説明

水中航走体揚収方法および水中航走体揚収システム

【課題】水中航走体の引上時の重量を可及的に増加させずに短時間にて揚収できる水中航走体揚収方法を提供する。
【解決手段】水面下にて、自走するRODD9によって、ガイド索40を掛け回した取付金物を水中航走体1に固定し、ガイド索40を繰り出しながらRODD9を母船3へと航行させ、RODD9からガイド索40を母船3へと受け渡し、母船3に受け渡されたガイド索40の一端に引上索44の先端を取り付け、ガイド索40の他端を母船3側に引き込むことによって、ガイド索40の一端に取り付けた引上索44の先端を水中航走体1へと導き、水中航走体1に固定した取付金物に対して引上索44の先端を固定し、引上索44を母船3側に引き込むことによって、水中航走体1を取付金物とともに母船3側に引き上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体揚収方法および水中航走体揚収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば海底資源を探索するために水中航走体が用いられている。このような水中航走体は、無人にて自走するものであり、所定の探索が終了した後に安全にかつ迅速に母船へと回収する揚収方法が求められている。このような水中航走体の揚収方法として、特許文献1に示されているように、波の影響が少ない水中にて水中航走体に対して引上索を固定する方法が開示されている。
同文献では、引上索を上端に固定した水中嵌合架台を水中航走体上に位置させ、水中嵌合架台に設けた油圧シリンダおよび係止腕を水中航走体の嵌合金物に嵌合させることによって、引上索を水中航走体に固定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−305798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、同文献に記載された揚収方法は、油圧シリンダや係止腕等を備えた水中嵌合架台とともに水中航走体を引き上げるようになっているので、水中航走体に加えて重量物である水中嵌合架台をも引き上げる必要がある。したがって、クレーンやウィンチといった引上装置が大型化してしまうという問題がある。また、重量物を揚収するので作業時間がかかるという問題もある。
また、同文献に記載された水中航走体は、テザーケーブルによって接続された有索式とされているので、水中嵌合金物を水中航走体に案内することが容易となっている。しかし、水中航走体がテザーケーブルに接続されておらず、無索式とされた場合の水中航走体の揚収方法については何ら言及されていない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、無索式とされた水中航走体であっても、水中航走体の引上時の重量を可及的に増加させずに短時間にて揚収できる水中航走体揚収方法および水中航走体揚収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の水中航走体揚収方法および水中航走体揚収システムは以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる水中航走体揚収方法は、水面下にて、自走する水中作業用航走体によって、ガイド索を掛け回した取付金物を水中航走体に固定する取付金物固定ステップと、前記ガイド索を繰り出しながら前記水中作業用航走体を母船へと航行させ、該水中作業用航走体から該ガイド索を母船へと受け渡すガイド索受渡しステップと、前記母船に受け渡された前記ガイド索の一端に引上索の先端を取り付ける引上索取付けステップと、前記ガイド索の他端を前記母船側に引き込むことによって、該ガイド索の前記一端に取り付けた前記引上索の前記先端を前記水中航走体へと導き、該水中航走体に固定した前記取付金物に対して前記引上索の前記先端を固定する引上索固定ステップと、前記引上索を前記母船側に引き込むことによって、前記水中航走体を前記取付金物とともに前記母船側に引き上げる水中航走体引上ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の水中航走体揚収システムは、水面下にて、自走する水中作業用航走体によって、ガイド索を掛け回した取付金物を水中航走体に固定し、前記ガイド索を繰り出しながら前記水中作業用航走体を母船へと航行させ、該水中作業用航走体から該ガイド索を母船へと受け渡し、前記母船に受け渡された前記ガイド索の一端に引上索の先端を取り付け、前記ガイド索の他端を前記母船側に引き込むことによって、該ガイド索の前記一端に取り付けた前記引上索の前記先端を前記水中航走体へと導き、該水中航走体に固定した前記取付金物に対して前記引上索の前記先端を固定し、前記引上索を前記母船側に引き込むことによって、前記水中航走体を前記取付金物とともに前記母船側に引き上げることによって、前記水中航走体を前記母船に揚収することを特徴とする。
