説明

歯科用組成物

【課題】組織為害性を低減することができ、良好な操作性が得られると共に、十分に硬化させることができ、且つ適度な硬化時間を確保できる歯科用組成物を提供する。
【解決手段】この発明の歯科用組成物は、主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、前記主剤は、ユージノール、オレイン酸及びイソステアリン酸を含有してなり、前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば歯牙根管充填材、仮封材、歯髄鎮痛消炎剤、覆髄剤等として用いられる歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛ユージノールセメントは、歯科用の例えば歯牙根管充填材、仮封材、歯髄鎮痛消炎剤、覆髄剤等として用いられている。例えば歯牙根管充填用の酸化亜鉛ユージノールセメントとしては、酸化亜鉛及びクロルヘキシジン塩を含有してなる第1剤と、ユージノールを主成分とする第2剤とからなり、充填時に両方を混練して用いる酸化亜鉛ユージノールセメントが公知である(特許文献1参照)。含有成分のユージノールにより殺菌、鎮痛作用等の薬理効果が得られる。
【特許文献1】特公平1−39403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来より、ユージノールは組織為害性を有するという報告がなされている。本発明者らの研究により、酸化亜鉛ユージノールセメントから遊離したユージノールの含有濃度が高い場合には組織為害性を呈しやすくなることが判った。
【0004】
そこで、ユージノールの含有比率を低減せしめた処方を種々検討したが、単にユージノールを減らしただけでは、組成物としての操作性が悪くなるし、硬化も十分に行わせることができないという問題があることが判明した。
【0005】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、組織為害性を低減することができ、良好な操作性が得られると共に、十分に硬化させることができ、且つ適度な硬化時間を確保できる歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0007】
[1]主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、
前記主剤は、ユージノール、オレイン酸及びイソステアリン酸を含有してなり、
前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、
これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする歯科用組成物。
【0008】
[2]主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、
前記主剤は、ユージノールを含有してなり、
前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、
オレイン酸が、前記主剤及び前記硬化剤のうちの少なくともいずれか一方に含有せしめられ、
イソステアリン酸が、前記主剤及び前記硬化剤のうちの少なくともいずれか一方に含有せしめられ、
これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする歯科用組成物。
【0009】
[3]ユージノール、オレイン酸、イソステアリン酸及び酸化亜鉛を含有してなり、
これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする歯科用組成物。
【発明の効果】
【0010】
[1]、[2]及び[3]の発明では、ユージノールの含有率が従来よりも小さいので、組織為害性が殆ど認められないものとなる。また、ユージノールを減らしただけでは、操作性が悪くなるし、十分な硬化も行われ難くなるのであるが、本発明ではその分オレイン酸を上記特定割合含有せしめているので、良好な操作性が得られると共に十分に硬化させることができ、また適度な粘稠度も確保できる。更に、本発明では、イソステアリン酸を上記特定割合含有せしめているので、硬化時間を遅延させることができ、これにより適度な硬化時間(例えば約1時間程度の硬化時間)を確保できる。例えば歯科治療等において十分な操作時間を確保することができる。また、本発明の歯科用組成物の硬化物は、封鎖性に非常に優れているという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明に係る歯科用組成物は、ユージノール、オレイン酸、イソステアリン酸及び酸化亜鉛を含有してなり、これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し(ユージノールの体積を3μLに換算した時に)、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする。
【0012】
前記歯科用組成物の好適な構成は、主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、前記主剤は、ユージノールを含有してなり、前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、オレイン酸が、前記主剤及び前記硬化剤のうちの少なくともいずれか一方に含有せしめられ、イソステアリン酸が、前記主剤及び前記硬化剤のうちの少なくともいずれか一方に含有せしめられ、これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し(ユージノールの体積を3μLに換算した時に)、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合である構成である。
