説明

歯科用組成物

【課題】芳香族第3級アミン化合物と酸性基含有重合性単量体を共存させても、変色が少ない歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含んでなる歯科用組成物であって、前記芳香族第3級アミン化合物がHPLC純度が98.5%以上となるよう精製されたものである、歯科用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族第3級アミン化合物及び酸性基含有重合性単量体を配合した歯科用組成物に関する。さらに詳しくは、50℃、3日間の保存下において組成物の変色が少ない歯科用組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
歯の欠損部に修復物を充填又は被覆する際には、通常、歯科用接着剤が用いられる。歯の硬組織はエナメル質と象牙質から構成されているため、歯科用接着剤は双方に接着することが重要である。
【0003】
さらには、歯科修復物は、一度装着した後は長期間に渡って強固に接着し、脱落が発生しないことが重要である。このため、歯科用接着剤には、エナメル質、象牙質双方に対する高い接着強さ及び接着耐久性が求められており、酸性基含有重合性単量体、及び水を主成分とし、さらにアミンなどの硬化剤を配合したプライマー組成物(例えば特許文献1)や、酸性基含有重合性単量体、水、及び光重合開始剤を主成分とし、さらに芳香族3級アミンなどを配合した光重合型接着剤(例えば特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2634276号公報
【特許文献2】特開2006−76973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者等のさらなる検討によって、上記芳香族第3級アミン化合物を配合した歯科用組成物には以下のような問題があることがわかった。即ち、歯科用組成物においては、良好な審美性を得るために、修復後に周囲の歯質と同じ色調を有していることが重要である。ところが、上記歯科用組成物において、芳香族第3級アミン化合物と酸性基含有重合性単量体を、共存下で保存した場合に大きく着色(変色)することが判明した。歯科用組成物が変色すると、充填物又は補綴物による修復部分やその周囲の色調が歯質と異なるため、審美面において問題を有する。
【0006】
本発明の課題は、芳香族第3級アミン化合物と酸性基含有重合性単量体を共存させても、変色が少ない歯科用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく、変色の要因について鋭意検討を行ったところ、芳香族第3級アミン化合物及び酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用組成物において、特定の純度以上の芳香族第3級アミン化合物を用いた場合にのみ、保存中の変色を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含んでなる歯科用組成物であって、前記芳香族第3級アミン化合物がHPLC純度が98.5%以上となるよう精製されたものである、歯科用組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯科用組成物は、芳香族第3級アミン化合物及び酸性基含有重合性単量体を含有しながらも、長期保存下において変色が少ないものである。また、本発明の歯科用組成物は優れた接着強度を示すことから、プライマー、及びボンディング剤として適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の歯科用組成物は、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含有するものであって、前記(A)芳香族第3級アミン化合物がHPLC純度が98.5%以上となるよう精製されたものである場合に、接着性と審美性に優れるという効果を奏する。
【0011】
本発明における(A)芳香族第3級アミン化合物は、硬化剤、又はpH調整剤として作用し、接着性、硬化性、又は組成物の保存安定性を向上させる。本発明に用いられる芳香族第3級アミン化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表わされる化合物が挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R〜Rは、相互に独立して水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を示し、nは1〜5の整数であり、但し、R〜Rは同時には水素原子を示さず、R及びRは同時には水素原子を示さず、n個のRは同一でも異なっていてもよい)
【0014】
式(1)中のR〜Rにおいて、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ブトキシエチル基等が例示される。また、置換基を有してもよい炭素数6〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が例示される。また、置換基を有していてもよいフェニル基としては、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が例示される。これらの有機基における置換基としては、水酸基、(メタ)アクリロイル基、カルボニル基、カルボニルオキシ基、オキシ基、アミノ基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が例示される。
【0015】
本発明における(A)芳香族第3級アミン化合物のより具体的な例としては、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチル−4−アミノ安息香酸ブチル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0016】
本発明に用いられる(A)芳香族第3級アミン化合物は、組成物の変色等を抑制する観点から、HPLC純度が98.5%以上であり、好ましくは99.0%以上、より好ましくは99.5%以上に精製されたものである。以降、HPLC純度が98.5%以上に精製された芳香族第3級アミン化合物を「精製芳香族第3級アミン化合物」と記載することもある。HPLC純度が98.5%未満の場合には、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を同一容器内で保存すると組成物の変色が起こる。なお、本明細書において、芳香族第3級アミン化合物のHPLC純度は、後述の実施例に従って測定された値のことをいう。
【0017】
精製方法としては、晶析、再結晶蒸留、抽出、ガス吸収、蒸留、吸着、膜分離等の公知の方法が挙げられる。例えば、晶析溶媒を添加後、冷却して結晶化させ、次いで濾過して分離することにより精製してもよい。
【0018】
前記晶析溶媒としては炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)]、アルコール類(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコール、シクロヘキサノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトンなどのアルキルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの晶析溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
