説明

気相法による膜状ダイヤモンドの合成法

【目的】 気相法により膜状ダイヤモンドを合成する。
【構成】 基板表面に炭素質微粒を含むエステル溶液を塗布し、加熱した後に原ダイヤモンド合成原料を供給して気相法ダイヤモンド合成反応を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は気相法による膜状ダイヤモンド合成方法に関し、特に基体上におけるダイヤモンド核発生密度を高め、そのため均一な厚さの膜状ダイヤモンドを容易に生成させるための基体の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】気相法ダイヤモンドの合成に於いてダイヤモンドの形状、均質性を制御するにはより多くの核発生を行う事が必要である。気相法に於けるダイヤモンドの成長は、まず基板上の特異点に微細なダイヤモンド核が発生し、その後、核は3次元的に成長していき、やがて隣接する結晶粒が合体して膜状になる。よって核発生密度が低すぎると膜状成長とならない。ダイヤモンド核発生密度を高める方法として、ダイヤモンドパウダー等による傷つけ処理(第48回応用物理学会学術講演会、18a−T−5)が提唱されている。又、核発生密度、ダイヤモンド膜と基板界面の付着強度を高めるための方法として、酸、アルカリ等の化学薬品によるエッチング(第48回応用物理学会学術講演会、18a−T−4)、またアルコール等を含む特定のガス中でエッチング(特開平1−145396号)等が知られている。しかしいずれの方法によっても最大核発生密度は107 /cm2 程度のオーダーである。
【0003】本発明者らは、核発生密度を高める方法を開発する目的で研究を行ない、先にカーボンブラック又はグラファイト粒子が核形成剤として優れていることを確認して、特願平1−3388号(特開平2−184597)を出願した。然しこの方法はダイヤモンド粒生成には適しているが、ダイヤモンド膜の生成を目的とする場合、膜の均一性が不充分でダイヤモンド膜の生成には不適であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って実用上有用な均質ダイヤモンドを合成するための条件、即ち基板上に高密度に、又付着強度が高く、しかも均一にダイヤモンド薄膜が高速に成長する方法の開発が強く求められている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記の要望に応ずるため研究を続けた結果、炭素質微粒とエステル溶剤とよりなる処理剤を基板に塗布し、これを熱処理した基板を用いることにより目的を達成することを知り、本発明を完成した。即ち、本発明は基板表面に炭素質微粒を含むエステル溶液を塗布し、次いで基板を100℃から600℃で加熱した後に、ダイヤモンド合成原料気体を供給することを特徴とする気相法による膜状ダイヤモンドの合成法に関する。
【0006】本発明のカーボンブラックやすすの粒径は最大0.1μm、好ましくは0.005〜0.07μmである。又、加熱時間は特に限定されないが、実用的には1〜数時間である。具体的には加熱によりエステル溶剤と炭素質微粒が結合して、基板上に炭素化合物粒として分散、点在する。
【0007】このような気体を用いて気相法ダイヤモンド合成反応を行わせると、この炭素化合物粒に対するダイヤモンド前駆体ラジカルの付着確率が高くなりダイヤモンド核の形成が容易となり、核発生密度が従来方法に比し、向上し、生成ダイヤモンドの基体に対する付着強度は大となり、又膜厚も極めて均一となる。
【0008】又エステル溶液として具体的には酢酸エステルが用いられ、市販のマーカーが特に実用的に好ましい。又、エステル溶液中の炭素質微粒の量はエステル100cc中1mg〜0.3gの範囲が好ましい。
【0009】
【発明の効果】気相法に均質なダイヤモンド膜の生成が可能となった。
【0010】
【実施例】
[実施例、比較例]次に実施例、比較例により本発明を説明する。
実施例カーボンブラック粒径0.01〜0.05μmを100cc中に10mg含むエステル溶液(実際には市販の白板マーカー)を25mm平方のシリコンウエハー表面に一様塗布した。このシリコンウエハーを250℃2時間、通常の熱フィラメント法ダイヤ合成装置(直径25cmφ×高さ20cm)内に入れ、90torr,H2 100cc/分、エタノール3cc/分の雰囲気で、処理した。このシリコンウエハー基板と熱フィラメントとの距離を5mmとし、原料としてガス化したエタノールを3cc/分、水素を100cc/分で供給口より反応炉内に導入し、圧力90torrで2時間、ダイヤモンドの析出反応を続けた。基板上に平均0.5μmのダイヤモンド粒が高密度に析出し膜状となっている。ダイヤモンドは光学顕微鏡とラマン分光により確認した。ダイヤ核発生密度は合成開始後5分のSEM写真より計算した値より求めた。結果は5×109 /cm2 であった。又、図1は合成開始2時間後のSEM写真(倍率200倍)である。
【0011】比較例 1シリコンウエハーにはエステル溶液を塗布せず、且つ熱処理を行わない以外、全ての同一条件でダイヤ合成を行った。合成後基板上には5〜8μm粒が点在していた。尚、図2は合成開始2時間後のSEM(倍率200倍)である。核発生密度は約103 /cm2 〜104 /cm2 であった。
比較例 2黒鉛質電極をサンドペーパーで削り、得られたサブミクロン〜数μm径の粉末をエタノールに分散させ、実施例と同様のシリコンウエハー表面に塗布、以下実施例と全く同様にウエハーを熱処理、実施例と同様の条件でダイヤモンド合成反応を行わせた。反応完了後シリコンウエハー上を観察した結果、丸味を帯びたダイヤモンドライクカーボンの塊状集合の中にダイヤモンド自形が僅かに混在したものが、不均一に分散した状態であることを確認した。尚、核発生密度は101 /cm2 〜103 /cm2 であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例における合成開始後2時間の200倍SEM顕微鏡写真である。
【図2】比較例1における合成開始後2時間の200倍SEM顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 気相法により膜状ダイヤモンドを基板に析出させる方法において、基板表面にカーボンブラックまたはすすを含むエステル溶液を塗布し、次いで基板を100℃から600℃で加熱した後に、原料気体を供給することを特徴とする気相法による膜状ダイヤモンドの合成法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−132394
【公開日】平成5年(1993)5月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−285440
【出願日】平成3年(1991)10月7日
【出願人】(390027063)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)