説明

気泡塔型炭化水素合成反応器

【課題】 気泡塔型炭化水素合成反応器において,触媒粒子をスラリー中に均等に分散させるとともに,反応器内部のスラリーの温度を均一に保ち,かつ,反応器内部構造物の設計と施工を容易にすることを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る気泡塔型炭化水素合成反応器は,液体炭化水素122中に固体の触媒粒子124を懸濁させたスラリー12を収容する反応器本体10と,反応器本体10の下部に配設され合成ガスをスラリー12に供給する反応ガス供給部20と,反応器本体10の内部に鉛直方向に沿って設けられ,スラリー12を冷却する1の冷却管または2以上の冷却管群40と,鉛直方向に沿って延設され,スラリー12の上昇流が生じる反応領域Rとスラリー12の下降流が生じる循環領域Cとを相互に流通可能に区画するセパレータ50とを備える。循環領域Cは反応器本体10の内壁側に形成され,反応領域Rには1の冷却管または冷却管群40が配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,気泡塔型炭化水素合成反応器に関し,特に,液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでフィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスから炭化水素化合物と水を生成するフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下,「FT反応」という。)の反応システムの1つとして,液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでFT反応を行わせる気泡塔型スラリー床FT反応システムがある。なお,FT反応により合成された炭化水素化合物は,主に燃料油や潤滑油の原料などとして利用される。
【0003】
この気泡塔型スラリー床FT反応システムに供するFT反応器においては,反応器内部の反応温度を均一に保つため,反応器内の液体炭化水素中に触媒粒子を均等に分散させる必要がある。ところが,触媒粒子は,液体炭化水素に比べて比重が大きいのが通常であり,そのために触媒粒子は反応器底部付近に偏在する傾向がある。一方,反応器の底部から合成ガスを吹き込む気泡塔型のFT反応器では,吹き込まれたガスがスラリー中を上昇する際に反応器の上向きに上昇流(エアリフト)を形成するため,底部に偏在する傾向のある触媒粒子をある程度はスラリー内に分散させる効果があるものの,吹き込まれた合成ガスの流量が少ない場合においては,触媒粒子を分散させる効果は十分ではない,という問題がある。
【0004】
このような問題を解決する方法として,反応器内部にダウンカマーと呼ばれるパイプ形状の下降管を設け,ガスの比重は小さいため上方に浮き上がるとともにスラリー中の液体の比重は大きいため下方に流れることを利用して,ダウンカマーの内部にスラリーの下降流を生じさせることで,スラリー中に吹き込まれた合成ガスによるエアリフトの効果を促進する方法がある(例えば,特許文献1〜4を参照)。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,201,031号明細書
【特許文献2】米国特許第5,866,621号明細書
【特許文献3】米国特許第RE37,229号明細書
【特許文献4】国際公開第94/14536号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記特許文献1〜4に記載されたようなパイプ形状のダウンカマーを使用する方法では,FT反応器には,通常,FT合成反応により発生する熱を除去するための冷却管を設置する必要があるが,反応器内部(特に中央部付近)にパイプ状のダウンカマーを設置すると,ダウンカマーの存在する場所には冷却管を配置することができず,冷却管を均等に配列することができない。したがって,FT反応により発生する熱を効率よく均等に除去することができず,反応器内部のスラリーの温度を均一に保つことができないため,反応生成物である炭化水素の組成が安定しない可能性がある,という問題があった。また,ダウンカマーの大きさと位置によっては,冷却管の配列が複雑になるという問題があった。
【0007】
また,上記のようなダウンカマーを設置する際には,ダウンカマーを反応器内部で支持する部材が必要となるが,このような支持部材と冷却管とが干渉しないような構造とする必要があるため,反応器内部構造物の設計と施工が複雑となる,という問題もあった。
【0008】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための気泡塔型炭化水素合成反応器において,触媒粒子をスラリー中に均等に分散させるとともに,反応器内部のスラリーの温度を均一に保ち,かつ,反応器内部構造物の設計と施工を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果,反応器の中心軸付近にスラリーの上昇流が生じるとともに,内壁部付近にスラリーの下降流が生じる性質を利用して,反応器内部の内壁側にセパレータを設置することで,このセパレータと反応器内壁との間の領域(循環領域)にスラリーの下降流を生じさせ,ガスによるエアリフトの効果を促進できることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち,本発明の主旨とするところは,以下のとおりである。
