説明

気体吸着デバイス

【課題】吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる場合でも、優れた二酸化炭素吸着能力を発揮する気体吸着デバイスを提供する。
【解決手段】気体吸着デバイス1は、少なくともドーソナイト2と、酸性ガス吸着材3と、気体難透過性素材からなる容器4とからなり、容器4は、通気性を制御可能な仕切り5により少なくとも2つ以上の空間に仕切られており、ドーソナイト2と酸性ガス吸着材3は、それぞれ容器4の異なる空間に収容されており、さらに、外力により容器4を開封して、ドーソナイト2と酸性ガス吸着材3が収容されている空間を外部空間と通気可能にする突起物6を、酸性ガス吸着材3が収容されている空間側の容器4の外側に備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体吸着材を容器に収容した気体吸着デバイスに関するものであり、特に、吸着対象ガスの主成分が二酸化炭素であり、かつ二酸化炭素以外の酸性ガスを不純物として含む条件においても、優れた二酸化炭素吸着性能を発揮することが可能な気体吸着デバイスを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の原因となる気体の一種として近年注目されているが、工業的な排出や、燃焼排ガス中に含まれるものなど、経済活動に伴う二酸化炭素排出量の低減は困難であり、二酸化炭素を吸着することを目的に数多くの吸着材が実用化されている。
【0003】
また、」環境対応以外の場面でも、リチウム電池など、筐体内部で経時的に二酸化炭素を含む気体が発生し、そのために筐体の膨れなどの変形が生じることが課題となっている用途で、経時発生する二酸化炭素を吸着除去するために、気体吸着材の適用が試みられている。
【0004】
前者に関しては、A型またはX型ゼオライトを担持したハニカム型、格子状型、スパイラル型の構造を有することを特徴とする二酸化炭素の吸着体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどを多孔体物質に担持させた二酸化炭素吸着剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)。本構成により、80℃以上の高温雰囲気においても水分を含む気体から二酸化炭素を効率的に回収できる二酸化炭素吸着剤が提供できるとのことである。また、二酸化炭素キャリアーと酸性ガスキャリアーを膜中に保持させたことを特徴とする二酸化炭素分離促進輸送膜が提案されている(例えば、特許文献3参照)。これは、混合ガス中の二酸化炭素を分離、濃縮することを目的としたものであり、混合ガス中に酸性ガスが含まれている場合でも、有効に作用することを特徴とするものである。
【0005】
また、後者の目的に対しては、電池内部に気体吸着材を適用して発生ガスを吸着し、筐体内部の圧力上昇を抑制する技術が提案されている。その気体吸着材として、例えば、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、アルゴンガスを吸着する黒鉛材料、または、カーボンブラック、または、活性炭を導電助剤として適用する技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、水、二酸化炭素、酸素、水素の少なくとも一種を吸着できる多孔体物質を適用する技術が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−202408号公報
【特許文献2】特開2005−40753号公報
【特許文献3】特開平8−243364号公報
【特許文献4】特開平11−224670号公報
【特許文献5】特開平11−307131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、工業的に排出される燃焼ガスに含まれる二酸化炭素や、天然ガスから水素を得る際に副生する二酸化炭素、また、電池内部で発生する二酸化炭素などは、二酸化炭素ガスのみが生じるものではなく、複数の混合ガスのうちの主成分として発生するものが多い。燃焼ガスや、電池からの発生ガスには、塩化水素や、フッ化水素、イオウ酸化物、窒素酸化物など二酸化炭素以外の反応性の高い酸性ガスが含まれる場合もある。
【0008】
特許文献1に開示されたような、A型やX型ゼオライトを基材とする多孔体材料は、吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる場合には、ゼオライトに含まれる金属イオンサイトが酸性ガスと反応してしまい、ガス吸着が不活性化されたり、反応の結果、別のガスを発生したりする可能性があった。
【0009】
特許文献2に関しては、吸着対象ガスが水分を含む場合は考慮されているが、酸性ガスを含む場合については考慮されていない。特許文献2に開示された構成により、多孔体に担持される炭酸ルビジウムや炭酸セシウムが酸性ガスの一部を吸着することは可能であるが、本来の目的である二酸化炭素吸着能力が低下するとともに、コスト的にも不利な構成となってしまう。
【0010】
特許文献3に開示されたものは、酸性ガスの混在を考慮したものであるが、吸着材ではなく、分離膜目的である。また、二酸化炭素キャリアーと酸性ガスキャリアーの設置部位について特に明記されているものではない。
【0011】
また、特許文献4および5に開示された電池への適用では、いずれも多孔体材料を気体吸着材として用いたものであるが、特許文献1,2に開示されたものと同様に、酸性ガスとの混在を考慮されていないため、二酸化炭素より反応性の高い酸性ガスを優先的に吸着した結果、二酸化炭素吸着が不活性化されたり、別のガスを発生したりする可能性があった。
【0012】
そこで、本発明は、吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる場合でも、優れた二酸化炭素吸着能力を発揮する気体吸着デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の気体吸着デバイスは、少なくともドーソナイトと、酸性ガス吸着材と、気体難透過性素材からなる容器とからなり、前記容器が、通気性を制御可能な仕切りにより少なくとも2つ以上の空間に仕切られており、前記ドーソナイトと前記酸性ガス吸着材が、それぞれ前記容器の異なる空間に収容されている構成となっている。
【0014】
これにより、吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる場合でも、優れた二酸化炭素吸着能力を発揮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の気体吸着デバイスに用いるドーソナイトは、二酸化炭素に対する吸着速度が高く、吸着容量も大きく、かつ、安価な工業的に利用価値の高い二酸化炭素吸着材であり、本発明によれば、ドーソナイトが使用時まで劣化することなく保管可能な気体難透過性素材からなる容器に封入されるとともに、ドーソナイトと酸性ガス吸着材との2連構成であることにより、ドーソナイトによる二酸化炭素吸着、及び、酸性ガス吸着材による二酸化炭素以外の酸性ガス吸着が十分に行われるため、ドーソナイトが酸性ガスによる酸化劣化を受けたり、その結果による反応生成物を生じたりすることなく、二酸化炭素の吸着力を発揮するため、燃焼ガスや、電池など適用機器内の酸性ガスを不純物として含む二酸化炭素を速やかに吸着除去することが可能な気体吸着デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1の開封前の気体吸着デバイスを示す概略断面図
【図2】同実施の形態の開封後の気体吸着デバイスを示す概略断面図
【図3】(a)本発明の実施の形態2の開封前の気体吸着デバイスを長手方向に平行な平面で切断した場合の縦断面図(b)同実施の形態の開封前の気体吸着デバイスを長手方向に垂直な平面で切断した場合の横断面図
【図4】(a)同実施の形態の開封後の気体吸着デバイスを長手方向に平行な平面で切断した場合の縦断面図(b)同実施の形態の開封後の気体吸着デバイスを長手方向に垂直な平面で切断した場合の横断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の発明の気体吸着デバイスは、少なくともドーソナイトと、酸性ガス吸着材と、気体難透過性素材からなる容器とからなり、前記容器が、通気性を制御可能な仕切りにより少なくとも2つ以上の空間に仕切られており、前記ドーソナイトと前記酸性ガス吸着材が、それぞれ前記容器の異なる空間に収容されているものである。
【0018】
本発明の気体吸着デバイスに用いるドーソナイトは、NaAl(CO3)(OH)の化学構造式を持つ鉱物であるが、人工合成桃可能であり、有害性情報がなく、環境負荷も低いと考えられるとともに、二酸化炭素に対する吸着速度が高く、吸着容量も大きく、かつ、安価な工業的に利用価値の高い二酸化炭素吸着材として知られている。
【0019】
そこで、二酸化炭素吸着を必要とする用途へ、ドーソナイトを適用することにより、地球温暖化ガスである二酸化炭素を効率よく吸着したり、二酸化炭素発生による筐体変形を抑制したりすることが可能である。
