説明

気相腐食防止剤およびその製造方法

【課題】鉄、クロム、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウムおよびその合金を含む、幅広い範囲の一般の実用的な金属を、湿度の高い環境における腐食から保護するための、気相腐食防止剤としての新規の物質配合物を提供する。
【解決手段】上記物質配合物は、(1)少なくとも1種のC6−C10脂肪族モノカルボン酸、(2)少なくとも1種のC6−C10脂肪族ジカルボン酸、および(3)第一級芳香族アミドを含む。好ましくは、これらはさらに、(4)ヒドロキシ安息香酸、特に4−ヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステル、および/または(5)ベンゾイミダゾール、特にベンゼン環が置換されているベンゾイミダゾールを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、一般の実用金属、例えば鉄、クロム、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウムおよびこれらの合金を、湿度の高い気候における腐食から保護するための、気相腐食防止剤(蒸発または昇華することができる腐食防止剤、気相腐食防止剤VPCI(vapor phase corrosion inhibitor)、揮発性防止剤VCI(volatile corrosion inhibitor))としての物質混合物に関する。
【0002】
既に数十年間、閉鎖空間内、例えばパッケージ、開閉キャビネット、または陳列ケース内の金属体の一時的な腐食保護のために、通常条件下で蒸発または昇華する傾向があり、従って、保護されるべき金属表面上をガス相で通過することができる腐食防止剤が用いられている。貯蔵および輸送中での腐食に対する金属部品の保護のこの方法は、オイル、グリースまたはワックスを用いる一時的な腐食保護に対する清浄な代替案であり、国家経済のグローバリゼーションを高めるためにより重要になってきている。
【0003】
中性の水媒体または凝縮水膜の影響に対して金属を保護するための一時的な腐食防止の全ての手段は、化学分解および機械的分解に対して、初期酸化被膜(POL)を保護する目的を有し、これは大気との第1の接触後に実用金属上に常に存在する(例えば、E,Kunze(編集),Korrosion und Korrosionsschutz,Vol.3,Wiley−VCH,ベルリン,ワインハイム,ニューヨーク2001,1680頁以下を参照のこと)。
【0004】
水性媒体中での金属(Me)の腐食の初期反応は、それぞれのPOLの選択的な分解または一般的な分解から通常なっているためである。例えば、以下のように一般的に示される。
【0005】
MeO+2H2O →Me(OH)2 → Me2++2OH- (1)
その後、露出金属は、続く工程において酸化され得る。
【0006】
Me → Me2++2e- (2)
1/2O2+H2O+2e- → 2OH- (3)

Me+1/2O2+H2O → Me2++2OH- (4)
揮発性腐食防止剤(VCI)によりこれらの続く工程を多かれ少なかれある程度まで遅らせ、一時的な腐食防止を達成するための1つの可能性は、アミンを用いることである。
【0007】
アンモニアNH3の有機誘導体であるアミンは、加水分解中、塩基として反応する。例えば、
NH3+H2O ⇔ NH4++OH- (5)
ここで、ヒドロキシルイオンOH-に加えて、第一級アミン(NRH2)、第二級アミン(NR2H)、または第三級アミン(NR3)を用いるかによって、NRH3+、NR22+、またはNR3+と一般的に示されるタイプのイオンも生じる。
【0008】
このさらなるOH-イオンの生成により、少なくとも2つの効果を達成することができる。すなわち、
・POLの分解する傾向の制限(反応(1)の抑制)、および
・腐食反応(4)の陰極副工程としての、反応(3)に従う酸素還元の阻害
である。
【0009】
多くのアミンは、既に、通常条件下で蒸気圧または昇華圧を有するため、VCIとしてのその利用は明らかであり、多くの特許に記載されている。その中で、主として、環状アミンであるジシクロへキシルアミンおよびシクロヘキシルアミンが記載されている。一例として挙げると、US 600,328、US 2,419,327、US 2,432,839、US 4,051,066、US 4,275,835、DD 284 254、およびDD 284 255において、既に、信頼できる一時的な腐食保護はアミンだけでは達成することはできず、従って、アミンを、不動態化剤(passivator)として作用することができる物質と配合するという事実を考慮に入れている。その結果として、部分的な化学的分解または局所的な機械的除去(磨耗,浸蝕)により破壊された際に、その金属物質の酸化上層として自然にPOLを再び形成することができる(例えば、E.Kunze,上記引用文中;E.Vuorinen,E.Kalman,W.Focke,Introduction to vapour phase corrosion inhibitors in metal packaging,Surface Engineering,Vol.20(2004)281以下を参照のこと)。
【0010】
このような不動態化剤として、亜硝酸の塩である亜硝酸塩が、現実的な腐食保護において有用であると判明した。従って、これらは、長きに渡り、VCIとして用いられてきた。特に、比較的容易に揮発する亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウムは、60年以上にわたりVCIとして既に用いられており(例えば、Kunze,上記引用文中.;Vuorinen等,上記引用文中)、多くの特許においてVCI組成物の成分として挙げられている(例えば、US 2,419,327、US 2,432,839、US 2,432,840、US 2,534,201、US 4,290,912、US 4,973,448、JP 02085380、JP 62109987、JP 63210285 A,DE 4040586)。
【0011】
酸化剤としての亜硝酸塩イオンの効果は、その電気化学的還元に関連する。例えば、以下の通りである:
2NO2-+2H++2e- → 2NO+2OH- (6)
ヒドロキシルイオンOH-は、このプロセスにおいて生じるため、この媒体のPH値が既に高ければ高いほど、水性媒体中での還元は激しくは進行しない。
【0012】
