説明

気象予測装置

【目的】気象レーダ画像を系統的に分類・管理し,各クラスタごとのレーダ画像を用いて学習した神経回路網モデルの重みを利用することにより,新たに計測されたレーダ画像の学習時間を短縮する。また,不等間隔の予測時刻におけるレーダ画像を少ない計算量により求めることを目的とする。
【構成】入力部100 からのレーダ画像を,パターン分類用神経回路網モデルを用いてパターン分類する(201) 。その結果から該当するクラスタで過去に作成された学習・予測部203 で使用する神経回路網モデルの重みを得て,初期値として設定し,再学習する。また,パターン分類されたクラスタごとに最適な重みを作成し,データベース部202 に登録して利用する。また,予測時間を表す指標を,レーダ画像と共に学習・予測部203 の神経回路網モデルの入力とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,気象レーダ画像を神経回路網モデルに与えてパターン認識,学習させることにより,過去のレーダ画像を系統的に分類し,効率的に降雨量,降雪量などの気象学的特徴量,および,天候に左右される商品の売り上げ個数等を予測する気象予測装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】まず初めに,本発明が適用できる神経回路網モデルの一例を挙げる。ここでは,階層型神経回路網モデルを典型例として用いるが,回帰結合をもつ神経回路網モデルなど,他の形式のモデルにも適用できる。
【0003】図2は,階層型神経回路網モデルの一例を示す図である。階層型神経回路網モデルは,1層の入力層,複数層の中間層,1層の出力層からなる層状のネットワークモデルであり,各層はユニット,重み,バイアスから構成される。
【0004】ユニットは,前層のユニットの出力値(xi (i=1,2,…,L,L:前層のユニット数)と重み(wi ,i:重みの番号)の積の総和,および,バイアス(bi ,i:ユニットの番号)を加算した値を入力値として受け,入力値にある非線形変換(f(・))を施した値(y)を出力し,この出力値を次層のユニットへ伝達する構造をもつ(式(1) )。
【0005】ただし,ここでは,入力層のユニットの入出力変換関数は線形,入力層以外の層のユニットの非線形変換関数f(・)は,典型例であるシグモイド関数を用いる(式(1) )が,モデルに応じて他の変換関数を用いることも考えられる。
【0006】
y=f(x)
=1/{1−exp(−Σwi i +bi )} …… (1) 〔Σはi=1からLまでの総和〕
従来の気象予測装置では,計測されたレーダ画像を神経回路網モデルに与えることにより,雲の動き(気象ダイナミックス)を学習させ,学習後の神経回路網モデルを用いてレーダ画像を予測する手法が提案されていた。例えば,特願平5−160530号の「並列計算型気象レーダ画像予測装置」,特願平5−213830号の「並列計算型降雨レーダ画像予測装置」,および,特願平5−274065号の「非線形並列計算型降雨レーダ画像予測装置」では,計測されたレーダ画像を積和計算ユニットをもつ神経回路網モデルに与えて,気象ダイナミックスを学習させ,学習後の神経回路網モデルを用いて降雨,降雪などを予測している。
【0007】しかしながら,過去のレーダ画像に基づいて系統的にレーダ画像を分類し,かつ,これを利用する手段は用いられていない。また,リアルタイムに予測するために,神経回路網モデルの学習における計算量をさらに低減する必要があるが,これに対する手段などは用いられていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,計測されたレーダ画像を自動的にパターン認識することにより,計測レーダ画像を過去のレーダ画像のパターン分類結果に基づいて系統的に分類するための判断基準となる指標を自動的に生成することを目的とする。また,認識されたクラスタに属するレーダ画像を用いて学習させた学習後の神経回路網モデルの重みを再設定することにより,新たに計測されたレーダ画像の学習時間を短縮することを目的とする。
【0009】さらに本発明は,前述のレーダ画像のパターン認識結果に基づき,新たに計測されたレーダ画像および分類された各クラスタに属するレーダ画像を用いて学習させ,学習後の神経回路網モデルの重みなどの学習結果をデータベースに登録することにより,これらのデータの再利用を容易にすることを目的とする。
