説明

歯面清掃器

【課題】電動モータで清掃体を回転させる歯面清掃器について清掃体に過剰なトルク負荷が加わっても口腔内を傷めたり装置が損傷したりすることを回避する。
【解決手段】バッテリ25と、電動モータ21と、歯面に接触して清掃を行うための回転式の清掃体であるゴムカップ31とを備えて、電動モータ21による回転駆動力を所定の動力伝達経路でゴムカップ31に伝達して作動する歯面清掃器1において、動力伝達経路の途中に遊星歯車機構22が配設されて出力側の軸回転速度を入力側の軸回転速度よりも減速するものとされ、且つ、動力伝達経路の途中に、出力側に所定レベル以上のトルク負荷が加わることで入力側との間で軸回転方向に滑りを生じさせるクラッチ機構23が配設されて、回転するゴムカップ31に所定レベル以上のトルク負荷が加わった場合に、ゴムカップ31の回転は停止するが電動モータ31の回転は停止しないことを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面清掃器に関し、殊に、電動モータで回転させた清掃体を歯に密着させながら清掃を行う歯面清掃器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動モータでアーム先端のブラシを高速回転させることで効率的に歯の清掃を行う電動歯ブラシが広く普及している。また、近年では特開2003−111777号公報等に記載されていように、歯垢だけではなく歯の黄ばみやステンまで落として歯の白さや光沢を回復させるために、ブラシの代わりに樹脂をカップ状に形成した清掃体を電動歯ブラシと同様の回転駆動手段で回転させることにより、研磨ペーストを用いずに歯面を清掃・研磨して白さと光沢を与えるものも使用されている。
【0003】
このような電動歯ブラシを含む歯面清掃器において、清掃体を回転させる電動モータは回転速度が高すぎる反面、トルクが低いのが通常であるため、例えば特開平5−137615号公報や特開平11−342140号公報に記載されているように、電動モータとブラシ体との間の動力伝達経路に遊星歯車機構を配設することにより、適度な減速と高トルク化を実現したものも知られている。
【0004】
このように歯面清掃器の動力伝達経路中に遊星歯車機構を配設することで、入力軸と出力軸を同軸上に配置しながら比較的小さなスペースで効率的な減速及び高トルク化を達成することが可能となる。また、遊星歯車機構はギヤの摩耗やギヤ欠けの発生が比較的少ないことから、高い耐久性を確保しやすい利点もある。
【0005】
しかしながら、斯かる遊星歯車機構を用いて減速及び高トルク化を実現したものにあっては、清掃体を強く押し付ける等して過剰なトルク負荷が生じた場合、清掃体の回転が止まらずに歯面や歯肉を傷めることがあり、また、逆に清掃体の回転が止まってしまうと電動モータやバッテリを損傷する心配もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−111777号公報
【特許文献2】特開平5−137615号公報
【特許文献3】特開平11−342140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、電動モータで清掃体を回転させる方式の歯面清掃器について、清掃体に過剰なトルク負荷が加わった場合でも、口腔内を傷めたり装置を損傷したりすることを回避可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、電力供給手段と、電動モータと、歯面に接触して清掃を行うための回転式の清掃体とを備えて、その電動モータによる回転駆動力を所定の動力伝達経路で清掃体に伝達して作動する歯面清掃器において、動力伝達経路の途中に遊星歯車機構が配設されて出力側の軸回転速度を入力側の軸回転速度よりも減速するものとされ、且つ、動力伝達経路の途中に、出力側に所定レベル以上のトルク負荷が加わることで入力側との間で軸回転方向に滑りを生じさせるクラッチ機構が配設されており、回転している清掃体に所
定レベル以上のトルク負荷が加わった場合に清掃体の回転は停止するが電動モータの回転は停止しない、ことを特徴とするものとした。
【0009】
このように、電動モータの回転駆動力を清掃体に伝える動力伝達経路の途中に遊星歯車機構を設けることで効率的な減速と高トルク化が達成されるが、その動力伝達経路の途中に、過剰なトルク負荷が清掃体に加わった場合でも軸回転方向に滑りを生じさせるクラッチ機構を設けて、電動モータの回転は維持したままで清掃体の回転を停止させる構成としたことにより、歯や歯肉の損傷を回避しながら電動モータやバッテリの過負荷を回避しやすいものとなる。
【0010】
また、この歯面清掃器において、そのクラッチ機構は、入力側の回転軸先端部と出力側の回転軸基端部に、回転軸線に対し直角な摩擦面を有した摩擦板を摩擦面が対向するように対で設け、回転軸線に沿ってスライド可能に設けられた一方の摩擦板を所定の付勢手段で他方の摩擦板に向かって押圧・密着させてなるものとし、所定レベル以上のトルク負荷が出力側に加わって付勢手段による密着力に勝ることにより、その一対の摩擦板間に軸回転方向の滑りを生じるものとしたことを特徴としたものとすれば、コンパクト且つ簡易な構成で過負荷時に電動モータを空回りさせることが可能となる。
