説明

歯科用組成物

【解決手段】 本発明の歯科用組成物は、(A)酸性基含有重合性単量体、(B)水酸基含有重合性単量体、(C)特定の式で表される芳香族化合物、(D)リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(TCP)とからなるリン酸系のカルシウム充填材とを含有する歯科用接着性組成物であり、上記(A)成分を、(A)+(B)+(C)合計量100重
量%中に1〜50重量%、(B)成分を同様に1〜98.89重量%、(C)成分を同様に0.01〜30重量%の量で用い、上記(D)成分を、(A)+(B)+(C)合計量100重量
部に対して15〜95重量部の量で用いることを特徴とする。
【効果】 本発明によれば、特に歯科用の樹脂組成物として使用することにより、優れた接着効果が発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用に特に好適に使用することができる歯科用組成物に関する。詳しくは、歯科用セメント、歯科用ボンディング材などの歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕は口腔内に存在する齲蝕病原菌が産生する酸によって歯が脱灰を受ける病気であり、治療は感染部位の切削、歯科材料の充填・修復により行われる。これら治療には、接着性レジンセメント、ボンディング材、あるいはグラスアイオノマーセメント等の接着材が使用されている。
【0003】
歯牙に対する接着は、その一時的な接着強度のみならず、口腔内環境における耐久性も重要視される。たとえば、口腔内環境において接着効果の減少による歯質−接着材界面に間隙が生じ、微小漏洩を併発した場合には、この間隙から刺激性物質や細菌等が侵入し、さらに修復部分における齲蝕再発生の確率が高くなり、治療は失敗に終わることも少なくない。
【0004】
一方、上述した従来からの歯科用接着材に加え、非特許文献1などには、リン酸テトラカルシウムおよびリン酸二カルシウムのリン酸カルシウムを主成分とし、生体硬組織と同様のハイドロキシアパタイトに転化する接着材の使用が提示されている。
【0005】
しかしながら、特に齲蝕などに対する治療おいては、その初期接着強度の面などから適用範囲が狭いことが懸念される。
さらに従来より生体親和性あるいは機械的強度の向上などを目的に種々のリン酸カルシウムを添加した歯科用あるいは生体用接着材組成物が提示されているが、歯科用接着材とこれら無機化合物を同時に併用することによって接着性能の著しい低下が引き起こされるという指摘もある。
【0006】
特許文献1にはリン酸カルシウム系粉末、ポリメタアクリレート粉末、メタアクリレート系モノマーからなる組成物が提示されており、特に物性等の優れた硬化体を得ることが可能となるとされているが、歯牙ないしは硬組織に対して接着を行った際には、接着強度が小さく、微小漏洩の原因となりかねない。
【0007】
このため、優れた接着効果を持ち、同時に微小漏洩を発生させない歯科用組成物が望まれている。
【非特許文献1】Journal of Hard Tissue Biology;4(1):1-7
【特許文献1】特開2001−231848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規な歯科用組成物、特に歯科用の接着性樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)分子中に少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体、
(B)分子中に少なくとも1つの水酸基を有する重合性単量体、
(C)下記式(1)および/または(2)で表される化合物、
【0010】
【化2】

【0011】
(ただし、式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子であるか、官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基のいずれかであり、R3は水素原子
または金属原子である。);
【0012】
【化3】

【0013】
(ただし、式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子であるか、またはアルキル基のいずれかであり、R6は水素原子であるか、または、官能基あるいは
置換基を有していても良いアルキル基またはアルコキシル基のいずれかである。)、
(D)リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有する充填材とを含有する歯科用組成物であり、
上記歯科用組成物を構成する上記酸性基含有重合性単量体(A)の使用量が、酸性基含有重合性単量体(A)と水酸基含有重合性単量体(B)と式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)との合計使用量100重量%中に1〜50重量%の範囲内にあり
、上記酸性基含有重合性単量体(B)の使用量が1〜98.99重量%の範囲内にあり、式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)の使用量が0.01〜30重量%の範囲内にあり、
上記(D)リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有するカルシウム充填材の使用量が、上記酸性基含有重合性単量体(A)と水酸基含有重合性単量体(B)と式(1)および/または(2)で表わされる化合物との合計使用量100重量部に対して15〜95重量部の範囲内にあることを特徴とする歯科用接着性組成物にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科用組成物は、特に歯科用の接着性組成物として使用することができ、優れた接着効果が発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の歯科用組成物について詳細に説明する。以下の記載において特別の表記がない限り、「部」および「%」は重量基準を示す。
本発明の歯科用接着性組成物は、
(A)分子中に少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体、
(B)分子中に少なくとも1つの水酸基を有する重合性単量体、
(C)下記式(1)および/または(2)で表される化合物、
【0016】
【化5】

【0017】
(ただし、式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子であるか、官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基のいずれかであり、R3は水素原子
または金属原子である。);
【0018】
【化6】

【0019】
(ただし、式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子であるか、またはアルキル基のいずれかであり、R6は水素原子であるか、または、官能基あるいは
置換基を有していても良いアルキル基またはアルコキシル基のいずれかである。)、
(D)リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有するカルシウム充填材とを含有する歯科用接着性組成物である。
