説明

歯車の歯面の硬材精密機械加工方法

本発明は、協働して制御される少なくとも5つの軸と、追加的なツール軸(WA)とを有する装置(100)を用いて、歯車(10)の事前作製された歯面(11)を硬材精密機械加工するための方法に関する。本発明によれば、回転対称ツール(20.1)をツール軸(WA)の周りを回転させる(R1)ように、回転対称ツールを装置側面に移動させる。さらに、回転対称ツールの直線ライン領域が形成動作において歯面(11)に沿って接線方向に案内され、回転対称ツール(20.1)がツール軸(WA)の周りの回転(R1)により事前作製された歯面(11)の表面材料を研磨するように、協働して制御される5つの軸を作動させる。形成動作が一連の所与の移動ベクトル(E)に沿って行われる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の加工前歯面の硬材精密機械加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギアの製造方法において、通常、いわゆる軟材機械加工と硬材機械加工とは区別されている。硬材機械加工は、ワークピース(未処理加工対象物)を硬化させた後に機械加工されるものである。
【0003】
軟材機械加工の後に硬化させることにより、硬化処理に起因して変形が生じ得る。ギアなどについて、所望の形状、接触特性、および表面品位を実現するためには、多くの場合、硬化させた状態で加工仕上げされる。
【0004】
図1は、例示的なプロセスを概略的に示したフローチャート100である。歯車を機械加工するための一般的な具体例を示すものである。この具体例では、ブランク(処理途上物、ボックス101)から開始し、軟材機械加工ステップが行われる。たとえば、回転させることにより(ボックス102)、(中央に)ボア孔を形成する。ブランクを反転させて、さらに機械加工を行う(ボックス103)。反転させた後、回転させることにより、再び機械加工を行う(ボックス104)。これらのステップは、任意的なものであり、本願では、プリフォーム製造過程という。プリフォーム製造過程においては、他のステップヤ、択一的なステップを行ってもよい。プリフォーム製造過程が完了したとき、このワークピースは、ギア・ブランク(処理途上ギア)またはワークピース・ブランクK1という。ステップ102またはステップ102〜104は、たとえば、いわゆる事前機械加工装置またはいくつかの異なる装置を用いて行われる。
【0005】
通常、その後にギア切削加工が行われる。ギア切削加工において、荒歯切り加工ツールを用いて、適当な位置に適当な遊びをもってギア・ブランクK1の斜面に荒歯切りを行うことにより(ステップ105)、所定数の歯が形成される。その後、任意的なステップとして、仕上げツールを用いて歯面切削仕上げ処理が施され(ステップ106)、このとき歯面切削仕上げ装置による所定の精度で、隣接する歯面の間の間隔を所望の間隔にすることができる。しかしながら、(2つのステップ105,106ではなく)1回のみのステップを行う場合、歯面がずれて形成されることがある。
【0006】
ステップ105,106は、たとえば1つの同一の加工装置または加工ステーションで行ってもよい。この場合、ワークピース・ブランクK1は、把持し直す、または移動させる必要はない。
【0007】
図1に示す上述のステップは、軟材機械加工処理と呼ばれている。
【0008】
その後、通常、事前処理ワークピースK2には熱処理が施される(ボックス107)。一般に、この熱処理により、軟材機械加工処理において問題が生じることはない。この熱処理は、事前処理ワークピースK2を硬化させるものである。その後、上述の仕上げ加工が行われる(ボックス108)。この仕上げ加工は、本願においては硬材機械加工というが、歯車装置の硬材機械加工が施される。こうして歯車K3が完成する。
【0009】
硬材機械加工処理において、エンドミルあるいはボール状ヘッド状研磨機を多少用いて、事前加工した歯面上に沿って案内することにより歯面の表面仕上げを行う。このように表面仕上げされた表面を調査すると、所定の状況においては、表面上に明らかな処理痕により粗悪な接触パターンが形成されることが分かった。こうしたことは、特に、表面仕上げに要した時間が十分でなかった場合、そして/または表面仕上げすべき歯面上を表面仕上げ装置があまりにも速く移動した場合に生じる。また、たとえば、このように表面仕上げされた2つの歯車が歯車対として用いられたとき、流体潤滑の問題も生じ得る。
