説明

気化器用フロート

【課題】成形加工においてアーム部が変形しないようにした形状精度の高い気化器用フロートを提供すること。
【解決手段】基部11から両側に張り出したアーム部13は、断面積の小さいアーム13aと、断面積の大きいアーム13bで構成され、それらの先端には、二つのフロート部15が相互に対向するようにして設けられている。このような構成によって、アーム13aとアーム13bの収縮量が同じになり、フロートの全体形状を変形させるようなことがない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両等に用いられる合成樹脂製の気化器用フロートに関するものであり、特にアームの両側に二つのフロート部を有する所謂ダブルフロートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近では、気化器の小型化に対する要求に応じて、フロート室も必要最小限の大きさに作られるようになってきた。そのため、吸気胴との間の隔壁形状やフロート室の中央部に配置された燃料の噴射口等を考慮して、それらに影響なく配置することのできるダブルフロートが多用されている。また、他方では、各種の部品の合成樹脂化が進んでいるが、フロート室の特殊形状に対応させるのに向いていることもあって、現在では、気化器用のフロートも、合成樹脂で作られるのが普通になっている。そして、このような気化器用フロートは、狭いフロート室内で好適に作動しなければならないため、高い形状精度が要求されているが、単車用等の極めて小型の気化器の場合などは、フロート室の壁との間に1mm程度の間隔を保てるように製作しなければならないのが現状である。
【0003】そこで、合成樹脂製のダブルフロートの一例を図7を用いて説明する。フロートの基部1には、孔2が形成されている。この孔2は、フロートを、フロート室内の軸に揺動可能に取り付けるためのものである。また、この孔2と平行に、肉厚を一定にし断面を長方形としたアーム部3が両側に延びており、その中央部に舌部4が設けられている。この舌部4は、燃料をフロート室に流入させる周知の針弁を制御するためのものであり、針弁の下端を取り付ける必要性から、アーム部3と独立させて形成している。しかし、その必要性がなく、単に針弁を制御するだけでよい場合には、特に舌部4を構成せず、アーム部3の中央部によって直接針弁を制御することになる。また、アーム部3の両端部には夫々略90度の角度となるようにしてフロート部5が設けられ、更にアーム部3の右方には、燃料が減少し過ぎたとき、フロート室内のストッパーに当接する突起6が形成されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】然るに、図7に示したような構成のフロートを、成形加工によって製作するのは、そう簡単なことではない。その場合に一番問題となるのは、アーム部3とフロート部5によって形成される角度を所定の角度に製作するのが難しいことである。この角度精度が得られないと、フロート部5の先端部(図の下端)がフロート室の壁に接触してしまい、正常な作動を行わせることができない。そして、この角度精度が得にくい原因は、冷却時における材料の収縮作用にある。
【0005】周知のように、合成樹脂の溶融材料は、冷却時に結晶化し固化していくが、このとき、一般には溶融材料が固化するまでの時間が長くかかればかかる程、収縮度が大きくなる。そこで、図7のような形状の場合には、材料を金型内に射出したあと冷却工程に入ると、アーム部3と二つのフロート部5で囲まれた内側の領域は、外側の領域に比べて温度の低下が遅くなり、アーム部3での内側の収縮量が外側に比べて大きくなる。そのため、アーム部3の形状が変形し、フロート部5が、図7R>7に矢印で示すように内側に倒れ込むような形となり、所定の形状が得られなくなってしまう。従って、従来は材料の厳しい選定をはじめ、高度の加工技術を必要としていた。
【0006】本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、成形加工において、アーム部の変形をなくし、全体形状が高精度に得られるようにした気化器用フロートを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は、基部から両側に張り出したアーム部の先端に各々フロート部を対向するようにして形成した合成樹脂製の気化器用フロートにおいて、前記アーム部は並設された少なくとも二つのアームで構成し、それらの隣接するアームのうち前記フロート部の対向側に配置されたアームの断面積が他方のアームの断面積よりも小さくなるように形成する。また、好ましくは、本発明の気化器用フロートは、前記基部から両側に張り出したアーム部を、全体として略直線状に形成する。また、場合によっては、本発明の気化器用フロートは、前記アーム部を前記基部から所定の角度で両側に張り出すように形成する。また、好ましくは、本発明の気化器用フロートは、前記並設されたアームを各々別々に前記フロート部に連設させるようにする。更に、好ましくは、本発明の気化器用フロートは、前記並設されたアーム間にリブを形成するようにする。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を、三つの実施例について説明する。第1実施例を図1乃至図4に示し、第2実施例及び第3実施例を夫々図5と図6に示しているが、各実施例間において実質的に同じと考えてよい部位には同じ符号を用いて示してある。
【0009】先ず、第1実施例を図1乃至図4を用いて説明する。図1は本実施例の正面図であり、図2はその上面図、図3は図1の左側面図、図4は図1のA−A線断面図である。本実施例のダブルフロートは、その基本構成は上記した従来例と同じであって、基部11と、該基部11から両側へ直線的に張り出したアーム部13と、該アーム部13の両端において略直角になるようにし且つ相互に対向するように配置されたフロート部15とで構成され、基部11には、フロート室内への取付用の孔12が形成されている。尚、本実施例においては、二つのフロート部15が対称的な形状をしているが、実際にはフロート室内の形状に合わせざるを得ないことが多く、むしろ対称的な形状でないことの方が普通である。
