毛髪センサー
【課題】毛髪の表面性状や、毛髪の損傷程度を評価するために、毛髪の摺動音を検出し、増幅して音声出力するにあたり、外来ノイズの混入を極力抑え、且つ、簡便に使用できる装置を提供する。
【解決手段】 毛髪の性状評価のために毛髪の摺動音を検出する毛髪センサー1が、毛髪を擦る摺動子11Aと本体ハウジング2を有し、本体ハウジング2はその内部にマイクロホン5を備える。摺動子11Aが振動板12より起立し、摺動子11Aによる摺動音が振動板12を介してマイクロホン5へ伝わると共に、振動板12以外からマイクロホン5へ伝わる振動が減衰するように、摺動子11A及び振動板12が配置されている。摺動子は、測定時の摺動性と測定精度向上のために、表面粗化されていることが好ましい。
【解決手段】 毛髪の性状評価のために毛髪の摺動音を検出する毛髪センサー1が、毛髪を擦る摺動子11Aと本体ハウジング2を有し、本体ハウジング2はその内部にマイクロホン5を備える。摺動子11Aが振動板12より起立し、摺動子11Aによる摺動音が振動板12を介してマイクロホン5へ伝わると共に、振動板12以外からマイクロホン5へ伝わる振動が減衰するように、摺動子11A及び振動板12が配置されている。摺動子は、測定時の摺動性と測定精度向上のために、表面粗化されていることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の摺動音を検出することにより毛髪の表面状態や硬さ等の毛髪の性状を評価するために用いるセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かす際の櫛通し音は、毛髪表面が大きく損傷している場合には、毛髪と櫛歯あるいはブラシ歯との摩擦が大きくなるために大きくなり、反対に毛髪の損傷が少ない場合や、毛髪化粧料の使用により毛髪表面が滑らかになっている場合には、櫛通し音が小さくなる。
【0003】
そこで、この櫛通し音から毛髪の損傷状態あるいは毛髪化粧料による毛髪状態の変化を評価するシステムとして、櫛又はブラシの背面中央部にマイクロホンを固定したマイクロホン付き櫛又はブラシと、このマイクロホン付き櫛又はブラシで髪を梳かした際にマイクロホンが検出する櫛通し音信号を増幅する信号増幅器を備えた装置(非特許文献1)、同様の原理の装置(特許文献1)、あるいは櫛通し音信号にフーリエ変換を行って周波数解析を施すと共に、増幅した櫛通し音信号をスピーカーから音声出力できるようにした装置(特許文献2)が提案されている。
【0004】
【非特許文献1】J.SOC.COSMETIC CHEMISTS,17,171-179(1966)
【特許文献1】特表2004−527730号公報
【特許文献2】特開2004−159830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に櫛又はブラシの背面中央部にマイクロホンを固定したマイクロホン付き櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かし、その際に生じる櫛通し音をマイクロホンで検出する場合には、外的要因によるノイズが大きいため、マイクロホンが検出した信号を増幅して音声出力しても、櫛通し音のみを判別することが難しく、それ故、音声出力した櫛通し音から毛髪の損傷状態を評価することが困難であった。
【0006】
これに対し、本発明は、毛髪の損傷状態あるいは毛髪化粧料による毛髪状態の変化を評価するために、毛髪の摺動音を検出し、それを増幅して音声出力するにあたり、ノイズの混入を極力抑え、摺動音から毛髪の性状評価を容易かつ正確に行えるようにし、且つ、現実的な操作における簡便性と保守性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のマイクロホン付き櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かした場合の櫛通し音にノイズが多く、また、この櫛通し音から毛髪の性状評価を正確に行うことが困難となる理由として、(i)従来の、マイクロホン付き櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かした場合の櫛通し音には、櫛歯又はブラシ歯と毛髪との摺動音に加えて、櫛歯又はブラシ歯と頭皮との摺動音がノイズとして混入しやすいこと、(ii)店頭や街頭で使用する場合、人の声、車の走行音、店内のBGM等もノイズとして拾われること、(iii)マイクロホンが櫛又はブラシの背面中央部に固定されるため、櫛又はブラシの中央部で毛髪が梳かれた場合の音と、櫛又はブラシの端部で毛髪が梳かれた場合の音とでは、音の検出感度が大きく異なること、(iv)被験者の当該櫛通し音が、マイクロホン付き櫛又はブラシの中央部ないし端部のいずれで梳かされることにより得られたものであるかが不明であり、これらの混在したものが出力されること、(v)摺動子表面の粗さが測定結果に影響を与えること、(vi)センサーとなる櫛あるいはセンサーを内蔵する筐体を握ることで大きな低周波ノイズが混入することを見出した。そして、従来の櫛歯あるいはブラシ歯ではなく、毛髪の摺動音を検出するための摺動子を振動板上に起立させ、振動板外で起立する摺動子をなくし、かつその摺動子と振動板をマイクロホンの感度の高い位置に配置すること等により、振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動を低減させるとノイズが抑制され、毛髪の摺動音を良好に検出できること、さらに、摺動子表面に微細な粗さを設けることで測定精度を向上させられること、低周波をカットするノイズフィルターを追加することで毛髪の摺動音を良好に検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、毛髪の性状評価のために毛髪の摺動音を検出するセンサーであって、
毛髪を擦る摺動子と本体ハウジングを有し、
本体ハウジングはその内部にマイクロホンを備え、
摺動子が振動板より起立し、
摺動子による摺動音が振動板を介してマイクロホンへ振動として伝わるとともに、振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動が減衰するように、摺動子及び振動板が配置されている毛髪センサーを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛髪センサーによれば、毛髪を擦る摺動子を振動板より起立させ、その摺動子及び振動板をマイクロホンの振動板(ダイヤフラム)の直前等の高感度部位に配置するなどにより、摺動子による摺動音がマイクロホンへ振動として効率よく伝わるようにすると共に振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動を減衰させているので、マイクロホンで検出される音は、専ら、毛髪が摺動子と直接擦れあうことにより発生した摺動音となり、マイクロホンの指向性の範囲外で櫛歯あるいはブラシ歯と髪が擦れることにより生じた音や、櫛歯あるいはブラシ歯が頭皮と擦れることにより生じた音がノイズとして検出されることが抑制される。
【0010】
したがって、この毛髪センサーによる検出信号を増幅して音声出力することにより、あるいは音声信号をモニターで視覚的に表示することにより、毛髪の性状評価を容易かつ正確に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0012】
図1Aは、本発明の一実施例の毛髪センサー1の外観を示す斜視図、図1Bは、その内部構成を示す斜視図である。
【0013】
この毛髪センサー1は、キューティクルの表面凹凸等の表面状態や、硬さ、毛髪の絡みなどの毛髪の性状評価をするために毛髪の摺動音を検出するものであり、本体ハウジング2に摺動部10Aを備えている。
【0014】
本体ハウジング2は、中央部が握り部3となり、一端が先端部近傍で屈曲し、屈曲した先端部には摺動部10Aが着脱自在に取り付けられている。また、摺動部10Aの両端部には、ガード部材4が本体ハウジング2と一体に形成されている。本体ハウジング2の内部では、摺動部10Aに隣接する位置にマイクロホン5が設けられ、そのスイッチ7が本体ハウジング2の表面に設けられている。
【0015】
図2A、図2B、図2Cに示すように、摺動部10Aでは、複数の平棒状摺動子11Aが振動板12上に起立し、配列している。本実施例においては、この振動板12がマイクロホン5の振動板(ダイヤフラム)5aの直前、より好ましくはマイクロホン5の振動板(ダイヤフラム)5aの前方10mm以内に設けられ、振動板12とマイクロホン5との間に音の伝搬障害になるものがなく、振動板12からマイクロホン5へ効率よく振動が伝わるようにすることを一つの特徴としている。この場合、平棒状摺動子11Aが起立する振動板12は、毛髪センサー1に使用する当該マイクロホン5の構造に応じて、マイクロホン素子の振動板(ダイヤフラム)と、できるだけ近づけるか直接接するようにすることが好ましく、一体に構成してもよい。例えば、マイクロホン5として、ダイヤフラム5aがマイクロホン5の前面からやや奥まった位置に配置されているエレクトリックコンデンサー型マイクロホン素子を使用する場合、図2Bに示すように、ダイヤフラム5aができるだけ摺動子の振動板12に近づくように、両面粘着材や液状接着剤等を介してマイクロホン5の前面を摺動子の振動板12に接着することが好ましい。またマイクロホン5として、圧電素子を使用した圧電型マイクロホン素子を使用する場合、その前面に露出しているマイクロホン素子の振動板が摺動子の振動板12に直接接触するか、できるだけ近接するようにマイクロホン素子を配置することが好ましい。