【0020】
ドーソナイトは、市販のものを使用することが可能であるが、製造時や輸送時などに水分を含有し、二酸化炭素吸着能力に悪影響を及ぼす可能性があるため、使用時までに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥条件は、特に指定するものではないが、空気中に含まれる二酸化炭素を吸着させないためには、減圧下での加熱乾燥が望ましい。
【0021】
一方で、乾燥後のドーソナイトは、大気中で取り扱うと、大気中の二酸化炭素および水分を吸着してしまい、特性が低下する。よって、乾燥後は空気に直接触れず、任意で通気性を発現するような容器に封入することが必要である。
【0022】
そこで、本発明では、ドーソナイトを、気体難透過性素材からなる容器に収容しているのである。
【0023】
さらに、本発明では、吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる用途に適用することを目的としているため、酸性ガスによりドーソナイトの特性が低下したり、酸性ガスがドーソナイトと反応した結果、別のガスを発生したりすることを防ぐための構成となっている。
【0024】
そのために、ドーソナイトと酸性ガス吸着材とを、それぞれ容器内の独立した空間に収容し、これらの空間の間に適切な通気性を確保するため、通気性を制御可能な仕切りを設置するのである。
【0025】
本構成により、酸性ガスを不純物として含む二酸化炭素を含む吸着対象ガスは、酸性ガス吸着材を収容した空間を通過する際に、酸性ガスが吸着除去され、ドーソナイトを収容した空間には、酸性ガスが除去された気体となって到達する。この際、仕切り材の通気性が大きすぎる場合は、酸性ガス吸着材が酸性ガスを吸着しきれず、酸性ガスを含んだガスがドーソナイトに到達する可能性があり、一方、仕切り材の通気性が小さすぎる場合は、酸性ガスは十分に吸着除去されるが、ドーソナイトに気体が到達しないという問題が発生し、ドーソナイトの吸着性能が発現できない可能性がある。従って、仕切り材の通気性を適切に制御することが重要であり、その結果、吸着対象ガス中の酸性ガスによりドーソナイトが失活したり、酸性ガスがドーソナイトと反応した結果、別のガスを発生したりすることを防ぐことが可能となり、ドーソナイトの優れた気体吸着性能を十分に発揮することができるのである。
【0026】
ここで、酸性ガス吸着材とは、気体中に含まれる酸性ガスを吸着できるものであり、活性炭、モレキュラーシーブなど物理吸着可能なものや、アルカリ金属水酸化物である水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど化学吸着可能なものなどを使用することができる。
【0027】
ここで、気体難透過性素材からなる容器とは、吸着材が容器外の気体と接することによる劣化を防ぐことが可能な、気体透過度の小さい材質からなる容器であり、おおよそ容器としての気体透過度が、106[cm3/m2・day・atm]以下となるものであり、より望ましくは104[cm3/m2・day・atm]以下のものである。特に指定するものではないが、ラミネート樹脂フィルムから成る4方シール袋なども利用できる。
【0028】
通気性を制御可能な仕切りとは、ドーソナイトを収容した空間と、酸性ガス吸着材を収容した空間の間の通気性を制御可能なものであれば使用でき、特に指定するものではないが、細孔を有する管状の部材や、連続気泡の多孔体などが利用できる。
【0029】
また、ドーソナイトの形状は、粉体状が一般的であるが、ペレット化、顆粒化、繊維状など、使用条件に応じた成型などを施しても良い。
【0030】
以上の構成により、ドーソナイトが、二酸化炭素に対する吸着特性を発揮し、本発明の吸着デバイスを適用した機器の二酸化炭素を吸着除去し、環境負荷を低減したり、適用機器の劣化を抑制したりすることが可能である。
【0031】
また、気体に酸性ガスが含まれる場合においても、酸性ガスによりドーソナイトが失活したり、酸性ガスがドーソナイトと反応した結果、別のガスを発生したりすることなく、長期間優れた吸着性能を維持することが可能となり、信頼性の高い気体吸着デバイスを提供することができる。
【0032】
第2の発明の気体吸着デバイスは、特に、第1の発明における仕切りが、連続多孔体であるものである。
【0033】