晶析溶媒の使用量は、特に限定されず、芳香族第3級アミン化合物(固形分換算)1重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.3〜5重量部程度である。
【0020】
冷却温度は、−60〜5℃が好ましく、−30〜0℃がより好ましい。
【0021】
精製芳香族第3級アミン化合物の含有量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。一方、接着強度の観点から、30重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましい。0.001重量部未満の場合、硬化物の機械的強度が低下するとともに接着強度が低下するおそれがあり、30重量部を超える場合、接着強度が低下するおそれがある。従って、0.001〜30重量部が好ましく、0.01〜20重量部がより好ましく、0.1〜15重量部がさらに好ましい。なお、本明細書において「含有量」とは、「配合量」及び/又は「含有量」のことを意味する。
【0022】
本発明に用いられる(B)酸性基含有重合性単量体は、歯の脱灰を促進するとともに、歯への接着性を向上させる。本発明に用いられる(B)酸性基含有重合性単量体は、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、及びスルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の酸性基を有する。
【0023】
(B)酸性基含有重合性単量体は、単独又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも一個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも一個有する重合性単量体が挙げられる。(B)酸性基含有重合性単量体の具体例を下記する。なお、以下において、メタクリロイルとアクリロイルとを(メタ)アクリロイルと総称する。
【0024】
リン酸基含有重合性単量体(B−1)としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフォネート、(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスフォノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスフォノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスフォノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスフォノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスフォノアセテート、2−メタクリロイルオキシエチル−(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル−(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が例示される。
【0025】
ピロリン酸基含有重合性単量体(B−2)としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が例示される。
【0026】
チオリン酸基を有する重合性単量体(B−3)としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0027】
ホスホン酸基を有する重合性単量体(B−4)としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフォネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスフォノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスフォノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスフォノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスフォノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスフォノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0028】
カルボン酸基を有する重合性単量体(B−5)としては、分子内に1つのカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体、分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体などが挙げられる。
【0029】
分子内に1つのカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体の例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等及び上記(ラジカル)重合性単量体の酸無水物あるいは酸ハロゲン化物が挙げられる。
【0030】
分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体の例としては、例えば、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0031】
スルホン酸基を有する重合性単量体(B−6)としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートが例示される。
【0032】
上述の(B)酸性基含有重合性単量体の中でも、歯科用組成物として用いた場合に接着強度が良好である観点から、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸が好ましい。
【0033】
次に、本発明の組成物の任意成分について説明する。本発明の組成物は、組成物の用途に応じて、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体以外の成分として、(C)ラジカル重合性単量体、(D)溶媒、(E)重合開始剤、(F)重合促進剤、(G)フィラー、等を含んでもよい。
【0034】
本発明の組成物は、(C)ラジカル重合性単量体を含んでいても良い。本発明における(C)ラジカル重合性単量体は、硬化物の重合度を向上させ、機械的強度及び耐水性の向上を向上させる。
【0035】
ラジカル重合性単量体としては、酸性基(リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等)を有しない重合性単量体が1種類又は2種類以上組み合わせて用いられる。酸性基を有しない重合性単量体としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等の有機酸のエステル類、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体が例示される。なかでも、(メタ)アクリル酸エステルが、硬化速度や硬化体の機械的物性、耐水性、耐着色性等の観点から好適に用いられる。
