説明

歯科用診療装置

【課題】診療用水として細菌を繁殖させない薬液を用いることによって、給液管路内を常に清浄な状態に保つと共に、薬液による的確な診療を行うことができ、且つ、管路洗浄の為の時間を確保する必要のない新規な歯科用診療装置を提供する。
【解決手段】水供給源20から患者の診療に用いられる診療器具5c,11へ水を供給する給水管路21(22,23)を備えた歯科用診療装置1において、塩酸を電気分解した電解液を前記給水管路22からの水で希釈し、次亜塩素酸水を薬液として生成する薬液生成装置7と、前記薬液生成装置7に配管接続され、前記薬液生成装置によって生成された薬液を貯留する薬液貯留タンク13と、前記薬液貯留タンク13に貯留された薬液のpH値を検出するpHセンサ73aとを備え、前記薬液貯留タンク13に貯留された薬液は、前記給水管路23を経て前記診療器具5c,11に診療用水として供給可能とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用診療装置に関し、詳しくは、歯科用インスツルメント等に水を供給する給水管路、或いは歯科用インスツルメント等に、雑菌を繁殖させないようにした歯科用診療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科用診療装置には、マイクロモータハンドピース、エアタービンハンドピース、シリンジ等の各種インスツルメントや、うがい用スピットン(コップ給水栓を含む)等が装備され、これらインスツルメント等には、給水管路が接続される。給水管路には水(水道水)が供給されるが、給水管路やインスツルメント中には水が滞留することは避けられない。このように給水管路等に水が滞留すると、雑菌が繁殖し管壁にバイオフィルムが生じ易くなり、そのまま患者の診療に用いることは衛生上好ましくない。このような観点から、特許文献1〜3には、給水管路等を洗浄する歯科診療(治療)装置、或いは歯科用ユニットの水回路清浄装置が開示されている。
【0003】
特許文献1には、電解イオン水生成手段から得られる酸性イオン水を、給水管路を経て前記インスツルメントやベースンに供給して排出することによって、給水管路内等に滞留する水中での細菌の繁殖を抑制し、殺菌を行うようにした歯科診療装置が開示されている。また、特許文献2には、各種インスツルメントを、インスツルメントの近傍に配設された残留水排出装置に集約し、給水管路に殺菌水生成装置で生成された殺菌水を給水管路に供給して給水管路内等を殺菌洗浄して、残留水排出装置に排出するようにした歯科治療装置が開示されている。更に、特許文献3には、給水管路とインスツルメントとに接続されるバルブブロックを配設し、バルブブロックにおける給水管路の1次側出口と排水管路とを連通させる洗浄水回路を設けることによって、診療前後、診療中を問わず、水供給源からバルブブロックの1次側出口に至る給水管路を、フラッシングによって清浄にし、細菌の繁殖を抑えるようにした歯科用ユニットの水回路清浄装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−299082号公報
【特許文献2】特開2000−254号公報
【特許文献3】特開2002−191620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1、2に開示された給水管路等を洗浄する技術思想は、いずれも、給水管路中の細菌の繁殖を抑え、且つ殺菌し、或いは洗い流すようにするものであり、その為、給水管路等を洗浄した洗浄水(洗浄薬液)は、診療に使用することなくそのまま排出される。従って、管路洗浄は歯科診療開始前等に行うなどの、管路洗浄の為の時間設定が必要とされる。特に、長期の休み明けには、この管路洗浄時間を長く確保する必要も生じ、実際の診療作業に支障を来たすことにもなることが予想される。