【0016】
上述の特徴に加えて、本実施例においては、振動板12以外からマイクロホン5へノイズとして伝わる振動が減衰するように平棒状摺動子11Aと振動板12を配置していることも特徴としている。即ち、振動板12及び振動板12に起立した平棒状摺動子11Aを、マイクロホン5の振動板(ダイヤフラム)の直前の感度の高い位置に配置し、振動板12の外で起立する平棒状摺動子11Aをなくしている。
【0017】
この他、振動板12以外からマイクロホン5へ伝わるノイズが減衰するように平棒状摺動子11Aと振動板12を配置する態様としては、スイッチ部分やプリント配線板など最低限必要な空間を残して、本体ハウジング2の内部をプラスチックで充填することにより、本体ハウジング2の共振を防止し、その共振を防止した本体ハウジング2内に振動板12を配置することが好ましい。
【0018】
また、上記振動板12以外からマイクロホン5への振動を減衰させる手段として、マイクロホン5の周囲を、その振動板12に面している側を除き、天然ゴム、合成ゴム、発泡材料、遮音性を備える合成樹脂等で作られた振動減衰体16で取り囲むこと、特に、シリコーンゴムからなる振動減衰体16で取り囲んだマイクロホン5を設けることがより好ましい。
【0019】
平棒状摺動子11Aの配列の長さL1は、4〜25mmとし、通常の櫛やブラシの長さに比して短くすることが好ましい。これにより、毛髪の摺動音の検出時には、ここに起立している全ての平棒状摺動子11Aを同時に用いて毛髪を擦ることができ、検出感度を安定化させることができる。
【0020】
また、毛髪を摺動するときの摩擦抵抗を低減し、ノイズの少ない検出音を得る等の点から、平棒状摺動子11Aの厚みL2は0.5〜3mm、幅L3は1〜15mm、高さL4は5〜25mmとすることが好ましく、さらに機械的強度を確保する点から高さL4は5〜15mmとすることが好ましい。
【0021】
平棒状摺動子11Aの材質としては、この毛髪センサー1を不特定多数の人の毛髪の性状評価に繰り返し使用できるようにするため、十分な機械的強度を有すると共に、アルコール等の有機溶剤を用いた洗浄や消毒の繰り返しに耐えられるものが好ましく、例えば、ジュラルミン、アルミニウム、ステンレス、鉄、銅、及びそれらの合金等の金属材料を使用する。これに対し、高密度ポリエチレン等のポリマー素材で平棒状摺動子11Aを作製すると、街頭や店頭で顧客の頭髪を評価し続けた場合に、強度が不足して摺動子が破損するおそれがある。また、平棒状摺動子に付着したスタイリング剤等のヘアケア剤を除去するため、これをアルコール等の有機溶剤で繰り返し洗浄した場合にも破損するおそれがある。
【0022】
また、平棒状摺動子11Aの表面は、滑らかすぎると、毛髪を擦っても十分な摺動音を発生させることが難しく、且つ、特に長い髪において毛髪が引っかかりやすく、反対に粗すぎても毛髪が引っかかり、絡みやすくなるので、適度に粗化することが好ましく、より具体的には、サンドブラスト処理、陽極酸化処理、各種薬剤処理、放電加工処理、切削加工等あるいはこれら処理の組み合わせにより、表面粗さRaを0.1μm以上5.0μm以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上2.5μm未満とする。
【0023】
この摺動部10Aにおいて、平棒状摺動子11Aの配列態様は、その厚み方向に1列となっている。摺動子を多数列に配列することも可能であるが、1列に配列することにより、毛髪の摺動音の検出時に、手前の列で擦れた摺動音と奥の列で擦れた摺動音とがずれて重なり合うことがなく、正確に摺動音を検出することができるので好ましい。
【0024】
一方、振動板12は、検出感度を高めるため、薄い方が好ましいが、薄すぎると強度が低くなって破損し易くなり、反対に厚すぎると検出感度が低くなるので、その厚さL5は0.1〜4mmとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mmとする。
【0025】
平棒状摺動子11Aと振動板12との形成方法に関し、これらを別体に形成し、平棒状摺動子11Aを振動板12に埋め込むように固定する場合には、振動板12を上述のように薄く形成することは難しい。したがって、平棒状摺動子11Aと振動板12は、鋳造や切削加工により一体成形することが好ましい。
【0026】
マイクロホン5としては、コンデンサー型、圧電型、ダイナミック型等を使用することができ、中でも小型化が可能であり、広い周波数帯域に渡ってフラットな周波数特性を持ち、安定性が高い点からコンデンサー型が好ましい。また、マイクロホン5の指向性としては、ノイズを抑制する点から単一指向性が好ましい。
【0027】
この毛髪センサー1では、本体ハウジング2において、マイクロホン5上に摺動部10Aを取り付けた場合に、平棒状摺動子11Aの両側部のガード部材4が平棒状摺動子11Aよりも突出するように形成されている。したがって通常の櫛で毛髪を梳かすようにして、毛髪センサー1の摺動部10Aで毛髪を擦っても、平棒状摺動子11Aが頭皮に接触することはなく、頭皮の摺動音がノイズとして毛髪の摺動音に混入することを防止することができる。
【0028】
この毛髪センサー1は、種々の態様をとることができる。例えば、平棒状摺動子11Aを1列に配列した上述の摺動部10Aに代えて、図3A、図3Bに示すように、平棒状摺動子11Aを2列に配列した摺動部10Bを本体ハウジング2に取り付けても良い。
【0029】
また、平棒状摺動子11Aに代えて、図4A、図4Bに示す摺動部10Cのように三角板状摺動子11Bを設けてもよく、その配列態様は、1列目の摺動子と2列目の摺動子が互い違いになるようにしてもよい。
【0030】
さらに、平棒状摺動子であっても三角板状摺動子であっても、必要に応じて、図5A、図5Bに示す摺動部10Dのように振動板12を厚く形成して穴13をあけ、毛髪の摺動音がマイクロホン5で検出されるようにしてもよい。この摺動部10Dによれば、図4A、図4Bの摺動部10Cに比して、外部ノイズは大きくなるが、毛髪と摺動子との摺動音の他に毛髪同士の摺動音も検出することが可能となる。
【0031】
この他、図6に示す摺動部10Eのように、丸棒状摺動子11Cを設けてもよく、図7に示す摺動部10Fのように、丸棒状摺動子11Cを十字型に配列してもよい。
【0032】
平棒状摺動子11Aと三角板状摺動子11Bと丸棒状摺動子11Cとを対比すると、三角板状摺動子11Bの場合には、振動板12に近い部分と振動板12から離れた先端部とで毛髪と摺動子との接触面積が異なるため、摺動音の検出感度が毛髪と摺動子との接触位置によって異なるが、平棒状摺動子11Aの場合には、摺動音の検出感度が、毛髪と摺動子との接触位置による影響を受けにくいので好ましい。また、丸棒状摺動子11Cと平棒状摺動子11Aとを対比すると、平棒状摺動子11Aの方が毛髪と摺動子との接触面積が大きいので、摺動音を効率よく検出することができるので好ましい。
【0033】
以上のいずれの態様においても、マイクロホン5で検出した信号の伝達経路に100Hz以下の低周波ノイズ成分を抑圧する低周波ノイズフィルターを設けることが好ましい。即ち、毛髪センサー1の本体ハウジング2を握るとき、若しくは離すとき、または測定中に毛髪センサー1の本体ハウジング2を握っているときの力の変化が、100Hz以下の低周波ノイズとして検出される場合がある。この低周波ノイズのレベルは比較的大きく、測定信号に影響を及ぼす。これに対し、マイクロホン5で検出した信号の伝達経路に低周波ノイズフィルターを設けることにより、このような低周波ノイズを除去することができる。
【0034】
低周波ノイズフィルターとしては、コンデンサー素子と抵抗素子からなるn次フィルター、論理演算器を使用したアクティブフィルター等を使用できる。なお、一般に、マイクロホン素子とアンプ回路との間には、デカップリングコンデンサーが直列に接続されているが、デカップリングコンデンサーは、可聴域の周波数を通すように設定されているため、毛髪センサー1の本体ハウジング2を握ること等により生じる低周波ノイズ成分を通過させてしまう。これに対し、低周波ノイズフィルターとは、このような低周波ノイズ成分の通過を遮断するものである。
【0035】
低周波ノイズフィルターの特性としては、50Hz以下の周波数に対して約−12db以上のフィルター効果、好ましくは50Hz以下の周波数に対して約−20db以上のフィルター効果を有するものが好ましく、一方、300Hz以上の周波数領域においては、0dbの損失であるものが好ましく、約−3db以内の損失であるものがより好ましい。
【0036】