【0010】さらにまた本発明は,特定の構造をもつ神経回路網モデルを用いることにより,一回の前向きの計算のみにより,任意時刻の気象を予測し,予測に要する計算量を削減することを目的とする。また,不等間隔の予測時間におけるレーダ画像を少ない計算量により求めることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の気象予測装置における第1の手段では,計測されたレーダ画像のパターン認識を行うために神経回路網モデルを用いる。この神経回路網モデルは入力としてレーダ画像,出力としてレーダ画像を分類した各クラスタへの類似度を用いる。パターン分類用神経回路網モデルは,人間が決定したレーダ画像の各クラスタへの類似度などを参考に学習させ,作成しておく。レーダ画像のクラスタは,雲量や雲の形などに応じて種々定めることができる。
【0012】また,第2の手段では,第1の手段により得られた認識結果に基づき,計測されたレーダ画像と類似したレーダ画像をもつクラスタに属する神経回路網モデルの学習後の重みを初期値として,学習用の神経回路網モデルに設定し,再学習させる。
【0013】請求項2記載の気象予測装置における第3の手段では,計測されたレーダ画像と類似したレーダ画像をもつクラスタに属するレーダ画像を神経回路網モデルに与えて学習させ,学習後の重みをそのクラスタの最適重みとして登録する。または,パターン認識の結果,計測されたレーダ画像がいずれのクラスタにも属さない場合,新たにクラスタを追加する。この際,追加されたクラスタに対する神経回路網モデルの最適重みを,他のクラスタの最適重みを利用して平均値操作等により生成する。どのクラスタにも属さないか否かは,既存のクラスタに対する最大の類似度と所定の閾値との比較により決定することができる。
【0014】請求項3記載の第4の手段では,レーダ画像をパターン分類する際のクラスタの個数(クラスタ数)の上限を予め指定すると,神経回路網モデルの学習機能を利用してクラスタ数を変更することにより,レーダ画像,学習後の神経回路網モデルの重みの値などをもつデータベースの規模を拡大,縮小する。この際,データベースに登録されていないパターンをもつレーダ画像が入力された場合,新たにクラスタを追加し,指定された上限まで追加することができる。
【0015】また,データベースの規模が大きくなり過ぎた場合,レーダ画像のパターンが似ているクラスタ同士を統合することによりクラスタ数を減少させる。請求項4記載の気象予測装置の第5の手段では,神経経路網モデルの入力としてレーダ画像以外に,予測時間を表す指標を与え,出力として,入力側で与えた予測時間後のレーダ画像を得るようにする。
【0016】第6の手段では,第5の手段により求められたレーダ画像を,再度,神経回路網モデルの入力値として与え,更に先の時刻におけるレーダ画像を予測する。この繰り返しにより,不等間隔の時刻におけるレーダ画像を少ない繰り返し計算により求める。
【0017】請求項4記載の気象予測装置に用いる神経回路網モデルとして,階層型神経回路網モデルを用いた場合,中間層のユニットの入出力特性は次式(式(2) )のように記述される。ただし,tは神経回路網モデルが出力するレーダ画像の予測時間を表す指標とする。
【0018】
y=f(x,t)
=1/{1−exp(−Σwi i −wi+1 t+bi )} …… (2) 〔Σはi=1からL(L:前層のユニット数)までの総和〕
【0019】
【作用】請求項1記載の気象予測装置の第1,2の手段では,レーダ画像をパターン認識することにより,気象のパターンを自動識別することを可能にする。また,パターン認識の結果に基づいて過去のレーダ画像をデータベース化することにより,これらのレーダ画像を系統的に分類・管理する手間を簡略化できる。
【0020】請求項2,3記載の気象予測装置の第3,4の手段では,上記のデータベースを利用することにより,神経回路網モデルを再学習させる際に与える重みの初期値決定を自動化することが可能となる。また,再学習に要する学習時間も,パターン分類されたクラスタごとに行われることになるため短縮される。
【0021】請求項4記載の気象予測装置の第5の手段では,予測時間を表す指標をレーダ画像と共に神経回路網モデルに与えることにより,任意の時刻のレーダ画像を予測することが可能となる。第6の手段では,第5の手段を繰り返し実行することにより,不等間隔の時刻におけるレーダ画像を少ない計算量で予測することが可能となる。
【0022】
【実施例】本発明による気象予測装置の一実施例を図面により説明する。図1は,請求項1〜3記載の気象予測装置の一実施例を示すブロック図であり,図中の100は入力部,200はデータ処理部,300は出力部を表す。
【0023】入力部100は,降雨・降雪領域を計測する気象レーダ101,神経回路網モデルの学習,パターン認識,予測に必要となる情報を読み込むためのファイル読み込み装置102からなる。