【0010】
したがって本発明は、より良好な歯面の接触パターンまたはより良好な表面特性を有し、かつ高い生産性の有する、事前加工された歯車の歯面の硬材機械加工方法を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願第EP 09169933.0号
【発明の概要】
【0012】
本発明の課題は、事前作製された歯面を硬材精密機械加工するための方法により解決される。この方法は、協働して制御される少なくとも5つの軸と、追加的なツール軸とを有する装置を用いて行われる。本発明によれば、好適にはエンドミルや研磨ロッドなどの回転対称ツールをツール軸の周りを回転するように配置する。回転対称ツールの包囲線の少なくとも1つの短い矩形領域が形成動作において歯面に沿って接線方向に案内され、回転対称ツールがツール軸の周りに回転することにより、事前作製された歯面の表面材料を研磨するように、協働して制御される5つの軸のうちの1つまたはそれ以上の軸の移動が制御される。
【0013】
1つの実施形態において、形成動作は、互いに対して若干湾曲した複数のトレース(痕跡)を有し、これらのトレースは、切削ヘッドを用いてホブ切削により歯面を形成するときに形成される、切削ヘッドのカッタの仮想的なトレースに対応または近似するものである。
【0014】
好適には、回転対称ツールはトレースに沿って案内され、こうしたトレースはいわゆる回転ISOラインに対応するか、または回転ISOラインに近似するものである。
【0015】
本発明に係る方法は、特に、硬化プロセスの後に、すなわち硬材状態にある歯面を機械加工するために考案されたものである。ここで採用されるツールは、これに応じて採用する必要がある。すなわち対応する方法は、硬材機械加工である。すでに荒削りした歯面を再度精密に加工仕上げするためのものであるので、この方法を硬材精密機械加工という。
【0016】
本発明に係る方法の最も重要な利点は、熱処理の結果として残存する硬化による変形を完全に取り除き、精密に加工されたベアリング特性および際立った表面品位を実現し、動作寿命に有用な効果を与え、こうして機械加工された歯車の回転の静寂性を確保できるという点にある。本発明を適用すると、本発明による機械加工された2つの歯車が互いに対をなして用いられた場合、流体潤滑に対する良好な結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】歯車を機械加工する際の一般的な手法を示すフローチャートである。
【図2A】歯車の歯面、および本発明に係る方法により案内されたツールを概略的に示す斜視図である。
【図2B】歯車および図2Aに示すツールを概略的に示す平面図である。
【図3】歯車の歯面、および本発明に係る方法により案内されたツールを概略的に示す正面図であって、ツールは、その回転軸が形成トレースに対して垂直となるように案内されている。
【図4】歯車の歯面、および本発明に係る方法により案内されたツールを概略的に示す正面図であって、回転軸が形成トレースとなす角度が90度より大きくなるように、ツールを押しつつ案内される状態を示すものである。
【図5】歯車の歯面、および本発明に係る方法により案内されたツールを概略的に示す正面図であって、回転軸が形成トレースとなす角度が90度より小さくなるように、ツールを引きつつ案内される状態を示すものである。
【図6】歯丈が異なる歯車、および本発明に係る方法により案内されたツールを概略的に示す正面図であって、ツールを引きつつ案内される状態を示すものである。
【図7A】一定の歯丈を有する歯車、および本発明に係る方法により案内されたツールを概略的に示す正面図であって、回転ISOラインが示されている。
【図7B】歯丈が異なる平歯状の円錐歯車を概略的に示す正面図であって、回転ISOラインが示されている。
【図8】本発明に係るツールの円筒形状ベース本体部の概略的な斜視図である。
【図9】本発明に係るツールの円錐台形状ベース本体部の概略的な斜視図である。
【図10】本発明に係る別のツールの円筒形状ベース本体部の概略図である。
【図11】平歯状の円錐歯車の突状歯面、および本発明に係る方法により案内されたツールを示す正面図であって、ツールが交差するライン上に案内されている。
【図12】本発明に係る方法が採用される全体的装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面および実施形態を参照して、本発明の詳細および利点について、以下説明する。
