説明

水中航走体の投入・揚収方法及び装置、並びに、水中航走体の投入・揚収用多胴船

【課題】 水面付近にある水中航走体に対する自然外力の影響を緩和でき、水中航走体の大型化や複数同時ハンドリング等、吊り荷重の増大に対応できるようにする。
【解決手段】 多胴船16の連結甲板17に、開閉扉22を備えた開口部19を設け、その上側に格納室20を設ける。格納室20に設けた天井クレーン21の吊下げワイヤ26の下端に、水中航走体18を着脱可能に保持できる保持装置28を取り付ける。投入作業は、格納室20にて水中航走体18を保持させた保持装置28を、開口部19を通して多胴船16の胴部間の水中まで下降させてから、保持装置28より水中航走体18を離脱させるようにし、揚収作業は、水中に吊り降ろした保持装置28に水中航走体18を保持させてから、保持装置28ごと格納室20まで吊り上げることで行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体を母船より水中へ投入したり水中より揚収するために用いる水中航走体の投入・揚収方法及び装置、並びに、水中航走体の投入・揚収用多胴船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水中における各種の観測や採取作業等を行うための装置の1つとして、所謂ROV(remotely operated vehicle)と呼ばれる遠隔操作型の水中航走体が使用されている。又、上記ROVでは母船にケーブルを介し繋がれているため動きが制限されてしまうことや、ケーブルをさばくための母船側の装備が大型になる等の点を鑑みて、近年では、比較的深い海域や湖沼における水中調査作業を行うための装置として、所謂AUV(autonomous underwater vehicle)呼ばれる自律航行型の水中航走体(自立型水中ロボット)が利用されるようになってきている。
【0003】
ところで、上記ROVやAUVのような水中航走体を使用する場合には、これらの水中航走体を、母船に搭載して調査海域(湖等を含む)まで搬送した後、該母船より上記調査海域の水中へ投入して調査作業等、所定の作業を行わせるようにしてある。又、上記調査海域における作業が終了した後は、上記水中航走体を再び水中より母船へ揚収(回収)して、次の調査海域等の所要の個所へ搬送させるようにしてある。
【0004】
上記のように水中航走体を母船より水中へ投入させたり、水中から揚収するために用いる投入・揚収装置としては、図15にその一例の概略を示す如く、母船の船首部、舷側部あるいは船尾部に、起伏可能で且つ水平方向に旋回可能なアーム(ブーム)2aを備えた形式のクレーン2を設ける構成とすることが従来提案されている。
【0005】
かかる旋回クレーン2を備えた形式の投入・揚収装置により、水中航走体(航走体)4の水中への投入作業を行うときには、先ず、船1にケーブル(図示せず)を介し連結してなる形式の水中航走体(航走体)4の長手方向中央上部に上記ケーブルとの連結部として設けてある金具3を、上記クレーン2のアーム2aの先端より垂下させたロープ5の下端に設けてある回収装置6により保持させ、この状態にて上記クレーン2のアーム2aを船首部、舷側部あるいは船尾部より外方へ張り出すように旋回させた後、該アーム2aの先端部直下の水中(海中)へ上記水中航走体4を投入するようにしてある。
【0006】
一方、所定の作業終了後に上記水中航走体4の水中からの揚収を行う場合には、船1にクレーン2とケーブルを介して連結されている水中航走体4に対し、母船1の船首部、舷側部あるいは船尾部より外方へ張り出させた上記クレーン2のアーム2aからロープ5を繰り出すことにより、該ロープ5の先端に設けられている回収装置6を下降させて、該回収装置6により上記水中航走体4の金具3を保持させる。その後、上記クレーン2の巻取機にロープ5を巻き取って上記回収装置6を巻揚げることにより、水中航走体4を水中より引き上げ、しかる後、上記クレーン2のアーム2aを旋回させることにより、上記水中航走体4を母船1上へ回収できるようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
又、水中航走体を母船に収容するために、該水中航走体を水中より一旦すくい上げるための装置として、図16に示す如きものが従来提案されている。これは、互いに所要間隔を隔てて平行に配設した左右一対の舟艇7と、該各舟艇7間に取り付けられた水中航走体揚収用ネット8と、上記各舟艇7の相互間隔を調整するためのバー9、モータ10、ギア機構11及び上記バー9とギア機構11との間に介装されたピニオンラック機構(図示せず)より構成される舟艇間隔調整機構12と、該舟艇間隔調整機構12を制御する遠隔制御機構13とからなる構成としてある。15は上記各舟艇7の推進機構である。これにより、上記各推進機構15を遠隔操作で駆動して舟艇7を水中航走体14の浮上位置まで航走させた後、上記遠隔制御機構13からの作動信号により舟艇間隔調整機構12を作動させて、各舟艇7相互の間隔を縮め、上記水中航走体揚収用ネット8を弛ませて水中航走体14がすくえる深度まで降ろす。その後、上記水中航走体揚収用ネット8内に水中航走体14が入った時点で上記舟艇間隔調整機構12により上記各舟艇7の相互間隔を広げることによって上記水中航走体揚収用ネット8を展張させて水中航走体14を海面上へすくい上げるようにしてある(たとえば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平9−216599号公報
【特許文献2】実開昭60−143097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に記載されたものでは、船首部、舷側部あるいは船尾部に設けたクレーン2のアーム2aを船首部、舷側部あるいは船尾部から張り出すように旋回させた状態にて、水中航走体4を該アーム2a先端部より直下位置となる水中へ投入するようにしてあり、又、水中航走体4を水中より引き上げる場合も、該引き上げ位置は自ずから上記クレーン2のアーム2a先端部の直下位置となる。一方、水中航走体4の投入・揚収作業を行う場合において、上記水中航走体4が海面付近にある状態のときが、風や波等の自然外力の影響を受け易くて最も不安定であり、水中航走体4が動揺し易くなる。そのために、上記のように水中航走体4が海面付近にあって動揺する場合にも、該水中航走体が船体に衝突したりする虞を防止したり、更には、動揺する水中航走体4が船体の下方に回り込んでしまうというような不具合を防止するためには、上記クレーン2のアーム2aの長さ寸法を長くして、上記水中航走体4をできるだけ船体から離れた位置で投入・揚収を行わせることが必要となる。しかし、上記クレーン2のアーム2aの長さ寸法を長くするために該アーム2aを大型化するには、クレーン2自体も大型化する必要があるが、母船1の甲板スペースや作業面積の制約、すなわち、甲板上に上記アーム2aを収納するスペースや、旋回させるためのスペースを確保するには限度があるため、上記クレーン2の大型化には自ずから限度がある。又、上記水中航走体4の重量は、上記クレーン2のアーム2aの吊り下げ耐荷重に依存するため、水中航走体4の大型化にも制限が生じると共に、複数の水中航走体4を同時運用する場合には適さず、作業効率が悪いという問題がある。
【0010】
更に、上記のように、船首部、舷側部あるいは船尾部に水中航走体4の投入・揚収作業用のクレーン2を設ける場合には、該クレーン2がアーム2aを起伏、旋回させるものであって覆いを設けることができないために、水中航走体4は甲板に曝露状態で配置されることが多く、このために、該水中航走体4の母船1上におけるメンテナンス等の作業が天候の影響を受け易いという問題もある。
【0011】
特許文献2に記載されたものは、一対の舟艇7からなる双胴型の船体を備えた形式としてあるが、水中航走体揚収用ネット8を弛ませて水中航走体14をすくえる深度まで降ろしたり、該水中航走体揚収用ネット8により水中航走体14を海面上へすくい上げるという機能を得るためには、上記一対の舟艇7を、相互間隔を拡縮できるように連結しなければならず、したがって、長距離航走や外洋を航走するための十分な剛性、推進性能、耐航性能を得ることは難しい。更に、特許文献2に記載されたものは、水中航走体14を母船に収容するために、海中より一旦すくい上げるためのものであって、上記すくい上げられた水中航走体の母船への収容は、別途行う必要がある。しかも、海中よりすくい上げられた水中航走体14は、水中航走体揚収用ネット8上に単に載置されるに過ぎないものであることから、上記特許文献2に記載されたものを、水中航走体を母船より水中へ投入したり、水中から母船へ直接揚収するために該母船に装備される投入・揚収装置として用いることは困難である。
【0012】