(1)液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーを収容する反応器本体と;前記反応器本体の下部に配設され,水素および一酸化炭素を主成分とする合成ガスを前記スラリーに供給する反応ガス供給部と;前記反応器本体の内部に前記反応器本体の高さ方向に沿って設けられ,前記スラリーを冷却する1の冷却管または2以上の冷却管群と;前記反応器本体の高さ方向に沿って延設され,前記スラリーの上昇流が生じる反応領域と前記スラリーの下降流が生じる循環領域とを相互に流通可能に区画するセパレータと;を備え,前記循環領域は前記反応器本体の内壁側に形成され,前記反応領域には前記1の冷却管または前記冷却管群が配設されることを特徴とする,気泡塔型炭化水素合成反応器。
(2)前記反応器本体の内部で液体炭化水素の合成反応が行われている状態のとき,前記セパレータの上端部が,前記スラリーの上面よりも低い位置にあることを特徴とする,(1)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
(3)前記セパレータが,前記反応器本体の高さ方向に複数分割して設けられていることを特徴とする,(1)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
(4)前記セパレータの下端部の近傍に,前記循環領域の下降流の方向を前記反応領域方向に案内する整流部材をさらに備えることを特徴とする,(1)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
(5)前記セパレータと前記整流部材との相対位置を調整することにより,前記循環領域から前記反応領域へ流れる前記スラリーの流量を調整することを特徴とする,(4)に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための気泡塔型炭化水素合成反応器において,反応器の中央部側でスラリーの上昇流が生じるとともに,内壁側ではスラリーの下降流が生じる性質を利用したセパレータを反応器本体の内壁側に設けることにより,反応器内部に吹き込まれたガスによるエアリフトの効果を促進し,触媒粒子をスラリー中に均等に分散させることができる。したがって,これにより,反応器内部のスラリーの温度を均一に保ち,生成物である炭化水素の組成を安定させることができる。
【0012】
また,本発明によれば,フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための気泡塔型炭化水素合成反応器において,冷却管を反応器内部の反応領域に均等に配置することができるので,反応により発生する熱を効率よく均等に除去することができ,反応領域のスラリーの温度を均一に保つことが可能である。したがって,これにより,生成物である炭化水素の組成を安定させることができる。また,冷却管の配列を単純なものとすることができるため,設計と施工が容易となる。
【0013】
さらに,本発明によれば,上記気泡塔型炭化水素合成反応器において,パイプ形状のダウンカマーを設置する場合と比べて反応器の内部構造が単純であるので,反応器内部構造物の設計と施工を容易に行うことが可能である。したがって,これにより,製造コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
まず,図1に基づいて,本発明の第1の実施形態に係る気泡塔型炭化水素合成反応器の一例としての気泡塔型スラリー床FT合成反応器1(以下,単に「FT反応器1」という。)の構成について説明する。なお,図1は,本実施形態に係るFT反応器1の全体構成を示す縦断面図である。
【0016】
図1に示すように,本実施形態に係るFT反応器1は,反応器本体10と,ディストリビュータ20と,冷却管40と,セパレータ50と,整流板60と,を主に備える。
【0017】
反応器本体10は,直径が1〜20m程度,好ましくは2〜10m程度であり,高さが10〜50m程度,好ましくは15〜45m程度である略円筒型の金属製の容器であり,その内部には,液体炭化水素(FT反応の生成物)122中に,固体の触媒粒子124を懸濁させたスラリー12が収容される。
【0018】
ディストリビュータ20は,本実施形態に係る反応ガス供給部の一例であり,反応器本体10の下部に配設され,水素および一酸化炭素を主成分とする合成ガスをスラリー12中に供給する。このディストリビュータ20は,合成ガス供給管22と,合成ガス供給管22の先端部に取り付けられたノズルヘッダー24と,ノズルヘッダー24の側部に設けられた複数の合成ガス供給ノズル26とからなる。