【0008】
作業用水中航走体によってガイド索を掛け回した取付金物を水中航走体に固定した後に、ガイド索を繰り出しながらガイド索を母船へと受け渡す。そして、ガイド索の一端に引上索の先端を取り付け、ガイド索の他端を母船側に引き込むことによって、ガイド索の一端とともに引上索の先端を水中航走体へと導く。水中航走体へと導かれた引上索の先端は水中航走体に固定された取付金物に固定され、この引上索を母船側に引き込むことによって、水中航走体を取付金物とともに母船側に引き上げることとした。
取付金物は、ガイド索を掛け回す部分と水中航走体に対して固定される固定部とを有していれば良く、水中作業用航走体によって運搬されて固定されるので自走する機能を必要としない。したがって、取付金物を簡素化した構成として軽量化を図ることができるので、水中航走体とともに引き上げることとしても、大幅な重量増とはならない。これにより、水中航走体と同等の重量を引き上げるだけの能力を有する引上装置(例えばクレーンやウィンチ)で足り、大容量の引上装置を必要としない。
また、作業用水中航走体によって取付金物を取り付けて水中航走体を揚収することができるので、テザーケーブルに接続されていない無索式とされた水中航走体にも対応することができる。
また、重量物を引き上げるための引上索と、引上索を水中航走体に固定するために引上索を導くガイド索とを別とした。これにより、ガイド索に加わる設計張力を引上索よりも小さく設定できるので、ガイド索の径を小さくすることができる。したがって、取付金物とともにガイド索を運搬する水中作業用航走体に過大な能力や収容部を要求する必要が無く、水中作業用航走体を小型化することができる。
【0009】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記引上索の先端部には、前記ガイド索の前記一端に取り付けられる揚収用金物が設けられ、前記取付金物は、前記揚収用金物が前記ガイド索によって引き込まれた際に、該揚収用金物を受止める受止め部と、前記引上索を引き上げる際に加わる張力方向における該揚収用金物の移動を規制する規制部とを備えていることを特徴とする。
【0010】
ガイド索によって引き込まれた引上索の先端の揚収用金物を受止めるとともに、引上索を引き上げる際に加わる張力方向の移動を規制する規制部によって、引上索は取付金物に固定されることになる。このように、ガイド索による引込方向と引上索の引上方向が異なる方向であっても、引上索の先端を取付金物に固定することができる。
なお、揚収用金物の移動を規制する規制部としては、例えば、揚収用金物に係合する爪部等が挙げられる。
【0011】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記取付金物は、前記引上索を引き上げる際に張力が加わった際に、前記揚収用金物が前記規制部にてその移動を規制されつつ張力方向に回転する回転軸を備えていることを特徴とする。
【0012】
引上索を引き上げる際に張力が加わった際に、揚収用金物が規制部にて移動を規制されつつ張力方向に回転する回転軸を備えているので、揚収用金物を張力方向に向かせることができる。これにより、引上索からの張力が揚収用金物を介して取付金物および水中航走体に伝達されるので、水中航走体を円滑に引き上げることができる。
【0013】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記受止め部には、前記ガイド索が挿通するとともに、前記揚収用金物よりも小径とされた挿通孔が形成されていることを特徴とする。
【0014】
受止め部にガイド索が挿通する挿通孔を形成することとしたので、ガイド索に取り付けられた揚収用金物を受止め部へと円滑に導くことができる。また、挿通孔は揚収用金物よりも小径とされているので、揚収用金物を受け止めることができるようになっている。