【0036】
酸性基を有しない(メタ)アクリル酸エステルの具体例を以下に示す。なお、本明細書において、「1官能性」、「2官能性」および「3官能性以上」とは、それぞれ、(メタ)アクリロイルのようなラジカル重合性基を、1個、2個および3個以上有することを意味する。
【0037】
(C−1)1官能性
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなど。
【0038】
また、下記の一般式(I)で示されるフルオロカーボン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルを含んでいても良い
CH=C(R)COO−R−Rf (I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rfはパーフルオロアルキル基を示し、R−Rfの炭素数は4〜10であり、かつ、R−Rfの炭素原子に結合する原子のうちフッ素原子が占める割合は50個数%以上である)
【0039】
(C−2)2官能性
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなど。
【0040】
(C−3)3官能性以上
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタンなど。
【0041】
本発明の組成物における重合性単量体成分[(B)+(C)]の総含有量は、20〜97重量%が好ましく、30〜95重量%がより好ましく、35〜90重量%がさらに好ましい。
【0042】
重合性単量体成分[(B)+(C)]の全量100重量%における(B)酸性基含有重合性単量体の含有量は、得られる組成物の硬化性等の観点から、0.1〜50重量%であることが好ましい。(B)酸性基含有重合性単量体の含有量が0.1重量%未満の場合、接着強度が低下するおそれがあり、より好適には0.5重量%以上であり、さらに好適には1重量%以上である。一方、(B)酸性基含有重合性単量体の含有量が50重量%を超える場合、硬化物の機械的強度が低下するおそれがあり、より好適には40重量%以下である。
【0043】
また、重合性単量体成分[(B)+(C)]の全量100重量%における(C)ラジカル重合性単量体の含有量は、得られる組成物の硬化性等の観点から、50〜99.9重量%であることが好ましい。(C)ラジカル重合性単量体の含有量が50重量%未満の場合、硬化物の機械的強度が低下するとともに接着強度が低下するおそれがあり、より好適には60重量%以上である。一方、(C)ラジカル性合性単量体の含有量が99.9重量%を超える場合、接着強度が低下するおそれがあり、より好適には90重量%以下である。
【0044】
本発明の組成物は、(D)溶媒を含んでいても良い。本発明における(D)溶媒は、歯に対する組成物の浸透促進や、組成物の粘度調整に寄与する。
【0045】
本発明に用いられる(D)溶媒としては、水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒を使用することができる。有機溶媒は、単独又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく用いられる。
【0046】
本発明に用いられる(D)溶媒の含有量は特に限定されないが、接着性、塗布性、硬化物強度の観点から、重合性単量体成分[(B)+(C)]の全量100重量部に対して、(D)溶媒の含有量0.1〜40重量部が好ましい。(D)溶媒の含有量が0.1重量部未満の場合、塗布性不良や接着強度が低下するおそれがあり、より好適には1重量部以上であり、さらに好適には10重量部以上である。一方、(D)溶媒の含有量が40重量部を超える場合、硬化物の機械的強度が低下するおそれがあり、より好適には30重量部以下である。
【0047】
本発明の組成物は、(E)重合開始剤を含んでいても良い。本発明における(E)重合開始剤は、(B)酸性基含有重合性単量体、(C)ラジカル重合性単量体を硬化させ、接着性を向上させる。本発明に用いられる(E)重合開始剤としては、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。なかでも、光重合及び化学重合の重合開始剤を、単独又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
【0048】
本発明に用いられる(E)重合開始剤のうち光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0049】
(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスフォネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0050】
水溶性アシルホスフィンオキサイド類は、アシルホスフィンオキサイド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン又はアンモニウムイオンを有することが好ましい。例えば、水溶性アシルホスフィンオキサイド類は、ヨーロッパ特許No.0009348号又は特開昭57−197289号公報に開示されている方法により合成することができる。
【0051】
上記水溶性アシルホスフィンオキサイド類の具体例としては、モノメチルアセチルホスフォネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソプロピル)ホスフォネート・ナトリウム、モノメチルベンゾイルホスフォネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソブチル)ホスフォネート・ナトリウム、モノメチル(2−メチル−1−オキソプロピル)ホスフォネート・ナトリウム、アセチルホスフォネート・ナトリウム、モノメチルアセチルホスフォネート・ナトリウム、アセチルメチルホスフォネート・ナトリウム、メチル4−(ヒドロキシメトキシホスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル−4−オキソーホスフォノブタノエート・モノナトリウ厶塩、アセチルフェニールホスフィネート・ナトリウム塩、(1−オキソプロピル)ペンチルホスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシペンチルホスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルホスフィネート・ナトリウム、アセチルエチルホスフィネート・ナトリウム、メチル(1,1−ジメチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシメチルホスフィニル)−4−オキソブタノエート・リチウム塩、4−(ヒドロキシメチルホスフィニル)−4−オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリディン−2−イル)ホスフォナイト・ナトリウム塩、(2−メチルパーヒドロ−1,3−ディアジン−2−イル)ホスフォナイト・ナトリウム塩、アセチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)ホスフォナイト・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)メチルホスフォナイト・ナトリウム塩、メチル(2−メチルオキサチオラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2,4,5−トリメチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1,1−プロポキシエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(1−メトキシビニル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1−エチルチオビニル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−ジアジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−チアジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジアゾリジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリジン−2−イル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(2,2−ジシアノ−1−メチルエチニル)ホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートオキシム・ナトリウ厶塩、アセチルメチルホスフィネート−O−ベンジルオキシム・ナトリウム塩、1−[(N−エトキシイミノ)エチル]メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルイミノエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルイヒドラゾンエチル)ホスフィネート・ナトリウム塩、[−(2,4−ジニトロフェニルヒドラゾノ)エチル]メチルホスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルホスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、(1−シアノ−1−ヒドロキシエチル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、(ジメトキシメチル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、フォーミルメチルホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−オキソプロピル)ホスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・ドデシルグアニジン塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルホスフィネート・イソプロピルアミン塩、アセチルメチルホスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、1,3,5−トリブチル−4−メチルアミノ−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルホスフィネート、1−ブチル−4−ブチルアミノメチルアミノ−3,5−ジプロピル−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルホスフィネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドのアンモニウム塩などが挙げられる。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている化合物も挙げられる。
【0052】
これら(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及び水溶性アシルホスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)アシルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が好ましい。
【0053】
チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1−メチル−9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1,3,4−トリメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0054】
これらチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、好適なチオキサントン類は、2−クロルチオキサンセン−9−オンであり、好適なチオキサントン類の第4級アンモニウ厶塩は、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドである。
【0055】
ケタール類としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
【0056】
α−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが好ましい。
【0057】
クマリン化合物としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾクマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾクマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0058】
上述のクマリン化合物の中でも、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0059】
アントラキノン類としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0060】
ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0061】
α−アミノケトン類としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0062】
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す化合物を含む接着性組成物が得られる。
【0063】
本発明に用いられる(E)重合開始剤のうち化学重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0064】
上記ケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
【0065】
上記ハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0066】
上記ジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
【0067】
上記パーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
【0068】
上記パーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
