説明

毛穴目立ち予防又は改善剤評価方法

【課題】毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法の提供、及び個体の毛穴目立ちの評価方法の提供。
【解決手段】(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に被験物質を添加する工程、(2)当該試料中のIGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定する工程、(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。被験体由来血中IGF−1量を測定することを特徴とする、被験体の毛穴目立ちの評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法、及び毛穴目立ちの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛包の表皮への開口部である毛穴は、顔面、特に頬と鼻において、美容上大きな悩みの一つとなっている。一般的に、頬の"目立つ毛穴"として認識されている毛穴は、脂腺性毛包である。この脂腺性毛包は、皮膚表面への開口部である漏斗状の形態を持った毛漏斗部の内腔が広く深いことを特徴とする。この毛漏斗部が広がっていたり、その周辺がすり鉢状に陥没していたりすると、皮膚表面に生じる窪みが毛穴として視覚的に認識され、"毛穴が目立つ"と認識されると考えられている。レプリカ法による毛穴周囲の皮膚表面形態解析からは、毛穴が加齢とともに目立つようになること、さらに頬ではたるみにより引き伸ばされて形状が楕円に変化することが分かっている。
【0003】
毛穴の目立ち具合の評価法としては、従来、皮膚表面の拡大画像の画像解析によって、画像上で毛穴周囲の凹領域の面積を求める方法や、皮膚表面のレプリカをとり、毛穴周囲の凹部面積を計測することによりなされてきた(特許文献1、特許文献2)。また、肉眼的に目立つ毛穴の周囲に表皮肥厚および真皮乳頭構造(皮膚内部構造)の発達が認められること、ならびにその発達の程度が毛穴面積と正の相関を有することに基づき、この皮膚内部構造をパラメータとして毛穴目立ちを評価する方法が報告されている(特許文献3)。しかし、これらの方法は何れも、定量解析には多くの時間と労力を必要とする。
【0004】
IGF−1(Insulin-like growth factor-1)は主に肝臓で合成され、血中を介して輸送されて各臓器に作用する分子である。IGF−1は、輸送先の各臓器においてレセプター(IGF−1R)に結合してそれを活性化させ、種々の作用を誘発する。皮膚におけるIGF−1の機能としては、表皮での増殖亢進(非特許文献1)、真皮でのコラーゲン合成促進(非特許文献2)等が報告されている。皮膚のしわ、たるみの軽減及び育毛の促進等の効果を有するIGF−1分泌促進剤(特許文献4)、IGF−1を有効成分とする、種々の皮膚疾患やシミ、そばかす、老人斑、小皺の改善効果を有する組成物(特許文献5)もまた知られている。しかしながら、毛穴目立ちとIGF−1との関係については、未だ明らかではなかった。
【特許文献1】特開2002−187817号公報
【特許文献2】特開2000−169322号公報
【特許文献3】特開2004−337317号公報
【特許文献4】特開2006−151971号公報
【特許文献5】特開2003−89629号公報
【非特許文献1】Tavakkolら, J Invest Dermatol (1992) 99: 343-349
【非特許文献2】Jeschke MGら, Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol (2004) 286: R958-66
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法、及び毛穴目立ちの評価方法に関する。
【0006】
本発明者は、毛穴目立ちの評価、ならびに毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択に利用できるパラメータについて検討したところ、血中IGF−1量が毛穴面積及び皮膚内部構造発達との間に相関関係を有していることを見出し、さらにそこから、IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定することで、毛穴目立ちの評価、及び毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択が可能になることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(I)〜(V)に係るものである。
(I) 以下の工程(1)〜(3):
(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に被験物質を添加する工程
(2)当該試料中のIGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定する工程
(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、