【0015】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記水中航走体は、被係合部を備え、前記取付金物は、前記被係合部に対して係合する係合部を備えていることを特徴とする。
【0016】
水中航走体に固定された被係合部に係合する係合部を取付金物に設けることとしたので、取付金物の水中航走体への固定を簡便な構成にて実現することができる。
【0017】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記取付金物は、前記水中作業用水中航走体によって把持される被把持部を備えていることを特徴とする。
【0018】
水中作業用航走体によって把持される被把持部を取付金物に設けることとしたので、水中作業用航走体によって取付金物を容易に把持することができる。
【0019】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記水中航走体は、前記水中作業用航走体によって把持される保持部を備えていることを特徴とする。
【0020】
水中作業用航走体によって把持される把持部を水中航走体に設けることとしたので、取付金物を水中航走体に固定する際の作業性が向上する。
【0021】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、上記の被係合部および/または上記の保持部は、前記水中航走体の先端部に設けられ、先端部カバーによって覆われていることを特徴とする。
【0022】
被係合部および/または保持部が水中航走体の先端部に設けられ、先端部カバーによって覆われているので、水中航走体の通常航行時には被係合部および/または保持部が露出しない。したがって、水中航走体の航行時の抵抗となることがない。
【0023】
さらに、本発明の水中航走体揚収システムによれば、前記先端部カバーは、揚収時に取り外し可能とされており、該先端部カバーと水中航走体本体との間には、該水中航走体本体に対して該先端部カバーを連結するための連結索が設けられていることを特徴とする。
【0024】
揚収時に先端部カバーが取り外され、取り外された後の先端部カバーは、連結索によって水中航走体本体に対して連結されたままとされる。これにより、先端部カバーの喪失を回避することができる。また、水中作業用航走体は、保持部を把持できない場合には、連結索を把持することとしてもよい。
なお、先端部カバーの取り外しは、例えば爆破ボルトによって行われる。
また、先端部カバーに浮力体を取り付けておき、取り外し後は水中航走体の直上に位置させるようにしてもよい。これにより、水中作業用航走体によって連結索を容易に把持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれは、取付金物は、ガイド索を掛け回す部分と水中航走体に対して固定される固定部とを有していれば足り、水中作業用航走体によって運搬されて固定されるので自走する機能を必要としないので、取付金物を簡素化した構成として軽量化を図ることができる。したがって、取付金物を水中航走体とともに引き上げることとしても、大幅な重量増とはならないので、大容量の引上装置を必要とせずに短時間で揚収作業を行うことができる。
また、作業用水中航走体によって取付金物を取り付けて水中航走体を揚収することができるので、テザーケーブルに接続されていない無索式とされた水中航走体にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる水中航走体揚収システムを示した概略図である。
【図2】図1の水中航走体の先端部を示した縦断面図である。
【図3】図1の水中航走体の先端部を示した斜視図である。
【図4】図1のRODDを示した斜視図である。
【図5】取付金物を示した側面図である。
【図6】引上索及びガイド索に取り付けられた揚収用金物を示した側面図である。
【図7】水中航走体に対してRODDを接近させて作業を行っている状態を示した概略図である。
【図8】被係合金物に対して取付金物を取り付ける状態を示した概略図である。
【図9】被係合金物に対して取付金物を取り付けた後に、RODDが離間する状態を示した概略図である。
【図10】RODDを母船へと引き上げる状態を示した概略図である。
【図11】ガイド索を用いて引上索の先端の揚収用金物を水中航走体へと案内する状態を示した概略図である。