本願明細書において用いられる用語は、専門的な刊行物または特許文献でも用いられているものである。ただし、こうした用語は、本発明をより十分に理解するためだけのものである。本発明のアイデアおよび請求項の保護範囲は、こうした特定の用語に限定して解釈すべきではない。本発明は、さらなる労力を要することなく、他の装置の技術専門用語および/または他の専門分野に対して適用することができる。他の専門分野において、こうした用語は同様に用いることができる。
【0019】
本発明に係る方法は、事前処理された歯車10の歯面11を硬材精密機械加工する方法であって、この方法について図2Aおよび図2Bを参照して以下説明する。図2Aは、直線的に加工された歯車の歯面であって、すなわち歯面ラインが湾曲していない歯面の1つを簡略的に示す斜視図である。図2Aは、直線的な歯面形状を有する歯を相当に図案化したものである。実際において、こうした歯は、曲線のある歯面形状(たとえばインボリュート歯車形状)を有することが多い。この図面で見える歯面は、右手側歯面11を有する。歯は一定の高さ(歯丈)を有する。左手側(後方)歯面は隠れて見えない。図2aにおいて、好適には円柱状ミラー(圧延機)または研磨ロッドなどの(円筒形状のベース本体部を有する)回転対称ツール20.1が、ツール軸WAの周りを回転するように設置される。この回転は、たとえばスピンドルまたは装置100(図示せず)に設置されたモータMを用いて、回転対称ツールを回転させる。ここでは、きわめて簡略化してモータMを図示している。図2Aに示すように直線的な形状を有する特別な場合であり、ツール20.1は全体の長さにおいて歯面と接触している。一方、曲線を含む形状を有する通常の場合、ツール20.1は一部のみの領域において歯面と接触し、その一部領域の長さは歯面に対する設置状態に依存する。
【0020】
たとえば図12に示す装置100は、協働して制御される少なくとも5つの軸と、追加的なツール軸WAを有するものである。5つの軸のうちの1つまたはそれ以上は、たとえば装置100のNC制御Sにより協働して制御され、円筒状ベース本体部を有するツール20.1(円筒状ツール20.1ともいう。)の矩形包囲線(矩形長領域ともいう。)は、歯面11に沿った接線方向の形成動作(generation motion)により形成される。この点に関する詳細については、概略的な図3〜図6または図7A、図7Bに図示されている。形成動作は、図中、数多くのベクトルEにより表示されている。回転対称ツール20.1は、ツール軸WAの周りを回転しながら形成動作を行う。ツール軸WAの周りの回転R1に起因して、事前処理された歯面11から表面部材が研磨され、歯面11の機械加工仕上げが行われる。ツール20.1の少なくとも1つの矩形長領域が機械加工される歯面11の表面に接触するので、部分的または断面的な接触による機械加工が行われる。部分的または断面的な接触の寸法は、歯面に対する方向付け、先行する処理ステップ(たとえばホブによる歯面切削ステップ)、およびツールのベース本体部の形状に依存する。歯面の表面状態は、常に、事前機械加工ステップにより影響を受ける。歯面に沿った断面は、事前機械加工ステップに起因して、原則的に常に折れ線形状を有し、折れ線のそれぞれのポイントの距離は、送り出し量(切削ステップ時の回転送り出し量)に依存する。ただし、いわゆるプロファイル研磨(平面研磨、shape grinding)を用いる場合には、折れ線形状とはならない。
【0021】
図2Aおよび図2Bにおいて、形成動作はベクトルEで示され、ベクトルEは歯面11に対して斜めに延びている。連続的なベクトルEは、ツール20.1の現時点での移動方向および形成動作を示す。その他の形成動作の移動トレース(痕跡)は、破線ベクトルで示されている。
【0022】
原則的に、形成動作の移動トレースは、図2A、図2B、図3、図4、図5、図6、および図11で示すものに比して、互いに対し実質的により接近している(たとえば図7Aおよび図7Bから明らかなように、距離Aは実質的により短い。)。さらに形成動作の移動トレースの方向および形状は、回転ISOラインと同様のものであり、たとえば図7Aおよび図7Bに示すような回転装置を実現するものである。回転ISOラインは、同じ回転角度を用いて形成されたポイントの連結ラインに左右される。
【0023】