【0020】
このように、本発明の歯科用組成物は、酸性基含有重合性単量体(A)と水酸基含有重合性単量体(B)と特定の反応性単量体(C)と、リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを組み合わせたカルシウム充填材(D)とを含有する歯科用に特に適した硬化性の樹脂組成物である。即ち、特定のカルシウム含有化合物であるリン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを組み合わせたカルシウム充填材(D)をこの組成物のカルシウム充填材として使用することにより、患部周辺の歯質の再石灰化能を促すとの作用効果を奏するものである。
【0021】
本発明の歯科用組成物に配合される(A)成分である分子内に少なくとも1つの酸性基を含有する重合性単量体は、通常は分子内に酸性基と、1つの重合性基とを有する単官能
性である。この酸性基含有重合性の有する重合性基としては、ラジカル重合性基が好ましく、このようなラジカル重合性基の例としては、ビニル基、シアン化ビニル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などを挙げることができる。また、酸性基としては、カルボキシル基およびその酸無水基、リン酸基、チオリン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基などを例示することができる。あるいはカルボキシル基の酸無水基のように、実用条件において容易に分解して前記酸性基になるなど、実質上酸性基として機能するものも本発明では酸性基と看做す。
【0022】
本発明で使用する(A)成分である分子中にカルボキシル基を有する重合性化合物の具
体的な例としては、
(メタ)アクリル酸(以下、アクリル酸とメタアクリル酸の総称としてこのように記載する。)、マレイン酸等のα−不飽和カルボン酸;
4−ビニル安息香酸等のビニル芳香環化合物;
11−(メタ)アクリロイルオキシ‐1,1−ウンデカンジカルボン酸(以下、アクリロイ
ルとメタアクリロイルの総称として「(メタ)アクリロイル」と記載する。)等の(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸化合物;
6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン‐1,2,6−トリカルボン酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルナフタレン(ポリ)カルボン酸;
4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイル
オキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸等といった(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸;
4−[2−ヒドロキシ‐3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等のさ
らに水酸基を含有する化合物;
2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−ト(以下、アクリレートとメタアクリレートの総称として「(メタ)アクリレート」のように記載する。)等のカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;
N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、O−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN−および/またはO−位置換のモノまたはジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;
N−(メタ)アクリロイル‐4−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミ
ノ安息香酸、2−または3−または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−または5
−(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸等のN−および/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイル(アミノまたはオキシ)安息香酸系化合物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾ
フェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3',4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;
2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプ
ロパンなどのポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物;
N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加物;
4−[N−(2−ヒドロキシ‐3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル‐N−(2−ヒドロキシ‐3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などのN−アルキル‐N−(ヒドロキシ(メタ)アクリロイルオキシアルキル)アミノフタル酸化合物
などを挙げることができる。これらのうち、本発明では(A)成分として、11−(メタ)
アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸が好ましく用いられる。
【0023】
また、本発明において使用する酸性基を有する重合性単量体として、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基および水中で容易に該基に変換し得る官能基として、例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基を有する化合物を好ましく例示することができる。
【0024】
このような基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシ
エチルアシドホスフェート、2−および/または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(
メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキ
シオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;
ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2-または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等の2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル‐p−メトキシフェニルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロ
イルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェートなどを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェートを好ましく使用することができる。
【0025】
スルホン酸基あるいはスルホン酸基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体として、例えば2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2-または1-スルホ‐1−また
は2−プロピル(メタ)アクリレート、1−または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;
3−ブロモ‐2−スルホ‐2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ‐1−スルホ
‐2−プロピル(メタ)アクリレート等の前記のアルキル部にハロゲンや酸素などのヘテ
ロ原子を含む原子団を有する化合物;
1,1−ジメチル‐2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2−メチル‐2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等の前記アクリレートに代えてアクリルアミドである化合物など;
さらには4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ‐1−エン‐2−イル)ベンゼンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸などを挙げることができる。これらのうち、4−スチ
レンスルホン酸を好ましく使用することができる。これら化合物は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明においては、これら酸性基を少なくとも1つ含有する重合性単量体のなかでは4
−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸および/またはその酸無水物がもっとも好ましい。
【0027】
本発明の歯科用組成物には、(A)成分、後述する(B)成分、および(C)成分との合計100重量%中に、上記(A)成分を、1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%の量で含有している。このような量で分子内に酸性基を含有する重合性単量体(A)を使用することにより、歯科用組成物は、被着体である歯質に代表される硬組織に対して良好な接着性を示すようになる。
【0028】
本発明の歯科用組成物における(B)成分は、分子中に少なくとも1つの水酸基を有する重合性単量体である。これらの水酸基を含有する重合性単量体は、さらに分子内にカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、アミノ基、グリシジル基などの官能基をあわせて含有することもできる。
【0029】
かかる化合物としては、たとえば(メタ)アクリロイル基を有する単量体では、2−ハ
イドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-または3−ハイドロキシプロピル(メタ)ア
クリレート、4−ハイドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ハイヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ハイドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ハイドロ
キシデシル(メタ)アクリレ−トなどのモノハイドロシキアルキル(メタ)アクリレート
類;
1,2−または1,3−および2,3−ジハイドロキシプロパン(メタ)アクリレートなどのジ
ハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールの(メタ)アクリレート類;
メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2,3−ジハイドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(1,3−ジハイドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有の(メタ)アクリルアミド類;
2-ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3‐ナフ
トキシプロピル(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジル(メタ)アクリレートの付加反応生成物などのグリシジル(メタ)アクリレートと脂肪族もしくは芳香族ポリオール(フェノールを含む)との付加生成物などを挙げることができる。これらの重合性単量体は単独でもしくは組み合わせて使用できる。これらのうちで2
−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレートがもっとも好ましい。
【0030】
本発明の歯科用接着性組成物において、上述の(A)成分、(B)成分、および後述の(C)成分の合計100重量%中に、(B)成分は、1〜98.99重量%、好ましくは3
〜90重量%の範囲内の量で含有されている。
【0031】
本発明の歯科用組成物における(C)は下記式(1)
【0032】
【化5】

【0033】
(上記式(1)において、R1およびR2は互いに独立して水素原子あるいは官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基であり、R3は水素原子または金属原子である。

および/または下記式(2)
【0034】
【化6】

【0035】
(上記式(2)において、R4およびR5は互いに独立に水素原子またはアルキル基であり、R6は水素原子あるいは官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基またはア
ルコキシル基である。)
で示される化合物(C)であり、硬化性の向上および歯牙に対する接着性能の向上を目的に使用する。
【0036】
上記式(1)に含まれる具体的な化合物としては、N−フェニルグリシン、N−トリルグリシン、N−(3−(メタ)アクリロキシ‐2−ハイドロキシプロピル)−N-フェニルグリ
シンおよび/またはこれらの塩を挙げることができる。このうち、N-フェニルグリシンおよび/またはその塩を使用することが好ましい。
【0037】
また、式(2)に含まれる具体的な化合物としては、N,N−ジメチルアミノ安息香酸お
よびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル
の他、N,N−ジプロピルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N−イソプロピルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N−イソプロピル‐N−メチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルなどで代表される脂肪族アルキルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル類;N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N−ジエチルアミノベンズアルデヒド、N,N−ジプロピルアミノベンズアルデヒド、N−イソプロピル‐N−メチル
アミノベンズアルデヒドなどで代表される脂肪族アルキルアミノベンズアルデヒド類;N,N−ジメチルアミノアセチルベンゼン、N,N−ジエチルアミノアセチルベンゼン、N,N−ジ
プロピルアミノアセチルベンゼン、N−イソプロピルアミノアセチルベンゼン、N−イソ
プロピル‐N−メチルアミノアセチルベンゼンなどで代表される脂肪族アルキルアミノア
セチルベンゼンおよび脂肪族アルキルアミノアシルベンゼン類などを挙げることができる。
【0038】
これら化合物は単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
本発明の歯科用組成物において、(C)成分は、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100重量%中に、0.01〜30重量%、好ましくは0.05〜25重量
%の範囲内の量で使用される。
【0039】
本発明の歯科用組成物においては、(D)成分であるカルシウム充填材として、リン酸四カルシウム(Ca4(PO42O)(以下、TTCPと表記する)とリン酸二カルシウ
ム(CaHPO4)(以下、DCPと表記する)とを組み合わせて使用する。カルシウム
充填材として上記のTTCPとDCPとを組み合わせて用いることにより、歯科用組成物を適用
後、両者は口腔内における水分の存在下、歯牙硬組織と同様のハイドロキシアパタイトに転化し、これにより、より強固な接着力が発現する。なお、これらは、好ましくは無水物であり、組成重量比率もそれを前提にして計算されたものではある。因みに、DCPは、別名、リン酸ジカルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素二カルシウム、第二リン酸カルシウム、又は、リン酸一水素カルシウムとも言うが、いずれも同一のCaHPO4
である。
【0040】
TTCPとDCPとの配合モル比(TTCP/DCP)は、通常は0.33〜3.5の範囲、好ましく2.3〜3の範囲、特に好ましくは2.3〜2.7の範囲にある。この範囲を逸脱すると、ハイドロキシアパタイトへの転化が充分に行われず、目的を達成しないばかりか、ハイドロキシアパタイトへの転化に関与しなかった分子が(A)成分中の酸性基と反応することにより、歯牙との接着性が著しく劣り、さらには組成物硬化体の機械的物性を低下させる原因ともなり得る。
【0041】
TTCPの粒径は通常は0.5〜30μm、より好ましくは1〜25μm、さらに好ましくは10〜20μmの範囲にあり、DCPの粒径は通常は0.001〜30μm、より好ましくは0.05〜20μm、さらに好ましくは0.1〜15μmの範囲にある。前記数値範囲の下限を下回ると硬化時間が極端に小さくなり操作が困難となり、上限を上回ると硬化時間が長くなり操作性が劣るとともに接着性能が低下しやすい。
【0042】
さらに、TTCPとDCPとの存在形態についても特に限定されるものではなく、両者
が実質上、上記配合範囲にて混合された成形された粒子であっても良いし、全体の配合比は実質上、上記範囲内となるように、TTCPの粒子とDCPの粒子とを混合させるか、あるいは配合比が異なる粒子を混在させても良い。
【0043】
本発明の歯科用組成物中に(D)成分は、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100重量部に対して、通常は15〜95重量部、好ましくは20〜90重量部の範囲内の量で配合される。
【0044】
この範囲より下回る15重量部未満では、適用後のハイドロキシアパタイト化による接着性能向上の効果が観察されず、この範囲を上回る、95重量部を超えた範囲では、適用後にハイドロキシアパタイトへの転化より前に(A)と反応することにより、この場合も接着性能が低下する可能性があるためである。
【0045】
本発明において、歯科用組成物には、所望により(E)重合開始剤を加えることができる。重合開始剤(E)としては、有機過酸化物、無機過酸化物、アルキルボラン、アルキルボランの部分酸化物、α−ジケトン化合物、アシルフォスフィンオキサイド類、有機スルフィン酸、有機スルフィン酸塩、無機硫黄化合物、およびバルビツール酸類をあげることができる。これらは単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0046】
有機過酸化物としては、例えばジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプロイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル(BPO)、p,p’−ジクロルベンゾイルパーオキサイド(ClBPO
)、p,p’−ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメチルベンゾイルパー
オキサイドおよびp,p’−ジニトロジベンゾイルパーオキサイドなどを挙げることができ
る。これらのうち、過酸化ベンゾイルが最も好ましい。
【0047】
無機過酸化物としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどを挙げることができる。酸化還元性金属化合物としては、例えば銅、鉄、コバルトなど遷移金属の硝酸塩、塩化塩、アセチルアセト塩などを挙げることができる。
【0048】
アルキルボラン化合物としては、トリエチルホウ素、トリ(n−プロピル)ホウ素、ト
リイソプロピルホウ素、トリ(n−ブチル)ホウ素、トリ(s−ブチル)ホウ素、トリイ
ソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリオクチルホウ素、トリデシルホウ素、トリドデシルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素、ブチルジシクロヘキシルボランなどのトリアルキルホウ素;
ブトキシジブチルホウ素などのアルコキシアルキルホウ素;
ジイソアミルボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンなどのジアルキルボラン;
テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル‐p−トルイジン塩、テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ
安息香酸エチルなどのアリールボレート化合物を挙げることができる。
【0049】
アルキルボランの部分酸化物としては部分酸化トリブチルホウ素などを挙げることができる。