【0019】
外部から合成ガス供給管22を通じて供給された合成ガスは,合成ガスノズルヘッダー24の内部を通過し,合成ガス供給ノズル26の下部側(反応器本体10の底部側)に設けられた合成ガス供給口(図示せず)から例えば下方(図の細矢印で示した方向)に向かって噴射される。このようにしてディストリビュータ20から吹き込まれた合成ガスは,気泡28となって,スラリー12中を反応器本体10の高さ方向(鉛直方向)下方から上方へ向かって流れる際に液体炭化水素122中に溶解し,触媒粒子124と接触することにより,液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が行われる。なお,本実施形態では,合成ガスが下方に向けて噴射されるものとしたが,この場合には限られず,合成ガスが反応器本体10の上方に向けて噴射されるものであってもよい。
【0020】
また,上記のように合成ガスが反応器本体10の底部から吹き込まれ,吹き込まれた合成ガスが気泡28となって反応器本体10内を上昇することにより,反応器本体10内部においては,中央部(反応器本体10の中心軸付近)にスラリー12の上昇流(エアリフト)が生じるとともに,反応器本体10の内壁付近(円周部付近)には下降流が生じ,図1に太矢印で示したように,スラリー12が反応器本体10内部を循環するような流れが生じる。
【0021】
冷却管40は,反応器本体10の内部に反応器本体10の高さ方向に沿って設けられ,FT合成反応により発生する熱により温度が上昇したスラリー12を冷却する。この冷却管40は,例えば,図1に示すように,1本の管が鉛直方向に沿って上下に複数回(例えば,図1では2往復)するような形状に形成することができる。ただし,冷却管の形状および本数は上記形状および本数に限られるわけではなく,反応器本体10内部に均等に配置されて,スラリー12を均等に冷却することに寄与できるものであればよい。例えば,バイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器本体10の内部に複数配置してもよい。
【0022】
この冷却管40内には,冷却管入口42から導入された,例えば反応器本体10内の温度との差が−50〜0℃程度の冷却水が流通しており,この冷却水が冷却管40内を通り,冷却水の一部が水蒸気となって冷却管出口44から排出されることにより,反応器本体10内部のスラリー12が冷却される。なお,スラリー12を冷却するための媒体としては,上記のような冷却水に限られず,例えば,C4〜C10の直鎖,分岐鎖および環状のパラフィン,オレフィン,低分子量シラン,シリルエーテル,シリコンオイルなどを使用することができる。
【0023】
セパレータ50は,反応器本体10の高さ方向に沿って延設され,スラリー12の上昇流が生じる反応領域とスラリー12の下降流が生じる循環領域とを相互に流通可能に区画する。ここで,循環領域(図1で下向きの矢印で示したスラリー12の下降流が生じている領域)は,反応器本体10の内壁側に形成され,また,反応領域(図1で上向きの矢印で示したスラリー12の上昇流が生じている領域)には,冷却管40が配設される。なお,セパレータ50の詳細については後述する。
【0024】
整流板60は,本実施形態に係る整流部材の一例であり,セパレータ50の下端部の近傍に配設され,循環領域の下降流の方向を反応領域の方向に案内する。この整流板60は,反応器本体10の高さ方向に垂直な方向(水平方向)の断面が,例えば,反応器本体10の内壁面に接する円弧とその弦によって囲まれた略半月状に形成されている。ただし,整流板の形状は,かかる例に限定されず,循環領域におけるスラリー12の下降流の方向を反応領域の方向に案内することができればいかなる形状であってもよい。例えば,整流板の水平方向の断面が略リング形状となるように形成されてもよい。なお,整流板60の詳細についても後述する。
【0025】
次に,図2および図3に基づいて,本実施形態に係るセパレータ50および整流板60の構成および作用について詳細に説明する。なお,図2は,図1に示したFT反応器1の要部を拡大した縦断面図であり,図3は,図2に示したFT反応器1をa−a線で切断した横断面図である。
【0026】
上述したように,セパレータ50は,スラリー12の上昇流が生じる反応領域Rとスラリー12の下降流が生じる循環領域Cとを相互に流通可能に区画する。本実施形態では,図2および図3に示すように,反応領域Rが反応器本体10の中央部側に形成され,循環領域Cが反応器本体10の内壁側に形成される。より詳細に説明すると,セパレータ50は,反応器本体10の内壁側に配置されたプレート状の2枚の仕切り板として構成されており,本実施形態における反応領域Rは,反応器本体10の中央部側に,2枚のセパレータ50と反応器本体10の内壁とで囲まれた領域として形成され,本実施形態における循環領域Cは,反応器本体10の内壁側に,1枚のセパレータ50と反応器本体10の内壁とで囲まれた領域として形成される。この場合,循環領域Cについては,反応器本体10の内壁側に2つの循環領域Cが,反応器本体10の中心軸に対して互いに対向する位置に形成される。