特許文献3では診療中にも管路洗浄が行えるようにしているが、複雑な水回路を構築する必要がある上に、この洗浄は各インスツルメントの先端には至らないので、インスツルメントを含む給水系の全般に亘って洗浄されるとは言い難いものであった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みなされたもので、診療用水として細菌を繁殖させない薬液を用いることによって、給水管路内を常に清浄な状態に保つと共に、薬液による的確な診療を行うことができ、且つ、管路洗浄の為の時間を確保する必要のない新規な歯科用診療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯科用診療装置は、水供給源から患者の診療に用いられる診療器具へ水を供給する給水管路を備えた歯科用診療装置において、塩酸を電気分解した電解液を前記給水管路からの水で希釈し、次亜塩素酸水を薬液として生成する薬液生成装置と、前記薬液生成装置に配管接続され、前記薬液生成装置によって生成された薬液を貯留する薬液貯留タンクと、前記薬液貯留タンクに貯留された薬液のpH値を検出するpHセンサとを備え、前記薬液貯留タンクに貯留された薬液は、前記給水管路を経て前記診療器具に診療用水として供給可能とされていることを特徴とする。
【0008】
本発明の歯科用診療装置において、制御部を更に備え、前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記薬液貯留タンクに設けられた排出弁を開として薬液貯留タンクに貯留された薬液を排出するよう制御するものとしても良い。この場合、前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記診療器具の駆動を停止するよう制御するものとしても良い。また、表示手段を更に備え、前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記表示手段に前記薬液の排出状況及び前記診療器具の駆動状況を表示するようにしても良い。
【0009】
本発明の歯科用診療装置において、前記給水管路には、前記水供給源からの水と、前記薬液貯留タンクからの薬液のいずれかを前記治療器具に供給するよう切換える切換弁が配設されているようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歯科用診療装置によれば、薬液生成装置において、塩酸を電気分解した電解液を給水管路からの水で希釈することによって、次亜塩素酸水を薬液として生成することができる。薬液生成装置において生成された薬液としての次亜塩素酸水は、薬液貯留タンクに貯留される。薬液貯留タンクに貯留された薬液は、前記給水管路を経て前記診療器具に診療用水として供給可能とされているから、給水管路内では細菌が繁殖せず、常に清浄な状態に保たれ、管路洗浄の為の特別な時間設定を行う必要がない。そして、前記薬液貯留タンクに貯留された薬液のpH値を検出するpHセンサが備えられているから、検出されたpH値に基づき、薬液の的確な濃度管理や、診療器具の駆動制御も的確に行い得るよう構成することができる。
【0011】
本発明において、薬液として用いられる次亜塩素酸水は、診療に用いられるものであるから、患者に害を及ぼすものではないことは当然である。このような次亜塩素酸水生成装置は市販されており、既存の歯科用診療装置に簡易に組付けることができる。市販されている次亜塩素酸水生成装置としては、例えば、森永エンジニアリング株式会社製微酸性電解水製造装置「PURESTER」が望ましく採用される。この微酸性電解水製造装置は、食品添加物に指定された微酸性次亜塩素酸水を生成するもので、次亜塩素酸の殺菌性により診療しながら給水管路内での細菌の繁殖を抑えることができると共に、微酸性であることから口腔内で使用される診療用水としての適性を充分に備えているものである。
【0012】
本発明の歯科用診療装置において、制御部を更に備え、前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記薬液貯留タンクに設けられた排出弁を開として薬液貯留タンクに貯留された薬液を排出するよう制御するものとすれば、検出したpH値が基準値範囲より逸脱した薬液を診療用水として使用することを未然に防止することができる。この場合、制御部は、前記診療器具の駆動を停止するよう制御するものとすれば、検出したpH値が基準値範囲より逸脱した薬液を診療用水として使用することをより的確に防止することができる。また、表示手段を更に備え、前記制御部が、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記表示手段に前記薬液の排出状況及び前記診療器具の駆動状況を表示するようにすれば、pH値の異常時における対処状況を視覚的に把握することができ、前記基準値範囲より逸脱した薬液の診療用水としての使用がより確実に防止される。
【0013】