α−ジケトン類としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン類;ベンジル、4,4'−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−カンファキノン、
カンファキノン‐10−スルホン酸、カンファキノン−10−カルボン酸などを挙げることができる。
【0050】
アシルフォスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル
ホスフィンオキサイドなどを挙げることができる。
有機スルフィン酸としては、ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタレンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸またはその塩類を挙げることができる。
【0051】
無機硫黄化合物としては、水または水系溶媒などの媒体中でラジカル重合性単量体を重合させる際に使用できるレドックス重合開始剤としての使用される還元性無機硫黄化合物が好ましく、例えば亜硫酸、重亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、1亜2チオン酸、1,2チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびこれらの塩を挙げ
ることができる。
【0052】
加えて、重合開始剤の重合開始効果を向上するため、所望により上記以外の還元性化合物の併用も可能である。例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル‐p−トルイジ
ン、N,N−ジエチル‐p−トルイジン、N,N−ジエタノール‐p−トルイジン、N,N−ジメチ
ル−p−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル−p−クロル
アニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる
これらは単独であるいは2種以上組み合わせで使用することができる。
【0053】
本発明の組成物における(E)成分は、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(E)成分および所望により配合される(F)成分の合計(但し、後述の(F)成分は0で
ある場合も含まれる。)100重量%中に、通常は0.01〜50重量%、好ましくは、
0.05〜40重量%、さらに好ましくは0.1〜20重量%の範囲内の量で配合されている。
【0054】
本発明の歯科用組成物には、所望により、(F)多官能(メタ)アクリレートを使用することができる。
かかる多官能(メタ)アクリレート(F)としては、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリ(オキシアルキレン)ジ(メタ)アクリレート;
グリセロールジ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパンなどのブタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
メソ−エリスリトールなどのブタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタントリオールのジ(メタ)アクリレート;
テトラメチロールメタンなどのペンタンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
キシリトール及びその異性体の水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート;
ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
ヘキサンペンタオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
ヘキサンヘキサオールの水酸基を1〜2個有する多官能(メタ)アクリレート;
あるいは下記式(3)
【0055】
【化7】

【0056】
〔式(3)中、R7は少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄
原子を有していてもよい2価の芳香族あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記化学式(4)
【0057】
【化8】

【0058】
から選択されるいずれかを示し、R8およびR9は互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、nおよびmは正の整数を示す〕で示される多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これら多官能(メタ)アクリレートは、官能基の数が2〜3個のものが好ましく用いられ、2官能のものがより好ましい。官能基数が多い場合には、添加量によって組成物の硬化体の架橋度が高くなり、組成物の硬化体の柔軟性を損なわれ、歯質や歯科用金属への接着性を低下させる傾向がある。
【0059】
本発明の歯科用組成物において、(F)成分は、(A)、(B)、(C)、(E)および(F)の合計重量100重量%(但し、(E)成分は0である場合も含まれる。)中に、通常は5〜70重量%、より好ましくは10〜65重量%、更に好ましくは15〜60重量%の量で含有させることができる。
【0060】
多官能(メタ)アクリレート化合物(F)の添加量が少ない場合には、硬化速度の促進効果が小さくなりやすく、また(F)成分の添加量が多い場合には、硬化時間が短くなりすぎて治療を適切に施す余裕がなくなったり、組成物硬化体の吸水性が高くなり、金属や
歯質あるいは骨等の硬組織への接着耐久性が低下する傾向がある。また、組成物硬化体の架橋度が高くなり、組成物硬化体の柔軟性を損なう傾向がある。
【0061】
本発明の歯科用組成物には所望により(G)有機フィラー、無機フィラーおよび有機無機複合化フィラーよりなる群から選ばれる少なくとも一種類のフィラー(G)を添加することができる。
【0062】
有機フィラーの例としては、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)、ポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0063】
ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)を構成するモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系モノマーを挙げることができる。また、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)には、必要に応じて少量の架橋性モノマーを共重合させることができる。架橋性モノマーとして、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタジエンなどの多官能モノマーを挙げることができる。
【0064】
ポリオレフィンを構成するモノマーとしては、エチレン、プロピレン等を挙げることができる。また、ポリオレフィンには、必要に応じてエチリデンノルボルネン、1,4‐ヘキ