【0027】
なお,セパレータの数や形状は,上記のようなプレート状の2枚の仕切り板には限定されず,反応領域Rが反応器本体10の中央部側に形成され,循環領域Cが反応部本体10の内壁側に形成されるように区画するものであれば,任意の数や形状を採用することができる。例えば,図4(a)に示すように,中空の略四角柱形状のセパレータ510を,その4隅が反応器本体10の内壁に接するように配設してもよい。この場合は,反応器本体10の中央部側にセパレータ510の四側面により囲まれた反応領域Rが形成され,内壁側にセパレータ510の一側面と反応器本体10の内壁とにより囲まれた4つの循環領域Cが形成される。あるいは,図4(b)に示すように,略円筒形のセパレータ520を反応器本体10の内壁側に配設して二重管構造となるようにしてもよい。この場合は,反応器本体10の中央部側にセパレータ520により囲まれた反応領域Rが形成され,内壁側にセパレータ520の外壁と反応器本体10の内壁とにより囲まれた1つのリング状の循環領域Cが形成される。
【0028】
このように,反応器本体10の中央部側にスラリー12の上昇流が生じる反応領域Rが形成され,反応器本体10の内壁側にスラリー12の下降流が生じる循環領域Cが形成されることにより,循環領域Cがダウンカマーとしての役割を果たし,反応器の中央部側でスラリーの上昇流が生じるとともに内壁側ではスラリーの下降流が生じるという気泡塔型FT反応器の性質を利用して,反応器内部に吹き込まれた合成ガスによるエアリフトの効果を促進することができる。したがって,触媒粒子をスラリー中に均等に分散させることができ,これにより,反応器内部のスラリーの温度を均一に保ち,生成物である炭化水素の組成を安定させることができる。
【0029】
また,セパレータ50は,反応器本体10の内部でFT反応が行われている状態のとき,その上端部が反応器本体10内のスラリー12の上面(液面)付近にあり,その下端部が反応器本体10の底部付近まで達するように形成されることが好ましい。セパレータ50をこのように形成することにより,エアリフトの効果を十分に促進することができる。
【0030】
ここで,セパレータ50の上端部は,反応器本体10の内部でFT反応が行われている状態のとき,スラリー12の上面よりも低い位置にあることが必要である。さもなければ,反応領域Rから循環領域Cへのスラリー12の流れが妨げられ,上記エアリフトの効果を促進することができないためである。
【0031】
また,上述したように,冷却管40は反応領域Rに配設される。本実施形態では,従来のようにパイプ状のダウンカマーを反応器本体10内部の中央部付近に設けずに,セパレータ50(あるいはセパレータ510,520)を反応器本体10の内壁側に配設している。そのため,反応器本体10内部の中央部側には冷却管40の配置を妨げるようなダウンカマーが存在しないので,冷却管40を反応器本体10内部の反応領域Rに均等に配置することができる。したがって,反応器本体10内部で行われるFT反応により発生する熱を効率よく均等に除去することができ,反応器本体10内部のスラリー12の温度を均一に保つことが可能となる。このように,本実施形態に係るFT反応器1によれば,スラリー12の温度を一定に保つことができ,反応が起こる場所によって反応温度がばらつくこともないので,生成物である炭化水素の組成を安定させることができる。
【0032】
なお,冷却管40が2以上の冷却管から構成される冷却管群である場合には,冷却管群の主要群が反応領域Rに形成され,冷却管群の残りの一部が循環領域に形成されていてもよい。
【0033】
さらに,本実施形態に係るFT反応器1では,従来のパイプ形状のダウンカマーを設置する必要がなく,このダウンカマーを反応器本体10内部で支持するための支持部材も設ける必要が無いため,パイプ形状のダウンカマーを設置する場合と比べて反応器の内部構造を単純な構造とすることができる。したがって,反応器本体10内部構造物の設計と施工を容易に行うことができ,これにより,製造コストを削減することができる。
【0034】
また,上述したように,本実施形態に係るFT反応器1には,反応器本体10内部のセパレータ50の下端部近傍に,循環領域Cにおけるスラリー12の下降流の方向を反応領域Rの方向に案内する整流板60が設けられている。本実施形態に係る整流部材としての整流板60は水平方向の断面が反応器本体10の内壁面に接する円弧とその弦によって囲まれた略半月状となるように形成されているが,整流板60の整流効果(循環領域Cから反応領域Rへのスラリー12の流れを促進する効果)やエアリフト促進の効果を十分に発揮させるという観点から,上記略半月状の整流板60の弦が,セパレータ50よりも反応器本体10内部側に位置していることが好ましい。
【0035】
さらに,セパレータ50の下端部と整流板60との相対距離(相対位置)を調整することにより,循環領域Cから反応領域Rへ流れるスラリー12の流量を調整することができる。例えば,本実施形態においては,セパレータ50の下端部と整流板60との距離を,反応器本体10の直径の1/10程度とすると,整流板60の整流効果を十分に発揮させることができることが,本発明者らの模擬実験により確認されている。