ドーソナイトを収容する空間と酸性ガス吸着材を収容する空間の仕切りの通気性が大きすぎる場合は、酸性ガス吸着材が酸性ガスを吸着しきれず、ドーソナイトが余剰の酸性ガスを吸着し劣化したり、酸性ガスがドーソナイトと反応した結果、別のガスを発生したりする可能性がある。一方、ドーソナイトを収容する空間と酸性ガス吸着材を収容する空間の仕切りの通気性が小さすぎる場合は、ドーソナイトに到達する気体が少なく、ドーソナイトの吸着特性を十分に発揮することができない。従って、仕切り材の通気性を適正に制御することが重要であり、この通気性は、仕切り材の気体透過度、断面積、長さに依存する。
【0034】
気体透過度を要求に合致するため適切に制御するには、連続多孔体が適しており、吸着対象ガスの量や、吸着対象ガスが経時的に侵入する場合の侵入ガスの速度により、適宜選択することが可能である。
【0035】
ここで、連続多孔体とは、固体部分と空隙部分からなり、空隙が連通しているものを指す。セラミックスのように、無機物からなる粒子の集合体であっても、連通ウレタンフォームのように有機物であってもよいが、減圧下でガス発生の少ないものがより望ましい。
【0036】
以上の構成により、吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる場合においても、酸性ガス吸着材により酸性ガスを吸着除去されたガス成分が、連続多孔体である仕切り材を通過し、ドーソナイトへ到達するため、ドーソナイトが失活したり、酸性ガスがドーソナイトと反応した結果、別のガスを発生したりすることなく、長期間優れた二酸化炭素吸着性能を維持することが可能となり、信頼性の高い気体吸着デバイスを提供することができる。
【0037】
第3の発明の気体吸着デバイスは、特に、第1または第2の発明に加えて、遠隔操作により容器を開封して、ドーソナイトと酸性ガス吸着材が収容されている空間を外部空間と通気可能にする機構を備えたものである。
【0038】
二酸化炭素吸着活性の高いドーソナイトの劣化を抑制するため、気体吸着デバイスは、目的箇所に設置適用した後に、外部空間の気体を吸着し始める、すなわち、外部空間と通気可能となることが望ましい。より望ましくは、酸性ガス吸着材が収容されている側の容器を通じて、外部空間と通気可能となることである。
【0039】
気体難透過性容器に直接外力を与えられるような部位への設置や、外部からの力により容易に変形するような外殻内に気体吸着デバイスを設置する場合には、直接、または、外殻上から間接的に応力を加えることで通気可能とすることは、比較的容易である。例えば、気体難透過性容器および適用箇所の外殻が軟包材の場合であれば、予め突起物を気体難透過性容器に設置しておき、気体吸着デバイスを設置後に外力を付与することにより、気体吸着デバイスの容器に突起物が押し付けられ、貫通することで容器が開封する方法がある。
【0040】
一方、外部からの力により容易には変形しない箇所への適用には、直接外力を加えることで通気可能とすることは困難である。
【0041】
従って、外力を加えずに気体吸着デバイスの容器に力を加える機構、すなわち遠隔操作の機構により、気体の吸着が可能になることが望ましい。遠隔操作の方法は、特に指定するものでないが、一例として温度変化による方法を、次に記す。
【0042】
気体吸着デバイスを適用した機器内部に、容器を熱可塑性素材で作製した気体吸着デバイスと、前記容器に一定の応力を付与する突起部材とを設置し、機器の外部から熱を加えることにより、気体吸着デバイスの温度を上昇させる。この場合、常温では容器の硬さが突起物の応力に勝るため変形しないが、軟化温度に達すると、熱可塑性素材からなる容器は軟化し、突起部材は容器に貫通孔を生じさせることができる。
【0043】
熱可塑性素材として熱可塑性樹脂を用いることにより、比較的低い温度、例えば70℃程度の低い温度で、容器に貫通孔を生じさせることができ、適用機器を構成する素材を劣化させること無く、低コストで、かつ構成部品の熱履歴が少なく優れた品質を有する適用機器を得ることができる。
【0044】
ここで、外部空間とは、気体吸着デバイスの外部の空間を指し、吸着対象ガスなどが存在する空間を指す。
【0045】
以上の構成により、適用時までドーソナイトの劣化を抑制し、かつ、ドーソナイトが酸性ガスによる酸化劣化やその結果による反応生成物を生じることなく、強固な吸着力を発揮するため、真空機器や電池など適用機器内の吸着対象ガスを速やかに吸着除去することが可能な気体吸着デバイスを提供することができる。
【0046】
以下、本発明の気体吸着デバイスの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって、この発明が限定されるものではない。