【0069】
上記パーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0070】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドがより好ましく用いられる。
【0071】
本発明に用いられる(E)重合開始剤の含有量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分[(B)+(C)]の全量100重量部に対して、(E)重合開始剤を0.001〜30重量部含有することが好ましい。(E)重合開始剤の含有量が0.001重量部未満の場合、硬化物の機械的強度が低下するとともに接着強度が低下するおそれがあり、より好適には0.01重量部以上であり、さらに好適には0.1重量部以上である。一方、(E)重合開始剤の含有量が30重量部を超える場合、接着強度が低下するおそれがあり、より好適には15重量部以下であり、さらに好適には5重量部以下である。
【0072】
好ましい実施態様では、上述の(E)重合開始剤は、(F)重合促進剤と共に用いられる。本発明における(F)重合促進剤は、(E)重合開始剤による硬化を促進させ、接着性を向上させる。本発明に用いられる(F)重合促進剤としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物などが挙げられる。
【0073】
上記アミン類は、脂肪族アミンである。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0074】
上記スルフィン酸及びその塩としては、例えば、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0075】
上記ボレート化合物は、好ましくはアリールボレート化合物である。好適に使用されるアリールボレート化合物を具体的に例示すると、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物として、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びトリアルキル(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0076】
また、1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びジアルキルジ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0077】
さらに、1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びモノアルキルトリ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基又はn−ドデシル基等から選択される1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0078】
さらに1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フロロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p−フロロフェニル)トリフェニルホウ素、(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルトリフェニルホウ素、(p−ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素及び(p−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0079】
これらアリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物を用いることが好ましい。また、これらアリールボレート化合物は1種又は2種以上を混合して用いることも可能である。
【0080】
上記バルビツール酸誘導体としては、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−イソプロピルバルビツール酸、5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−1−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、5−メチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、1,5−ジエチルバルビツール酸、1−エチル−5−メチルバルビツール酸、1−エチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジエチル−5−ブチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−メチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−オクチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルバルビツール酸、5−ブチル−1−シクロヘキシルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸及びチオバルビツール酸類、ならびにこれらの塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属類が好ましい)が挙げられ、これらバルビツール酸類の塩としては、例えば、5−ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム及び1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウム等が例示される。
【0081】
好適なバルビツール酸誘導体としては、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、及びこれらバルビツール酸類のナトリウム塩が挙げられる。
【0082】
上記トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
【0083】
上記で例示したトリアジン化合物の中で好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。上記トリアジン化合物は1種又は2種以上を混合して用いても構わない。
【0084】
上記銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
【0085】
上記スズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
【0086】
上記バナジウム化合物は、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等の特開2003−96122号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0087】
上記ハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等が好適に用いられる。
【0088】
アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−メチルオキシベンズアルデヒド、p−エチルオキシベンズアルデヒド、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
【0089】
チオール化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
【0090】
本発明に用いられる(F)重合促進剤の含有量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分[(B)+(C)]の全量100重量部に対して、(F)重合促進剤を0.001〜30重量部含有することが好ましい。(F)重合促進剤の含有量が0.001重量部未満の場合、硬化物の機械的強度が低下するとともに接着強度が低下するおそれがあり、より好適には0.01重量部以上であり、さらに好適には0.1重量部以上である。一方、(F)重合促進剤の含有量が30重量部を超える場合、接着力が低下したり、組成物の色調が悪化したり、硬化物が変色したりするおそれがあり、より好適には20重量部以下であり、さらに好適には10重量部以下であり、さらに好適には5重量部以下である。
【0091】
本発明の組成物は、(G)フィラーが含まれていても良い。本発明における(G)フィラーは、接着性、塗布性、流動性、X線不透過性及び機械的強度を向上させる。このようなフィラーは、通常、有機フィラー、無機フィラー及び有機−無機複合フィラーに大別される。
【0092】
有機フィラーとしては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独又は2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0093】
無機フィラーとしては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらもまた、単独又は2種以上を混合して用いることができる。無機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0094】
前記無機フィラーは、組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0095】
有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機−無機複合フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0096】
本発明に用いられるフィラーの含有量は特に限定されず、重合性単量体成分[(B)+(C)]の全量100重量部に対して、(G)フィラーを1〜1000重量部含有することが好ましい。
【0097】
この他、本発明の組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
【0098】
本発明の組成物は、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含有するのであれば、特に限定なく調製することができる。
【0099】
本発明の(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含有する組成物は、歯科用組成物として好適に用いられる。本発明の歯科用組成物は、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、セメント(レジンセメント、レジン強化型グラスアイオノマーセメント)、小窩裂溝填塞材、義歯床用レジン等として用いることができるが、ボンディング材、又はプライマーとして好適に用いられる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。以下で用いる略記号は次のとおりである。
[(A)芳香族第3級アミン化合物]
DEPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン(アルドリッチ社製、HPLC純度97.0%)
PDE:N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(アルドリッチ社製、HPLC純度98.0%)
[(B)酸性基含有重合性単量体]
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド
4−MET:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリテート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸
AMPS:2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
[(C)ラジカル重合性単量体]
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタアクリレート
Bis−GMA:2,2−ビス[4−〔3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン
[(D)溶媒]

[(E)重合開始剤]
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
CQ:dl−カンファーキノン
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
[(F)重合促進剤]
TTA:トリエタノールアミン
[(G)フィラー]
R972:シリカ系フィラー
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
【0101】
<芳香族第3級アミン化合物「DEPT」の純度の測定方法>
高速液体クロマト装置(島津製作所社製、LC10AT)を用いて、〔カラム:UnisilQC18(ジーエルサイエンス社製)、試料濃度:1.0w/v%メタノール溶液、溶離液:水/メタノール=30/70(vol%)、リン酸0.01M、溶離液流速:1.0mL/min、検出器:UV系(波長:254nm)、検出時間:0〜20分〕の条件で測定する。得られたクロマトグラムから、芳香族第3級アミン化合物のピーク面積を検出された総ピーク面積で割ったもの、即ち[芳香族第3級アミン化合物のピーク面積/検出された総ピーク面積]×100をアミン濃度(%)として扱った。なお、DEPTのピークは5.2〜5.7分に検出されるピークである。
【0102】
例えば、HPLC純度が97.0%であるDEPTをこの条件で検出した場合には、DEPTのピークとは別に、9.7〜10.0分、12.0〜12.3分に不純物と思われるピークが現われるのに対し、精製DEPTを同条件で検出した場合には上記不純物のピークが消失する。
【0103】
<芳香族第3級アミン化合物「PDE」の純度の測定方法>
高速液体クロマト装置(島津製作所社製、LC10AT)を用いて、〔カラム:マイクロボンダパックC18(日本ウォーターズ社製)、試料濃度:2.0w/v%メタノール溶液、溶離液:水/メタノール=25/75(vol%)、溶離液流速:1.0mL/min、検出器:UV系(波長:254nm)、検出時間:0〜20分〕の条件で測定し、得られたクロマトグラムから、上記と同様にしてアミン濃度(%)を算出する。、なお、PDEのピークは4.1〜4.6分に検出されるピークである。
【0104】