そこで、本発明は、水中航走体を母船より水中へ投入、揚収する際に該水中航走体が水面付近にあるときにも自然外力の影響を受け難くすることができると共に、大型の水中航走体や、複数の水中航走体の同時運用にも適応でき、しかも、水中航走体のメンテナンス作業を室内で行うことが可能な水中航走体の投入・揚収方法及び装置、並びに、水中航走体の投入・揚収用多胴船を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、多胴船の胴部間の甲板の下面部と多胴船の胴部間の水中との間で水中航走体を昇降させて、該水中航走体の投入と揚収を行うようにする水中航走体の投入・揚収方法、及び多胴船の胴部間の甲板上方部に水中航走体の吊下げ機構を設け、多胴船に設けた格納室に格納した水中航走体を、多胴船の胴部間の甲板の下面部と多胴船の胴部間の水中との間で上記吊下げ機構により昇降させて、水中航走体の投入・揚収を行うことができるようにした構成を有する水中航走体の投入・揚収装置とする。
【0014】
上記構成において、多胴船に設けた格納室に水中航走体を格納しておき、該格納室に格納した水中航走体を水中に降ろし、又、水中から水中航走体を上昇させて上記格納室に格納するようにしたり、多胴船を双胴又は3胴以上の多胴船とし、水中航走体の昇降を、双胴間の連結甲板の下面部と双胴間の水中との間で行うようにし、格納室を、双胴間の連結甲板又は多胴船の甲板の所要位置あるいは多胴船の胴部に設けるようにする方法とする。又、上記構成において、多胴船を双胴又は3胴以上の多胴船として、吊下げ機構を、双胴間の連結甲板の上方部又は多胴船の胴部間の甲板の上方部に設置又は移動できるように備えるようにした構成とする。
【0015】
更に、上記構成における、吊下げ機構に、水中航走体を着脱自在に保持するための装置を取り付け、該水中航走体を着脱自在に保持するための装置を、水中航走体をほぼ全長に亘り収納し得る筒型のケーシングと、該ケーシングの開口部に取り付けたラッパ状のガイド部材とからなる構成としたり、水中航走体を前後方向の両側又は左右方向の両側から挟んで把持できるようにした構成とし、あるいは、水中航走体を着脱自在に保持するための装置を複数個組み合わせて、複数の水中航走体をそれぞれ着脱自在に保持できる水中ステーションとした構成とする。
【0016】
又、上記水中航走体を着脱自在に保持するための装置におけるケーシングの内側にデータ転送機構、充電機構のいずれか又は双方を設置し、水中航走体を保持して水中から多胴船へのデータ転送及び/又は水中で水中航走体への充電ができるようにした構成とする。
【0017】
更に、上記の構成において、水中航走体を多胴船内の格納室から船外へ出すところに開口部を設け、該開口部を通して水中航走体を吊下げ機構により船外へ出し、又、船外から上記開口部を通して水中航走体を格納室に格納できるようにした構成とし、又、この構成において、開口部に扉を設けて開閉できるようにし、該扉で格納室船外より密閉できるようにした構成とする。
【0018】
上記構成において、多胴船を双胴又は3胴以上の多胴船として、開口部を、双胴間の連結甲板又は多胴船の胴部間の甲板及び/又は内側胴部の舷側側に設けるようにした構成とする。
【0019】
又、多胴船の胴部間の甲板に開口部を設け、該開口部の上側に、吊下げ機構を備えた格納室を設けると共に、上記開口部を閉塞できるようにした蓋を設け、該蓋を格納室に備えた上記吊下げ機構により昇降できるようにして、該蓋とともに水中航走体を昇降させることができるようにした構成とし、この構成において、蓋の上側に、棚部材を設けて、複数の水中航走体を載置できるようにした構成とする。
【0020】
更に、胴部間の甲板上又は胴部内に格納室を設け、該格納室に格納した水中航走体を船外へ出して昇降させるようにする吊下げ機構を備え、水中航走体を吊下げ機構により上記甲板とその下方の水中との間で昇降させて投入と揚収ができるようにしたことを特徴とする水中航走体の投入・揚収用多胴船とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、次の如き優れた効果を発揮する。
(1)多胴船の胴部間の甲板の下面部と多胴船の胴部間の水中との間で水中航走体を昇降させて、該水中航走体の投入と揚収を行うようにし、具体的には、多胴船に設けた格納室に水中航走体を格納しておき、該格納室に格納した水中航走体を水中に降ろし、又、水中から水中航走体を上昇させて上記格納室に格納するようにし、多胴船の胴部間の甲板上方部に水中航走体の吊下げ機構を設け、多胴船に設けた格納室に格納した水中航走体を、多胴船の胴部間の甲板の下面部と多胴船の胴部間の水中との間で上記吊下げ機構により昇降させて、水中航走体の投入・揚収を行うことができるようにした構成を有する水中航走体の投入・揚収方法及び装置としてあるので、多胴船としての双胴間の連結甲板や、多胴船の胴部間の甲板の下面部より水中航走体を昇降させることにより水中航走体の投入、揚収を行うことができ、上記吊下げ機構には、水中航走体を上げ下げでき且つ横方向へ移動できるようになっていればよい。そのため、水中航走体の投入、揚収作業を行うために従来用いられていた起伏、旋回式のクレーンのように吊り荷重が片持ちのアームの耐荷重によって制限されることがなくなるため、吊り荷重を増大させることが可能になり、水中航走体の大型化に容易に対応することができる。更には、上記のように吊り荷重の増大化が図れることに伴い、複数の水中航走体を同時にハンドリングすることも可能になり、この場合は、作業効率の向上化を図ることが可能になる。
(2)水中航走体の投入及び揚収作業は、多胴船の胴部間の水面にて行なうことができるため、風や波浪の影響を双胴の船体で遮るように多胴船の方位を調整することにより、水中航走体が水面付近にある場合にも上記風や波浪の影響を緩和できる。これにより、投入、揚収作業を行う際、上記水中航走体が船体と衝突したり、船体の下方へ回り込んでしまうといった不具合が発生する虞を未然に防止することができる。
(3)従来の起伏、旋回式のクレーンによる水中航走体の投入、揚収作業を行う場合に要していた如きクレーンの起伏や旋回のためのスペースを不要にできることから、装置構成を単純化させることが可能になると共に、コンパクト化を図ることができる。又、船体の露天甲板上に、船首部、舷側部あるいは船尾部より張り出すよう旋回させるクレーンを設ける必要がないことから、甲板全体を閉空間としてもよく、このようにすれば、全天候型の作業環境を提供することが可能となる。
(4)吊下げ機構に、水中航走体を着脱自在に保持するための装置を取り付けた構成とし、具体的には、上記水中航走体を着脱自在に保持するための装置を、水中航走体をほぼ全長に亘り収納し得る筒型のケーシングと、該ケーシングの開口部に取り付けたラッパ状のガイド部材とからなる構成とすることにより、水中航走体を上記筒型のケーシング内に収納した状態で吊下げ機構により容易に昇降できると共に、上記ケーシング内より水中航走体を容易に離脱させて発進させることができ、更に、水中にて揚収すべき水中航走体をケーシング内側へ進入させる際には、上記ラッパ状のガイド部材でガイドすることにより、進入時の誘導誤差を許容することが可能となる。
(5)水中航走体を着脱自在に保持するための装置を、水中航走体を前後方向の両側又は左右方向の両側から挟んで把持できるようにした構成とすることにより、水中航走体を把持した状態で吊下げ機構により容易に昇降できると共に、水中にて水中航走体の把持を解除して発進させたり、揚収すべき水中航走体の把持を行なわせることができる。
(6)上記(4)の水中航走体を着脱自在に保持するための装置を複数個組み合わせて、複数の水中航走体をそれぞれ着脱自在に保持できる水中ステーションとした構成とすることにより、複数の水中航走体を同時にハンドリングすることができて、作業効率を向上させることができる。
(7)上記(4)と(6)のケーシングの内側にデータ転送機構、充電機構のいずれか又は双方を設置し、水中航走体を保持して水中から多胴船へのデータ転送及び/又は水中で水中航走体への充電ができるようにした構成とすることにより、水中航走体が収集したデータを、水中のケーシングを介して母船としての多胴船にデータを転送することができて、水中航走体が収集したデータを回収する際にその都度水中航走体を揚収させる必要性をなくすことができ、水中航走体を長期にわたり水中に留めて作業させることができる。又、上記ケーシングの内側に、充電機構を備えておくことにより、水中航走体の電源に二次電池を用いることで、水中航走体の充電を水中で行うことができて、充電のために母船に揚収する作業を省略することができる。
(8)多胴船としての双胴船の連結甲板上や多胴船に設けた格納室に水中航走体を格納させるようにし、該格納室内に格納した水中航走体を水中に降ろし、又、水中から上昇させて上記格納室に格納させるようにすることにより、水中航走体に対して格納室内でのメンテナンス作業が可能となり、塩害等が発生する虞を抑制できて作業環境を良好なものとすることができる。
(9)水中航走体を格納室から船外へ出すところに設けた開口部に開閉扉を設けて格納室を密閉できるようにした構成として、水中航走体を格納室に格納した状態で開口部を閉塞させるようにすると、多胴船の航走時に抵抗が増加する虞を解消できる。