ツール20.1の移動方向が対応する場合、次のようになる。装置の設定が選択され、軸WAが理想的な歯面11に対して傾斜すると、ツール20.1の少なくとも短い矩形長領域が歯面に対して接線方向に形成される。円錐台状ツール20.2(すなわち図9に示すような円錐台形状を有するベース本体部を含むツール20.2)において、対応する異なる角度で設定が選択されることもある。ツール20.2を用いる場合、移動ライン角度は円錐台の包囲線21と円錐軸との間の角度に相当し、ツール軸WAに対応するものである。
【0024】
ツール20は、その矩形領域が直径に比して相対的に長いことが、特に好ましい。公的には、有効動作距離L1と半径Rの間の比が5より大きいこと(すなわちL/R>5)。すなわち、ツール20.1は、図8に示すような長くて細いベース本体部を有することが好ましい。ライン角度が十分に鋭角であるように設定されたとき、すなわち図4に示すようにツール20.1が相当に急斜に案内されるとき、こうしたツール20.1は、隣接する2つの歯の間の歯間ギャップにツールを挿入することができるという点において利点を有する。
【0025】
装置の設定に依存するが、隣接する形成動作トレースの間の距離A(図2A、図2B、図3、図4、図5、図6、および図11)は、距離Aより若干大きいものであってもよいし、小さいものであってもよい。好適には、直近の隣接する形成動作トレースの間の距離Aは、ベクトルEに対応するが、ツール20の包囲線の有効動作距離より小さいものである。図3に態様によれば、ツール20.1のベース本体部の包囲線が理想的な円筒形状を有し、包囲線の有効動作距離L1が円筒状ツール20.1の円柱の高さH1に相当する場合(すなわちL1=H1)である。距離Aは、0.2×L1〜0.8×L1であることが好ましい。このような仕様は、歯の形状を矩形とする場合や、歯面を矩形とする場合にのみ維持される。図3に示す実施例では、距離Aはおよそ0.25×L1である。
【0026】
包囲線の有効動作距離L1だけでなく、歯面ラインおよび歯面形状も同様に、距離Aに対して影響を与える。移動ライン角度W2は、距離Aを考慮して選択してもよい。好適には、以下のルールに従う。移動ライン角度W2が90度より大きい場合、または90度より小さい場合、移動ライン角度W2の正弦(sine)に比例して、距離Aの寸法を小さくする。たとえば、次のアプローチが適合する。A=L1×sin(W2)
【0027】
こうした数学的関係が成り立つとき、表面品位だけでなく、必要とされる機械加工時間に関する有利な結果をもたらす。ただし、こうしたルールは任意的なものである。距離Aを一定にして装置100を操作することも可能である。距離Aを歯面11上のツール20の現時点での位置の関数とすることも可能である。ベクトルEは、形成動作を示すものであるが、平行に延びる複数のラインであってもよい(距離Aはどこでも同一であってもよい)。ただし、複数のベクトルEのそれぞれは、曲線を有するもの(curvilinear)であってもよく、この場合、平行ではなくなる(回転ISOラインと同様のものとなる)。
【0028】
ツール20が装置100の複数の軸のそれぞれにおいて相互作用しながら移動する場合における3次元動作経路に沿った形成動作を特定する際に、歯の形状を検討する。その他、3次元空間において全体的に歯面を特徴付けるツールの歯面ライン、成形手法(course of the profile)、歯面の変形、およびその他の態様についても検討する。たとえば歯面が凸状形状を有する場合、3次元経路(ここではベクトルEで表示)は、装置の側面に隣接して配置しなければならない。たとえば異なる高さ(歯丈)を有する歯、螺旋状またはスパイラル状の歯面ギア歯車を形成するためには、隣接して配置することが必要となる。
【0029】
距離Aが小さいほど、より高い精度で、歯面11の表面の機械加工仕上げをすることができる。ただし、形成動作が接近して行うと、すなわち距離Aをできるだけ小さくすると、ツールは、表面に沿ってより長い距離においてより数多く形成動作を行うように案内しなければならない。より長い距離に沿ってより数多くツールを案内するということは、機械加工仕上げに要する時間が増大することを意味する。
【0030】
とりわけツール20のベース本体部の形状に依存するツール軸WAの移動ライン角度を規定することの他、機械加工すべき歯面11に対して(図3に示すように)垂直方向に、(図4に示すように)押しつつ進める方向に、または(図5に示すように)引きつつ進める方向に、ツール20を横断的に案内すべきか否かについて規定してもよい。図3に示すように垂直方向に移動ラインを取るとき、移動ライン角度W2は90度となり、図4に示すように押しつつ進める方向に移動ラインを取るとき、移動ライン角度W2は90度〜135度となり、図5に示すように引きつつ進める方向に移動ラインを取るとき、移動ライン角度W2は90度〜45度となる。