前記給水管路には、前記水供給源からの水(水道水)と、前記薬液貯留タンクからの薬液のいずれかを前記治療器具に供給するよう切換える切換弁を配設するようにすれば、前記水道水をそのまま診療用水として用いる必要が生じた際、或いはそのような要望がある場合、この切換弁を操作して薬液に代えて水道水を診療用水として使用することができる。更には、検出したpH値が基準値範囲を逸脱した際にも、継続診療が必要とされる場合等において、切換弁を操作して薬液に代えて水道水を診療用水として使用することによって、その応急的対処が的確になされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の歯科用診療装置の一実施形態を示す概略的全体斜視図である。
【図2】同歯科用診療装置における診療用水の給水回路の一実施形態を示す図である。
【図3】同歯科用診療装置の概略的制御ブロック図である。
【図4】図1におけるX部の拡大図である。
【図5】同歯科用診療装置の表示手段における表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の歯科用診療装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1に示す歯科用診療装置1において、床面に歯科用診療台2が設置されており、該歯科用診療台2は、基台2aと、該基台2aに上下昇降自在に設置された座板2bと、該座板2bの一端に傾動自在に連接された背板2cと、該背板2cの上端に傾動自在且つ伸縮自在に設けられたヘッドレスト2dとを基本構成部材として備えている。この歯科用診療台2の側部には、トレーテーブル3、アシスタント用インスツルメントホルダ4が水平旋回自在に設置され、更に、歯科用診療台2の側部にスピットン装置5が固設されている。スピットン装置5のベースハウジング5aには、不図示のデンタルライトをハンガーアームを介して支持するライト支柱6が添設されている。該ライト支柱6には、本発明に係る薬液生成装置7(後記する)を内蔵する薬液生成ユニットボックス70が取付けられている。図例では、薬液生成装置7が、薬液生成ユニットボックス70に内蔵された例を示しているが、前記スピットン装置5のベースハウジング5a内、或いは、歯科用診療台2の基台2a内に薬液生成装置7を設けることも可能である。更には、薬液生成装置7を、診療室内において歯科用診療台2とは別に設けるようにしても良い。
【0016】
前記トレーテーブル3には、診断情報等を表示するディスプレイ装置(表示手段)8、操作パネル9及びドクター用インスツルメントホルダ10等が付設されている。前記スピットン装置5は、前記ベースハウジング5aの上に設置されたベースン5b、該ベースン5b上の側周部に設けられたコップ給水栓5c、更には、不図示の鉢洗い用給水栓等によって構成される。ドクター用インスツルメントホルダ10及びアシスタント用インスツルメントホルダ4には、各種歯科用インスツルメント11が抜差自在に保持される。このような歯科用インスツルメント11としては、主にドクター用インスツルメントホルダ10に保持されるエアタービンハンドピース、マイクロモータハンドピース、スケーラ、マルチウェイシリンジ、根管長測定器、根管拡大器、口腔内カメラ等が保持され、アシスタント用インスツルメントホルダ4には、主にバキュームシリンジ、サライバエジェクタ等が保持される。図例では、これらのインスツルメント11のうちの一部のみが保持されている状態を示し、他のインスツルメントの図示を省略している。エアタービンハンドピース、マイクロモータハンドピース、及び、スケーラ等の駆動制御は、ドクターによるフートコントローラ12の足踏み操作によってなされる。
【0017】
次に、前記歯科用診療装置1における診療用水の給水回路の一例について、図2を参照して説明する。図2では、薬液生成装置7が内蔵される前記薬液生成ユニットボックス70内の回路構成と、これに繋がる診療器具用給水管路100及び診療器具11,5cとの関係について示している。ここでの診療器具としては、コップ給水栓5cが含まれるが、診療用水が用いられない根管長測定器、根管拡大器、口腔内カメラ、バキュームシリンジ、サライバエジェクタ等のインスツルメントはその対象外とされる。図2において、水供給源20からの給水管路21が、前記薬液生成ユニットボックス70に導入されている。薬液生成ユニットボックス70に導入された給水管路21は、薬液生成装置7に通じる第1分岐給水管路22と、前記診療器具用給水管路100に通じる第2分岐給水管路23とに分岐する。第1分岐給水管路22の途中には、給水電磁弁22a及び流量計22bが配設され、薬液生成装置7を構成する混合部7dに連結されている。