【0010】アーム部13は、全体として孔12と平行になるように形成され、両側に張り出した部分は、並設された二つのアーム13a,13bで構成され、右側に張り出したアーム13bにはフロート室のストッパーに当接する突起16が形成されている。そして、フロート部15の対向面側に配置されているアーム13aは、他方のアーム13bよりも細く、その断面積が小さくなるように形成されている。また、アーム部13の中央部には、針弁を制御するための舌部14が、恰かも板状部をくり抜いて形成したかのようにして設けられている。尚、上記したように、フロートによってはこのような舌部14を形成せず、アーム部によって直接針弁を制御するようにしたものもあり、また、アルミニウム,真鍮等の金属製の舌片をアーム部に溶着し、それによって制御するようにしたものもあるが、本発明は、このように舌部の有無、或は舌部の構成に左右されるものではない。
【0011】本実施例は、上記のような構成をしているため、図7に矢印で示したようにフロート部15が内側方向へ倒れ込むような形に変形するのを防止できる。それは、以下の理由による。既に述べたように、溶融した合成樹脂は、一般に、固化する時間が長ければ長い程、収縮量が大きくなる。言い換えると、細長い部品や部位の場合には、単位長さ当たりの体積が大きければ大きい程、固化時間が長くなって収縮量が大きくなる。そのため、仮に、アーム13aとアーム13bとを、同じ長さ,同じ体積にし、尚且つ固化時間を同じにした場合には、当然のことながら両者の収縮量は同じになる。
【0012】しかしながら、ダブルフロートの場合には、アーム13aとアーム13bとを、同じ長さ,同じ体積にしたとしても、上記したように、アーム部13と二つのフロート部15で囲まれた内側領域は、外側領域に比べて温度が高くなるため、アーム13bに比べてアーム13aの固化する時間が長くなり、アーム13aの収縮量の方が大きくなってしまう。そこで、このような場合、両者の体積、即ち断面積に差を付ければ、両者の収縮量を同じにすることが可能となり、フロート部15が内側へ倒れ込むような形に変形するのを防止することができる。
【0013】本実施例の場合には、アーム13aとアーム13bが同じ長さではないが、このような考え方によってアーム13aの断面積を小さくし、両者の収縮量が同じになるようにしている。そのため、所定の寸法公差内のフロートが得られる。尚、アーム13aとアーム13bの収縮量を同じにすることができれば、両者は、夫々均一な太さである必要はなく、途中で断面積や断面形状を変えるようにしても差し支えない。このことは、以下の実施例においても同じである。
【0014】次に、本発明の第2実施例を、図5を用いて説明する。本実施例はアーム部13の形状が第1実施例と異なっている。本実施例においては、アーム13aとアーム13bの断面積が異なる点は第1実施例と同じであるが、これらのアーム13a,13bは基部11の中央位置で連結されており、その連結部の下方延長上に舌部14が形成されている。このような形状にしても、第1実施例の場合と同じように、本発明の効果が得られる。但し、アーム13aとアーム13bの並設部の長さが比較的長いような場合には、補強の意味もあってアーム13aとアーム13bの間を差し渡すようにして、図面上縦にリブを形成しても差し支えない。
【0015】更に、本発明の第3実施例を、図6を用いて説明する。本実施例はアーム部13とフロート部15との連設構成が第1実施例と異なっている。第1実施例においては、アーム13bを略直角に曲げて、フロート部15に連結させているが、本実施例においては、アーム13aと同様に、直角に曲げることなくフロート部15に連結させている。本実施例においても、アーム13aの断面積をアーム13bの断面積よりも小さくしていることは言うまでもない。
【0016】尚、上記の各実施例においては、アーム部13を、並設した異なる断面積の二つのアームで構成しているが、本発明は、三つ以上で構成することを妨げない。また、上記の各実施例における各アームの断面は長方形であるが、本発明は、このような断面形状に限定されるものではない。更に、各実施例のアーム部13は、基部11の孔12に対して平行に形成され、フロート部15との連結部が略直角となっているが、アーム部13を基部11から所定の角度で両側に斜めに張り出させ、フロート部15との連結角度が鈍角となるようにしても構わない。
【0017】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、アーム部を、並設した少なくとも二つのアームで構成し、それらの隣接するアームのうち二つのフロート部の対向面側に配置されたアームの断面積を、反対側に配置されたアームの断面積よりも小さく形成しているため、成形加工時にフロート部が内側に倒れ込むように変形することのない、高精度なダブルフロートを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例の正面図である。
【図2】図1の上面図である。
【図3】図1の左側面図である。
【図4】図1のA−A線断面図である。
【図5】本発明の第2実施例の正面図である。
【図6】本発明の第3実施例の正面図である。
【図7】従来例の正面図である。
【符号の説明】
11 基部
12 孔
13 アーム部
13a,13b アーム
14 舌部
15 フロート部
16 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基部から両側に張り出したアーム部の先端に各々フロート部を対向するようにして形成した合成樹脂製のフロートにおいて、前記アーム部は並設された少なくとも二つのアームで構成し、それらの隣接するアームのうち前記フロート部の対向側に配置されたアームの断面積が他方のアームの断面積よりも小さくなるように形成されていることを特徴とする気化器用フロート。
【請求項2】 前記基部から両側に張り出したアーム部を、全体として略直線状に形成していることを特徴とする請求項1に記載の気化器用フロート。
【請求項3】 前記アーム部を前記基部から所定の角度で両側に張り出していることを特徴とする請求項1に記載の気化器用フロート。
【請求項4】 前記並設されたアームを各々別々に前記フロート部に連設させるようにしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の気化器用フロート。
【請求項5】 前記並設されたアーム間にリブを形成したことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の気化器用フロート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平9−250400
【公開日】平成9年(1997)9月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−63052
【出願日】平成8年(1996)3月19日
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)