サジエン、ジシクロペンタジエンなどの成分を共重合させても良い。
【0065】
無機フィラーの例としては、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末;炭酸カルシウム、炭酸ビスマス、リン酸ジルコニウムおよび硫酸バリウムなどの金属塩粉末;シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー;銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどを挙げることができる。
【0066】
また、無機フィラーと樹脂との間に強固な結合を得るには、シラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施した無機フィラーを使用することが好ましい。
さらに本発明で使用することができるフィラーとして、無機有機複合化フィラーなどを挙げることができる。無機有機複合化フィラーとしては、例えばTMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などが使用できる。
【0067】
これらの有機フィラーおよび無機フィラーおよび無機有機複合化フィラーは、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
本発明の歯科用組成物においてフィラーである(G)成分としては、平均粒径0.05
〜10μmの酸化ジルコニウムフィラーを40〜80重量%、平均粒径1〜10μmの球形シリカフィラーを10〜30重量%および平均粒径1〜30μmの有機複合フィラーを10〜30重量%の範囲で含有するフィラーが好ましい。さらに、ここで使用する酸化ジルコニウムは(B)成分に溶解されうる重合体、例えばPMMAやポリ酢酸ビニル(PVAc)などで被覆された平均粒径5〜30μm、特に1〜30μmのフィラーであることが好ましい。
【0068】
本発明の歯科用組成物において、(G)成分の使用量は(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)成分及び(G)成分の合計重量100重量%(
但し、(E)成分、(F)成分の少なくとも何れかは0である場合も含まれる。)中に、
通常は15〜85重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは25〜75重量%の量で含有させることができる。
【0069】
本発明の歯科用組成物には所望により(H)色素および/または顔料を添加しても良い。かかる色素および/または顔料としては、フロキシンBK、アシッドレッド、ファストアシッドマゼンダ、フロキシンB、ファストグリーンFCF、ローダミンB、塩基性フクシン、酸性フクシン、エオシン、エチスロシン、サフラニン、ローズベンガル、ベーメル、ゲンチアナ紫、銅クロロフィルソーダ、ラッカイン酸、フルオレセインナトリウム、コチニール、シソシン、タルク、および、チタンホワイトなどを挙げることができる。これらの色素および/または顔料は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0070】
本発明の歯科用組成物には所望により(I)成分として、水中においてフッ化物イオンを放出する化合物を添加しても良い。(I)成分としては、可溶性の有効フッ素イオンを組成物中に放出するものであれば、いずれのものも使用しうるものであり、例えば、フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケ−トガラス、フッ化アンモニウム等が使用しうるが、中でもフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズの使用が好ましい。その配合量は、本発明の歯科用組成物の使用量と適用頻度、ならびに耐酸性や再石灰化の有効性と人体への影響を考慮して適宜設定される。(I)成分を配合することにより、硬組織の耐酸性の向上効果を期待できる。本発明において、(I)成分は、組成物中のフッ素イオン濃度として好ましくは0.0001〜5重量%、より好ましくは0.001〜2重量%、特に0.01〜1重量%の範囲の量で使用することが好ましい。この範囲以下である0.0001重量%未満では、所望の歯質の耐酸性効果や再石灰化効果が充分には表れず、5重量%を超えると、生体への為害性が懸念される。
【0071】
本発明の歯科用組成物には、保存安定性の目的で所望により重合禁止剤(J)を添加しても良い。重合禁止剤である(J)成分としては、従来公知のものを使用することができ、たとえば、4-メチルフェノール、2,6-ジ−t−ブチルクレゾールなど挙げることができる。
【0072】
なお、本発明の組成物においては、1つの成分にして、2種類以上のカテゴリーの性質を兼ね備えている化合物(例えば、成分(A)、(B)、(C)、更には(F)等)を用いることもあり得る。
【0073】
この様な場合の各成分の組成比率の計算方法の考え方については以下の仮定のモデルケースにて詳細を説明する。例えば、カテゴリーC(x)とC(y)の性質を有するもの(それぞれ、S(x)、S(y)とする)よりなる系を仮定し、その場合においては、(x)の性質を有し、か
つ、 (y)の性質を有するC(xy)という性質を持つものS(xy)もあるとする。この場合、S(xy)の総重量W(xy)は、1/2にしたものをそれぞれS(x)の総重量W(x)、S(y)の総重量W(y)に数え入れ、各カテゴリー毎の重量比率R(x)やR(y)を計算することとする。即ち、
R(x)={W(x)+W(xy)/2}/{W(x)+W(y)+W(xy)}×100
R(y)={W(y)+W(xy)/2}/{W(x)+W(y)+W(xy)}×100
として、計算するものである。このような2重従属性C(xy)が有る場合以外にも3重以上の
従属性を有する場合も同様に計算(W(xyz)/3)できる。つまりn重従属性の重量分をnで
除してそれぞれ配分する。
【0074】
なお、このように2種類以上のカテゴリーの性質を兼ね備えているものが存在する場合
でも、計算上、重量比率の全合計(R(x)+R(y))が1(100重量%)を超えない。また、合計(R(x)+R(y))は、100重量部を越えないように各成分の重量部は前記各数値
範囲より選択されるものである。
【0075】
本発明の歯科用組成物には、所望により溶媒を添加することができる。かかる溶媒として、水、あるいは有機溶媒としてエタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類などを挙げることができる。なお、ここで使用する水は蒸留水、イオン交換水、日本薬局方精製水などを使用することができるが、水の代わりに生理的食塩水などを使用することもできる。特に本発明では日本薬局方精製水の使用が好ましい。これら溶媒は単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0076】
本発明の歯科用組成物の使用の形態としては、上記(A)成分から(J)成分を予め混合して歯牙組織等に適用する方法を例示することができる。これらの成分の混合物が長期にわたり形態や性能が変化し、本発明の効果を損なう虞がある場合には、各成分を単独であるいは任意の組み合せで分割して保存し使用前に混合して歯科用組成物とすることができる。
【0077】