(10)又、多胴船の胴部間の甲板に開口部を設け、該開口部の上側に、吊下げ機構を備えた格納室を設けると共に、上記開口部を閉塞できるようにした蓋を設け、該蓋を格納室に備えた吊下げ機構により昇降できるようにして、該蓋とともに水中航走体を昇降させることができるようにした構成とすることにより、水中航走体を容易に且つ安定した状態で昇降させることができて、投入、揚収作業を容易なものとすることができる。
(11)更に、上記蓋の上側に、棚部材を設けて、複数の水中航走体を載置できるようにした構成とすることにより、複数の水中航走体を同時にハンドリングすることができて、作業効率を向上させることができる。
(12)胴部間の甲板上又は胴部内に格納室を設け、該格納室に格納した水中航走体を船外へ出して昇降させるようにする吊下げ機構を備え、水中航走体を吊下げ機構により上記甲板とその下方の水中との間で昇降させて投入と揚収ができるようにした水中航走体の投入・揚収用多胴船とすることにより、上記(1)に記載した優れた効果を有する水中航走体の母船とすることができる。更に、水中航走体の母船として、多胴船を採用することにより、母船を単胴船とする場合に比して、作業面積を確保し易くすることができると共に、復元性の向上化が期待できる。更には、単胴船に比して推進性能を高めることが期待できるため、作業海域に到達するまでの移動時間の短縮化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1(イ)(ロ)乃至図3は本発明の実施の一形態を示すもので、多胴船のうち、一例として双胴船に適用した場合について説明する。水中航走体18の投入・揚収を行うための母船としての双胴船16における双胴間に位置する連結甲板17の長手方向(船首尾方向)の所要個所に、上記水中航走体18を上下方向(内外方向)へ通過できるようにするための所要の開口部19を設ける。更に、上記開口部19の上方に格納室20を設けて、該格納室20の天井部に、上記水中航走体18を吊り下げて上昇、下降させるための吊下げ機構として、たとえば、天井クレーン21を設け、該天井クレーン21により吊り下げた上記水中航走体18を、上記開口部19を通して昇降させることにより、格納室20内と双胴船16の双胴間の水面との間で自由に出し入れすることができて、上記水中航走体18の水中への投入と、水中から上記格納室20への揚収を行なうことができるようにする。
【0024】
詳述すると、上記双胴船16の連結甲板17に設ける開口部19は、図2に示す如く、上記水中航走体18を水平姿勢に保持できるようにしてある後述する保持装置28とともに上下方向に通過させることができるような所要大きさの矩形状としてある。更に、上記開口部19には、たとえば、前後方向に2分割されたスライド式の開閉扉22を備えて、該開閉扉22を閉じることにより、上記開口部19を水密に閉塞(密閉)させることができるようにしてある。なお、上記開閉扉22をスライドさせるための駆動機構の記載は省略してある。又、上記スライド式の開閉扉22を、図2に示す如く、上記連結甲板17の上面と、格納室20の内底面を形成する床部材23との間に設けた隙間にスライド自在に収納させるようにすれば、上記開閉扉22の開閉操作を、上記格納室20内での作業に支障を来たすことなく行うようにすることができる。
【0025】
上記格納室20は、双胴船16の連結甲板17に設けた上記開口部19の上方に形成されるものであるため、連結甲板17の上側に、側壁20aと天井壁20bによって囲まれる水密の区画となるように形成することが好ましい。なお、図示してはいないが、上記側壁20aの所要個所には、上記水中航走体18のメンテナンス作業等を行うために作業者が出入りするためのハッチが設けてある。上記格納室20の容積は、作業者が室内で上記水中航走体18のメンテナンス作業を行うことができるように適宜設定すればよい。
【0026】
上記吊下げ機構としての天井クレーン21は、横行レール24と、該横行レール24に沿って横行可能なホイスト25とからなる構成としてあり、格納室20の相対向する一対の側壁20aの上端部に上記横行レール24の両端部を固定して、上記開口部19の真上を横切って延びるよう設置してある。更に、上記ホイスト25により巻取られている吊下げワイヤ(吊索)26の下端に、水中航走体18を着脱自在に保持するための保持装置28を取り付けて、天井クレーン21により吊下げワイヤ26を介して保持装置28を昇降できるようにした構成としてある。
【0027】
上記保持装置28は、図3に示す如く、上記水中航走体18をほぼ全長に亘り収納できるような筒型として、一端を閉塞させた構成としてある。具体的には、断面形状を上記水中航走体18の先端から後部所要位置までの前面側投影面積よりもやや大きな矩形とし、且つ水平方向に上記水中航走体18の全長よりもやや短い長さ寸法を有して一端を閉塞させた角筒型のケーシング(収納容器)29を備える。更に、上記ケーシング29の内側へ水中航走体18を誘導して進入(突入)させる際の誤差を許容できるようにするために、上記ケーシング29の開口側端部である他端部に、該ケーシング29よりも所要寸法大きい径まで外向きに拡径するラッパ形状のガイド部材30を取り付けた構成としてある。上記ケーシング29の上面の所要個所には、上記天井クレーン21の吊下げワイヤ26の下端を接続した構成としてある。更に、上記保持装置28の上面の複数個所、たとえば、長手方向一端部と他端部における左右方向の2個所ずつと上記吊下げワイヤ26の途中位置とを、連結索27で連結して、上記保持装置28の吊下げ時の水平姿勢を安定に保持させることができるようにしてある。
【0028】
上記保持装置28のケーシング29に取り付けてあるガイド部材30の所要個所には、水中航走体18をケーシング29の方向へ誘導するための、たとえば、音響信号を発するようにしてある誘導センサ(誘導装置)31を設置し、又、双胴船16の船底部には、水中航走体18を誘導するための信号やケーシング29がどの方向に向いているか等の姿勢情報等も送信できるようにしてある水中音響測位装置32を備える。又、上記ケーシング29の他端部に取り付けてあるガイド部材30の外端面には、水中の音を反射させるための反射材を貼り付けておき、画像処理時に、音が返ってきたところが、たとえば、白くなるようにしておくようにする。
【0029】
上記水中航走体18は、一例として、葉巻型の胴体の後部左右両側位置に前後進するための推進装置18aを備え、更に、胴体前部に上下方向と左右方向のスラスター18bを備え、胴体尾部に垂直な安定板18cを備えた形式の自律航行型のものとしてある。更に、水中航走体18には、水中における自己位置を母船としての双胴船16に知らせるための音を発する機能と、前方監視ソナーを設けて、ガイド部材30があるケーシング29の入口の音響映像を取得できるようにした機能が備えてある。なお、水中航走体18としては、推進装置を胴体の尾部に設けたり、胴体の後部に所要方向のスラスターを設けたり、昇降舵や方向舵を装備したり、作業用のアーム等の装備を備える等、所望する水中作業を達成するために必要とされる運動性や機能を得ることができるようにすれば、いかなる構成のものを採用してもよい。
【0030】
なお、複数の水中航走体18を運用するために、たとえば、図1(ロ)に示す如く、双胴船16の連結甲板17における船首尾方向の複数個所(図では2個所)に開口部19を設けると共に、その上側に、上述したような水中航走体18の保持装置28を吊り下げた天井クレーン21を具備した格納室20をそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0031】
以上の構成としてあるので、水中航走体の投入・揚収方法を実施する場合は、予め、水中航走体18を母船である双胴船16の格納室20に格納した状態にて、調査作業等を行う所望の海域(水域)まで搬送しておく。なお、この際、上記水中航走体18を保持させた保持装置28は、図2に示すように、閉じた状態の開閉扉22の上側に載置しておくようにしてもよい。
【0032】
この状態において、水中航走体18を水中に投入させるときは、上記保持装置28のケーシング29の内側へ、水中航走体18を、ガイド部材30を通して前端より進入させ、ほぼ全長に亘り収納させるようにして、該水中航走体18を保持装置28に保持させておくようにする。次いで、保持装置28を天井クレーン21に吊下げ支持させる。
【0033】
その後、先ず、開口部19の開閉扉22を開けて開口部19を開放させた後、上記天井クレーン21に支持されている保持装置28を、吊下げワイヤ26の巻出しにより開口部19を通して双胴船16の双胴間の水面、更には、図2に二点鎖線で示す如く、水中の所要深度まで吊り降ろす。しかる後、上記水中航走体18を後進させることにより、該水中航走体18を上記保持装置28より離脱させて発進させるようにする。
【0034】
一方、水中で所定作業を終了した水中航走体18は、揚収して、該水中航走体18が収集したデータを水中航走体18から回収するようにする。そのために、水中で所定作業を終了した水中航走体18を水中から母船である双胴船16内に揚収するときは、予め、双胴船16を、水中航走体18が作業をしている海域付近まで航行させる。この場合、水中航走体18がどの位置で作業をしているかは或る程度わかっているので、双胴船16がその位置付近まで行くことは容易である。