【0018】
薬液生成装置7は、次亜塩素酸水を生成する装置であって、濃度3%程度の希塩酸を貯留する塩酸タンク7aと、この塩酸タンク7aから希塩酸を給送する塩酸給送ポンプ7bと、塩酸給送ポンプ7bによって給送された希塩酸を電気分解して電解液を生成する電解槽7cと、電解槽7cによって生成された電解液を分岐給水管路22から供給される水によって希釈する前記混合部7dとによって構成される。前記薬液生成装置7の混合部7dの排出側に、第1薬液管路71が連結され、該第1薬液管路71は薬液生成装置7から導出されている。該第1薬液管路71には、混合部7dによって適正なpH値(5.8〜6.5)に希釈調整された次亜塩素酸水が薬液として流通する。第1薬液管路71の途中には、排水先40と後記する薬液貯留タンク13側とに切換え可能とされた三方切換弁72が配設されている。三方切換弁72の排水側には、排水先40に通じる排薬液管路72aが接続されている。薬液貯留タンク13の容量は、700ml程度とされる。本実施形態では、薬液貯留タンク13に貯留される次亜塩素酸水(薬液)の量は、一患者の診療時に使いきるよう設定される。因みに、標準的な一患者当りの診療用水の使用量は、うがいに要する使用量(100ml×4回)+インスツルメント等での使用量(300ml)=700mlとされている。
【0019】
前記第2分岐給水管路23は、後記する三方切換弁24を経て前記診療器具用給水管路100に通じるよう配管構成されている。また、圧縮空気源30からの給気管路31が、薬液生成ユニットボックス70に導入されている。この給気管路31は、薬液貯留タンク13に通じており、薬液貯留タンク13内に圧縮空気を供給して、薬液貯留タンク13の内圧を高めるようになされている。給気管路31の薬液貯留タンク13に至る途中には、減圧弁31a、圧力計31b及び給気電磁弁(三方電磁弁)31cが配設されている。更に、給気電磁弁31cにはサイレンサ31dが接続されている。薬液貯留タンク13からは、前記三方切換弁24に接続される第2薬液管路73が導出され、前記給気管路31から圧縮空気を薬液貯留タンク13内に供給してその内圧を高めることによって、薬液貯留タンク13内の次亜塩素酸水を第2薬液管路73に給送するようになされている。従って、第2薬液管路73は、その吸入端が薬液貯留タンク13の底部付近に臨むように設けられている。薬液貯留タンク13の底部には、前記排水先40に通じる排出弁13aが設けられている。第2薬液管路73の途中には、pHセンサ73aが配設されている。pHセンサ73aは、第2薬液管路73を流通する次亜塩素酸水のpH値を随時検出して、この検出値を薬液貯留タンク13内に貯留された次亜塩素酸水のpH値とするものであるが、薬液貯留タンク13内に設けられて、薬液貯留タンク13内の次亜塩素酸水のpH値を直接検出するようにしても良いし、三方切換弁24から診療器具5c,11に至るまでの診療器具用給水回路100内に設けても良い。
【0020】
薬液貯留タンク13には、更に、リリーフ弁13cが配設された排気管路13bが接続され、薬液貯留タンク13の内圧が過大になった際に、薬液貯留タンク13内の空気を排出して、内圧の調整がなし得るように構成されている。リリーフ弁13cの排出側は、前記排水先40に接続され、排気空気がキャリアガスとなって排気と共に搬出される次亜塩素酸水はこの排水先40に排出される。当該排水先40は、前記ベースン5bにおけるうがい水等の排水先として前記スピットン装置5のベースハウジング5aに設けられるもので、トラップ5dを介してうがい水が排水先40に排水されるようになされている。このような、ベースン5bからトラップ5dを介して排水先40に至る一連の排水機構は、既存のこの種歯科用診療装置に備わっているもので、前記排出弁13a、排薬液管路72a及び排気管路13bが当該既設の排水機構に接続される。
【0021】
図3は、前記のような診療用水の給水回路を備えた歯科用診療装置1の駆動制御ブロック図を示している。図において、制御部としてのCPU14が、本歯科用診療装置1の全ての駆動制御を司る。インスツルメント駆動回路15は、前記各種インスルメント11毎に設けられる作用媒体のオン/オフスイッチ、電磁弁及び流量調整弁(いずれも不図示)等を備え、CPU14は前記フートコントローラ12の足踏み操作によってこれらを駆動制御する。また、診療装置駆動回路16は、歯科用診療台2を診療態様に応じた姿勢に位置制御するもので、CPU14は、後記する診療位置設定スイッチ17の選択操作によって、当該診療装置駆動回路16をして、歯科用診療台2を所望の診療姿勢に位置制御する。このような、インスツルメント駆動回路15及び診療装置駆動回路16は、既存のこの種歯科用診療装置に備わっているものである。