を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(II)前記IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルが、IGF−1受容体のリン酸化レベル、IGFBP−3発現量又はAktリン酸化レベルである、(I)記載の方法。
(III)以下の工程(1)〜(3):
(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に、被験物質及びIGF−1を添加する工程
(2)当該試料中のIGF−1受容体の活性化レベルを測定する工程
(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、
を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(IV)以下の工程(1)〜(3):
(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に、被験物質及びIGF−1を添加する工程
(2)当該試料中のAktの活性化レベルを測定する工程
(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、
を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(V) 被験体由来血中IGF−1量を測定することを特徴とする、被験体の毛穴目立ちの評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、毛穴目立ち予防又は改善剤の簡便且つ正確な評価又は選択が可能となる。また本発明によれば、被験体の皮膚毛穴目立ち状態を簡便に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、「毛穴目立ち」とは、毛穴周囲の皮膚表面に窪みが形成されるか、又はその窪みが拡大し、その結果その窪みが毛穴として外見的に認識されやすくなった状態をいう。毛穴目立ちの「改善」とは、上記毛穴周囲の窪みが縮小することにより、毛穴が外見的に認識されにくくなることをいい、毛穴目立ちの「予防」とは、上記毛穴周囲の窪みの拡大を防止することをいう。毛穴目立ちの状態は、従来、外見的評価、画像解析やレプリカ法により測定される毛穴面積、又は特開2004−337317号公報で報告される皮膚内部構造の発達の程度に基づいて評価されてきた。
【0010】
IGF−1は、合成された後血中を介して体内各所に到達し、IGF−1受容体(IGF−1R)の活性化を介して、一連のIGF−1シグナル伝達経路の活性化を引き起こす。したがって、血中IGF−1量は、体内IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを反映する指標である。本発明者は、この血中IGF−1量と毛穴面積および皮膚内部構造等の毛穴目立ちの指標との関係について調べた。すると後述の実施例に示すように、血中IGF−1量と毛穴面積および皮膚内部構造との間に相関関係が見出された(図1、2)。すなわち、被験体の毛穴目立ちを、血中IGF−1量等の生体内IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定することによって評価することができる。
【0011】
また実施例に示すように、顔面の目立つ毛穴部位の表皮組織では、その特異的皮膚内部構造と一致してIGF−1Rの発現が観察された(図3)。すなわち、IGF−1シグナルの毛穴目立ち成因との関連性が示された。そこで、IGF−1シグナル伝達経路に対する毛穴改善剤の影響を、培養表皮細胞株を用いて調べたところ、毛穴改善剤の投与量に応じて、IGF−1の標的であるIGF−1受容体(IGF−1R)のリン酸化(活性化)レベルは低下し、一方、IGF−1結合タンパク質でありIGF−1と受容体との結合を阻害するIGFBP−3(Insulin-like growth factor Binding Protein-3)の発現量は上昇した(図4A〜C)。同様に、毛穴改善剤の投与に伴って、IGF−1シグナル伝達経路のタンパク質であるAktのリン酸化(活性化)レベルが低下することが分かった(図5A)。
【0012】
すなわち、IGF−1シグナル伝達経路に関わる一連の分子(例えば、上記IGF−1R、IGFBP−3、Akt等)をパラメータとして当該伝達経路の活性化レベルを測定することで、被験物質の毛穴目立ち予防又は改善の評価又は選択、及び被験体の毛穴目立ちの評価が可能である。
【0013】
本発明の毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法は、(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に被験物質を添加すること、(2)当該試料中のIGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定すること、及び(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価すること、によって行われる。
【0014】
