説明

歯間ブラシ

【課題】ブラシ毛のナイロン系樹脂に1%以下の配合率で銀系抗菌剤を配合することで、一般細菌のみならず歯周病原因菌の抗菌性に優れ、且つ使用後遅くとも10時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止できるブラシ毛を備えた歯間ブラシを提供する。
【解決手段】ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%含有するブラシ毛5が、Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛5の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般細菌のみならず歯周病原因菌の抗菌性に優れ、且つ使用後遅くとも10時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止するブラシ毛を有する歯間ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性に優れたブラシ毛を備えた歯間ブラシは、以下に示す特許文献が知られている。
特許文献1には、抗菌性のブラシ毛が記載されており、歯間ブラシ細菌やカビ等有害微生物が増殖したりすることのない歯間ブラシを提供することを目的として、歯間ブラシのブラシ毛に関する実施例、例えば、No.1のブラシ毛は、直径76μmのナイロンフィラメントに平均粒径1.5μmの銀ガラスを1.0重量%含有し、No.3のブラシ毛は、直径64μmのナイロンフィラメントに平均粒径1.5μmの抗菌性ゼオライトを1.0重量%含有するもので、そのブラシ毛の黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌性試験の生残菌数からみて、実施例No.1及び実施例No.3が抗菌効果を奏することが記載されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献2には歯間ブラシと同一のブラシの技術分野である化粧ブラシ用毛材が記載されており、その化粧ブラシ用毛材は、無機粉体である銀系抗菌剤を使用することで化粧ブラシ用毛材に抗菌性を付与することができることが示されており、該銀系抗菌剤としては、銀ゼオライト,銀ガラスや銀ジルコニウムなどが挙げられており、また、「ポリブチレンテレフタレートの100重量部と、平均粒子径が0.5〜1.0μmである無機粉体の5〜15重量部とを混合して溶融紡糸し、ついで得られたフィラメントを5〜6倍に延伸する。溶融紡糸されたフィラメントの表面には無機粉体が露出しており、このフィラメントを5〜6倍に延伸することで、無機粉体の埋没した部分が展張され、これによって、同部に凹みが形成される。斯くして、フィラメント表面に露出した無機粉体、及びこの無機粉体によって形成された凹みが、獣毛のキューティクルと同様の働きをなし、これによって、化粧料を掻き取る際の掻き取り性、掻き取った化粧料を保持する保持性や、化粧料を肌に転着させる転着性が、獣毛と同等のものとなる。」(段落[0017]〜[0019])と記載されている(特許文献2参照)。
【0004】
一方、歯の矯正歯科治療において、銀ゼオライトを用いて歯周病を引き起こす原因菌(以下、「歯周病原因菌」という。)に対する抗菌効果を検証した論文が発表されている。この論文には、矯正装置の装着により口腔内に常在する歯周病を引き起こす歯周病原因菌が増殖して歯周疾患を生ずることがあり、その対策として、グラスアイオノマー系セメント(成分;ガラス粉末とセメント)に配合率1%以上の銀ゼオライトを配合することで、歯周病原因菌(Streptococcus mutans.NCTC10449.及びActinamyces viscosusATCC15987 )の生育が抑制されることが記載されている(非特許文献1)。更に、他の論文には、歯周病原因菌の14種類に対して銀イオンが抗菌効果を有することが発表されている(非特許文献2)。
【0005】
ところで、繊維製品の抗菌性試験方法であるJIS L1902は、指定の試験菌である黄色ブドウ球菌、大腸菌の懸濁液(初発菌数(10CFU/ml))を接種し、37℃で18時間培養した後に試験菌を洗い出して生残菌数(CFU/ml)を測定することで、抗菌性を施された繊維製品の区別化ができる時間として18時間を定めている。しかしながら、歯垢等が付着した歯間ブラシのブラシ毛を放置すると、歯垢等の内で細菌が増殖して不衛生であるので、特許文献1の歯間ブラシのブラシ毛のように、ナイロンフィラメントに銀系抗菌剤を1.0重量%含有させることで増殖を防止しているが、歯間ブラシを良く使用するユーザー、例えば、朝、晩の2回使用するユーザーは、朝の使用後10時間前後経った後で晩に歯間ブラシを使用することになり、朝、昼、晩の3回利用するユーザーは、朝の使用後6時間前後経った後で昼に歯間ブラシを利用し、晩も同様に6時間前後経った後で歯間ブラシを使用することになる。
このようなユーザーの歯間ブラシの利用状況を鑑みると、使用後遅くとも10時間前後でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4097311号公報
【特許文献2】特開2008−109990号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】広島大学歯学雑誌.第31巻、第141、153-157、1999
【非特許文献2】Dental Materials、T16、(2000)452-455
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の歯間ブラシにみられるように、ナイロン樹脂等に配合率1%の銀ガラス又は抗菌性ゼオライトを含有させることで、黄色ブドウ球菌及び大腸菌を殺菌することは知られているが、1%以下の配合率で殺菌効果を奏する歯間ブラシは知られていない。また、上記特許文献2の化粧ブラシ用毛材は、化粧ブラシ用毛材に抗菌性を付与する抗菌剤として銀系の無機抗菌剤が挙げられているだけで、該化粧ブラシ用毛材に配合する具体的な割合と具体的な抗菌効果が記載されていない。そして、上記非特許文献1には、配合率1%以上の銀ゼオライトを配合することで、歯周病原因菌の生育が抑制されることが開示されているが、歯間ブラシに1%以下の配合率で銀ゼオライトを配合することで歯周病原因菌の生育が抑制されることは開示されていない。
【0009】
上記の文献にみられるように、ブラシ毛は抗菌効果を発揮させるために樹脂に対して1%以上の配合率で抗菌剤を配合することが一般的に行われている。しかし、銀系抗菌剤は重量あたりの価格が高価なこと、配合を増やすことにより着色しやすいことから、銀イオン調整剤を配合する割合を低減したいとの強い要求があるが、1.0重量%以下の割合では充分な抗菌効果が得られ難いので、該銀系抗菌剤の配合割合を1.0重量%以下にすることができない状況にある。
また、上記ユーザーの歯間ブラシの使用状況に応じるために、使用後遅くとも10時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止することが望まれているが、そのような歯間ブラシは知られていないし生産されていない。
【0010】
それ故に、本発明の課題は、ブラシ毛のナイロン系樹脂に1%以下の配合率で銀系抗菌剤を配合することで、一般細菌のみならず歯周病原因菌の抗菌性に優れ、且つ使用後遅くとも10時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止できるブラシ毛を備えた歯間ブラシを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究に努めた結果、本発明の歯間ブラシを完成したものである。
即ち、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の歯間ブラシは、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%含有するブラシ毛が、該Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値であることを特徴とする。
同様に、請求項2に係る発明の歯間ブラシは、前記Eガラス粉末を3.0重量%、前記銀系抗菌剤を0.2重量%含有するブラシ毛が、前記ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする。
