説明

歯科用研磨材

【課題】短時間で手軽に、各種歯科用物品の研磨が可能で、且つ、美しい光沢を付与できる歯科用研磨材を提供すること。
【解決手段】天然ロウ成分を含有する弾性体からなることを特徴とする歯科用研磨材により達成される。天然ロウ成分としては、植物より抽出して得られるカルナウバロウと、カイガラムシからの抽出して得られるセラックが挙げられる。いずれも食品、化粧品及び薬品の光沢化剤として一般に使用されている。カルナウバロウとセラックは、それぞれ単独使用又は併用することができる。天然ロウ成分を用いると、研磨した後の歯科用物品表面の微細な凹凸や傷を埋め滑らかにし、かつロウ成分の艶出し効果により歯科用物品の光沢も増加する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科用の研磨材に係り、更に詳しくは、天然ロウ成分を含有する歯科用研磨材に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種セラミックからなる研磨粒子を含有する固体又は発泡高分子マトリックスからなる歯科用研磨材は各種知られている。これら研磨材は、歯科治療に用いられるレジン系材料、セラミック、金属及び歯を研磨し、最終的には美しい光沢を付与するために用いられている。しかし、最終的に光沢を付与するためには、鏡面にまで研磨する必要があり、かかる研磨には極微細な研磨粒子を用い、長時間に渡り緻密に研磨しなければならず、更には、バフによる艶出しが必要な場合も多く、多大な労力及び時間が必要との問題点が指摘されている。
【0003】
そして、歯科治療に用いられる各種材料の表面を研磨して艶を出す、チッ化ケイ素を含有する艶出し材を、本発明者らは以前見出している(特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−155882号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的とするは、短時間で手軽に、各種歯科用物品の研磨が可能で、且つ、美しい光沢を付与できる歯科用研磨材を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の目的は、天然ロウ成分を含有する弾性体からなることを特徴とする歯科用研磨材により達成される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成について詳細に説明する。
【0008】
本発明の歯科用研磨材に用いる天然ロウ成分としては、植物より抽出して得られるカルナウバロウと、カイガラムシからの抽出して得られるセラックが挙げられる。いずれも食品、化粧品及び薬品の光沢化剤として一般に使用されている。カルナウバロウとセラックは、それぞれ単独使用又は併用することができる。使用に際しては、粉末を用いるのが好ましく、その大きさとしては平均粒径0.1μm〜20μmが好ましく、0.5μm〜10μmが特に好ましい。天然ロウ成分を用いると、研磨した後の歯科用物品表面の微細な凹凸や傷を埋め滑らかにし、かつロウ成分の艶出し効果により歯科用物品の光沢も増加する。
【0009】
なお本発明において平均粒径とは、いわゆるメジアン径(d50)のことである。たとえばレーザー回折散乱法による粒度分布測定装置(たとえばMicrotrac Inc.製7997SPA型など)を用いて、天然ロウ成分の粉末の体積基準の分布を測定し、累積分布で表したときに累積50%となる粒径を求めることにより得られる。もちろん、ふるい法、自然沈降法、遠心沈降法、動的光散乱法、顕微鏡法、画像解析法などの他の手法によって測定した粒度分布に拠っても構わない。
【0010】
本発明の歯科用研磨材に用いる弾性体としては、天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂などが挙げられる。合成ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴムゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム等のジエン系ゴム;ウレタンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム等の非ジエン系ゴム;が挙げられる。また合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;ポリビニルアセタール樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂;が挙げられる。これら列挙したなかで、合成ゴムのアクリロニトリル−ブタジエンゴムゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ウレタンゴムまたはシリコンゴム、あるいは合成樹脂のポリビニルアセタール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタンまたはメラミン樹脂が好ましい。さらにシリコンゴムまたはクロロプレンゴムがより好ましい。
【0011】
そして、弾性体の硬さは研磨効果に影響するため、上記弾性体の硬さは、ゴム硬度50〜98であることが好ましい。歯科用物品を効果的に研磨するには、ゴム硬度50以上が好ましく、対象となる歯科用物品の表面を傷つけずに研磨による光沢を効果的に付与するためには、ゴム硬度98以下が好ましい。なお、ここでいうゴム硬度とは、JIS K 6253に準拠したデュロメータA型によるショア硬度である。
