説明

水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析方法とプログラム

【課題】解析を短時間に行うことができる水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析方法とプログラムを提供する。
【解決手段】要素分割プログラムP1により、バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、船体構造有限要素法モデルの没水部表面を境界要素に分割し、バブル挙動解析プログラムP2により、流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻歴を求める。船体ホイッピング応答解析プログラムP3により、求めたソース強さを用いて、海面の自由表面および船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブルパルスによる流体変動圧力を連成させて解析し、かつ、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求め、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炸薬が水中で爆発した場合のバブルの挙動と船体ホイッピング応答の解析方法とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図13は、水中爆発による船体の挙動を示す模式図である。炸薬が水中で爆発した場合、船体は以下の挙動を示す。
(A)では船体1の直下において爆発が生じ、衝撃波2及びバブル3が発生する。そして発生したバブル3は膨張をはじめる。
(B)では船体1は衝撃波2を受け、ホギング状態になる。バブル3は最大となり、収縮し始める。
(C)ではバブル3は最小となりバブルパルス4が生じる。船体1はバブル3による負の圧力により水中へ引き込まれる力を受け、サギング状態となる。
(D)では船体1はバブルパルス4を受けホギング状態となる。バブル3は極大となり、その後収縮を始める。
このようにしてバブル3は膨張と収縮を幾度か繰り返し上昇しながら消滅する。このバブル3の一連の挙動により船体1のホイッピング応答が船体構造に損傷を与える場合がある。また船体の2節振動の固有周期とバブル3の周期が近い場合は、船体1のホイッピング応答はより大きくなり船体構造に損傷を与える場合もある。
さらにバブル3の近傍に構造物がある場合(E)では、バブル3が最小となる時にバブルジェット(登録商標)5が生じ、船体構造に損傷を与える場合もある。
【0003】
上述した一連のホギング、サギングの運動は船体の過渡的な振動であり、ホイッピングと呼ばれている。
【0004】
上述した水中爆発を受ける船体の強度を評価する手段として、非特許文献8及び特許文献1が既に開示されている。また、本発明に関連する技術として非特許文献1〜7が開示されている。
【0005】
図14(A)(B)は、特許文献1の評価手段のフロー図である。この評価手段は、実用的な規模の計算で、魚雷や機雷などの水中爆発を受ける船体の強度の評価を効率よく行うことを目的とし、この図に示すように、評価対象の船体を模擬する構造モデルM11と流体モデルM12との連成モデルM1に対して、水中爆発を模擬する流体モデルを作成し、船体に発生する最大荷重Lm1,Lm2を算出すると共に、評価対象の船体の部分構造を模擬する船体局部構造モデルM2が水中爆発によって受ける破損部分を検出して、該破損部分を考慮した残存断面構造を模擬する残存構造モデルM3に対して、耐え得る最大荷重である耐荷重Lr1,Lr2を算出し、前記最大荷重Lm1,Lm2と前記耐荷重Lr1,Lr2とを比較して、評価対象の船体が水中爆発によって崩壊するか否かを評価するものである。
【0006】
【特許文献1】特許第3686420号公報、「船体強度の評価方法及び船体強度の評価システム」
【0007】
【非特許文献1】Cole,R.H.,“Underwater Explosions,”Princeton University Press,1948
【非特許文献2】高比良裕之,村上健太,大森英行,田中進,上入佐光,「境界要素法を用いた浮体近傍での気泡崩壊に関する数値解析」,日本機械学会論文集(B 編) 69 巻680 号(2003),P.755−P.763
【非特許文献3】Akihiro Yasuda, Akihiro Imakita, “Experimental and Numerical Investigations on Whipping Motion of a Floating Structure Induced by a Close−in Underwater Explosion”, Proceedings of the 75th Shock and Vibration Symposium,2004
【非特許文献4】J.L.Hess & A.M.O. Smith, “Calculation of Nonlifting potential flow about arbitrary three−dimensional bodies” Journal of Ship Research Vol.8 No.2 1964.11.