この側面に関しては、ジシクロヘキシルアミン、または亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウムの解離の結果として生ずるジシクロヘキシルアンモニウムイオンのために、水中、室温で、pH≒9付近にすることは不利である。これは、亜硝酸塩の不動態化剤効果の増進を妨げるばかりでなく、例えば、亜鉛およびアルミニウム材料の不動態酸化膜の安定性を損なう恐れがある。これらの金属の酸化物は、中性の範囲においてのみ抵抗力があり、pH>8においては、亜鉛酸塩またはアルミン酸塩の形成を伴って次第に分解することが知られている。
【0013】
鉄金属のみならず、少なくとも亜鉛メッキ鋼およびアルミニウム材料に用いることができるVCIパッケージ材料を作成することを目的として、不動態酸化膜の分解を起こさないために、亜硝酸アミンだけでなく、金属表面上の凝縮水膜におけるpH調節効果を有する成分を含むVCI配合物を調製する試みがなされてきた。
【0014】
従って、亜硝酸アミン混合物と、昇華可能な他の物質、例えば中程度〜弱い飽和または不飽和カルボン酸の塩とを配合することが提案されており、例えばUS 2,419,327、US2,432,839、2,432,840、DE 814 725である。結果として、これらが、水性媒体または凝縮水膜と接触した際に、通常のAlおよびZn材料の改善された保護が達成されるが、亜硝酸塩の不動態化剤性質はこの化学種により低下する。
【0015】
問題のカルボン酸塩は、それぞれ存在するカルボン酸/塩の系に依存して、アミンが同時に存在するか存在しない、金属の表面上の水性媒体または凝縮水膜において比較的高い緩衝能を有するpH緩衝系を形成し、従って、酸化剤の還元(reducibility)を妨げ、このことは基本的に、亜硝酸塩の上記の還元反応(6)から理解することができる。知られているように、それぞれの反応媒体が、まだ、対応して高い濃度のOH-イオンを有していないか、または生じたOH-イオンが、媒体から規則的に放出される場合にのみ、不動態化効果のために必要であるこの反応は、左から右へと自由に進行する。
【0016】
これらの状態が生じない場合には、例えば徐放性製剤(depot)から酸化剤の反応した量を連続的に補うことにより、媒体中の酸化剤の濃度を、生じるOH-イオンよりも比較的高くなるように調節する場合にのみ、不動態化効果を達成することができる。
【0017】
従って、酸化剤、例えば亜硝酸塩、クロム酸塩、または有機ニトロ化合物に加えて、アミンまたはカルボン酸アミン塩を含有するVCI配合物を目的とする全ての発明は、不動態化酸化剤を、他の活性成分の量と比較して過剰な濃度で用いる場合にのみ、実用に成功することができる。しかしながら、この事実は、問題の特許から必ずしも容易に明らかではない。というのは、本発明によるVCI配合物を用いることができる濃度範囲は、非常に広い見地から通常特定されるためである。酸化剤を含むこのようなVCI配合物は、例えば、US 600,328に記載されており、ここでは、できるだけ多くの有機亜硝酸塩を用いることが推奨されており、またDE 814 725に記載されており、ここでは、有機窒素含有塩基の亜硝酸塩(例えば、カルボン酸塩、ピペリジン、オキサジンまたはモルホリン)を、包装材料のm2当たり、少なくとも0.5〜20gの亜硝酸塩を付着させることを条件に提供し、信頼できる保護は、包装の内部空間のm3当たり、少なくとも35〜600gが放出される(emit)際にのみ達成される。
【0018】
今日、上記酸化剤の実際的な用途は、その既知の、程度の差はあれヒトへの損傷効果のために制限されるため、また、調製物中での濃度に関しての職業暴露限度(OEL)を守る必要があるため(例えば、年に1度の更新を含むEC指令(EC Directive)67/548/EECに従う物質および調製物の分類)、過剰量の不動態化剤を含む上記VCI配合物は、もはや用いることができない。
【0019】
これらの代替として、例えば、US 5,209,869、US 5,332,525、およびEP 0 662 527 A1において、亜硝酸塩およびカルボン酸アミン塩から成るVCI混合物と、モリブデン酸塩とを混合するかまたは混合せず、さらにシリカゲル等の乾燥剤を混合することが提案されており、保護する金属表面上の凝縮水膜の形成、および関連する不利なpHの影響を、できるだけ長く遅らせる。しかしながら、この提案は、包装材料上または中に固定したVCI系が、乾燥剤の存在のために、周囲からかなりの量の水を吸収する傾向にあり、密封したパッケージの内部におけるVCI成分の放出速度の減衰、およびVCI腐食保護効果の低下をもたらすという、かなりの不利点を有する。
【0020】
亜硝酸塩とアミンとを同時に含む、今日まで知られるVCI系の大部分は、既に上記した理由のために必要な信頼性を提供することはできなかった。一方で、不確実な他の要因は、VCI成分として導入される、特に第二級アミンおよび環状窒素含有化合物、例えばモルホリンおよびピペリジンが、容易にN−ニトロソ化合物に変わるという事実を証明した。これらN−ニトロソアミンは通常、弱い酸化剤として作用し、金属の腐食を促進する。さらにより不利なことは、その発癌効果であり、これは、これらのVCI系を工業的スケールで用いることを阻止する。
【0021】
亜硝酸塩を他の酸化剤と置き換えることによりこの不利点を克服しようとまず試みられた。何故なら、アミンのニトロソ化は、ニトリルが同時に存在することによってのみ引き起こされると推測されたためである。従って、US 4051066において、m−ニトロベンゾアートおよびジニトロベンゾアートを亜硝酸塩の代わりに用いているのに対し、DD 268 978およびDD 295 668は、ジシクロヘキシルアミン−ニトロフェノラートおよびジシクロヘキシルアミン−m−ニトロベンゾアートの使用を提案している。最後に、US 1224500は、揮発性脂肪族および芳香族ニトロ化合物と複素環式アミンとを共に用いることに関して一般的に述べており、2−ニトロプロパン、ニトロベンゼン、およびジニトロベンゼンを具体的に述べている。
【0022】
しかしながら、一方、これらの代替の酸化剤の不動態化剤性は、亜硝酸塩のものと比較して弱く、他方で、意図した効果、すなわち、用いたアミンとのN−ニトロソアミンの形成を回避することが達成されないことがわかった。一方、このような十分に証明されたVCI成分、例えばモルホリンおよびジシクロヘキシルアミンは、空気の通常の構成成分により、特に金属と接触した際に、比較的高温においてニトロソ化を受けるということが知られるようになった。実際に、このことは、これらをプラスチック中へ取り込むことを妨げる。何故なら、周知のように、溶融押出、射出成形、または押出吹込成形が、金属機械において200℃付近の温度で行なわれるためである。
【0023】