【0024】データ処理部200は,計測されたレーダ画像のパターンを識別するパターン認識部201,過去のレーダ画像,および,学習後の神経回路網モデルの最適重みなどを系統的に分類,管理するデータベース部202,気象ダイナミックスを学習し,レーダ画像を予測する学習・予測部203からなる。
【0025】入力部100の気象レーダ101を用いて計測されたレーダ画像を入力し,データ処理部200に転送する。また,ファイル読み込み装置102から,学習に必要な学習率などの値を読み込み,パターン認識部201,学習・予測部203に転送する。
【0026】パターン認識部201は,入力部100から転送されるレーダ画像をパターン分類用神経回路網モデルに入力し,その画像がデータベース内のどのクラスタに属するかを判定する指標を出力する。
【0027】データベース部202は,パターン認識部201の判定結果に基づき,入力されたレーダ画像と類似したパターンをもつクラスタに,新たにそのレーダ画像を追加する。また,そのクラスタに属する最適重み,および,過去のレーダ画像を学習・予測部203に転送する。
【0028】学習・予測部203では,データベース部202から転送される最適重みを重みの初期値として気象予測用神経回路網モデルに設定し,入力部100から転送されるレーダ画像,および,データベース部202から転送される過去のレーダ画像を用いて再学習する。再学習の終了後,神経回路網モデルの重みを固定して,レーダ画像が計測された以降の時刻におけるレーダ画像を予測し,予測結果を出力部300に転送する。出力部300では,予測結果をディスプレイなどに表示する。
【0029】本発明の請求項1〜請求項3記載の気象予測装置に用いる神経回路網モデルは,例えば図2に示すようなモデルを用い,入出力としてレーダ画像を取り扱う。これに対し,請求項4記載の気象予測装置に用いる神経回路網モデルでは,図3に示すように,入力側に予測する時刻に関する情報(t)を入力する。この時間情報に基づいて,神経回路網モデルは入出力間に形成する写像の時間間隔(入出力間のレーダ画像の時間間隔)を任意に変更することが可能となる。
【0030】図4は,請求項4記載の気象予測装置の一実施例のブロック図である。図中,図1と同符号のものは図1に示すものと同様であり,204は入力となるレーダ画像を切り替える入力切替え部,205は予測時間を指定する予測時間指定部を表す。
【0031】この実施例の場合,通常,入力切替え部204は気象レーダ101により計測したレーダ画像を学習・予測部203への入力として選択するように設定されている。予測時間指定部205は,予測する時刻に関する情報tをレーダ画像とともに学習・予測部203に与える。この結果,固定時間間隔ではなく,学習した時刻に応じた任意の時間後の予測が可能になる。例えば学習時に5分から最大30分までの予測時間を表す指標を与えて学習した場合,30分までは1回の神経回路網モデルへの入力で予測結果を得ることができる。30分より先の時刻のレーダ画像を予測する場合には,学習・予測部203により予測した30分後のレーダ画像を入力切替え部204を介して学習・予測部203に与え,必要な次の予測時間を指定して学習・予測部203による予測を繰り返すことにより,不等間隔の時刻におけるレーダ画像を少ない計算量で予測する。
【0032】請求項1〜請求項3記載の気象予測装置では,神経回路網モデルが形成する入出力間の写像は,固定の時間間隔でしか形成できなかった。例えば,入力するレーダ画像の時刻に対して5分後の予測レーダ画像を出力するように学習させた場合,30分後,2時間後のレーダ画像を予測するためには,各々,6回,24回の繰り返し操作が必要となる。
【0033】これに対して,請求項4記載の気象予測装置を用いると,30分後,2時間後のレーダ画像を予測するために,最大予測時間が例えば30分として学習したモデルを用いた場合,各々,1回,4回の繰り返し操作のみにより予測が可能となる。
【0034】上記実施例において,例えば天候に左右される商品の売上げ個数の実績を,レーダ画像とともに神経回路網モデルに学習させることにより,商品の売上げ個数を予測するような応用も可能である。
【0035】
【発明の効果】請求項1記載の気象予測装置の第1の手段によって,初めにパターン分類用神経回路網モデルを作成する際に人間の判断基準を学習することが可能であるため,計測されたレーダ画像と過去のレーダ画像との類似度など,人間の判断基準に近い基準により自動的に検出することが可能となる。
