説明

歯科陶材焼付用銀パラジウム合金

【課題】優れた鋳造性および良好な焼付性を特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金を提供すること。
【解決手段】本発明は、歯科補綴物を鋳造により作製する歯科用合金であって、Ag:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%からなることを特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金である。このように基本元素となるAg,Pdに対してその他添加元素の配合比を調整することにより,優れた鋳造性および良好な焼付性を特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金を提供することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科治療に使用する陶材焼付用合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において歯冠欠損部や歯牙欠損部は鋳造クラウンやブリッジおよび義歯によって補綴されるが、審美性と機能性を満足する方法の一つとしては、陶材焼付用の鋳造用合金で作製した金属フレームの表面に陶材と呼ばれるセラミックを焼付けて、歯牙形態を修復した陶材焼付クラウン・ブリッジが用いられる。
【0003】
陶材焼付用合金に必要な基本条件としては、陶材焼付用合金は鋳造性に優れ、陶材との結合力が強く、陶材を相容できる熱膨張係数を有していることが挙げられる。これまで開発されてきた従来の陶材焼付用貴金属合金は、大きくAuを主成分とする合金系とAuを含まない合金系に大別される。
【0004】
後者のAuを含まない貴金属合金の代表として銀パラジウム系合金がある。これらは金を含まないため、低コストであること,口腔内において軽量であること,十分な機械的性質を有することなどのメリットを持つ。しかしながら、従来の銀パラジウム合金の製品では、陶材を焼付けた時に起こる陶材の変色、陶材の割れや剥離、陶材への気泡発生などのトラブルが多い。陶材の割れや剥離についての一因としては、銀パラジウム系合金が他の合金に比べて熱膨張係数が高いことが挙げられる。市販されている陶材との相性を考えた場合、合金の熱膨張係数は13.8〜14.8×10-6-1程度が望ましい。
【0005】
特許文献1において、Ag-Pd-Fe基と添加元素からなる陶材焼付用合金が公開されている。しかし、当該技術では歯科用合金としての機械的性質を有するものの、熱膨張係数は15.0×10-6-1以上と高い。加えて、成分元素としてFeが5〜10重量%添加されているため、合金の酸化膜色調は黒く、陶材築盛後の陶材と合金の界面に黒い線が現れてしまい、容易に除去できず審美性を損なう。以上のことから、当該技術では陶材焼付用合金に必要な機能が十分であるとは言えない。
【特許文献1】特開昭54−132426号公報
【0006】
特許文献2には、陶材焼付用銀パラジウム合金として請求項1にAg:7〜45重量%,Pd:45〜80重量%,Ru:1重量%まで,Ga:7重量%まで,Co:5重量%まで,Ge:3重量%までからなる銀パラジウム合金が開示されている。請求項5では請求項1の成分範囲に、Au:5重量%まで,In:5重量%まで,Sn:5重量%まで,Cu:2重量%まで付け加えた範囲からなる銀パラジウム合金に関して開示されている。しかし、この合金の開発目標は陶材の焼成時の変色を抑えることに着目したものであり、陶材焼付用合金として必要な熱膨張係数は高く、陶材焼付性に不安な面が多い。実施例から見ても、熱膨張係数は14.9〜15.8×10-6-1と高いため、従来の問題を解決したとは言えない。
【特許文献2】特許第2851295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述した銀パラジウム系の歯科陶材焼付用合金がもつマイナス点を技術的課題とし、具体的には、陶材焼付性に影響を与える熱膨張係数が14.8×10-6-1以下で陶材の割れや剥離等のない歯科陶材焼付用銀パラジウム合金を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、歯科補綴物を鋳造により作製する歯科用合金であって、Ag:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%からなることを特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金である。
【0009】
本発明は、またAg:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%からなり、熱膨張係数が14.8×10-6-1以下であることを特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金である。
【0010】
本発明は、更にAg:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%に加え、Au,Pt,Rhのうち少なくとも1種から選ばれ元素を0.1〜1重量%まで、Ge,Zn,Sb,Siのうち1種から選ばれる元素を0.1〜1重量%まで、Ir,Ru,W,Reのうち1種から選ばれる元素を0.1〜1重量%まで含有するものからなり、熱膨張係数が14.8×10-6-1以下であることを特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金である。
【0011】
次に、この発明に於ける陶材焼付用銀パラジウム合金の構成と成分限定の理由について述べる。
【0012】
[Ag,Pd]
まず、Ag,Pdについて述べると、AgPdの2元合金において成分の比率を変えることで、合金の融点と熱膨張に影響を及ぼす。すなわち、Ag含有量を多くする(Pd含有を少なくする)と熱膨張係数は高く、融点は低くなる。一方、Ag含有量が少ない場合は逆のことが言える。Ag,Pd以外の融点の低い元素が添加されることにより、合金の融点は低くなるが、熱膨張係数は高くなる。そこで、本発明ではAg/Pdの比に着目して、その比をAg30以下の範囲とし、融点は高く、熱膨張係数は低い状態より出発し、その他の元素の添加量を調整することで融点は低く、なおかつ熱膨張係数14.8×10-6-1以下を満足する成分の組合せを見出した。
【0013】