【非特許文献5】I.Neki & H.Sasajima,”Vibration Analysis of Elastic Body in Water by the Combination of Finite Element Method and Source−Sink Method.” IHI Engineering Review, Vol.13 No.4, 1980
【非特許文献6】LLOYD’S RULES AND REGULATIONS FOR THE CLASSIFICATION OF NAVAL SHIPS 2005, Volume1, Part4, Chapter2
【非特許文献7】松本洋一郎, “微細ガス気泡の圧力応答に関する研究” 日本機械学会論文集(B 編) 50 巻455 号(1984),P.1649−P.1657
【非特許文献8】今北明彦、安田章宏、「近接水中爆発を受ける船体の縦曲げ応答予測技術を開発」、三井造船技報No.188(2006−6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水中爆発により生じるバブルパルスに対する船体全体の応答を解析する場合、汎用の有限要素法衝撃解析コードを用いて、水、空気、爆発成生物を含めた流体と構造を連成させて解く方法(以下、方法1と呼ぶ)がある。
または、境界要素法を用いて、爆発生成物であるバブルの挙動とそれによる剛体構造物表面の流体の圧力時刻歴結果を求め、その圧力の時刻歴結果を汎用の有限要素法衝撃解析コードを用いて構造モデルに負荷する方法(以下、方法2と呼ぶ)もある。しかし、この方法2は船体全体応答というよりバブル崩壊荷重に対する船体構造の局部応答を解析する場合に用いることが多い。
または、境界要素法を用いて、爆発生成物であるバブルの挙動とそれによる剛体構造物表面の流体の圧力時刻歴結果を求め、その圧力の時刻歴結果を汎用の有限要素法衝撃解析コードを用いて流体付き構造モデルの流体表面に負荷する方法(以下、方法3と呼ぶ)もある。
【0009】
方法1は、流体部分のモデル化が大規模となることから、モデル化と解析に要する時間が長くなる。
方法2は、流体部分を解く解析時間は短縮されるが、流体と船体構造有限要素法モデルとの連成は考慮されていない。
方法3は、境界要素法を用いたバブルの挙動を解くプログラムの結果と、汎用の有限要素法衝撃解析コードによる流体付き構造モデルとを組み合わせると流体と船体構造有限要素法モデルとを連成させることは可能であるが、計算規模がかなり大きくなり、解析に長時間を要する。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、流体と任意形状の船体構造有限要素法モデルとの連成ができかつ、モデル化に要する計算規模が小さく、解析を短時間に行うことができる水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析方法とプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルの没水部表面を、それぞれ境界要素に分割する要素分割ステップと、
水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻歴を求めるバブル挙動解析ステップと、
前記ソース強さを用いて、海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブル挙動による流体変動圧力を連成させて解析し、
かつ、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求め、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算する船体ホイッピング応答解析ステップとを有し、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度よく船体過渡応答を計算できることを特徴とする水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、対象物の表面を境界要素に分割する要素分割プログラムと、バブルの挙動を計算するバブル挙動解析プログラムと、船体ホイッピング応答を計算する船体ホイッピング応答解析プログラムとを備え、
要素分割プログラムにより、バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び任意形状を持つ船体構造有限要素法モデルの没水部表面を、それぞれ境界要素に分割し、
バブルの挙動解析プログラムにより、水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻歴を求め、
船体ホイッピング応答解析プログラムにより、前記ソース強さを用いて、海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブル挙動による流体変動圧力を連成させて解析し、
かつ、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求め、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算する、ことを特徴とする水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の方法及びプログラムによれば、バブル挙動解析ステップにおいて、バブル挙動解析プログラムにより、水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻歴を求めるため、流体の大規模なモデル化は不要である。