海外輸送に対処するため、VCIを備えたフィルムおよび硬質プラスチックについての要求を満たすために、アミンを含まない亜硝酸塩含有VCI系が提案されてきた。例えば、US 3836077には、ボラートを伴う亜硝酸塩とフェノール(スチレンにより単置換、二置換または三置換されたもの)の配合が述べられている。しかしながら、VCI腐食保護効果は最低限に留まった。というのは、ボラートも、芳香族により置換されたフェノールも、ポリマー担体材料から昇華しないためである。
【0024】
一方、US 4 290 912は、VCIフィルムの製造用の無機亜硝酸塩と三置換フェノールおよびシリカゲルとの配合物の使用に重点を置き、しかし、実施形態の例は、フェノールの場合には、わずかに脂肪族基により置換されたフェノール、特に2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(ブチル化ヒドロキシトルエン,BHT)を意図することを示している。これらの置換フェノールは常温でさえ昇華する傾向があり、亜硝酸塩とのこの配合により、揮発性アミンの関与なしに改善された昇華速度を達成することができるが、金属表面に到達した亜硝酸塩は、さらなる成分を使用しないと、信頼できるVCI腐食保護を提供することができない。不動態化金属の場合において、凝縮水膜におけるpHを不動態化に適した範囲に調節し、また、生じた不動態化酸化物層を吸着により安定化して分解を阻止する成分を用いることが必要であることが知られているが(例えば、E.Kunze,上記引用文中)、これらは、US 4 290 912において主張されている活性物質の配合では達成されない。さらに、中性水溶液における銅材料の場合において、亜硝酸塩は、酸化物CuOの形成のために、黒化(blackening)を引き起こす。
【0025】
ベンゾトリアゾールは、長い間、銅および銅合金を大気腐食から保護するために具体的に用いられてきた(例えば、E.Kunze,上記引用文中)。しかしながら、この化合物の昇華する傾向は比較的低いため、DE 1182503およびUS 3,295,917においては、まず、このVCIの徐放性製剤を高温(約85℃まで)にすると同時に、金属体を冷却して、この上で凝縮が起こることを提案している。他方で、US 2,941,953および3,887,481は、ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールの紙への含浸を記載している。VCI徐放性製剤と保護される金属表面との距離ができるだけ短く保つために、テトラクロロエチレンのような有機溶媒を用い、保護すべき金属部分を、できるだけかなりしっかりとVCIパッケージ材料で覆った後、含浸させるべきである。しかしながら、この技術は、非常に細かいパウダー粒子の形態にある活性物質は、殆どわずかに紙に付着するにすぎず、容易に滑り落ちてしまい、このパッケージ材料の腐食保護性を確実に生ずることができないという不利点を有する。さらに、これらが銅材料に留まるのはかなり制限され得るであろう。
【0026】
種々の金属の腐食保護に用いることができるVCI放出パッケージ材料を提供するために、活性物質の幅広い範囲の配合が既に提案されている。この点において、EP 0662527は、ベンゾトリアゾールと安息香酸シクロヘキシルアミンおよび安息香酸エチルアミンとの、または無水モリブデン酸ナトリウムおよび亜硝酸ジシクロへキシルアミン塩との混合物を述べており、US 4,051,066およびUD 4,275,835は、ベンゾトリアゾールとモリブデン酸アンモニウムおよびモリブデン酸アミン、安息香酸アミンおよび亜硝酸アミンの混合物を記載しており、US 4,973,448は、ベンゾトリアゾールと有機カルボン酸塩、リン酸塩およびアミンの混合物を記載しており、JP 62063686および63210285 Aは、ベンゾトリアゾールと、アルカリおよび芳香族カルボン酸のアミン塩の混合物を記載している。
【0027】
ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、またはメチルベンゾトリアゾールと、他の窒素−有機揮発性固体との配合は、例えば、JP 62109987、JP 61015988、DD 268978、およびDD 298662に記載されている。全てのアンモニウムイオン含有成分、およびアミン含有成分は、金属イオンと錯体を形成するというその事実上顕著な性質のため、とりわけ非鉄金属に関して、トリアゾールの保護効果を低下させる。加えて、上記アミンおよびアンモニウム化合物は非常に親水性である。このような物質を含有するVCI徐放性製剤はより水を吸収する傾向がある。その際、これらの加水分解は通常、その昇華する傾向の大きな低下を導き、これは、必然的に、腐食保護効果における低下をもたらす。
【0028】
VCIを用いることの利点、およびトリアゾール構造の抑制効果からの利点を得るために、JP 03079781において、トリアゾール/アミン物質の配合の代わりに、アルキルアミノトリアゾールのみを用いることが提案されている。実際に、明示的に記載されている物質である3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、および3−アミノ−5−メチル−1,2,4−トリアゾールはより速い揮発速度を有するが、特に銅に関して、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールのような明らかな腐食保護効果を有してはいない。
【0029】
さらに、提案されたアルキルアミノトリアゾールは、どの場合においても、幅広い範囲の実用金属に対して腐食防止剤としての単独での使用に適しているわけではない。
【0030】
DE 101371130およびUS 6,752,934 B2によれば、鉄および非鉄金属の双方の一時的な腐食保護に適していると考えられているVCI放出パッケージ材料は、亜硝酸塩に加えて、不水溶性の多置換フェノール、ジヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステル、およびトコフェロール(2,5,7,8−テトラメチル−2−(4’,8’,12’−トリメチルトリデシル)クロマン−6−オールを含む物質の配合から成る。これらの配合物の有機成分によって、保護される金属部分の最も広い表面範囲は、疎水性吸着フィルムによりコーティングされ、従って、亜硝酸塩の不動態化効果は、吸着が起こらない金属部分のわずかな表面領域においてのみ提供される必要がある。
【0031】