【0047】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の開封前の気体吸着デバイスを示す概略断面図、図2は、同実施の形態の開封後の気体吸着デバイスを示す概略断面図である。
【0048】
図1、図2において、気体吸着デバイス1は、ドーソナイト2、酸性ガス吸着材3が容器4で内包されたものである。容器4は、気体難透過性素材からなる軟包材であり、内部が二つの空間に分けられており、それぞれの空間にドーソナイト2と酸性ガス吸着材3が別々に収容されている。ドーソナイト2を収容している空間と酸性ガス吸着材3を収容している空間とは、仕切り5でつながれている。容器4の酸性ガス吸着材3付近の表面には、突起物6が取り付けられている。また、容器4はプラスチックラミネートフィルムであり、仕切り5は不織布である。
【0049】
容器4が軟包材で、容器4に外力を加えられるような条件で、予め気体吸着デバイス1に突起物6を設置しておき、気体吸着デバイス1を設置後に突起物6に外力を加えることにより、容器4に突起物6を押し付けて、容器4が開封するようにしたものである。
【0050】
以上のように構成された本実施の形態の気体吸着デバイス1について、以下、その動作、作用を説明する。
【0051】
まず、図1に示すように、気体吸着デバイス1の保存時には、ドーソナイト2は、気体難透過性素材からなる容器4内部に封入されているため、気体吸着デバイス1を長時間大気中に放置しても、ドーソナイト2は気体に触れないため、劣化せず、長時間大気中で保存することができる。
【0052】
また、ドーソナイト2が、機器適用後に吸着対象ガスを吸着するためには、容器4の密閉が解かれる必要がある。これは以下に示す機構により実現される。
【0053】
適用箇所が、気体吸着デバイス1へ直接外力を付与可能な場合、予め気体吸着デバイス1表面に突起物6を備えておき、気体吸着デバイス1を設置後に容器4に外力を加えて、気体吸着デバイス1の容器4に突起物6を押し付け、その結果、突起物6は軟包材からなる容器4に突き刺し力を加えるため、容器4には貫通孔7が生じて吸着対象ガスを吸着可能になる。
【0054】
ここで、貫通孔7を生じる部分は、仕切り5で分割される容器4内の空間のうち、酸性ガス吸着材3を含む空間側であり、望ましくは、仕切り5までの距離が、より長い部分である。
【0055】
図2に示すように、容器4には突起物6により貫通孔7が生じるため、吸着対象ガスは、まず、酸性ガス吸着材3を収容した空間に侵入する。その後、吸着対象ガスは、仕切り5を通過して、ドーソナイト2を収容した空間に移動する。突起物6により生じた貫通孔7の通気性は、仕切り5の通気性に比較して大きくされているため、酸性ガス吸着材3を収容した空間に侵入した気体は、内部で淀むことになる。この間に気体に含まれる酸性ガスは、酸性ガス吸着材3により除去されるため、仕切り5を経てドーソナイト2に到達する気体は、酸性ガスが除去されている。従って、ドーソナイト2は、適用時まで劣化が抑制され、かつ、酸性ガスによる酸化劣化や、その結果による反応生成物を生じることなく、二酸化炭素への吸着力を発揮するため、二酸化炭素を速やかに吸着除去することが可能となる。
【0056】
(実施の形態2)
図3(a)は、本発明の実施の形態2の開封前の気体吸着デバイスを長手方向に平行な平面で切断した場合の縦断面図、図3(b)は同実施の形態の開封前の気体吸着デバイスを長手方向に垂直な平面で切断した場合の横断面図、図4(a)は、同実施の形態の開封後の気体吸着デバイスを長手方向に平行な平面で切断した場合の縦断面図、図4(b)は、同実施の形態の開封後の気体吸着デバイスを長手方向に垂直な平面で切断した場合の横断面図である。
【0057】
図3、図4において、気体吸着デバイス8は、熱可塑性プラスチックからなる筒状の容器9内部に、粉末状の酸性ガス吸着材3とドーソナイト2が、間隔をあけて封入されている。
【0058】
また、酸性ガス吸着材3とドーソナイト2の間は、連通ウレタンフォーム製の仕切り10で仕切られている。容器9には、応力を加える部材11により応力が加えられている。また、応力を加える部材11と接する容器9の内側には、支持体12が設置されている。ここで、応力を加える部材11の先端は鋭利になっている。さらに、支持体12の応力を加える部材11の先端付近には、孔が開いている。
【0059】
ドーソナイト2は、筒状の容器9内部に封入されているため、保存時における劣化はほとんどない。この気体吸着デバイス8を、適用機器の吸着対象ガスと通気可能な空間内に設置し、気体吸着デバイス8部位を外部から加熱することにより、容器9の温度が上昇する。容器9は熱可塑性樹脂であるため、温度の上昇により軟化する。