なお、低周波ノイズフィルターは、低周波ノイズフィルターの形態により、毛髪センサー1内に組み込んでもよく、この毛髪センサー1を接続するアンプ回路の前段に設けてもよい。
【0037】
さらに、図8に示す摺動部10Gのように、光学マウスに用いられているような光学移動量計測センサー14を用いて、検出した摺動音と、そのときの摺動子と毛髪の相対的移動量を関連付けて摺動音を解析できるようにしてもよく、図9A、図9Bに示す摺動部10Hのように、振動板12の背面に膜状の歪ゲージ15とマイクロホン5を順次取り付け、摺動部10Hで毛髪を擦ったときに、毛髪の摺動音と共に、毛髪にかかる負荷を検出できるようにしてもよい。これにより、毛髪の状態をより詳細に解析することが可能となる。
【0038】
図9A及び図9Bで示したように、歪ゲージ15を取り付ける場合、歪ゲージ15はマイクロホン5と共に振動板12に接着される必要がある。これは、測定時に毛髪の同一部位からの摺動音および歪信号を同期した状態で得るために必要である。歪ゲージ15とマイクロホン5とを離れた部位に設置すると、必ずしも毛髪の同一部位からの信号を解析しているとは言い難く、結果の解釈に不確実性が生じる。歪ゲージ15とマイクロホン5とを共に振動板12に接着することにより、マイクロホン5で検出される摺動音には主に毛髪表面の状態が反映され、歪ゲージ15で検出される荷重には毛髪同士の絡まり効果が主に反映される。
【0039】
歪ゲージ15で大きな荷重が測定される毛髪では、日常的なブラッシングにより枝毛や切毛が発生しやすいことから、荷重の測定により枝毛や切毛の発生しやすい部位を発見することが可能となる。また、摺動音は大きいが荷重が比較的小さい場合は、毛髪そのものの傷みは大きいが、日ごろの頭髪の手入れが行き届いていることが予測でき、摺動音は小さいが荷重が大きい場合は、毛髪は傷んでいないが、手入れが不完全であることが予測できる。
【0040】
また、振動板上に棒状摺動子を起立させた摺動部に代えて、対向する2枚の面状の摺動子を使用し、この2枚の摺動子の間に毛髪を挟んで擦り、毛髪の摺動音を得られるようにしてもよい(図示せず)。
【0041】
本発明の毛髪センサー1は、例えば、図10Aに示す毛髪の摺動音の検出システム20Aで使用することができる。この検出システム20Aは、毛髪センサー1、毛髪センサーが検出した摺動音の信号を増幅して出力すると共に、感度調整をするアンプ21、アンプ21に接続されたヘッドホン22、アンプに接続されたパーソナルコンピュータ23、及びパーソナルコンピュータ23に接続されたプリンタ24からなる。
【0042】
さらに、使用時の簡便性を向上させるため、図10Bに示す検出システム20Bのように、毛髪センサー1は、アンプ21を用いずに、USB(ユニバーサルシリアルバス)等の汎用インターフェースで直接パーソナルコンピュータ23に接続されてもよい。この場合、アンプ回路およびUSBインターフェース回路としては、各社から発売されている既存のLSIが使用でき、毛髪センサー1に内蔵することが可能である。
【0043】
毛髪センサー1とパーソナルコンピュータ23とのUSB接続を可能とすることにより、パーソナルコンピュータ23の機種や個体差によるアナログ信号検出感度の違いを気にすることなく、マウスを接続するような手軽さで、広く一般的なパーソナルコンピュータを用いることが可能となる。
【0044】
アンプ回路およびUSBインターフェース回路としては、C−Media社のCM108やそれに相当する機能を持つLSI素子、ルネッサンステクノロジー社のマイコンチップであるH8シリーズ、マイクロチップテクノロジー社のワンチップマイコンであるPICシリーズ、サイプレス社のマイコンチップであるEasyUSBシリーズ、また、これらと例えばFTDI社から発売されているFTDI245シリーズやFTDI232シリーズといったUSB接続用LSIを組み合わせてもよい。
【0045】
摺動音の検出システム20Aで毛髪の摺動音を検出する場合には、まず、毛髪センサー1の摺動部10で毛髪を擦り、そのときに得られる摺動音の検出信号をアンプ21(又は毛髪センサーに内蔵されているアンプ回路)に送る。これにより、ヘッドホン22から毛髪の摺動音を拡大して聞くことができる。したがって、当該毛髪が損傷している状態と損傷状態が緩和されている状態とにおける摺動音の変化や、毛髪がごわついている状態と、柔軟になっている状態とにおける摺動音の変化等、毛髪の性状による摺動音の変化を明確に聞き分けることが可能となる。さらに、パーソナルコンピュータ23の画面に、検出された摺動音の周波数と音量の関係、あるいは摺動時間と音量との関係などを視覚的に表示することにより、上述の毛髪の性状による摺動音の変化を視覚的に認識することも可能となる。パーソナルコンピュー23を用いる場合には、検出された摺動音の周波数と音量に応じて、毛髪の性状を数段階に評価してもよい。なお、この評価基準は、性状が既知の多数の毛髪の摺動音を検出することにより、性状と摺動音との関係を予め蓄積することにより得ることができる。
【実施例】
【0046】
実施例1、比較例1
(1)電子ブザーの位置と計測音量との関係
実験室(騒音レベル48〜50dB)において、図11に示すように、半径50cmの円の中心に騒音計(カスタム社、SL-1370)を設置し、上述の円上でこの騒音計を四方から囲む4箇所(位置1〜4)から電子ブザー(周波数:約2kHz)を順次鳴らし、円の中心の騒音計で音量を測定した。この結果を表1に示す。同表に示すように、ブザー音の測定値は、およそ80dB前後であった。この測定値は、東京都内の片側三車線道路の交差点において車道から5〜10m程度離れた地点での測定値(70〜80dB)に近い値である。
【0047】
【表1】
【0048】
(2)毛髪センサーの作製と外来ノイズの測定
図1A、図1Bに示した毛髪センサー(実施例1)と、通常のクシの背面中央部にマイクロホンが固定されている従来の毛髪センサー(比較例1)を作製し、それぞれ図11の騒音計の位置に設置し、(1)と同様にして位置1〜4から電子ブザーを鳴らし、各毛髪センサーが拾うブザー音量を測定した。
【0049】
ここで、実施例1の毛髪センサーと比較例1の毛髪センサーには、共に同一のコンデンサー型マイクロホン(パナソニック社、製品名:WM−55A103)を設けた。
【0050】
また、実施例1の毛髪センサーの摺動部としては、図2A〜図2Cの形状を有し、その平棒状摺動子は厚みL2 1.2mm、幅L3 4.6mm、高さL4 15mm、配列の長さL1 11mmで、ジュラルミン製(表面粗さRa=0.7μm)のものを用いた。比較例1の毛髪センサーのクシとしては、高さ20mm、幅2.5mm、厚み1mmのクシ歯が一列に長さ100mm列設したプラスチック製のものを用いた。
【0051】
各毛髪センサーが拾ったブザー音量を表2と図12A,図12Bに示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2及び図12A、図12Bの結果から、実施例1の毛髪センサーは比較例1の毛髪センサーに比して、外来ノイズが非常によく低減されていることがわかる。したがって、実施例1の毛髪センサーによれば、増幅率を高くすることにより詳細な毛髪表面の摩擦情報を得ることができる。また、実施例1の毛髪センサーは、街頭での毛髪化粧料のイベント等において、特に周囲の音などを気にすることなく使用することが可能となる。
【0054】
実施例2
(1)摺動子の作製
平棒状摺動子の表面粗さを鏡面処理又はブラスト処理により調整し、表3の通りとする以外は、実施例1と同様の毛髪センサーを作製した。なお、表面粗さは、東京精密社サーフコム590Aによって計測した。測定条件は、測定長さ1〜3mm、測定速度0.3mm/S、カットオフ波長0.8mm、カットオフ種別2CR、傾斜補正最小二乗直線である。
【0055】
(2)摺動子の表面粗さと毛髪の絡みやすさ
毛髪サンプルとして長さ20cm、幅2cm、厚み0.5cmのアジア人の直毛のきれいな髪(即ち、カラー処理パーマ処理などの化学処理を施していない髪)の毛束を用意し、(1)で作製した各毛髪センサーで毛髪サンプルをその根元から毛先まで梳かし、毛髪の絡みやすさと測定による毛髪の損傷の程度を次のように評価した。結果を表3に示す。
【0056】
毛髪の絡みやすさの評価方法:
評価基準A:梳かし始めから梳かし終わりまで絡まない
B:梳かし始めは絡まないが途中で絡む
C:梳かし初めから絡む
【0057】
毛髪の損傷の評価方法:
評価基準A:毛髪の削りカスがない
B:毛髪の削りカスが少しある
C:毛髪の削りカスが多い
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すように、摺動子の表面粗さが2.5μm以上となると、梳かし初めから毛髪が摺動子に絡み、毛髪が損傷した。反対に、摺動子の表面が鏡面仕上になっていると、梳かし初めは絡まないが、梳かしている途中で絡み、毛先まで梳かしきれない場合が生じた。
【0060】
(3)摺動子の表面粗さと摺動音の検出特性