【0036】また,第2の手段によって,第1の手段によるパターン認識の結果に基づき,計測されたレーダ画像に類似したクラスタに属する神経回路網モデルの学習後の重みを,再学習用神経回路網モデルに再設定することにより,重みの初期値決定を自動化し,かつ,再学習に要する学習時間を短縮することが可能となる。
【0037】請求項2記載の気象予測装置では,第3の手段を用いることにより,ある特定のクラスタに対する最適な重みを,系統的に分類された過去のレーダ画像を利用して神経回路網モデルを学習させずに作成することが可能となる。
【0038】請求項3記載の第4の手段を用いれば,レーダ画像のパターン分類する際のクラスタの個数を神経回路網モデルの学習機能を利用して変更することが可能となり,レーダ画像,および,学習後の神経回路網モデルの重みの値などを管理するデータベースの規模を自動的に拡大,縮小することが可能となる。
【0039】請求項4記載の気象予測装置では,第5の手段を用いることにより,任意の時刻のレーダ画像を予測することが可能となる。また,一回の前向きの計算のみにより予測できるため,予測に要する計算量,予測処理時間を削減することが可能となる。また,第6の手段を用いることにより,任意の時刻のレーダ画像を繰り返し予測することが可能となるため,不等間隔の予測時刻におけるレーダ画像を少ない計算量により求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1〜3記載の気象予測装置の一実施例のブロック図である。
【図2】請求項1〜3記載の気象予測装置に用いる神経回路網モデルの一例を示す図である。
【図3】請求項4記載の気象予測装置に用いる神経回路網モデルの一例を示す図である。
【図4】請求項4記載の気象予測装置の一実施例のブロック図である。
【符号の説明】
100 入力部
101 気象レーダ
102 ファイル読み込み装置
200 データ処理部
201 パターン認識部
202 データベース部
203 学習・予測部
300 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 神経回路網モデルに気象レーダ画像を与えて気象ダイナミックスを学習させ,学習後の神経回路網モデルを用いて降雨,降雪などの天候の短時間予測を行う気象予測装置において,(1) 計測されたレーダ画像をパターン分類用の神経回路網モデルに与えて,過去のレーダ画像の分類基準に基づいたパターン認識をし,レーダ画像をパターン分類する第1の手段と,(2) 計測されたレーダ画像のパターン認識結果に基づき,計測されたレーダ画像のパターンと類似したパターンをもつ過去のレーダ画像を用いて作成された気象予測用の神経回路網モデルの重みを初期値として気象予測用の神経回路網モデルに設定し,再学習させる第2の手段とを有することを特徴とする気象予測装置。
【請求項2】 請求項1記載の気象予測装置において,前記第1の手段によりパターン分類された特定のクラスタに属するレーダ画像を気象予測用の神経回路網モデルに与えて学習させ,これらのレーダ画像に含まれる気象ダイナミックスを表現するためにそのクラスタに対して最適な重みを作成する,または,どのクラスタにも属さない場合には,新たにクラスタを作成し,そのクラスタに応じた神経回路網モデルの最適重みを生成する第3の手段を有することを特徴とする気象予測装置。
【請求項3】 請求項2記載の気象予測装置において,前記第1の手段によるパターン認識の結果に基づき,前記第3の手段により作成された神経回路網モデルの重み,および,学習に用いたレーダ画像をデータベースへ登録して管理するとともに,クラスタの追加または統合によりデータベースの規模を自動的に拡大・縮小する第4の手段を有することを特徴とする気象予測装置。
【請求項4】 請求項1,請求項2または請求項3記載の気象予測装置において,(1) 気象予測用の神経回路網モデルにレーダ画像を与えるとともに予測時間を表す指標を与え,任意の時刻のレーダ画像を予測する第5の手段と,(2) 予測したレーダ画像を繰り返し神経回路網モデルに与えることにより,更に,先の任意の時刻のレーダ画像を予測する第6の手段とを有することを特徴とする気象予測装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開平8−106448
【公開日】平成8年(1996)4月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−239791
【出願日】平成6年(1994)10月4日
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)