多置換フェノールおよびトコフェロールの双方とも酸化防止剤として作用するため、このような物質の配合が放出されるパッケージ材料内のCuおよび銀基材は、さらに、黒またはダークグレーに変色した皮膜を含まないままである。しかしながら、一方で、このための1つの状態は、保護される金属部分の表面がパッキング時に乾燥した、疎水性の(hydrophobicizable)状態にあり、また、できるだけ低い相対湿度(20℃において≦60%)がパッキング領域に広がっていることである。さらに、亜硝酸塩だけでなく、酸化防止剤もそれぞれのパッケージング材料から昇華し、保護される金属表面上に薄膜として吸着することを確実にする必要がある。DE 101371130は、この理由のため、比較的低い温度においてでも十分な程度にまで上記VCI成分が常に放出されることを意図して、二環式テルペンまたは脂肪族基により置換されたナフタレンをさらなる成分として加えているが、このことは全てのケースにおいて行なわれていないという事実を考慮に入れる必要がある。従って、パッケージ材料が、より相対湿度の高い領域において用いられた場合、および銅基材の場合のVCI腐食保護が不十分であることを除外していない。
【0032】
本発明の目的は、蒸発または昇華可能な腐食防止物質および物質の配合物であって、気相で作用する一般的な揮発性腐食防止剤の上記した不利点に比べて改善されており、上記物質および物質の配合物は、特に、実際面で重要となる気候条件下において、技術的なパッケージおよび同様の閉じた空間内で、対応する徐放性製剤から十分な速度で蒸発または昇華し、この空間内にある金属の表面上での吸着および/または凝縮後、通常の実用金属を大気腐食から確実に保護するという条件を保証する物質および物質の配合物を提供することである。本発明の目的は、また、改善されたVCIパッケージ材料の製造のための上記物質および物質の配合物を製造し、処理するための方法を提供することである。
【0033】
驚くべきことに、これらの目的を、特に、請求項1に記載の物質の配合物を提供することにより達成することができる。本発明のより具体的な態様および好ましい実施形態は、さらなる請求項の発明特定事項を形成する。
【0034】
請求項1に記載の物質の配合物は、特に、以下の成分:
(1)少なくとも1種のC6−C10の脂肪族モノカルボン酸、および
(2)少なくとも1種のC6−C10の脂肪族ジカルボン酸
を含む。
【0035】
中程度の鎖の長さ(C6−C10)の少なくとも1種のモノカルボン酸および少なくとも1種のジカルボン酸の配合物が、多くの金属について良好な腐食防止効果をもたらすことが本発明により見出された。2つの成分は、初期酸化被膜(POL)により被覆された金属表面上での吸着に関して互いに相乗的にサポートし合い、結果として、これらの不動態酸化層は、湿気および凝縮水の影響に対して大幅に安定化する。
【0036】
請求項1における本発明による腐食防止物質の配合物は、また、さらなる成分(3)、すなわち芳香族第一級アミドを含み、これは驚くべきことに、モノカルボン酸およびジカルボン酸それぞれの、酸化物により被覆された金属表面への吸着をさらに助ける。
【0037】
本発明による腐食防止物質の配合物が、モノカルボン酸およびジカルボン酸の他に、または好ましくはモノカルボン酸およびジカルボン酸(1+2)およびアミド(3)の他に、少なくとも1種のさらなる成分(4)および/または成分(5)を含む場合が好ましい。
【0038】
成分(5)は、ベンゾイミダゾール、好ましくはベンゼン環が置換されたベンゾイミダゾールである。驚くべきことに、この成分は、特に銅金属上での中性水溶液または湿気の多い空気の大気中酸素の攻撃を著しく抑制し、従って、本発明による物質配合物の腐食防止効果が、本技術分野における全ての一般的な実用金属において十分に得られることを確実にする。
【0039】
好ましくは、本発明による腐食防止物質配合物は、上記成分(1)+(2)、(1)+(2)+(5)、または(1)+(2)+(3)、または(1)+(2)+(3)+(5)の他に、成分(4)として、ヒドロキシ安息香酸、好ましくは4−ヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステルを含み、これ自体が湿気の多い空気中で昇華し、昇華VCI成分のキャリヤとして機能することができる。この成分は、特に紙をベースにした腐食防止パッケージ材料の場合にかなり有利なものであるばかりでなく、腐食防止プラスチックフィルムの場合にも有利に用いられる。
【0040】
それぞれの成分の量の比は具体的な使用分野により変化し得るし、適切な成分を当業者であれば、困難なくルーチン実験により確かめることは可能である。
【0041】
全ての成分(1)〜(5)を含む本発明の好ましい実施形態において、腐食防止物質配合は、1〜60%の成分(1)、1〜40%の成分(2)、0.5〜20%の成分(3)、0.5〜20%の成分(4)、および0.5〜20%の成分(5)を含む。
【0042】
好ましくは、80℃までの範囲の温度、≦98%の相対湿度(RH)において、全ての成分が、気相腐食保護に十分な量と速度で蒸発または昇華するように成分を設定する。
【0043】
いくつかの適切な、限定されないC6−C10脂肪族モノカルボン酸であって、直鎖または分枝の、好ましくは直鎖の飽和または不飽和であり得るものの例は、ヘキサン酸(カプロン酸)、2,4−ヘキサジエン酸(ソルビン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸(ペラルゴン酸)、イソノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、または類似の構造を有する脂肪族モノカルボン酸である。
【0044】
いくつかの適切な、限定されないC6−C10脂肪族ジカルボン酸であって、直鎖または分枝の、飽和または不飽和であり得るものの例は、ヘキサン二酸(アジピン酸)、ヘプタン二酸(ピメリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、または同様のジカルボン酸である。
【0045】
いくつかの適切なヒドロキシ安息香酸、好ましくは4−ヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステルの限定されない例は、4−ヒドロキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)、4−ヒドロキシ安息香酸エチル(エチルパラベン)、または類似の構造を有する脂肪族エステルである。
【0046】
いくつかの適切な第一級芳香族アミドの限定されない例は、ベンズアミド、2−アミノベンズアミド、4−アミノベンズアミド、ベンゼンアミノアミド(N−ベンジルウレア)、ピリジン−3−カルボキサミド(ニコチンアミド)、または類似の構造を有する第一級芳香族アミドである。他の適切なアミドを、当業者であれば、困難なくルーチン実験により決定することは可能である。