【図12】取付金物に対して揚収用金物が接近する状態を示した概略図である。
【図13】取付金物に対して揚収用金物が固定された状態を示した概略図である。
【図14】引上索に張力が加わり、受止め部及び爪部が回転軸線回りに回転した状態を示した概略図である。
【図15】水中航走体を水面まで引き上げた状態を示した概略図である。
【図16】水中航走体を引き上げて水切りした状態を示した概略図である。
【図17】シャトルトローリー方式によって水中航走体を台車上に設置する状態を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、水中航走体1を母船3に揚収する水中航走体揚収システムが示されている。
母船3には、船尾側に設けられたウィンチ5と、Aフレームクレーン7とが設けられている。
【0028】
ウィンチ5は、アンビリカルケーブル23が巻回されている。アンビリカルケーブル23の先端には、水中にて作業を行う水中作業用航走体であるRODD(Remote Operated Docking Device;遠隔ドッキング装置)9が接続されている。ウィンチ5は、AHC(Active Heave Compensated)ウィンチとされており、母船3に設置されたMRU(Motion Reference Unit)4から得られた母船3の動揺に応じてアンビリカルケーブル23の繰り出し及び巻き取りを行い、母船3の動揺を吸収することができるようになっている。これにより、RODD9の姿勢が母船3のヒーブ(上下方向運動)の影響を受けないようになっている。
【0029】
Aフレームクレーン7は、門型のクレーンとされており、水中航走体1を船上に揚収する際に下端を支点として起伏できるようになっている。Aフレームクレーン7のブーム7aには、シーブ7bが取り付けられており、アンビリカルケーブル23が案内されるようになっている。
【0030】
水中航走体1は、例えば海底資源を探索するために使用され、例えば5m程度の全長を有する。水中航走体1は、テザーケーブルが接続されていない無索式とされており、無人にて遠隔操作によって航行する。なお、水中航走体1は、海底資源探索用に限らず、他の用途の水中航走体であっても良い。
【0031】
水中航走体1の先端部には、取り外し可能とされた先端部カバー10が取り付けられている。なお、図1では、先端部カバー10が取り外された状態が示されているが、揚収前の水中航走体1の通常航行時には、先端部カバー10は、図2に示すように、水中航走体1の本体側に取り付けられている。
図2に示されているように、先端部カバー10は、水中航走体1の先端部のドーム形状を構成しており、その内部には水よりも比重が軽い浮力体13が固定されている。これにより、図1のように取り外された先端部カバー10は、水中航走体1の直上へと浮上する。先端部カバー10と水中航走体1の本体との間には連結索12が設けられており、先端部カバー10は、取り外された後であっても、水中航走体1の本体に対して連結された状態となっている。この連結索12は、後述するように、RODD9のマニュピュレータ14によって把持することができるようになっている。
先端部カバー10と水中航走体1の本体側との取り外しは、図示しない制御部からの指令によって動作する離脱装置(例えば爆破ボルト)16によって行われる。
【0032】
図2に示されているように、水中航走体1の先端部には、保持金物(保持部)18と被係合金物(被係合部)19とが固定されている。これら保持金物18及び被係合金物19は、先端部カバー10によって覆われており、先端部カバー10が水中航走体1の本体に取り付けられている場合には、外側に露出しないようになっている。これにより、水中航走体1の航行時に保持金物18及び被係合金物19が抵抗となることがない。
保持金物18は、図3に示すように、リング形状とされており、複数の固定用支柱21によって、水中航走体1の本体側の固定台部20から離間した状態で固定されている。保持金物18は、後述するように、RODD9のマニュピュレータ14によって把持することができるようになっている。
被係合金物19は、U字形状とされており、U字形状の両端部が固定台部20に固定され、U字形状の曲成部が水中航走体1の前方に突出した状態で設けられている。被係合金物19には、後述するように、RODD9によって搬送された取付金物8が係合されて固定されるようになっている。