成分元素Agは20重量%未満であると合金の熱膨張係数は低いが、その他の元素を添加しても融点低下を図れず、溶解・鋳造性は悪くなる。一方、30%を超えると合金の融点は低くなるが、熱膨張係数は高くなる。加えて、融点の低い元素を加えることで熱膨張係数は上昇し、14.8×10-6-1を大きく超えてしまう。以上の結果より20〜30重量%とした。
【0014】
成分元素Pdは60重量%未満であると合金の融点は低くなるが、熱膨張係数は高くなり、その他の元素を添加することで、更に熱膨張係数は大きくなる。一方、70重量%を越えると熱膨張係数は低くなるが、その他の元素を添加しても融点の低下は図れず、溶解・鋳造性を悪くする。以上の結果より60〜70重量%とした。
【0015】
[In]
成分元素Inは銀パラジウム合金の融点を下げ溶解・鋳造性を改善し、熱膨張係数に影響を与える。その他の成分元素Gaと組合せたときに、添加量は6重量%未満では熱膨張係数は14.8×10-6-1より低いものの、融点が上がってしまうため、溶解・鋳造性は不十分となる。一方、8重量%超えると熱膨張係数は14.8×10-6-1より高くなる。以上のことから、6〜8重量%とした。
【0016】
[Ga]
成分元素Gaは銀パラジウム合金の融点を下げ溶解・鋳造性を改善し、その他に機械的性質の向上や陶材との結合力の強化に寄与する。その他の成分元素Inと組合わせたときに、その効果は3重量%以上の添加から見られ、5重量%を超えると合金が脆くなり,加工性を低下させることが分かった。以上のことから、3〜5重量%とした。
【0017】
[Sn]
成分元素Snは銀パラジウム合金の融点を下げ、溶解・鋳造性を改善するとともに機械的性質を向上させる。他の元素Gaと組合せて添加したとき、0.1重量%以上で機械的性質に十分効果がある。一方、6重量%を超える添加は合金が脆化する。以上のことから、0.1〜6重量%とした。
【0018】
[Au,Pt,Rh]
成分元素Auは僅かな添加によって熱膨張係数の低下に寄与するほか、機械的性質,耐食性向上に寄与する。但し、1重量%を超えると合金の融点上昇するため、0.1〜1重量%含有させることとした。成分元素Pt,Rhについても0.1〜1重量%までで同様の効果がある。
【0019】
[Ge,Zn,Sb,Si]
成分元素Geは熱膨張係数14.8×10-6-1以下を保ちつつ、AgPd合金の融点を下げる効果がある。その他に合金と陶材との結合力強化、酸化膜色調の改善および機械的性質の向上に寄与するが、1重量%を超えると合金の熱膨張係数の増加に著しく影響することから、0.1〜1重量%まで含有させることとした。成分元素Zn,Sb,Siについても0.1〜1重量%までで同様の効果がある。
【0020】
[Ir,Ru,Re,W]
成分元素Irは僅かな添加によって熱膨張係数の低下に寄与する他、合金の結晶粒微細化,機械的性質の向上に寄与する。但し、1重量%を超えると、合金の融点上昇や合金中での偏析を招く恐れがあることから、0.1〜1重量%まで含有させることとした。成分元素Ru,ReおよびWについても0.1〜1重量%までで同様の効果がある。
【発明の効果】
【0021】
上記のごとく成分範囲を限定することで、優れた鋳造性および良好な焼付性を特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金を提供することが可能となる。
【実施例】
【0022】
この発明の実施例について、成分と特性を下記表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
各試料は、各純金属を秤量し高周波加熱溶解炉にて溶製し、所定の形状に加工した。表1に示す試料は機械式鋳造機にて鋳造し、ロストワックス法により所定の試験片を作製した。各試験内容については以下の通りである。
【0025】
(1)鋳造試験
各試料を所定の形状に鋳造し、鋳巣の有無を観察した。
【0026】
(2)溶融温度
各試料より試験片を切り出し、示差熱分析装置にて合金の溶融が開始および終了する点を測定し、各々固相点,液相点とした。
【0027】
(3)硬さ試験
マイクロビッカース硬さ試験機を用いて荷重200g,荷重印加時間10秒の条件で測定した。
【0028】
(4)熱膨張試験
試験方法はJIS T 6120に従って、試験片として約φ4mm×L20mmの寸法に調製し、熱機械分析装置にて昇温速度5℃/minで550℃まで加熱し、50℃〜500℃までの平均熱膨張係数を算出した。
【0029】
(5)陶材変色確認試験
各試験片に陶材を焼付けた後の陶材の変色の有無を観察した。
【0030】
(6)陶材焼付性試験
試験方法はJIS T 6118に従って、各試験片に陶材を焼付けた後、焼付面の裏側に直径10.0mmの金属棒を押し当て、陶材を破折するまで折り曲げる。更に試験片をまっすぐに直し、焼付面に破折して付着している陶材の状態を観察した。
【0031】
上記(1)〜(6)の試験結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示す結果から分かるとおり、本発明の範囲では、鋳巣なく、熱膨張係数14.8×10-6-1以下を満足し、陶材の変色もなく、折り曲げ後の陶材も十分残存していた。よって、上記のごとく成分範囲を限定することで、優れた鋳造性および良好な焼付性を特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金を提供できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%からなる歯科陶材焼付用銀パラジウム合金。
【請求項2】
Ag:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%からなり、熱膨張係数が14.8×10-6-1以下であることを特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金。
【請求項3】
Ag:20〜30重量%,Pd:60〜70重量%,In:6〜8重量%,Ga:3〜5重量%,Sn:0.1〜6重量%に加え、Au,Pt,Rhのうち少なくとも1種から選ばれる元素を0.1〜1重量%まで、Ge,Zn,Sb,Siのうち少なくとも1種から選ばれる元素を0.1〜1重量%まで、Ir,Ru,W,Reのうち少なくとも1種から選ばれる元素を0.1〜1重量%まで含有するものからなり、熱膨張係数が14.8×10-6-1以下であることを特長とする歯科陶材焼付用銀パラジウム合金。

【公開番号】特開2007−63630(P2007−63630A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252336(P2005−252336)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】