説明

水中推進用足ひれの評価方法および設計方法

【課題】事前にどの程度の性能があるのか定量的に判定でき、また効率良く足ひれを設計でき、設計期間を短縮できる水中推進用足ひれの評価方法および設計方法を提供する。
【解決手段】足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力FL1と抗力FD1を測定し、揚力FL1と抗力FD1から計算により揚力係数Cと抗力係数Cを求める。求められた揚力係数Cおよび抗力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動をさせたときの足ひれの揚力FL2および抗力FD2を計算し、揚力FL2と抗力FD2の合成力を計算し、合成力の足ひれの進行方向成分を推進力として足ひれを設計する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィンスイミング競技や水中ダイビング等に使用される水中推進用足ひれの評価方法および設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィンスイミング競技は、足ひれを装着して泳ぐという水泳競技であり、2枚のフィンを片足ずつ履くタイプのもの(ビーフィン)と、両足をそろえて1枚の大きなフィンを履いてイルカやクジラのように泳ぐタイプのもの(モノフィン)の2つがある。特に、両足をそろえて履くモノフィンと呼ばれる1枚タイプの水中推進用足ひれは、タイムを一気に短縮してフィンスイミング界に大変革をもたらし、現在ではほとんどの選手がこのモノフィンを使うようになっている。
【0003】
この水中推進用足ひれは、その形状や剛性に種類があり、使う人の性別や脚力、泳ぎ方によって最適な形状や剛性は異なっている。従来は、形状および剛性の最適な足ひれの設計は、主に人間によるフィーリングを用いて行われていた。
【0004】
また、特許文献1に記載するように、ひれの部分を交換することで個人差のある筋力に対応することができるようにしたものもあった。
【特許文献1】特開平8−126720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水中推進用足ひれに使用される材料は、ゴムやプラスチックといった曲がりやすいものが主に用いられ、その中に、剛性分布を持たせるための補強材が使用されるのが一般的である。このような水中推進用足ひれの評価および設計に際しては、各足ひれに対し、事前にどの程度の性能があるのかは不明な場合が多く、長年のノウハウに頼らざるを得なく、非常に設計効率の悪いものとなっていた。
【0006】
また、足ひれの表面に細かな凹凸や穴といった詳細デザインが施された場合の効果は、人間によるフィーリングを用いて評価され、効率の悪いものとなっていた。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、事前にどの程度の足ひれとしての性能があるのか定量的に評価でき、また、表面の細かな凹凸や穴といった詳細デザインによる効果を定量的に評価でき、さらに効率良く足ひれを設計でき、設計期間を短縮できる水中推進用足ひれの評価方法および設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の水中推進用足ひれの評価方法は、足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力FL1と抗力FD1を測定し、揚力FL1を用いて下記式(1)により揚力係数Cを算出し、抗力FD1を用いて下記式(2)により抗力係数Cを算出し、算出された足ひれの揚力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの揚力FL2を下記式(3)により算出し、算出された前記足ひれの抗力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの抗力FD2を下記式(4)により算出し、算出された揚力FL2と抗力FD2の合成力を算出し、算出された合成力の足ひれの進行方向成分を推進力とし、その推進力と足ひれを装着する人により得られる推進力とを比較することにより、足ひれが、足ひれを装着する人に適合するか否かを評価することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の水中推進用足ひれの設計方法は、足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力FL1と抗力FD1を測定し、揚力FL1を用いて下記式(1)により揚力係数Cを算出し、抗力FD1を用いて下記式(2)により抗力係数Cを算出し、求められた足ひれの揚力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの揚力FL2を下記式(3)により算出し、算出された前記足ひれの抗力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの抗力FD2を下記式(4)により算出し、算出された揚力FL2と抗力FD2の合成力を算出し、算出されたた合成力の足ひれの進行方向成分を推進力とし、その推進力を足ひれ改良の指針とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水中推進用足ひれの評価方法は、実際に足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させて計測したときの計測値から得られた数値に基づいて評価するので、種々の足ひれとしての性能を定量的に評価でき、また、表面の細かな凹凸や穴といった、従来、人間によるフィーリングでしか分らなかった詳細デザインによる効果を定量的に評価できる。