尚、診療位置設定スイッチ17は、歯科用診療台2を予め定められた複数パターンの診療姿勢に自動的に設定するものであるが、座板2b、背板2c等の位置を個々に設定する際には、前記フートコントローラ12に設けられた所定の足踏スイッチの操作や、トレーテーブル3の操作パネル9に設けられた所定のスイッチの押下操作によって、各機構部の駆動がなされる。診療位置設定スイッチ17の詳細については後記する。
【0022】
表示手段8は、前述のようにトレーテーブル3の側部に設けられたディスプレイ装置であって、CPU14は、このディスプレイ装置8に各種診断情報等を表示する。この診断情報としては、患者のカルテ、歯のX線撮影画像、口腔内カメラによる撮影画像、患者に対するティーチングメッセージ等の他に、本発明に係る薬液生成の状況等が表示される。表示手段(ディスプレイ装置)8に表示される表示画面の一例については、図5を参照して後記する。報知手段18は、本歯科用診療装置1における各機構部の作動状況(例えば、正常状態か異常状態か等)を、ランプ、或いは音声等によって報知するものである。報知内容としては、薬液生成手段7による薬液の生成状況等も含まれる。このような報知手段18は、主に前記トレーテーブル3の操作パネル9等に設けられるが、薬液生成状況の報知用としては、前記薬液生成ユニットボックス70の外面に設けても良い。薬液生成スイッチ19は、手動の薬液生成スイッチであって、主に前記薬液生成ユニットボックス70の外面に設けられる。CPU14には、薬液生成装置7、流量計22b、pHセンサ73a、その他薬液生成装置7に関連する回路構成機器乃至は機構部等が接続され、CPU14によってこれらの駆動制御がなされる。この駆動制御については後記する。
【0023】
図4は、図1のX部の拡大図であり、診療位置設定スイッチ17を模式的に示すものである。この診療位置設定スイッチ17は4種のスイッチ17a〜17dからなる。スイッチ17a,17bは、複数(二人)のドクターが同一の歯科用診療台2で診療を行う場合、座板2bの高さ、背板2cの傾斜角度を組み合わせてドクター毎に予め設定された適正な診療姿勢にそれぞれ対応するスイッチである。即ち、ある特定のドクターは、患者が歯科用診療台2に着座した後、自身の診療に適した診療姿勢に対応するよう設定されたスイッチ17a,17bのいずれかのスイッチ(例えば、スイッチ17a)を押下操作すると、当該歯科用診療台2の座板2b及び背板2cは、当該ドクターにとって最も診療し易い高さ及び傾斜位置に自動的に位置決めされる。また、別のドクターが同じ歯科用診療台2で診療を行う場合は、別のスイッチ(例えば、スイッチ17b)を押下操作することによって、歯科用診療台2を、同様に当該他のドクターにとって最も診療し易い診療姿勢に自動的に位置決めすることができる。スイッチ17cは、診療中に患者にうがいをさせる場合に使用されるもので、うがいに適した背板2cの傾斜角度、必要によって座板2bの高さが当該スイッチ17cに対応して設定されており、ドクター、或いはアシスタントは、うがい時にこのスイッチ17cを押下操作することによって、歯科用診療台2がうがいに適した姿勢に自動的に位置付けられる。うがい後、スイッチ17cの押下操作がなされると、歯科用診療台2は、現実に診療に携わっているドクターによって選択操作された前記スイッチ17a,17bのいずれかに対応する元の診療姿勢に復帰する。また、スイッチ17a,17bを、う蝕治療や抜歯等のように、診療内容に応じて異なった診療姿勢ができるように診療位置の設定を行っても良い。
【0024】