上記本発明の方法に用いられる試料としては、IGF−1シグナル伝達経路の活性化を測定可能なものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、生体由来の細胞、組織若しくは器官、又はそれらの培養物が挙げられる。ヒト又は動物由来の皮膚細胞若しくは組織又はそれらの培養物が好ましく、ヒト由来の皮膚細胞若しくは組織又はその培養物がより好ましく、ヒト由来の皮膚細胞若しくは組織の培養物がさらに好ましい。ヒト由来の皮膚細胞としては、表皮細胞、皮脂腺細胞、色素細胞、線維芽細胞が挙げられ、表皮細胞又は皮脂腺細胞が好ましい。皮膚細胞としては、例えば、正常細胞の他、株化細胞、幹細胞から分化誘導した細胞を使用することができる。
【0015】
被験物質としては、毛穴目立ち予防又は改善剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されるものではなく、例えば:動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;ならびにそれらの混合物等が挙げられる。
【0016】
「IGF−1伝達経路」とは、公知の文献(例えば、Levineら、Genes & Dev. (2006) 20: 267-275)に記載されるようなカスケードとして知られる、IGF−1とその受容体との結合に始まる一連の経路であり、生体内において、細胞増殖、タンパク質合成、糖取り込み、アポトーシス(細胞死)抑制などの機序に関与している(Decraeneら、J. Biol.Chem. (2002) 277: 32587-32595)。「IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベル」は、当該伝達経路の活性化に影響を与え得る任意の因子を測定することによって、決定される。当該因子としては、例えば、IGF−1の量及び局在、IGFBP−3の量及び局在、IGF−1Rの量及び局在、IGF−1とIGF−1Rとの結合量、IGF−1R活性化(例えば、リン酸化IGF−1R量)、ならびにPI3キナーゼ、ERK、Akt、mTOR等の当該伝達経路の下流に位置するタンパク質の発現量及び活性化レベル(例えば、リン酸化レベル)等が挙げられる。
【0017】
IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルの測定手段としては、測定される上記因子の種類に応じて定法に従えばよく、例えば、PCR、アガロースゲル電気泳動、SDS−PAGE、クロマトグラフィー法、免疫学的測定法(例えば、免疫組織化学、ELISA、ウエスタンブロット、免疫沈降等)、比色定量法、蛍光・光学的測定法、質量分析、電子顕微鏡観察等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
上記測定結果に基づいて、被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する。評価は、例えば、被験物質投与前後で、又は被験物質非添加群若しくは対照物質添加群(コントロール)と比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度の被験物質間で測定結果を比較することによって行われる。IGF−1シグナル伝達経路活性化レベルに影響を与えた被験物質を、毛穴目立ち予防又は改善剤として選択することができる。具体的には、IGF−1Rの活性化等の当該伝達経路活性化に寄与する因子については、それを抑える物質を、一方IGFBP−3等の当該伝達経路活性化を抑制する因子については、それを増強させる物質を、各々毛穴目立ち予防又は改善剤として選択することができる。
【0019】
一例としては、本発明の毛穴改善剤の評価又は選択方法は、IGF−1受容体の活性化レベルを測定することによって行うことができる。利用可能な試料は、上述のとおりである。試料に、被験物質とともにIGF−1を添加し、IGF−1との結合によって引き起こされるIGF−1受容体の活性化(例えば、リン酸化)のレベルを測定する。活性化レベルを抑制した被験物質を、毛穴目立ち予防又は改善剤として評価又は選択することができる。あるいは、本発明の毛穴改善剤の評価又は選択方法は、IGFBP−3の活性化レベルを測定することによって行うことができる。被験物質を添加した試料中におけるIGFBP−3活性化レベル(例えば、発現レベル)を観察し、活性化レベルが増強された場合、その被験物質を毛穴目立ち予防又は改善剤として評価又は選択することができる。
【0020】
別の例としては、本発明の毛穴改善剤の評価又は選択方法は、IGF−1シグナル伝達経路のタンパク質であるAktの活性化レベルを測定することによって行うことができる。利用可能な試料は、上述のとおりである。試料に、被験物質とともにIGF−1を添加し、IGF−1の添加によって引き起こされるAktの活性化(例えば、リン酸化)のレベルを測定する。活性化レベルを抑制した被験物質を、毛穴目立ち予防又は改善剤として評価又は選択することができる。
【0021】
