説明

気化器

【課題】針弁先端部がゴム材からなる気化器について、フロート上下動幅の大小に関わりなく、針弁と弁シートの固着を解除可能としながら針弁とフロートアームの係合部でフロートアームの動作が妨げられないようにする。
【解決手段】フロートアーム20Bの係合溝23に鍔部41Aを係合した針弁4Aが上下方向摺動可能に設けられてフロート室2内の油面を所定高さに維持する気化器において、係合溝23の下面23a及び上面23bと鍔部41Aの上面及び下面とで構成される係合部の当接面には、上向きに突出した曲面と下向きに突出した曲面が含まれ、フロートアーム20Bの傾斜時に鍔部41Aが係合溝23に当接して生じるフロート動作への干渉をフロートアーム20Bの最大傾斜時においても回避可能としながら、係合溝23の鍔部41Aを挿入する部分を、フロートアーム20Bの下向き最大傾斜時に、針弁4Aの先端部を弁シート5から離間させる溝幅とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに燃料を供給するための気化器に関し、殊に、フロートの上下動により燃料導入口を開閉してフロート室の油面レベルを一定に維持する気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸気通路に燃料を霧化状態にして供給する気化器は、例えば特開2001−99005号公報に記載され、図3の縦断面図に示すような構成を有しているのが一般的である。即ち、図示しない吸気通路が横向きに貫通した本体部1の下面側に、燃料を所定高さの油面Xに維持しながら貯留するフロート室2を備え、フロート室2に垂設された柱状体3内に設けた図示しないメインノズルを通って燃料が吸気通路に吸い出される構成である。
【0003】
前記フロート室2では、基端側の支持ピン21を支点にして先端側のフロート24を片持ち式に支持するようにフロートアーム20Bが設けられており、このフロートアーム20Bの途中位置に下端側の鍔部41Bを係合した針弁4Bが上下に摺動可能に設けられてフロート室2における燃料導入口の開閉弁を構成している。そして、油面Xが低下してフロート24が下降することにより針弁4Bも下降し、油面Xが上昇することにより針弁4Bも上昇して、燃料導入口の開閉を行いながら一定量の燃料を溜めるようになっている。
【0004】
また、図4(A)の部分拡大図に示すように、フロートアーム20Bの一部を平面視U字状に切り欠いた切断面に沿って、互いに対向する下向きの上面23a及び上向きの下面23bを形成しながら設けたU字溝23に、下端側を拡径した逆向きキノコ状の鍔部41Bの端縁側を挿入してなる係合部により、針弁4B下端側がフロートアーム20Bに連結されて下側から支持されている。
【0005】
このU字溝23は、図4(B)に示すように油面Xが下降するに従ってフロートアーム20Bとともに傾斜することから、図4(C)の最大傾斜状態においても針弁4Bの鍔部41Bがそのフロート動作に干渉させないために、その溝幅を鍔部41Bの上下幅よりも広く設定している。
【0006】
フロートアーム20Bが針弁4B先端部を弁シート5から離間させて開弁する際には、U字溝23の下面23aが鍔部41B上面に当接しながら押し下げ、針弁4B先端部を弁シート5に密着させて閉弁する際には、U字溝23の上面23bが鍔部41B下面に当接しながら持ち上げる構造であるが、実際には針弁4Bの自重及び上方からの燃料圧力により針弁4Bは下向きに押されているため、その鍔部41BはU字溝23の下面23bに常に接触しながらフロートアーム20Bの上下動に追従するのが通常である。
【0007】
ところで、この針弁4Bの先端部は、弁シート5との密着性を確保するためにゴム材からなるのが一般的であり、長期間燃料を遮断する位置で放置されることにより、そのゴム材と弁シート5とが固着することが知られている。この場合、フロート24及びフロートアーム20Bの自重で針弁4Bを引き下げて固着を解除できれば問題ないが、レイアウト上の規制等によりフロート24の上下動幅が小さいケースにおいては、フロート24が最も低い位置になってもU字溝23の下面23aと針弁4Bの鍔部41B上面が接触せずに固着を解除できない状況に陥ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−99005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、フロート室の燃料導入口を開閉する針弁先端部がゴム材からなる気化器について、フロート上下動幅の大小に関わりなく、針弁と弁シートの固着を解除可能としながら針弁とフロートアームの係合部でフロートアームの動作が妨げられないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、支持ピンで片持ち式に支持されたフロートアームの係合溝に下端側を拡径した鍔部を係合した針弁が上下方向摺動可能に設けられ、係合溝と鍔部による係合部を介しフロートの上下動により針弁が動作してゴム製の先端部を弁シートに密着・離間させることで燃料導入口を開閉し、フロート室内の油面を所定高さに維持する気化器において、その係合溝には下向きの下面と上向きの上面が対向して形成されており、この下面及び上面と挿入された鍔部の上面及び下面とで構成される係合部の当接面には、少なくとも上向きに突出した曲面と下向きに突出した曲面が含まれており、フロートアームが傾斜することで鍔部が係合溝の下面及び上面に当接して生じるフロート動作への干渉をフロートアームの上下方向最大傾斜時においても回避可能としながら、係合溝の鍔部を挿入する部分が、少なくともフロートアームの下向き最大傾斜時に係合溝の下面が鍔部の上面に当接して針弁の先端部を弁シートから離間させる溝幅となっている、ことを特徴とする。