請求項3に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤が0.2〜0.9重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
請求項4に係る発明の歯間ブラシは、前記ブラシ毛の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値が歯周病原因菌であるミュータンス菌及びアクチノマイセス菌の生残菌数の対数の値であることを特徴とする。
請求項5に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤が銀ガラス又は銀ゼオライトであることを特徴とする。
請求項6に係る発明の歯間ブラシは、前記ナイロン系樹脂がナイロン610又はナイロン612であることを特徴とする。
請求項7に係る発明の歯間ブラシは、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、
前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%含有するブラシ毛が、該Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の抗菌活性値と同等又はそれ以上の値であることを特徴とする。
請求項8に係る発明の歯間ブラシは、前記Eガラス粉末を3.0重量%、前記銀系抗菌剤を0.2重量%含有するブラシ毛が、前記ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等であることを特徴とする。
請求項9に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤が0.2〜0.9重量%の範囲で含有されていることを特徴とする。
請求項10に係る発明の歯間ブラシは、前記ブラシ毛の抗菌活性値と同等又はそれ以上の値が一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値の値であることを特徴とする。
請求項11に係る発明の歯間ブラシは、前記銀系抗菌剤が銀ガラス又は銀ゼオライトであることを特徴とする。
請求項12に係る発明の歯間ブラシは、前記ナイロン系樹脂がナイロン610又はナイロン612であることを特徴とする。
請求項13に係る発明の歯間ブラシは、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が、金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、前記ブラシ毛が前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末が少なくとも3.0重量%含有され、前記銀系抗菌剤が少なくとも0.2重量%含有されており、前記ブラシ毛の表面に凸状部と平坦な表面部が存在することを特徴とする。
請求項14に係る発明の歯間ブラシは、前記Eガラス粉末を3.0重量%、前記銀系抗菌剤を0.2重量%含有するブラシ毛が、前記ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等であることを特徴とする。
請求項15に係る発明の歯間ブラシは、前記ブラシ毛の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値が歯周病原因菌であるミュータンス菌及びアクチノマイセス菌の上記生残菌数の対数の値であることを特徴とする。
請求項16に係る発明の歯間ブラシは、前記ブラシ毛の抗菌活性値と同等又はそれ以上の値が一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値の値であることを特徴とする。
請求項17に係る発明の歯間ブラシは、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、
前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.5重量%含有するブラシ毛が、使用後遅くとも10時間で上記Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする。
請求項18に係る発明の歯間ブラシは、銀系抗菌剤を0.6〜0.9重量%の範囲で含有するブラシ毛が、使用後6時間で上記Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯間ブラシは、そのブラシ毛がナイロン系樹脂にEガラス粉末を含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%含有することで、銀系抗菌剤1.0重量%含有する従来のブラシ毛、即ち、従来のブラシ毛の1/5の配合量で同等又はそれ以上の値の抗菌効果が得られるから、従来の銀系抗菌剤の1/5の価格で抗菌性のブラシ毛が作製できるので、低廉な価格で生産が可能となった。
そして、本発明の歯間ブラシは、一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対してだけでなく、歯周病原因菌であるミュータンス菌及びアクチノマイセス菌に対しても有効であるから、ユーザーが歯周病原因菌の増加を予防したいという強い要求に充分に対応できるものである。
【0013】
また、本発明の歯間ブラシは、Eガラス粉末を6.0重量%以上含有し、銀系抗菌剤を0.5重量%以上含有することで、一般細菌及び歯周病原因菌の生残菌数をゼロとすることができる。
更に、本発明の歯間ブラシは、Eガラス粉末及び銀系抗菌剤の含有量に比例して抗菌効果を維持する期間が延びるので、Eガラス粉末を最大でも9.0重量%含有させ、銀系抗菌剤を最大でも0.9重量%含有させれば、長期にわたって抗菌効果を維持できるブラシ毛を作製することが期待できる。
ユーザーの歯間ブラシの利用状況に応じるために、使用後遅くとも10時間又は6時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止したい要求に対して、銀系抗菌剤を少なくとも0.5重量%含有することで、遅くとも10時間前後で細菌の増殖を防止でき、銀系抗菌剤を0.6〜0.9重量%の範囲で含有することで、遅くとも6時間前後で細菌の増殖を防止できるので、ブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を早期に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】歯間ブラシの一例を示す平面図である。
【図2】本発明のブラシ毛の素材である熱可塑性樹脂にEガラス粉末及び銀ガラスを含有したペレットの成形に用いられる一つの押出機の縦断面図である。
【図3】ナイロン系樹脂のブラシ毛をレーザー顕微鏡で撮影した外観形状の写真である。
【図4】ナイロン系樹脂に8重量%Eガラス粉末及び0.3重量%銀ガラスを含有のブラシ毛をレーザー顕微鏡で撮影した外観形状の写真である。
【図5】銀ガラスの配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図6】銀ガラスの配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図7】銀ガラスの配合率とミュータンス菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図8】銀ガラスの配合率とアクチノマイセス菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図9】銀ゼオライトの配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図10】銀ゼオライトの配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図11】銀ゼオライトの配合率とミュータンス菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図12】銀ゼオライトの配合率とアクチノマイセス菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
【図13】培養時間を横軸に、生残菌数の対数を縦軸にして、表7に示す値をプロットして得られた点を近似の直線式で表したグラフである。
【図14】溶融紡糸した後の未延伸フィラメントの断面を推定して示した模式図である。