例えば、HPLC純度が98.0%であるPDEをこの条件で検出した場合には、PDEのピークとは別に2.3〜2.6分、3.1〜3.7分に不純物と思われるピークが現われるのに対し、精製PDEを同条件で検出した場合には上記不純物のピークが消失する。
【0105】
<DEPTの精製例1>
市販品のDEPT(HPLC純度:97.0%)6gを4mLのエタノールに溶解し、得られた溶液をアイスストッカーで15時間冷却し、アミンを析出させた。析出したアミンを濾過した後、エタノールで洗浄した。得られたアミンはHPLC純度98.5%であった。
【0106】
<DEPTの精製例2>
市販品のDEPT(HPLC純度:97.0%)6gを4mLのエタノールに溶解し、得られた溶液をアイスストッカーで15時間冷却し、アミンを析出させた。析出したアミンを濾過した後、エタノールで洗浄した。再結晶して得られたアミンをエタノール6mLに溶解し、再結晶アミンを再溶解した。この溶液をアイスストッカーで15時間冷却し、アミンを析出させた。析出させたアミンを濾過した後、エタノールで洗浄した。得られたアミンはHPLC純度99.5%であった。
【0107】
<PDEの精製例1>
市販品のPDE(HPLC純度:98.0%)5gを5mLのメタノールに溶解し、得られた溶液をアイスストッカーで15時間冷却し、アミンを析出させた。析出したアミンを濾過した後、メタノールで洗浄した。得られたアミンはHPLC純度98.5%であった。
【0108】
[歯科用組成物の調製]
以下の各成分を常温(25℃)で混合して、歯科用組成物(実施例1〜10、比較例1〜5)を調製した。
【0109】
実施例1
MDP 80重量部
DEPT(HPLC純度99.5%) 20重量部
TMDPO 1重量部
【0110】
実施例2〜5
(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表1に示す単量体に変えたこと以外は実施例1と同様にして、歯科用組成物を調製した。
【0111】
実施例6
(A)芳香族第3級アミン化合物をHPLC純度が99.5%のものから98.5%のものに変えたこと以外は実施例1と同様にして、歯科用組成物を調製した。
【0112】
実施例7〜10
(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表1に示す単量体に変えたこと以外は実施例6と同様にして、歯科用組成物を調製した。
【0113】
比較例1
(A)芳香族第3級アミン化合物をHPLC純度が99.5%のものから、未精製の97.0%のものに変えたこと以外は実施例1と同様にして、歯科用組成物を調製した。
【0114】
比較例2〜5
(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表1に示す単量体に変えたこと以外は比較例1と同様にして、歯科用組成物を調製した。
【0115】
得られた歯科用組成物について、以下に示す試験例1に従って、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0116】
試験例1[変色試験]
調製した歯科用組成物を50℃の恒温槽で3日保存した後、スライドガラス上に組成物を滴下した。厚さ1mmの金属スペーサーをスライドガラスの両端に置き、別のスライドガラスで挟んだ後、スライドプロジェクターを用い、両面を2分間ずつ照射して、厚さ1mmの硬化物を得た。なお、50℃の恒温槽で保存する前の組成物についても、同様にして硬化物を得た。
【0117】
得られた硬化物の色度を色差計(日本電色社製、品番:Σ90型、光源:D65/2)で測定した。50℃、3日保存前後の硬化物の色度差ΔE*の数値が大きいほど、変色が大きいことを意味し、ΔE*が5以下であれば保存時の着色(変色)がなく、歯科用組成物として使用された場合に、良好な審美性を有すると判断することができる。
【0118】
【表1】

【0119】
表1より、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体の組成物において、(A)芳香族第3級アミン化合物であるDEPTのHPLC純度が98.5%以上の場合において、50℃、3日間保存後のΔE*が5以下となり変色が少ない組成物が得られた。
【0120】
[1液型ボンディング材組成物]
下記の各成分を常温(25℃)で混合して1液型ボンディング材組成物(実施例11〜21、比較例6〜11)を調製した。
【0121】
実施例11
MDP 15重量部
DEPT(HPLC純度99.5%) 0.3重量部
HEMA 35重量部
Bis−GMA 39.7重量部
水 10重量部
CQ 1重量部
TMDPO 2重量部
TTA 1重量部
BHT 0.05重量部
R972 5重量部
【0122】
実施例12〜15
(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表2に示す単量体に変えたこと以外は実施例11と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0123】
実施例16
(A)芳香族第3級アミン化合物をHPLC純度が99.5%のものから98.5%のものに変えたこと以外は実施例11と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0124】
実施例17〜20
(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表2に示す単量体に変えたこと以外は実施例16と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0125】
実施例21
(A)芳香族第3級アミン化合物の種類をPDE(HPLC純度98.5%)に変えたこと以外は実施例11と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0126】
比較例6
(A)芳香族第3級アミン化合物を、未精製のDEPT(HPLC純度が97.0%)に変えたこと以外は実施例11と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0127】
比較例7〜10
(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表2に示す単量体に変えたこと以外は比較例6と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0128】
比較例11
(A)芳香族第3級アミン化合物を、未精製のPDE(HPLC純度98.0%)に変えたこと以外は実施例11と同様にして、1液型ボンディング材を調製した。
【0129】
得られた1液型ボンディング材について、前記試験例1及び以下の試験例2を行って、特性を評価した。結果を表2に示す。
【0130】
試験例2[1液型ボンディング材組成物を用いた接着性試験]
作製した1液型ボンディング材組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアーブローすることで、塗布した1液型ボンディング材組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。次いで、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて10秒間光照射することにより、塗布した1液型ボンディング材組成物を硬化させた。
【0131】