【0012】
また上記弾性体は、緻密体でも多孔質体でも良いが、合成樹脂を用いる場合、適度な弾性を付与するために多孔質体が好ましい。そして、この多孔質体構造の弾性体が有する孔の大きさ(気孔径)および孔の割合(気孔率)が望ましい範囲にあれば、さらに好ましい。すなわち多孔質体としたときの弾性体が適度な弾性を有するには、その気孔径が、好ましくは0.1〜300μm、より好ましくは1〜100μmであることが望ましい。また気孔率が、好ましくは5〜80%、より好ましくは10〜50%であることが望ましい。
【0013】
本発明の歯科用研磨材においては、上記弾性体に対する天然ロウ成分の含有量は、1〜30重量%が好ましく、より好ましくは3〜20重量%である。すなわち歯科用物品の表面の光沢を充分に得るためには、天然ロウ成分の含有量は1重量%以上が好ましく、より好ましくは3重量%以上である。一方、天然ロウ成分の含有量を多くすると弾性体が脆弱になる傾向にあるため、歯科用研磨材として好ましい弾性を考慮すると、含有量は30重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下である。
【0014】
本発明の歯科用研磨材の研磨粒子としては、一般に使用されている、アルミナ、シリカ、軽石、炭化ケイ素等の無機微粉末を用いるのが好ましい。鏡面研磨のためには、100μm以下の研磨粒子を用いるのが好ましい。
【0015】
上記弾性体には、必要に応じて有機又は無機フッ化物源、香料、色素等の他の成分を配合させてもよい。有機又は無機フッ化物源は歯科用途で広く用いられるものでよく、香料、色素等も食品、化粧品及び薬品など一般に広く用いられるものでよい。
【0016】
本発明の歯科用研磨材の形状としては、歯科用レジン系材料、セラミックおよび歯科用金属を研磨するのに使用する場合は、砲弾状、ディスク状及びカップ状の形状が挙げられるが、これら以外にも種々の形状のものがある。また、歯科予防用研磨ポイントとして歯の表面を平滑化し、光沢を付与することもできる。すなわち本発明の歯科用研磨材は、特に歯科用レジン系材料及び歯の光沢付与に有効である。
【0017】
本発明の歯科用研磨材の製造方法としては、例えば、合成ゴムを使用する場合は、未加硫ゴムにアルミナ等の研磨粒子及びカルナウバロウ粉末及び/又はセラック粉末をを練り込み、所定の金型で加硫成形する方法、また、溶融した合成樹脂にアルミナ等の研磨粒子及びカルナウバロウ粉末及び/又はセラック粉末を混合して押出し成形する方法等が挙げられ、多孔質化する方法は、発泡等の通常の方法が適用できる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。
【0019】
なお、実施例中の光沢度の測定は次のようにして行った。歯冠用硬質レジン「アイサイト」(カネボウ(株)製)の直径10mmの円盤を作製し、その表面を各種歯科用研磨ポイントで仕上げ研磨した。これらの仕上げ研磨面及び市販の歯科用艶出し材を用いて鹿皮製のバフで艶出しを行った艶出し面の光沢を村上色彩研究所製光沢計で入射角60°にて測定した。
【0020】
<実施例1>
平均粒径2μmの合成球状アルミナ粉末50重量部及びカルナウバロウ粉末(フロイント産業(株)製)5重量部をシリコンゴム45重量部に練り込み、硬化させて直径5mm、長さ12mmの砲弾状の歯科用研磨ポイントを作製した。この歯科用研磨ポイントを用い、仕上げ研磨した面の光沢度は72であり、さらにパフ艶出しを行った面の光沢度74と遜色なかった。
【0021】
<比較例1>
カルナウバロウ粉末を配合させない他は、上記実施例1と同様な方法で歯科用研磨ポイントを作製した。この歯科用研磨ポイントでの仕上げ研磨面の光沢度は43、バフ艶出し面の光沢度は70であった。
【0022】
<実施例2>
平均粒径3μmの合成球状シリカ50重量部と微粉砕した白色セラック(日本シェラック(株)製)10重量部をクロロプレンゴム40重部に練り込み、所定の金型で加硫成形して、直径5mm、長さ12mmの砲弾状の歯科用研磨ポイントを作製した。この歯科用研磨ポイントでの仕上げ研磨面の光沢度は75であった。
【0023】
<実施例3>
実施例1の合成球状アルミナ粉末35重量部及びカルナウバロウ微粉末5重量部をシリコンゴム60重量部に練り込み、カップ状の歯科予防用研磨ポイントを作製した。このカップを用いて患者の歯のクリーニングを行ったところ、短時間の操作で自然な光沢が得られた。
【0024】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、短時間で手軽に、各種歯科用物品の研磨が可能で、且つ、美しい光沢を付与できる歯科用研磨材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ロウ成分を含有する弾性体からなることを特徴とする歯科研磨材。

【公開番号】特開2006−20655(P2006−20655A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−379512(P2002−379512)
【出願日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】