【0047】
ベンゾイミダゾールの1つの好ましい限定されない例は、ベンゼン環に置換基を有するベンゾイミダゾールであり、例えば、5,6−ジメチルベンゾイミダゾールまたは類似の構造、置換基を有するベンゾイミダゾールである。当業者であれば、困難なく、ルーチン実験により他の適切な化合物を判断することができる。
【0048】
本発明による腐食防止物質配合物は、上記した成分(1+2)〜(5)の1種以上に加えて、さらに、気相腐食防止剤として、個々にまたは混合物として既に導入されている物質を含んでいてもよい。一例として、ベンズアミド成分(4)に代えて、またはベンズアミド成分(4)に加えて、トリアゾールまたはC−置換トリアゾール、例えば、ベンゾトリアゾールまたはトリルトリアゾールを、いくつかの用途(例えば銅または銅合金の保護)について用いることもできる。
【0049】
本発明による物質配合物を、(1)〜(5)から選択される成分を所望の量で(いずれものさらなる成分を加えて)混合するという単純な方法で製造することができる。1つの好ましい実施形態において、1〜60%の成分(1)、1〜40%の成分(2)、0.5〜20%の成分(3)、0.5〜20%の成分(4)、および0.5〜20%の成分(5)をこの方法で混合する。
【0050】
本発明によれば、これらの物質配合物を適切な混合物の形態で直接的に用いるか、またはそれ自体既知である方法に従って、VCIパッケージ材料の製造下で取り込み、従って、これらのパッケージ材料はVCI徐放性製剤として作用し、本発明による物質配合物の腐食保護性質を特に有利な様式で得ることができる。
【0051】
本発明による物質配合物を、VCI徐放性製剤またはそのように作用するパッケージ材料中に取り込むために、それ自体既知の方法を用いて、個々の物質を無水状態で、できるだけ激しく、上記した比率でまず混合することが有利である。
【0052】
本発明による物質配合物を、鉄、クロム、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、およびこれらの合金を含む広い範囲の通常の実用金属を、パッケージ内での大気腐食から、輸送中、および同様に閉じられた空間における貯蔵中に特に保護するために用いる。特に、広い範囲の金属および金属合金について用いることができることが、本発明の特に利点である。
【0053】
本発明による腐食防止物質配合物を、気相腐食防止剤(VPCI,VCI)として、微細粉末状混合物の形態で、パッケージ、金属材料の貯蔵または輸送において用いることができる。
【0054】
しかしながら、腐食防止物質配合物をコーティング物質中に取り込むこともでき、従って、VPCIまたはVCI放出パッケージ材料の製造下で、キャリヤ材料、例えば紙、ボール紙、泡、および同様の平らな構造物を被覆した後、これらをパッケージ、貯蔵および輸送プロセス内で用いる。
【0055】
本発明による腐食防止物質配合物は、ポリマー材料(例えばポリオレフィン、ポリエステル)との混合物の形態で、溶融押出、射出成形、または押出吹込成形して、活性物質濃縮物(マスターバッチ)およびフラットな最終生成物を形成することができる腐食防止剤を提供することを可能とし、VPCI放出フィルムまたは硬質プラスチックが製造され、蒸発または昇華することができる腐食防止剤(VPCI,VCI)を放出するこれらの能力を、パッケージ、貯蔵および輸送プロセス内で、金属の腐食保護のために用いることができる。
【0056】
本発明による物質配合物は、原則として、亜硝酸塩およびアミンを含まず、有利には、それ自体既知の方法で容易に、いかなる危険を伴うことなく処理することができ、用いる割合において、毒性がなく、環境を害することがないものとして分類される。従ってこれらは、大スケールで安価に、いかなるリスクを伴うことなく用いることができる腐食保護パッケージ材料を製造するのに特に適している。
【0057】
本出願の構成要素を、以下の限定されない例を用いてより詳細に説明する。例から理解できるように、それぞれのVCI徐放性製剤における本発明による混合物中の個々の成分の種類と量は、個々のVCI放出生成物についての製造条件にのみ依存するものであり、腐食から保護する金属の種類には依存しない。
【0058】
例1
本発明による以下の物質配合物VCI(I)を、無水材料から調製した。
【0059】
20.0重量% オクタン酸
15.0重量% 2,4−ヘキサジエン酸
15.0重量% ヘキサン二酸(アジピン酸)
10.0重量% 2−アミノベンズアミド
5.0重量% 5,6−ジメチルベンゾイミダゾール
35.0重量% 不活性充填剤(シリカゲル)
どの場合にも、この混合物の5gを、25mlのガラスビーカーの底に渡って広く撒布し、後者をガラスジャー(容量1l)中に入れた。10mlの脱イオン水を含む第2のガラスビーカーを第1のガラスビーカーの隣に置いた。続いて試験ボディフレームを導入し、いずれの場合もこの上に4つの精製した試験体を、水平位置に対して45°の角度に置いた。それぞれのバッチにおいて、上記した試験体は、材料低合金鋼100Cr6、鋳鉄GGG25、AlMg1SiCu、およびCu−SFから作製され、変色皮膜および沈殿物はなかった。
【0060】
金属サンプル、脱イオン水、および本発明による物質配合物を含むガラスジャーをしっかりと閉めた。この目的のために、それぞれの場合において、封止リングおよびテンションクリップを有する蓋を使用した。室温での16時間の待ち時間後には、容器内でVCI成分のいわゆる堆積層は完結したものとして扱うことができる。その後、個々のガラスジャーを40℃の温蔵庫に16時間入れた後、さらに室温で8時間置く。この繰り返し負荷(loading)(1サイクル=24時間)を、試験体の可視変化がガラス壁を通じて確かめられる、または最大42サイクルの負荷が完了するまで繰り返した。
【0061】
試験の終了後、試験体をガラスジャーの外側で詳細に視覚的に評価した。
【0062】
本発明による物質混合物VCI(1)に対して、5g分の市販のVCIパウダを同様に試験した。この対照VCIパウダ(R1)は、
54.0重量% 安息香酸モノエタノールアミン
23.0重量% 1H−ベンゾトリアゾール
23.0重量% 充填剤(シリカゲル)
から成っていた。
【0063】
試験の結果
本発明による物質混合物VCI(1)と共に用いられた試験体は、全4つの平行バッチにおいて、42サイクル後でも変化しない外観を有していた。
【0064】