【図15】溶融紡糸した後に温度20〜60℃で冷却された未延伸フィラメントの断面を推定して示した模式図である。
【図16】未延伸フィラメントを4〜6倍に引き延ばした延伸フィラメントの断面を推定して示した模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の最良形態を説明する。なお、本発明は以下の実施の最良形態によって限定されるものではない。
図1は本発明の歯間ブラシの一つの実施の最良形態を示す平面図である。
図1に示されるように、歯間ブラシ1は、ブラシ毛5を備えたブラシ部2と歯間ブラシ1を把持する把持部4とからなり、詳細には、該ブラシ部2は、Eガラス粉末及び銀系抗菌剤が含有されるブラシ毛5が、ステンレス製の金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部2、及び該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部3からなり、該把持部4は、ワイヤー部3の所定長さの末端が熱可塑性樹脂からなる把持部4に埋設されている。把持部4の円錐状の頭部4aからは、直線状ワイヤー部3を包み込んだ円筒部6が突設しており、胴部4bと尾部4cとの間には、指でつまみやすい形状の湾曲形状のつまみ部7が設けられている。胴部4bと尾部4cの外径は同一となっている。従って、スリーブ(図示なし)にブラシ部2方向から挿入し、胴部4bを嵌合することで歯間ブラシ1を保管状態とすることができ、尾部4cをスリーブに嵌合させることで、尾部4cを延長した状態で歯間ブラシを使用することができるものである。
【0016】
ブラシ毛に用いる熱可塑性樹脂としては、ナイロン系樹脂のナイロン610又はナイロン612が使用でき、そのブラシ毛に含有するガラス粉末は、平均粒径が5μmで熱伝導率の大きいEガラスを3.0〜9.0重量%の割合で含有させることが好ましく、形状が球状の球状ガラスが好ましいが破砕粒子であっても使用することができ、シラン処理を施したものを使用する。その含有率が3.0重量%以下は抗菌性試験による生残菌数が10以上になり抗菌性が低くて好ましくなく、9.0重量%以上は延伸工程で糸切れを生ずるので好ましくない。
そして、銀系抗菌剤としては銀ガラス又は銀ゼオライトを0.2〜0.9重量%の割合で含有させることが好ましい。銀系抗菌剤は0.2重量%未満では、生残菌数がLog(CFU/ml)で3以下が得られ難く充分な抗菌効果が発揮できず、また、0.9重量%を超えると銀系抗菌剤は重量あたりの価格が高価なこと、含有量を増やすことにより着色しやすいことから好ましくない。
【0017】
(ブラシ毛用ペレット)
次に、本発明のブラシ毛の素材である、ナイロン系樹脂にEガラス粉末及び銀ガラスを含有したペレットの製造方法を説明する。
図2に示す2種類のホッパーを備える押出機を用いて上記ペレットを製造する。
符号20は押出機、符号21はモーター、符号22は減速機、符号23はスクリュー、符号24はヒーター・ブロワー、符号25スクリューねじ山、符号26はブレーカープレート、符号27はノズルダイ、符号28は第1ホッパー、符号28′はペレット、符号29は第2ホッパー、符号29′はEガラス粉末及び銀ガラスを表している。
前記押出機20は、供給材料であるナイロン系樹脂のペレット28′と、Eガラス粉末及び銀ガラス29′を投入する2個のホッパーが備えられている。図2に示す押出機20のホッパーを左側から順に第1ホッパー28、第2ホッパー29と称し、第1ホッパー28にはナイロン系樹脂のペレット28′が投入され、押出機の中間部付近に設けられている第2ホッパー29には、Eガラス粉末及び銀ガラス29′が投入される。第2ホッパー29を配置する位置は、第1ホッパー28よりスクリューバレル内に供給されたペレット28′が、スクリュー23による混練搬送に伴って溶融状態にある領域に設けてある。
【0018】
決められたナイロン系樹脂、Eガラス粉末及び銀ガラスの配合率にしたがって、供給するペレット28′の重量を計量して第1ホッパー28内に投入し、スクリュー23による混練搬送によって送られたペレット28′がヒーターにより溶融状態になる位置、即ち、第2ホッパー29が配置されている位置で、供給する重量が計量されたEガラス粉末及び銀ガラス29′を第2ホッパー29内に投入する。溶融樹脂中に投入されたEガラス粉末及び銀ガラス29′が、混練されながら押出されてEガラス粉末及び銀ガラス29′を含有した成形物が形成されて、その後に切断されてEガラス粉末及び銀ガラス29′を含有したペレットが得られる。前記ヒーターの温度は使用されるナイロン系樹脂の融点に応じて決められる。なお、図2の押出機は、従来の押出機と比べてホッパーの構造を除いて他の構造は同じであるので、図2の押出機の構造を説明することは省略する。
上記ブラシ毛用ペレットの製造方法では、ナイロン系樹脂にEガラス粉末及び銀ガラスを配合させているが、銀ガラス代えて銀ゼオライトを配合させても良い。
【0019】
(ブラシ毛の紡糸方法)
次に、ブラシ毛の紡糸方法を説明する。
ブラシ毛の製造方法は、ナイロン系樹脂に、平均粒径5μmの3.0〜9.0重量%の範囲のEガラス粉末を、そして、粒径2〜5μmの0.2〜0.9重量%の範囲の銀系抗菌剤を配合した上記ブラシ毛用ペレットを用いれば、歯ブラシ等のフィラメントを製造する従来から用いられている製造方法で製造することができる。その製造方法の一例として、例えば、押出機でナイロン系樹脂に、平均粒径5μmの3.0〜9.0重量%の範囲のEガラス粉末と、粒径2〜5μmの0.2〜0.9重量%の範囲の銀系抗菌剤を配合したペレットを溶融して、口径が1mmで30個の孔を有する紡糸口金より紡糸して、延伸倍率4〜5倍として直径が65のフィラメントを作製する。一般的には、歯間ブラシのブラシ毛は65μmが好ましい。
【0020】
(巻線ブラシ)
前記フィラメントを直径0.05mmのステンレス製の金属ワイヤーに20本程度のブラシ毛5の撚込数を撚り込んで、ブラシ部2の長さを10mm程度に作成し、そして、金属ワイヤーが撚り込まれた直線状ワイヤー部3の長さを12mm程度に作成して、その末端の10mm程度の長さの直線状ワイヤー部3は、把持部4に埋設するために作成される。ブラシ毛の長さを均一に揃え、先端を細くカットする等の調節を行う。
上記把持部に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリアミド樹脂が使用できる。
【0021】
(ブラシ毛の外観形状)
図3及び図4は、上記製造方法で作製したブランク、Eガラス粉末及び銀ガラス含有のブラシ毛をカラー3Dレーザー顕微鏡(GenerationIIVK−8700(株式会社キーエンス社製))を使用して2000倍で撮影した写真である。具体的には、図3はブランクのナイロン612のブラシ毛の外観形状の写真で、図4はナイロン612に8重量%Eガラス粉末及び0.3重量%銀ガラスを含有したブラシ毛の外観形状の写真である。
【0022】
図3のブランクのブラシ毛材の表面は、平坦ではあるが流出方向に紡糸口金の接触で生じた線上の痕跡をわずかに示している。図4のEガラス粉末及び銀ガラス含有のブラシ毛の表面は、Eガラス粉末が突出した凸状部と平坦な表面部が形成され、流出方向に紡糸口金に該Eガラス粉末及び/又は銀ガラスが接触して生じた線上の痕跡を示している。
【0023】
(一般細菌の抗菌性試験)
一般細菌の抗菌性試験は、JIS L1902(繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果(定量試験))に基づきフィラメントの抗菌試験を行って測定した。試料はフィラメントの異なる3箇所から0.4gのフィラメントを採取して試料とし、指定の試験菌である黄色ブドウ球菌、大腸菌の液(初発菌数(CFU/ml))を接種し、37℃で18時間培養した後に試験菌を洗い出して生残菌数(CFU/ml)を測定して、その平均値を算出した。測定した無加工試料の18時間後の生残菌数(CFU/ml)及び抗菌加工した実施例の18時間後の生残菌数(CFU/ml)を、次式に代入して抗菌活性値(log(CFU/ml))を求めた。抗菌活性値が2.0以上であれば抗菌性が有効であるとされている。なお、CFU(colony forming unit)はコロニー形成単位を表している。
R=log(B/C) (1)
上記式(1)のRは抗菌活性値で、Bは無加工試験片の18時間後の生残菌数で、Cは実施例試験片の18時間後の生残菌数である。