本発明の毛穴目立ち評価方法は、被験体由来試料中のIGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定することを特徴とする。測定値に基づいて被験体の毛穴目立ちを評価する。当該活性化レベルが高くなるほど、毛穴目立ち度は高いと評価される。「被験体由来試料中のIGF−1シグナル伝達経路の活性化レベル」は、上記と同様の試料において、上記と同様に、すなわち、上述のような任意の因子を測定することで決定される。好ましくは、血中IGF−1量が測定される。
【実施例】
【0022】
以下の実施例において、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
(実施例1.毛穴目立ち状況の評価)
(1.血中IGF−1の測定)
22〜41歳の健常女性40名を被験者とした。測定日の朝に各被験者より採血した血液(約6mL)を、ベノジェクト真空採血管(血清分離剤入り VP-AS106)中で約30分間静置後、遠心(3000回転×20分間)にかけ、血清を分離した。分離した血清は−80℃に保存し、外部臨床検査機関へ分析を依頼した。
具体的には、血中IGF−1値の測定にはIRMA法(Immunoradiometric assay: 免疫放射定量測定法)を用いた。換言すると、I125標識した抗IGF−1抗体を血清に添加し、血清中IGF−1と標識抗体とを結合させ、その放射活性と検量線から濃度を読み取った。
【0024】
(2.毛穴評価)
各被験者の毛穴目立ちの評価を、頬部及び鼻部の皮膚で行った。評価は、室温20℃、湿度40%の条件下で行った。
(I)フォトスケールによる毛穴評価
被験者の顔の正面写真をロボスキンアナライザー(インフォワード)を用いて撮影し、頬及び鼻の毛穴目立ちを下記の基準でそれぞれ5段階に分類し、得られたスコアを各種測定値と比較した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
(II)皮膚内部構造観察
頬部の肉眼的に明瞭な毛穴が存在する領域を選択し、In vivo confocal laser microscopy (Viva scope 1500: Lucid社)で4×4mm範囲の表皮水平断面の共焦点画像を取得した。深さは角層−顆粒層の境界領域を0μmとし、皮膚表面画像として約8μm深さの画像を、皮膚内部観察画像として約75μm深さの画像を取得した。
共焦点画像から、目視により毛穴目立ちをスコア化した。すなわち、上記手法で採取した深さ約75μm、4×4mmの表皮水平断面の共焦点画像を用いて、皮膚内部構造の目視判定を行った。毛穴周囲に存在する真皮乳頭構造の存在範囲、真皮乳頭の数(複雑さ)を指標に判定した。判定基準は下記の5段階とした。
【0028】
【表3】

【0029】
(III)レプリカによる毛穴形状解析
洗顔後、皮膚を環境に馴化させた後、安静、仰臥位で、肌用のシリコン印象剤(アサヒバイオメッド製:ABS-01スカイブルー)を使用し、共焦点画像取得領域を含む約1×1cm範囲のレプリカを採取した。
CCDカメラ(CV-10:オリンパス)によりレプリカの画像を取得し、Greenの色成分をグレイスケールに変換し、スライスレベル100にて二値化した。二値化画像を細線化して皮溝を除去し、その後残った成分を膨張させて元の大きさに戻し、0.02mm2以上の面積のものを抽出した。得られた各毛穴形状について面積を測定し、測定範囲内(5×5mm)にある毛穴形状の総面積、平均面積を算出し、毛穴総面積及び毛穴平均面積とした。
【0030】
(3.結果)
フォトスケールにより求めた毛穴目立ちスコアは、頬、鼻においてともに、血中IGF−1量に対して正の相関(Spearman-test, P<0.05)またはその傾向を有していた(図1)。毛穴総面積(t-test, P<0.05)、毛穴平均面積及び毛穴周囲皮膚内部構造スコア(Spearman-test, P<0.05)と血中IGF−1量との間には有意な正の相関が見られた(図2)。これらの結果は、血中IGF−1量測定により被験体の毛穴の状態や面積、及び皮膚内部構造を評価でき、さらにこれらの結果を通じて被験体の毛穴目立ちを評価できることを示す。
【0031】
(実施例2.ヒト毛穴組織におけるIGF−1Rの発現)
(1.試験方法)
Caucasian 女性(30〜40代)の顔面に存在する視覚的に目立つ毛穴部位の組織の凍結切片を定法に従い作製した。作製した凍結切片を4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、その後、0.3% H22(メタノール溶液)で30分間処理した。10%ヤギ血清を用いて、室温1時間ブロッキング後、抗IGF−1R抗体(Gene Tex: 100倍希釈)で、4℃、一晩処理した。PBSで洗浄後、2次抗体(ヒストファインシンプルステイン:ニチレイ)で、室温、30分間処理し、DAB発色にてシグナルを検出した。
(2.結果)
顔面に存在する脂腺性毛包部において、表皮、毛包漏斗部、皮脂腺の基底層細胞にIGF−1Rの発現が検出された(図3A)。特に毛包漏斗部で強い発現が認められた。表皮基底層細胞に関しては、皮膚内部構造を構成する表皮隆起領域で、発現が高い傾向が認められた(図3B)。したがって、目立つ毛穴において特異的な皮膚内部構造の発達にIGF−1Rの関与が示唆された。
【0032】
(実施例3.毛穴改善剤評価1)
IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定するため、IGF−1受容体(IGF−1R)とIGF−1阻害因子であるIGFBP−3を指標として用いた。
【0033】
(1.IGF−1Rの測定)
細胞抽出液の作製(1)
ヒト表皮株化細胞であるHaCaT細胞(DKFZより供与)の培養は10%牛血清を加えたDulbecco's Modified Eagle Medium((+)D-MEM: Invitrogen)を用いた。HaCaT細胞を35mmプレートに0.5×104個/cm2で播種し、24時間後に血清無添加D-MEM((-)D-MEM)培地に交換した。ここに、被験物質として、公知の毛穴改善剤(活性型ビタミンD3:特開2004-339120号公報)を終濃度0、10及び100nMで各々添加した。48時間培養後、100ng/mlリコンビナントIGF−1(R&D systems)を添加するか又はIGF−1添加なしで10分間処理し、細胞を200μlのcell lysis buffer(Cell signaling)で回収した。
【0034】
細胞抽出液の作製(2)
正常ヒト表皮細胞の培養は添加剤を加えたEpiLife((+)EpiLife: Kurabo)を用いた。正常ヒト表皮細胞を35mmプレートに0.5×104個/cm2で播種し、24時間後に脳下垂体抽出物、EGF(Epidermal growth factor)及びインスリン無添加EpiLife((-)EpiLife)培地に交換した。ここに、被験物質(活性型ビタミンD3)を0又は100nM添加し、48時間培養した。その後100ng/mlリコンビナントIGF−1(R&D systems)を添加するか又はIGF−1添加なしで10分間処理し、細胞を200μlのcell lysis buffer (Cell signaling)で回収した。
【0035】
検出
得られた細胞を超音波破砕し、4℃にて15分静置した後、15000回転、10分間遠心し、上清を細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液に抗IGF−1R抗体(Cell Signaling: 200倍希釈)を加え、4℃で一晩静置した。翌日Protein G Sepharose (Amasham)を10μl加え、4℃で2時間結合させた。その後ビーズをcell lysis bufferで3回洗浄し、7.5%ゲルを用いたSDS−PAGEでビーズに結合していた蛋白質を分離した。一次抗体及び二次抗体を用いたウェスタンブロッティング法により、IGF−1Rを検出した。リン酸化型IGF−1Rの検出には、一次抗体として抗リン酸化チロシン認識抗体(upstate cell signaling solutions: clone ♯ 4G10: 1000倍希釈)を、二次抗体として西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社:5000倍希釈)を用い、全IGF−1Rの検出には、一次抗体として抗IGF−1R抗体(Cell Signaling:1000倍希釈)を、二次抗体としてHRP標識抗ウサギIgG抗体(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社:5000倍希釈)を用いた。検出試薬には化学発光法であるECL Plusウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、X線フィルムに露光を行った。
【0036】
(2.IGFBP−3の測定)
細胞抽出液の作製
HaCaT細胞の培養は10%牛血清を加えたDulbecco's Modified Eagle Medium((+)D-MEM: Invitrogen)を用いた。HaCaT細胞を35mmプレートに0.5×104個/cm2で播種し、24時間後に血清無添加D-MEM((-)D-MEM)培地に交換した。ここに、被験物質として、公知の毛穴改善剤(活性型ビタミンD3:特開2004-339120号公報)を終濃度0、10及び100nMで各々添加した。48時間培養後、100ng/mlリコンビナントIGF−1(R&D systems)を添加するか又はIGF−1添加なしで10分間処理し、培地を回収した。
【0037】
検出
回収した細胞培養培地はスピンカラム(マイクロコンYM−10:ミリポア)で10倍濃縮した。12.5%ゲルを用いたSDS−PAGEで培地中の蛋白質を分離し、一次抗体:抗IGFBP−3抗体(SantaCruz: 250倍希釈)、二次抗体:HRP標識抗ヤギIgG抗体(R&D systems: 1000倍希釈)を用いたウェスタンブロッティング法によりIGFBP−3を検出した。検出試薬には化学発光法であるECL Plusウェスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、X線フィルムに露光を行った。
【0038】
(3.結果)
IGF−1R活性(リン酸化IGF−1R量)は、HaCaT細胞及び正常ヒト表皮培養細胞のいずれにおいても、公知の毛穴改善剤である活性型ビタミンD3の添加に伴って濃度依存的に抑制され(図4A上段、ならびに図4B及びC)、一方、IGFBP−3の発現量は、活性型ビタミンD3の添加に伴って濃度依存的に増加した(図4A下段)。これらの結果は、被験物質の毛穴予防又は改善効果が、IGF−1R活性やIGFBP−3の発現量の測定によって評価可能であることを示している。