【0033】
RODD9は、母船3上からオペレータによって遠隔操作される。RODD9は、図4に示すように、直方体の骨組み構造とされた本体フレーム24を備えており、この本体フレーム24に対して、水平方向へ移動するための水平スラスタ25と、上下方向へ移動するための垂直スラスタ26とが固定されている。また、本体フレーム24の内部には、後述するガイド索40が巻回されるガイド索用ウィンチ27が設けられている。ガイド索用ウィンチ27の下方には、ガイド索40を案内するためのガイド索用ガイド28が設けられている。RODD9の前方には、2組のマニュピュレータ14が設けられている。各マニュピュレータ14は、先端に把持部14aを有している。RODD9の上部には、アンビリカルケーブル23が接続される接続部30が設けられており、この接続部30を介して導かれたアンビリカルケーブル23から制御信号等の通信や電力の供給が行われるようになっている。
また、RODD9は、図示していないが、音響測位装置と、音響画像センサと、3D(三次元)光学カメラと、水中ライトを備えており、これらを用いる事により、水中航走体1に対して接近できるようになっている。さらに、RODD9は、図示しないが、方位計、速度検出器、深度計といった計測器を備えており、これらの情報は通信装置を介して外部へと送信されるようになっている。
【0034】
図5には、RODD9によって搬送されるとともに、水中航走体1に固定される取付金物8が示されている。
取付金物8は、U字形状とされた本体部32と、本体部32の両端間に設けられた受止め部34と、受止め部34に取り付けられた爪部(規制部)35とを備えている。取付金物8は、本体部32および受止め部34によって、無端状の環形状が形成されている。
【0035】
本体部32の一側の直線部には、一端を回動支点として揺動する揺動部材37が設けられている。揺動部材37は、図示しない付勢部材によって本体部32の直線部を構成するように常に付勢されている。揺動体37は、後述するように、水中航走体1に固定した被係合金物19に係合する係合部を構成している。具体的には、被係合金物19に係合する際には、揺動部材37に対して被係合金物19を押し当てて揺動部材37を回動させて環形状とされた取付金物8内に被係合金物19を挿入することによって行う。
【0036】
受止め部34は、本体部32の両端間を結ぶ回転軸線L1回りに回転するようになっている。受止め部34には、ガイド索40を挿通するための挿通孔34aが形成されている。挿通孔34aは、図6に示した揚収用金物42の頭部42aよりも小さい径となっており、これにより、揚収用金物42を受止めることができるようになっている。
揚収用金物42は、引上索44の先端に取り付けられ、また、ガイド索40の一端に取り付けられて受止め部34へと案内されるようになっている。
受止め部34に取り付けられた爪部35は、複数設けられており、図5に示されているように、その先端が収容した揚収用金物42の段部42bに係合するようになっている。具体的には、揚収用金物42が受止め部34へと移動する際には、揚収用金物42の頭部42aを通過させるように受止め部34側へと爪部35が退避して回動するようになっており、揚収用金物42の頭部42aが通過して段部42bが爪部35に位置すると、爪部35は受止め部34から離間するように位置復帰を行い、段部42bに対して係合する。爪部35は、段部42bに係合すると、それ以上は回動しないようにストッパ39が設けられており、これにより揚収用金物42の移動を規制するようになっている。
また、取付金物8は、RODD9のマニュピュレータ14によって把持することができるT字形状とされた被把持部36を備えている。
【0037】
以下に、上記構成の水中航走体揚収システムを用いた揚収方法について説明する。
先ず、揚収に先立ち、図1の(1)に示すように、水中航走体1を既定の緯度、経度および深度(例えば150m)までスパイラルまたは直線浮上させ(図1の(2)参照)、待機モードとする。そして、離脱装置16(図2参照)を動作させることによって水中航走体1の先端部の先端部カバー10を離脱させる。また、水中航走体1の後方へとシーアンカー11を放出する。シーアンカー11は、水中航走体1の姿勢および位置を安定させるために用いられる。この状態にて、水中航走体1は最も遅い速力となるDead slow(微速)とし、漂流状態に近い状態とされる。