【0035】
双胴船16が所定の位置まで行くと、天井クレーン21により空の保持装置28を双胴船16の双胴間の水中へ所要深度まで吊り降ろすようにする。保持装置28を吊り降ろす深度は、水中航走体18が水中に位置している深度に合わせて調整するようにする。
【0036】
このようにした状態において、水中航走体18を揚収するため、該水中航走体18を保持装置28のケーシング29に誘導させるようにする。
【0037】
水中航走体18のケーシング29への誘導は、次のようにして行う。
【0038】
先ず、図4(イ)に示すように、母船としての双胴船16に備えてある水中音響測位装置32から水中航走体18がいる方向へピング(Ping)音33を発する。水中航走体18は、ピング音33を出して母船側へ返すようにする。母船としての双胴船16側では、水中航走体18が発するピング音33を受信してモニタし、水中航走体18が発したものであるか否か、あるとした場合に水中航走体18がどの当りの位置にいるかを確認するようにする。次いで、ケーシング29のガイド部材30に備えた誘導センサ31から水中航走体18へ誘導のための信号、たとえば、音響信号を発し、水中航走体18を誘導するようにする(ステップ1)。
【0039】
次に、図4(ロ)に示す如く、水中航走体18は、ピング音34を発して自己位置を母船としての双胴船16に知らせながら矢印Xのようにケーシング29の正面、すなわち、ラッパ状のガイド部材30の前面へ向け移動する(ステップ2)。
【0040】
次いで、図4(ハ)に示す如く、ケーシング29側の誘導センサ31から誘導のための信号35を発しながら、水中航走体18を誘導すると共に、該水中航走体18は、自身の有する前方監視ソナーによりケーシング29の入口としてのガイド部材30を認識するようにする(ステップ3)。
【0041】
更に、水中航走体18は、ケーシング29の正面へ接近することにより、該ケーシング29の音響映像を取得し、該取得した入口の音響映像にケーシング29への進入姿勢を微調整しながら合わせて、図4(ニ)に示す如く、ケーシング29内に進入し、図示しない固定位置にドッキングさせて、保持装置28に保持させるようにする(ステップ4)。
【0042】
上記水中航走体18がケーシング入口の音響映像を取得してケーシング29内へ進入する場合は、画像処理において、図5に示す如く、予め設定されているケーシング入口の音響映像36を参照しながら、実際に取得したケーシング入口の音響映像37とのずれを抽出する。この際、ケーシング29のガイド部材30の先端面には、音を水中で反射させる反射材が貼ってあるので、水中航走体18側から前方監視ソナーにより入口を認識するときに取得した入口の音響映像37は、音が返ってきたところが白くなり、それ以外のところは黒くなる。図5に示すように、取得した入口の音響映像37と設定値としての入口の音響映像36のずれが抽出されると、取得した入口の音響映像37の座標を求めて中心がずれないように水中航走体18の位置の修正を行い、設定値としての入口の音響映像36が、取得した入口の音響映像37に合致するようにする。しかる後、水中航走体18の進入姿勢を微調整しながらケーシング29内へ進入させるようにする。
【0043】
上記水中航走体18をケーシング29内に進入させる場合、水中航走体18の軸をケーシング29の軸に合わせて、該ケーシング29の入口となるガイド部材30の正面に移動させるようにするが、そのときの誘導の仕方としては、次の2つのパターンがある。
【0044】
先ず、1つのパターンは、ケーシング29側から該ケーシング29の軸情報を水中航走体18側へ送信し、これに基づき水中航走体18側で軸を合わせるようにする。すなわち、水中航走体18が図6に示すようにケーシング29に対し斜め方向からケーシング29に誘導されて近づいてきているときに、ケーシング29側からのケーシング軸情報を受信することにより、水中航走体18側で姿勢を調整して軸をケーシング29の軸と平行となるように合わせるようにする。水中航走体18側で軸がケーシング29の軸に合わされると、次に、ケーシング入口の音響映像37(図5参照)を捉えながら水中航走体18を図6に示す(A)の位置からケーシング29の正面となる位置(B)へ移動させるようにする。
【0045】
もう1つのパターンは、水中航走体18がケーシング29に誘導されている場合に、図6に示すように水中航走体18がケーシング29の軸に対して斜めの姿勢のときに水中航走体18で前方監視ソナーによりケーシング29の入口を認識して入口の音響映像を取得するようにする。この際、取得されたケーシング入口の音響映像は、ケーシング入口を斜め方向から捉えたもので、一方向に長く伸びた歪んだ状態である。したがって、この歪みから水中航走体18の進入方位を算出し、水中航走体18側でケーシング29側からの軸情報に基づき軸を合わせるようにする。
【0046】
このようにして水中航走体18の軸がケーシング29の軸に合わされると、水中航走体18をケーシング29の入口の正面に移動させるようにする。
【0047】
上記のようにして水中航走体18が保持装置28のケーシング29内に収納されて保持されると、次に、上記水中航走体18が保持されている保持装置28を、天井クレーン21による吊下げワイヤ26の巻取りにより双胴船16の双胴間を通して格納室20内まで吊り上げる。しかる後、開口部19の開閉扉22を閉じると共に、上記水中航走体18を保持した保持装置28を格納室20内の所要位置に載置させることにより、上記水中航走体18の格納室20内への収容(格納)を行うようにする。
【0048】
なお、上記水中航走体18は自律航行型としてあるため、投入作業から揚収作業までの間は、水中航走体18を離脱させて空になっている保持装置28を、一旦格納室20内に引き上げて収容させるようにしてもよい。
【0049】
このように、本発明の水中航走体の投入・揚収方法及び装置によれば、水中航走体18を保持させた保持装置28を、双胴船16の連結甲板17に設けた開口部19を通して格納室20と双胴船16の双胴間における水中との間で昇降させるのみで該水中航走体18の投入、揚収作業を行うことができるため、吊下げ機構としての天井クレーン21には、水中航走体18を上げ下げできる機能があればよい。このため、従来の船首部、舷側部あるいは船尾部に設けた起伏、旋回式のクレーンにより水中航走体の投入、揚収作業を行う場合のように、クレーンの起伏や旋回のために要していたスペースを不要にできることから、装置構成を単純化させることができると共に、コンパクトなものとすることができる。
【0050】
又、従来の起伏、旋回式のクレーンのように、吊り下げ荷重が旋回する片持ち式のアームの吊り下げ耐荷重によって制限されることがなくなるため、吊り荷重を増大させることが可能になり、このため、水中航走体18の大型化に容易に対応することができる。
【0051】
更に、双胴船16の双胴間の水面に対して水中航走体18の投入作業及び揚収作業を行なうことができるため、風や波浪の影響を双胴の船体で遮るように双胴船16の方位を調整することにより、水中航走体18が水面付近にある場合にも上記風や波浪の影響を緩和できる。そのために、投入、揚収作業を行う際、上記水中航走体18が船体と衝突したり、船体の下方へ回り込んでしまうといった不具合が発生する虞を未然に防止することができる。
【0052】
更に又、上記水中航走体18は格納室20に格納できるようにしてあると共に、開口部19を開閉扉22にて密閉できるようにしてあるため、水中航走体18の室内でのメンテナンス作業が可能となり、塩害等が発生する虞を抑制できて作業環境を良好なものとすることができる。又、露天甲板上に、船首部、舷側部あるいは船尾部より張り出すよう旋回させる水中航走体の投入、揚収作業用のクレーンを設ける必要がないことから、甲板全体を閉空間としてもよく、このようにすれば、全天候型の作業環境を提供することが可能となる。
【0053】
又、本発明では、上記のように、双胴船16を水中航走体の投入・揚収用双胴船として用いるようにして水中航走体18の母船とするようにしてあるため、母船を単胴船とする場合に比して、作業面積を確保し易いと共に、復元性の向上化が期待できる。更には、単胴船に比して推進性能を高めることが期待できるため、作業海域に到達するまでの移動時間の短縮化を図ることが可能になる。
【0054】
次に、図7(イ)(ロ)は本発明の実施の他の形態として、上記天井クレーン21(図2参照)の吊下げワイヤ26の下端に取り付けて水中航走体18を着脱自在に保持させる保持装置の別の例を示すもので、図3に示した如き水中航走体18を収納するケーシング29を備えてなる構成の保持装置28に代えて、上記水中航走体18を左右両側から把持する形式の保持装置28aとしたものである。
【0055】