【0039】
(実施例4.毛穴改善剤評価2)
公知の毛穴収縮剤(1−n−テトラデシル−3−エチルグリセリル−2−リン酸アルギニン塩(化合物1):特開2008−105975号公報)の、IGF−1シグナル伝達経路のタンパク質であるAkt及びIGF−1Rの活性に対する効果を調べた。化合物1は特開2008−105975号公報に記載の方法により製造したものを使用した。
【0040】
(1.Aktの測定)
細胞抽出液の作製
正常ヒト表皮細胞の培養には、添加剤を加えたEpiLife((+)EpiLife: Kurabo)を用いた。表皮細胞を35mmプレートに0.5×104個/cm2で播種し、24時間後に脳下垂体抽出物、EGF及びインスリン無添加EpiLife((-)EpiLife)培地に交換した。48時間培養後、被験物質(化合物1)を10μM添加し、1時間培養した。その後100ng/mlリコンビナントIGF−1(R&D systems)を添加するか又はIGF−1添加なしで5分間処理し、細胞を100μlのcell lysis buffer (Cell signaling)で回収した。
【0041】
検出
得られた細胞を超音波破砕し、4℃にて15分静置した後、15000回転、10分間遠心し、上清を細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液中の蛋白質を、10%ゲルを用いたSDS−PAGEで分離し、一次抗体:抗リン酸化Akt認識抗体(Cell Signaling: 1000倍希釈)、二次抗体:HRP標識抗ウサギIgG抗体(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社: 5000倍希釈)又は、一次抗体:抗Akt認識抗体(Cell Signaling: 1000倍希釈)、二次抗体:HRP標識抗ウサギIgG抗体(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社: 5000倍希釈)を用いたウェスタンブロッティング法により検出した。検出試薬には化学発光法であるECL Plusウェスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、X線フィルムに露光を行った。得られたバンドを、ソフトウェアLane & Spot Analyzer(アトー株式会社)を用いて定量し、リン酸化Akt/Aktの値をAktの活性化レベルとし、被験物質無添加、IGF-1刺激時のAktの活性化レベルを100とした場合の抑制率として求めた。
【0042】
(2.IGF−1Rの測定)
細胞抽出液の作製
正常ヒト表皮細胞の培養には、添加剤を加えたEpiLife((+)EpiLife: Kurabo)を用いた。表皮細胞を35mmプレートに0.5×104個/cm2で播種し、24時間後に脳下垂体抽出物, EGF及びインスリン無添加EpiLife((-)EpiLife)培地に交換した。48時間培養後、被験物質(化合物1)10μM添加し、1時間培養した。その後100ng/mlリコンビナントIGF−1(R&D systems)を添加するか又はIGF−1添加なしで5分間処理し、細胞を100μlのcell lysis buffer (Cell signaling)で回収した。
【0043】
検出
得られた細胞を超音波破砕し、4℃にて15分静置した後、15000回転、10分間遠心し、上清を細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液に抗IGF−1R抗体(Cell Signaling: 200倍希釈)を加え、4℃で一晩静置した。翌日Protein G Sepharose (GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を10μl加え、4℃、2時間結合させた。その後ビーズをcell lysis bufferで3回洗浄し、7.5%ゲルを用いたSDS−PAGEでビーズに結合していた蛋白質を分離し、一次抗体:抗リン酸化チロシン認識抗体(upstate cell signaling solutions: clone ♯ 4G10: 1000倍希釈)、二次抗体:HRP標識抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社: 5000倍希釈)または、一次抗体:抗IGF−1R抗体(Cell Signaling: 1000倍希釈)、二次抗体:HRP標識抗ウサギIgG抗体(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社: 5000倍希釈)を用いたウェスタンブロッティング法により検出した。検出試薬には化学発光法であるECL Plusウェスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)を用い、X線フィルムに露光を行った。得られたバンドを、ソフトウェアLane & Spot Analyzer(アトー株式会社)を用いて定量し、リン酸化IGF−1R/IGF−1Rの値をIGF−1Rの活性化レベルとし、被験物質無添加、IGF−1刺激時のIGF−1Rの活性化レベルを100とした場合の抑制率として求めた。