スイッチ17dは、患者毎の診療終了時に操作されるもので、患者の導入/退出スイッチに相当する。即ち、このスイッチ17dが押下操作されると、歯科用診療台2の座板2bが患者の乗降位置まで下降されると共に、背板2cが起立状態とされる。歯科用診療台2のこの状態は、患者が入退出し易い姿勢であって、スイッチ17dに対応付けて予め設定されている。そして、スイッチ17dのスイッチ操作と連動して、前記薬液生成装置7による次亜塩素酸水の生成が開始されると共に、これに伴う関連機器乃至は機構部の駆動制御がなされる。この駆動制御の詳細については後記する。図4では、スイッチ17a〜17dを簡略化して図示しているが、視覚的に歯科用診療台2の姿勢が認識できるよう、各スイッチ17a〜17dの操作面或いは各近傍に、対応する歯科用診療台2の姿勢を示す図柄を付しておくことはもとより可能である。また、このようなスイッチ操作はアシスタントによってなされることも多いので、アシスタント側のインスツルメントホルダ4の上面にも同様の診療位置設定スイッチ17を設けることが望ましいことは言うまでもない。
【0025】
次に、薬液生成装置7による薬液(次亜塩素酸水)の生成及び関連機器乃至は機構部の前記制御部としてのCPU14による駆動制御について、図2を参照して詳述する。患者の診療が終了し、前述のように導入/退出スイッチ17dが押下操作されると、歯科用診療台2が、患者が入退出し易い姿勢に設定されると共に次亜塩素酸水の生成が開始される。即ち、第1分岐給水管路22の給水電磁弁22aが開とされ薬液生成装置7の混合部7dへ水供給源20からの水が供給される。同時に、塩酸給送ポンプ7bが作動し、塩酸タンク71aから希塩酸が電解槽7cに給送され、電解槽7cでの希塩酸の電気分解がなされる。電解槽7cでの電気分解によって生成された次亜塩素酸を含む電解液は、混合部7dにおいて水と混合希釈されて次亜塩素酸水とされる。混合部7dから流出する次亜塩素酸水(薬液)は第1薬液管路71を流通するが、生成開始初期の段階(30〜60秒間)では、塩素濃度及びpH値が安定しないので、三方切換弁72を排薬液管路72a側に開とし、排水先40に排出させる。その後、三方切換弁72が薬液貯留タンク13側に開とされ、次亜塩素酸水が薬液貯留タンク13に貯留される。薬液貯留タンク13には不図示のレベル計が設置されており、このレベル計が満水(700ml)を検出すると、前記塩酸給送ポンプ7b、電解槽7cの作動が停止すると共に、給水電磁弁22aが閉とされる。
尚、診療開始時(例えば、各診療日の朝等)の場合、図3に示す薬液生成スイッチ19をオンとして同様の薬液生成を行うようにし、或いは、所謂朝一番モード等の設定をしておき、歯科用診療台2の電源を立ち上げた時に同様の薬液生成を自動的に行うようにしても良い。
【0026】
歯科用診療台2を導入/退出姿勢にして次の患者が着座する前に、前記の薬液生成がなされている。従って、スイッチ17a,17bのいずれかをスイッチ操作して診療姿勢に位置付けて、診療が開始される時には、薬液貯留タンク13には、一患者の診療に使用し得る量の次亜塩素酸水が貯留されている。ドクター或いはアシスタントが、薬液(次亜塩素酸水)を診療用水として歯科診療を行おうとする場合、薬液生成ユニットボックス70の外面に設けられた操作レバー70a(図1参照)、或いは、トレーテーブル3の操作パネル9に設けられる不図示の「水道水/薬液切換スイッチ」を操作して、三方切換弁24を第2薬液管路73側に切換える。同時に、給気電磁弁31cを開として、薬液貯留タンク13に圧縮空気を導入する。ドクター或いはアシスタントによって診療用水を用いるインスツルメント11が選択され、各ホルダから繰出されてその駆動操作がなされた時には、次亜塩素酸水が薬液貯留タンク13から第2薬液管路73及び三方切換弁24を経て、診療器具用給水回路100に供給され、当該インスツルメント11の先端部から患部に向かって注出される。また、コップ給水栓5cより、ベースン5b上に置かれたコップ(不図示)に給水がなされる時には、同様に次亜塩素酸水がコップに給水される。このように、次亜塩素酸水を診療用水として用いると、インスツルメント等の診療器具の先端部に至る管路等において、一時的に或いは休暇等で長期に診療用水が溜まったとしても、診療用水自体が殺菌性のある次亜塩素酸水からなるから、細菌が発生更には繁殖する懸念がない。従って、定期的に管路洗浄をするような煩わしいメンテナンス作業も不要とされ、また、管路洗浄の為の時間を確保する必要がなく、効率的な歯科診療を実施することができる。
尚、前記「水道水/薬液切換スイッチ」を、図5で示すように前記ディスプレイ装置8にタッチパネルとして設けることも可能である。
【0027】