【0031】
これらの図面において、歯の根元の領域、すなわち歯根12の近くにおいて歯面がツール20で表面仕上げされない歯面の一部領域が破線14で示されている。破線14は歯根領域18に対する移行領域を示すものである。この移行領域の境界は不明瞭である。
【0032】
図2A、図2B、図3、図4、図5、図7A、および図11に示す歯はすべて一定の歯丈(歯の高さ)を有する。しかし本発明は、より複雑な形状を有する歯面についても問題なく適用することができる。上述のように、歯丈は、一般に、歯面の長手方向および断面(profile)方向に対して曲線をなす(curvilinear)ものである。したがって、これにベクトルEが適合するように、NC制御部Sをプログラムする必要がある。
【0033】
装置100は、ツール20,20.1,20.2を接線方向に移動させ、形成動作を実行させる制御信号を生成するNC制御部Sを有する。
【0034】
本発明は、ベベルギア(傘歯車)の歯面を機械加工仕上げする上で特に有用である。図7Aにおいて、歯丈が一定の平歯状ベベルギアの歯面11が図示されている。図7Bにおいて、歯丈が異なる平歯状ベベルギアの歯面11が図示されている。根元円錐角は頂部円錐角より小さい。上述した内容は、この場合にも同様に該当する。
【0035】
本発明は、歯丈が一定または異なる歯車に対して適用可能である。本発明は、平歯状、平歯状、または螺旋状の歯車に対して一般に適用することができる。
【0036】
本発明のとりわけ好適な実施形態において、形成動作は、互いに対して平行に延びる矩形または多少曲線をなすベクトルEに沿って実施される。こうしたベクトルEは、好適には、棒状カッターヘッドの仮想的なブレード移動トレースを近似するように計算で決定されるものであり(この場合ベクトルは必ずしも平行に延びる必要はない)、こうした移動トレースは、歯面切削治具(ホブ)を用いて対応する歯面を作製するときに形成される。歯面切削の際、棒状カッターヘッドは回転軸(カッターヘッド軸)の周りに回転移動するだけでなく、回転揺動軸の周りに案内されるものである。回転揺動軸は、仮想的なクラウン歯車のクラウンギア軸に対応し、対応するベベルギアの数学的定義に付随するものである。
【0037】
これらの表面は、ラインに沿って互いに接触する場合、数学的には、共役的な表面(conjugated surfaces)であるという。本発明によれば、ツール20は常に歯面11に沿って案内され、その歯面は装置100の複数の軸を適正に制御することにより形成され、回転対象ツール20の包囲線の少なくとも1つのそれぞれの短い領域(本願では有効動作距離L1という。)は、歯面のそれぞれの短い領域と対をなすものである。ツール20を歯面に沿って接線方向に案内することにより、共役性が担保される。この共役性により、ツール20の有効動作距離L1の範囲における切削機械加工仕上げが実現される。本発明により機械加工仕上げされる歯面11を微視的に見た場合、形成動作トレースのベクトルEに垂直な断面において矩形ラインとして上述した歯面が形成されている。上述のようにツール20を用いて機械加工した後、複数の直線的な線分断面および/または曲線を有する断面として構成される矩形ラインPが形成される。
【0038】
図10は、延伸円筒状ベース本体部を有する別のツール20.1の概略図である。ツール20.1は高さH1を有する。ツールのヘッド領域18が円錐台形状を有して収縮しているため、またはヘッド面取り部を有しているため、有効動作距離L1は、より短い。同様に円錐台形状のツール20.2は、当然に、有効動作距離L1より大きい高さH1を有する。
【0039】
本願において、回転対称ツール20という用語は、ツール20を定義するために用いられ、そのベース本体部は、円形円筒形状(たとえば図8参照)または円錐台形状(たとえば図9参照)を有する。円形円筒形状を有するツールは、図2A、図2B、図3、図4、図5、図6、図8、図10、および図11で図示されている。円錐台形状を有するツール20.2は、図9に示されている。図2A、図2B、図3、図4、図5、図6、図8、図10、および図11で示す実施形態の説明は、円錐台形状を有するツール20.2の円錐角度に応じてライン角度を選択する必要がある点を除き、円錐台形状を有するツールにも同様に適用することができる。