すなわち、図7(イ)(ロ)に示す保持装置28aは、図2に示す上記天井クレーン21の吊下げワイヤ26の下端に、水平方向に所要寸法延びるビーム部材38の中間部を取り付け、更に、該ビーム部材38の長手方向両端部に、図示しない駆動機構により左右方向に開閉して水中航走体18の前部と後部の所要個所を左右方向の両側から把持できるようにしてある把持具39と40を、それぞれ所要長さの吊索41を介して吊下げてなる構成としてある。その他の構成は、図3に示したものと同じであり、同一のものには同一符号が付してある。
【0056】
かかる構成としてあるので、水中航走体18を水中へ投入するときには、上記保持装置28aの把持具39と40により水中航走体18の前部と後部の所要個所を左右方向から挟んで把持させた後、天井クレーン21にて上記水中航走体18を保持装置28aを介し吊り下げた状態としておく。その後、上記水中航走体18を保持している保持装置28aを、図1(イ)(ロ)乃至図3に示した実施の形態と同様に、開閉扉22を開けた開口部19を通して双胴船16の双胴間の水中の所要深度まで吊り降ろし、次いで、上記保持装置28aの各把持具39と40を、それぞれ図4(ロ)に二点鎖線で示す如く左右方向へ開くようにする。これにより、水中航走体18を上記保持装置28aより離脱させて発進させることができる。一方、水中航走体18を水中より揚収するときには、上記とは逆に、先ず、上記各把持具39と40をそれぞれ左右方向へ開いた状態の保持装置28aを図2に示す天井クレーン21により水中の所要深度まで吊り降ろしておき、この状態において、誘導センサ(誘導装置)31より誘導信号(音響信号)を発し、前記した図4乃至図6に示す誘導方法と同様な誘導をして水中航走体18を上記各把持具39,40の間に位置するよう誘導する。その後、該各把持具39,40を、図7に実線で示す如く、左右方向からそれぞれ閉じることにより、上記水中航走体18の前部と後部の所要個所をそれぞれ把持させる。しかる後、上記天井クレーン21により上記水中航走体18を保持装置28aごと双胴船16の双胴間の水中より吊り上げるようにする。これにより上記開口部19を経て格納室20内へ収容することができる。
【0057】
したがって、本実施の形態によっても図1(イ)(ロ)乃至図3に示した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
次いで、図8は本発明の実施の更に他の形態として、上記天井クレーン21(図2参照)の吊下げワイヤ26の下端に取り付けて水中航走体18を着脱自在に保持させる保持装置の更に別の例を示すもので、図3に示した如き水中航走体18を収納するケーシング29を備えてなる構成の保持装置28に代えて、上記水中航走体18を前後方向の両側から把持する形式の保持装置28bとしたものである。
【0059】
すなわち、図8に示す保持装置28bは、上記吊下げワイヤ26の下端に、水平方向に水中航走体18の全長とほぼ同様の長さ寸法を有する支持フレーム42の中間部を取り付け、該支持フレーム42の長手方向一端部に、水中航走体18の前端部に当接させるための把持アーム43を図示しない駆動機構により上下方向に回動可能に取り付けると共に、上記支持フレーム42の長手方向他端部に、水中航走体18の後部下方側へ回り込むように屈曲させた把持アーム44を図示しない駆動機構により上下方向に回動可能に取り付けた構成としてあり、上記各把持アーム43と44を水中航走体18の前後方向の両側から閉じることにより、上記水中航走体18を該各把持アーム43と44の間に把持(保持)することができるようにしてある。その他の構成は、図3に示したものと同じであり同一のものには同一符号が付してある。
【0060】
かかる構成としてあるので、水中航走体18を水中へ投入するときには、上記保持装置28bの把持アーム43と44により水中航走体18を前後方向の両側から挟んで把持させた後、天井クレーン21にて上記水中航走体18を保持装置28bを介し吊り下げた状態としておく。その後、図1(イ)(ロ)乃至図3に示した実施の形態と同様に、上記水中航走体18を保持している保持装置28bを、開閉扉22を開けた開口部19を通して双胴船16の双胴間の水中の所要深度まで吊り降ろし、次いで、上記保持装置28bの各把持アーム43と44を、それぞれ図8に二点鎖線で示す如く前後方向へ開くようにする。これにより、水中航走体18を上記保持装置28bより離脱させて発進させることができる。一方、水中航走体18を水中より揚収するときには、上記とは逆に、先ず、上記各把持アーム43と44をそれぞれ前後方向へ開いた状態の保持装置28bを図2に示す天井クレーン21により水中の所要深度まで吊り降ろしておき、この状態において、図7の実施の形態の場合と同様に水中航走体18を上記各把持アーム43と44の間に位置するよう誘導し、その後、該各把持アーム43と44を、図8に実線で示す如く、前後方向の両側からそれぞれ閉じることにより、上記水中航走体18を前後方向から保持させる。しかる後、上記天井クレーン21により上記水中航走体18を保持装置28bごと双胴船16の双胴間の水中より吊り上げるようにする。これにより、上記開口部19を経て格納室20内へ収容することができる。
【0061】
したがって、本実施の形態によっても図1(イ)(ロ)乃至図3に示した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
次に、図9は本発明の実施の更に他の形態として、図1(イ)(ロ)乃至図3の実施の形態の応用例を示すもので、上記したように、図1(イ)(ロ)乃至図3の実施の形態によれば、吊り下げ荷重がクレーンの旋回アームの耐荷重によって制限されることがなくなるために吊り下げ荷重を増大させることが可能になるという点に鑑みて、図3に示す如く、格納室20内に設けた吊下げ機構としての天井クレーン21(図2参照)の吊下げワイヤ26の下端に、水中航走体18を個別に保持する保持装置28を取り付けた構成に代えて、図3に示したと同様な構成としてある保持装置28をケーシング29の入口となるガイド部材30が前後左右方向へ向くように多段に複数に組み合わせて一体に接合してなる構成の水中ステーション45を取り付け、複数の水中航走体18を保持できるようにしたものである。
【0063】
なお、図9では6基の保持装置28を組み合わせたものを示してあるが、一体化する保持装置28の数は、格納室20の天井クレーン21により安定して昇降させることができる吊下げ荷重の範囲内で自在に設定することができる。又、上記各保持装置28の前後左右方向の配置や間隔、多段に重ねる際の間隔は、各保持装置28より離脱させて発進させたり、各保持装置28に保持させるべく進入させるときの各水中航走体18の運動が、互いに干渉しない範囲内であれば、双胴船16の連結甲板17に設ける開口部19の大きさや、該開口部19の上側に設ける格納室20の容積に対応させて変更してもよい。その他、図3に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0064】
本実施の形態によれば、図1(イ)(ロ)乃至図3の実施の形態と同様の効果に加えて、複数の水中航走体18の同時投入、揚収作業を行なうことができることから、作業効率を大幅に向上させることができるという効果も得ることができる。
【0065】
次いで、図10は、本発明の実施の別の形態を示すもので、図1(イ)(ロ)乃至図3に示した双胴船16の連結甲板17の所要位置に開口部19を設け、該開口部19の上側に水中航走体18の格納室20を設けた構成において、上記開口部19に開閉扉22を設け、且つ上記格納室20の天井部に、水中航走体18の保持装置28を昇降させるための吊下げ機構としての天井クレーン21を設けた構成に代えて、上記開口部19に、該開口部19に嵌合して閉塞させるための平板状の蓋46を配置すると共に、上記格納室20内に、該蓋46を昇降させるための吊下げ機構としてのアクチュエータ47を備えた構成とし、上記蓋46の上側に載置した水中航走体18を蓋46とともに上記アクチュエータ47により上記格納室20と双胴船16の双胴間の水中との間で昇降させるようにして、上記水中航走体18の投入、揚収作業を行うことができるようにしたものである。
【0066】
詳述すると、上記格納室20の天井壁20bにそれぞれヘッド側端部を取り付けて下向き配置としてある4本のアクチュエータ47の下端となる作動ロッド48の先端部に、上記開口部19に嵌合するよう配置してある蓋46の4隅部の上面をそれぞれ取り付け、上記各アクチュエータ47を伸縮作動させることにより、上記蓋46を、図10に実線で示す如き上記開口部19に嵌合して該開口部19を閉塞させる配置と、図10に二点鎖線で示す水中へ所要深度まで没水させた配置との間で昇降させることができるようにする。
【0067】