【0014】
また、バブル挙動解析ステップにおいて、船体ホイッピング応答解析プログラムにより、前記ソース強さを用いて、海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造の過渡応答及び圧力の時刻暦を直接計算するため、流体と構造は連成されている。
【0015】
従って、本発明の方法及びプログラムにより、以下の効果が得られる。
(1)流体の大規模なモデル化を要しないことで、解析時間が短くなる。
(2)流体と任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルの連成を考慮していることから、バブルパルスによって船体に負荷される刻々の流体変動圧をより厳密に求めることができる。
(3)喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を解いている。そのため、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度良く計算できる。
(4)また本発明において弾性解析としている部分を弾塑性解析に置き換えることによって、将来的に船体構造の最終強度評価も直接解析できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明による解析プログラムの全体フロー図である。この図に示すように、本発明の解析プログラムは、対象物の表面を境界要素に分割する要素分割プログラムP1と、バブルの挙動を計算するバブル挙動解析プログラムP2と、船体ホイッピング応答を計算する船体ホイッピング応答解析プログラムP3とを備える。
【0018】
要素分割プログラムP1により、バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルの没水部表面を、それぞれ境界要素に分割する。
バブル挙動解析プログラムP2により、水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻暦を求める。
船体ホイッピング応答解析プログラムP3により、前記ソース強さを用いて、海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブル挙動による流体変動圧力を連成させて解析し、かつ、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求め、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算する。
【0019】
本発明の解析プログラムは、水中爆発により生じるバブルの挙動とそのバブルパルスによる船体ホイッピング応答を計算する解析プログラムである。
この解析プログラムは、バブルの挙動を計算するバブル挙動解析プログラムP2と船体ホイッピング応答を計算する船体ホイッピング応答解析プログラムP3で構成されている。また、バブル表面と船体近傍の海面の自由表面、任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面は、それぞれ要素分割プログラムP1により、境界要素に分割されている。
【0020】
計算の流れとしては、まずバブル挙動解析プログラムP2によりバブルの挙動を計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻暦を求める。 そしてそのソース強さを用いて、船体ホイッピング応答解析プログラムP3により海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部分の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造の過渡応答及び応力の時刻暦を直接計算する。
【0021】
この解析プログラムの特徴は、次の3点にある。
1.境界要素法の中でも間接法を用いることにより、容易にバブルの挙動と船体運動を連成させて解くことができる。
2.喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を解いている。そのため、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度良く計算できる。
3.現在,弾性解析としている部分を弾塑性解析と変更することで,将来的には船体構造の最終強度評価も実施できる。
【0022】
水中爆発荷重を受ける浮体及び没水構造物の安全性を評価するためには、水中爆発荷重に対する構造の動的応答を、効率的に精度よく予測する必要がある。
水中爆発荷重には爆発現象の推移に伴いさまざまな種類があり、その荷重を求めるために多くの研究がなされている[非特許文献1〜3]。
これらの研究によると、構造物は最初に炸薬の爆発によって生じる衝撃波による荷重を受ける。また、爆発により生じた気泡は膨張−収縮運動をするが、この気泡の膨張−収縮運動過程において気泡が最小となる際に構造物はバブルパルスによる荷重を受ける。この気泡は、自由表面や構造物から十分に離れている場合は、膨張と収縮運動を幾度か繰り返し最後に消滅する。しかしながら、気泡が構造体にある距離以上に近い場合は、気泡収縮時に構造体に向けジェット水流が吹き出す現象(バブルジェット(登録商標))が発生する。
【0023】
本発明の解析方法とプログラムでは、この中でも気泡の膨張−収縮運動によって船のような浮体構造に引き起こされる過渡的な振動応答(ホイッピング応答)を計算する。