その測定して得られた一般細菌の抗菌性の測定結果を表1及び表3に示す。なお、黄色ブドウ球菌の初発菌数は1.3E+5(CFU/ml)で、大腸菌の発菌数は2.8E+5(CFU/ml)である。
【0024】
(歯周病原因菌の抗菌性)
歯周病原因菌として、Streptococcus mutans(S.lutans)(NCTC 10449)(以下、「ミュータンス菌」という。)及びActinomyces viscosus(A.viscosus)(ATCC15987)(以下、「アクチノマイセス菌」という。)を用いた。JIS L1902 に準拠して抗菌試験を行い、培養時間は48時問とした。0.4gのフィラメントを採取して試料とした。
歯周病原因菌の培地はBHI培地(ブレンハートィンフュージョン;DifcoCo.製品)の液体培地を用い、N80%、H 10%.CO 1 0 %。の嫌気雰囲気で35±1°Cで48時問培養した。試験菌を洗い出して生残菌数を測定し、その測定結果を対数Log(CFU/ml)で示して、比較例1又は比較例2と比べて抗菌性の有効性を判断した。
その測定して得られた歯周病原因菌の抗菌性の測定結果を表2及び表4に示す。
【実施例】
【0025】
実施例としてNy612にEガラス粉末と銀ガラスからなるフィラメントの実施例1を、そして、Ny612にEガラス粉末と銀ゼオライトからなるフィラメントの実施例2を作製した。以下に実施例1及び2のフィラメントの製造方法を説明する。
(実施例1)
ペレタイザーにNy612(ザイテル158L;デュポン株式会社製品)を第1ホッパーに投入して250℃で溶融し、第2ホッパーから平均粒径5μmのEガラス粉末(アミノシラン処理品)と、2〜5μmの銀ガラス(ミリオンガード721−ST;興亜硝子株式会社製品)を投入して、均一に混練し押出してガラス・抗菌剤含有のペレットを作製し、そのペレットを紡糸機のホッパーに投入して直径65μmのフィラメントを紡糸した。表1に示すように、実施例は、上記Eガラス粉末が3、6、8重量%の3水準のフィラメント、上記銀ガラスが0.2、0.3、0.5重量%の3水準のフィラメントを調整した。即ち、実施例は、Eガラス粉末が3、6、8重量%で銀ガラスが0.2重量%のフィラメントを実施例1−1として3種類を、Eガラス粉末が3、6、8重量%で銀ガラスが0.3重量%のフィラメントを実施例1−2として3種類を、Eガラス粉末が3、6、8重量%で銀ガラスが0.5重量%のフィラメントを実施例1−3として3種類を調整した。そして、比較例は、Eガラス粉末が0、3、6、8重量%で銀ガラスが0%のフィラメントを比較例1として4種類、Eガラス粉末が0で銀ガラスが0.2重量%のフィラメントを比較例1−1として1種類、Eガラス粉末が0で銀ガラスが0.3重量%のフィラメントを比較例1−2として1種類、Eガラス粉末が0で銀ガラスが0.5重量%のフィラメントを比較例1−3として1種類、Eガラス粉末が0で銀ガラスが1.0重量%のフィラメントを比較例1’として1種類のフィラメントを調整した。
実施例1−1、1−2及び1−3、比較例1、比較例1−1、1−2、1−3及び比較例1’のEガラス粉末と銀ガラスの配合割合を以下の一般細菌に関する表1、及び歯周病原因菌に関する表2に示す。なお、ミュータンス菌の初発菌数は1.3E+5(CFU/ml)で、アクチノマイセス菌の発菌数は2.8E+5(CFU/ml)である。
【0026】
【表1】

【表2】

【0027】
一般細菌に関する表1の第1行目の欄は、左から1番目がNy612の実施例と比較例の上記した水準の種類を示し、2番目が各種類のEガラス粉末の配合率(重量%)を示し、3番目が各種類の銀ガラスの配合率(重量%)を示したものである。4番目が黄色ブドウ球菌の生残菌数を示すもので、例えば、「8.2E+05」は8.2×10個/mlを意味している。5番目が黄色ブドウ球菌の生残菌数を対数で示したものである。6番目は黄色ブドウ球菌の抗菌活性値を示し、7番目は大腸菌の生残菌数を示し、8番目は大腸菌の生残菌数を対数で示し、9番目は大腸菌の抗菌活性値を示したものである。歯周病原因菌に関する表2は、上記一般細菌に関する表1の6番目と9番目の抗菌活性値が除かれている以外は、同じ内容を示しているので説明を省略する。
【0028】
(実施例2)
ペレタイザーにNy612(ザイテル158L;デュポン株式会社製品)のペレットを第1ホッパーに投入して250℃で溶融し、この溶融樹脂中に第2ホッパーから平均粒径5μmのEガラス粉末(アミノシラン処理品)と、2〜5μmの銀ゼオライト(ゼオミックスAJ10D;シナネンゼオミックス株式会社製品)を投入して、均一に混練し押出してガラス・抗菌剤含有のペレットを作製し、そのペレットを紡糸機のホッパーに投入して直径65μmのフィラメントを紡糸した。表3に示すように、実施例は、上記Eガラス粉末が3、6、8重量%の3水準のフィラメント、上記銀ゼオライトが0.2、0.3、0.5重量%の3水準のフィラメントを調整した。即ち、実施例は、Eガラス粉末が3、6、8重量%で銀ガラスが0.2重量%のフィラメントを実施例2−1として3種類を、Eガラス粉末が3、6、8重量%で銀ゼオライトが0.3重量%のフィラメントを実施例2−2として3種類を、Eガラス粉末が3、6、8重量%で銀ゼオライトが0.5重量%のフィラメントを実施例2−3として3種類を調整した。そして、比較例は、Eガラス粉末が0、3、6、8重量%で銀ゼオライトが0%のフィラメントを比較例2として4種類、Eガラス粉末が0で銀ゼオライトが0.2重量%のフィラメントを比較例2−1として1種類、Eガラス粉末が0で銀ゼオライトが0.3重量%のフィラメントを比較例2−2として1種類、Eガラス粉末が0で銀ゼオライトが0.5重量%のフィラメントを比較例2−3として1種類、Eガラス粉末が0で銀ゼオライトが1.0重量%のフィラメントを比較例2′として1種類を調整した。
実施例2−1、2−2及び2−3、比較例1、比較例2−1、2−2、2−3及び比較例2′のEガラス粉末と銀ゼオライトの配合割合を以下の一般細菌の表3及び歯周病原因菌の表4に示す。
【0029】
【表3】

【表4】

【0030】
図5は、一般細菌の表1に示されたNy612に配合された銀ガラスの配合率と黄色ブドウ球菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフであり、図6は、一般細菌の表1に示されたNy612に配合された銀ガラスの配合率と大腸菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。
図7は、歯周病原因菌の表2に示されたNy612に配合された銀ガラスの配合率とミュータンス菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフであり、図8は、歯周病原因菌の表2に示されたNy612に配合された銀ガラスの配合率とアクチノマイセス菌の生残菌数Log(CFU/ml)の関係を示すグラフである。以下、図9〜図12は、同様に、一般細菌の表3と歯周病原因菌の表4に示された上記の関係を示すグラフである。
【0031】
(抗菌効果)
図5〜図12のグラフの実施例1−1及び2−1、即ち、Ny612にEガラス粉末を3.0、6.0、8.0重量%の配合率で配合し、銀系抗菌剤を0.2重量%の配合率で配合するフィラメントは、Eガラス粉末の配合率が増加するのに伴い、上記黄色ブドウ球菌、大腸菌、ミュータンス菌及びアクチノマイセス菌の生残菌数Log(CFU/ml)が漸減している。そして、一般細菌である黄色ブドウ球菌、大腸菌の抗菌活性値は2.2又はそれ以上の値を示している。このことは、ナイロン系樹脂にEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で配合し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%を配合することで、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1重量%で配合(Eガラス粉末の配合なし)する、従来のブラシ毛が有する抗菌効果の値と同等又はそれ以上の値のものであることを示している。
【0032】
図5及び図9の黄色ブドウ球菌のグラフ、そして、図6及び図10の大腸菌のグラフから、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の各実施例は、Eガラス粉末の含有率の増加に伴って、また、銀ガラス又は銀ゼオライトの含有率の増加に伴ってLog(CFU/ml)が漸減していること、そして、表1及び表3の何れの各実施例の抗菌活性値も2.2以上の値であることから、抗菌効果を発揮していることは明らかであり、特に、実施例1−1及び実施例2−1のEガラス粉末が3.0重量%含有され、銀系抗菌剤が0.2重量%含有されたフィラメントは、黄色ブドウ球菌の菌活性値が2.2で、大腸菌の抗菌活性値が4.1又は4.3の値であるから、ナイロン612にEガラス粉末が少なくとも3.0重量%含有され、銀系抗菌剤が少なくとも0.2重量%含有されたフィラメントであれば、抗菌効果が得られることが判った。