母船3は、水中航走体1の直上から50m潮上の位置で待機し、最も遅い速力となるDead slow(微速)とされる。
【0038】
次に、Aフレームクレーン7を用いて母船3のRODD9を吊り上げて船尾に振り出し、RODD9を海面上に着水させる。RODD9は、垂直スラスタ26(図4参照)によって水中へと潜航し、既定の深度にて最も遅い速力となるDead slow(微速)とされる(図1の(3)参照)。
【0039】
次に、RODD9に搭載された音響測位装置を用いて、RODD9を水中航走体1に接近させる(図1の(3)から(4)まで)。
そして、RODD9に搭載された音響画像センサで水中航走体1を確認できるまで接近すると、オペレータが水中航走体1を音響画像センサで目視しつつ、音響測位装置を用いて更にRODD9を水中航走体1に接近させる(図1の(4)から(5)まで)。
【0040】
RODD9に搭載された光学カメラ及び水中ライトで水中航走体1を確認できるまで接近すると、オペレータが水中航走体1を光学カメラで目視しつつ、RODD9を水中航走体1に更に接近させて、図7に示すように、RODD9のマニュピュレータ14を用いて水中航走体1の先端部に固定された保持金物18を把持する。なお、マニュピュレータ14によって保持金物18を把持できない場合には、先端部カバー10を連結された連結索12を把持しても良い。
【0041】
図8には、RODD9のマニュピュレータ14が保持金物18を把持して水中航走体1を捕捉した状態が示されている。そして、同図に示すように、他方のマニュピュレータ14で把持した取付金物8を、水中航走体1の先端部に固定した被係合金物19に取り付ける。具体的には、被係合金物19に対して取付金物8の揺動部材37側を接近させ、押し当てることによって、揺動部材37を揺動させて、被係合金物19を環形状とされた取付金物8内へと導く。そして、付勢力によって揺動部材37が位置復帰することによって、被係合金物19を取付金物8内に取り込み、被係合金物19と取付金物8とが離脱しないように係合させる(取付金物固定ステップ)。被係合金物19と取付金物8とが係合された状態が、図9に示されている。
取付金物8には、ガイド索40が輪を成した状態で予め掛け回されている。具体的には、取付部材8の受止め部34に形成した挿入孔34aにガイド索40を挿通させる。ガイド索40は、図9に示されているように、ガイド索用ガイド28を介してガイド索用ウィンチ27に巻回されている。
【0042】
被係合金物19に対して取付金物8を取り付けた後、RODD9は、図9に示すように水中航走体1から離間し、図10に示すように、ウィンチ5によってアンビリカルケーブル23を巻き取り、RODD9を母船3上に揚収する。この際に、RODD9からはガイド索40がガイド索用ウィンチ27から繰り出されるようになっている。RODD9が母船3上に揚収されることによって、ガイド索40が母船3側へと受け渡される(ガイド索受渡しステップ)。
【0043】
次に、母船3上にて、ガイド索40の一端に、引上索44の先端を取り付ける(引上索取付ステップ)。具体的には、引上索44の先端に取り付けた揚収用金物42(図6参照)に対して、ガイド索40の一端を取り付ける。引上索44は、図11に示すように、引上索用ウィンチ46に巻回されている。
【0044】
そして、図11に示すように、ガイド索40の他端を母船3側に引き込みつつ、ガイド索40の一端に取り付けた引上索44の揚収用金物42を水中航走体1へと導く。
図12に示すように、揚収用金物42がガイド索40の案内によって取付金物8に接近した後、図13に示すように、揚収用金物42が取付金物8に固定される。これにより、引上索44が取付金物8に固定される(引上索固定ステップ)。具体的には、揚収用金物42の頭部42a(図6参照)が取付金物8の爪部35を乗り越えて受止め部34まで到達し、受け止められて停止する。このときに、爪部35は揚収用金物42の段部42b(図6参照)に対して係合し、揚収用金物42の進入反対方向(図13において左方)への移動を規制する。
【0045】
図13のように揚収用金物42を取付金物8に固定した後に、水中航走体1を引き上げるために引上索44を引上索用ウィンチ46によって巻き取る。そうすると、図15に示すように、引上索44に対して母船3方向へと張力が加わる。すなわち、図13の状態から図14の状態へと張力方向が反転する。そうすると、取付金物8の受止め部34及び爪部35が回転軸線L1回りに回転し、爪部35が張力方向(母船3方向)へ向くことになる。このようにして、引上索44から加わる張力が取付金物8を介して水中航走体1へと無駄なく伝わり、円滑に水中航走体1を引き上げることができるようになっている。