【0040】
歯面11がたとえばクラウン部(突起部)Bを有する場合には、互いに交差する複数のベクトルEに沿ってツール20を案内することが好ましい。この原理については図11に示されている。図11では、クラウン部Bを楕円で図示されている。ツール20を鏡面S1−S1に沿って反転させた後に、ベクトルEに交差する別のベクトルE*に沿って案内させてもよい。
【0041】
このようにすることにより、より良好な表面特性を得ることができるが、同時に機械加工仕上げに要する時間が増大する。
【0042】
本願において、回転対称ツールは、主に回転本体部(回転対称ベース本体部)を有するものをいい、その包囲線が矩形ライン21(母線という。)により形成されたものである。円錐台の代わりに、双曲面を用いてもよい。ツールの領域は、機械加工の際に機械加工されるワークピース上の一部において接線方向に少なくとも部分的に接触する。
【0043】
研磨ツール20は、異なる実施形態で用いられることが好ましい。本願では、研磨とは、金属の切削加工装置をいう。ツール20は、断片(chips)を削り取る切削エッジまたは切磋ブレードを有する研磨用として採用される切削ツールであってもよい。
【0044】
本発明によれば、とりわけ硬化材料の切削加工装置のために設計されたツール20を採用することが好ましい。
【0045】
断片を形成し、削り取るために必要な機械加工動作は、事前作製された歯面11に対してツール20を回転させることにより実現される。(ベクトルEの方向の)送り出し動作は、成形のために必要なものであるが、歯面11に対するツール20の相対的な移動により実施される。こうした相対的移動は、装置100のNC制御軸により実現される。
【0046】
本発明によれば、ツール20は、登り切削状態(climb cutting state)、すなわち送り出し方向とは逆の方向に切削する状態に維持することができる。登り切削状態において、回転ツール20のブレードエッジ、すなわち回転ツール20の周方向表面は、研磨材料で覆われるが、送り出し動作のベクトルEの方向に係合領域上を移動する。送り出しとは逆の方向に切削する場合、送り出し移動のベクトルEとは逆の方向に係合領域上を移動する。
【0047】
本発明によれば、回転駆動式の回転対称ツールが採用される。ここではツール軸WAは、事前作製された硬材ワークピースK2に対して、複数の軸の周りにおいて回転させることができる。(好適にはNC制御部である)相当する制御部は、対応する複数の軸の周りの移動を連動させるように構成されている。その結果、プログラムされた移動トレースに沿って、ツール20を案内することができる。
【0048】
図12は、本発明に係る全体的装置100の斜視図である。この装置100は、特に、大きなモジュール部品を有する歯車の精密機械仕上げのために設計されたものである。機械加工仕上げを行う歯車(図示せず)が、ワークピース・テーブル上に設置される。この装置100は、5つのNC制御軸を有する。さらにこの装置は、追加的なツール軸WAの周りに回転するツール20を含むスピンドル22を有する。図12に示す概略図において、ツール軸WAは垂直方向に延びている。ツール・スピンドル22は、水平軸の周りを回転移動し、垂直軸に平行に上下方向に変位することができる。装置100は、(直線的な双方向矢印により図示された)3つの直交軸と、回転テーブル101の第1の回転軸とを有する。追加的に、スピンドル22は、円錐ワッシャ23を用いた回転移動を介して旋回移動することができる。対応するインターフェイスの詳細については、本願出願人により2009年9月10日付けで出願された欧州特許出願第EP 09169933.0号に記載されている。
【符号の説明】
【0049】
10…歯車
11…歯面
12…歯根
13…歯先円
14…歯根領域への移行領域
15…断面ライン
16…機械加工仕上げ前の歯面ライン
17…移行マーカ
18…歯根領域
20…回転対称ツール
20.1…円筒状ツール
20.2…円錐台状ツール
21…包囲線(母線)
22…スピンドル
23…円錐ワッシャ
1…装置
A…距離
B…クラウン部(突起部)
E…形成動作経路を示す一連のベクトル(移動ベクトル)
E*…交差ベクトル
H1…歯丈(歯の高さ)
L1…有効動作距離
P…矩形ライン
R1…ツール軸WAの周りの回転
R…半径
S…NC制御部
M…モータ
WA…ツール軸
W2…移動ライン軸