【0011】
さらに、この場合その一対の摩擦板は、摩擦面が略円形で周方向に同幅の山と谷を中心から放射状に形成して各々菊花状とされて、その一対の摩擦面による山と谷が噛み合う噛合力により摩擦力を発揮するものとされ、その山と谷の周方向の断面による山頂側と谷底側の角度が各々90°以上の鈍角を形成している、ことを特徴としたものとすれば、付勢手段の強さに応じて適度な摩擦力を発揮させやすいことに加え、滑り動作がスムースに行われて摩耗の少ないものとなる。
【発明の効果】
【0012】
電動モータと清掃体との間の動力伝達経路中に所定レベル以上のトルク負荷が加わることで滑りを生じるクラッチ機構を設けた本発明によると、清掃体に過剰なトルク負荷が加わった場合でも、口腔内を傷めたり装置を損傷したりすることを有効に回避できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明における実施の形態である歯面清掃器の側面図(一部切り欠き図)である。
【図2】(A)は図1の歯面清掃器の電動モータ及び電動モータに付設した遊星歯車機構及びクラッチ機構の部分拡大図、(B)は(A)の遊星歯車機構及びクラッチ機構の構造を説明するために一部を縦断面図で示した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態である歯面清掃器1の側面図を示しているが、その本体部2を構成するケーシング20の一部を切り欠いて内側が見えるようにしたものである。この歯面清掃器1は、アーム部3の先端側に歯面の清掃体としてブラシではなくゴムカップ31を備えており、電動歯ブラシが主として歯垢を落とすために用いられるのに対し歯垢のみならず歯の黄ばみやステンを落として歯の白さと光沢を増すために用いられるものである。
【0016】
歯面清掃器1は、本体ケーシング20内部に電力供給手段としてのバッテリ25、電動モータ21を備えており、電動モータ21による回転駆動力をアーム部3先端のゴムカップ31に伝達する動力伝達経路として、互いに自在ジョイントやベベルギヤー等で接続さ
れたシャフト211,212,213、及び遊星歯車機構22を備えており、この構成部分については従来の電動歯ブラシとほぼ同様である。
【0017】
しかし、前述したように、回転駆動する清掃体が歯ブラシではなくゴムカップ31であることに加え、その動力伝達経路の途中において、遊星歯車機構22に加え所定レベル以上のトルク負荷が回転するゴムカップ31に加わった場合に、電動モータ21による回転駆動力の伝達を途中で切断するクラッチ機構23が配設されている点が、本発明の特徴部分となっている。
【0018】
図2(A)は、歯面清掃器1の電動モータ21及びこれに付設した遊星歯車機構22、及びこれに続くクラッチ機構23の部分拡大図を示しており、(B)はその遊星歯車機構22及びクラッチ機構23の構造・作用を説明するために一部を縦断面図とした部分拡大図を示している。
【0019】
図2(B)を参照して、遊星歯車機構22は、内周面に内歯車220aを備えて電動モータ21側に固定された円筒状のケーシング220と、電動モータ21から延びる駆動軸210に固定された太陽歯車223と、この太陽歯車223に噛み合うとともに内歯車220aに噛み合って太陽歯車223の周りを自転しながら公転する複数の遊星歯車222a,222b,・・、この複数の遊星歯車222a,222b,・・を回転自在に軸支しながら電動モータ21の駆動軸の延長線である回転軸線Xに中心軸線を一致して回転するキャリア222を備えてなるものである。
【0020】
即ち、電動モータ21の駆動軸210を入力軸とし、キャリア222の先端側に形成した円筒部222eを出力軸として、電動モータ21の回転速度を減速させるように作動するものとなっている。そして、この遊星歯車機構22の出力軸であるキャリア222先端側の円筒部222eを入力側とし、図示しないシャフト211の基端部を出力側としてクラッチ機構23が配設されている。
【0021】
このクラッチ機構23は、入力側であるキャリア222の先端部222eに、回転軸線Xに対し直角で円形の摩擦面231aを有した摩擦板231がその中心軸線を回転軸線Xに一致するように固定され、出力側である図示しないシャフト211の基端部に、先端側にフランジ233aを有した略円筒状の出力軸233が回転軸線Xに中心軸線を一致して固定され、この出力軸233の基端側に回転軸線Xに対し直角で円形の摩擦面232aを有した円盤状の摩擦板232が回転軸線Xに沿って所定範囲でスライド自在且つ軸周りに回転不能に設けられて、その摩擦面232aが摩擦板231の摩擦面231aに対向している。
【0022】
そして、回転軸線Xに沿ってスライド自在な摩擦板232は、その先端側の面と出力軸233のフランジ233aの基端の面との間に、付勢手段としてのコイルバネ234が圧縮状態で介装されており、摩擦板232を付勢してその摩擦面232aを摩擦板321の摩擦面231aに密着するように押圧しながら両者を噛合させ、電動モータ21による回転駆動力を伝達するようになっている。
【0023】