得られた1液型ボンディング材組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル株式会社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記照射器「JETライト3000」を用いて20秒間光照射を行い、前記コンポジットレジンを硬化させた。
【0132】
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験供試サンプルを作製した。接着試験供試サンプルは全部で5個作製した。
【0133】
上記の5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強度とした。
【0134】
【表2】

【0135】
表2より、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含む1液型ボンディング材において、(A)芳香族第3級アミン化合物であるDEPT、PDEのHPLC純度が98.5%以上の場合において、50℃、3日間保存後ΔE*が5以下となり、変色が少ない組成物が得られた。
【0136】
[2液型歯科用プライマー組成物]
以下に示すプライマー組成物について、A液をB液と混合して2液型歯科用プライマー組成物(実施例22〜31、比較例12〜16)を調製した。
【0137】
実施例22
2液型プライマー組成物A液:
MDP 30重量部
DEPT(HPLC純度99.5%) 5重量部
HEMA 30重量部
水 35重量部
2液型プライマー組成物B液:
市販の歯科用プライマー(クラレメディカル社製、商品名「EDプライマーII」)のB液を使用した。
【0138】
実施例23〜26
2液型プライマー組成物A液の(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表3に示す単量体に変えたこと以外は実施例22と同様にして、2液型歯科用プライマー組成物を調製した。
【0139】
実施例27
2液型プライマー組成物A液の(A)芳香族第3級アミン化合物をHPLC純度が99.5%のものから98.5%のものに変えたこと以外は実施例22と同様にして、2液型歯科用プライマー組成物を調製した。
【0140】
実施例28〜31
2液型プライマー組成物A液の(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表3に示す単量体に変えたこと以外は実施例27と同様にして、2液型歯科用プライマー組成物を調製した。
【0141】
比較例12
2液型プライマー組成物A液の(A)芳香族第3級アミン化合物を、未精製のDEPT(HPLC純度が97.0%)に変えたこと以外は実施例22と同様にして、2液型歯科用プライマー組成物を調製した。
【0142】
比較例13〜16
2液型プライマー組成物A液の(B)酸性基含有重合性単量体の種類を表3に示す単量体に変えたこと以外は比較例12と同様にして、2液型歯科用プライマー組成物を調製した。
【0143】
得られた2液型歯科用プライマー組成物について、前記試験例1及び以下の試験例3を行って、特性を評価した。結果を表3に示す。
【0144】
試験例3[2液型プライマー組成物を用いた接着性試験]
作製したプライマー組成物A液とプライマー組成物B液とを等量となるように混和し、混和液を上記の丸穴内に塗布し、30秒後にエアーブローして、プライマー組成物を薄く延ばした。次いで、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、商品名「パナビアF2.0」)を上記丸穴内に埋め込み、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。続いて、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記ペーストの塗布面を平滑にした。
【0145】
得られた硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、商品名「パナビアF2.0」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験用サンプルを作製した。接着試験用サンプルは各実施例及び比較例について5個ずつ作製した。
【0146】
上記の5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強度とした。
【0147】
【表3】

【0148】
表3より、(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含む、歯科用プライマー組成物において、(A)芳香族第3級アミン化合物であるDEPTのHPLC純度が98.5%以上の場合において、50℃、3日間保存後のΔE*が5以下となり、変色が少ない組成物が得られた。
【0149】
以上のように、DEPT、PDE等の芳香族第3級アミン化合物のHPLC純度が98.5%以上である場合は、歯科用組成物の種々の使用態様においても、50℃、3日間保存後のΔE*が5以下となり、変色が少ない組成物であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の組成物は、歯科用プライマー、ボンディング材等の歯科材料に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族第3級アミン化合物、及び(B)酸性基含有重合性単量体を含んでなる歯科用組成物であって、前記芳香族第3級アミン化合物がHPLC純度が98.5%以上となるよう精製されたものである、歯科用組成物。
【請求項2】
(A)芳香族第3級アミン化合物が、HPLC純度が99.5%以上となるよう精製されたものである、請求項1記載の歯科用組成物。
【請求項3】
(A)芳香族第3級アミン化合物が一般式(1)で表される、請求項1又は2記載の歯科用組成物。
【化1】

(式中、R〜Rは、相互に独立して水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を示し、nは1〜5の整数であり、但し、R〜Rは同時には水素原子を示さず、R及びRは同時には水素原子を示さず、n個のRは同一でも異なっていてもよい)
【請求項4】
(A)芳香族第3級アミン化合物が、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3いずれか記載の歯科用組成物。
【請求項5】
(B)酸性基含有重合性単量体が、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4いずれか記載の歯科用組成物。
【請求項6】
さらに、(C)ラジカル重合性単量体を含有してなる、請求項1〜5いずれか記載の歯科用組成物。
【請求項7】
さらに、(D)溶媒を含有してなる、請求項1〜6いずれか記載の歯科用組成物。
【請求項8】
さらに、(E)重合開始剤を含有してなる、請求項1〜7いずれか記載の歯科用組成物。
【請求項9】
さらに、(F)重合促進剤を含有してなる、請求項1〜8いずれか記載の歯科用組成物。
【請求項10】
さらに、(G)フィラーを含有してなる、請求項1〜9いずれか記載の歯科用組成物。

【公開番号】特開2010−235536(P2010−235536A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86823(P2009−86823)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】