【0013】
中でも、前記歯科用組成物は、主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、前記主剤は、ユージノール、オレイン酸及びイソステアリン酸を含有してなり、前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し(ユージノールの体積を3μLに換算した時に)、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgである構成が特に好適である。
【0014】
前記ユージノールは、鎮痛消炎作用や静菌作用を発揮するものであり、硬化剤である酸化亜鉛とキレート反応することにより硬化する。ユージノールが高濃度では、組織刺激性があり、歯髄に対する為害性が懸念されることから、本発明では、上記特定の配合割合に設定してユージノール含有率を小さくすることにより、組織為害性が殆ど認められないものとなったものである。前記ユージノールとしては、丁字油より抽出された精油が一般的に用いられる。前記ユージノールの比重は1.066g/mLである。
【0015】
前記オレイン酸は、上記特定割合含有せしめることで、良好な操作性を確保できるし、十分に硬化させることができ、また適度な粘稠度も付与できる。オレイン酸の比重は0.89g/mLである。
【0016】
前記イソステアリン酸は、上記特定割合含有せしめることで、他の特性に影響を及ぼすことなく、硬化時間を遅延させることができ、これにより適度な硬化時間(例えば約30分〜約120分程度の硬化時間)を確保できる。前記イソステアリン酸の比重は0.878g/mLである。
【0017】
しかして、本発明において、必須成分(4成分)の配合割合は、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgに設定される。
【0018】
オレイン酸の配合割合が上記下限より小さくなると、操作性が悪くなるし、硬化も十分に行わせることができない。また、オレイン酸の配合割合が上記上限より大きくなると、相対的にユージノールの含有率が低下して鎮痛消炎作用や静菌作用が十分に得られなくなる。
【0019】
また、イソステアリン酸の配合割合が上記下限より小さくなると、硬化時間を遅延させることが不十分となり、適度な硬化時間(例えば約30分〜約120分程度の硬化時間)を確保することができない。一方、イソステアリン酸の配合割合が上記上限より大きくなると、硬化時間が遅くなり過ぎて、実用に適さないものとなる。
【0020】
また、酸化亜鉛の配合割合が上記下限より小さくなると、十分な硬化を行わせることができない。一方、酸化亜鉛の配合割合が上記上限より大きくなると、相対的にユージノールの含有率が低下して鎮痛消炎作用や静菌作用が十分に得られなくなる。
【0021】
なお、前記主剤には、この発明の効果を阻害しない範囲で、ユージノール以外の他の成分を含有せしめても良い。
【0022】
また、前記硬化剤には、この発明の効果を阻害しない範囲で、酸化亜鉛以外の他の成分を含有せしめても良い。例えば、ロジン、硫酸バリウム、炭酸ビスマス等を含有せしめても良い。
【0023】
また、前記主剤の性状としては、液状、ペースト状、固形状等のいずれであっても良い。また、前記硬化剤の性状としては、液状、ペースト状、固形状等のいずれであっても良い。
【0024】
しかして、前記主剤と前記硬化剤とを混合することによって歯科用組成物を適度な硬化時間(例えば約30分〜約120分程度の硬化時間)で硬化させることができる。上記混合操作としては、混練(練和)するのが好ましく、好適な混練時間は20〜40秒である。
【実施例】
【0025】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
ユージノール3μL、オレイン酸16μL及びイソステアリン酸1μLを混合して主剤(液剤)を得た。また、酸化亜鉛16mg、ロジン16mg、硫酸バリウム4mg及び炭酸ビスマス4mgを混合して硬化剤(固形剤)を得た。次に、前記主剤と前記硬化剤とを金属スパチュラを用いて30秒間混練(練和)して混練物(歯科用組成物)を得た。
【0027】
<実施例2>
ユージノール3μL、オレイン酸13μL及びイソステアリン酸4μLを混合して主剤を得た。また、酸化亜鉛16mg、ロジン16mg、硫酸バリウム4mg及び炭酸ビスマス4mgを混合して硬化剤(固形剤)を得た。次に、前記主剤と前記硬化剤とを金属スパチュラを用いて30秒間混練(練和)して混練物(歯科用組成物)を得た。
【0028】
<実施例3>
ユージノール3μL、オレイン酸11μL及びイソステアリン酸6μLを混合して主剤を得た。また、酸化亜鉛16mg、ロジン16mg、硫酸バリウム4mg及び炭酸ビスマス4mgを混合して硬化剤(固形剤)を得た。次に、前記主剤と前記硬化剤とを金属スパチュラを用いて30秒間混練(練和)して混練物(歯科用組成物)を得た。
【0029】
<比較例1>
ユージノール3μL及びオレイン酸17μLを混合して主剤を得た。また、酸化亜鉛16mg、ロジン16mg、硫酸バリウム4mg及び炭酸ビスマス4mgを混合して硬化剤(固形剤)を得た。次に、前記主剤と前記硬化剤とを金属スパチュラを用いて30秒間混練(練和)して混練物(歯科用組成物)を得た。
【0030】
<比較例2>
ユージノール3μL、オレイン酸9μL及びイソステアリン酸8μLを混合して主剤を得た。また、酸化亜鉛16mg、ロジン16mg、硫酸バリウム4mg及び炭酸ビスマス4mgを混合して硬化剤(固形剤)を得た。次に、前記主剤と前記硬化剤とを金属スパチュラを用いて30秒間混練(練和)して混練物(歯科用組成物)を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