【0033】
そして、ナイロン612にEガラス粉末が0%、銀系抗菌剤が1.0重量%含有された比較例(実施例1及び2の比較例)は、黄色ブドウ球菌の抗菌活性値が2.2で、大腸菌の抗菌活性値が4.0であるのに対して、実施例1−1及び実施例2−1は、その黄色ブドウ球菌の菌活性値が2.2で、大腸菌の抗菌活性値が4.1又は4.3の値であるから、同等の抗菌効果を示していることから、ナイロン612にEガラス粉末を少なくとも3.0重量%含有させ、銀系抗菌剤1.0重量%の1/5である0.2重量%を少なくとも含有させれば、同等又は同等以上の抗菌効果が得られることが判った。
【0034】
歯周病原因菌に関する表2及び4、そして、歯周病原因菌に関する図7及び8、図11及び12からみて、ナイロン612にEガラス粉末が6.0重量%以上含有され、銀系抗菌剤が0.5重量%以上含有された実施例1−3及び2−3は、一般細菌及び歯周病原因菌の生残菌数をゼロとする優れた抗菌効果を有することを示している。
【0035】
ところで、上述したように、試料はフィラメントの異なる3箇所から0.4gのフィラメントを採取し、指定の試験菌である黄色ブドウ球菌、大腸菌を18時間培養した後に試験菌を洗い出して生残菌数(CFU/ml)を測定して、その平均値を算出して生残菌数(CFU/ml)として抗菌結果を得た旨記載したが、実施例の生残菌数の3箇所の各値は、比較例の生残菌数の3箇所の各値と比較して、バラツキが小さいことに気づき、そこで上記実施例1−1、比較例1′と上記実施例2−1、比較例2′の抗菌フィラメントの異なる5箇所から試料を採取し、実施例と比較例の5箇所の生残菌数を測定して得られた各値の標準偏差値を求めた。なお、標準偏差値はσ=√((nΣx2−(Σx)2/n(nー1)))(n=試料数、x=生残菌数)の式に得られた生残菌数を代入して計算した。その計算結果を表5及び表6に示す。なお、黄色ブドウ球菌の初発菌数は1.3E+5(CFU/ml)で、大腸菌の発菌数は2.8E+5(CFU/ml)である。
【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
表5及び表6からみて、Eガラス粉末を添加した実施例1−1の黄色ブドウ球菌及び大腸菌の標準偏差値が0.2、0.1であるのに対して、比較例1′のそれらの標準偏差値が1.1、1.0であり、実施例2−1の黄色ブドウ球菌及び大腸菌の標準偏差値が0.1、0.1であるのに対して、比較例2′のそれらの標準偏差値が1.0、1.0であることから、実施例の標準偏差値のほうが比較例の標準偏差値よりはるかに小さいことは明らかである。実施例の標準偏差値が小さい、即ちバラツキがないことは、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤と一緒にEガラス粉末を配合して紡糸したフィラメントは、その表面に常に抗菌効果を発揮できる状態で銀系抗菌剤が存在することを意味している。
【0039】
(ブラシ毛の抗菌効果の時間特性)
銀系抗菌剤が1.0重量%含有された上記比較例1を比較例とし、培養時間0、1、8、12及び18時間の各時間における大腸菌の生残菌数の測定を行った。Eガラス粉末が3.0重量%含有され、銀ガラスが0.2重量%含有された上記実施例1−1を実施例3とし、Eガラス粉末が6.0重量%含有され、銀ガラスが0.2重量%含有された上記実施例1−1を実施例4とし、Eガラス粉末が3.0重量%含有され、銀ガラスが0.5重量%含有された上記実施例1−3を実施例5とし、Eガラス粉末が8.0重量%含有され、銀ガラスが0.5重量%含有された上記実施例1−3を実施例6として、培養時間0、1、8、12及び18時間の各時間における大腸菌の生残菌数の測定を行った。その測定結果を表7に示す。
【0040】
図13は、表7の培養時間を横軸に、生残菌数の対数を縦軸にして、表7に示す値をプロットして得られた点を近似の直線式で表したグラフである。図13の上から比較例、実施例3、4,5,6の5種類のグラフを一次方程式で示して表してある。比較例の18時間後の大腸菌の生残菌数の対数は3.7であるから、実施例4のy = -0.1708x + 5.619、実施例5のy = -0.2467x + 5.6233、実施例6のy = -0.2552x + 5.4512の各式のyに3.7を代入してxを求めると、実施例4のxは11.24で約11時間、実施例5のxは7.80で約8時間、実施例6のxは6.86で約7時間である。この計算結果から、使用後遅くとも10時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止するには、銀系抗菌剤を少なくとも0.5重量%含有させれば可能であり、使用後遅くとも6時間で細菌の増殖を防止するには、銀系抗菌剤を0.6重量%含有させれば可能である。
【表7】

【0041】
次に、表1〜表4の一般細菌及び歯周病原因菌の抗菌性の測定結果は、比較例1又は2の100%Ny612に銀ガラス又は銀ゼオライトを配合する割合、1.0重量%に対して、実施例1−1又は2−1の銀ガラスを配合する割合、0.2重量%は、上記1.0重量%の1/5の割合で同等の抗菌効果を奏することを示していることは既述した通りである。また、図4のナイロン612に8重量%のEガラス及び0.3重量%の銀ガラスが含有されている延伸フィラメントの外観形状の写真は、その表面に凸状部が形成されていることを示している。このように、上記延伸フィラメントに含有されている銀ガラスが、従来の1/5の配合割合で同等の抗菌作用が発揮できる要因、そして、上記延伸フィラメントの表面に窪みではなく凸状部が形成できる要因を以下に詳細に検討する。
【0042】
最初に、上記特許文献2の化粧ブラシ用毛材には、フィラメントを5〜6倍に延伸することで、無機粉体の埋没した部分が展張されることによって、同部に窪みが形成されることが示されていることを述べたが、この窪みを形成することができる要因は、無機粉体であるSiO、タルクや抗菌剤は熱伝導率が小さいことがその要因と仮定して検討し、その後に、上記延伸フィラメントの銀ガラスが1/5の配合割合で抗菌作用が発揮でき、そして、その表面に凸状部が形成できる要因を検討する。
【0043】
例えば、特許文献1の歯間ブラシ毛は、その実施例3が直径64μmのナイロンフィラメントに平均粒径1.5μmの抗菌性ゼオライトを1.0重量%含有することで、黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌性試験の生残菌数は、2.3×10個/ml、4.6×10個/mlであり、抗菌効果を奏することが述べられているが、従来から抗菌性ゼオライトはブラシ毛を抗菌化するのに最もよく用いられるもので、この歯間ブラシ毛の例を用いて上記仮定が正しいことを説明する。
なお、ブラシ毛の抗菌化に上記抗菌性ゼオライトが最もよく用いられるもので、その熱伝導率は0.58W/m・Kであり、ナイロンの熱伝導率は0.24W/m・Kである。そして、上記歯間ブラシ毛の製造方法は上記フィラメントのそれと同じ方法で製造するものとする。
【0044】
100%樹脂に微少な不純物が存在する状態で、溶融紡糸した後の未延伸フィラメントの表面が冷却されると、その表面樹脂の固化に伴って不純物を排除する作用が働き、該不純物は流動性の大きい内部に移動するといわれている。そこで、上記1.0重量%の抗菌性ゼオライトは上記不純物に相当する。このことを、上記歯間ブラシ毛の例に当てはめてみると、溶融紡糸した後の未延伸フィラメントは、直径が1mm(1000μm)で、その未延伸フィラメントには配合率が1.0重量%、平均粒径が1.5μmの抗菌性ゼオライトが均一に分散されており、該未延伸フィラメント1の表面にも抗菌性ゼオライトが存在するが、該抗菌性ゼオライトは、熱伝導率が0.58W/m・Kと小さく、且つ平均粒径が1.5μmと微少なものなので、上記溶融紡糸した後の未延伸フィラメントの表面が冷却されると、冷却された表面から内部に向かって徐々に固化されるにつれて、上記抗菌性ゼオライトは流動性の大きい内部に移動する。
【0045】