市販の対照系であるR1を用いたバッチにおいては、GGG25から作製された試験体は8〜10サイクル後にさびの第1のスポットを示し、試験を続けるにつれてこれは迅速に大きさを増した。鋼リングにおいては、端部におけるさびが11〜12サイクル後に観察することができた。
【0065】
Al試験体は、特に端部領域において、42サイクル後に白色のさび始めが観察され、これは、FTIR顕微鏡検査(ダイヤモンドセルと連結したオートイメージ顕微鏡を備えた、パーキンエルマー FTIR measuring station Spectrum One FTIR)によりアルミニウムオキシドヒドロキシド(AlOOH)として確認することができた。
【0066】
従って、対照系R1はCuベースの材料のVCI腐食保護についてのみ適している。これに比べて、通常の実用的な金属についての本発明による物質配合物VCI(1)のVCI効果は記載した例において、大きな利点が示されている。
【0067】
例2
本発明による以下の物質配合物を、無水物質:
25.0重量% オクタン酸
15.0重量% 2,4−ヘキサジエン酸
15.0重量% ヘキサン二酸(アジピン酸)
5.0重量% メチルパラベン
15.0重量% ニコチンアミド
2.5重量% 5,6−ジメチルベンゾイミダゾール
21.5重量% 水酸化カリウム
1.0重量% Natrosol(登録商標)250 GR(ヒドロキシエチルセルロース,分散剤,増粘剤)
から調製し、および25%の分散体を、脱イオン水を加えることによりこれらから調製した。
【0068】
紙ストリップ(クラフト紙 70g/m2)をこの調製物により、15g/m2のウエット塗りを用いてコーティングした。本発明により得られるVCI紙であるVCI(2)の空気乾燥の直後に、この紙を、対照系(R2)である市販の腐食保護紙と比較した、その腐食保護効果について試験した。化学分析によれば、対照系(R2)は、活性物質である安息香酸エタノールアミン、安息香酸ナトリウム/安息香酸、ベンゾトリアゾールおよび尿素を含んでおり、総量は、本発明による物質配合物の約2倍であった。
【0069】
例1と同様に、低合金鋼100Cr6、鋳鉄GGG25、AlMg1SiCu、およびCu−SFから作製した試験体をここでも用い、試験手順も例1に記載したものと同様であった。唯一異なる点は、VCIパウダー混合物の代わりに、個々のガラスジャーに今度はVCI紙を貼り付け、それぞれの場合に、底にφ8cmの円形ブランク、13×28cmの外側面、および上面にφ9cmの他の円形ブランクを設けた。試験体フレームと、脱イオン水を含むガラスビーカーを所定の位置に置き、ガラスジャーを閉じ、雰囲気負荷(climate loading)を例1に記載した通りに行なった。
【0070】
しかしながら、試験対象の状態を、ここではガラス壁を通じて観察することができないため、この目的のために、室温段階の間に毎5サイクル後にバッチを手短に開いた。視覚的に変化が確認できない場合には、雰囲気負荷を記載した方法で続けた。
【0071】
試験の結果
本発明による物質混合物に基づいて作製したVCI紙VCI(2)と共に用いられた種々の試験体は、全ての3つの平行バッチにおいて42サイクル後も変化しない外観を有した。
【0072】
市販の対照系R2を用いたバッチにおいては、GGG25から作製した試験体は、10サイクル後の検査時にさびの第1のスポットを示し、これは試験を続けるにつれて大きさを迅速に増した。鋼リングについては、端部におけるさびつきを、15サイクル後に観察することができた。
【0073】
Al合金から作製した試験体は、30サイクル後に端部において白色のさび始めが観察され、これは40サイクルまでの負荷中に著しく大きさを増した。Cu−SFから作製した試験体は、40サイクル後にわずかにダークグレーの変色皮膜により被覆され、これはぬぐい取ることができなかった。
【0074】
従って、対照系R2はCuベースの材料のVCI腐食保護についてのみ適している一方で、本発明による物質配合物に基づいて作製されたVCI紙VCI(2)は、厳しい湿性条件下および長周期の負荷下においてさえ、例に示す通り、通常の実用的な金属について信頼できるVCI性質を示した。
【0075】
例3
12.7重量% オクタン酸
8.6重量% ノナン酸
11.2重量% デカン二酸
11.2重量% 4−アミノベンズアミド
6.8重量% メチルパラベン

14.1重量% オクタン酸ナトリウム
14.3重量% ケイ酸
6.3重量% ケイ酸塩(粘着防止剤)
8.1重量% 炭酸カルシウム
6.7重量% IRGANOX(登録商標)B 215(安定剤)
この混合物の26.5重量%を、73.5重量%のEBA(エチレン/アクリル酸ブチルコポリマー)と混合し、VCIマスターバッチを作製するために処理した。この目的のために、同方向回転二軸押出機を備えた、研究室用押出機Rheocord90(HAAKE)を用いた。65〜80rpmのスクリュー回転数で、この混合物を、110〜135℃のシリンダ温度および135℃のノズル温度で押出し、冷却チョッパにより粒状にした。この粒状化したVCIマスターバッチを、さらに、VCIフィルムを形成するためにインフレーション(blow film)押出により処理し、この目的のために、単軸押出機およびリングノズルを備えた、研究室用押出機Rheocord90(HAAKE)を用いた。VCIマスターバッチの2.5重量%を、インフレーション製造に適した97.5重量%のLDPEと十分に混合した後、処理を、165〜190℃のシリンダ温度および195℃のノズル温度で続けた。スクリュー回転数は100rpmであった。100μmの平均層厚さを有するVCIフィルムを製造した(VCI(3))。
【0076】
本発明による物質配合物を用いてこのように製造したVCIフィルムVCI(3)を、バッグを形成するように処理した(切断し、重ねた端部の合わせ目を融着した)。材料の炭素鋼DC03,冷延(90×50×1)mm3(Q−Panel,Q−Panel Lab Products,クリーブランド,オハイオ州 44145 米国)、亜鉛メッキ微粒子鋼(ZnSt)であって、18μmのZn層を有するもの、およびアルミニウム合金Al7075のシートであって、いずれの場合にもシートDC03と同じ大きさのシートを互いに、化学的に不活性なPMMA(ポリメチルメタクリラート)で作製されたスペーサフレーム内で約1cm間隔をあけて平行に配置し、これらの配置物をいずれの場合も、予め作製したバッグ中に別個に融着させた。プラスチックスペーサフレームにおける種々の試験シートの位置決めは、VCI成分が目的通りのその効果を、気相のみを介して達成することを確実にする。
【0077】