また、本発明の水中推進用足ひれの設計方法は、事前に足ひれの揚力と抗力を測定し、この揚力と抗力から推進力を計算することにより足ひれを効率よく設計することができ、また、設計期間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本発明の水中推進用足ひれの評価方法および設計方法は次のようにして実施される。
【0012】
まず、断面形状が飛行機の翼形状と類似した形状の足ひれを作成する。実験では、硬度40度(JIS−A)のシリコンゴムで作られた足ひれと、硬度70度(JIS−A)のシリコンゴムで作られた足ひれと、硬度70度のシリコンゴムで作られ、内部に剛性分布を持たせるための補強材を入れた足ひれを用意した。補強材には、CDRP(炭素繊維強化プラスチック)材料を用いた。
【0013】
次に、上述の足ひれに計測用治具を取り付け、さらに、計測用治具に、任意の1点に作用する力を3つの独立した分力として計測できる3分力計を取り付ける。
【0014】
次に、足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、種々の足ひれとしての揚力FL1と抗力FD1を3分力計で測定する。図1は、足ひれを水槽に入れ、速度V、迎角αで足ひれを曳航したときに足ひれに発生する揚力FL1と抗力FD1を示す図である。
【0015】
さらに、揚抗比(揚力FL1/抗力FD1)を求め、式(1)を用いて揚力係数Cを求め、式(2)を用いて抗力係数Cを求める。
=FL1/(0.5ρV) (1)
=FD1/(0.5ρV) (2)
ただし、Sは足ひれの平面面積、ρは流体密度、Vは相対水流の速度(足ひれの速度)である。
【0016】
図2は、足ひれを水槽に入れ、速度2.5m/secで足ひれを曳航したときの、足ひれの迎角と揚抗比との関係を示す図であり、図3は、足ひれの迎角と揚力係数との関係を示す図であり、図4は、足ひれの迎角と抗力係数との関係を示す図である。
【0017】
図2、図3および図4では、硬度40度のシリコンゴムで作られた足ひれと、硬度70度のシリコンゴムで作られた足ひれと、硬度70度のシリコンゴムで作られ、内部に剛性分布を持たせるための補強材を有する足ひれを用いたときの、揚抗比、抗力係数Cおよび揚力係数Cが、それぞれ足ひれの迎角毎にプロットされている。この図2、図3および図4から、各足ひれは、迎角が10〜20°のときに最大の揚抗比3が得られることが分る。
【0018】
上述した実験では3種類の足ひれを用意したが、足ひれを装着する人の性別や脚力、泳ぎ方に応じた最適な足ひれを提供するためには、更に多数種類の足ひれ(例えば、表面に細かな凹凸や穴といった詳細デザインを有する足ひれ)の揚抗比、揚力係数Cおよび抗力係数Cを求めておくことが好ましい。
【0019】
次に、足ひれがどの程度の推進力を有するかを事前に計算して足ひれを評価する方法および足ひれを設計する方法について説明する。
【0020】
まず、既に実験により揚抗比、揚力係数および抗力係数が求められている種々の足ひれの中から、揚抗比等を参考にして、好ましいと思われる足ひれ(例えば、表面に細かな凹凸や穴といった詳細デザインを有する足ひれ)を選択し、水中で縦揺れ運動とπ/2位相差の首振り運動を同時に行って振動翼運動させ、足ひれの迎角が15°であるときの揚力および抗力を計算により求める。図5は、足ひれを振動翼運動させたときに足ひれに発生する揚力FL2と抗力FD2を示す図である。揚力FL2は、選択された足ひれの揚力係数Cを用いて次ぎの式(3)により算出し、抗力FD2は、選択された足ひれの抗力係数Cを用いて次ぎの式(4)により算出する。
L2=0.5ρV (3)
D2=0.5ρV (4)
ただし、Sは足ひれの平面面積、ρは流体密度、Vは相対水流の速度である。
【0021】
次に、足ひれを振動翼運動させたときの推進力を求める。揚力FL2と抗力FD2を合成して得られた発生力(合成力)Fの、足ひれの進行方向成分が推進力Tになる。
【0022】
実験で用意した上述の足ひれを振幅0.7m、周期1.4Hzで振動翼運動させ、足ひれの迎角が15°であるときの推進力を計算により求めたところ、硬度40度のシリコンゴムの足ひれでは3.33kgf、硬度70度のシリコンゴムの足ひれでは7.41kgf、硬度70度のシリコンゴムで作られ、内部に補強材を入れた足ひれでは9.34kgfの推進力が得られた。
【0023】
次に、振動翼運動による推進力発生の原理について図6を用いて説明する。足ひれは、静止流体中を前進速度Uで右から左へ進行している。その際、足ひれは、進行方向に対して上下にヒービング(heaving:縦揺れ)運動を行い、同時にπ/2の位相差でピッチング(pitching:首振り)運動を行う。すなわち、足ひれの動き(縦揺れ)はサイン(sin)カーブを描き、迎角の変化(首振り)はコサイン(cos)カーブを描く。図中に示すように、足ひれのヒービング速度をVとすれば、速度ベクトル合成の三角形により足ひれに対する相対水流の速度はWとなる。この場合、相対水流の速度Wの向きは、図中破線で示す足ひれの軌跡の接線方向と一致する。そこでもし足ひれの進行方向に対して足ひれの姿勢が、図に示すように正の迎角αをもつならば、足ひれのまわりに循環流れが形成され、足ひれの進行方向に直角に揚力が発生し、足ひれの進行方向とは逆方向に抗力が発生し、揚力と抗力を合成して得られる発生力Fの進行方向成分が推進力Tとなる。足ひれは、振動翼運動の1周期中に2度のピークを有するは推進力を発生する。
【0024】