【0046】
引上索44を引上索用ウィンチ46によって巻き取り、図15に示すように、海面上まで水中航走体1を引き上げる(水中航走体引上ステップ)。そして、母船3の上甲板上からシーアンカー回収索48をシーアンカー11に向けて投射し、シーアンカー11を引っ掛けた後に、シーアンカー11を母船3上へと回収する。シーアンカー回収索48は、図示しないウィンチによって巻き取られるようになっている。
【0047】
そして、図16に示すように、引上索44を更に巻き取ることによって水中航走体1を水面上へと引き上げて水切りを行う。この際に、シーアンカー回収索48を巻き取ることによって、水中航走体1の振れ止めを行う振止め索として利用する。
そして、図17(a)に示すように、Aフレームクレーン7を振り込み、水中航走体1の下端を台車50上に設置し、いわゆるシャトルトローリー方式によって図17(b)及び図17(c)に示すように水中航走体1を順次水平に倒していき、台車50に対して水中航走体1を受け渡し、揚収作業を終了する。
【0048】
以上の通り、本実施形態の水中航走体揚収システムおよび水中航走体揚収方法によれば、以下の作用効果を奏する。
ガイド索40によって水中航走体1へと導かれた引上索44の先端の揚収用金物42を水中航走体1に固定された取付金物8に固定し、この引上索44を母船3側に引き込むことによって、水中航走体1を取付金物8とともに母船3側に引き上げることとした。この取付金物8は、ガイド索40を掛け回す部分(受止め部34)と水中航走体に対して固定される固定部(揺動部材37)とを有していれば足り、またRODD9によって運搬されて固定されるので自走する機能を必要としない。したがって、取付金物8を簡素化した構成として軽量化を図ることができるので、水中航走体1とともに引き上げることとしても、大幅な重量増とはならない。よって、水中航走体1と同等の重量を引き上げるだけの能力を有する引上装置(例えばクレーン7や引上索用ウィンチ46)で足り、大容量の引上装置を必要としない。
【0049】
また、RODD9によって取付金物8を取り付けて水中航走体1を揚収することができるので、テザーケーブルに接続されていない無索式とされた水中航走体にも対応することができる。
【0050】
また、重量物を引き上げるための引上索44と、引上索44を水中航走体1に固定するために引上索44を導くガイド索40とを別とした。これにより、ガイド索40に加わる設計張力を引上索44よりも小さく設定できるので、ガイド索40の径を小さくすることができる。したがって、取付金物8とともにガイド索40を運搬するRODD9に過大な能力や収容部を要求する必要が無く、RODD9を小型化することができる。
【0051】
また、ガイド索40によって引き込まれた引上索40の先端の揚収用金物42を受止め部34で受止めるとともに、引上索44を引き上げる際に加わる張力方向の移動を規制する爪部35によって、引上索44を取付金物8に固定することとしたので、ガイド索40による引込方向による張力方向と引上索44の引上方向による張力方向が異なる方向であっても、引上索44の先端の揚収用金物42を取付金物8に固定することができる。
【0052】
また、引上索44を引き上げる際に張力が加わった際に、揚収用金物42が爪部35にて移動を規制されつつ張力方向に向くように回転軸線L1回りに回転するように構成されているので、揚収用金物42を張力方向に向かせることができる。これにより、引上索44からの張力が揚収用金物42を介して取付金物8および水中航走体1に無駄なく伝達されるので、水中航走体1を円滑に引き上げることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 水中航走体
3 母船
4 MRU
5 ウィンチ
7 Aフレームクレーン
8 取付金物
9 RODD(水中作業用航走体)
10 先端部カバー
11 シーアンカー
12 連結索
14 マニュピュレータ
18 保持金物(保持部)
19 被係合金物(被係合部)
34 受止め部
35 爪部(規制部)
40 ガイド索
42 揚収用金物
44 引上索