両摩擦面231a,232aは円形であるが、その表面には周方向に同幅の山と谷を円の中心から放射状に形成して各々菊花状とされており、図2(A)に示すように両摩擦板231,232が噛合した状態でその外周面に表れた噛み合わせによる線がジグザグ状をなしている。また、その山と谷の周方向の断面による山頂側と谷底側の角度が各々90°以上の鈍角を形成しており、所定レベル以上のトルク負荷が出力軸233側に加わった場合に、コイルバネ234の付勢による密着力に抗して摩擦面232aの山の斜面が摩擦面231aの山の斜面を滑って登ることで摩擦板232が持ち上げられ、入力側の摩擦板2
31が空回りするようになっている。
【0024】
即ち、歯面清掃器1を使用している際に、清掃体であるゴムカップ31を歯面に対し過剰に強く押しつける等して、回転するゴムカップ31に対し電動モータ21やバッテリ25を損傷したり歯や歯肉を傷めたりする畏れのある所定レベル以上のトルク負荷が加わった場合に、コイルバネ234が圧縮され両摩擦板231,232による密着状態が解除されて滑り出すため、ゴムカップ31の回転は停止するが電動モータ21の回転駆動は継続することになる。
【0025】
従って、歯面清掃器1を使用中している際にゴムカップ31に過剰なトルク負荷が加わった場合でも、クラッチ機構23により駆動力伝達経路の途中が切断されることから、電動モータ21やバッテリ25に過剰な負荷が加わって損傷するトラブルを最小限に抑えることが可能となり、またゴムカップ31の回転は停止するため、歯や歯肉を痛める心配も殆どないものとなる。
【0026】
尚、本実施の形態において、クラッチ機構23による両摩擦面231a,232aを放射状の山谷構造による菊花状とし、その周方向の切断面による山頂側と谷底側の角度を各々90°以上の鈍角としたことにより、細かい凹凸による一般的な摩擦面の場合と比べて、摩擦力を適度なレベルに設定しやすいとともに動力伝達切断時の滑り動作がスムースなものとなるため、入力側の過負荷を軽減しやすいものとなり、且つ、滑り動作の際に摩擦熱が生じにくく摩耗も少なくなることから、耐久性にも優れたものとなる。
【0027】
以上、述べたように、電動モータで清掃体を回転させる方式の歯面清掃器について、本発明により、清掃体に過剰なトルク負荷が加わった場合でも、口腔内を傷めたり装置を損傷したりすることを有効に回避できるようになった。
【符号の説明】
【0028】
1 歯面清掃器、2 本体部、3 アーム部、20 ケーシング、21 電動モータ、22 遊星歯車機構、23 クラッチ機構、25 バッテリ、31 ゴムカップ、210
駆動軸、211,212,213 シャフト、220 ケーシング、220a 内歯車、222 キャリア、222a,222b 遊星歯車、222e 筒状部、223 太陽歯車、231,232 摩擦板、231a,232a 摩擦面、233 出力軸、233a フランジ、234 コイルバネ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力供給手段と、電動モータと、歯面に接触して清掃を行うための回転式の清掃体とを備えて、前記電動モータによる回転駆動力を所定の動力伝達経路で前記清掃体に伝達して作動する歯面清掃器において、前記動力伝達経路の途中に遊星歯車機構が配設されて出力側の軸回転速度を入力側の軸回転速度よりも減速するものとされ、且つ、前記動力伝達経路の途中に、出力側に所定レベル以上のトルク負荷が加わることで入力側との間で軸回転方向に滑りを生じさせるクラッチ機構が配設されており、回転している前記清掃体に前記所定レベル以上のトルク負荷が加わった場合に前記清掃体の回転は停止するが前記電動モータの回転は停止しない、ことを特徴とする歯面清掃器。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、入力側の回転軸先端部と出力側の回転軸基端部に、回転軸線に対し直角な摩擦面を有した摩擦板を摩擦面が対向するように対で設け、前記回転軸線に沿ってスライド可能に設けられた一方の前記摩擦板を所定の付勢手段で他方の前記摩擦板に向かって押圧・密着させてなるものであり、前記所定レベル以上のトルク負荷が出力側に加わって前記付勢手段による密着力に勝ることにより、前記一対の摩擦板間に軸回転方向の滑りを生じるものとした、ことを特徴とする請求項1に記載した歯面清掃器。
【請求項3】
前記一対の摩擦板は、前記摩擦面が略円形で周方向に同幅の山と谷を中心から放射状に形成して各々菊花状とされて、前記一対の摩擦面による前記山と谷が噛み合う噛合力により摩擦力を発揮するものとされ、前記山と谷の周方向の断面による山頂側と谷底側の角度が各々90°以上の鈍角を形成している、ことを特徴とする請求項2に記載した歯面清掃器。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−244842(P2011−244842A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117691(P2010−117691)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000213817)朝日医理科株式会社 (13)
【Fターム(参考)】