【0036】
また,整流板60は,その下方からのスラリー12の上昇流を遮断する働きも有している。これにより,循環領域Cにおけるスラリー12の下降流の流れが,整流板60の下方からのスラリー12の上昇流により妨げられることを防止することができるので,整流効果を十分に発揮することができる。したがって,吹き込まれた合成ガスによるエアリフトの効果をさらに高め,触媒粒子124をより均一にスラリー12中に分散させることができる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に,図5に基づいて,本発明の第2の実施形態に係るFT反応器2の構成および作用について説明する。なお,図5(a)は,本発明の第2の実施形態に係るFT反応器2の要部の構成を示す縦断面図であり,(b)は,(a)に示したFT反応器2をb−b線で切断した横断面図であり,(c)は,(a)に示したFT反応器2をc−c線で切断した横断面図である。
【0038】
本発明の第2の実施形態は,セパレータが反応器本体10の高さ方向に複数段に分割して設けられている例である。本実施形態においては,セパレータが,反応器本体10の上部側に配設された第1セパレータ(上部セパレータ)50−1と,下部側に配設された第2セパレータ(下部セパレータ)50−2の2段に分割して設けられている。ただし,セパレータの数は,特に限定されず,反応器本体10の高さに応じて定めることができる。したがって,例えば,反応器本体10の高さが高い場合には,セパレータを3段以上に分割して設けてもよい。
【0039】
このように,セパレータを反応器本体10の高さ方向に複数段に分割して設けることにより,例えばスラリー12の量や合成ガスの供給量を減らしてFT反応器2を運転するような場合に,スラリー12の液面が低くなって上部セパレータ(本実施形態では第1セパレータ50−1)の上端より低い位置となっても,下部側に配設されたセパレータ(本実施形態では第2セパレータ50−2)を使用してスラリー12の下降流を得ることが可能となる。一方,上述した第1の実施形態の場合には,スラリー12の量や合成ガスの供給量を減らした場合には,セパレータ50の上端部がスラリー12の液面(上面)よりも高い位置にある場合もあり,このような場合には,上述したように,反応領域Rから循環領域Cへのスラリー12の流れが妨げられ,循環領域Cでの下降流が生じないため,合成ガスによるエアリフトの効果を促進することができない。
【0040】
また,セパレータを複数段に分割して設けることにより,個々のセパレータ(本実施形態では,セパレータ50−1,50−2)の大きさが増大することを抑制できるため,セパレータの製作が容易となる。
【0041】
なお,本発明者らは,反応器本体10の鉛直方向の長さが長い(高さが高い)場合には,セパレータを1段に設けると,反応領域Rの鉛直方向の長さが長すぎるために,吹き込まれた合成ガスによるエアリフトの効果が低下してしまい,スラリー12の流れが循環し難くなってしまうという可能性もあると推察している。しかし,本発明者らは,本実施形態に係るセパレータ50−1,50−2のように,セパレータを複数に分割して設けることにより,個々の反応領域Rの鉛直方向の長さも短くなるので,上記エアリフトの効果が低下することもないと考えている。
【0042】
また,上部セパレータ50−1と下部セパレータ50−2とは,図5に示したように,90°ずれるように配置してもよい。このように,複数のセパレータを所定角度ずらして配置することにより,分割部での流れを円滑にして,循環領域Cにおけるスラリー12の下降流を促進することができるという効果が得られる。
【0043】
また,本実施形態に係るFT反応器2の場合も,上述した第1の実施形態に係るFT反応器1の場合と同様に,整流板を設けてもよい。この場合は,例えば,複数段(本実施形態では2段)に分割して形成されたセパレータ50−1,50−2毎に,それぞれ,第1整流板(上部整流板)60−1と,第2整流板(下部整流板)60−2を設けることができる。
【0044】
このように,分割形成されたセパレータのそれぞれに対して整流板を設けることにより,整流板の整流効果を十分に発揮させて,吹き込まれた合成ガスのエアリフトの効果をさらに高め,触媒粒子124をより均一にスラリー12中に分散させることができる。
【0045】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0046】
例えば,上述した実施形態においては,反応器本体10の形状が略円筒状の場合について説明したが,反応領域が反応器本体の中央部側に形成され,循環領域が反応器本体の内壁側に形成されることにより,吹き込まれた合成ガスのエアリフトの効果を促進できるものであれば,反応器本体の形状は特に限定されない。
【0047】