46 引上索用ウィンチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面下にて、自走する水中作業用航走体によって、ガイド索を掛け回した取付金物を水中航走体に固定する取付金物固定ステップと、
前記ガイド索を繰り出しながら前記水中作業用航走体を母船へと航行させ、該水中作業用航走体から該ガイド索を母船へと受け渡すガイド索受渡しステップと、
前記母船に受け渡された前記ガイド索の一端に引上索の先端を取り付ける引上索取付けステップと、
前記ガイド索の他端を前記母船側に引き込むことによって、該ガイド索の前記一端に取り付けた前記引上索の前記先端を前記水中航走体へと導き、該水中航走体に固定した前記取付金物に対して前記引上索の前記先端を固定する引上索固定ステップと、
前記引上索を前記母船側に引き込むことによって、前記水中航走体を前記取付金物とともに前記母船側に引き上げる水中航走体引上ステップと、
を有することを特徴とする水中航走体揚収方法。
【請求項2】
水面下にて、自走する水中作業用航走体によって、ガイド索を掛け回した取付金物を水中航走体に固定し、
前記ガイド索を繰り出しながら前記水中作業用航走体を母船へと航行させ、該水中作業用航走体から該ガイド索を母船へと受け渡し、
前記母船に受け渡された前記ガイド索の一端に引上索の先端を取り付け、
前記ガイド索の他端を前記母船側に引き込むことによって、該ガイド索の前記一端に取り付けた前記引上索の前記先端を前記水中航走体へと導き、該水中航走体に固定した前記取付金物に対して前記引上索の前記先端を固定し、
前記引上索を前記母船側に引き込むことによって、前記水中航走体を前記取付金物とともに前記母船側に引き上げることによって、
前記水中航走体を前記母船に揚収することを特徴とする水中航走体揚収システム。
【請求項3】
前記引上索の先端部には、前記ガイド索の前記一端に取り付けられる揚収用金物が設けられ、
前記取付金物は、前記揚収用金物が前記ガイド索によって引き込まれた際に、該揚収用金物を受止める受止め部と、前記引上索を引き上げる際に加わる張力方向における該揚収用金物の移動を規制する規制部とを備えていることを特徴とする請求項2に記載の水中航走体揚収システム。
【請求項4】
前記取付金物は、前記引上索を引き上げる際に張力が加わった際に、前記揚収用金物が前記規制部にてその移動を規制されつつ張力方向に回転する回転軸を備えていることを特徴とする請求項3に記載の水中航走体揚収システム。
【請求項5】
前記受止め部には、前記ガイド索が挿通するとともに、前記揚収用金物よりも小径とされた挿通孔が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の水中航走体揚収システム。
【請求項6】
前記水中航走体は、被係合部を備え、
前記取付金物は、前記被係合部に対して係合する係合部を備えていることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の水中航走体揚収システム。
【請求項7】
前記取付金物は、前記水中作業用水中航走体によって把持される被把持部を備えていることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の水中航走体揚収システム。
【請求項8】
前記水中航走体は、前記水中作業用航走体によって把持される保持部を備えていることを特徴とする請求項2から7のいずれかに記載の水中航走体揚収システム。
【請求項9】
請求項6に記載の被係合部および/または請求項8に記載の保持部は、前記水中航走体の先端部に設けられ、先端部カバーによって覆われていることを特徴とする請求項6または8に記載の水中航走体揚収システム。
【請求項10】
前記先端部カバーは、揚収時に取り外し可能とされており、
該先端部カバーと水中航走体本体との間には、該水中航走体本体に対して該先端部カバーを連結するための連結索が設けられていることを特徴とする請求項9に記載の水中航走体揚収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−206602(P2012−206602A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73601(P2011−73601)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)