本発明において、「構成される」とは、はじめから、この組成にて全て混合されていることに限定されるものではなく、必要に応じて、各成分を適宜分封して保存されていて、使用時に混合されることも含まれる。即ち、使用時に、前記重量部の比率にて混合して用いられる歯科用組成物も本発明に含まれる。
【0078】
なお、歯科用組成物の具体的な保存形態としては例えば次のような形態がある。
(1) 酸性基含有重合性単量体(A)、水酸基含有重合性単量体(B)および多官能(メタ)アクリレート化合物(F)よりなる群から選択される少なくとも2成分が混合されている保存形態。
【0079】
(2) 式(1)又は(2)で表される化合物(C)、カルシウム充填材(D)、重合開始剤(E)、フィラー(G)およびフッ素放出化合物(I)よりなる群から選択される少なくとも2成分が混合されている保存形態。
【0080】
(3)酸性基含有重合性単量体(A)、水酸基含有重合性単量体(B)および/または多官能(メタ)アクリレート化合物(F)が、重合開始剤(E)、式(1)あるいは(2)
で表される化合物(C)、カルシウム充填材(D)、フィラー(G)および/またはフッ素放出化合物(I)と、互いに隔離されて包装されている保存形態。
【0081】
(4) 重合開始剤(E)および/または式(1)あるいは(2)で表される化合物(C)が、カルシウム充填材(D)、フィラー(G)および/またはフッ素放出化合物(I)
と、互いに隔離されて包装されている保存形態。
【0082】
上記のような保存形態を採用する理由は、次の通りである。
酸性基含有重合性単量体(A)、水酸基含有重合性単量体(B)および多官能(メタ)アクリレート化合物(F)は、いずれも、常温にて液体状態であるか、互いに相溶し易いものが多いので、予め混合しておいても分離する虞が少なく、かつ、予め混合によって使用時に混ぜ合わせる手間が省けて好ましい場合が多い。また、式(1)あるいは(2)で表される化合物(C)、重合開始剤(E)、カルシウム充填材(E)、フィラー(G)およびフッ素放出化合物(I)は、いずれも、粉末乃至は粒子状形態に容易に調製されるものが多いので、粉体混合するのに好適である場合が多い。
【0083】
なお、重合性単量体の混合物(すなわち、酸性基含有重合性単量体(A)、水酸基含有
重合性単量体(B)、多官能(メタ)アクリレート化合物(F))と、式(1)あるいは(2)で表される化合物(C)、カルシウム充填材(D)、重合開始剤(E)、フィラー(G)またはフッ素放出化合物(I)を分離することにより、重合開始剤(E)による保存
中の重合性単量体の重合反応の進行を防止することができる。また、このように分割包装することにより、塩基性であることが多いカルシウム充填材(D)による単量体の酸性基の中和乃至はイオン交換を原因とする性能の変化の虞が無く、さらに、溶解し難いカルシウム充填材(D)、フィラー(G)またはフッ素放出化合物(I)が単量体液体中で不均一化・凝集することによるトラブルの発生の虞がない等の利点もある。
【0084】
なお、リン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)との混合物では、水が存在するとハイドロキシアパタイトへ転化する反応が進行するが、乾燥状態、結晶水がない状態、乃至は非水性溶媒系においては、これらがハイドロキシアパタイトへ転化する反応は実質上進行しないので、係る状態ならば、両者は共存して混合されていても歯科用組成物として良好に使用することができる。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
(略号の説明)
以下に記載する実施例において表記される略号は、以下に示す成分を表すものとする。TTCP:リン酸四カルシウム(Ca4(PO42O)
DCP:リン酸二カルシウム(CaHPO4
HEMA:2−ハイドロキシエチルメタアクリレート
4−MET:4−メタアクリロキシエチルトリメリット酸
P−2M:ビス(2−メタアクリロキシエチル)アシッドフォスフェート
3G:トリエチレングリコールジメタアクリレート
2.6−E:2,2−ビス(4−メタアクリロイルオキシポリ(エトキシ)フェニル)プロ
パン
A−9300:N,N,N−トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート
Bis−GMA:2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ‐3‐メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
CQ:d,l−カンファーキノン
NPGNa:N-フェニルグリシンナトリウム
EDEAB:4−(N,N−ジエチルアミノ)安息香酸エチル
(カルシウム充填材の調製)
TTCP、DCPをそれぞれ遊星ボールミルで粉砕し、#280篩で分級した。分級したTTCP 36.7g(0.1mol)、DCP 13.6g(0.1mol)を再度遊星ボールミルにてよく混合し、カルシウム充填材を得た。得られたカルシウム充填材の平均粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布計(LA−910、堀場製作所)で測定したところ、平均粒径1μm、最大粒径10μmであった。得られたカルシウム充填材のTTCP/DCP配合モル比は1.0である。
(象牙質接着強度の測定)
ウシ下額前歯を注水下#180エメリーペーパーで研磨し平坦な接着用象牙質面を削りだし、水洗、乾燥した後、直径4.8mm、厚さ1mmのモールドを両面テープで象牙質面に固定し、接着面積を規定した。所定組成を混合して得た液材を約0.09gと、所定組成を遊星ボールミルで混合した粉材0.9gとを練和紙上で練り、モールド内に充填し、充填した表面をポリエステル性透明フィルムで覆い、歯科用可視光照射器(商品名:トランスルックスCL2、クルツァー社製)で30秒間光照射した。続いて、ポリエステルフイルムを除去し、硬化物と直径6mm、高さ20mmのPMMA製ロッドとを、歯科用接着材(商品名:スーパーボンドC&B、サンメディカル(株)製)にて接着、30分間室温で静置後、37℃水中に24時間浸漬した。引っ張り接着強さをクロスヘッドスピード1mm/
minで測定し、接着強度を評価した。これにより、接着材の基本特性を評価することがで
きる。
(辺縁封鎖性の評価)
ウシ下顎前歯を注水下#180エメリーペーパーで研磨し、平坦な象牙質表面を削りだし、歯科用エアタービンを用いて注水下、直径約3mm、深さ2mmの窩洞を形成した。窩洞表面を象牙質表面処理材グリーン(クエン酸と塩化第二鉄を主成分とする象牙質用の歯科用表面処理剤、サンメディカル(株)製)で10秒間処理し、水洗、乾燥させた。所定組成からなるモノマー液0.09g、所定組成からなる粉材0.9gとを練和紙上で練り、窩洞内部に充填し、充填した表面をセロハン(登録商標)で被覆した後に37℃、飽和湿度で一晩放置した。放置後、充填面を#600エメリーペーパーで注水下研磨し、平滑な表面をした後に、0.3%塩基性フクシン水溶液中に充填した歯牙を3分間浸漬した。フクシン水溶液から取り出した歯牙を蒸留水で洗浄した後に、充填面をさらに#100エメリーペーパーで注水下研磨し、研磨表面から歯質への方向にフクシンが浸入しているかをマイクロスコープにより観察した。さらに窩洞の切削方向に対し平行に充填歯牙を割断し、窩洞表面より歯質内部方向へフクシンが浸入しているかを同様にマイクロスコープを用いて観察した。ともにフクシンの浸入がないものを○、フクシンの浸入があったものを×と評価した。