一般に、大きな推進力を得るためには、大きな速度Wを出すためのそれなりの筋力を有する人であることが必要であり、したがって、足ひれを装着する人によって、得られる推進力の大きさが異なる。上述した実施の形態によれば、事前に足ひれの揚力係数および抗力係数を測定しておき、揚力係数および抗力係数から振動翼運動中の足ひれの推進力を計算し、その推進力と足ひれを装着する人により得られる推進力とを比較することにより、その足ひれが、足ひれを装着する人にとって適合するか否かを事前に定量的に評価することができる。
【0025】
さらに種々の足ひれの推進力を計算し、その推進力と足ひれを装着する人により得られる推進力とを比較することにより、足ひれを装着する人にとって最も適合する足ひれを選択することができる。
【0026】
また、上述した実施の形態によれば、事前に足ひれの揚力係数および抗力係数を求めておき、揚力係数および抗力係数から振動翼運動中の推進力を計算し、計算により求めた推進力が小さ過ぎる場合には足ひれの平面面積Sの拡大等を行うようにして、計算により求めた推進力を足ひれ改良の指針とすることにより、足ひれを効率よく設計でき、設計期間を短縮できる。
【0027】
なお、上述した実施の形態では、モノフィンと呼ばれる1枚ものの足ひれについて説明したが、本発明は、2枚1組の水中推進用足ひれに適用できることは言うまでもない。また、縮小モデルを用いて、揚力係数、抗力係数を算出することも可能で、これによる評価および設計も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】足ひれを水槽に入れ、速度Vで足ひれを曳航したときに足ひれに発生する揚力と抗力を示す図である。
【図2】足ひれの迎角と揚抗比との関係を示す図である。
【図3】足ひれの迎角と揚力係数との関係を示す図である。
【図4】足ひれの迎角と抗力係数との関係を示す図である。
【図5】足ひれを振動翼運動させたときに足ひれに発生する揚力FL2と抗力FD2を示す図である。
【図6】振動翼運動による推進力発生の原理について説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力および抗力を測定して、前記揚力および抗力からそれぞれ揚力係数および抗力係数を算出しておき、前記揚力係数および抗力係数を用いて、足ひれを水中で運動させたときの足ひれの揚力と抗力を算出し、算出された揚力と抗力の合成力を算出し、算出された合成力の足ひれの進行方向成分を推進力とし、足ひれが、足ひれを装着する人に適合するか否かを評価することを特徴とする水中推進用足ひれの評価方法。
【請求項2】
足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力FL1と抗力FD1を測定し、揚力FL1を用いて下記式(1)により揚力係数Cを算出し、抗力FD1を用いて下記式(2)により抗力係数Cを算出し、算出された足ひれの揚力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの揚力FL2を下記式(3)により算出し、算出された前記足ひれの抗力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの抗力FD2を下記式(4)により算出し、算出された揚力FL2と抗力FD2の合成力を算出し、算出された合成力の足ひれの進行方向成分を推進力とし、足ひれが、足ひれを装着する人に適合するか否かを評価することを特徴とする水中推進用足ひれの評価方法。
=FL1/(0.5ρV) (1)
=FD1/(0.5ρV) (2)
L2=0.5ρV (3)
D2=0.5ρV (4)
ただし、S,Sは足ひれの平面面積、ρは流体密度、V,Vは相対水流の速度である。
【請求項3】
足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力および抗力を測定して、前記揚力および抗力からそれぞれ揚力係数および抗力係数を算出しておき、前記揚力係数および抗力係数を用いて、足ひれを水中で運動させたときの足ひれの揚力と抗力を算出し、算出された揚力と抗力の合成力を算出し、算出された合成力の足ひれの進行方向成分を推進力とし、その推進力を足ひれ改良の指針とすることを特徴とする水中推進用足ひれの設計方法。
【請求項4】
足ひれを水槽に入れ、曳航する、あるいは水を回流させることにより、足ひれの揚力FL1と抗力FD1を測定し、揚力FL1を用いて下記式(1)により揚力係数Cを算出し、抗力FD1を用いて下記式(2)により抗力係数Cを算出し、求められた足ひれの揚力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの揚力FL2を下記式(3)により算出し、算出された前記足ひれの抗力係数Cを用いて、足ひれを振動翼運動させたときの足ひれの抗力FD2を下記式(4)により算出し、算出された揚力FL2と抗力FD2の合成力を算出し、算出された合成力の足ひれの進行方向成分を推進力とし、その推進力を足ひれ改良の指針とすることを特徴とする水中推進用足ひれの設計方法。
=FL1/(0.5ρV) (1)
=FD1/(0.5ρV) (2)
L2=0.5ρV (3)
D2=0.5ρV (4)
ただし、S,Sは足ひれの平面面積、ρは流体密度、V,Vは相対水流の速度である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−141621(P2006−141621A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334475(P2004−334475)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)