上記不純物に相当する抗菌性ゼオライトは、固化する樹脂が上記不純物を排除しようとする作用を働かせることで、表面から流動性の大きい内部に移動する。該抗菌性ゼオライトが内部に移動することにより埋没して埋没部分を形成し、次に、該未延伸フィラメントを4〜6倍に引き延ばすと、上記埋没部分が展張されて窪みを形成することとなり、その窪みには抗菌性ゼオライトが存在することで抗菌効果を奏するものと考えられる。しかし、表面付近の位置及び表面から離れた位置に存在する抗菌性ゼオライト、即ち、その位置に存在する1.0重量%の多くの抗菌性ゼオライトは、埋没した部分を形成するものではないので、延伸フィラメントである化粧ブラシ用毛材は、主に窪みに存在する抗菌性ゼオライトが抗菌作用を発揮するだけで、窪みを形成しない多くの抗菌性ゼオライトは、抗菌作用に関与できない状態におかれている。
このように、抗菌性ゼオライトは熱伝導率が小さいことが窪み形成の要因と仮定することで、延伸フィラメントの表面に窪みが形成される現象が説明できたので、この仮定は正しいものと思量する。
【0046】
ところで、図4のナイロン612に8重量%のEガラス及び0.3重量%の銀ガラスが含有されている延伸フィラメントの外観形状の写真は、その表面に凸状部が形成されていることを示している。このように、上記延伸フィラメントに含有されている銀ガラスが、上記した比較例の100%Ny612に配合する銀ガラス1.0重量%の割合に対して、1/5の0.2重量%の割合であっても同等の抗菌作用が発揮できる要因、上記延伸フィラメントの表面に窪みではなく凸状部が形成される要因を以下に詳細に検討する。
【0047】
最初に、上記特許文献2の化粧ブラシ用毛材には、フィラメントを5〜6倍に延伸することで、無機粉体である銀系抗菌剤の埋没した部分が展張されることによって、同部に窪みが形成されることが示されていることを述べたが、この窪みが形成される要因は、銀系抗菌剤は熱伝導率が小さいことがその要因と仮定して検討し、その後に、100%樹脂に銀系抗菌剤を配合する割合に対して、上記延伸フィラメントに銀系抗菌剤を配合する割合が1/5で抗菌作用が発揮でき、そのフィラメントの表面に凸状部が形成される要因を検討する。
【0048】
例えば、特許文献1の歯間ブラシ毛は、その実施例3が直径64μmのナイロンフィラメントに平均粒径1.5μmの銀ガラス、抗菌性ゼオライトの銀系抗菌剤を1.0重量%含有することで、黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌性試験の生残菌数は、2.3×10個/ml、4.6×10個/mlであり、抗菌効果を奏することが述べられているが、従来から銀系抗菌剤はブラシ毛材を抗菌化するのに最もよく用いられるもので、この歯間ブラシ毛の例を用いて上記仮定が正しいことを説明する。
なお、ブラシ毛材の抗菌化に上記銀系抗菌剤が最もよく用いられるもので、その熱伝導率は0.58W/m・Kであり、ナイロンの熱伝導率は0.24W/m・Kである。そして、上記歯間ブラシ毛の製造方法は上記フィラメントのそれと同じ方法で製造するものとする。
【0049】
100%樹脂に微小な不純物が存在する状態で、溶融紡糸した後の未延伸フィラメントの表面が冷却されると、その表面樹脂の結晶化に伴って微小な不純物を排除する作用が働き、該不純物は流動性の大きい内部に移動するといわれている。そこで、上記微小な銀系抗菌剤(平均粒径1.5μm)は上記不純物に相当するので、このことを上記歯間ブラシ毛の例に当てはめてみると、溶融紡糸した後の未延伸フィラメントは、直径が1mm(1000μm)で、その未延伸フィラメントには平均粒径1.5μmの銀系抗菌剤の1.0重量%が均一に分散されており、該未延伸フィラメント1の表面にも銀系抗菌剤が存在するが、該銀系抗菌剤は、熱伝導率が0.58W/m・Kと小さく、且つ平均粒径が1.5μmと微小なものなので、上記溶融紡糸した後の未延伸フィラメントの表面が冷却されると、冷却された表面から内部に向かって徐々に固化されるにつれて、上記銀系抗菌剤は流動性の大きい内部に移動する。
【0050】
内部に移動した銀系抗菌剤は、その移動により埋没することで埋没部分を形成し、次に、該未延伸フィラメントを4〜6倍に引き延ばすと、上記埋没部分が展張されて窪みを形成することとなり、その窪みには銀系抗菌剤が存在することで抗菌効果を奏するものと考えられる。しかし、1.0重量%の多くの銀系抗菌剤は、表面付近に存在しておらず延伸フィラメントの表面の埋没部分を形成するものではないので、延伸フィラメントである化粧ブラシ用毛材は、主に窪みに存在する銀系抗菌剤が抗菌作用を発揮するだけで、窪みを形成しない多くの銀系抗菌剤は、抗菌作用に関与できない状態におかれている。それ故に、未延伸フィラメントに均一に分散されていた銀系抗菌剤は、該未延伸フィラメントの表面が冷却されることでそのフィラメントの内部に移動するので、延伸フィラメントに不均一に分散されている。
このように、銀系抗菌剤は熱伝導率が小さいことが窪み形成の要因と仮定することで、延伸フィラメントの表面に窪みが形成される現象を説明することができたので、この仮定は正しいものと思慮する。
【0051】
ところで、本発明の歯間ブラシのブラシ毛であるフィラメントの表面には、上記銀系抗菌剤の窪み形状と異なる、球状に突起した形状である凸状部が形成されている(図4参照)。Eガラス粉末の熱伝導率は1.50W/m・Kであり、その平均粒径は5μmであるから、上記歯間ブラシ毛の銀系抗菌剤に比べて熱伝導率及び平均粒径が共に大きい値であることが分かる。ところで、ナイロンの熱伝導率は0.264W/m・Kで、ポリエステルの熱伝導率は0.217W/m・Kであるから、上記Eガラス粉末の熱伝導率は、上記両樹脂のそれの約6倍の値である。
そこで、上記実施例のEガラス粉末の熱伝導率が大きいことが、上述したフィラメントの表面に凸状部を形成する要因であり、1/5の銀系抗菌剤の配合割合であっても同等の抗菌効果を奏する要因であると仮定して、どの様にして上記凸状部が形成され、1/5の銀系抗菌剤の配合割合で同等の抗菌効果を奏するのかを検討する。そのために以下に示す図14、図15及び図16に基づいて詳細に検討する。
【0052】
そのために、直径1mm(1000μm)の紡糸口より紡糸して延伸することで65μmの太さの延伸糸を製造する工程における、フィラメントの断面を推定した模式図である図14、図15及び図16を用いて、上記仮定が正しいか否かを検討する。
図14は、紡糸直後のフィラメントの断面を推定して示した模式図である。
図15は、紡糸口より吐出後20〜60℃で冷却されて引き伸ばされる途中のフィラメントの断面を推定して示した模式図である。
図16は、延伸工程を経て最終的な太さにされたフィラメントの断面を推定して示した模式図である。
図14、図15及び図16の○印は、フィラメントの断面におけるEガラス粉末の粒子が、そのフィラメントの中心Cから半径500μmの範囲に存在する位置を表すものである。
【0053】
図14は、直径1000μmの紡糸ロより紡糸された状態のEガラス粉末の粒子が、上記中心Cから半径500μmの範囲に存在する位置を表すものであり、中心Cから半径500μmの範囲の位置を三つに分け、各三つの範囲の位置に存在する粒子の代表として一個の粒子だけを表示して符号a、b、cで表した。表面又は表面付近の範囲に存在する位置の粒子を粒子aで表し、表面付近から半径500μmの半分である250μm付近の範囲に存在する位置の粒子を粒子bで表し、該250μm付近から中心Cの範囲に存在する位置の粒子を粒子cで表した。実際のEガラス粉末の粒子は上記断面に均一に分散した状態で存在する。符号Hは半径500μmの半分である250μmの位置を示している。なお、フィラメント中の銀系抗菌剤はその配合率が0.3重量%と少量であるので、図14、15及び16に銀系抗菌剤を示していない。
【0054】
ブラシ毛であるフィラメントの製造工程において、粒子a、粒子b及び粒子cの位置が変化する様子を考察する。
図15は、冷却されて引き伸ばされる途中のフィラメントの断面図である。紡糸口より紡糸され引き伸ばされながら20〜60°Cに冷却されると、上記粒子aのEガラス粉末の熱伝導率(熱伝導率1.50W/m・K)が、ナイロン系樹脂の熱伝導率(熱伝導率0.24W/m・K)の約6倍の値であることから、粒子aは溶融ナイロンより速く冷却される。その結果、該粒子aの周囲を包囲している溶融ナイロン系樹脂が固化して、粒子aを固化したナイロン系樹脂で包んだ状態の固化部を形成し、その固化部を含有する溶融ナイロン系樹脂の流動部が引き伸ばされると、固化部は表面に現れて凸状部を形成する。このようにして、図14の粒子aは、図15の粒子a′の位置に移行して凸状部を形成するが、図14の粒子b及び粒子cは、粒子aと同様に粒子b及び粒子cの周囲を包囲している溶融ナイロン系樹脂が固化して、粒子b及び粒子cを固化したナイロン系樹脂で包んだ状態の固化部を形成し、その固化部を含有する溶融ナイロン系樹脂の流動部が引き伸ばされると、図15の粒子b′及び粒子c′の位置に移行する。