次亜塩素酸水の生成中に水素ガスが発生するが、この水素ガスはコップ給水栓5cの上部に設けられている空気抜孔(不図示)から排出されるよう構成される。また、薬液貯留タンク13に溜まった水素ガスは、三方電磁弁31cをサイレンサ31d側に開とすることにより、サイレンサ31dより排出される。更に、冷水過敏症の患者を考慮し、薬液貯留タンク13を、既存の歯科用診療台2に設けられるウォーマタンクに並設し、或いは、薬液貯留タンク13専用のウォーマタンクを別部位に設置し、温められた次亜塩素酸水を診療用水として用いるよう構成しても良い。
【0028】
前記第2薬液管路73には、pHセンサ73aが配設されており、薬液貯留タンク13に貯留される次亜塩素酸水のpH値が随時検出される。pHセンサ73aで検出されたpH値が所定範囲(5.8〜6.5)を逸脱する場合は、使用中のインスツルメント11の駆動を停止する。本実施形態では、前記ディスプレイ装置8をタッチパネルディスプレイとし、pH値が所定範囲を逸脱した際に、図5に示すような画面80を表示させるようにしている。当該画面80に切替わる前は、例えば、給水電磁弁22aが開、給気電磁弁31cが薬液貯留タンク13側に開であり、塩酸給送ポンプ7b、電解槽7cが作動中、三方切換弁24が薬液側に開であること、及び使用中のインスツルメント11の種類等が表示されている。そして、pH値が前記所定範囲を逸脱した際には、図5に示すようなタッチパネル表示に切替わる。画面80の右半部は、使用不可診療器具表示画面80aであり、使用不可診療器具に対応するインスツルメント毎のタッチスイッチ81〜85及び水道水/薬液切換タッチスイッチ86が表示されている。また、左半部は、使用可能診療器具表示画面80bであり、使用可能診療器具に対応するインスツルメント毎のタッチスイッチ87〜89が表示されている。水道水/薬液切換タッチスイッチ86は、当該画面80に切替わる前にも表示されるようにしても良い。
【0029】
図5において、インスツルメント毎のタッチスイッチ81〜85は、例えば、第1エアタービンハンドピース、第2エアタービンハンドピース、マイクロモータハンドピース、スケーラ、及び3ウェイシリンジのそれぞれに対応し、これらインスツルメントは診療用水を用いるインスツルメントである。従って、pH値が所定範囲を逸脱した時には、使用中のインスツルメント11の駆動を停止すると共に、これらインスツルメントを使用不可診療器具として表示し、これによってドクター等にその旨を報知することができる。また、タッチスイッチ87〜89は、診療用水を用いないインスツルメント、例えば、根管長測定器、口腔内カメラ、及び、根管拡大器にそれぞれ対応し、pH値が所定範囲を逸脱した時でも、これらインスツルメントは使用可能診療機器として表示し、これによってドクター等にその旨を同様に報知することができる。pH値が所定範囲を逸脱した時でも、ドクター等は診療用水を用いない歯科診療は行えるので、例えば、使用可能診療器具表示画面80bにおいて、タッチスイッチ83a〜83cのいずれかをスイッチ操作すると、選択されたタッチスイッチに対応するインスツルメントの設定画面に切替わり、この画面情報に基づき対応する歯科診療を行えるようにしても良い。
【0030】
また、使用不可診療器具表示画面80aにおいて、タッチスイッチ81〜85のいずれかをスイッチ操作した後、水道水/薬液切換タッチスイッチ86をスイッチ操作すると、前記三方切換弁24が第2分岐給水管路23側(図2参照)に切換わり、選択されたインスツルメントによる水道水での歯科診療を実施することができる。或いは、タッチスイッチ81〜85を選択操作せずに水道水/薬液切換タッチスイッチ86をスイッチ操作すると、同様に三方切換弁24が第2分岐給水管路23側に切換わり、使用不可とされるインスツルメントの全てが、水道水を用いた歯科診療が可能な状態とされる。従って、診療中に、次亜塩素酸水のpH値が所定範囲を逸脱した時でも、水道水/薬液切換タッチスイッチ86によって、診療用水を次亜塩素酸水から水道水に切替えて、当該診療作業を続行することができる。この間に、薬液貯留タンク13に貯留されている次亜塩素酸水を薬液貯留タンク13の底部に設けられる排出弁13aを開とし排水先40に排出する。そして、次の次亜塩素酸水の生成に備え、流量計22bを制御して第1分岐給水管路22における流水量の調整、或いは、塩酸給送ポンプ7bの出力調整等を行い、生成される次亜塩素酸水のpH値の調整がなされる。pH値が安定するまでは、前記排出弁13aを開とし次亜塩素酸水を排水先40に排出する。このように、次亜塩素酸水のpH値が所定範囲を逸脱した場合における診療器具の駆動状況(駆動可否峻別)や、次亜塩素酸水の排出状況を表示画面80から把握することができるので、ドクター等は冷静に対応し、引続く診療方針を速やかに判断することができる。