上記開口部19の周縁部の上側には、開口部19の内側へ所要寸法突出するストッパ兼シール部材49が周方向の全長に亘り設けてある。これにより、上記アクチュエータ47の収縮作動により上記蓋46を上昇させて上記開口部19に下方から嵌合させるときに、該蓋46の外周部を上記ストッパ兼シール部材49に衝合させることによって、上記蓋46の上昇を、該蓋46の下面が双胴船16の連結甲板17の下面と面一な配置となる状態で停止させることができるようにしてある。更に、開口部19に嵌合するよう配置させた上記蓋46の外周端面と上記開口部19の内周面との隙間の上側を、上記ストッパ兼シール部材49により覆うことで、格納室20内と外部とのシール性を得ることができるようにしてある。又、上記蓋46の所要個所には、図示してないが、水中に投入されている水中航走体18に誘導のための信号を発する誘導センサ(誘導装置)が装備してあり、水中で所定の作業を終えた水中航走体18を揚収するときに、該水中航走体18を蓋46上へ誘導できるようにしてある。なお、双胴船16の航行時のように上記開口部19を蓋46で閉塞しておくときには、開口部19の周縁部と上記蓋46とを強固に固定できるようにするためのロック機構(図示せず)を設けることが好ましい。
【0068】
本実施の形態によれば、水中航走体18を投入するときには、該水中航走体18を単に蓋46の上側に載置した状態で該蓋46ごと双胴船16の双胴間の水中へ没するように下降させた後、上記水中航走体18を上記蓋46上より前進させて発進させればよい。又、揚収するときには、予め蓋46を水中へ没するように配置させた状態にて、水中航走体18を上記蓋46の上方に位置するよう誘導し、その後、上記蓋46を上昇させると、該蓋46の上昇により持ち上げられる上記水中航走体18が水面上に出る時点で、該水中航走体18は自重により上記蓋46の上側に位置固定されるようになることから、その後、上記蓋46を開口部19まで引き上げることにより、該蓋46に載置された上記水中航走体18を格納室20へ収容できるようになる。
【0069】
したがって、上記水中航走体18が蓋46上に位置していれば、該水中航走体18の位置決めを厳密に行うことなく該水中航走体18の投入、揚収作業を行うことができるようになるため、投入、揚収作業時の手間を削減することが可能になる。
【0070】
更に、上記蓋46は、4隅部をそれぞれアクチュエータ47により吊った構成、すなわち、4点吊りした構成としてあることから、該蓋46を上昇、下降させる際の安定性を向上させることができる。
【0071】
なお、上記蓋46を水面上へ上昇させるときに、該蓋46の上面より外周へ溢れる水の流れが生じても、水中航走体18を上記蓋46の上側に確実に保持できるようにするために、蓋46の外周部の上面に、所要の高さ寸法まで立ち上がる手すり状の部材等、水の流れは許容する一方、水中航走体18の移動の障害となる部材を設けるようにしてもよい。
【0072】
次いで、図11は本発明の実施の更に別の形態として、図10に示した実施の形態の応用例を示すもので、図10に示したと同様の構成におけるアクチュエータ47に代えて、格納室20内の所要位置、たとえば、一側壁20a部にウインチ50を設け、該ウインチ50に巻き付けてある4本の吊下げワイヤ51の先端側を、格納室20の天井壁20bにそれぞれ設けたプーリ52に掛け回して垂下させてから上記蓋46の4隅部に取り付けた構成としたものである。
【0073】
その他の構成は図10に示したものと同様であり、同一のものには同一符号が付してある。
【0074】
本実施の形態によっても、図10に示した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
更に、上記の実施の形態において、図11に示す如く、複数の水中航走体18について同時に投入、揚収作業を行なうことができるようにするために、上記蓋46の上側に、矩形の各頂点部に配置した上下方向の支柱54と、該各支柱54の高さ方向所要間隔位置同士を連結するよう取り付けた複数段(図では2段の場合を示す)の棚板55とからなる棚部材53を設置して、蓋46の上面と棚部材53の各段ごとにそれぞれ水中航走体18を載置させるようにすることもできる。
【0076】
なお、上記棚部材53の各棚板55は、パンチングメタルやグレーチング等により水を容易に通過させることが可能な構成とすれば、該各棚板55を水面上へ引き上げるときの抵抗を低減させるのに有利となる。このようにすれば、上記棚部材53の各棚板55上に載置してある水中航走体18を蓋46に載せたまま同時に水中へ吊り降ろして発進させたり、水中に配した状態の棚板55上へ戻すように誘導してから蓋46と一緒に引き上げて格納室20へ収容することができて、複数の水中航走体18の同時投入、揚収作業が可能となるため、作業効率の向上化を図ることができる。
【0077】
上記した各実施の形態では、多胴船の一例として双胴船16を示し、双胴間の連結甲板17上に格納室20を設けて、水中航走体18を保持する保持装置28,28a,28bを天井クレーン21により昇降させるようにする場合を示したが、双胴船16に代えて、図12に示す如く中央部と両サイドに胴部57と58を有する3胴船56にも同様に適用することができる。
【0078】
詳述すると、図12に示す如く、中央部にメインの胴部57を有し、且つ左右両側に胴部58を有する3胴船(トリマラン)の中央部の胴部57とサイドの胴部58との間の甲板59上には、前記した双胴船16の連結甲板17上に設けた格納室20と同様の格納室60を設け、中央部の胴部59には、別の格納室61を設ける。
【0079】
上記中央部の胴部57とサイドの胴部58との間の甲板59上に設ける格納室60は、図1、図2に示す格納室20と同様に、甲板59の所要個所に、水中航走体18をケーシング29内に進入させて保持させた保持装置28を上下方向に通過できるようにするための開口部(図示せず)を設けると共に、開閉扉(図示せず)を設けて、その上方に設けるようにする。該格納室60の天井部には、図2と同様に吊下げ機構として、たとえば、天井クレーン21を設け、該天井クレーン21により吊下げワイヤ26を介して吊り下げた保持装置28とともに水中航走体18を開口部を通して昇降させることにより、格納室56内と胴部57,58間の水面との間で出し入れすることができて、水中航走体18の水中への投入と、水中からの揚収を行うことができるようにしてある。
【0080】
又、上記中央部の胴部57に設ける格納室61は、図13に拡大して示す如く、胴部57の片側又は両側(図13では片側についてのみ示す)設けて、該格納室61の舷側部には、開口部61aを設け、該格納室61の開口部61aを開閉する扉、たとえば、船首尾方向に移動して開閉する引き扉62を設け、該引き扉62を開けることにより、格納室61から船外へアクセスできるようにする。上記格納室61の天井部には、天井クレーン63の横行レール64を舷側方向に設けて、胴部57と胴部58との間の甲板59の下方まで上記横行レール64を延長させてあり、ホイスト65を横行レール64に沿って移動させるようにし、水中航走体18の保持装置28を格納室61内から甲板59下部まで移動して天井クレーン63により吊下げワイヤ26を介して水中に降ろすことができるようにする。又、その逆に、保持装置28を水中から引き上げて、甲板59の下部から格納室61内へ移動して格納できるようにする。
【0081】
この実施の形態によれば、3胴船56の甲板59上と中央の胴部57にそれぞれ格納室60と61を設けることができて、格納室60に格納してある水中航走体18は、保持装置28のケーシング29に保持させたまま図1乃至図3に示した実施の形態の場合と同様な操作で天井クレーン21で吊り下げて水中に投入させるようにする。一方、水中の水中航走体18を揚収するときは、前記した場合と同様に水中にて待機している保持装置28のケーシング29側に誘導して、水中航走体18をケーシング29内へ進入させて保持させた後、保持装置28を天井クレーン21により上昇させて格納室60へ格納させるようにする。
【0082】
格納室61内に格納してある水中航走体18を水中へ投入するときは、水中航走体18が保持されているケーシング29を天井クレーン63のホイスト65により吊下げワイヤ26を介し吊り下げ、引き扉62を開けて横行レール64に沿い格納室61内から船外へ移動させ、甲板59の下部位置で吊下げワイヤ26を繰り出してケーシング29を水中に降ろし、ケーシング29内の水中航走体18を水中へ投入させるようにする。水中の水中航走体18を揚収するときは、水中航走体18を、水中で待機しているケーシング29側へ誘導して、該ケーシング29内へ進入させて保持させた後、保持装置28を天井クレーン63により水中より上昇させる。しかる後、横行レール64に沿いホイスト65を甲板59の下部位置より格納室61内へ移動させ、保持装置28とともに水中航走体18を格納させるようにする。格納後は、引き扉62を閉じて開口部61aを密閉するようにする。
【0083】
これにより、格納室60,61のいずれの場合においても、水中航走体18を水中に投入するときや、水中から水中航走体18を引き上げるときは、胴部57と胴部58との間の水面で行うことができるので、前記した図1乃至図3に示す実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0084】
なお、上記3胴船56に設ける格納室60と61は、図12に示す如く、船首尾方向の同じ位置に設けるようにしてもよく、あるいは、船首尾方向へ互いにずれた位置に設けるようにして、格納室60を左右の甲板59上に設けるようにすること、格納室61を中央部の胴部57の左右両側部に設けるようにすることは任意である。
