが設けられている。ここで、突出長さL1とは、ドリル本体41の先端41aからガイドピン51が突出している部分の長さ(先端41aからストッパ51cの先端までの距離)を示すものである。この目盛り51dを読み取ることにより、突出長さL1を把握することができる。ここで、例えば、図2(a),(b)に示すように、ガイドピン51の長さLPを、ドリル本体41の中心孔41eの長さ(=ドリル本体41の長さ)と埋入孔H0の深さDとの和と同じになるように設定しておけば、図2(b)に示すように、ガイドピン51の基端51b側の突出長さL2と、ドリル本体41による埋入孔H1の穿孔深さL3とが等しくなる。したがって、穿孔深さL3が最大となったとき、つまり、ガイドピン51の先端51a側の突出長さL1が0となったときに、ガイドピン51の基端51b側の突出長さL2が最大となる。このときの目盛り51dの読みが0となるように、すなわち、目盛り51dの0を、突出長さL2が最大となったときに、ドリル本体41の基端41bと一致するように設定しいておく。
【0035】
III 手順
つづいて、上述の本実施形態に係るドリルDRの使用手順について説明する。
(1)本実施形態に係るドリルDRの使用に先立ち、パイロットドリル(不図示)を使用して、患者の口腔内の歯槽骨62(海面骨60及び皮質骨61)に所定の埋入方向へ、所定の深さDまでフィクスチャー71の埋入孔H0を穿孔する。
(2)次に、ハンドピース40のコントラヘッド40aにパイロットドリルより1段階直径の大きなドリル1(ドリルDR)のドリル本体41を装着し、ガイドピン51を、ドリル本体41の先端41aから中心孔41eに挿入して、ストッパ51cがドリル本体41の先端41aに当接するまでガイドピン51を押し込む。
(3)つづいて、ハンドピース40を操作して、ガイドピン51が挿入されたドリル本体41の先端41aを埋入孔H0の開口部h0に当接させる。この状態を保ったまま、ガイドピン51の基端51bを指で押してガイドピン51を、中心孔41eに沿ってスライドさせて埋入孔H0内へ挿入していき、ストッパ51cを埋入孔H0の底部HCに当接させる。ここでドリル本体41の基端41bから突出していたガイドピン51が中心孔41e内にほぼ押し込まれていることを確認する。
このとき、ストッパ51cが当接している埋入孔H0の底部HCが第1位置決め基準Aとなり、ドリル本体41の先端41aが当接している埋入孔H0の開口部h0が穿孔開始時における第2位置決め基準Bとなる(図2(a)参照)。
以上でドリル1による埋入孔H1の穿孔準備が完了する。
(4)ひきつづいて、ドリル本体41を回転させ、埋入孔H1の穿孔を開始する。
まず、ガイドピン51が挿入されたドリル本体41は、第1位置決め基準Aに当接されたストッパ51cと、第2位置決め基準Bに当接されたドリル本体41の先端41aとによって位置決めされた状態で、上述のパイロットドリルによって穿孔された埋入孔H0の開口部h0を拡大して、1段階直径の大きな埋入孔H1の開口部h1を皮質骨61に形成する。
一般に、皮質骨61は海綿骨60に比べて充分に硬いので、皮質骨61が著しく薄くない限り、その後の穿孔過程においては、皮質骨61に形成されたこの開口部h1の内周壁が、ドリル本体41の切削部41cの外周面をガイドする。つまり、ドリル本体41の切削部41cの外周面と接触している開口部h1の内周壁が、その後の埋入孔H1の穿孔過程における第2位置決め基準Bとなる。
(5)ドリル本体41による埋入孔H1の穿孔が進むにつれて、徐々に埋入孔H1の深さが深くなるが、この海綿骨60内を穿孔していく過程においても、ガイドピン51が挿入されたドリル本体41は、その間中、第1位置決め基準Aに当接されたストッパ51cと、第2位置決め基準Bに接触している切削部41cの外周面とによって位置決めされつづけ、その穿孔(進行)方向がこの2点を結ぶ方向のみへ限定されつづけるので、たとえ海綿骨60の骨密度が著しく不均一な場合でも、穿孔(進行)方向が偏倚されることなく、ガイドピン51に沿って底部HCに向けてまっすぐに穿孔(進行)する。つまり、パイロットドリルであけた埋入孔H0と同一の方向に正確に埋入孔H1を穿孔していく(図2(b)参照)。
これは、ガイドピン51が挿入されたドリル本体41を1つの装置としてとらえると、この装置の可動範囲は長軸方向(回転軸Cに沿った方向)への伸縮のみに限られるため、ガイドピン51先端のストッパ51cとドリル本体41の切削部41cの2箇所をそれぞれ遊びのない保持孔で位置決めすると、この装置の可動範囲は、これら2箇所を結ぶ直線方向への伸縮のみに限定されるからである。
(6)こうしてドリル1が穿孔してきた埋入孔H1の深さが所定の深さDに達すると、ドリル本体41の先端41aがガイドピン51のストッパ51cに当接して、ドリル本体41のそれ以上の穿孔(進行)が防止される。ここで目盛り51dがほぼ0となっていることを確認する。
(7)ハンドピース40を操作して、ドリル本体41の切削部41cを埋入孔H1から抜き出し、ドリル本体41の回転を停止させる。これにより、ドリル1による埋入孔H1の穿孔が完了する。