対照系(R3)として市販のVCIフィルムを用い、これは化学分析によると、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、オクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸を、炭酸カルシウムおよびタルカンと共に含み、本発明による物質配合物VCI(3)と全体でほぼ同じ量で上記した最初の3成分を含んでいて、同様に100μmの層厚さを有していた。100μmフィルムのバリア効果に起因する腐食保護効果減損の割合を別個に検知するために、対照系(R3’)として同様のパッケージを、VCIを含まないLDPEフィルム、100μmを用いて作製した。
【0078】
全ての調製したモデルパッケージを室温でさらに約5時間緩衝保存し、VCIフィルムを用いて作製したパッケージ内でVCI成分で飽和した雰囲気(堆積段階)を確実に設定した。
【0079】
その後、タイプVC4033(VOETSCH Industrietechnik GmbH,D−72304 Balingen)の種々の環境制御試験キャビネットに移し、DIN EN 60068−2−30に従って、湿度/温度環境を変化させるように設定した。試験されるフィルムVCI(3)、R3およびR3’について、別個の環境制御試験キャビネットをいずれの場合においても用いて、曝露されるサンプルのいかなる相互効果をも防止する。
【0080】
適用される環境負荷において、1の24時間サイクルは既知の以下の工程:6時間25℃および(RH)=98%、(RH)=95%における25〜55℃の3時間の加熱段階、(RH)=93%において9時間55℃、および(RH)=98%における55〜25℃の6時間の冷却段階、および3時間25℃および(RH)=98%、から成る。
【0081】
実験は、この変化する湿度/温度負荷は、海外輸送の環境条件を加速様式で模倣することを示している。
【0082】
フィルムパッケージにより覆われた試験シートの表面を、各サイクル後(安定な25℃段階中で)、透明フィルム材料を通して調べた。目に見える腐食現象が個々の試験シートについて確認されたら即座に、その時点までのサイクル数を記録した後、環境負荷を、モデルパッケージの全ての試験シートが影響を受けるまで、または個々の試験シートについての腐食の度合いがもはや、フィルム壁を通して目視検査による評価ができなくなるまで続けた。試験の終了後、パッケージ材料を取り除き、各試験シートの表面状態を最終的に評価した。
【0083】
試験の結果
表1:モデルパッケージの変化する湿度/温度負荷の結果(いずれの場合にも、3つの相応するサンプルからのサイクルの数についての平均値)
【表1】

【0084】
この例は、本発明による物質配合物の、一般の実用的な金属の腐食保護についての高性能なVCIフィルムパッケージ材料としての優位性を立証し、一方で、対照系R3は鋼についてのみ十分な保護効果を提供することができ、他方で、非鉄金属サンプルについては、VCIを含まない対照系R3’であって、100μmの同じ層厚さの一般のLDPEフィルムからなるものと比較して、殆ど全くといっていいほど差が見受けられなかった。
【0085】
例4
9.4重量% ノナン酸
10.6重量% デカン二酸
11.2重量% メチルパラベン
9.4重量% 2−アミノベンズアミド
5.0重量% 5,6−ジメチルベンゾイミダゾール

25.4重量% ケイ酸
25.2重量% ケイ酸塩(粘着防止剤)
3.8重量% IRGANOX(登録商標)B 215(安定剤)
この混合物の26.5重量%を、73.5重量%のEBA(エチレン/ブチルアクリラートコポリマー)と混合し、再び、例3に記載したように、VCIマスターバッチを作製するために処理した。
【0086】
その後、この2.5重量%を、インフレーション製造に適した97.5重量%のLDPEと混合し、既に例3に記載した通り、100μmの平均層厚さを有するVCIフィルム(VCI(4))を作製するように処理した。
【0087】
本発明による物質配合物を用いて製造されるVCIフィルムVCI(4)を同様に、バッグを形成するように処理した(切断し、重ねた端部の合わせ目を融着した)。モデルパッケージを作製するために、材料炭素鋼DC03,冷延(90×50×1)mm3(Q−Panel,Q−Panel Lab Products,クリーブランド,オハイオ州 44145 米国)、亜鉛メッキ微粒子鋼(ZnSt)であって、18μmのZn層を有するもの、およびアルミニウム合金Al7075のシートの試験シートに加えて、銅Cu−SFのシートも用い、例3に記載したものと同様に作製を行った。
【0088】
対照系(R4)として、銅ベース材料を含むいわゆる複合金属組合せを保護することを特に対象としている、市販のVCIフィルムを用いた。化学分析によれば、R4は、シクロヘキシルアミノベンゾアート、亜硝酸ナトリウムおよびベンゾトリアゾールを、本発明
による物質配合物VCI(4)中のVCI成分と全体でほぼ同じ量で含み、同様に100μmの層厚さを有した。対照系(R4’)として、同様のパッケージをVCIを含まないLDPEフィルム,100μmから作製し、ここでも、100μmフィルムのバリア効果に起因する腐食保護効果減損の割合を別個に検知した。
【0089】
全ての調製したモデルパッケージを室温で約5時間緩衝保存し、VCIフィルムを用いて作製したパッケージ内でVCI成分で飽和した雰囲気(堆積段階)を確実に設定した。
【0090】
例3と同様に、パッケージをタイプVC4033の種々の環境制御試験キャビネットに移し、DIN EN 60068−2−30に従って、湿度/温度環境を変化させるように設定した。試験されるフィルムVCI(4)、R4およびR4’について、別個の環境制御試験キャビネットをいずれの場合においても用いて、曝露されるサンプルのいかなる相互効果をも防止する。
【0091】
残りの試験は、例3に記載した通りに行なった。
【0092】
試験の結果
モデルパッケージの変化する湿度/温度負荷の結果(いずれの場合にも、3つの相応するサンプルからのサイクルの数についての平均値)
【表2】

【0093】
この例は同様に、本発明による物質配合物の優位性を示している。対照系R4のパッケージ内でのCu材料であるCu−SFの試験シートは、100μmの同じフィルム厚を有するVCIを含まない対照系R4’のパッケージ内よりもさらにより早く変色皮膜を示した。対照系R4は、鋼についてのみ注目に値する保護効果を提供することができた。
【0094】
これに対して、本発明による物質配合物を用いて製造されたフィルムVCI(4)は、全ての曝露した材料についての腐食保護に非常に適していることがわかった。種々の試験シートは、比較的高い環境負荷である40サイクル後にでさえも、いかなる腐食現象をも示さなかった。従ってこのフィルムVCI(4)は、一般の鋼およびアルミニウム、亜鉛および銅のベース材料から成る、いわゆる複合金属の組合せについての高性能の腐食保護材料としての使用を予定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも1種のC6−C10の脂肪族モノカルボン酸、