また,上述した実施形態においては,冷却管40が1本の管が鉛直方向に沿って上下に複数回往復するような形状である場合について説明したが,反応器本体内部の反応領域に均等に配置されて,スラリーを均等に冷却することに寄与できるものであれば,冷却管の形状や本数は特に限定されない。例えば,いわゆるバイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器内部に複数配置してもよい。
【0048】
また,上述した実施形態においては,セパレータ50,50−1,50−2の下端部近傍に整流板60,60−1,60−2が設けられている場合について説明したが,整流板は必ずしも設ける必要はない。ただし,整流板を設けた方が,上述したように,エアリフトの効果がさらに促進されるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は,気泡塔型炭化水素合成反応器に適用可能であり,特に,液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー中に合成ガスを吹き込んでフィッシャー・トロプシュ合成反応を行うための反応器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るFT反応器の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示したFT反応器の要部を拡大した縦断面図である。
【図3】図2に示したFT反応器をa−a線で切断した横断面図である。
【図4】(a)は,図3に示したFT反応器の第1の変形例を示す横断面図であり,(b)は,図3に示したFT反応器の第2の変形例を示す横断面図である。
【図5】(a)は,本発明の第2の実施形態に係るFT反応器の要部の構成を示す縦断面図であり,(b)は,(a)に示したFT反応器をb−b線で切断した横断面図であり,(c)は,(a)に示したFT反応器をc−c線で切断した横断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 気泡塔型スラリー床FT反応器
2 気泡塔型スラリー床FT反応器
10 反応器本体
12 スラリー
20 ディストリビュータ
22 合成ガス供給管
24 ノズルヘッダー
26 合成ガス供給ノズル
28 気泡(合成ガス)
40 冷却管
42 冷却管入口
44 冷却管出口
50 セパレータ
50−1 第1セパレータ(上部セパレータ)
50−2 第2セパレータ(下部セパレータ)
60 整流板
60−1 第1整流板(上部整流板)
60−2 第2整流板(下部整流板)
122 液体炭化水素
124 触媒粒子
510 セパレータ
520 セパレータ
R 反応領域
C 循環領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーを収容する反応器本体と;
前記反応器本体の下部に配設され,水素および一酸化炭素を主成分とする合成ガスを前記スラリーに供給する反応ガス供給部と;
前記反応器本体の内部に前記反応器本体の高さ方向に沿って設けられ,前記スラリーを冷却する1の冷却管または2以上の冷却管群と;
前記反応器本体の高さ方向に沿って延設され,前記スラリーの上昇流が生じる反応領域と前記スラリーの下降流が生じる循環領域とを相互に流通可能に区画するセパレータと;
を備え,
前記循環領域は前記反応器本体の内壁側に形成され,前記反応領域には前記1の冷却管または前記冷却管群が配設されることを特徴とする,気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項2】
前記反応器本体の内部で液体炭化水素の合成反応が行われている状態のとき,前記セパレータの上端部が,前記スラリーの上面よりも低い位置にあることを特徴とする,請求項1に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項3】
前記セパレータが,前記反応器本体の高さ方向に複数分割して設けられていることを特徴とする,請求項1に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項4】
前記セパレータの下端部の近傍に,前記循環領域の下降流の方向を前記反応領域方向に案内する整流部材をさらに備えることを特徴とする,請求項1に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。
【請求項5】
前記セパレータと前記整流部材との相対位置を調整することにより,前記循環領域から前記反応領域へ流れる前記スラリーの流量を調整することを特徴とする,請求項4に記載の気泡塔型炭化水素合成反応器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−197636(P2007−197636A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20655(P2006−20655)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】