(8)ひきつづいて上述のドリル1よりも直径が1段階ずつ大きなドリル2,3,……,Fと順次交換して同様の穿孔を繰り返して埋入孔の直径を段階的に拡大し、最後にファイナルドリル(ドリルF)を使用して所定の直径の埋入孔を穿孔して埋入孔の穿孔が完了する。
IV 利点
【0036】
本実施形態に係るドリルDRによれば、簡単な構成でありながら、
(1)ドリルやサージカルガイドの増加を伴わず
(2)海綿骨60の骨密度が著しく不均一な場合にも、
パイロットドリルにより所定の方向へ所定の深さDまで前もって穿孔された埋入孔H0を、穿孔方向に誤差(ズレ)を生じることなく、所定の直径まで段階的に拡大して、所定の位置に埋入孔を穿孔することができる。
なお、ガイドピン51のストッパ51cがドリルDRの振動により埋入孔H0の底部HCから浮き上がる場合には、ガイドピン51の基端51bを指で軽く押さえておくとよい。
【0037】
また、上述ではパイロットドリルより1段階直径の大きなドリル1から本発明を適用したドリルDRの使用を開始する場合について述べたが、これに代えて、ドリル1にサージカルガイドを使用して埋入孔H1を穿孔し、パイロットドリルより2段階直径の大きなドリル2から本発明を適用したドリルDRの使用を開始してもよい。
【0038】
また、長さを半分にしたガイドピン51を2本用意し、ドリル本体41の先端41aと基端41bからそれぞれ挿入して両者の基端51bを中心孔41e内で当接させて使用してもよい。これにより、直径が異なるガイドピン51を使用したり、皮質骨61が著しく薄い場合などにサージカルガイドを併用することが可能になる。
【符号の説明】
【0039】
41 ドリル本体
41a 先端
41b 基端
41c切削部
41e 中心孔
51 ガイドピン
51aガイドピンの先端
51bガイドピンの基端
51c ストッパ
51d 目盛り
60 海綿骨
61 皮質骨
62 歯槽骨
70 インプラント
71 フィクスチャー
A 第1位置決め基準
B 第2位置決め基準
C 回転軸
D 埋入孔の所定の深さ(埋入孔H0の深さ)
DR ドリル(歯科用ドリル)
d1 中心孔の直径
d2 ガイドピンの直径
d3 ガイドピンのストッパの直径
d4 パイロットドリルの直径
H0 パイロットドリルで穿孔された埋入孔
H1 ドリル1で穿孔された埋入孔
HC 埋入孔H0の底部
h0 埋入孔H0の開口部
h1 埋入孔H1の開口部
hN 埋入孔HNの開口部
L1 突出長さ(ガイドピンのうちの、ドリル本体の先端からの突出している部分の長さ)
LD 中心孔の長さ
LP ガイドピンの長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンタルインプラントのフィクスチャーを埋入するための埋入孔を、患者の歯槽骨に穿孔する過程で、パイロットドリルによって所定の方向へ所定の深さまで前もって穿孔された埋入孔を、所定の直径まで段階的に拡大していく際に使用する歯科用ドリルにおいて、
回転軸に沿って先端から基端まで貫通して穿設された中心孔を有するドリル本体と、
前記中心孔に前記先端から挿入されるガイドピンと、
を備え、
前記パイロットドリルによって前もって穿孔された前記埋入孔の底部を第1位置決め基準とし、
前記パイロットドリルを含む先に使用されたドリルによって穿孔された埋入孔の開口部、又は前記ドリル本体自身によって拡大された前記開口部を第2位置決め基準として、
前記第1位置決め基準に当接された前記ガイドピンの先端と、前記第2位置決め基準に接触している前記ドリル本体の切削部とによって、その穿孔方向が位置決めされる、
ことを特徴とする歯科用ドリル。
【請求項2】
前記ガイドピンの長さは、前記中心孔の長さに、前記パイロットドリルによって前もって穿孔された前記埋入孔の深さを加算した長さを下回らない長さに設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の歯科用ドリル。
【請求項3】
前記ガイドピンの直径は、前記ガイドピンが前記ドリル本体の前記中心孔に挿入された際に、自重では抜けない程度の嵌め合い状態を保持する大きさに設定されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用ドリル。
【請求項4】
前記ガイドピンは、直径が前記中心孔の直径よりも大きくかつ前記パイロットドリルの直径より小さな円錐又は皿状のストッパをその先端に有している、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の歯科用ドリル。
【請求項5】
前記ガイドピンは、前記ガイドピンが前記ドリル本体の前記先端からの突出している部分の長さを表示する目盛りをその基端側に有する、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の歯科用ドリル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−75696(P2012−75696A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223788(P2010−223788)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(508062719)
【Fターム(参考)】