S1−S1…鏡面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
協働して制御される少なくとも5つの軸と、追加的なツール軸(WA)とを有する装置(100)を用いて、歯車(10)の事前作製された歯面(11)を硬材精密機械加工するための方法であって、
・ツール軸(WA)の周りを回転させる(R1)ように、回転対称ツール(20:20.1,20.2)を配置するステップと、
・回転対称ツール(20:20.1,20.2)の包囲線の少なくとも1つの短い矩形領域が形成動作において歯面(11)に沿って接線方向に案内され、回転対称ツール(20:20.1,20.2)がツール軸(WA)の周りに回転すること(R1)により、事前作製された歯面(11)の表面材料を研磨するように、協働して制御される5つの軸の1つまたはそれ以上の軸の移動を制御するステップとを有し、
形成動作が一連の所与の移動ベクトル(E)に沿って行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
装置(100)の制御ユニット(S)は、回転対称ツール(20:20.1,20.2)が硬材精密機械加工する歯面(11)に対して接線方向に当接させ、形成動作を実行するように、制御信号を生成することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
回転対称ツール(20:20.1,20.2)は、円筒状ベース本体部を含むツール(20.1)であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法であって、
回転対称ツール(20:20.1,20.2)は、円錐台状ベース本体部を含むツール(20.2)であり、
回転対称ツール(20.2)の円錐角度に相当するツール軸(WA)のブレード角度を用いて、回転対称ツール(20.2)を歯面(11)に沿って接線方向に案内することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の方法であって、
形成動作は移動ベクトル(E)に沿って行われ、
移動ベクトル(E)は、互いに対して若干湾曲し、好適には平行であり、
移動ベクトル(E)は、仮想的なカッタ・トレースに対応または近似し、好適にはカッタ・ヘッドの回転ISOラインであり、
ホブ切削により対応する歯面(11)を形成したときに、カッタ・トレースが形成されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の方法であって、
ツール軸(WA)の周りの回転の回転速度を特定することにより、研磨する速度を設定するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1に記載の方法であって、
回転対称ツール(20:20.1,20.2)を歯面(11)に沿って案内し、送り出し動作の速度を特定することにより、生産性を設定するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1に記載の方法であって、
回転対称ツール(20:20.1,20.2)を歯面(11)に沿って案内し、送り出し動作の速度を特定し、隣接する移動ベクトル(E)の間の距離(A)を特定することにより、歯面(11)の表面品位を設定するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1に記載の方法であって、
回転対称ツール(20:20.1,20.2)を歯面(11)に沿って案内し、送り出し動作の速度を特定し、隣接する移動ベクトル(E)の間の距離(A)を特定することにより、機械加工精度を設定するステップを有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−508174(P2013−508174A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534614(P2012−534614)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064842
【国際公開番号】WO2011/047957
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(596043494)クリンゲルンベルク・アクチェンゲゼルシャフト (15)
【氏名又は名称原語表記】Klingelnberg AG