【0055】
図16は、溶融ナイロン系樹脂が固化して結晶化した後に、その結晶化の配行性を高めるために延伸工程を経て最終的な太さ65μmに形成されたフィラメントを表す図である。図15の粒子a′は延伸によって粒子a″の位置に移行して凸状部が顕著に突出した状態になり、図15の粒子b′は延伸によって粒子b″の位置に移行してフィラメントの表面又は表面付近の位置に移行し、図15の粒子c′は延伸によって粒子c″の中心Cの位置に移行する。
上記の如く、紡糸口より紡糸された直後の粒子a、粒子b及び粒子cの位置は、Eガラス粉末の速冷え効果により、各粒子の周囲を包囲している溶融ナイロン系樹脂が固化して粒子a′、粒子b′及び粒子c′の固化部を形成し、溶融ナイロン系樹脂の流動部が引き伸ばされることで、粒子a′は延伸によって粒子a″の位置に移行して凸状部が顕著に突出した状態になり、粒子b′は延伸によって粒子b″の位置に移行してフィラメントの表面又は表面付近の位置に移行し、粒子c′は延伸によって粒子c″の中心Cの位置に移行することになる。
このように図16が示す粒子a″の凸状部、粒子b″の表面又は表面付近の位置に存在する粒子は、直径1000μmの紡糸ロより紡糸されたものが太さ65μmに引き伸ばされることにより、表面又は表面付近の範囲に存在する位置の粒子aが、凸状部が顕著に突出した状態の粒子a″に、表面付近から250μm付近の範囲に存在する位置の粒子bが、フィラメントの表面又は表面付近の位置に移行した状態の粒子b″になる。
【0056】
上記の考察に基づいて、抗菌効果について検討する。
紡糸直後のフィラメント中のEガラス粉末は、ガラス配合率8重量%の状態で均一に分散されていて、その比重が2.5g/cmであるから、8重量%を容積率に換算すれば3.2容積%(8/2.5=3.2)となる。この3.2容積%を容積xとしてxを求めるとx=1.474となり、xにより面積率を求めると2.17面積%となる。この計算によって求めた面積率を「計算値の面積率」という。図4に示したフィラメント表面の凸状部の面積を実測して面積率を求めたところ、5〜6面積%であった。この実測によって求めた面積率を「実測値の面積率」という。
計算値の面積率である2.17面積%に対して、実測値の面積率である5〜6面積%は、5/2.17〜6/2.17=2.30〜2.76倍、即ち、Eガラス粉末が表面に存在する表面濃度が2.30〜2.76倍に増加していることを示している。換言すれば、紡糸直後のフィラメント中のEガラス粉末は、その表面濃度が2.17面積%であったのが、延伸により最終的な太さのフィラメント中のEガラス粉末は、その表面濃度が上記表面濃度の2.30〜2.76倍に増加している。
【0057】
ところで、フィラメント中の銀系抗菌剤はその配合率が0.3重量%と少量であるので、図14、15及び16には銀系抗菌剤を示していないが、樹脂にEガラス粉末が8重量%配合されることで、上記したEガラス粉末の速冷え効果により、Eガラス粉末の各粒子の周囲を包囲している溶融樹脂に存在する銀系抗菌剤が樹脂と共に固化されるので、上述した不純物として内部に移動することがない。それ故に、未延伸フィラメントに均一に分散されていた銀系抗菌剤は、該未延伸フィラメントの表面が冷却されることでそのフィラメントの内部に移動することがないので、延伸フィラメントに均一に分散されている。従って、延伸フィラメントをブリッスルしたとしても、同一の抗菌効果が発揮できる。
【0058】
そして、図4に示した表面写真に基づいて銀系抗菌剤の凸状部の面積を実測することは、0.3重量%と少量であるので困難であるが、Eガラス粉末と同様に面積率が5〜6面積%に増加を示すものと考えられるので、銀系抗菌剤がフィラメント表面に存在する表面濃度も2.30〜2.76倍になる。そして、樹脂にEガラス粉末が8重量%配合されることで、100%樹脂に配合された銀系抗菌剤がEガラス粉末の速冷え効果により、各粒子の周囲を包囲している溶融樹脂に存在する銀系抗菌剤が樹脂と共に固化されるので、上記した不純物として内部に移動することがない。
ところで、銀系抗菌剤の抗菌効果は、表面に存在する銀系抗菌剤の濃度の2乗の効果が得られることが知られている。銀系抗菌剤の表面濃度が2.30〜2.76倍になれば抗菌効果はその2乗の5.29〜7.62倍になる。
上記の検討結果によれば、銀系抗菌剤の表面濃度の増加により、抗菌効果が5.29〜7.62倍を示すことは実施例の抗菌性の測定結果と一致している。
【0059】
次に、銀系抗菌剤の抗菌作用は湿度による銀イオンの生成によるもので、銀系抗菌剤が樹脂被膜で覆われていたとしても、その樹脂が透湿性を有し、皮膜の厚さが薄ければ抗菌作用が働くことはよく知られている。樹脂の種類、皮膜の厚さと透湿性の度合いを示す透湿度の関係は次の通りである。Ny6のフィルムは厚さ15μmで透湿度が120g/m・24hrであり、PETのフィルムは厚さ12μmで透湿度が20〜55g/m・24hrである。従って、銀系抗菌剤は数μm以下の厚さの樹脂皮膜で覆われていても、充分な抗菌作用を発揮できるものであり、図16の粒子b″のEガラス粉末は、上記透湿度が示す厚さの位置に存在すれば抗菌作用を発揮できることを意味している。
そうであれば、上記窪みに存在する歯間ブラシ毛の銀系抗菌剤が主に抗菌作用に寄与するのに対して、上記本発明の歯間ブラシのブラシ毛は、そのブラシ毛の凸状部と平坦な表面部、即ち、図16の粒子a″と粒子b″に存在する銀ゼオライトが抗菌作用に寄与しているので、従来の銀ゼオライトの1/5の割合であっても同等の抗菌効果を奏することができる。
【0060】
上記の模式図に基づいて検討した内容から分かるように、Eガラス粉末の熱伝導率が、ナイロン系樹脂又はポリエステル系樹脂の熱伝導率と比べて約6倍の大きい値であることで、上記未延伸フィラメントの冷却により、Eガラス粉末が急冷されその周囲の樹脂が冷やされることが起因となっており、その起因が上記未延伸フィラメントの表面又は表面付近にEガラス粉末が存在すれば凸状部を形成することになり、また、表面から離れた位置に存在するEガラス粉末が、延伸されることにより表面に存在することになる。
【0061】
このように、Eガラス粉末の熱伝導率が大きいことで速冷え効果が生じることにより、各粒子の周囲を包囲している溶融ナイロン系樹脂が固化し、同時にその樹脂中に存在する銀ゼオライト(粒子a′と粒子b′)も同時に固化して、延伸されることで延伸フィラメントの凸状部と平坦な表面部に銀ゼオライト(粒子a″と粒子b″)が存在するので、従来の銀ゼオライトの1/5の配合割合であっても同等の抗菌効果を奏することとなる。
上記図4の延伸フィラメントであるブラシ毛の外観形状の写真が示す凸状部の形成の現象、そして、上記抗菌性の測定結果が示す従来の銀ゼオライトの配合割合の1/5の配合割合であっても同等の抗菌効果を奏する現象を説明することができたので、この仮定は正しいものと思慮する。
【0062】
(まとめ)
上述した実施例1及び2の抗菌性の測定結果は、本発明の歯間ブラシが以下に述べる特徴を有していることを示している。
実施例1及び実施例2のEガラス粉末が3.0重量%又はそれ以上含有され、銀系抗菌剤が少なくとも0.2重量%含有されたフィラメントは、一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値が2.2又はそれ以上の値を示すことから、本発明の歯間ブラシのブラシ毛は、ナイロン系樹脂にEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で配合し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%を配合することで、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%配合する従来のブラシ毛の抗菌効果の値と同等又はそれ以上の値の抗菌効果が得られることを示している。このことは、本発明の歯間ブラシは、ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を従来の1/5の配合量である0.2重量%含有することで、同等又はそれ以上の値の抗菌効果が得られるから、従来の銀系抗菌剤の1/5の価格で抗菌性のブラシ毛が作製できるので、低廉な価格で生産が可能となった。