(2)で用いた毛髪サンプルを、試験例2−1の毛髪センサーと試験例2−2の毛髪センサーを用いて梳かし、摺動音を測定した。この周波数解析結果のパワースペクトルの時間変化のグラフを図13に示す。同図から、表面粗さが0.7μmの試験例2−2では2つの周波数帯域(5500Hz付近と8000Hz付近)で強い摺動音が観察されるのに対し、表面粗さが0.1μmの試験例2−1では、6000H付近の摺動音は明らかに強くなっているが、9000Hz付近の摺動音ははっきりしていない。したがって、試験例2−1の毛髪センサーに比して表面粗さの粗い試験例2−2の毛髪センサーの方が感度が高いことがわかる。
【0061】
同様の結果は、毛髪サンプルとして、金髪の毛束を用いた場合にも得られた。
【0062】
(4)毛髪の性状による摺動音の比較
毛髪サンプルとして、(2)で用いたアジア人の直毛のきれいな髪の毛束と、その毛束をブリーチ剤で処理したものと、くせ毛の混じったアジア人の毛束を用意し、それぞれについて試験例2−2の毛髪センサーを用いて摺動音を測定した。この場合、ブリーチ剤としては、花王株式会社製ラビナスカラーアピール蜂(ハチ)ハイブリーチの1液と2液の混合比を1液:2液=2:3で混合したものを使用し、ブリーチ方法としては、毛髪重量に対して等量のブリーチ剤を室温で20分〜30分毛髪に適用する処理を繰り返した。結果を図14及び図15A、図15B、図15Cに示す。
【0063】
図14から、4000Hz以上の領域において、ブリーチ後の毛髪の摺動音はブリーチ前のきれいな髪の摺動音に比して強いこと、また、くせ毛の混じった髪の摺動音は広い周波数帯で摺動音の強度が強く、特に4000〜5000Hz、6000〜7000Hz、9000〜10000Hzでノイズレベルの高いことがわかる。
【0064】
また、図15からブリーチ前のきれいな髪は全体として摺動音の強度が低いが、ブリーチ後には、高周波成分が現れること、くせ毛の混じった髪の摺動音には低周波成分(大きなうねり)が含まれることがわかる。
【0065】
実施例3
図9A、図9Bに示したように、振動板12の背面に歪ゲージ15を設ける以外は実施例2の試験例2−2と同様の毛髪センサーを作製した。この場合、歪ゲージ15としては、東京測器研究所製歪ゲージFLA−2−11−1Lを使用し、振動板12の背面に同社から提供されている専用接着剤で貼付した。歪みゲージによる検出信号は、歪ゲージ用のアンプ回路にて増幅し、パーソナルコンピュータにアナログ信号として入力し、毛髪センサーで髪を梳かすときに髪にかかる荷重を摺動音と同時に測定できるようにした。
【0066】
この毛髪センサーを用いて、実施例2(4)で用いたアジア人の直毛の毛髪サンプルとくせ毛の混じった毛髪サンプルのそれぞれを梳かしたときの摺動音と荷重を測定した。結果を図16A、図16Bに示す。
【0067】
これらの図から、直毛の毛髪サンプルでは、梳かし始めから梳かし終わりまで荷重が一定であり、摺動音も一定であるが、くせ毛の混じった毛髪サンプルは、毛先にいくに従って荷重と摺動音が大きくなることがわかる。
【0068】
実施例4
図1A、図1Bに示した毛髪センサー1の本体ハウジング2の内部に音声信号処理機能とUSBインターフェース機能を搭載したC−Media社のCM108(LSIチップ)を内蔵させることで、アンプ21を用いず、直接USBコネクターによってパーソナルコンピュータ23へ接続するようにし、図10Bの摺動音の検出システムを構築した。
【0069】
この場合、低周波ノイズフィルターとして0.022μFのコンデンサーを、LSIチップに接続されているデカップリングコンデンサーに直列に接続した。また、摺動子は実施例2の試験例2−2と同様とした。
【0070】
この毛髪センサーを用いて、実施例2(2)で用いたアジア人の直毛の毛髪サンプルの摺動音を測定した。また、低周波ノイズフィルターとして0.022μFのコンデンサーを取り付けない以外は同様の毛髪センサーを用いて、同様に摺動音を検出した。この結果を図17A、図17Bに示す。
【0071】
図17B(低周波ノイズフィルターなし)において、300Hz以下の大きな信号は、毛髪センサーを握るとき、あるいは、測定中に生じる低周波音である。これに対し、図17A(低周波ノイズフィルターあり)では低周波音が低く抑えられており、余計なノイズ音なしに摺動音が観察されるようになっていることが確認される。即ち、50Hz以下の周波数に対して約−20db以上のフィルター効果が認められ、300Hz以上の周波数領域においては約−3db以内の損失であることが認められた。この低周波ノイズフィルターの効果は測定音を耳で聞く場合には顕著であり、フィルター効果がない場合は、摺動音は低周波音に隠れてしまい、大変聞きづらいものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の毛髪センサーによれば、ノイズの混入を極力抑えて、毛髪の摺動音を検出することができるので、検出された摺動音から毛髪の性状評価を容易かつ正確に行うことが可能となる。よって、毛髪の健康状態のカウンセリングや、毛髪化粧料の効果試験、毛髪化粧料の販売支援ツール等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1A】実施例の毛髪センサーの外観を示す斜視図である。
【図1B】実施例の毛髪センサーの内部構成を示す斜視図である。
【図2A】摺動部10Aの斜視図である。
【図2B】摺動部10Aの断面図である。
【図2C】摺動部10Aの上面図である。
【図3A】摺動部10Bの斜視図である。
【図3B】摺動部10Bの断面図である。
【図4A】摺動部10Cの斜視図である。
【図4B】摺動部10Cの断面図である。
【図5A】摺動部10Dの斜視図である。
【図5B】摺動部10Dの断面図である。
【図6】摺動部10Eの斜視図である。
【図7】摺動部10Fの斜視図である。
【図8】摺動部10Gの斜視図である。
【図9A】摺動部10Hの斜視図である。
【図9B】摺動部10Hの断面図である。
【図10A】毛髪の摺動音の検出システムの構成図である。
【図10B】毛髪の摺動音の検出システムの構成図である。
【図11】電子ブザーの位置と計測音量との関係を求める実験の説明図である。
【図12A】実施例1の毛髪センサーが拾ったブザー音量を示すグラフである。
【図12B】比較例1の毛髪センサーが拾ったブザー音量を示すグラフである。
【図13】摺動音の測定グラフである。
【図14】摺動音の測定グラフである。
【図15A】摺動音の測定グラフである。
【図15B】摺動音の測定グラフである。
【図15C】摺動音の測定グラフである。
【図16A】摺動音と荷重の測定グラフである。
【図16B】摺動音と荷重の測定グラフである。
【図17A】低周波ノイズフィルター付の毛髪センサーによる摺動音の測定グラフである。
【図17B】低周波ノイズフィルター無しの毛髪センサーによる摺動音の測定グラフである。
【符号の説明】
【0074】
1 毛髪センサー
2 本体ハウジング
3 握り部
4 ガード部材
5 マイクロホン
5a ダイヤフラム
7 スイッチ
10A、10B、10C、10D、10E、10F、10G、10H 摺動部
11A 平棒状摺動子
11B 三角板状摺動子
11C 丸棒状摺動子
12 振動板
13 穴
14 光学移動量計測センサー
15 歪ゲージ
16 振動減衰体
20A、20B 摺動音の検出システム
21 アンプ
22 ヘッドホン
23 パーソナルコンピュータ
24 プリンタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の摺動音を検出することにより毛髪の表面状態や硬さ等の毛髪の性状を評価するために用いるセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かす際の櫛通し音は、毛髪表面が大きく損傷している場合には、毛髪と櫛歯あるいはブラシ歯との摩擦が大きくなるために大きくなり、反対に毛髪の損傷が少ない場合や、毛髪化粧料の使用により毛髪表面が滑らかになっている場合には、櫛通し音が小さくなる。
【0003】
そこで、この櫛通し音から毛髪の損傷状態あるいは毛髪化粧料による毛髪状態の変化を評価するシステムとして、櫛又はブラシの背面中央部にマイクロホンを固定したマイクロホン付き櫛又はブラシと、このマイクロホン付き櫛又はブラシで髪を梳かした際にマイクロホンが検出する櫛通し音信号を増幅する信号増幅器を備えた装置(非特許文献1)、同様の原理の装置(特許文献1)、あるいは櫛通し音信号にフーリエ変換を行って周波数解析を施すと共に、増幅した櫛通し音信号をスピーカーから音声出力できるようにした装置(特許文献2)が提案されている。
【0004】
【非特許文献1】J.SOC.COSMETIC CHEMISTS,17,171-179(1966)
【特許文献1】特表2004−527730号公報
【特許文献2】特開2004−159830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に櫛又はブラシの背面中央部にマイクロホンを固定したマイクロホン付き櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かし、その際に生じる櫛通し音をマイクロホンで検出する場合には、外的要因によるノイズが大きいため、マイクロホンが検出した信号を増幅して音声出力しても、櫛通し音のみを判別することが難しく、それ故、音声出力した櫛通し音から毛髪の損傷状態を評価することが困難であった。