(2)少なくとも1種のC6−C10脂肪族ジカルボン酸、
(3)第一級芳香族アミド、および
(4)ヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステル
を含む、蒸発または昇華することができる腐食防止物質配合物。
【請求項2】
さらに、(5)ベンゾイミダゾールを含む請求項1に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項3】
前記ベンゾイミダゾールが、ベンゼン環において置換されているベンゾイミダゾールである請求項2に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項4】
前記ヒドロキシ安息香酸が、4−ヒドロキシ安息香酸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項5】
1〜60%の成分(1)、1〜40%の成分(2)、0.5〜20%の成分(3)、0.5〜20%の成分(4)、および0.5〜20%の成分(5)を含む請求項2〜4のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項6】
全ての前記成分は、80℃までの温度範囲、≦98%の相対湿度(RH)において、蒸発または昇華することができる請求項1〜5のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項7】
前記C6−C10脂肪族モノカルボン酸は、ヘキサン酸(カプロン酸)、2,4−ヘキサジエン酸(ソルビン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸(ペラルゴン酸)、イソノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、またはこれらの組合せから選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項8】
前記脂肪族ジカルボン酸は、ヘキサン二酸(アジピン酸)、ヘプタン二酸(ピメリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、またはこれらの組合せから選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項9】
前記4−ヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステルは、4−ヒドロキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)、4−ヒドロキシ安息香酸エチル(エチルパラベン)、またはこれらの組合せから選択される請求項1〜8のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項10】
前記芳香族アミドは、ベンズアミド、2−アミノベンズアミド、4−アミノベンズアミド、ベンゼンアミノアミド(N−ベンジルウレア)、ピリジン−3−カルボキサミド(ニコチンアミド)、またはこれらの組合せから選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項11】
前記ベンゾイミダゾールは、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、またはベンゼン環において置換されている他のベンゾイミダゾールとのその組合せから選択される請求項2〜10のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項12】
さらに、気相腐食防止剤として効果的な他の物質を個別に、または混合物として含む請求項1〜11のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物。
【請求項13】
(1)1種以上のC6−C10脂肪族カルボン酸、(2)1種以上のC6−C10脂肪族ジカルボン酸、(3)1種以上の第一級芳香族アミド、(4)ヒドロキシ安息香酸の脂肪族エステル、および任意に(5)ベンゾイミダゾールを共に混合する、蒸発または昇華することができる腐食防止物質配合物を製造するための方法。
【請求項14】
1〜60%の成分(1)、1〜40%の成分(2)、0.5〜20%の成分(3)、0.5〜20%の成分(4)、および0.5〜20%の成分(5)を混合する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
金属材料のパッキング、貯蔵または輸送において、微細粉末状混合物の形態にある気相腐食保護防止剤(VPCI,VCI)としての、請求項1〜12のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物の使用。
【請求項16】
コーティング物質中に取り込むための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の物質配合物の使用。
【請求項17】
ポリマー材料、例えばポリオレフィンまたはポリエステルとの混合物の形態にある、請求項1〜12のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物の使用。
【請求項18】
一般の実用金属、例えば鉄、クロム、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、およびこれらの合金の腐食保護のための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の腐食防止物質配合物の使用。

【公開番号】特開2009−197322(P2009−197322A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−316947(P2008−316947)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(599105986)エクスコール・コロジオンスフォルシュング・ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】Excor Korrosionsforschung GmbH
【Fターム(参考)】