【0024】
上述したように本発明の解析方法とプログラムは、気泡の挙動を計算するプログラムと船体ホイッピング応答を計算するプログラムで構成されており、流体部分は特異点分布法[非特許文献4〜5]により計算し、構造物の応答計算については有限要素法により計算している。特異点分布法は境界要素法の一種で間接法と呼ばれる解法である。
境界要素法で通常用いられる解法(直接法)では、流速と速度ポテンシャルを直接未知数にしてポテンシャル流場として計算するが、特異点分布法では吹き出し(ソース)を未知数として間接的に流体力を計算する。
【0025】
本発明の解析方法とプログラムでは、最初に気泡の挙動計算を実施して、その後、船体の応答計算を実施している。気泡の挙動計算においては、気泡の時々刻々の半径や気泡の内圧の他、気泡表面の各境界要素におけるソース強さの時刻暦も計算している。そして求めたソース強さの時刻暦を用いて、時々刻々の自由表面及び任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の境界条件を満足させつつ、船体の過渡応答を計算している。つまり、気泡の膨張−収縮運動に対して船体運動を連成させて解いている。なお、気泡の膨張−収縮運動には船体運動の影響は反映していないが、その影響は少ないと考えられる。
【0026】
また本発明の解析方法とプログラムでは、船体の過渡応答を計算する際に、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を解いている。したがって、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度良く計算できる。
さらに境界要素法を流体部分の解法として用いることにより、流速あるいは流体力を計算する場合に、流体そのものではなく物体の接水面上のみを解けば良く、3次元問題を2次元として取り扱えるため、流体部分の解法として有限要素法を用いる方法に比べ計算時間とデータ作成時間を短縮することができる。
【0027】
以下、本発明の解析方法と解析結果について具体的に説明する。
【0028】
(特異点分布法を用いた気泡挙動解析方法)
本発明では、以下の仮定のもとで気泡の挙動解析を行う。
・気泡および周りの流体は球対称を保って運動するものとする。
・気泡内には、蒸気と非凝縮性気体が入っているものとし、蒸気圧は一定で非凝縮性気体は断熱変化するものとする。
・気泡周囲の液体は非圧縮非粘性の渦なし流れとする。
上記の仮定より、液体には速度ポテンシャルφが存在し、φはLaplaceの方程式を満足する。なお、φの3次元の基本解として、1/Rを用いる。
【0029】
図2は、気泡表面における場の点及び特異点に対する記号を示す図である。この図に示す気泡表面Sの点Pの速度ポテンシャル)φ(P)は、特異点φ(Q)のソースの強さをσ(Q)とすると、数1の(1)式〜(3)式のように表される。
【0030】
【数1】

【0031】
気泡表面Sの境界条件は、数2の(4)式のように与えられる。
ここで、tは時間、Pは大気圧(=100kPa)、Pは気泡内気体圧力、ρは液体の密度を表す。
inは、Pを蒸気圧(2.337kPa)、Pg0を非凝縮性気体の初期圧力、Vを気泡体積、Vを初期気泡体積、γを断熱係数(=1.4)とすると数2の(5)式によって求められる。
また、気泡表面の位置は数2の(6)式を用いてLagrange的に追跡することができる。
そして、気泡表面の境界要素全てのソース強さσは(4)式を境界条件として(1)式を解くことで得ることができる。
【0032】
【数2】

【0033】
(バブル挙動解析のアルゴリズム)
図3は、バブル挙動解析ステップS2のフロー図である。
本発明で用いたバブル挙動解析ステップS2のアルゴリズムは以下の通りである。
(S21) 最初に炸薬量(TNT)W(kg)と水深h(m)から[非特許文献6]に示される数3の実験式(7),(8)を用いて気泡の最大半径R(m)と第一周期Tを求める。
【0034】
【数3】

【0035】
(S22) Gilmoreの近似式([非特許文献7]参照)を用いて、初期半径R,気泡の半径方向の速度(dR/dt)R=Rm=0,γ=1.4を境界条件として気泡が最大時の非凝縮気体圧力Pgmを求める。ここで、このPgmは、気泡の最初の半周期が、T/2=T/2となるように反復計算する(図4参照)。
なお、図4は、Gilmoreの近似式によるバブル半径の解析例である。また、この時、流体は非圧縮性とする。
【0036】
気泡の半周期がT/2=T/2となった時の気泡の最小半径R(図2参照)とPgmが求まると、気泡が最小時の非凝縮気体圧力Pg0は数4の(9)(10)式から求まる。
【0037】
【数4】

【0038】
(S23) S22で求めたPg0とRを気泡の初期内圧及び初期半径として、(4),(5)式からφ(t+Δt)を求める。この時、∇φには前回の時間刻みの値を用いる。
(S24) S23で求めたφ(t+Δt)と(1)式からソース強さσ(t+Δt)を求める。
(S25) σ(t+Δt)と(2)式から∇φ(t+Δt)が求まる。そして、∇φ(t+Δt)の値が収束するまでS23に戻り反復計算する。
(S26) ∇φ(t+Δt)と(6)式からΔt秒後の気泡表面の位置が求まる。
(S27) Δt秒後の気泡表面の位置が求まれば、R(t+Δt)及びV(t+Δt)が求まり、(5)式からPin(t+Δt)が求まる。
(S28) S23に戻り、所定の時間まで計算する。
【実施例1】
【0039】