【0085】
上記したそれぞれの実施の形態は、いずれも、水中航走体18で収集したデータを回収するため、水中航走体18を母船の格納室60に引き揚げて格納するようにする、いわゆる水中航走体18の揚収を行うようにしたものであるが、水中航走体18を、水中に降ろした保持装置28のケーシング29に進入させて保持するだけで、保持装置28とともに水中航走体18を母船の格納室に格納することなく収集データの回収を行わせるようにすることができる。
【0086】
すなわち、図1乃至図13に示したものでは、水中航走体18が水中で必要な諸作業を行って情報を収集すると、その収集した情報データを水中航走体18から母船側へデータ転送ができればよいが、水中でのデータ転送は、水中の水平方向の通信ができないことから、水中でのデータ転送が困難である。
【0087】
そのため、上記の各実施の形態では、水中で収集したデータを水中航走体18に溜め込み、その水中航走体18を母船に引き上げてデータの回収を行うようにするものであるが、これに代えて、図14に概略を示す如く、保持装置28のケーシング29を、内側にデータ転送機構66と充電機構を取り付け、且つ母船との間でデータ転送ができるようにしたケーシング29aとして、水中基地として機能させるようにする。
【0088】
詳述すると、母船としての多胴船から天井クレーン21により吊り下げられる保持装置28のケーシング29aを、前記したケーシング29と同様な構成とするほかに、更に、内側に、水中航走体18が収集したデータを母船へ転送するデータ転送機構66を設置した構成とする。
【0089】
上記データ転送機構66としては、水中基地としてのケーシング29a内に水中航走体18が進入して、該ケーシング29aに固定されて保持されると、該水中航走体18には非接触状態でデータ転送ができる電波や光通信、電磁誘導を利用したものや、水中航走体18を水中コネクタを介し接触させてデータ転送を行わせるものを用いるようにする。
【0090】
更に、水中航走体18を水中基地としてのケーシング29内に進入させて保持させることにより、水中航走体18の充電を行う充電機構(図示せず)をケーシング29a内に設置した構成とする。
【0091】
充電機構としては、電磁誘導を利用した非接触充電方式や水中コネクタを介した接触充電方式を用いるようにし、水中航走体18の電源には、充電が可能な二次電池を使用するようにする。
【0092】
このような構成とすると、水中航走体18が収集したデータを、水中航走体18をケーシング29a内に進入させて保持させる都度、母船に引き上げて揚収することなく、水中からケーシング29aを介して母船で回収することができる。又、水中航走体18の電源に二次電池が使用されていると、当該水中航走体18が収集したデータを回収するためケーシング29a内に進入して保持されるとき、上記のデータを母船に転送する際に、同時に、水中航走体18の電源を充電させることが可能となる。これにより、ケーシング29aを水中の基地として用いることができて、データを収集した水中航走体18をその都度揚収することなく、水中で保持したままで母船でのデータ回収と水中航走体18の充電ができ、効率よく水中航走体18による情報の収集を行うことができる。
【0093】
上記説明は、図1乃至図3に対応させて1つのケーシング29aの場合についてものであるが、図9に示す複数個のケーシング29を前後左右方向に組み合わせて一体化させて水中ステーションとしたものにおいても、同様にデータ転送機構66、充電機構を設置して、各ケーシング29を水中基地としてのケーシング29aとすることにより、水中航走体18が溜め込んだデータを、揚収させることなくデータ転送ができて、図9に示す水中ステーション45をデータ転送、充電基地とすることができる。
【0094】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、以下に述べるように変形を加えることは任意である。たとえば、水中航走体18を着脱自在に保持させるための保持装置28としては、図1(イ)(ロ)乃至図3の実施の形態では、図3に示す如く、水中航走体18をほぼ全長に亘り収納できるようにしたケーシング式のものを、図7(イ)(ロ)の実施の形態では、水中航走体18を左右方向の両側から把持する形式のものを、図8の実施の形態では、水中航走体18を前後方向から把持する形式のものをそれぞれ示したが、水中へ吊り降ろした状態で水中航走体18を離脱させ、又、保持装置近傍まで誘導した水中航走体18を保持して吊り上げることができれば、いかなる形式の保持装置を用いるようにしてもよい。
【0095】
図9の実施の形態では、天井クレーン21の吊下げワイヤ26の下端に取り付けて複数の水中航走体18をそれぞれ着脱自在に保持させる水中ステーション45として、図3に示した如き水中航走体18の保持装置28を複数組合せてなるものとして示したが、複数の水中航走体18をそれぞれ着脱自在に保持できれば、図7(イ)(ロ)の実施の形態における保持装置28aや図8の実施の形態における保持装置28bを図示しないフレームに複数取り付けた構成とする等、いかなる形式の水中ステーションを採用してもよい。
【0096】
図1(イ)(ロ)乃至図3の実施の形態における保持装置28、図7(イ)(ロ)の実施の形態における保持装置28a、図8の実施の形態における保持装置28bや、図9の実施の形態における水中ステーション45、更には、図12の実施の形態における保持装置28は、いずれも一本の吊下げワイヤ26によって吊るものとして示したが、格納室20や60の天井部に設けた天井クレーン21等の吊下げ機構により巻き上げ、巻き出しの行われる2本以上の吊下げワイヤ26を用いて多点吊りするようにして、姿勢の安定化を図るようにしてもよい。
【0097】
図1(イ)(ロ)及び図2に示す実施の形態では、双胴船16の連結甲板17の所要個所に開口部19を設けて、その上方に格納室20を設けている例を示したが、開口部19の上方位置よりも船首尾方向にずれた位置に格納室を設けて、該格納室から上記開口部19の上方位置までを、図12、図13に示す如く格納室61のように、天井クレーンのレールに沿い移動できるようにしてもよい。
【0098】
又、格納室をパッケージとして、双胴船16の直結甲板17上、あるいは3胴船56の甲板59上の任意の位置に搭載できるようにしてもよい。
【0099】
図10の実施の形態における蓋46の上側、あるいは、図11の実施の形態における蓋46の上側や棚部材53の各棚板55の上側に、複数の水中航走体18を載置した状態として、投入、揚収作業を行わせるようにしてもよい。この場合には、同時にハンドリングできる水中航走体18の数を増加させることが可能になる。
【0100】
吊下げ機構としては、図1(イ)(ロ)、図2、図3、図7、図8、図9に示した各実施の形態では天井クレーン21を、又、図10の実施の形態ではアクチュエータ47を、図11の実施の形態ではウインチ50をそれぞれ使用するものとして示したが、図2の吊下げ機構21に代えて図10や図11に示す吊下げ機構47,50を用いるようにすること、更には、水中航走体18の保持装置28,28a,28bや水中ステーション45や蓋46を双胴船16の連結甲板17や多胴船56の甲板59の下面部分からその下方の所要深度の水中まで昇降させることができ、且つ旋回式クレーンのアームのような片持ちのアームで吊り荷重を支持する形式でなければ、ネジ式やラック式のジャッキを用いる等、いかなる形式の吊下げ機構を採用してもよい。
【0101】
又、図2に示した開閉扉22は、開口部19を開閉させることができるものであれば、他の形式のものでもよい。
【0102】
図1乃至図3に示す双胴船16の連結甲板17や図12に示す3胴船56の甲板59の下面に設ける開口部及びその上側の水中航走体18の格納室20や60は、前後方向の設置数を1つあるいは3つ以上としたり、幅方向に複数設ける等、配置や数は自在に設定してもよい。
【0103】
双胴船16の航走時に抵抗が増加する虞がないようにする点、及び、水中航走体18のメンテナンス性を良好なものとする点等からは、水中航走体18を、上記各実施の形態のように、双胴船16の連結甲板17の開口部19の上側に設けた格納室19や、3胴船56の中央部の胴部57とサイドの胴部58との間の甲板59の上側に設けた格納室60に格納できるようにすることが好ましいが、双胴船16の連結甲板17や多胴船56の甲板59の下面部に、吊り上げた水中航走体18を収容できるようにするための窪みを設けたり、あるいは、水中航走体18自体の形状を、上記連結甲板17や甲板59の下面部まで引き上げたときに該連結甲板17や甲板59の下面に滑らかに一体化する形状とする等して、連結甲板17や甲板59の下面側に水中航走体18が存在することによって多胴船16の推進性能に多大な影響を与えたり、水中航走体18が多胴船の胴部間にて生じる引き波等によって脱落したり、損傷する虞がないようにできれば、水中航走体18を格納する格納室20を省略することも可能である。なお、この場合には、引き上げる水中航走体18と対応する個所となる上記連結甲板17や甲板59の所要位置に、上記水中航走体18へアクセスするためのハッチ等を設けることが好ましい。