【0044】
(3.結果)
正常ヒト表皮培養細胞において、Akt活性(Aktリン酸化)及びIGF−1R活性(IGF−1Rリン酸化)は、公知の毛穴改善剤である化合物1の添加により顕著に抑制された(図5A及びB)。これらの結果は、被験物質の毛穴予防又は改善効果が、IGF−1シグナル伝達経路の活性レベルの測定によって評価可能であることを示している。
【0045】
(参考例1.化合物1のヒト毛穴目立ち改善効果)
(1.試験方法)
実施例4で評価した化合物1のヒト毛穴目立ち改善効果を実際に測定した。男性10名(25〜40歳:平均年齢30.5歳)を被験者とし、化合物1の1%溶液と溶媒のみのプラセボ溶液をサンプルとして用いた。溶媒は95.0%エタノール:1,3−BG:精製水=20:10:70を用いた。サンプル塗布を1日2回、週5日行った。1回の塗布量は点眼瓶から2滴分(約100μl)とした。
試験では、片側頬部に1%化合物1配合サンプルを、他方にプラセボ溶液を4週間塗布した後、レプリカによる毛穴形状測定を行った。レプリカは塗布前、4週間塗布後に頬部の同じ領域から採取し、同一毛穴の変化率を化合物1配合サンプル側とプラセボ側とで比較した。
(2.結果)
解析範囲内の平均毛穴面積について0週の値を基準とし、その変化率を算出した(図6)。化合物1の4週間の塗布によって、プラセボ側と比較して毛穴面積が約10%減少した(P=0.055:t-test)。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】頬部及び鼻部の毛穴目立ちスコアと血中IGF−1との関係。
【図2】毛穴総面積、毛穴平均面積及び毛穴周囲の皮膚内部構造スコアと血中IGF−1との関係。
【図3】A:ヒト顔面脂腺性毛包部におけるIGF−1Rの発現。B:表皮基底層の表皮隆起領域(A図の点線で囲まれた領域)の拡大図。
【図4】活性型ビタミンD3(VD3)添加によるIGF−1シグナルの変化。A:ウェスタンブロッティング写真(HaCaT細胞)。−:IGF−1無添加、+:IGF−1添加。上から、リン酸化型IGF−1R量、全IGF−1R量、及びIGFBP−3発現量。B:HaCaT細胞におけるIGF−1R活性の活性型ビタミンD3濃度依存的変化。C:正常ヒト表皮培養細胞におけるIGF−1R活性の活性型ビタミンD3濃度依存的変化。
【図5】正常ヒト表皮培養細胞における、化合物1によるAkt(A)及びIGF−1R(B)の活性化の変化。ウェスタンブロッティング写真(左)及び活性抑制率(右)。−:IGF−1無添加、+:IGF−1添加、化合物1:10μM 化合物1添加。
【図6】化合物1のヒト毛穴目立ち改善効果。化合物1塗布後0週に対する塗布後4週における平均毛穴面積の比。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)〜(3):
(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に被験物質を添加する工程
(2)当該試料中のIGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルを測定する工程
(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、
を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。
【請求項2】
前記IGF−1シグナル伝達経路の活性化レベルが、IGF−1受容体のリン酸化レベル、IGFBP−3発現量又はAktリン酸化レベルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
以下の工程(1)〜(3):
(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に、被験物質及びIGF−1を添加する工程
(2)当該試料中のIGF−1受容体の活性化レベルを測定する工程
(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、
を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。
【請求項4】
以下の工程(1)〜(3):
(1)皮膚組織若しくは細胞又はそれらの培養物を含む試料に、被験物質及びIGF−1を添加する工程
(2)当該試料中のAktの活性化レベルを測定する工程
(3)当該活性化レベルに基づいて当該被験物質の毛穴目立ち予防又は改善効果を評価する工程、
を含むことを特徴とする、毛穴目立ち予防又は改善剤の評価又は選択方法。
【請求項5】
被験体由来血中IGF−1量を測定することを特徴とする、被験体の毛穴目立ちの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−276336(P2009−276336A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232306(P2008−232306)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】