気泡の挙動の解析例として、炸薬量2g、水深1.2mの場合の解析結果を図5に示す。図5はバブル半径の時刻歴である。気泡の挙動の減衰については、速度ポテンシャルに比例したものとして考慮した。
【0040】
(特異点分布法を用いた気泡挙動による船体過渡応答解析の理論)
本発明では、気泡表面のソース強さの時刻歴を用いた船体の過渡応答解析は以下の仮定のもとで行う。
・先に求めた気泡の挙動は船体および自由表面による影響を受けない。
・船体及び自由表面は最初停止しているものとする。
・気泡の挙動による流体の圧力と速度は船体運動の境界条件を満足する。
・気泡の挙動による流体の圧力と速度は海面の自由表面条件を満足する。
【0041】
図6は、船体近傍の海面の自由表面と船体構造有限要素法モデルの没水部表面の境界要素への分割例である。
この図に示すように、要素分割ステップにおいて、船体の喫水線に接する自由表面と船体の没水部となりうる表面を境界要素に分割する。ここで、本発明の解析方法とプログラムでは、船体の過渡応答を計算する際に、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を解いているため、構造物表面の中でも船体動揺の影響で没水部となる可能性のある部分の表面はあらかじめ境界要素に分割している。
【0042】
海面の自由表面Sでの境界条件はLagrange座標表示を採用すると、数5の(11)〜(14)式で与えられる。
ここで、φは自由表面Sの速度ポテンシャルで(15)式で表される。u,v,wは自由表面の各軸方向の速度成分を表す。よって、ζは波高にあたる。
【0043】
【数5】

【0044】
図7は、バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び船体構造モデルの没水部分の各境界を示す図である。
船体没水表面Sでの境界条件は数6の(16)〜(18)式で与えられる。
ここで、φは船体没水表面Sの速度ポテンシャル、dδ/dtはS表面の境界要素の法線方向の船体の速度を表す。
【0045】
船体に働く流体圧力は数6の(19)式により与えられる。
ここで、ρ:流体密度、δ:船体没水部表面の各要素の法線方向変位
である。
そして、船体に加わる外力{F}は(20)式により与えられる。
ここで、[k]:浮力バネマトリクス、[M]:付加質量マトリクス、{F}:バブル等による外力、{δ}:船体の変位、{dδ/dt}:船体の加速度
である。
【0046】
【数6】

【0047】
また、船体の運動方程式は数7の(21)式で表される。
ここで、[M]:構造質量マトリクス、[C]:構造減衰マトリクス、[K]:構造剛性マトリクスである。
そして、(20)式を(21)式に代入することで、(22)式が得られる。そして、(22)式を解くことで船体のFEMモデルの全節点における{δ},{dδ/dt}及び{dδ/dt}が得られる。
ここで、{dδ/dt}:船体の速度である。
なお、(21)式の解法としてはNewmarkのβ法を採用した。
【0048】
【数7】

【0049】
(船体ホイッピング応答解析のアルゴリズム)
図8は、船体ホイッピング応答解析ステップS3のフロー図である。
本発明で用いた船体ホイッピング応答解析ステップS3のアルゴリズムは以下の通りである。
(S31) 気泡の挙動解析のソース結果と(11)式及び(16)〜(18)式を利用してφ(t+Δt)及びφSH(t+Δt)を求める。
(S32) φ(t+Δt)とφSH(t+Δt)を利用して(20)式中の外力{F}を求め、(22)式の右辺を得る。
(S33) Newmarkのβ法を用いて(22)式を{δ},{dδ/dt}及び{dδ/dt}について解きΔt後の船体応答を求める。
【0050】
なお、本発明の解析方法とプログラムでは、船体の応答が気泡の挙動に比べて遅いことを考慮し、船体過渡応答解析に用いる時間刻みΔtは、気泡挙動解析に用いた時間刻みΔtのN倍として計算させる機能を有している。
時間刻みの倍数Nは、ユーザーが全体の計算時間や計算精度を考慮して設定する。
【0051】
(気泡挙動による船体過渡振動応答シミュレーション計算例)
計算例として、船体構造を模した模型を用いた解析を紹介する。模型はアルミニウム製の浮体構造物で、模型の寸法は図9に示す。また、爆発条件は炸薬量2g、水深1.2mとした。
気泡表面のソースの時刻歴結果は図5に示した解析時のものを用いて実施した。構造物の過渡応答の出力例として図11には浮体構造物の長手方向の両端と中央での変位の時刻歴結果から数8の(23)式により算出した浮体構造物のホイッピングによる曲げたわみの応答結果を示す。
【0052】
【数8】

【0053】
図10はDa,Df,Dmidの出力位置を示す図である。また図12には、図11に示す浮体構造物の最大撓み時の応力結果を示す。
【0054】
上述したように本発明は、水中爆発による船体ホイッピング応答解析方法として、特異点分布法を用いて気泡の挙動と船体運動とを連成させる計算技術である。
【0055】
上述した本発明の方法及びプログラムによれば、バブル挙動解析ステップS2において、バブル挙動解析プログラムP2により、水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した境界要素のソース強さの時刻歴を求めるため、流体の大規模なモデル化は不要である。
【0056】