【0006】
これに対し、本発明は、毛髪の損傷状態あるいは毛髪化粧料による毛髪状態の変化を評価するために、毛髪の摺動音を検出し、それを増幅して音声出力するにあたり、ノイズの混入を極力抑え、摺動音から毛髪の性状評価を容易かつ正確に行えるようにし、且つ、現実的な操作における簡便性と保守性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のマイクロホン付き櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かした場合の櫛通し音にノイズが多く、また、この櫛通し音から毛髪の性状評価を正確に行うことが困難となる理由として、(i)従来の、マイクロホン付き櫛又はブラシを用いて毛髪を梳かした場合の櫛通し音には、櫛歯又はブラシ歯と毛髪との摺動音に加えて、櫛歯又はブラシ歯と頭皮との摺動音がノイズとして混入しやすいこと、(ii)店頭や街頭で使用する場合、人の声、車の走行音、店内のBGM等もノイズとして拾われること、(iii)マイクロホンが櫛又はブラシの背面中央部に固定されるため、櫛又はブラシの中央部で毛髪が梳かれた場合の音と、櫛又はブラシの端部で毛髪が梳かれた場合の音とでは、音の検出感度が大きく異なること、(iv)被験者の当該櫛通し音が、マイクロホン付き櫛又はブラシの中央部ないし端部のいずれで梳かされることにより得られたものであるかが不明であり、これらの混在したものが出力されること、(v)摺動子表面の粗さが測定結果に影響を与えること、(vi)センサーとなる櫛あるいはセンサーを内蔵する筐体を握ることで大きな低周波ノイズが混入することを見出した。そして、従来の櫛歯あるいはブラシ歯ではなく、毛髪の摺動音を検出するための摺動子を振動板上に起立させ、振動板外で起立する摺動子をなくし、かつその摺動子と振動板をマイクロホンの感度の高い位置に配置すること等により、振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動を低減させるとノイズが抑制され、毛髪の摺動音を良好に検出できること、さらに、摺動子表面に微細な粗さを設けることで測定精度を向上させられること、低周波をカットするノイズフィルターを追加することで毛髪の摺動音を良好に検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、毛髪の性状評価のために毛髪の摺動音を検出するセンサーであって、
毛髪を擦る摺動子と本体ハウジングを有し、
本体ハウジングはその内部にマイクロホンを備え、
摺動子が振動板より起立し、
摺動子による摺動音が振動板を介してマイクロホンへ振動として伝わるとともに、振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動が減衰するように、摺動子及び振動板が配置されている毛髪センサーを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛髪センサーによれば、毛髪を擦る摺動子を振動板より起立させ、その摺動子及び振動板をマイクロホンの振動板(ダイヤフラム)の直前等の高感度部位に配置するなどにより、摺動子による摺動音がマイクロホンへ振動として効率よく伝わるようにすると共に振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動を減衰させているので、マイクロホンで検出される音は、専ら、毛髪が摺動子と直接擦れあうことにより発生した摺動音となり、マイクロホンの指向性の範囲外で櫛歯あるいはブラシ歯と髪が擦れることにより生じた音や、櫛歯あるいはブラシ歯が頭皮と擦れることにより生じた音がノイズとして検出されることが抑制される。
【0010】
したがって、この毛髪センサーによる検出信号を増幅して音声出力することにより、あるいは音声信号をモニターで視覚的に表示することにより、毛髪の性状評価を容易かつ正確に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0012】
図1Aは、本発明の一実施例の毛髪センサー1の外観を示す斜視図、図1Bは、その内部構成を示す斜視図である。
【0013】
この毛髪センサー1は、キューティクルの表面凹凸等の表面状態や、硬さ、毛髪の絡みなどの毛髪の性状評価をするために毛髪の摺動音を検出するものであり、本体ハウジング2に摺動部10Aを備えている。
【0014】
本体ハウジング2は、中央部が握り部3となり、一端が先端部近傍で屈曲し、屈曲した先端部には摺動部10Aが着脱自在に取り付けられている。また、摺動部10Aの両端部には、ガード部材4が本体ハウジング2と一体に形成されている。本体ハウジング2の内部では、摺動部10Aに隣接する位置にマイクロホン5が設けられ、そのスイッチ7が本体ハウジング2の表面に設けられている。
【0015】
図2A、図2B、図2Cに示すように、摺動部10Aでは、複数の平棒状摺動子11Aが振動板12上に起立し、配列している。本実施例においては、この振動板12がマイクロホン5の振動板(ダイヤフラム)5aの直前、より好ましくはマイクロホン5の振動板(ダイヤフラム)5aの前方10mm以内に設けられ、振動板12とマイクロホン5との間に音の伝搬障害になるものがなく、振動板12からマイクロホン5へ効率よく振動が伝わるようにすることを一つの特徴としている。この場合、平棒状摺動子11Aが起立する振動板12は、毛髪センサー1に使用する当該マイクロホン5の構造に応じて、マイクロホン素子の振動板(ダイヤフラム)と、できるだけ近づけるか直接接するようにすることが好ましく、一体に構成してもよい。例えば、マイクロホン5として、ダイヤフラム5aがマイクロホン5の前面からやや奥まった位置に配置されているエレクトリックコンデンサー型マイクロホン素子を使用する場合、図2Bに示すように、ダイヤフラム5aができるだけ摺動子の振動板12に近づくように、両面粘着材や液状接着剤等を介してマイクロホン5の前面を摺動子の振動板12に接着することが好ましい。またマイクロホン5として、圧電素子を使用した圧電型マイクロホン素子を使用する場合、その前面に露出しているマイクロホン素子の振動板が摺動子の振動板12に直接接触するか、できるだけ近接するようにマイクロホン素子を配置することが好ましい。
【0016】
上述の特徴に加えて、本実施例においては、振動板12以外からマイクロホン5へノイズとして伝わる振動が減衰するように平棒状摺動子11Aと振動板12を配置していることも特徴としている。即ち、振動板12及び振動板12に起立した平棒状摺動子11Aを、マイクロホン5の振動板(ダイヤフラム)の直前の感度の高い位置に配置し、振動板12の外で起立する平棒状摺動子11Aをなくしている。
【0017】
この他、振動板12以外からマイクロホン5へ伝わるノイズが減衰するように平棒状摺動子11Aと振動板12を配置する態様としては、スイッチ部分やプリント配線板など最低限必要な空間を残して、本体ハウジング2の内部をプラスチックで充填することにより、本体ハウジング2の共振を防止し、その共振を防止した本体ハウジング2内に振動板12を配置することが好ましい。
【0018】
また、上記振動板12以外からマイクロホン5への振動を減衰させる手段として、マイクロホン5の周囲を、その振動板12に面している側を除き、天然ゴム、合成ゴム、発泡材料、遮音性を備える合成樹脂等で作られた振動減衰体16で取り囲むこと、特に、シリコーンゴムからなる振動減衰体16で取り囲んだマイクロホン5を設けることがより好ましい。
【0019】
平棒状摺動子11Aの配列の長さL1は、4〜25mmとし、通常の櫛やブラシの長さに比して短くすることが好ましい。これにより、毛髪の摺動音の検出時には、ここに起立している全ての平棒状摺動子11Aを同時に用いて毛髪を擦ることができ、検出感度を安定化させることができる。
【0020】
また、毛髪を摺動するときの摩擦抵抗を低減し、ノイズの少ない検出音を得る等の点から、平棒状摺動子11Aの厚みL2は0.5〜3mm、幅L3は1〜15mm、高さL4は5〜25mmとすることが好ましく、さらに機械的強度を確保する点から高さL4は5〜15mmとすることが好ましい。
【0021】
平棒状摺動子11Aの材質としては、この毛髪センサー1を不特定多数の人の毛髪の性状評価に繰り返し使用できるようにするため、十分な機械的強度を有すると共に、アルコール等の有機溶剤を用いた洗浄や消毒の繰り返しに耐えられるものが好ましく、例えば、ジュラルミン、アルミニウム、ステンレス、鉄、銅、及びそれらの合金等の金属材料を使用する。これに対し、高密度ポリエチレン等のポリマー素材で平棒状摺動子11Aを作製すると、街頭や店頭で顧客の頭髪を評価し続けた場合に、強度が不足して摺動子が破損するおそれがある。また、平棒状摺動子に付着したスタイリング剤等のヘアケア剤を除去するため、これをアルコール等の有機溶剤で繰り返し洗浄した場合にも破損するおそれがある。
【0022】