【0104】
水中航走体18の母船となる多胴船は、停船状態のときに胴部間に水中航走体18の投入、揚収作業を行うための十分な水面を確保できれば、いかなる形式の多胴船を採用してもよく、又、上記の説明では、多胴船として双胴船、3胴船を例示したが、たとえば、5胴船の如き3胴以上の胴部を有する多胴船に本発明を適用するようにしてもよい。
【0105】
上記各実施の形態では、水中航走体18を自律航行型(所謂AUV)のものとして示したが、所謂ROVと呼ばれる遠隔操縦式の水中航走体18の投入、揚収作業を行う場合にも適用するようにしてもよく、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の水中航走体の投入・揚収方法及び装置、並びに、水中航走体の投入・揚収用双胴船の実施の一形態を示すもので、(イ)は概略正面図、(ロ)は一部切断概略側面図である。
【図2】図1の装置の格納室部分を拡大して示す切断側面図である。
【図3】図1の装置における水中航走体の保持装置を拡大して示す切断側面図である。
【図4】本発明の水中航走体の投入・揚収方法及び装置において水中航走体を揚収するときの誘導方法を示すもので、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)はその手順を示す側面図である。
【図5】水中航走体を誘導するときの水中航走体に設定したケーシング入口の音響映像と水中航走体側が取得したケーシング入口の音響映像を示す図である。
【図6】ケーシングに水中航走体を誘導する具体的なパターンの一例を示す概略平面図である。
【図7】本発明の実施の他の形態として、水中航走体の保持装置の別の例を示すもので(イ)は側面図、(ロ)は正面図である。
【図8】本発明の実施の更に他の形態として、水中航走体の保持装置の更に別の例を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の更に他の形態を示すもので、水中ステーション部分を示す概略斜視図である。
【図10】本発明の実施の別の形態を示す図2に対応する図である。
【図11】本発明の実施の更に別の形態を示す図2に対応する図である。
【図12】多胴船としての3胴船により水中航走体を投入・揚収するようにした状態の概要を示す概略正面図である。
【図13】図12のXIII部に示す格納室部分の拡大切断正面図である。
【図14】水中航走体を保持するケーシングにデータ転送機構を取り付けて水中からデータ転送できるようにした状態を示す概略切断側面図である。
【図15】従来提案されている水中航走体の投入・揚収装置の一例を示す概略側面図である。
【図16】従来提案されている水中航走体の揚収装置の一例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0107】
16 双胴船
17 連結甲板
17a 下面板
18 水中航走体
19 開口部
20 格納室
21 天井クレーン(吊下げ機構)
22 開閉扉
28,28a,28b 保持装置
29 ケーシング
30 ガイド部材
31 誘導センサ(誘導装置)
45 水中ステーション(保持するための装置)
46 蓋
47 アクチュエータ(吊下げ機構)
50 ウインチ(吊下げ機構)
51 吊下げワイヤ
56 3胴船
57 中央部の胴部
58 側部の胴部
59 甲板
60 格納室
61 格納室
63 天井クレーン(吊下げ機構)
66 データ転送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多胴船の胴部間の甲板の下面部と多胴船の胴部間の水中との間で水中航走体を昇降させて、該水中航走体の投入と揚収を行うようにすることを特徴とする水中航走体の投入・揚収方法。
【請求項2】
多胴船に設けた格納室に水中航走体を格納しておき、該格納室に格納した水中航走体を水中に降ろし、又、水中から水中航走体を上昇させて上記格納室に格納するようにする請求項1記載の水中航走体の投入・揚収方法。
【請求項3】
多胴船を双胴船とし、水中航走体の昇降を、双胴間の連結甲板の下面部と双胴間の水中との間で行うようにする請求項1記載の水中航走体の投入・揚収方法。
【請求項4】
多胴船を双胴又は3胴以上の多胴船として、格納室を、双胴間の連結甲板又は多胴船の甲板の所要位置あるいは多胴船の胴部に設けるようにする請求項2記載の水中航走体の投入・揚収方法。
【請求項5】
多胴船の胴部間の甲板上方部に水中航走体の吊下げ機構を設け、多胴船に設けた格納室に格納した水中航走体を、多胴船の胴部間の甲板の下面部と多胴船の胴部間の水中との間で上記吊下げ機構により昇降させて、水中航走体の投入・揚収を行うことができるようにした構成を有することを特徴とする水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項6】
多胴船を双胴又は3胴以上の多胴船として、吊下げ機構を、双胴間の連結甲板の上方部又は多胴船の胴部間の甲板の上方部に設置又は移動できるように備えるようにした請求項5記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項7】
吊下げ機構に、水中航走体を着脱自在に保持するための装置を取り付けた請求項5又は6記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項8】
水中航走体を着脱自在に保持するための装置を、水中航走体をほぼ全長に亘り収納し得る筒型のケーシングと、該ケーシングの開口部に取り付けたラッパ状のガイド部材とからなる構成とした請求項7記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項9】
水中航走体を着脱自在に保持するための装置を、水中航走体を前後方向の両側又は左右方向の両側から挟んで把持できるようにした請求項7記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項10】
水中航走体を着脱自在に保持するための装置を複数個組み合わせて、複数の水中航走体をそれぞれ着脱自在に保持できる水中ステーションとした請求項7、8又は9記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項11】
ケーシングの内側にデータ転送機構、充電機構のいずれか又は双方を設置し、水中航走体を保持して水中から多胴船へのデータ転送及び/又は水中で水中航走体への充電ができるようにした請求項8又は10記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項12】
水中航走体を多胴船内の格納室から船外へ出すところに開口部を設け、該開口部を通して水中航走体を吊下げ機構により船外へ出し、又、船外から上記開口部を通して水中航走体を格納室に格納できるようにした請求項5、6、7、8、9、10又は11記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項13】
開口部に扉を設けて開閉できるようにし、該扉で格納室船外より密閉できるようにした請求項12記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項14】
多胴船を双胴又は3胴以上の多胴船として、開口部を、双胴間の連結甲板又は多胴船の胴部間の甲板及び/又は内側胴部の舷側側に設けるようにした請求項12又は13記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項15】
多胴船の胴部間の甲板に開口部を設け、該開口部の上側に、吊下げ機構を備えた格納室を設けると共に、上記開口部を閉塞できるようにした蓋を設け、該蓋を格納室に備えた上記吊下げ機構により昇降できるようにして、該蓋とともに水中航走体を昇降させることができるようにした請求項5記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項16】
蓋の上側に、棚部材を設けて、複数の水中航走体を載置できるようにした請求項15記載の水中航走体の投入・揚収装置。
【請求項17】
胴部間の甲板上又は胴部内に格納室を設け、該格納室に格納した水中航走体を船外へ出して昇降させるようにする吊下げ機構を備え、水中航走体を吊下げ機構により上記甲板とその下方の水中との間で昇降させて投入と揚収ができるようにしたことを特徴とする水中航走体の投入・揚収用多胴船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−1565(P2007−1565A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142276(P2006−142276)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)