また、バブル挙動解析ステップS3において、船体ホイッピング応答解析プログラムP3により、前記ソース強さを用いて、海面の自由表面及び任意形状の有限要素法船体構造モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブル挙動による流体変動圧力を連成させて解析し、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算している。またこの時、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求めているため、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度よく船体過渡応答を計算できる。
【0057】
従って、本発明の方法及びプログラムにより、以下の効果が得られる。
(1)流体の大規模なモデル化を要しないことで、解析時間が短くなる。
(2)流体と任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルの連成を考慮していることから、バブルパルスによって船体に負荷される刻々の流体変動圧をより厳密に求めることができる。
(3)喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を解いている。そのため、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度良く計算できる。
(4)また本発明において弾性解析としている部分を弾塑性解析に置き換えることによって、将来的に船体構造の最終強度評価も直接解析できる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による解析プログラムの全体フロー図である。
【図2】気泡表面における場の点及び特異点に対する記号を示す図である。
【図3】バブル挙動解析ステップS2のフロー図である。
【図4】Gilmoreの式によるバブル半径の時刻歴の例である。
【図5】バブル半径の時刻歴の解析結果である。
【図6】船体近傍の海面の自由表面と有限要素法船体構造モデルの没水部表面の境界要素への分割例である。
【図7】バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び船体構造モデルの没水部分の各境界を示す図である。
【図8】船体ホイッピング応答解析ステップS3のフロー図である。
【図9】アルミニウム製の試験体の斜視図である。
【図10】D,D,Dmidの出力位置を示す図である。
【図11】曲げたわみの時刻歴の解析結果である。
【図12】最大変位における等価応力の解析例である。
【図13】水中爆発による船体の挙動を示す模式図である。
【図14】特許文献1の評価手段のフロー図である。
【符号の説明】
【0060】
P1 要素分割プログラム、
P2 バブル挙動解析プログラム、
P3 船体ホイッピング応答解析プログラム、
S1 要素分割ステップ、
S2 バブル挙動解析ステップ、
S3 船体ホイッピング応答解析ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルの没水部表面を、それぞれ境界要素に分割する要素分割ステップと、
水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻歴を求めるバブル挙動解析ステップと、
前記ソース強さを用いて、海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブル挙動による流体変動圧力を連成させて解析し、
かつ、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求め、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算する船体ホイッピング応答解析ステップとを有し、喫水が激しく変化し水線面の形状が大きく変化する場合も精度よく船体過渡応答を計算できることを特徴とする水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析方法。
【請求項2】
対象物の表面を境界要素に分割する要素分割プログラムと、バブルの挙動を計算するバブル挙動解析プログラムと、船体ホイッピング応答を計算する船体ホイッピング応答解析プログラムとを備え、
要素分割プログラムにより、バブル表面、船体近傍の海面の自由表面、及び任意形状を持つ船体構造有限要素法モデルの没水部表面を、それぞれ境界要素に分割し、
バブルの挙動解析プログラムにより、水中爆発により生じるバブルの挙動を含めた流体部分を特異点分布法によって計算し、バブル表面に配置した各境界要素のソース強さの時刻歴を求め、
船体ホイッピング応答解析プログラムにより、前記ソース強さを用いて、海面の自由表面および任意形状をもつ船体構造有限要素法モデルにおける没水部表面の流体の境界条件を満足させつつ、船体構造モデルとバブル挙動による流体変動圧力を連成させて解析し、
かつ、喫水の時々刻々の変化とそれに伴う船体没水部の境界要素範囲も時々刻々変化させて船体運動を求め、船体構造モデルの過渡応答及び流体変動圧力の時刻歴を直接計算する、ことを特徴とする水中爆発によるバブル挙動と船体ホイッピング応答の解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−110622(P2008−110622A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293086(P2006−293086)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)