上記のようにして得られた各歯科用組成物(主剤と硬化剤が混練されたもの)について下記評価法に基づいて硬化時間及び硬化度並びに封鎖性を評価した。
【0033】
<硬化時間の測定方法>
混練(練和)直後の歯科用組成物(ユージノールセメント)を50mm×50mmのガラス板上に置いた内径8mm、深さ5mmの上端面開放ガラス管に充填(填塞)した。このまま室温(23℃)に放置し、経時的に、充填物(組成物)の表面に直径1mm、質量0.25ポンドのギルモア針を静置させて、(混練開始から)針の侵入が生じなくなるまでの時間を計測し、これを硬化時間とした。
【0034】
<硬化物の硬化度評価方法>
混練(練和)直後の歯科用組成物(ユージノールセメント)を50mm×50mmのガラス板上に置いた内径8mm、深さ5mmの上端面開放ガラス管に充填(填塞)した。この試料を、37℃、100%湿度の恒温恒湿槽に60分間静置した後、取り出して、先端径1mm、長さ100mmの測定針を装着したテクスチャーアナライザ(島津製作所製、品名:EZ Test)の試料台の上に、試料の上面が測定針に接触するように載置して固定し、且つ測定針が試料の中央部に進入するように調整した。試料に測定針が1mm/秒の速度で進入する際の荷重変化を専用データ処理ソフト(島津製作所製、品名:TRAPEZIUM)で記録し、これより硬化度(硬さ)を求めた。なお、測定値は、各実施例及び各比較例毎に試料を3個(n=3)用意し、3試料の平均値を硬化度(kgf)とした。
【0035】
<封鎖性評価法>
混練(練和)直後の歯科用組成物(ユージノールセメント)を、内面を粗造にした内径5mm、長さ30mmのガラス管(上下両端面が開放)内に深さ20mmで充填(填塞)した。37℃、100%湿度の恒温恒湿槽に24時間静置した後、取り出して、ガラス管の下半部を37℃の1%(質量%)メチレンブルー水溶液中に96時間浸漬した。しかる後、前記充填ガラス管を取り出し、電子ノギスでガラス管下端からの色素の(上方への)侵入距離を測定した。なお、比較のために、市販の歯牙根管充填材であるキャナルス(商品名)(昭和薬品化工製、主成分はユージノール)及び同じく市販の歯牙根管充填材であるキャナルスN(商品名)(昭和薬品化工製、主成分はリノール酸)についても同様にして封鎖性を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表1から明らかなように、この発明の実施例1〜3の歯科用組成物は、高い硬化度が得られており十分に硬化させることができると共に、硬化時間は30分〜120分の範囲内であり適度な硬化時間であった。即ち、例えば歯科治療等において十分な操作時間を確保できる。
【0038】
これに対し、イソステアリン酸を全く含有しない比較例1では、硬化時間が5分と短いために実用に適さない。即ち、例えば歯科治療等において十分な操作時間を確保できない。また、イソステアリン酸の含有割合がこの発明の規定範囲より多い比較例2では、硬化時間が遅くなり過ぎていて実用に適さない。
【0039】
また、表2から明らかなように、この発明の実施例1〜3の歯科用組成物の硬化物は、色素が全く侵入しておらず、封鎖性に非常に優れていることがわかる。
【0040】
これに対し、参照例1のキャナルスでは、色素の侵入距離が20mmであり(即ち色素が上下に浸透貫通している)、封鎖性が悪かった。また、参照例2のキャナルスNでは、色素の侵入距離が1.8mmであり、封鎖性は良くなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明に係る歯科用組成物は、例えば、歯牙根管充填材、仮封材、歯髄鎮痛消炎剤、覆髄剤等として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、
前記主剤は、ユージノール、オレイン酸及びイソステアリン酸を含有してなり、
前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、
これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする歯科用組成物。
【請求項2】
主剤と硬化剤とからなり、主剤と硬化剤とを混合することによって硬化する歯科用組成物であって、
前記主剤は、ユージノールを含有してなり、
前記硬化剤は、酸化亜鉛を含有してなり、
オレイン酸が、前記主剤及び前記硬化剤のうちの少なくともいずれか一方に含有せしめられ、
イソステアリン酸が、前記主剤及び前記硬化剤のうちの少なくともいずれか一方に含有せしめられ、
これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする歯科用組成物。
【請求項3】
ユージノール、オレイン酸、イソステアリン酸及び酸化亜鉛を含有してなり、
これらの配合割合が、ユージノール3μL当たりに対し、オレイン酸10〜16.5μL、イソステアリン酸0.5〜7μL、酸化亜鉛10〜25mgの配合割合であることを特徴とする歯科用組成物。

【公開番号】特開2010−105953(P2010−105953A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279157(P2008−279157)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本歯科保存学雑誌(Vol.51) 2008年春季学術大会(第128回)プログラム及び講演抄録集
【出願人】(398011594)株式会社ビーブランド・メディコーデンタル (4)
【Fターム(参考)】