また、平棒状摺動子11Aの表面は、滑らかすぎると、毛髪を擦っても十分な摺動音を発生させることが難しく、且つ、特に長い髪において毛髪が引っかかりやすく、反対に粗すぎても毛髪が引っかかり、絡みやすくなるので、適度に粗化することが好ましく、より具体的には、サンドブラスト処理、陽極酸化処理、各種薬剤処理、放電加工処理、切削加工等あるいはこれら処理の組み合わせにより、表面粗さRaを0.1μm以上5.0μm以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上2.5μm未満とする。
【0023】
この摺動部10Aにおいて、平棒状摺動子11Aの配列態様は、その厚み方向に1列となっている。摺動子を多数列に配列することも可能であるが、1列に配列することにより、毛髪の摺動音の検出時に、手前の列で擦れた摺動音と奥の列で擦れた摺動音とがずれて重なり合うことがなく、正確に摺動音を検出することができるので好ましい。
【0024】
一方、振動板12は、検出感度を高めるため、薄い方が好ましいが、薄すぎると強度が低くなって破損し易くなり、反対に厚すぎると検出感度が低くなるので、その厚さL5は0.1〜4mmとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mmとする。
【0025】
平棒状摺動子11Aと振動板12との形成方法に関し、これらを別体に形成し、平棒状摺動子11Aを振動板12に埋め込むように固定する場合には、振動板12を上述のように薄く形成することは難しい。したがって、平棒状摺動子11Aと振動板12は、鋳造や切削加工により一体成形することが好ましい。
【0026】
マイクロホン5としては、コンデンサー型、圧電型、ダイナミック型等を使用することができ、中でも小型化が可能であり、広い周波数帯域に渡ってフラットな周波数特性を持ち、安定性が高い点からコンデンサー型が好ましい。また、マイクロホン5の指向性としては、ノイズを抑制する点から単一指向性が好ましい。
【0027】
この毛髪センサー1では、本体ハウジング2において、マイクロホン5上に摺動部10Aを取り付けた場合に、平棒状摺動子11Aの両側部のガード部材4が平棒状摺動子11Aよりも突出するように形成されている。したがって通常の櫛で毛髪を梳かすようにして、毛髪センサー1の摺動部10Aで毛髪を擦っても、平棒状摺動子11Aが頭皮に接触することはなく、頭皮の摺動音がノイズとして毛髪の摺動音に混入することを防止することができる。
【0028】
この毛髪センサー1は、種々の態様をとることができる。例えば、平棒状摺動子11Aを1列に配列した上述の摺動部10Aに代えて、図3A、図3Bに示すように、平棒状摺動子11Aを2列に配列した摺動部10Bを本体ハウジング2に取り付けても良い。
【0029】
また、平棒状摺動子11Aに代えて、図4A、図4Bに示す摺動部10Cのように三角板状摺動子11Bを設けてもよく、その配列態様は、1列目の摺動子と2列目の摺動子が互い違いになるようにしてもよい。
【0030】
さらに、平棒状摺動子であっても三角板状摺動子であっても、必要に応じて、図5A、図5Bに示す摺動部10Dのように振動板12を厚く形成して穴13をあけ、毛髪の摺動音がマイクロホン5で検出されるようにしてもよい。この摺動部10Dによれば、図4A、図4Bの摺動部10Cに比して、外部ノイズは大きくなるが、毛髪と摺動子との摺動音の他に毛髪同士の摺動音も検出することが可能となる。
【0031】
この他、図6に示す摺動部10Eのように、丸棒状摺動子11Cを設けてもよく、図7に示す摺動部10Fのように、丸棒状摺動子11Cを十字型に配列してもよい。
【0032】
平棒状摺動子11Aと三角板状摺動子11Bと丸棒状摺動子11Cとを対比すると、三角板状摺動子11Bの場合には、振動板12に近い部分と振動板12から離れた先端部とで毛髪と摺動子との接触面積が異なるため、摺動音の検出感度が毛髪と摺動子との接触位置によって異なるが、平棒状摺動子11Aの場合には、摺動音の検出感度が、毛髪と摺動子との接触位置による影響を受けにくいので好ましい。また、丸棒状摺動子11Cと平棒状摺動子11Aとを対比すると、平棒状摺動子11Aの方が毛髪と摺動子との接触面積が大きいので、摺動音を効率よく検出することができるので好ましい。
【0033】
以上のいずれの態様においても、マイクロホン5で検出した信号の伝達経路に100Hz以下の低周波ノイズ成分を抑圧する低周波ノイズフィルターを設けることが好ましい。即ち、毛髪センサー1の本体ハウジング2を握るとき、若しくは離すとき、または測定中に毛髪センサー1の本体ハウジング2を握っているときの力の変化が、100Hz以下の低周波ノイズとして検出される場合がある。この低周波ノイズのレベルは比較的大きく、測定信号に影響を及ぼす。これに対し、マイクロホン5で検出した信号の伝達経路に低周波ノイズフィルターを設けることにより、このような低周波ノイズを除去することができる。
【0034】
低周波ノイズフィルターとしては、コンデンサー素子と抵抗素子からなるn次フィルター、論理演算器を使用したアクティブフィルター等を使用できる。なお、一般に、マイクロホン素子とアンプ回路との間には、デカップリングコンデンサーが直列に接続されているが、デカップリングコンデンサーは、可聴域の周波数を通すように設定されているため、毛髪センサー1の本体ハウジング2を握ること等により生じる低周波ノイズ成分を通過させてしまう。これに対し、低周波ノイズフィルターとは、このような低周波ノイズ成分の通過を遮断するものである。
【0035】
低周波ノイズフィルターの特性としては、50Hz以下の周波数に対して約−12db以上のフィルター効果、好ましくは50Hz以下の周波数に対して約−20db以上のフィルター効果を有するものが好ましく、一方、300Hz以上の周波数領域においては、0dbの損失であるものが好ましく、約−3db以内の損失であるものがより好ましい。
【0036】
なお、低周波ノイズフィルターは、低周波ノイズフィルターの形態により、毛髪センサー1内に組み込んでもよく、この毛髪センサー1を接続するアンプ回路の前段に設けてもよい。
【0037】
さらに、図8に示す摺動部10Gのように、光学マウスに用いられているような光学移動量計測センサー14を用いて、検出した摺動音と、そのときの摺動子と毛髪の相対的移動量を関連付けて摺動音を解析できるようにしてもよく、図9A、図9Bに示す摺動部10Hのように、振動板12の背面に膜状の歪ゲージ15とマイクロホン5を順次取り付け、摺動部10Hで毛髪を擦ったときに、毛髪の摺動音と共に、毛髪にかかる負荷を検出できるようにしてもよい。これにより、毛髪の状態をより詳細に解析することが可能となる。
【0038】
図9A及び図9Bで示したように、歪ゲージ15を取り付ける場合、歪ゲージ15はマイクロホン5と共に振動板12に接着される必要がある。これは、測定時に毛髪の同一部位からの摺動音および歪信号を同期した状態で得るために必要である。歪ゲージ15とマイクロホン5とを離れた部位に設置すると、必ずしも毛髪の同一部位からの信号を解析しているとは言い難く、結果の解釈に不確実性が生じる。歪ゲージ15とマイクロホン5とを共に振動板12に接着することにより、マイクロホン5で検出される摺動音には主に毛髪表面の状態が反映され、歪ゲージ15で検出される荷重には毛髪同士の絡まり効果が主に反映される。
【0039】
歪ゲージ15で大きな荷重が測定される毛髪では、日常的なブラッシングにより枝毛や切毛が発生しやすいことから、荷重の測定により枝毛や切毛の発生しやすい部位を発見することが可能となる。また、摺動音は大きいが荷重が比較的小さい場合は、毛髪そのものの傷みは大きいが、日ごろの頭髪の手入れが行き届いていることが予測でき、摺動音は小さいが荷重が大きい場合は、毛髪は傷んでいないが、手入れが不完全であることが予測できる。
【0040】
また、振動板上に棒状摺動子を起立させた摺動部に代えて、対向する2枚の面状の摺動子を使用し、この2枚の摺動子の間に毛髪を挟んで擦り、毛髪の摺動音を得られるようにしてもよい(図示せず)。
【0041】
本発明の毛髪センサー1は、例えば、図10Aに示す毛髪の摺動音の検出システム20Aで使用することができる。この検出システム20Aは、毛髪センサー1、毛髪センサーが検出した摺動音の信号を増幅して出力すると共に、感度調整をするアンプ21、アンプ21に接続されたヘッドホン22、アンプに接続されたパーソナルコンピュータ23、及びパーソナルコンピュータ23に接続されたプリンタ24からなる。
【0042】
さらに、使用時の簡便性を向上させるため、図10Bに示す検出システム20Bのように、毛髪センサー1は、アンプ21を用いずに、USB(ユニバーサルシリアルバス)等の汎用インターフェースで直接パーソナルコンピュータ23に接続されてもよい。この場合、アンプ回路およびUSBインターフェース回路としては、各社から発売されている既存のLSIが使用でき、毛髪センサー1に内蔵することが可能である。
【0043】
毛髪センサー1とパーソナルコンピュータ23とのUSB接続を可能とすることにより、パーソナルコンピュータ23の機種や個体差によるアナログ信号検出感度の違いを気にすることなく、マウスを接続するような手軽さで、広く一般的なパーソナルコンピュータを用いることが可能となる。
【0044】