【0063】
また、本発明の歯間ブラシは、上記抗菌効果が一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対してだけでなく、歯周病原因菌であるミュータンス菌及びアクチノマイセス菌に対しても有効であることから、ユーザーが歯周病原因菌を予防したいという強い要求に充分に対応できるものである。
そして、実施例1−3及び2−3のEガラス粉末が6.0重量%以上含有され、銀系抗菌剤が0.5重量%以上を含有されたフィラメントは、一般細菌及び歯周病原因菌の生残菌数がゼロであることから、本発明の歯間ブラシのブラシ毛は、ナイロン系樹脂にEガラス粉末が6.0重量%以上含有され、銀系抗菌剤が0.5重量%以上を含有されることで、一般細菌及び歯周病原因菌の生残菌数がゼロであることから、本発明の歯間ブラシは、Eガラス粉末を6.0重量%以上含有し、銀系抗菌剤を0.5重量%以上含有することで、一般細菌及び歯周病原因菌の生残菌数をゼロとすることができる。
【0064】
一方、抗菌剤含有のブラシ毛の銀イオンは、時間と共に減少していくことは良く知られており、そのために、長期にわたって一般細菌及び歯周病原因菌の抗菌効果を維持するブラシ毛が必要な場合には、Eガラス粉末及び銀系抗菌剤の含有量に比例して抗菌効果を維持する期間が延びるので、Eガラス粉末を最大でも9.0重量%含有させ、銀系抗菌剤を最大でも0.9重量%含有させれば、長期にわたって抗菌効果を維持できるブラシ毛を作製することが期待できる。
更に、ユーザーの歯間ブラシの利用状況に応じるために、使用後遅くとも10時間でブラシ毛に付着した歯垢等内の細菌の増殖を防止したい要求に対して、銀系抗菌剤を少なくとも0.5重量%含有するブラシ毛は、使用後遅くとも10時間で細菌の増殖を防止でき、また、銀系抗菌剤を0.6〜0.9重量%の範囲で含有することで、使用後遅くとも6時間で細菌の増殖を防止できる。このことは、銀系抗菌剤0.5重量%含有するブラシ毛が、使用後遅くとも10時間でEガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値を示し、また、銀系抗菌剤0.6〜0.9重量%の範囲で含有するブラシ毛が、使用後遅くとも6時間で上記銀系抗菌剤1.0重量%含有するブラシ毛生残菌数の対数と同等の値を示す実験結果から明らかである。
【符号の説明】
【0065】
1 歯間ブラシ
2 ブラシ部
3 直線状ワイヤー部
4 把持部
5 ブラシ毛
20 押出機
28 第1ホッパー
29 第2ホッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、
前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%含有するブラシ毛が、該Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値であることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項2】
前記Eガラス粉末を3.0重量%、前記銀系抗菌剤を0.2重量%含有するブラシ毛が、前記ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする請求項1に記載の歯間ブラシ。
【請求項3】
前記銀系抗菌剤が0.2〜0.9重量%の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の歯間ブラシ。
【請求項4】
前記ブラシ毛の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値が歯周病原因菌であるミュータンス菌及びアクチノマイセス菌の生残菌数の対数の値であることを特徴とする請求項3に記載の歯間ブラシ。
【請求項5】
前記銀系抗菌剤が銀ガラス又は銀ゼオライトであることを特徴とする請求項4に記載の歯間ブラシ。
【請求項6】
前記ナイロン系樹脂がナイロン610又はナイロン612であることを特徴とする請求項5に記載の歯間ブラシ。
【請求項7】
ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、
前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.2重量%含有するブラシ毛が、該Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の抗菌活性値と同等又はそれ以上の値であることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項8】
前記Eガラス粉末を3.0重量%、前記銀系抗菌剤を0.2重量%含有するブラシ毛が、前記ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等であることを特徴とする請求項7に記載の歯間ブラシ。
【請求項9】
前記銀系抗菌剤が0.2〜0.9重量%の範囲で含有されていることを特徴とする請求項7に記載の歯間ブラシ。
【請求項10】
前記ブラシ毛の抗菌活性値と同等又はそれ以上の値が一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値の値であることを特徴とする請求項9に記載の歯間ブラシ。
【請求項11】
前記銀系抗菌剤が銀ガラス又は銀ゼオライトであることを特徴とする請求項10に記載の歯間ブラシ。
【請求項12】
前記ナイロン系樹脂がナイロン610又はナイロン612であることを特徴とする請求項11に記載の歯間ブラシ。
【請求項13】
ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が、金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、
前記ブラシ毛が前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末が少なくとも3.0重量%含有され、前記銀系抗菌剤が少なくとも0.2重量%含有されており、前記ブラシ毛の表面に凸状部と平坦な表面部が存在することを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項14】
前記Eガラス粉末を3.0重量%、前記銀系抗菌剤を0.2重量%含有するブラシ毛が、前記ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等であることを特徴とする請求項13に記載の歯間ブラシ。
【請求項15】
前記ブラシ毛の生残菌数の対数と同等又はそれ以上の値が歯周病原因菌であるミュータンス菌及びアクチノマイセス菌の上記生残菌数の対数の値であることを特徴とする請求項14に記載の歯間ブラシ。
【請求項16】
前記ブラシ毛の抗菌活性値と同等又はそれ以上の値が一般細菌である黄色ブドウ球菌及び大腸菌の抗菌活性値の値であることを特徴とする請求項13に記載の歯間ブラシ。
【請求項17】
ナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を含有するブラシ毛が金属ワイヤーに撚り込まれたブラシ部と、該撚り込まれた金属ワイヤーで形成された直線状ワイヤー部と、該直線状ワイヤー部の所定長さの末端が埋設されている把持部材からなる歯間ブラシであって、
前記ナイロン系樹脂に平均粒径5μmのEガラス粉末を3.0〜9.0重量%の範囲で含有し、銀系抗菌剤を少なくとも0.5重量%含有するブラシ毛が、使用後遅くとも10時間で上記Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする歯間ブラシ。
【請求項18】
銀系抗菌剤を0.6〜0.9重量%の範囲で含有するブラシ毛が、使用後6時間で上記Eガラス粉末を含有しないナイロン系樹脂に銀系抗菌剤を1.0重量%含有するブラシ毛の生残菌数の対数と同等の値であることを特徴とする請求項17に記載の歯間ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−130955(P2011−130955A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294431(P2009−294431)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000212005)
【Fターム(参考)】