【0060】
ここで、熱可塑性樹脂は、軟化温度が適用機器を構成する部材に影響を与えない材料を選択することが望ましい。容器9には予め応力を加える部材11により応力が加えられているため、所定の温度に達すると容器9の強度を、応力を加える部材11による応力が上回る。容器9は軟化しているため、応力を加える部材11の形状に追従し、常温下であれば容易に貫通孔は生じないが、応力を加える部材11の先端付近には、支持体12の孔があるため、この付近の変形率は著しく大きくなり、容器9に貫通孔13が生じる。
【0061】
そして、ドーソナイト2は、貫通孔13を通して外部空間の気体を吸着することが可能になる。ここで、貫通孔13を生じる部分は、仕切り10で分割される容器9内の空間のうち、酸性ガス吸着材3を含む側であり、望ましくは、仕切り10までの距離がより長い部分である。
【0062】
吸着対象ガスが酸性ガスを含む場合、吸着対象ガスは、貫通孔13を通して容器9に侵入する。吸着対象ガスが容器9に侵入すると、酸性ガス吸着材3付近に所定の時間留まるため、酸性ガスは酸性ガス吸着材3により吸着され、酸性ガスを含まない気体のみが、仕切り10を通りドーソナイト2に到達し、ドーソナイト2は酸性ガスによる酸化劣化や、その結果による反応生成物を生じることなく、吸着対象を吸着することができる。
【0063】
従って、ドーソナイト2は、適用時まで劣化が抑制され、かつ、酸性ガスによる酸化劣化や、その結果による反応生成物を生じることなく、二酸化炭素への吸着力を発揮するため、二酸化炭素を速やかに吸着除去することが可能となる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
粉末状のドーソナイト2と、酸性ガス吸着材3としてモレキュラーシーブを使用し、容器4として軟包材であるプラスチックラミネートフィルムを用いた。プラスチックラミネートフィルムの構成は、厚さ15μmのポリプロピレンフィルム、厚さ6μmのアルミニウム箔、厚さ50μmの低密度ポリエチレンフィルムの順に、ラミネートされたものである。仕切りは厚さ100μm、幅10mmの不織布を用いた。
【0065】
本実施例の気体吸着デバイス1は、アルゴン雰囲気中で以下の手順で作製した。2枚の長方形のプラスチックラミネートフィルムの低密度ポリエチレン同士を向かい合わせて不織布を挟み、ポリプロピレンフィルム側から熱溶着し、この部分を共通の底辺としてもつ3方シール袋を形成する。その3方シール袋の一方の空間に粉末状のドーソナイト2、他方にモレキュラーシーブを挿入し、10Paで減圧封止を行った。突起物6は、りん青銅製の板を折り曲げたものの中央部を切り欠いてなるものであり、気体吸着デバイス1におけるモレキュラーシーブを収容した空間側の1外表面に備えた。
【0066】
以上のように構成された気体吸着デバイス1を、酸性ガスであるフッ化水素を1%、空気を5%、アルゴンを94%含む吸着対象ガスを封入したテドラーバッグ内に入れた後、突起物6に応力を加え、気体吸着デバイス1の内外空間を連通化した。連通化した10分後、テドラーバッグ内のガス組成分析を実施した。その結果、テドラーバッグ内で検出されたガスはアルゴンのみであり、フッ化水素および空気成分は検出されなかった。
【0067】
このことから、本構成により、ドーソナイト2は、適用時まで劣化が抑制され、かつ、酸性ガスによる酸化劣化やその結果による反応生成物を生じることなく、強固な吸着力を発揮し、二酸化炭素を速やかに吸着除去することができたと判断した。
【0068】
(実施例2)
ペレット状のドーソナイト2と、酸性ガス吸着材3として粒状の水酸化カルシウムを使用し、気体難透過性の容器9として、ポリエチレンテレフタレート製のものを用いた。支持体12はステンレス製であり、孔が開いており、酸性ガス吸着材3の収容空間におけるドーソナイト2から遠い方の容器9に内接している。容器9に応力を加える部材11は、ステンレス製のクリップであり、容器9に接する部分が鋭利になっており、この鋭利な部分が、支持体12の孔に重なるように取り付けられている。ドーソナイト2の収容空間と酸性ガス吸着材3の収容空間とを仕切る仕切り10は、連通ウレタンフォームである。
【0069】
この気体吸着デバイス8を、酸性ガスであるフッ化水素を1%、メタンを1%、二酸化炭素を10%、アルゴンを88%含む吸着対象ガスを封入した密封ガラス容器内に設置し、その後、加熱により気体吸着デバイス8の内外空間を連通化した。連通化した10分後、テドラーバッグ内のガス組成分析を実施した。その結果、テドラーバッグ内で検出されたガスはアルゴンのみであり、フッ化水素および空気成分は検出されなかった。