【0031】
図5に示す表示画面80は、トレーテーブル3に付設したディスプレイ装置8に表示させるようにしているが、これに限らず、トレーテーブル3の操作パネル9、或いはその近傍部にこのような表示手段を設けるようにしても良い。また、図5では、タッチスイッチ81〜85、87〜89を簡略化して図示しているが、視覚的にインスツルメントの種類が認識できるよう、各タッチスイッチ81〜85、87〜89の操作面或いは各近傍に、対応するインスツルメントの概略形状を示す図柄や略称等を付しておくことは可能である。
【0032】
尚、診療位置設定スイッチ17の形態等は、図4に示す例に限定されるものではない。また、診療位置設定スイッチ17の設置場所も、トレーテーブル3の操作パネル9やアシスタント用インスツルメントホルダ4に限定されず、歯科用診療台2の近傍で、ドクターやアシスタントが操作し易い他の場所に設定することはもとより可能である。更に、pH値が所定範囲を逸脱した時にディスプレイ装置8に表示される画面としては、図5に示す例は一例であって、他の有用な情報を併せて表示することも可能である。また、歯科用診療台2、トレーテーブル3、アシスタント用インスツルメントホルダ4、更にはスピットン装置5の形態等も図示のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
1 歯科用診療装置
2 歯科用診療台
2b 座板
2c 背板
5c コップ給水栓(診療器具)
7 薬液生成装置
8 ディスプレイ装置(表示手段)
11 インスツルメント(診療器具)
13 薬液貯留タンク
14 CPU(制御部)
20 水供給源
21 給水管路
22 第1分岐給水管路(給水管路)
23 第2分岐給水管路(給水管路)
24 切換弁
73a pHセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水供給源から患者の診療に用いられる診療器具へ水を供給する給水管路を備えた歯科用診療装置において、
塩酸を電気分解した電解液を前記給水管路からの水で希釈し、次亜塩素酸水を薬液として生成する薬液生成装置と、
前記薬液生成装置に配管接続され、前記薬液生成装置によって生成された薬液を貯留する薬液貯留タンクと、
前記薬液貯留タンクに貯留された薬液のpH値を検出するpHセンサとを備え、
前記薬液貯留タンクに貯留された薬液は、前記給水管路を経て前記診療器具に診療用水として供給可能とされていることを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科用診療装置において、
制御部を更に備え、
前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記薬液貯留タンクに設けられた排出弁を開として薬液貯留タンクに貯留された薬液を排出するよう制御することを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項3】
請求項2に記載の歯科用診療装置において、
前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記診療器具の駆動を停止するよう制御することを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の歯科用診療装置において、
表示手段を更に備え、
前記制御部は、前記pHセンサによる検出値が予め定められた基準値範囲より逸脱する場合は、前記表示手段に前記薬液の排出状況及び前記診療器具の駆動状況を表示することを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の歯科用診療装置において、
前記給水管路には、前記給水源からの水と、前記薬液貯留タンクからの薬液のいずれかを前記治療器具に供給するよう切換える切換弁が配設されていることを特徴とする歯科用診療装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−192120(P2012−192120A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60132(P2011−60132)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】