【0011】
上述したように、針弁先端部がゴム製の従来例の気化器においては、長期間閉弁状態が続くと針弁先端と弁シートが固着することから、フロートの上下動幅を充分に確保できないレイアウトではフロートの下降でその固着を解除可能とするために、係合溝の幅を充分に狭くする必要があるところ、幅を狭くすることにより鍔部が係合溝の上下面に当接してフロート動作に干渉するという問題があった。これに対し、本発明では係合部の当接面に上向きに突出した曲面及び下向きに突出した曲面の組み合わせを含むものとして、係合溝が大きく傾斜した場合でもフロート動作への干渉が生じにくくするとともに、係合溝の鍔部を挿入する部分を少なくともフロートアームの下向き最大傾斜時に針弁を開弁させる溝幅として、固着状態が解除され易くなる。
【0012】
また、この気化器において、その下向きに突出した曲面が、鍔部の下面が下向きに突出した球面であるものとすれば、上向きに突出した曲面との組み合わせにより、フロートアームの動作に対する干渉を生じにくい状態としながらフロートアームの僅かな下降動作で固着を解除できる溝幅に設定することができる。
【0013】
この場合、その上向きに突出した曲面が、鍔部の上面が上向きに突出した球面であることを特徴としたものとすれば、製造コストの高騰を最小限に抑えながら前述した機能を確実に発揮できるものとなる。或いは、その上向きに突出した曲面が、係合溝の上面のうち球面状の鍔部下面の対向する部分が上向きに突出した湾曲面であり、この部分で係合溝の幅狭部が形成されていることを特徴としたものとすれば、鍔部の上面を球面にした場合と同様の作用・効果が期待できるものとなる。
【発明の効果】
【0014】
係合部の当接面に上向きに突出した曲面及び下向きに突出した曲面を含んでフロートアームの上下方向最大傾斜時においても鍔部による干渉を回避可能としながら、フロートアームの下向き最大傾斜時に針弁先端部を弁シートから離間させる溝幅とした本発明によると、フロート上下動幅の大小に関わりなく、針弁と弁シートの固着を解除可能としながら針弁とフロートアームの係合部でフロートアームの動作が妨げられない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A),(B),(C)は、本発明の第1の実施の形態である気化器において、針弁の鍔部とフロートアームの係合溝との係合状態を示す部分縦断面図である。
【図2】(A),(B),(C)は、本発明の第2の実施の形態である気化器において、針弁の鍔部とフロートアームの係合溝との係合状態を示す部分縦断面図である。
【図3】従来例の気化器を示す縦断面図である。
【図4】(A),(B),(C)は、図3の従来の気化器において、針弁の鍔部とフロートアームの係合溝との係合状態を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1(A),(B),(C)は、本発明の第1の実施の形態の気化器における特徴部分である、針弁4Aの鍔部41Aとフロートアーム20Bの係合溝23との係合状態を示す部分縦断面図である。尚、本実施の形態の気化器及び後述する第2の実施の形態の気化器に共通して、その基本構成は図3に示した従来の気化器と同様であることから、その詳細な説明は省略する。
【0018】
本実施の形態において、係合溝23は対向する下面23aと上面23bを有した従来例と同様のものであるが、針弁4Aの下端部が逆キノコ状に拡径してなる鍔部41Aの構成において、その下面が下向きに突出して球面状となっているのに加え、その上面も上向きに突出して球面状となっている点を特徴としており、この鍔部41Aの上下両面で、係合部の当接面のうち上向きに突出した曲面及び下向きに突出した曲面の組み合わせを構成している。
【0019】
図1(A)に示すように、閉弁時に係合溝23はほぼ水平の状態となり、これに側方から挿入した鍔部41Aの球面状の下面は、係合溝23の上面23bに当接した位置となっており、針弁4Aにおいて少なくとも表面部分がゴム材からなる円錐状の先端部が、弁シート5に当接・密着してフロート室2の燃料導入口を閉鎖している。尚、鍔部41Aの球面状の上面と係合溝23の下面23aとの間には僅かな隙間が形成されている。
【0020】
上述したように、図1(A)の状態で長期間経過した場合には針弁4Aの先端部は弁シート5に固着することになる。このように固着した場合、従来例の針弁4Bではフロート動作への干渉を避けるために係合溝23の幅を広めにすると、フロートアーム20Bの下向き最大傾斜時においても係合溝23の下面23aが鍔部41B上面に当接しないこともあり、この場合は針弁4Bの自重や燃料圧力のみでは固着を解除することができない。