アンプ回路およびUSBインターフェース回路としては、C−Media社のCM108やそれに相当する機能を持つLSI素子、ルネッサンステクノロジー社のマイコンチップであるH8シリーズ、マイクロチップテクノロジー社のワンチップマイコンであるPICシリーズ、サイプレス社のマイコンチップであるEasyUSBシリーズ、また、これらと例えばFTDI社から発売されているFTDI245シリーズやFTDI232シリーズといったUSB接続用LSIを組み合わせてもよい。
【0045】
摺動音の検出システム20Aで毛髪の摺動音を検出する場合には、まず、毛髪センサー1の摺動部10で毛髪を擦り、そのときに得られる摺動音の検出信号をアンプ21(又は毛髪センサーに内蔵されているアンプ回路)に送る。これにより、ヘッドホン22から毛髪の摺動音を拡大して聞くことができる。したがって、当該毛髪が損傷している状態と損傷状態が緩和されている状態とにおける摺動音の変化や、毛髪がごわついている状態と、柔軟になっている状態とにおける摺動音の変化等、毛髪の性状による摺動音の変化を明確に聞き分けることが可能となる。さらに、パーソナルコンピュータ23の画面に、検出された摺動音の周波数と音量の関係、あるいは摺動時間と音量との関係などを視覚的に表示することにより、上述の毛髪の性状による摺動音の変化を視覚的に認識することも可能となる。パーソナルコンピュー23を用いる場合には、検出された摺動音の周波数と音量に応じて、毛髪の性状を数段階に評価してもよい。なお、この評価基準は、性状が既知の多数の毛髪の摺動音を検出することにより、性状と摺動音との関係を予め蓄積することにより得ることができる。
【実施例】
【0046】
実施例1、比較例1
(1)電子ブザーの位置と計測音量との関係
実験室(騒音レベル48〜50dB)において、図11に示すように、半径50cmの円の中心に騒音計(カスタム社、SL-1370)を設置し、上述の円上でこの騒音計を四方から囲む4箇所(位置1〜4)から電子ブザー(周波数:約2kHz)を順次鳴らし、円の中心の騒音計で音量を測定した。この結果を表1に示す。同表に示すように、ブザー音の測定値は、およそ80dB前後であった。この測定値は、東京都内の片側三車線道路の交差点において車道から5〜10m程度離れた地点での測定値(70〜80dB)に近い値である。
【0047】
【表1】
【0048】
(2)毛髪センサーの作製と外来ノイズの測定
図1A、図1Bに示した毛髪センサー(実施例1)と、通常のクシの背面中央部にマイクロホンが固定されている従来の毛髪センサー(比較例1)を作製し、それぞれ図11の騒音計の位置に設置し、(1)と同様にして位置1〜4から電子ブザーを鳴らし、各毛髪センサーが拾うブザー音量を測定した。
【0049】
ここで、実施例1の毛髪センサーと比較例1の毛髪センサーには、共に同一のコンデンサー型マイクロホン(パナソニック社、製品名:WM−55A103)を設けた。
【0050】
また、実施例1の毛髪センサーの摺動部としては、図2A〜図2Cの形状を有し、その平棒状摺動子は厚みL2 1.2mm、幅L3 4.6mm、高さL4 15mm、配列の長さL1 11mmで、ジュラルミン製(表面粗さRa=0.7μm)のものを用いた。比較例1の毛髪センサーのクシとしては、高さ20mm、幅2.5mm、厚み1mmのクシ歯が一列に長さ100mm列設したプラスチック製のものを用いた。
【0051】
各毛髪センサーが拾ったブザー音量を表2と図12A,図12Bに示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2及び図12A、図12Bの結果から、実施例1の毛髪センサーは比較例1の毛髪センサーに比して、外来ノイズが非常によく低減されていることがわかる。したがって、実施例1の毛髪センサーによれば、増幅率を高くすることにより詳細な毛髪表面の摩擦情報を得ることができる。また、実施例1の毛髪センサーは、街頭での毛髪化粧料のイベント等において、特に周囲の音などを気にすることなく使用することが可能となる。
【0054】
実施例2
(1)摺動子の作製
平棒状摺動子の表面粗さを鏡面処理又はブラスト処理により調整し、表3の通りとする以外は、実施例1と同様の毛髪センサーを作製した。なお、表面粗さは、東京精密社サーフコム590Aによって計測した。測定条件は、測定長さ1〜3mm、測定速度0.3mm/S、カットオフ波長0.8mm、カットオフ種別2CR、傾斜補正最小二乗直線である。
【0055】
(2)摺動子の表面粗さと毛髪の絡みやすさ
毛髪サンプルとして長さ20cm、幅2cm、厚み0.5cmのアジア人の直毛のきれいな髪(即ち、カラー処理パーマ処理などの化学処理を施していない髪)の毛束を用意し、(1)で作製した各毛髪センサーで毛髪サンプルをその根元から毛先まで梳かし、毛髪の絡みやすさと測定による毛髪の損傷の程度を次のように評価した。結果を表3に示す。
【0056】
毛髪の絡みやすさの評価方法:
評価基準A:梳かし始めから梳かし終わりまで絡まない
B:梳かし始めは絡まないが途中で絡む
C:梳かし初めから絡む
【0057】
毛髪の損傷の評価方法:
評価基準A:毛髪の削りカスがない
B:毛髪の削りカスが少しある
C:毛髪の削りカスが多い
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すように、摺動子の表面粗さが2.5μm以上となると、梳かし初めから毛髪が摺動子に絡み、毛髪が損傷した。反対に、摺動子の表面が鏡面仕上になっていると、梳かし初めは絡まないが、梳かしている途中で絡み、毛先まで梳かしきれない場合が生じた。
【0060】
(3)摺動子の表面粗さと摺動音の検出特性
(2)で用いた毛髪サンプルを、試験例2−1の毛髪センサーと試験例2−2の毛髪センサーを用いて梳かし、摺動音を測定した。この周波数解析結果のパワースペクトルの時間変化のグラフを図13に示す。同図から、表面粗さが0.7μmの試験例2−2では2つの周波数帯域(5500Hz付近と8000Hz付近)で強い摺動音が観察されるのに対し、表面粗さが0.1μmの試験例2−1では、6000H付近の摺動音は明らかに強くなっているが、9000Hz付近の摺動音ははっきりしていない。したがって、試験例2−1の毛髪センサーに比して表面粗さの粗い試験例2−2の毛髪センサーの方が感度が高いことがわかる。
【0061】
同様の結果は、毛髪サンプルとして、金髪の毛束を用いた場合にも得られた。
【0062】
(4)毛髪の性状による摺動音の比較
毛髪サンプルとして、(2)で用いたアジア人の直毛のきれいな髪の毛束と、その毛束をブリーチ剤で処理したものと、くせ毛の混じったアジア人の毛束を用意し、それぞれについて試験例2−2の毛髪センサーを用いて摺動音を測定した。この場合、ブリーチ剤としては、花王株式会社製ラビナスカラーアピール蜂(ハチ)ハイブリーチの1液と2液の混合比を1液:2液=2:3で混合したものを使用し、ブリーチ方法としては、毛髪重量に対して等量のブリーチ剤を室温で20分〜30分毛髪に適用する処理を繰り返した。結果を図14及び図15A、図15B、図15Cに示す。
【0063】
図14から、4000Hz以上の領域において、ブリーチ後の毛髪の摺動音はブリーチ前のきれいな髪の摺動音に比して強いこと、また、くせ毛の混じった髪の摺動音は広い周波数帯で摺動音の強度が強く、特に4000〜5000Hz、6000〜7000Hz、9000〜10000Hzでノイズレベルの高いことがわかる。
【0064】
また、図15からブリーチ前のきれいな髪は全体として摺動音の強度が低いが、ブリーチ後には、高周波成分が現れること、くせ毛の混じった髪の摺動音には低周波成分(大きなうねり)が含まれることがわかる。
【0065】
実施例3
図9A、図9Bに示したように、振動板12の背面に歪ゲージ15を設ける以外は実施例2の試験例2−2と同様の毛髪センサーを作製した。この場合、歪ゲージ15としては、東京測器研究所製歪ゲージFLA−2−11−1Lを使用し、振動板12の背面に同社から提供されている専用接着剤で貼付した。歪みゲージによる検出信号は、歪ゲージ用のアンプ回路にて増幅し、パーソナルコンピュータにアナログ信号として入力し、毛髪センサーで髪を梳かすときに髪にかかる荷重を摺動音と同時に測定できるようにした。
【0066】
この毛髪センサーを用いて、実施例2(4)で用いたアジア人の直毛の毛髪サンプルとくせ毛の混じった毛髪サンプルのそれぞれを梳かしたときの摺動音と荷重を測定した。結果を図16A、図16Bに示す。
【0067】
これらの図から、直毛の毛髪サンプルでは、梳かし始めから梳かし終わりまで荷重が一定であり、摺動音も一定であるが、くせ毛の混じった毛髪サンプルは、毛先にいくに従って荷重と摺動音が大きくなることがわかる。
【0068】
実施例4
図1A、図1Bに示した毛髪センサー1の本体ハウジング2の内部に音声信号処理機能とUSBインターフェース機能を搭載したC−Media社のCM108(LSIチップ)を内蔵させることで、アンプ21を用いず、直接USBコネクターによってパーソナルコンピュータ23へ接続するようにし、図10Bの摺動音の検出システムを構築した。
【0069】
この場合、低周波ノイズフィルターとして0.022μFのコンデンサーを、LSIチップに接続されているデカップリングコンデンサーに直列に接続した。また、摺動子は実施例2の試験例2−2と同様とした。