【0070】
このことから、本構成により、ドーソナイト2は、適用時まで劣化が抑制され、かつ、酸性ガスによる酸化劣化やその結果による反応生成物を生じることなく、強固な吸着力を発揮し、二酸化炭素を速やかに吸着除去することができたと判断した。
【0071】
次に本発明の気体吸着デバイスの実施例と比較する比較例を示す。
【0072】
(比較例1)
特許文献1に開示されたBa−Li合金を金属性容器と酸化カルシウムで被う構造の気体吸着デバイスを比較例1として、実施例1と同様の組成の吸着対象ガス、すなわち、酸性ガスであるフッ化水素を1%、空気を5%、アルゴンを94%含む吸着対象ガスを封入したテドラーバッグ内に封入し、その10分後、テドラーバッグ内のガス組成分析を実施した。その結果、テドラーバッグ内で検出されたガスは、フッ化水素1%、空気5%、アルゴン94%のままであり、吸着挙動が確認できなかった。
【0073】
そのため、24時間経過後に、再度テドラーバッグ内のガス組成分析を実施したところ、検出されたガスは、フッ化水素0.5%、空気1%、アルゴン97%、不明ガス1.5%であった。このことから、本比較例の気体吸着デバイスは、吸着速度が遅く、またフッ化水素および空気の吸着挙動は確認されるものの、同定不可能な不明ガスが検出されている。この不明ガスは、おそらく、酸性ガスであるフッ化水素とBa−Li合金の反応生成ガスであると考えられる。
【0074】
(比較例2)
実施例2の構成において、酸性ガス吸着材を気体吸着デバイスに封入しないものを比較例2として説明する。気体吸着デバイスの作製方法など、酸性ガス吸着材を用いないことを除き、実施例2に準じる。
【0075】
この気体吸着デバイスを、酸性ガスであるフッ化水素を1%、メタンを1%、二酸化炭素を10%、アルゴンを88%含む吸着対象ガスを封入した密封ガラス容器内に設置し、その後、加熱により気体吸着デバイスの内外空間を連通化した。連通化した10分後、テドラーバッグ内のガス組成分析を実施した。その結果、テドラーバッグ内で検出されたガスは、二酸化炭素2%、不明ガス1%、アルゴン97%であった。
【0076】
このことから、本比較例の気体吸着デバイスは、フッ化水素およびメタン、二酸化炭素の吸着挙動は確認されるものの、実施例では確認されなかった二酸化炭素の残存や、同定不可能な不明ガスが検出されている。おそらく、二酸化炭素の残存は酸性ガスであるフッ化水素との反応による酸化劣化の影響であり、不明ガスは酸性ガスであるフッ化水素とドーソナイトの反応生成ガスであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明による気体吸着デバイスは、吸着対象ガスに酸性ガスが含まれる場合でも、優れた二酸化炭素吸着能力を発揮することができるので、工業的に排出される二酸化炭素や、燃焼排ガス中に含まれる二酸化炭素などの吸着や、リチウム電池など、筐体内部で経時的に二酸化炭素を含む気体が発生し、そのために筐体の膨れなどの変形が生じることが課題となっている用途などに利用することができる。いずれも、吸着対象ガスに酸性ガスを含む場合に、特に有効である。
【符号の説明】
【0078】
1 気体吸着デバイス
2 ドーソナイト
3 酸性ガス吸着材
4 容器
5 仕切り
6 突起物
7 貫通孔
8 気体吸着デバイス
9 容器
10 仕切り
11 応力を加える部材
12 支持体
13 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともドーソナイトと、酸性ガス吸着材と、気体難透過性素材からなる容器とからなり、前記容器は、通気性を制御可能な仕切りにより少なくとも2つ以上の空間に仕切られており、前記ドーソナイトと前記酸性ガス吸着材は、それぞれ前記容器の異なる空間に収容されている気体吸着デバイス。
【請求項2】
仕切りが、連続多孔体である請求項1記載の気体吸着デバイス。
【請求項3】
遠隔操作により容器を開封して、ドーソナイトと酸性ガス吸着材が収容されている空間を外部空間と通気可能にする機構を備えた請求項1または2に記載の気体吸着デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−259968(P2010−259968A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110564(P2009−110564)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】