【0021】
そこで本実施の形態では、図1(A)に示すように針弁4Aの鍔部41Aの上下両面を球面状として、図1(B)に示すように、フロートアーム20Bの僅かな下降量でも係合溝23の下面23aが上向きに突出した球面状の鍔部41A上面に当接し、図1(C)に示すようにさらに下降することで、針弁4A先端を弁シート5から離間させて固着を解除する構成とした。
【0022】
また、鍔部41Aの上下両面が球面状になっていることにより、鍔部41Aの図中左側の上面と図中右側の下面とが、図1(C)の最大傾斜位置でも係合溝23の下面23aと上面23bに当接しないため、フロート動作に対して干渉を生じない。
【0023】
図2(A),(B),(C)は、本発明の第2の実施の形態の気化器における特徴部分である、針弁4Bの鍔部41Bとフロートアーム20Aの係合溝22との係合状態を示す部分縦断面図である。本実施の形態の気化器では、針弁4Bの構成自体は図4の従来例と同様であるが、フロートアーム20Aに設けた係合溝22の上面22bにおいて球面状の鍔部41B下面の対向する部分が、上向きに突出した湾曲面からなる突出部22cとされており、この部分で係合溝22の幅狭部が形成されている。
【0024】
このような構成としても、前述した第1の実施の形態と同様の作用・効果が期待できる。即ち、図2(A)に示す閉弁時の状態において、針弁4Bの球面状の鍔部41B下面は湾曲した突出部22cの頂部に当接しており、長期間の閉弁状態により針弁4B先端は弁シート5に固着するのは前述と同様である。尚、係合溝22に平行して記載した一点鎖線は、図4に記載した従来例における係合溝23の位置を示している。
【0025】
そして、本実施の形態において係合溝22の上面22bに突出部22cを設けたことにより、突出部22cの頂部とその上方の下面22aによる部分で係合溝22の幅狭部を形成しており、図2(B)に示すように僅かな下降量でもその下面22aが鍔部41B上面に当接し、図2(C)に示すようにさらに下降することで、針弁4B先端を弁シート5から離間させて固着を解除する構成となっている。その際、鍔部41Bの図中左側の上面と図中右側の下面とが、図2(C)の最大傾斜位置になるまで、係合溝22の下面22aと上面22bに当接しないでフロート動作に対する干渉を生じない。
【0026】
以上、述べたように、フロート室の燃料導入口を開閉する針弁先端部がゴム材からなる気化器について、比較的簡易な改良を加えたのみでコストの高騰を伴わない本発明により、フロート上下動幅の大小に関わりなく針弁と弁シートの固着を解除可能としながら、針弁とフロートアームとの係合部によりフロート動作が妨げられない。
【符号の説明】
【0027】
2 フロート室、4A,4B 針弁、5 弁シート、20A,20B フロートアーム、21 支持ピン、22,23 係合溝、22a,23a 下面、22b,23b 上面、23c 突出部、24 フロート、41A,41B 鍔部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ピンで片持ち式に支持されたフロートアームの係合溝に下端側を拡径した鍔部を係合した針弁が上下方向摺動可能に設けられ、前記係合溝と前記鍔部による係合部を介しフロートの上下動により前記針弁が動作してゴム製の先端部を弁シートに離間・密着させることで燃料導入口を開閉し、フロート室内の油面を所定高さに維持する気化器において、前記係合溝には下向きの下面と上向きの上面が対向して形成されており、該下面及び上面と挿入された前記鍔部の上面及び下面とで構成される前記係合部の当接面には、少なくとも上向きに突出した曲面と下向きに突出した曲面が含まれており、前記フロートアームが傾斜することで前記鍔部が前記係合溝の下面及び上面に当接して生じるフロート動作への干渉を前記フロートアームの上下方向最大傾斜時においても回避可能としながら、前記係合溝の前記鍔部を挿入する部分が、少なくとも前記フロートアームの下向き最大傾斜時に前記係合溝の下面が前記鍔部の上面に当接して前記針弁の先端部を前記弁シートから離間させる溝幅となっていることを特徴とする気化器。
【請求項2】
前記下向きに突出した曲面は、前記鍔部の下面が下向きに突出した球面であることを特徴とする請求項1に記載した気化器。
【請求項3】
前記上向きに突出した曲面は、前記鍔部の上面が上向きに突出した球面であることを特徴とした請求項2に記載した気化器。
【請求項4】
前記上向きに突出した曲面は、前記係合溝の上面のうち前記球面状の鍔部下面の対向する部分が上向きに突出してなる湾曲面であり、前記部分で前記係合溝の幅狭部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載した気化器。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−58471(P2011−58471A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211330(P2009−211330)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)