【0070】
この毛髪センサーを用いて、実施例2(2)で用いたアジア人の直毛の毛髪サンプルの摺動音を測定した。また、低周波ノイズフィルターとして0.022μFのコンデンサーを取り付けない以外は同様の毛髪センサーを用いて、同様に摺動音を検出した。この結果を図17A、図17Bに示す。
【0071】
図17B(低周波ノイズフィルターなし)において、300Hz以下の大きな信号は、毛髪センサーを握るとき、あるいは、測定中に生じる低周波音である。これに対し、図17A(低周波ノイズフィルターあり)では低周波音が低く抑えられており、余計なノイズ音なしに摺動音が観察されるようになっていることが確認される。即ち、50Hz以下の周波数に対して約−20db以上のフィルター効果が認められ、300Hz以上の周波数領域においては約−3db以内の損失であることが認められた。この低周波ノイズフィルターの効果は測定音を耳で聞く場合には顕著であり、フィルター効果がない場合は、摺動音は低周波音に隠れてしまい、大変聞きづらいものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の毛髪センサーによれば、ノイズの混入を極力抑えて、毛髪の摺動音を検出することができるので、検出された摺動音から毛髪の性状評価を容易かつ正確に行うことが可能となる。よって、毛髪の健康状態のカウンセリングや、毛髪化粧料の効果試験、毛髪化粧料の販売支援ツール等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1A】実施例の毛髪センサーの外観を示す斜視図である。
【図1B】実施例の毛髪センサーの内部構成を示す斜視図である。
【図2A】摺動部10Aの斜視図である。
【図2B】摺動部10Aの断面図である。
【図2C】摺動部10Aの上面図である。
【図3A】摺動部10Bの斜視図である。
【図3B】摺動部10Bの断面図である。
【図4A】摺動部10Cの斜視図である。
【図4B】摺動部10Cの断面図である。
【図5A】摺動部10Dの斜視図である。
【図5B】摺動部10Dの断面図である。
【図6】摺動部10Eの斜視図である。
【図7】摺動部10Fの斜視図である。
【図8】摺動部10Gの斜視図である。
【図9A】摺動部10Hの斜視図である。
【図9B】摺動部10Hの断面図である。
【図10A】毛髪の摺動音の検出システムの構成図である。
【図10B】毛髪の摺動音の検出システムの構成図である。
【図11】電子ブザーの位置と計測音量との関係を求める実験の説明図である。
【図12A】実施例1の毛髪センサーが拾ったブザー音量を示すグラフである。
【図12B】比較例1の毛髪センサーが拾ったブザー音量を示すグラフである。
【図13】摺動音の測定グラフである。
【図14】摺動音の測定グラフである。
【図15A】摺動音の測定グラフである。
【図15B】摺動音の測定グラフである。
【図15C】摺動音の測定グラフである。
【図16A】摺動音と荷重の測定グラフである。
【図16B】摺動音と荷重の測定グラフである。
【図17A】低周波ノイズフィルター付の毛髪センサーによる摺動音の測定グラフである。
【図17B】低周波ノイズフィルター無しの毛髪センサーによる摺動音の測定グラフである。
【符号の説明】
【0074】
1 毛髪センサー
2 本体ハウジング
3 握り部
4 ガード部材
5 マイクロホン
5a ダイヤフラム
7 スイッチ
10A、10B、10C、10D、10E、10F、10G、10H 摺動部
11A 平棒状摺動子
11B 三角板状摺動子
11C 丸棒状摺動子
12 振動板
13 穴
14 光学移動量計測センサー
15 歪ゲージ
16 振動減衰体
20A、20B 摺動音の検出システム
21 アンプ
22 ヘッドホン
23 パーソナルコンピュータ
24 プリンタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の性状評価のために毛髪の摺動音を検出するセンサーであって、
毛髪を擦る摺動子と本体ハウジングを有し、
本体ハウジングはその内部にマイクロホンを備え、
摺動子が振動板より起立し、
摺動子による摺動音が振動板を介してマイクロホンへ振動として伝わるとともに、振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動が減衰するように、摺動子及び振動板が配置されている毛髪センサー。
【請求項2】
振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動を減衰させる振動減衰体が、振動板の設置位置を除きマイクロホンの周囲に設けられている請求項1記載の毛髪センサー。
【請求項3】
上記摺動子が複数の棒状摺動子である請求項1又は2記載の毛髪センサー。
【請求項4】
上記摺動子が平棒状摺動子からなり、厚み方向に1列に列設されている請求項3記載の毛髪センサー。
【請求項5】
棒状摺動子の両側部に、棒状摺動子よりも突出し、棒状摺動子が頭皮に接触することを防止するガード部材が設けられている請求項3又は4記載の毛髪センサー。
【請求項6】
棒状摺動子が該棒状摺動子と一体に形成された振動板に起立している請求項3〜5のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項7】
摺動子が、表面粗化処理された金属材料からなる請求項1〜6のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項8】
本体ハウジングが先端部近傍で屈曲し、該先端部に摺動子が交換可能に設けられている請求項1〜7のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項9】
歪ゲージが設けられている請求項1〜8のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項10】
USB(ユニバーサルシリアルバス)によって、コンピューターと接続可能である請求項1〜9のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項11】
低周波成分を抑圧する低周波ノイズフィルターを備えた請求項1〜10のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項1】
毛髪の性状評価のために毛髪の摺動音を検出するセンサーであって、
毛髪を擦る摺動子と本体ハウジングを有し、
本体ハウジングはその内部にマイクロホンを備え、
摺動子が振動板より起立し、
摺動子による摺動音が振動板を介してマイクロホンへ振動として伝わるとともに、振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動が減衰するように、摺動子及び振動板が配置されている毛髪センサー。
【請求項2】
振動板以外からマイクロホンへ伝わる振動を減衰させる振動減衰体が、振動板の設置位置を除きマイクロホンの周囲に設けられている請求項1記載の毛髪センサー。
【請求項3】
上記摺動子が複数の棒状摺動子である請求項1又は2記載の毛髪センサー。
【請求項4】
上記摺動子が平棒状摺動子からなり、厚み方向に1列に列設されている請求項3記載の毛髪センサー。
【請求項5】
棒状摺動子の両側部に、棒状摺動子よりも突出し、棒状摺動子が頭皮に接触することを防止するガード部材が設けられている請求項3又は4記載の毛髪センサー。
【請求項6】
棒状摺動子が該棒状摺動子と一体に形成された振動板に起立している請求項3〜5のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項7】
摺動子が、表面粗化処理された金属材料からなる請求項1〜6のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項8】
本体ハウジングが先端部近傍で屈曲し、該先端部に摺動子が交換可能に設けられている請求項1〜7のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項9】
歪ゲージが設けられている請求項1〜8のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項10】
USB(ユニバーサルシリアルバス)によって、コンピューターと接続可能である請求項1〜9のいずれかに記載の毛髪センサー。
【請求項11】
低周波成分を抑圧する低周波ノイズフィルターを備えた請求項1〜10のいずれかに記載の毛髪センサー。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【公開番号】特開2006−223853(P2006−223853A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13219(P2006−13219)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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