【実施例1】
【0085】
4−MET 20g、HEMA 39.5g、Bis−GMA 20g、2.6−E 15g、3G 5g、CQ 0.5gをよく混合し、液材を得た。
一方、上述のカルシウム充填材97g、NPGNa 3gからなる粉材を得た。
【0086】
両者を用いて上述の象牙質接着強度試験および辺縁封鎖性試験を行った結果、象牙質接着強度試験の結果は9MPaであり、辺縁封鎖性試験の結果は「○」であった。
【実施例2】
【0087】
4−MET 10g、P−2M 2g、HEMA 40g、A−9300 20g、3G 10g、CQ 0.5gをよく混合し、液材を得た。
一方、上述のカルシウム充填材50g、平均粒径1μmの酸化ジルコニウム30g、平均粒径3μmの球形シリカフィラー19g、NPGNa 1gからなる粉材を得た。
【0088】
両者を用いて上述の象牙質接着強度試験および辺縁封鎖性試験を行った結果、象牙質接着強度試験の結果は12MPaであり、辺縁封鎖性試験の結果は「○」であった。
【実施例3】
【0089】
4−MET 20g、HEMA 39.5g、Bis−GMA 20g、2.6−E 15g、3G 5g、CQ 0.5gをよく混合し、液材を得た。
一方、上述のカルシウム充填材97g、EDEAB 3gからなる粉材を得た。
【0090】
両者を用いて上述の象牙質接着強度試験および辺縁封鎖性試験を行った結果、象牙質接着強度試験の結果は8MPaであり、辺縁封鎖性試験の結果は「○」であった。
【実施例4】
【0091】
4−MET 10g、P−2M 2g、HEMA 40g、A−9300 20g、3G 10g、CQ 0.5gをよく混合し、液材を得た。
一方、上述のカルシウム充填材50g、平均粒径1μmの酸化ジルコニウム30g、平均粒径3μmの球形シリカフィラー19g、EDEAB 1gからなる粉材を得た。
【0092】
両者を用いて上述の象牙質接着強度試験および辺縁封鎖性試験を行った結果、象牙質接
着強度試験の結果は9MPaであり、辺縁封鎖性試験の結果は「○」であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中に少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体、
(B)分子中に少なくとも1つの水酸基を有する重合性単量体、
(C)下記式(1)および/または(2)で表される化合物、
【化1】

(ただし、式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子であるか、官能基もしくは置換基を有していても良いアルキル基のいずれかであり、R3は水素原子
または金属原子である。);
【化2】

(ただし、式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子であるか、またはアルキル基のいずれかであり、R6は水素原子であるか、または、官能基あるいは
置換基を有していても良いアルキル基またはアルコキシル基のいずれかである。)、
(D)リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有するカルシウム充填材とを含有する歯科用組成物であり、
上記歯科用組成物を構成する上記酸性基含有重合性単量体(A)の使用量が、酸性基含有重合性単量体(A)と水酸基含有重合性単量体(B)と式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)との合計使用量100重量%中に1〜50重量%の範囲内にあり
、上記水酸基含有重合性単量体(B)の使用量が1〜98.99重量%の範囲内にあり、式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)の使用量が0.01〜30重量%の範囲内にあり、
上記(D)リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)とを含有する充填材の使用量が、上記酸性基含有重合性単量体(A)と水酸基含有重合性単量体(B)と式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)との合計使用量100重量部に対して15〜95重量部の範囲内にあることを特徴とする歯科用組成物。
【請求項2】
上記歯科用組成物が、上記酸性基含有重合性単量体(A)、水酸基含有重合性単量体(B)、式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)に加えてさらに(E)重合開始剤を含有しており、歯科用組成物を構成する上記重合開始剤(E)の使用量が、酸性基含有重合性単量体(A)と水酸基含有重合性単量体(B)と式(1)および/または(2)で表わされる化合物(C)と重合開始剤(E)および所望により配合される多官能(メタ)アクリレート化合物(F)の合計使用量100重量%中に0.01〜50重量%の範
囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
上記歯科用組成物中に含有される(D)成分であるリン酸テトラカルシウム(TTCP)とリン酸二カルシウム(DCP)との配合モル比(TTCP/DCP)が0.33〜3.5の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の歯科組成物。
【請求項4】
上記歯科用組成物が、さらに(F)多官能(メタ)アクリレート化合物を含むことを特
徴とする請求項第1項記載の歯科用組成物。
【請求項5】
上記歯科用組成物が、さらに(G)有機フィラー、無機フィラーおよび有機無機複合化フィラーよりなる群から選らばれる少なくとも一種類のフィラーを含むことを特徴とする請求項1項記載の歯科用組成物。
【請求項6】
上記歯科用組成物が、さらに(H)顔料を含むことを特徴とする請求項第1項記載の歯科用組成物。
【請求項7】
上記歯科用組成物が、さらに(I)水中においてフッ化物イオンを放出する化合物を含むことを特徴とする請求項第1項記載の歯科用組成物。
【請求項8】
上記(B)分子中に少なくとも1つの水酸基を有する重合性単量体が4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸および/またはその酸無水物であることを特徴とする請求項第1項記載の歯科用組成物。
【請求項9】
上記(E)重合開始剤が、有機過酸化物、無機過酸化物、アルキルボラン、アルキルボランの部分酸化物、α−ジケトン化合物、アシルフォスフィンオキサイド類、有機スルフィン酸、有機スルフィン酸塩、無機硫黄化合物およびバルビツール酸よるなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合開始剤であることを特徴とする請求項第2項記載の歯科用組成物。
【請求項10】
上記歯科用組成物が、歯科用接着性組成物であることを特徴とする請求項第1項乃至第9項のいずれかの項記載の歯科用組成物。


【公開番号】特開2007−99674(P2007−99674A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291379(P2005−291379)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】